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札幌高等裁判所 平成19年(ネ)99号 判決 2008年8月29日

主文

1  原判決を取り消す。

2  控訴人Aが被控訴人に対する再生債権として,1897万2271円及びこれに対する平成16年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の損害賠償請求権を有することを確定する。

3  控訴人Bが被控訴人に対する再生債権として,1338万9340円及びこれに対する平成16年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の損害賠償請求権を有することを確定する。

4  控訴人らのその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は,第1,第2審を通じ,これを5分し,その1を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人Aが被控訴人に対し,損害賠償金2608万2725円及びこれに対する平成16年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の再生債権を有することを確定する。

3  控訴人Bが被控訴人に対し,損害賠償金1500万円及びこれに対する平成16年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の再生債権を有することを確定する。

4  訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,被控訴人の経営するホテルの機械室,ボイラー室等で業務に従事していた亡Cが悪性胸膜中皮腫によって死亡したのは,被控訴人が作業場の排気等の粉じん対策を怠ったためであると主張する,亡Cの相続人である控訴人らが,被控訴人に対し,安全配慮義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為に基づいて,控訴人Aにつき損益相殺後の2608万2725円,控訴人Bにつき損害の内金1500万円及びそれぞれに対する不法行為の後であり,請求の日である訴状送達の日の翌日である平成16年6月30日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らが控訴した。

2  前提事実

当事者間に争いがない事実及び以下に摘示する証拠により容易に認められる事実等は,次のとおりである。

(1)  当事者

ア 被控訴人は,ホテル経営等を目的とする株式会社であり,Gホテル(開業当時の名称は「gホテル」であったが,平成2年5月に「Gホテル」と改名された。以下「本件ホテル」という。)を経営している。本件ホテルの建物は,昭和37年10月1日から新築工事が始まり,昭和39年5月8日に竣工し,同月13日に開業した(乙16,17)。

イ 亡Cは,S**.**.*生まれの男性で,昭和35年11月ころからH及びJにおいて暖房関係の仕事に従事するなどした後,昭和38年11月にボイラー技士2級の免許を取得した。その後,亡Cは,I社での勤務を経て,遅くとも昭和39年4月ころ,被控訴人との間で雇用契約を締結し,本件ホテルの機械室,ボイラー室等において,設備係の従業員として業務に従事していた。なお,亡Cが作成した履歴書(乙5)には,「昭和38年12月 I社 暖房からgホテルに通勤現在に至る」との記載があり,I社での勤務の実態には争いがある。

ウ 控訴人Aは,亡Cの妻であり,控訴人Bは,亡Cと控訴人A間の長女である(甲1)。なお,亡Cには,先妻との間に一子がある(甲59,60)。

(2)  本件ホテルにおける石綿の存在

ア 本件ホテルの地下2階には機械室及びボイラー室(以下,両室を併せて「機械室等」という。)があり,その壁面や柱面,梁のうち,腰の高さより上部には,本件ホテル開業時から石綿(アスベスト)が吹き付けられていた。

また,本件ホテルの10階の天井裏の壁面には,本件ホテル開業時から石綿が吹き付けられていた。なお,11階の天井裏には石綿は吹き付けられていない(証人Dの証言。以下「D証言」という。)。

イ 被控訴人は,平成元年10月ころ本件ホテルの全面的な改修工事を行い(以下「本件改修工事」という。),機械室等の壁面・柱面の石綿を剥がして撤去したほか,配電盤等の裏にあって撤去することのできない石綿や10階の天井裏の壁面の石綿については封じ込め剤を注入して固める封じ込め処理を行った(乙25。ただし,処理の程度については,後述のとおり争いがある。)。

ウ 被控訴人は,平成14年ころ,機械室等に残存した封じ込め処理済みの石綿を撤去した(証人E。以下「E証言」という。)。

(3)  石綿と石綿ばく露による中皮腫の発症

ア 石綿とは,岩石を形成する鉱物の蛇紋石及び角閃石グループに属する繊維状の無機けい酸塩であり,クリソタイル(白石綿,温石綿),アモサイト(茶石綿),クロシドライト(青石綿),アンソフィライト,トレモライト,アクチノライトの6種類の繊維状けい酸塩鉱物の総称である。

石綿は,繊維が細く,不燃性,耐久性,絶縁性,耐薬品性,耐腐食性,耐摩耗性などの有用な性質を多々有していることから,重要な工業材料として,幅広い分野で使用されており,特にクリソタイル,アモサイト,クロシドライトの3種類が幅広く用いられている(甲41,44の2及び3,乙36)。

イ 石綿繊維は天然あるいは人造繊維の中で最も細く,たとえばクリソタイルの繊維の直径はおよそ0.02μmないし0.06μmと微細であるため,空気中で浮遊するとその浮遊時間が長く,一度体内に取り込まれると,肺や胸膜,腹腔の深くへ入り込み,排出されにくい。

人体の肺内に吸い込まれた石綿は,石綿肺,肺がん,悪性中皮腫等の疾病を引き起こすことがある。悪性中皮腫とは,胸膜,腹膜,心膜,睾丸固有鞘膜などの体腔漿膜腔を覆う中皮表面あるいはその下層の組織から発生する悪性腫瘍であり,タバコとの相互作用はみられない。悪性中皮腫は,従来は発生頻度が皆無といっていいほど低く,珍しい疾患とされていたが,石綿関連産業に従事する労働者の胸膜や腹膜にみられるようになり,石綿ばく露との関連性が強い。なお,石綿のばく露から悪性中皮腫の発症までには,20年ないし50年の潜伏期間があるといわれている(甲3の2,甲40,41,乙4,34ないし36,38)。

(4)  亡Cの発症・死亡と労働災害の認定

ア 亡Cは,平成13年4月ころから体調が悪化し,同年5月1日に南一条病院に入院した。

同病院は,亡Cの疾病について,初診時は右胸水と診断したが,その後,胸腔鏡下に胸膜生検を行い,病理組織をH&E染色及び免疫染色を行ったうえで,同年6月11日に悪性胸膜中皮腫と確定診断した(甲2,4ないし6,31,32。原告A)。

イ 亡Cは,平成13年9月ころ,札幌中央労働基準監督署長に対し,本件ホテルでの就労により悪性胸膜中皮腫に罹患したとして,労働者災害補償保険法に基づく療養・休業補償給付金等を請求し,同監督署長から労働災害との認定を受けるとともに,上記給付金の支給を受けた(甲33,乙6,42)。なお,亡Cの死亡後は,控訴人Aが遺族補償年金の給付を申請し,支給を受けている(甲34)。

ウ 亡Cは,平成14年4月5日に悪性胸膜中皮腫で死亡した(甲2)。

(5)  被控訴人についての民事再生手続の開始

札幌地方裁判所は,平成19年8月16日,被控訴人について,再生手続開始決定をし,本件訴訟は中断した。控訴人らは,本件において請求している損害賠償請求権を再生債権として届け出たが,債権調査において,被控訴人のみが異議を述べたため,本件訴訟を受継した。

3  争点及び当事者の主張

(1)  亡Cの作業内容と石綿粉じんのばく露

(控訴人らの主張)

ア 機械室等の状況及び作業内容

(ア) 亡Cは,本件ホテルの設備係の従業員として,地下2階の機械室等に設置されたボイラーを稼働させる業務に従事した。

機械室等の給排気は,機械室等に設置されたボイラーの給気のため3階の屋上から空気を取り入れ,地下にあるファンを回して機械室内に空気を取り入れていたが,排気設備は設けられていなかった。

機械室等の壁に吹き付けられた石綿の吹き付け面は表面が劣化しており,触れると石綿の繊維が飛散するような状況にあった。

また,設備係の従業員は,3か月に1回,高圧ヘッダーの裏側に入ってフランジのガスケット交換作業に従事していたが,高圧ヘッダーの裏側は石綿の吹き付けられた壁面との隙間が30ないし40センチメートル程度しかなく,設備係の従業員の作業服で擦れ,剥離した石綿の粉じんが舞う中での作業であった。

設備係の従業員は毎月1回はボイラー室内の掃き掃除を行っていたが,床に落ちた石綿の粉じんが舞っていた。

(イ) 亡Cは,地下2階の機械室等及び本件ホテル内のすべての蒸気配管,給油配管,冷房配管,給水,排水配管の直管部分,曲管部分の保温材をはがして撤去する作業に従事していた。

a 直管部分

まっすぐな管に本件ホテル建築時に被覆されていた保温材は,太い管では「保温筒」という言葉で呼ばれていた白っぽい半円筒形の成型された固形の保温材であった。この保温筒を2つ組み合わせで管を覆い,その上から針金を巻き,更に厚紙を巻き,その上から布を巻き塗装していた。また,細い管には,繊維性のフェルト状(ただしグラスウールではなかった)の保温材を巻き,その上から厚紙を巻き,更に布を巻き塗装していた。

これらの直管部分の保温材の全部又は一部に石綿が使用されていた可能性が高く(多くの場合アモサイト),亡Cは,これら保温材の取り外し作業において,石綿の粉じんを吸引した可能性が高い。

なお,本件ホテル建築時に被覆されていた保温材は,機械室においては全部取り替えられており,現在では専らグラスウールの保温材が用いられているが,本件ホテルのボイラー室以外の他の配管や地下室でも冷暖房管などでは古い保温材が残っている可能性もある。

b 曲管部分

本件ホテル全体では,配管の曲がり部分は無数にあるが,本件ホテル建築時,この曲がり部分は石綿含有珪藻土で被覆されていた。曲管部分は,管に新聞紙を巻き,その上に石綿含有珪藻土,更に針金を巻いて,厚紙,布テープを巻いてあった。修理の際は,専らグラスウールの保温材が用いられており,本件ホテル建築時に被覆されていた保温材は,その多くが取り替えられているであろうが,ボイラー室以外などでは古い保温材が残っている可能性もある。

なお,曲管部分に,石綿含有珪藻土保温材が巻かれていたことは,検証時にこれらがみられなかったとしても機械室は平成元年には全面改修工事が行われたから当然であり,改修工事の際に記録がないことも,そもそも保温材の除去記録すらないから理由にならず,石綿含有珪藻土保温材の販売が昭和30年までではなく,昭和49年まで行われていた例があることやDの肺の所見では,珪藻土の主たる成分であるケイ酸の粉じんにより作られた粒状影が見られ,Dも石綿含有珪藻土保温材をはがす作業をしていたことを推認させることなどから明らかである。

以上からすれば,亡Cは石綿含有の珪藻土保温材の取り外し作業に従事していた。

c 亡Cの配管取り外し作業は,亡Cの勤務期間中,全期間にわたって続いた。もっとも補修はグラスウールでされるようになったので,グラスウールで補修された部分の再補修の場合は石綿を吸引することはない。

作業頻度としては,破れの補修は,直管,曲管とも年1,2回程度,漏れの補修は,それぞれ年6,7回程度である。

石綿を吸引する場面は,保温材を切断したりはがしたりする取り外しの場面だけではなく,はがしたものを集め,運び,廃棄する際にもあるのである。

イ 石綿含有製品を使用した作業

(ア) 配管と配管をつなぐフランジ(鍔状になったものが重なり合ったつなぎ目)のパッキン交換

フランジとは検証調書の写真2にあるような管と管のつなぎ目部分であるが,ここに接合部に挟み込む薄板状の詰め物であるガスケットと呼ばれる金属性の部品が入っており,ガスケットにあわせた形の石綿製品であるシートパッキンを,ガスケットのへこんだ部分にはめ込んで使う。

フランジ部分は,機械室のみならず,本件ホテルのすべてに数え切れないくらいあり,このフランジ部分から漏れが生じたとき,パッキンを交換して締め直す作業が亡Cの業務であり,交換の際,配管の保温材の一部を破ることもあった。

作業の頻度は,フランジからの漏れが年6,7回程度あり,作業は,周囲の保温材の取り外し以外に,新しいパッキンの切り出し,運搬,古いパッキンの取り出し,新しいパッキンの設置,古いパッキンの運搬・廃棄があり,亡Cは,その作業時に石綿粉じんを吸引した。

なお,この主張は,ガスケットの交換のことが原審で出ており,検証等でも問題にされていたのであり,時機に後れたものとはいえない。

(イ) 配管バルブのハンドル部分内部のパッキン交換

バルブは,機械室等だけではなく,本件ホテル全体にかなりの数あり,このハンドル部分から漏れが生じたときには,大きいバルブの場合には,グランドパッキン(乙13の3)を,小さいバルブの場合にはひも状の資材(乙13の4)をほどいて使用するが,これらはいずれも石綿製品であり,漏れは年6,7回生じ,亡Cは,勤務期間中,その作業に従事した。

(ウ) ボイラーの機械の外側部分の石綿取扱作業

ボイラー外側で石綿が使われているのは,まず,第1に,燃焼室の点検口のふた周囲の白いリボンパッキン(検証調書写真26,27参照)であり,第2に,もう一つの点検口のもの(同写真28ないし33),第3に,ボイラーバーナーの取付部分のふた(同写真24)にもリボンパッキンが使用されている。これを蒸気等の漏れがある都度,随時点検し,交換するが,その際,リボンパッキンをハンマーで叩いて取り付け,古いパッキンの取り外し,廃棄,新しいパッキンの切断等の際,亡Cは,石綿を吸引した。

なお,この主張は,ガスケットの交換のことが原審で出ており,検証等でも問題にされていたのであり,時機に後れたものとはいえない。

ウ 天井裏の作業内容

設備係の従業員は,吊り天井の裏側(天井裏)に潜り込み,配管の修理点検の業務に従事した。特に本件ホテル10階の厨房で天井から水漏れなどがあれば,天井裏に潜り込んで配管を点検せざるを得なかったが,10階天井裏の部分には石綿が吹き付けられており,剥離した石綿が天井裏に落下していた。

これらの天井裏のスペースは,狭いところではダクトの隙間が40センチメートル程度しかなく,吹き付け石綿に体が触れざるを得なかったが,体が触れた部分は石綿が剥離し,粉じんが舞っていた。このような石綿の粉じんが舞う中での天井裏の作業は本件改修工事がされる平成元年ころまで行われていた。

エ 本件改修工事の不十分さ

(ア) 本件改修工事の際,機械室等の壁面・柱面の石綿を剥がして撤去したが,設備の裏側等体が入らない部分の石綿は撤去されなかった。

また,配電盤,分電盤及び制御盤等が取り付けてある部分の石綿は撤去できなかったため,それらの盤の周辺をコーティングして石綿が飛散しない措置がされた。本件改修工事以降,配電盤,分電盤及び制御盤等一部は順次撤去されたが,それらの盤が撤去された部分は露出した石綿の表面が劣化しており,触れると石綿の繊維がほぐれて飛び散るような状態であり,不十分であった。

(イ) 本件改修工事において,10階天井裏の現状は,吹き付けられた青石綿が,薬剤によって処理されていないか,処理が不十分であるために,吹き付けの正面が劣化して,吊り天井の上に多数の青石綿の繊維が落下しており,落下していない部分も繊維が「ぼそぼそ」として,今にも飛散する状態にあることが明白にうかがわれる。このような状態が,本件改修工事前から生じていたのであれば,地下の機械室,ボイラーの壁面の吹き付け石綿も,この天井裏と同程度以上(作業頻度が高いから)に劣化していたことが優に推認し得るし,本件改修工事後平成18年までの間に劣化が進んだとすれば,本件改修工事による封じ込めや囲い込みといった対策も全く不十分である。

(被控訴人の主張)

ア 機械室等の状況及び作業内容

(ア) 亡Cがボイラーを稼働させる業務を行っていたほか,フランジのガスケット交換作業に従事していたことは認めるが,吹き付けられた石綿の吹き付け面が劣化しているようなことはなく,石綿の粉じんが舞うような状況はなかった。

また,施設管理の従業員が作業前・作業後は必ず清掃を行っていたため,石綿が落下してもそれが放置されることはなかった上,毎月1回ボイラー室内の床の水洗い清掃を行っているため,石綿の粉じんが舞うこともなかった。

ボイラー室の給排気は,3階の屋上から給気ファンにより外気を取り入れ,ボイラー運転のためのファンにより屋外へ排気を行う排気設備を備えている。

(イ) 控訴人の主張ア(イ)のうち,亡Cは,地下2階の機械室等及び本件ホテル内のすべての蒸気配管,給油配管,冷房配管,給水,排水配管の直管部分,曲管部分の保温材をはがして撤去する作業に従事していたことは不知。

a 控訴人の主張ア(イ)aのうち,保温材に石綿が使用されていた事実は認められず,その余の点は不知。

b 控訴人の主張ア(イ)bのうち,本件ホテルの配管に多数の曲管部分があることは認めるが,この部分が石綿含有珪藻土で被覆されていたことは否認する。また,Dが保温材の取り外し作業により石綿の粉じんを吸引したことは否認する。同人が悪性中皮腫との確定的診断もない。当時ボイラー室にはほとんど石綿が吹き付けられており,その作業場には吹き付けられた石綿があり,本件ホテルにおいても平成元年の改修工事前までは同様であって,Dの石綿を吸引したことにつき特定の原因を推認することは不可能である。

その余の事実は不知。

なお,亡Cの労災申請や医師への業務歴申請において,かかる事実が申告されたことはなかったのであり,このことは,珪藻土保温材に石綿が含まれていなかったことを示すものである。

c 控訴人の主張ア(イ)cのうち,作業頻度については認め,保温材による石綿を吸引した事実は否認し,その余は不知。

イ 石綿含有製品を使用した作業

(ア) 控訴人の主張イ(ア)は,控訴審になってからのものであり,原審でもできたものであるから,控訴人の故意あるいは重大な過失による時機に後れた主張として却下されるべきである。

控訴人の主張イ(ア)のうち,シートパッキンに石綿が含まれていることは否認するものではないが,含有量が不明である。また,フランジ部分は,機械室のみならず,本件ホテルのすべてに数え切れないくらいあり,このフランジ部分から漏れが生じたとき,パッキンを交換して締め直す作業が亡Cの業務であることはおおむね認めるが,交換の際,配管の保温材の一部を破ることもあったことは不知。フランジからの漏れが年に6,7回生じたことは不知であるが,年に数回パッキンの交換作業が行われたことはある。

亡Cが,パッキン交換作業の際,石綿の粉じんを吸引したことは否認する。

そもそも,シートパッキンは,ゴムや樹脂などで加工成型されており,そのため含有する石綿はゴムや樹脂などで固形化されているのであるから,同パッキンを切り出したりする際に粉じんが発生することはなく,同作業により亡Cが石綿を吸引することはありえない。

(イ) 控訴人の主張イ(イ)のうち,ハンドル部分に漏れが生じた場合,グランドパッキンやひも状のものを使用した事実,これが石綿製品であることは不知であり,仮に,石綿製品だとしても,石綿含有率については不明である。

漏れが年に6,7回生じたことについては不知であるが,年に数回発生していたことは認める。しかしながら,パッキンの交換は部分的なもので,回数も少なく,すべてを亡Cが行ったものでもないから,亡Cが石綿を吸引した可能性はほとんど考えられない。

(ウ) 控訴人の主張イ(ウ)のうち,新たに控訴人らが主張している箇所については,イ(ア)で述べたとおり,時機に後れた主張であり,主張自体許されない。

控訴人の主張イ(ウ)のうち,白いリボンパッキンに石綿が使用されていたかどうかは不知である。

また,蒸気漏れの場合に同パッキンを数回交換した事実は認めるが,この交換作業をすべて亡Cが行ったとする主張であるならば,否認する。なぜならば,同パッキンを交換するのは,通常,法定点検の際,全部の場所をひっくるめて年に数回,専門業者が行っていたからである。

それゆえ,亡Cが仮に,同交換作業を行ったとしても,年に数回程度であり,亡Cが同パッキンの交換作業により,石綿を吸引した可能性はほとんどないといえる。

(エ) 亡Cは,昭和56年から施設管理の最高責任者であったから,亡Cの部下が年に数回程度石綿含有製品を取り扱うことはあっても,亡C自身がこれを取り扱うことはほとんどなかった。

ウ 天井裏の作業内容

設備係の従業員が年1,2回程度,吊り天井の裏側に潜り込み,配管の修理点検の作業を行っていたことは認めるが,かかる作業が行われていたのは,天井が貼られた昭和52年ころから平成元年ころまでである。なお,10階の天井裏は高温多湿であるため,石綿を含む粉じんが舞うということはない。

エ 本件改修工事の不十分さ

(ア) 本件改修工事は,札幌市衛生局環境管理部の「建築物の吹付けアスベスト処理工事指導指針の概要」の説明を受け,その指針に忠実に従って行われたものであり,アスベスト除去及び封じ込め工事は適切に行われた。

ボイラー室の還水槽の裏や配電盤等の裏の壁面の手が届かない部分については,内部浸透固化封じ込め剤により適切な措置を行っており,また,配電盤と壁との間で隙間がなかった箇所にはそもそも石綿の吹き付けがなかったため,平成元年以降,機械室等の壁面の配電盤や機器の移設,変更によりそれらの裏面から露出した石綿についても,固まった状態を保っていたか,吹き付けされていない部分は封じ込め作業が不要であった。

(イ) 被控訴人は,本件改修工事において,10階天井裏に吹き付けられていた石綿に対し,封じ込め剤による処理を行い,さらに天井板を設置して,天井裏に吹き付けられた石綿が劣化しても,室内に石綿の粉じんが飛散しないように処置を行っていたから,適切な処置を行ったのである。

(2)  因果関係

(控訴人らの主張)

ア 亡Cは,昭和38年12月ころからI社暖房から被控訴人に派遣され,本件ホテルのボイラーの運転業務に従事し,昭和39年4月に被控訴人に転籍したが,業務内容に変化はない。

亡Cは,本件ホテルにおいて上記作業を続けたことにより,石綿を吸引し,悪性胸膜中皮腫を発症し,その結果死亡したものであり,上記のような被控訴人の義務違反と亡Cの死亡との間には因果関係がある。

このことは,亡Cの同僚であるDには,石綿肺を示す不正形陰影0/1や過去に珪藻土の粉じんを吸った場合にも出る粒状影0/1の所見が見られるが,このことは,作業による石綿の吸引が相当程度あったことにほかならない。そして,これまで,劣化した吹き付け石綿からの粉じんの吸引も含めた環境曝露が原因で石綿肺所見があると公式に確認された例はなく,また,吹き付け石綿により石綿肺有所見者になるのであれば,吹き付け石綿は昭和30年代から存在するから,もっと大量の石綿患者が出ていなければならないが,これが見られないことからも裏付けられる。

イ なお,亡Cは,本件ホテルでの稼働前にボイラー関係の仕事に従事したことがあるが,その時に勤務していたボイラー室に石綿が吹き付けられていたことを示す証拠はない。また,設備関係工事に従事したことはない。

(被控訴人の主張)

ア 亡Cが被控訴人において作業したことにより悪性胸膜中皮腫に罹患したかどうかは不明である。

イ 被控訴人が,亡Cを採用したのは,昭和39年4月1日である。

亡Cは,それ以前,他の職場においてボイラー作業に従事していたが,当時,ボイラー室には石綿が吹き付けられており,そこにおいて石綿粉じんを吸引したことが強く疑われる。

ウ また,亡Cは,昭和36年11月にJ暖房に入社し,昭和38年12月からはI社暖房から本件ホテルの新築工事現場で主として設備関係工事に従事しており,作業中に石綿の粉じんを吸引した可能性も否定できない。

(3)  被控訴人の安全配慮義務違反又は不法行為の成立

(控訴人らの主張)

ア 石綿の危険性に関する社会状況と被控訴人の予見可能性

(ア) 石綿による健康障害として石綿肺が発症することは,欧米では1930年(昭和5年)ころには疫学的にも病理学的にも論証されており,1935年(昭和10年)のLynchによる石綿肺合併肺がんの報告,1953年(昭和28年)のWeissによる胸膜中皮腫及び1954年(昭和29年)のLeichnerの胸膜中皮腫の石綿肺合併の最初の報告以来,石綿粉じんと肺がん,慢性悪性中皮腫の関係については,諸外国の疫学調査からほぼ疑う余地のないものとなった。

石綿の発がん性については,1964年(昭和39年)ニューヨーク化学アカデミー主催の国際会議で各国からその事実が報告され,1972年(昭和47年)IARC(International Agency for Research on Cancer:国際ガン研究機関)が石綿の生体影響に関する国際会議を開催し,石綿の発がん性に関する報告書が発刊され,1975年(昭和50年)には欧州共同体が「石綿ばく露による公衆衛生上のリスク」に関する専門家会議を開催するなどの経過をたどった。

(イ) 我が国でも,昭和12年から昭和15年にかけて石綿作業従事者の石綿肺の調査が行われ,大阪及び近郊の多数の石綿紡織従事者が石綿肺と結核の危険にさらされている現状に対し,速やかに予防と治療の適切なる対策樹立が必要であることが示された。

その後,石綿関連従事者に対する検診や剖検等により,その病理が次第に明らかにされていき,以下のような行政措置が取られた。

a 昭和35年3月31日にじん肺法が公布され,同年4月1日に施行され,「石綿をときほぐし,合剤し,紡績し,紡織し,吹き付けし,積み込み,若しくは積み卸し,又は石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」が同法の適用を受ける粉じん作業に含まれるようになった。

b 昭和46年4月28日に公布された特定化学物質等障害予防規則(以下「特化則」という。)では,石綿は第二類物質(通常の作業時における継続的又は繰り返しの暴露による慢性的な障害を起こし,又は起こす恐れの大きいもの)に分類され,また,昭和47年6月8日に公布された労働安全衛生法では,石綿(石綿を含有する製剤その他の物を含む。ただし,石綿の含有量が重量の5パーセント以下のものを除く。)を容器に入れ,又は包装して譲渡し,又は提供する者は,その容器又は包装に,名称,成分及びその含有量,人体に及ぼす作用,貯蔵又は取扱上の注意,表示をする者の氏名(法人の場合は,その名称)及び住所を表示するか,表示事項を記載した文書を相手方に交付しなければならないと規定された。

c 昭和47年9月30日に公布された全面改正後の特化則では,石綿の粉じんが発散する屋内作業場では換気や除じん,石綿等の空気中濃度の測定,定期健康診断等が定められ,さらに昭和50年9月の特化則の改正では,石綿等を取り扱う作業場内での喫煙や飲食の禁止,石綿等を吹き付ける作業に原則として労働者を従事させてはならないこと,石綿等の切断の作業,石綿等を張り付けた物の解体等の作業等に労働者を従事させるときは,石綿等を湿潤な状態のものとしなければならないことなどが規定された。

(ウ) 特に,被控訴人は,間欠的に石綿製品を使用していたことを認めているところ,昭和46年制定の旧特化則では,「使用者」を対象として石綿を「別表第二」の「第二類物質」としており,含有量の定めもされておらず,同規則の1条,4条ないし8条,12条,25条,31ないし34条などが被控訴人に適用され,昭和47年全面改正の特化則は,「事業者」を対象として,「令別表第三」の「三 第二類物質」の2の石綿を「第二類物質」としており,同規則の1条,5条ないし9条,24条,30条,38条,43条ないし45条などが被控訴人に適用され,昭和50年改正の特化則でも,従来の特化則と同様に,被控訴人には,1条,5条ないし9条,12条の2,24条,30条,38条の8,34条ないし45条の適用がある。

なお,石綿含有量5パーセント以下のものの取扱いであっても,また,それを切断する作業であっても,昭和50年改正の特化則の適用はあるのである。

(エ) 昭和46年ころ発刊の「労働の科学」26巻9号に「石綿肺」の特集がされ,さらにその中には「『石綿と肺がん』については,本誌22巻9号(1967年=昭和42年)に詳細に述べられている」と昭和42年ころに労働者の安全衛生を目的とする冊子で石綿の発がん性に関する警告がされたことを示唆する記載がある。

また,昭和49年には,「汚染から身体がまもれるか-身体の中の鉱物学-」という書籍が出版され,石綿の毒性,石綿肺,肺がん,悪性中皮腫に関する知見の記載があるほか,石綿製品としては,グランドパッキングやガスケット等のシール材,ボイラーや各種の加熱炉,配管の保温材,吹き付け石綿等が典型例として挙げられており,また,職業性ばく露の機会としては,断熱,保温及びその補修作業に従事するボイラー技士等を典型例として掲げている文献もある。

(オ) 以上を総合すると,少なくとも,亡Cが被控訴人に入社した昭和39年当時,既に石綿の有害性に関しては明らかであったので,被控訴人は,亡Cを設備係の業務に従事させる際,当該業務により,石綿粉じんによる石綿肺等,労働者の生命・健康に重大な悪影響が及ぶことを認識することが十分に可能であった。

イ 被控訴人の安全配慮義務違反

使用者は,被用者に対し,使用者の施設もしくは器具等の設置管理又は被用者が行う職務の管理に当たって,使用者の生命身体及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うところ,本件においては,被控訴人に以下のような上記義務違反行為がある。

(ア) 被控訴人は,亡Cとの間で雇用契約を締結し,これに基づき,前記のとおり,亡Cを石綿粉じんにばく露する危険のある各種作業に従事させていたのであるから,①発生した粉じんが作業現場に滞留することのないように,排気装置による排気を行い,②粉じん作業に従事する従業員に防じんマスク等を支給して,作業の際,実際にこれを装着するよう指導し,③粉じんの発生を防止又は抑制するため,各種作業の前又は作業中に,適切な箇所に散水や噴霧を行うように従業員を指導監督し,④従業員に健康診断を定期的に実施し,早期発見,早期治療,健康管理に努め,⑤本件ホテルに吹き付けた石綿の表面が劣化して,石綿の繊維が飛散するような状態になった際は,吹き付けられた石綿を完全に除去する義務があった。

(イ) しかし,被控訴人は,上記義務に違反してこれを怠り,粉じんが作業現場に滞留することのないような排気設備を設けず,粉じんマスク等の支給も行わないばかりか,石綿粉じんの危険性に関する何らの教育も行わず,散水や噴霧の指導監督も行わず,昭和55年ころに被控訴人の労働組合から指摘を受けるまでは衛生管理者も置かず,健康診断も実施せず,昭和55年ころから夜間勤務者の健康診断が実施されるようになってからも,石綿による健康被害に留意した健康診断を行わず,健康診断の結果について従業員に説明することもなく,機械室等の壁面・柱面に吹き付けられた石綿の表面が劣化して石綿の繊維が飛散するような状態になった後もこれを完全に除去せず,被用者の生命身体に危険を与える可能性のある石綿を被用者が吸引する可能性のある形態で放置した。

ウ 上記のような被控訴人あるいは指揮監督者の義務違反に基づき,亡Cは悪性胸膜中皮腫を発症し,その結果死亡したから,被控訴人は安全配慮義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為(民法709条又は715条)に基づき,亡Cの被った損害を賠償すべき責任を負う。

(被控訴人の主張)

ア 石綿の危険性に関する社会状況と被控訴人の予見可能性

(ア) 我が国において,石綿による被害は1960年代から石綿取扱労働者及び家族に発生することが報告されたが,法律による対処が行われるようになったのは,昭和50年代になってからであった。すなわち,昭和50年に特化則が改正され,石綿を吹き付けることが原則として禁止されることとなった。

(イ) 昭和62年ころ,学校の校舎に吹き付けられた石綿の「除去」が社会問題となったが,この当時の一般人の認識は吹き付けられた石綿を除去する際に発生する粉じんにより「がん」が発生するといったものであり,吹き付けられた石綿の存在そのものに対する危険性の認識はほとんどなかった。

昭和63年2月1日に厚生省が石綿に関して「使用禁止」との通知を出しているが,これもすでに吹き付けられた石綿についての危険性や管理についての注意ではない。

(ウ) 特化則は,石綿等の化学物質等の取扱等についての定めであり,石綿については粉じんの発生をその管理対象として規定がなされたものである。

もともと,特化則は製造現場での作業を想定した規制であり,被控訴人のような末端レベルで,かつ,臨時的に石綿含有製品が使用される場合についてまでもその対象とするものではない。

そのため,建築物などの解体・回収作業における実情にそぐわない面が存在したことから,平成17年になり石綿障害予防規則が制定されたという経緯がある。

それゆえ,被控訴人のようなホテル業種における末端使用者で,かつ,臨時的に石綿含有製品を取扱う作業については,そもそも特化則の適応は予定されていなかったというべきである。

また,「取り扱う作業」には,粉じんに曝露されるおそれのある作業(以下「発じん作業」という。)は含まれず,建物の内外装工事における石綿スレート板などを壁や天井に張る作業は,当然その建材を切断することになると思われるが,発じん作業とはされないし,樹脂等で塊状,布状等に加工され発じんのおそれのないものは含まれないと説明している。

それゆえ,被控訴人で使用されていたパッキンなどの製品を使用する作業は,発じん作業には当たらないのである。

そもそも,特化則が制定され,昭和50年の改正時,当時ほとんどの建築物の給水管や蒸気管のフランジ部分やコック・バルブを使用している事業場は常にその交換作業が発生していることから,パッキンやガスケットの使用に特化則の適用があるとするならば,全国すべての工場や事業場が石綿発じん事業場ということになり,適応範囲があらゆる事業者に拡大されることになるが,それが特化則の趣旨であるとは到底考えられない。

また,昭和50年当時の暖房,給湯を行う設備はボイラーであった。

そして,ほとんどのビルにはボイラーが存在していたが,それらのビルがすべて,特化則の適応を受ける事業者ということになるが,その当時,ビル所有者にもビル管理事業者に対しても,特化則が適用される事業となるといった注意は,どの行政機関からも全く行われていないから,かかる行政機関の対応からしても,単にビルなどの建築物にボイラーが存在し,その修補に石綿含有製品が臨時的に使用されることがあるからといって,特化則の適用を受ける事業者であるとの認識は,行政機関でさえ存在しなかったのである。

ましてや,被控訴人のような事業者などはなおさらのことである。

したがって,被控訴人は,特化則の適用を受ける「事業者」ではなく,本件で被控訴人に特化則の適用はない。

(エ) 近時,吹き付けられた石綿でも人の生命・健康に重大な影響を及ぼすことが明らかになりつつあり,北海道内の多数の公共施設でも未だ建物の壁や柱に吹き付けられた石綿の存在が明らかになっているが,公共機関でさえ,建物に吹き付けられた石綿が人の生命・健康に及ぼす影響についての認識を最近まで有していなかった。

(オ) 以上から,石綿専門企業でない被控訴人は,昭和62年ころまでは石綿が人の生命・健康に対する重大な影響を及ぼすものであることを認識することはできなかったというべきである。

また,控訴人らは,基発通達を根拠に予見可能性を肯定すべきであると主張するが,同通達は各労働基準局(監督署)宛に当時の労働省より発せられた通達であり,これが事業主に送付されることはないし,実際,被控訴人もかかる通達の存在自体,全く認識がない上,石綿含有パッキンを使用している全国の建築主や中小企業までもが特化則や石綿製品に対する規制に精通することは,およそ不可能である。

それゆえ,同通達をもって石綿の身体に対する危険性を予測することは石綿製造業者ではないホテル業者である被控訴人などに要求することは不可能を強いるに等しく,したがって,予見可能性など到底認められない。

イ 被控訴人の安全配慮義務違反

使用者が被用者に対して安全配慮義務を負うことは認めるが,その余は否認し争う。被控訴人には,亡Cに対する同義務違反はない。

(ア) 上記に述べた事情からすると,昭和39年から昭和62年までの間,被控訴人が吹き付けられた石綿の粉じんが人の身体生命に対して危険を及ぼすことを予見することは不可能であった。しかも,亡Cの被控訴人での業務は,じん肺法での粉じん作業及び特化則の石綿等を取り扱う業務のいずれにも該当しないから,被控訴人には昭和62年までの間,吹き付けられた石綿が生命身体に危険性があることを予見したうえで,従業員に防塵マスクを支給し,作業中着用させるべき義務,作業前に散水や噴霧を行う義務,吹き付けられた石綿を完全に除去すべき義務はなかった。

(イ) 被控訴人は,昭和63年以降,札幌市の指針に合わせ,平成元年に吹き付けられた石綿の除去,封じ込め,囲い込みを実施し,平成14年にも再度石綿の除去を実施しているほか,札幌市の立入検査でも問題を指摘されていない。

(4)  損害

(控訴人らの主張)

ア 治療費  45万9461円

(内訳)

入院分  40万9981円(札幌南一条病院)

通院分   1万3530円(札幌東徳洲会病院)

3万5950円(札幌南一条病院)

(労災から支給された治療費は除く。)

イ 付添看護費  10万5000円

(内訳)

平成13年5月30日~同年6月1日  3日間

平成14年3月25日~同年4月5日 12日間

1日当たり7000円

ウ 入通院慰謝料  350万円

入院期間(甲118) 平成13年5月1日から平成14年4月5日まで

エ 入院雑費  27万3000円

実入院 182日間(甲118)

1日当たり1500円

オ 葬儀関係費用  192万6865円

カ 死亡による逸失利益

(ア) 主位的主張  2597万3719円

賃金センサス(産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計)の平均賃金560万6000円に簡易生命表平均余命の2分の1である10年間に対応するライプニッツ係数7.722を掛け,生活費として40%を控除した額

(イ) 仮定的主張  1764万3290円

主位的請求が認容されない場合に備え,仮定的に主張する額

(内訳)

亡Cの平成13年度給与収入  338万1714円

厚生年金基金支給年金額(甲71 死亡により失権)42万6300円

小計  380万8014円

簡易生命表平均余命年数の2分の1  10年

10年間のライプニッツ計数  7.722

生活費控除  40%

計算式  3,808,014×(1-0.4)×7.722=17,643,290

キ 死亡慰謝料  3000万円

ク 弁護士費用  622万3805円

ケ 合計

主位的主張として  6846万1850円

仮定的主張として  6013万1421円

コ 損益相殺

控訴人Aは,労災給付金として,下記合計1114万8200円の交付を受けた。

(ア) 受給額(甲63ないし70,117)

a 葬祭料     一時金  59万6460円

b 遺族補償年金  平成14年6月から平成20年2月までの支給分

合計  755万1740円

c 遺族特別支給金 一時金 300万円

(なお,労災から治療費も支給されているが,上記アにおいて積算していない。)

(イ) 遺族補償年金については,労働保険から現実に給付がなされたときは損害賠償額から控除すべきものである(労働基準法84条2項)。ただし,民事上の損害賠償の対象となる損害のうち,労災保険法による遺族補償年金給付が対象とする損害と同性質を有する損害は,財産的損害のうち消極損害(逸失利益)のみであって,財産的損害のうち積極損害(入院雑費,付添い看護費等)及び精神的損害(慰謝料)は上記保険給付が対象とする損害と同性質とは言えないから,労災保険による遺族補償年金の給付により控除の対象となる損害は,財産的損害のうち死亡による逸失利益のみとなり,慰謝料からの控除は認められない(青木鉛鉄事件・最二小判S62.7.10民集41-5-1202)。なお,遺族補償年金についての将来の給付は控除することを要しない(三共自動車事件最三小判S52.10.25民集31-6-836,最大判H5.3.24民集47-4-3039)。

(ウ) 他方,遺族特別支給金については,被災労働者の損害を填補する性質を有するということはできないから,労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできない(コック食品事件 最二小判H8.2.23民集50-2-249等)。

(エ) なお,ここでの控除の対象となるのは,現にその支給を受ける受給権者についてのみこれを行うべきものである(最二小判S50.10.24民集29-9-1379,最二小判H16.12.20判時1886-46)。

(オ) これを本件について見ると,控訴人Aが受領した労災保険受給額のうち,葬祭料については葬儀関係費用に対する同人の相続分から,遺族補償年金については死亡による逸失利益に対する同人の相続分から,それぞれ控除すべきこととなる。

(カ) そこで,上記損害賠償金合計6846万1850円(主位的主張)を,控訴人両名の相続分に応じて分割すると,控訴人Aが3423万0925円,控訴人Bが1711万5462円となるところ,労災保険受給権者である控訴人Aの相続するべき葬儀関係費用の相続分96万3433円と上記葬祭料59万6460円を,また控訴人Aの相続するべき逸失利益相続分1298万6859円と上記支給を受けた遺族補償年金合計755万1740円を,それぞれ損益相殺すると,控訴人Aの損害賠償請求権は2608万2725円となる。

サ 結論

控訴人Aが相続した損害賠償請求権から損益相殺後の損害賠償請求権の額は2608万2725円(主位的主張)を,控訴人Bの有する損害賠償請求権の額は1711万1546円を,それぞれ下らないものであり,控訴人Bはその内金1500万円を請求するものである。

(被控訴人の主張)

損害については争う。

なお,逸失利益につき,亡Cの平成13年の年収は251万3650円であり,その額に10年間のライプニッツ係数7.722を掛け,生活費として40パーセントを控除した金額は1164万6243円である。また,亡Cは契約社員として1年更新で雇用を延長しており,同人が60歳になる平成13年**月**日を限度としていた。仮に亡Cの雇用が60歳以降も続いたとしても,被控訴人における平成18年現在の契約更新の限度は65歳であるから,65歳が逸失利益の算定対象の限度であり,亡Cに逸失利益が認められるとしても,前記金額よりもさらに減額されるべきである。

(5)  過失相殺

(被控訴人の主張)

ア 亡Cは,昭和56年から被控訴人の施設管理部門における最高責任者の地位にあり,本件ホテルに石綿が吹き付けられていることも熟知していた。亡Cは,それにもかかわらず,他の作業員に対するマスクの支給や着用の指示をしたことが一度もなかったのみならず,石綿の危険性について,業務支配人に上申することもなかった。

イ 被控訴人は,現場責任者からの上申がなければ,吹き付けられた石綿の存在及び危険性についての認識や適切な管理,その他従業員に対する安全配慮義務を行うことは不可能である。

ウ 亡Cには,被控訴人における施設管理の最高責任者として,石綿の存在や従業員に対する安全配慮に対する上申義務を怠った重大な過失がある。

(控訴人らの主張)

過失相殺の主張は争う。

被控訴人は石綿に関する安全教育を一切行っていないのであるから,亡Cに被控訴人に上申すべき義務などない。

また,亡Cが従事していた施設係「マネージャー」は,一般的な職制では係長であり,使用者に代わって指揮監督を行う者ではない。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(亡Cの作業内容と石綿粉じんのばく露)について

亡Cが本件ホテルの設備係の従業員として,地下2階の機械室等に設置されたボイラーを稼働させる業務及びフランジのガスケット交換作業に従事していたことは,当事者間に争いがない。

(1)  機械室等の状況

ア 控訴人らは,機械室等の給排気は,機械室等に設置されたボイラーの給気のため3階の屋上から空気を取り入れ,地下にあるファンを回して機械室内に空気を取り入れていたが,排気設備は設けられていなかったと主張する。

しかし,乙2によれば,地下2階の機械室において,給気,排気共に強制換気が行われていたことが認められ,排気設備が設けられていたものと認められる。

イ 控訴人らは,機械室等の壁に吹き付けられた石綿の吹き付け面は表面が劣化しており,触れると石綿の繊維が飛散するような状況にあったと主張する。

亡C勤務当時の機械室等の壁の状況について客観的証拠はないが,D証言及びE証言によれば,少なくとも,壁に身体が接触するなどの衝撃が加えられると壁の表面から石綿が剥離する状況にあったことは認められる。

ウ 亡Cがフランジのガスケット交換作業に従事していたことは,争いがないところ,控訴人らは,この作業の内容につき,3か月に1回,設備係の従業員が高圧ヘッダーの裏側に入ってフランジのガスケットを交換する作業であり,高圧ヘッダーの裏側は石綿の吹き付けられた壁面との隙間が30ないし40センチメートル程度しかなく,設備係の従業員の作業服で擦れ,剥離した石綿の粉じんが舞う中での作業であったと主張する。

検証の結果(Dの指示説明,別紙8,写真16~23)によれば,高圧ヘッダーのフランジのガスケットを交換する際には,ボルトを緩め,再度締める作業が必要になるところ,壁面に近いボルトを回す際には,高圧ヘッダーの裏側と壁面との隙間が狭いため,作業者の身体や衣服が壁面に接触し,それにより石綿が剥離して飛散したり,衣服に付着した石綿が飛散したりすることがあったと認められる。したがって,剥離した石綿の粉じんが舞う中での作業であったとまではいえないとしても,作業中に石綿が飛散する可能性が高く,作業者がこれを吸入する可能性が高いものであったことは認められる。

エ 被控訴人は,施設管理の従業員が作業前・作業後必ず清掃を行っていたため,石綿が落下してもそれが放置されることはなかった上,毎月1回ボイラー室内の床の水洗い清掃を行っているため,石綿の粉じんが舞うこともなかったと主張する。

しかし,甲44の6によれば,石綿の繊維は微小なものであり,容易に空気中を浮遊するものであることが認められるから,毎月1回ボイラー室内の床の水洗い清掃を行ったとしても,それにより,床に落ちた石綿の繊維を除去したり,浮遊を防止したりする効果は乏しく,ボイラー室内の人が吸入するのを防ぐまでには至らないものと推認される。したがって,被控訴人の主張を採用することはできない。

(2)  保温材の撤去作業

控訴人らは,亡Cが地下2階の機械室等及び本件ホテル内の全ての蒸気配管,給油配管,冷房配管,給水,排水配管の直管部分,曲管部分の保温材をはがして撤去する作業に従事していたと主張するのに対し,被控訴人は,すべての作業に従事していたことは知らないとし,保温材に石綿が使用されていたことを否認する。

ア 石綿含有の有無

乙57は本件ホテルの「冷暖房換気設備工事仕様書」であるところ,同号証には,「保温材料 蒸汽母管 硅藻土」,改行して「蒸気管 岩綿保温筒」との記載があり,それぞれについて「保温の厚さ」が規定され,「配管工事の一般事項は蒸汽配管の項に準じる。」ものとされ,「冷凍水管の保冷の仕様」は「岩綿保温筒布巻仕上とする。」と記載されている。

甲44の3には,「けいそう土保温材」には,「石綿(アモサイト)」が含まれているとの記載があるが,その製造期間は「1890~1955年」とされている。しかし,甲95によれば,ニチアス株式会社は,「石綿含有けいそう土保温材」の製造終了時期を問われたのに対し,「硅藻土保温材の製造終了年月日は1974年(S49年)です。」と回答したことが認められる。また,Dは,曲管部分に「珪藻土という土」が巻かれ,これにアスベストが含まれていることを聞いたことがあると供述する。さらに,甲44の3には,「1980年までの吹付けロックウールには石綿を1%以上5%未満含有しているものがある。」との記載がある。

前提事実のとおり,本件ホテルの建物は,昭和37年10月1日から新築工事が始まり,昭和39年5月8日に竣工したものであり,工事仕様書と異なる工事がされたと認めるに足りる証拠もない。控訴人らの主張する「直管部分」及び「曲管部分」は,「蒸汽母管」,「蒸汽配管」及び「蒸気管」と対応するものではないが,上記の証拠を総合すると,工事仕様書(乙57)上の「蒸汽母管」又は「蒸汽配管」には,新築当時,「けいそう土保温材」が使用され,これには石綿が含まれていたことが認められる。

しかし,工事仕様書(乙57)上の「蒸気管」には,「岩綿保温筒」が使われていたことが認められ,これが「吹付けロックウール」と同じであると認めるに足りる証拠はないから,蒸気管には,岩綿(ロックウール)を材料とする保温材が使用され,これに石綿が含まれていたとは認められない。

以上のとおり,本件ホテルに「けいそう土保温材」が使用された管があり,これには石綿が含まれていたことが認められる。

イ 作業内容及び頻度

Dは,保温材が古くなったときにその部分を剥がして保温材を付け直す,蒸気漏れが発生したときに発生箇所を探知するために保温材を破る,などの形態で,保温材の撤去作業を行ったと供述する。また,この撤去作業に付随して,剥がした保温材の廃棄及び作業場所の後片付けも行われたことが推認される。

なお,控訴人らは,修理後の保温材が石綿を含有しないグラスウールの保温材に転換していったことは認めているから,作業において石綿吸入の危険性があるのは,「けいそう土保温材」の撤去作業に従事した場合に限られ(ただし,その割合は判然としない。),グラスウールの保温材に転換した後の再補修は,石綿吸入の危険のある作業ということはできない。

作業頻度として,破れの補修が年1,2回程度,漏れの補修が年6,7回程度あったことは,当事者間に争いがない。D証言によれば,亡CとDとは,昭和40年ころ,本件ホテルにおいて同一の部署(設備係)に属していたことが認められ,Dが「立場は一緒です。」と供述していること及び本件ホテルにおけるボイラーの規模を考慮すれば,職制上の上下関係(昭和56年以降,亡Cが施設管理の責任者であった)があったとしても,本件ホテルのボイラーに関する作業は,截然と分業されていたと認められず,亡CとDらが必要に応じて協同又は分業して担当していたものと認められる。したがって,全ての配管について,保温材の撤去作業全てに,亡Cがもれなく従事した事実は認められないとしても,亡Cが石綿を含有する保温材の撤去作業に関与した可能性は十分認められる。

(3)  フランジのパッキン交換作業

配管と配管をつなぐフランジ部分には,金属製のガスケットが挟み込まれており,この部分の密閉性を高めるため,ガスケットにあわせた形のシートパッキンがガスケットのへこんだ部分にはめ込んで使われていたこと,シートパッキンには石綿が使われていたこと(ただし,含有量については認めるものではない。),フランジ部分から漏れが生じたとき,パッキンを交換して締め直す作業が亡Cの業務であったことは,当事者間に争いがない。

ア 被控訴人は,控訴人らの主張が時機に後れたものであると主張する。

しかし,控訴人らの原審における平成18年12月5日付け準備書面において,ガスケットに用いるパッキンについて言及されており,シートパッキンという名称が出ていないとしても,両者は同じものであるから,時機に後れたものでないことは明らかであり,被控訴人の上記主張を採用することはできない。

イ 被控訴人は,シートパッキンがゴムや樹脂などで加工成型されたものであるため,含有する石綿はゴムや樹脂などで固形化されているから,シートパッキンを切り出したりする際に粉じんが発生することはなく,同作業により亡Cが石綿を吸入することはありえないと主張する。

石綿が樹脂等により固形化されていたとしても,石綿を含有する樹脂等を切断したり,穿孔したりすれば,樹脂自体の破壊をもたらすことになり,破壊により,それまで樹脂に固着していた石綿が剥離して,空気中に浮遊することは容易に推認することができる。また,甲44の6によれば,石綿等(アモサイト及びクロシドライト並びにこれらの含有量が重量の1%を超える物を含む。)の「切断」,「穿孔」,「研磨」等の作業が特化則の規制対象とされており,甲116によれば,石綿を含有する製品の「切断」及び「研磨」を行う作業場は,局所排気装置による措置を講ずる必要があることが認められる。したがって,樹脂等で固形化されていても,重量の1%を超える石綿を含有する製品の「切断」,「穿孔」及び「研磨」を行う作業は,石綿を吸入する危険の高い作業であると認められるから,被控訴人の上記主張を採用することはできない。

ウ 甲97,検証の結果及びD証言によれば,亡CやDがシートパッキンについて行った作業は,フランジ部分から漏れが生じたとき,新しいパッキンを切り出し,運搬し,古いパッキンを取り出し,新しいパッキンを装着し,古いパッキンを運搬して廃棄するなどの内容であり,作業の必要上,配管の保温材の一部を破ることもあったことが認められる。これらの作業内容からみれば,新しいパッキンの切り出しは石綿を含有する製品の切断に当たることは明らかであり,古いパッキンの取り出しにおいても,打撃を加えることが考えられ,この過程において,石綿が飛散し,直接吸入したり,衣服等に付着した後に吸入したりすることが容易に推認される。したがって,フランジのパッキン交換作業は,石綿を吸入する可能性の高い作業であったと認められる。

この作業の頻度について,被控訴人は,フランジからの漏れが年6,7回程度あったことは不知とするが,年に数回パッキンの交換作業が行われたことは認めているから,亡Cが関与する作業が少なくとも年に数回あったということができる。

(4)  配管バルブのハンドル部分内部のパッキン交換作業

ア 甲97によれば,配管バルブのハンドル部分から漏れが生じたときには,大きいバルブの場合には,グランドパッキン(乙13の3)を,小さいバルブの場合にはひも状の資材(乙13の4)をほどいて使用していたことが認められる。

被控訴人は,上記のグランドパッキン及びひも状の資材が石綿を含有する製品であることは知らないと認否する。甲44の3によれば,石綿を使用した製品には,「石綿を主原料とし,これに綿花などを混紡した糸及び糸を布状あるいは紐状などに製織編組した」石綿紡織品があり,これを原料として「石綿布」や「石綿パッキングひも」が作られることが認められる。また,D証言及びE証言においては,上記のグランドパッキン及びひも状の資材が石綿を含有する製品であるとしており,この供述は上記の証拠とも符合し,信用することができる。したがって,グランドパッキン及びひも状の資材は,石綿を含有する製品であると認められる。

イ 甲97,検証の結果及びD証言によれば,亡CやDが配管バルブのハンドル部分内部のパッキン交換において行った作業は,配管バルブのハンドル部分から漏れが生じたときに,大きいバルブの場合にはグランドパッキン(乙13の3)を,小さいバルブの場合にはひも状の資材(乙13の4)をほどいて使用して補修する内容であることが認められる。この作業においては,グランドパッキン及びひも状の資材を必要なだけ切断し,運搬し,古いパッキンを取り出し,新しいパッキンを装着し,古いパッキンを運搬して廃棄するなどの内容を含むことが認められ,石綿を含有する製品の切断,石綿を含有する古いパッキンに打撃を加えるなどの作業が含まれているから,前記(3)ウと同様に,この過程において,石綿が飛散し,直接吸入したり,衣服等に付着した後に吸入したりすることが容易に推認される。したがって,配管バルブのハンドル部分内部のパッキン交換作業は,石綿を吸入する可能性の高い作業であったと認められる。

この作業の頻度について,被控訴人は,ハンドル部分からの漏れが年6,7回程度あったことは不知とするが,年に数回パッキンの交換作業が行われたことは認めているから,亡Cが関与する作業が少なくとも年に数回あったということができる。

(5)  ボイラーの機械の外側部分の石綿取扱作業

ア 被控訴人は,控訴人らの主張が時機に後れたものであると主張する。

しかし,控訴人らの原審における平成18年12月5日付け準備書面において,アスベストリボン製のパッキンについて言及されており,使用箇所も検証の結果(写真26,27)によって示されているから,時機に後れたものでないことは明らかであり,被控訴人の上記主張を採用することはできない。

イ 甲97及び検証の結果によれば,ボイラー外側には,①燃焼室の点検口のふたの周囲(写真26,27),②もう一つの点検口のふたの周囲(写真28ないし33),③ボイラーバーナーの取付部分のふた(写真24)にリボンパッキンが使用されていることが認められる。

被控訴人は,上記のリボンパッキンが石綿を含有する製品であることは知らないと認否する。甲44の3によれば,石綿紡織品を原料として「石綿布」や「石綿パッキングひも」が作られることが認められ,リボン状のものも存在することが推認される。また,D証言及び検証の結果(Fの指示説明,写真35)においては,リボンパッキンが石綿を含有する製品であるとしており,この供述は上記の証拠とも符合し,信用することができる。したがって,リボンパッキンは,石綿を含有する製品であると認められる。

ウ 甲97,検証の結果及びD証言によれば,亡CやDがリボンパッキンを使って行った作業は,上記イの①から③までの部分に蒸気漏れが生じたときに,パッキンを交換する内容であることが認められる。この作業においては,リボンパッキンを必要なだけ切断したり,ボルトを通すための穴をあけたり,古いパッキンを取り出し,新しいパッキンを装着し,古いパッキンを運搬して廃棄するなどの内容を含むことが認められ,石綿を含有する製品の切断,石綿を含有する古いパッキンに打撃を加えるなどの作業が含まれているから,前記(3)ウと同様に,この過程において,石綿が飛散し,直接吸入したり,衣服等に付着した後に吸入したりすることが容易に推認される。したがって,ボイラーの機械の外側部分の石綿取扱作業は,石綿を吸入する可能性の高い作業であったと認められる。

この作業の頻度について,被控訴人は,法定点検の際に,専門業者が交換していたと主張する。しかし,年に数回,法定点検以外に蒸気漏れによるパッキンの交換作業が行われたことは,被控訴人が認めているから,亡Cが関与する作業が少なくとも年に数回あったということができる。

(6)  天井裏での作業

昭和52年ころから平成元年ころまで,設備係の従業員が年1,2回程度,吊り天井の裏側に潜り込み,配管の修理点検の作業を行っていたことは,当事者間に争いがない。

検証の結果(Fの指示説明,写真98~109)によれば,10階天井裏の部分には石綿が吹き付けられていたことが認められる。D証言によれば,本件ホテル10階の厨房で天井から水漏れなどがあれば,天井裏に潜り込んで配管を点検したり,ヒューズの交換をしたりしたことが認められる。

被控訴人は,10階の天井裏は高温多湿であるため,石綿を含む粉じんが舞うということはないと主張する。

しかし,高温多湿であれば,微小な石綿が飛散しないとする知見は認められず,粉じんが舞う事態に至らなくても,天井裏は狭い空間であるため,作業者の身体や衣服が壁面に接触し,それにより石綿が剥離して飛散したり,衣服に付着した石綿が飛散したりすることがあることは十分に推認される。

したがって,天井裏での作業も石綿を吸入する可能性の高い作業であったと認められる。

(7)  本件改修工事の不十分

前提事実のとおり,平成元年10月ころ,本件改修工事が行われ,被控訴人は,機械室等の壁面・柱面の石綿を剥がして撤去したほか,配電盤等の裏にあって撤去することのできない石綿や10階の天井裏の壁面の石綿については封じ込め剤を注入して固める封じ込め処理を行い,平成14年ころ,機械室等に残存した封じ込め処理済みの石綿を撤去した。

しかし,控訴人らは,本件改修工事が不十分であり,工事後もなお石綿が飛散する状態であったと主張する。

ア 機械室等

検証の結果及びE証言によれば,本件改修工事によって,機械室等にある石綿については,撤去又は封じ込め処理が行われたことが認められ,未処理の石綿が残存したと認めるに足りる証拠はない。

検証の結果及びE証言によれば,本件改修工事の際,配電盤,分電盤及び制御盤等が取り付けてある部分の石綿は,撤去することができなかったため,内部浸透固化封じ込め剤により,石綿が飛散しない措置がされ,本件改修工事後,配電盤,分電盤及び制御盤等の一部が撤去されたことによって,壁面が露出することになったことが認められる。

控訴人らは,露出した壁面になお石綿が残り,又はその後に表面が劣化して,触れると石綿の繊維がほぐれて飛び散るような状態になったと主張し,控訴人Bは,原審において,石綿と思料する繊維状のものを機械室の壁面から採取したと供述する。

しかし,控訴人Bが採取したものが石綿であると認めるに足りる証拠はなく,E証言によれば,配電盤等の撤去により露出した部分の石綿が固まった状態であったことが認められ,封じ込め処理が不十分であったと認めるに足りる証拠はない。

イ 10階天井裏

検証の結果及びE証言によれば,本件改修工事において,10階天井裏に吹き付けられていた石綿に対し,封じ込め剤による処理が行われ,さらに,天井板を設置して,天井裏に吹き付けられた石綿が劣化しても,室内に石綿の粉じんが飛散しないように処置がされたことが認められる。したがって,封じ込め処理が不十分であったと認めるに足りる証拠はない。

(8)  亡Cの本件ホテルにおける石綿曝露歴

以上のとおり,亡Cは,昭和39年4月に被控訴人に採用されて以来,①「けいそう土保温材」の撤去作業,②フランジのパッキン交換作業,③配管バルブのハンドル部分内部のパッキン交換作業,④ボイラーの機械の外側部分の石綿取扱作業,⑤天井裏での作業において,石綿を吸入する可能性の高い作業に従事したことが認められ,⑥作業中に限らず,石綿の吹き付けられた壁面との接触等により,石綿が飛散し,これを吸入する可能性のあったことも認められる。

2  争点(2)(因果関係)について

前提事実のとおり,亡Cは,遅くとも昭和39年4月ころ,被控訴人との間で雇用契約を締結し,本件ホテルの機械室,ボイラー室等において,設備係の従業員として業務に従事していたが,平成13年4月ころから体調が悪化し,同年5月1日,南一条病院に入院し,同年6月11日,悪性胸膜中皮腫との診断を受け,平成14年4月5日に悪性胸膜中皮腫で死亡した。また,亡Cは,平成13年9月ころ,札幌中央労働基準監督署長に対し,労働者災害補償保険法に基づく療養・休業補償給付金等を請求し,同監督署長から労働災害との認定を受けた。

被控訴人は,亡Cが被控訴人において作業したことにより悪性胸膜中皮腫に罹患したかどうかは不明であると主張する。

(1)  甲87によれば,「中皮腫は,そのほとんどが石綿に起因するものと考えられる」との医学的所見のあることが認められ,これに反する医学的所見の存在を認めるに足りる証拠はない。亡Cの死因は,悪性胸膜中皮腫であるから,亡Cが生存中に石綿を吸入したことが事実上推定される。

(2)  被控訴人は,亡Cが被控訴人に採用される昭和39年4月以前に,他の職場においてボイラー作業に従事するなどし,そこで石綿を吸入したことが強く疑われるとして,因果関係を争う。

甲87によれば,中皮腫の潜伏期間(曝露開始から発病まで)が40年前後であるとされ,前提事実記載の甲41,乙4,34によっても,15年ないし50年であるとする見解があることが認められる。

乙5によれば,亡Cの職歴は,昭和33年10月に農業に従事したのを始めとして,昭和35年11月から札幌市H暖房に入社,昭和36年5月再び農業に従事し,昭和36年11月にJ暖房に入社し,昭和38年12月からは「I社 暖房からgホテルに通勤現在に至る」となっていることが認められる。そして,前提事実のとおり,亡Cの発病は,遅くとも平成13年4月であるから,昭和35年が最初の石綿曝露とみたとしても,発病の時点から41年前であり,上記潜伏期間との矛盾はない。

亡Cに,被控訴人に採用される前の石綿曝露歴があったとしても,中皮腫の潜伏期間(曝露開始から発病まで)を考慮すると,発病した中皮腫との関係でみれば,本件ホテルにおける曝露も採用前の曝露も潜伏期間内であるから,せいぜい原因の競合が考えられるだけで,亡Cに,採用前の曝露歴があることを立証しても,本件ホテルにおける曝露と中皮腫との因果関係を否定することはできない。

(3)  甲72,124によれば,中皮腫が業務上の疾病として認められるための石綿曝露歴の要件は,石綿曝露作業(非定常的な曝露も含む。)への従事期間が1年以上であることが認められ,前提事実のとおり,亡Cは,札幌中央労働基準監督署長から労働災害との認定を受けている。

また,亡Cの本件ホテルにおける石綿曝露歴は,前記1に認定したとおりであるところ,頻度が年数回の非定常的なものであるとしても,期間にして1年以上の曝露歴があったことは明らかである。

なお,前記1に認定した事実に基づくならば,亡Cが勤務時間中機械室等にいたことによる石綿曝露,いわゆる環境曝露もあったということができる。

しかし,亡Cには,環境曝露よりも多量の石綿を吸入する可能性の高い作業に従事した曝露歴,すなわち作業曝露が1年以上にわたるから,環境曝露については,これを問題にするまでもない。

(4)  以上によれば,亡Cが悪性胸膜中皮腫を発症したことと本件ホテルにおける石綿曝露との間に因果関係があるということができる。

3  争点(3)(被控訴人の安全配慮義務違反)について

(1)  予見可能性

ア 被控訴人は,特化則が製造現場での作業を想定した規制であり,被控訴人のような末端レベルで,かつ,臨時的に石綿含有製品が使用される場合についてまでもその対象とするものではなく,被控訴人は,昭和62年ころまで,石綿が人の生命・健康に対する重大な影響を与えるものであることを認識することはできなかったと主張する。

特化則(甲103)1条は,「使用者」の責務を定めたものであり,そもそも,特化則は,労働基準法(昭和22年法律第49号)45条等の規定に基づき,同法を実施するために制定されたものであるから,「使用者」の意義も,同法における「使用者」(同法10条)と同義に解すべきである。また,「使用者」を石綿含有製品を製造する者に限定したり,「使用者」から石綿含有製品の末端使用者で,かつ,臨時的に石綿含有製品を取扱う者を除外したりする規定はない。さらに,昭和47年,労働安全衛生法(甲104)が制定されると,特化則の別表第二は,労働安全衛生法施行令別表第三として規定されることとなった(甲105)。労働安全衛生法は,「事業者」(同法2条3号)を対象にするものであるが,これにも上記のような限定はない。

特化則及び後に制定された労働安全衛生法その他の関係法令は,「使用者」又は「事業者」が労働者に一定の作業をさせる場合において,労働災害の発生を防止し,労働者の安全と健康を確保するための規制である。したがって,労働者に一定の作業をさせる「使用者」又は「事業者」であれば,上記法令の規制対象となると解すべきであり,被控訴人の上記主張を採用することはできない。

イ 被控訴人は,石綿含有製品の切断等の作業は,発じん作業には当たらないから,規制の対象にならないと主張する。

粉じんによる危害防止についての規制は,昭和22年制定の労働基準法42条(甲102)にもあったところ,昭和35年には,じん肺法が制定され,同法2条1項3号の「粉じん作業」の一つとして,じん肺法施行規則別表第一の23号(昭和53年改正後は24号)に「石綿をときほぐし、合剤し、紡績し、紡織し、吹き付けし、積み込み、若しくは積み卸し、又は石綿製品を積層し、縫い合わせ、切断し、研まし、仕上げし、若しくは包装する場所における作業」と定められている(甲40の3)。また,昭和43年には,労働省労働基準局長が発した文書において,石綿製品の切断及び研磨について,局所排気装置の使用が必要とされている(甲116)。

なお,これらの規制においては,石綿含有製品における含有量,樹脂等によって固形化されたものであるか否かによる除外の定めはない。

以上によれば,石綿含有製品の切断等の作業は,遅くとも昭和35年には,じん肺法の規制対象になっていたということができ,被控訴人の主張を採用することはできない。

(2)  安全配慮義務違反

上記(1)のとおり,被控訴人は,特化則及び後に制定された労働安全衛生法その他の関係法令上の「使用者」又は「事業者」に該当するが,石綿含有製品を取り扱う作業に当たる労働者に対して,法令上要求される措置(局所排気装置による排気,呼吸用保護具の使用,湿潤化,立入禁止措置,健康診断等従業員の健康管理)を講じていたと認めるに足りる証拠はない。

労働安全衛生関係の法令を遵守したか否かと安全配慮義務違反か否かとが直ちに結び付くものではないが,安全配慮義務違反の判断において,行政法規において要求される事業者の義務を遵守していたか否かは,信義則違反か否かを判断する上で重要な要素として考慮されるというべきである。

前提事実のとおり,平成元年10月ころ,本件改修工事により機械室等の壁に吹き付けられた石綿が撤去されているが,前記1のとおり,亡Cは,それまでの作業による石綿曝露があり,潜伏期間からみて,本件改修工事以降に全く石綿曝露がなかったとしても因果関係が認められるから,本件改修工事による石綿の除去は,安全配慮義務違反の判断を左右しない。

4  争点(5)(過失相殺)について

被控訴人は,亡Cが昭和56年から被控訴人の施設管理部門における最高責任者の地位にあったから,石綿の存在や従業員に対する安全配慮に対する上申義務を怠った重大な過失があり,過失相殺をすべきであると主張する。

亡Cが施設管理の施設係「マネージャー」であったことは,控訴人らも認めるものであるが,被控訴人は,会社における亡Cの職務及び権限を定めた就業規則等の規定を主張立証していない。そのため,「施設管理」は,ボイラーの運転等による暖房・給湯施設の管理の意味にしか解されず,亡Cの職務の中に,労働者の労働災害の防止や安全・衛生の確保が含まれていたと認めるに足りる証拠はない。

安全配慮義務は,使用者と被用者との間の雇用契約に基づき,使用者が信義則上負うと考えられる義務である。したがって,使用者に安全配慮義務違反があったときに,被用者に過失相殺されるべき過失があるのは,被用者が雇用契約上労働災害等を防止すべき義務を負っていて,これを怠った場合に限られる。特化則37条には,昭和46年の制定当初から「特定化学物質等作業主任者」の定めがあるから,例えば,亡Cが被控訴人の業務命令により,特定化学物質等作業主任者として必要な講習を受けることを命ぜられ,被控訴人内部において特定化学物質等主任者として稼働する職務を負っていたのに,これを怠った場合には,過失相殺も認められ得る。しかし,被控訴人において,従業員のうち一定の者に特定化学物質等作業主任者講習を受けさせるなどの方法により,労働安全衛生に関する知識を有し,労働安全衛生を確保する職務を行う者を養成したと認めるに足りる証拠はない。この職務を行う人員を配置することは,使用者が負う安全配慮義務の一環をなすものであるから,これを置かなかったこと自体が亡Cに対する安全配慮義務違反を構成するのであり,過失相殺が認められないのは明らかである。

5  争点(4)(損害)について

(1)  治療費

甲118,119によれば,労災から支給された分を除き,亡Cの治療費として以下の損害の発生が認められる。

入院分  40万9981円(札幌南一条病院)

通院分   1万3530円(札幌東徳洲会病院)

3万5950円(札幌南一条病院)

合計   45万9461円

(2)  付添看護費

甲121,122によれば,以下の期間,近親者の付添いが行われたことが認められ,亡Cの病状を考慮すると1日当たり7000円の付添看護費が損害と認められる。

平成13年5月30日~同年6月1日  3日間

平成14年3月25日~同年4月5日  12日間

合計  10万5000円

(3)  入通院慰謝料

甲118によれば,亡Cの入院は平成13年5月1日から平成14年4月5日までの間に182日間,通院は平成13年6月21日から平成14年2月15までの間に実日数13日であると認められ,慰謝料としては,320万円とするのが相当である。

合計  320万円

(4)  入院雑費

甲118によれば,亡Cの実入院日数は,182日間であると認められ,1日当たりの額は1500円とするのが相当であるから,次の損害の発生が認められる。

合計  27万3000円

(5)  葬儀関係費用

甲62によれば,亡Cの葬儀に要した費用として,192万6865円が支払われたことが認められ,150万円が相当な損害と認められる。

合計  150万円

(6)  死亡による逸失利益

控訴人らは,賃金センサス(産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計)の平均賃金を収入額とすべきであると主張するが,亡Cの実収入額が甲120において判明している以上,338万1714円とすべきである。

被控訴人は,亡Cの雇用は65歳までが契約更新の限界であるから,逸失利益の計算もこれによるべきであると主張するが,逸失利益の計算は,死亡時の収入額を基にして行う推計計算であるから,通常の就労可能年齢である67歳を基準にすべきである。

亡Cの平成13年度給与収入          338万1714円

厚生年金基金支給年金額(甲71。死亡により失権)42万6300円

小計                     380万8014円

残存就労可能年数      7年

7年間のライプニッツ係数  5.786

生活費控除         40%

計算式 3,808,014×(1-0.4)×5.786=13,219,901

合計                    1321万9901円

(7)  死亡慰謝料

亡Cが一家の支柱であったことを考慮し,死亡による慰謝料は,3000万円とするのが相当である。

合計  3000万円

(8)  損害額合計

(1)  から(7)までの損害額の合計は,4875万7362円となり,亡Cの損害賠償請求権を,控訴人Aは2分の1,控訴人Bは4分の1の割合で相続しているから,損益相殺前の損害額は,次のとおりとなる。

控訴人A  2437万8681円

控訴人B  1218万9340円

(9) 損益相殺

ア 甲63ないし70,117及び控訴人らの自認するところによれば,控訴人Aは,次のとおり,労災給付金として合計1137万5780円の交付を受けたことが認められる。

葬祭料     一時金  59万6460円

遺族補償年金  平成14年6月から平成20年4月までの支給分

合計  777万9320円

遺族特別支給金 一時金 300万円

イ 上記アのうち,葬祭料については葬儀関係費用に対する控訴人Aの相続分(75万円)から控除して損益相殺をする。

遺族補償年金については死亡による逸失利益に対する控訴人Aの相続分(660万9950円)から控除することになるところ,受給した年金額が上回るから,660万9950円を控除して損益相殺をする。

遺族特別支給金については,被災労働者の損害を填補する性質を有するということはできないから,損益相殺の対象とならない。

ウ 上記の損益相殺の結果,損害賠償額は,次のとおりとなる。

控訴人A  1717万2271円

控訴人B  1218万9340円

(10) 弁護士費用

控訴人らは,弁護士に委任して本件訴訟を追行したものであり,事案の性質に鑑みると,損害と認められるべき弁護士費用は,合計300万円(控訴人Aにつき180万円,控訴人Bにつき120万円)とするのが相当である。

(11) 結論

以上によれば,被控訴人の支払うべき額は,控訴人Aに対し,1897万2271円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員,控訴人Bに対し,1338万9340円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員となり,この金額の損害賠償請求権が再生債権である。

6  結論

以上によれば,控訴人らの本訴請求は,それぞれ主文掲記の限度で理由があり,その余の請求は理由がない。よって,これと異なる原判決を取り消し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 末永進 裁判官 古閑裕二 裁判官 住友隆行)

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