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札幌高等裁判所 平成18年(ラ)136号 決定 2007年3月30日

抗告人

X1

抗告人

X2

抗告人

X3

抗告人

X4

上記4名代理人弁護士

佐藤哲之

廣谷陸男

石田明義

長野順一

内田信也

佐藤博文

笹森学

川上有

渡辺達生

三浦桂子

芝池俊輝

加藤丈晴

相手方

山藤三陽印刷株式会社

同代表者代表取締役

同代理人弁護士

伊東孝

開本英幸

淺野高宏

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「保全命令申立却下に対する即時抗告申立書」(写し)に記載のとおりである。

2  当裁判所も,抗告人らの申立てをいずれも却下すべきものと判断する。

当事者の主張及び争点等は,原決定書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」に,その理由は,原決定書19頁7行目の次に,行を改めて

「第13条 次の各号のいずれかに該当する場合は,退職とする。

1.雇用期間が満了し,再契約を行わなかったとき」

を加入するほかは,原決定書「事実及び理由」欄の「第3 裁判所の判断」に各記載のとおりである。

3  なお,抗告理由にかんがみ,付言する。

(1)  抗告人らは,雇用期間が1年であることを例文であると主張し,以下の点を指摘するが,いずれも採用できない。すなわち,

ア  抗告人らは,抗告人X1及び抗告人X2に対する個人面接において,労働条件の詳しい内容についての説明は,「1年契約で,給与は月額現在の70パーセント程度,手当は時間外手当,通勤手当を支給する。」だけであったばかりか,契約社員といっても長く働いてもらいたい」,「辞められたら困る」,「頑張れば正社員に戻れる可能性もある。」等の発言があったと主張するが,原決定書で認定のとおり,こうした発言があったことを認めることができないから,抗告人らの主張は理由がない。

抗告人らは,面接時間が15分程度あったのであるから,面接のための心得(「希望退職募集勧奨個人面接の心得」・<証拠略>)の内容を述べるだけでは時間が余ってしまい,相手方が抗告人らの整理解雇を避けるために退職勧奨に応じるように説得をしていたと見るのが相当であると主張するが,相手方も上記心得を決めて,慎重に対応することとしている上,そもそも,退職勧奨の対象者は,いったん正社員を辞めて退職することになるのであるから,相手方は,抗告人X1や抗告人X2と面接する際には,いきなり本題に入ることなく,会社の状況等の説明をするなどしながら面接を進めることになると推認することができ,一定の時間を費やしたことをもって,抗告人らが主張するような発言があったと認めることはできない。

イ  また,抗告人らは,期間の定めのある雇用契約の締結時期は,抗告人X1及び抗告人X2が「希望退職同意書」を提出した平成16年2月24日であり,仮にそうでないとしても,相手方が抗告人X1及び抗告人X2に対して「契約社員雇用通知書」を交付した同年3月3日であって,その時点では更新のことは何ら説明がなく,むしろ,説明をすることで退職に応じない可能性があるため,あえて説明をしなかったと主張する。

しかしながら,「希望退職同意書」は飽くまで退職のための文書であり,契約社員としての具体的な賃金等の条件も示されておらず,上記同意書の提出で契約社員の契約が成立するものではなく,さらに,「契約社員雇用通知書」には,契約期間が1年であることが明示され,「本人との契約は3月末日までに行う。」と記載されているのであるから,相手方と抗告人X1及び抗告人X2との契約がまだ成立していないことは明らかであり,あえて説明しなかったと認めるに足りる十分な疎明もない。

ウ  さらに,抗告人らは,抗告人X1及び抗告人X2に仕事内容の変化がないことや平成17年には雇用契約が更新されていること,平成18年で初めて雇止めが実施されたが,大半の契約社員が雇用契約を更新されていること,同年の契約更新時期まで,雇用契約の更新がなされないことがあることが伏せられていたことなどからも,雇用期間が1年であるとの記載は例文にすぎないと主張する。

しかし,相手方と抗告人X1及び抗告人X2は,平成17年においても新たに契約書(<証拠略>)を取り交わしており,それにも雇用期間が1年であることが明記されており,仕事の内容に変化がないことや同年には全契約社員の契約更新がなされたこと,平成18年も大半の契約社員の契約更新がなされていることなどの契約後の事情をもってしても,契約書の雇用期間が例文であることを示すものとはいえない。

そして,雇用契約が更新されないことがあることが説明されていなかったとする点についても,そもそも,契約書には雇用期間として「自平成17年4月1日から至平成18年3月31日」と1年間であることが明記されていること,契約書に記載のない労働条件等については,契約社員就業規則及び労働基準法によるとされ,同規則第4条,第5条では,採用の適否や契約期間について定めてある(原決定書の「事実及び理由」欄の第3の1(2)ウのであって,当該契約が,更新を前提としているともいえないし,契約の更新について説明がないともいえないから,この点に関する抗告人らの主張も理由がない。

エ  以上によれば,本件契約書の雇用期間が1年であるとの記載が例文であるとはいえず,抗告人X3及び抗告人X4に対する関係も含め,抗告人らの主張は理由がない。

(2)  抗告人らは,抗告人らが,雇用契約を更新されることについて法的に合理的な期待を有しており,雇止めの可否の判断には解雇権濫用の法理を類推すべきであり,抗告人X1及び抗告人X2には,上記(1)ウのような契約後の事情が見られると主張する。

有期契約社員の雇止めの場合であっても,事情によっては,終身雇用の社員の解雇と同様に考える余地があることは,原決定のとおりである。そして,抗告人らに終身雇用の社員の解雇と同様に考え得るような事情の有無を検討すると,そもそも,抗告人X1及び抗告人X2は,正社員を一度退職して,契約社員になった者であること,その更新は1度のみであること,抗告人X1及び抗告人X2に,雇用契約の更新に対して主観的な期待はあったとしても,上記(1)ウでの検討のとおり,契約書上に雇用期間が1年間であることが明記され,あるいは契約社員就業規則で契約期間が最長1年間であり(第2条,第5条),雇用期間が満了すれば,契約が更新されない限りは退職となる(第13条1号)ことが定められている上,終身雇用の正社員と雇用期間1年の契約社員の法的地位が全く異なることを考えると,本件で当然に解雇権の濫用の法理が適用されるとはいえない。また,抗告人X1及び抗告人X2は(ママ),指名解雇をちらつかせられながら正社員から契約社員にされたとする点も,抗告人X3のように,希望退職に応じていったんは契約社員にもならなかった例があり,他に契約社員になることを事実上強要されたとまでいいうる十分な疎明はなく,契約後の事情も特段抗告人X1及び抗告人X2に有利に解されるものではないから,抗告人X1及び抗告人X2に対して,解雇と同様の法理が適用されるとする前提を欠く。

そうすると,抗告人X1及び抗告人X2に対して,解雇権の濫用の法理を類推適用することはできない。

さらに,抗告人X1及び抗告人X2にこうした前提が取れない以上,抗告人X3及び抗告人X4に対しても,本件雇止めについて解雇権の濫用の法理を類推適用することはできない。

(3)  さらに,抗告人らは,抗告人X4も,雇用契約の更新に対する合理的な期待があったと主張し,その根拠事実として,採用時の説明として,「契約社員でも長く働いてもらいたい。」,「ゆくゆくは正社員になってもらいたい」などの発言があったこと,担当した仕事も臨時的・補助的なものではなく,コンピュータの知識を生かして,特別のファイルを作成したり更新したりして,営業の仕事の合理化に貢献したこと,抗告人X4が営業支援を担当した部署の営業成績が伸びたこと,抗告人X4の後任者が採用され,営業支援の仕事が減少した事実もないことなどを挙げる。

しかし,相手方は,正社員を契約社員にして一部従業員の雇用を継続しているのであり,新規に契約期間を1年とする契約社員募集の求人票(<証拠略>)も出しているのであるから,契約社員を採用するに際し,長期の雇用継続が見込める旨の発言をしたとは考え難く,また,そのように取られかねない発言があったとしても,一般的に優秀な人材であれば,正社員化することがあることもあり得るから,可能性をいうにすぎないと考えられる。さらに,抗告人X4の担当した仕事についても,営業支援とは,営業部署の正社員の事務を助け,より多くの外回りの時間を作るための補助業務であると認められる(<証拠略>)ことに,抗告人X4が,これまで雇用契約を更新されたことがないことも併せ考えると,抗告人X4に,契約更新についての合理的期待があったともいえない。

なお,抗告人X4の活動によって担当営業部の成績が上がったとしても,そのことと,雇用契約の更新への期待とは関連性がない。

よって,抗告人らの主張は理由がない。

4  以上によれば,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 末永進 裁判官 千葉和則 裁判官 杉浦徳宏)

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