札幌高等裁判所 平成19年(行コ)13号 判決 2008年8月29日
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 別紙当事者目録記載の控訴人番号1ないし9の各控訴人,A(同番号10の1,2の各控訴人の被相続人)及び同番号11ないし13の各控訴人に対し,被控訴人が昭和52年2月19日付けでした別紙懲戒処分一覧表1記載の各懲戒処分をいずれも取り消す。
3 別紙当事者目録記載の控訴人番号2,3,6,8,9の各控訴人及びA(同番号10の1,2の各控訴人の被相続人)に対し,被控訴人が昭和52年9月12日付けでした別紙懲戒処分一覧表2記載の各懲戒処分並びに同番号11,12,15ないし17,21ないし24,26,31,36ないし41,43,45ないし50,52ないし55,60,61,67ないし83,85の各控訴人に対し,被控訴人が同日付けでした別紙懲戒処分一覧表3記載の各懲戒処分をいずれも取り消す。
4 別紙当事者目録記載の控訴人番号19ないし20,51,62及びB(同番号18の1,2の各控訴人の被承継人)の各控訴人及びに対し,被控訴人が昭和52年9月20日付けでした別紙懲戒処分一覧表3記載の各懲戒処分をいずれも取り消す。
5 別紙当事者目録記載の控訴人番号1,4,5,7の各控訴人及びC(同番号14の1,3の各控訴人の被相続人)に対し,被控訴人が昭和52年11月18日付けでした別紙懲戒処分一覧表2記載の各懲戒処分並びに同番号13,25,27ないし30,32ないし35,42,44,56ないし59,63ないし66,84の各控訴人に対し,被控訴人が同日付けでした別紙懲戒処分一覧表3記載の各懲戒処分をいずれも取り消す。
6 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 被控訴人は,北海道立学校又は北海道内各市町村立学校の教職員であった控訴人ら(別紙当事者目録記載の控訴人番号10の1,2及び同番号14の1,3の各控訴人についてはその被相続人,同番号18の1,2の各控訴人についてはその被承継人)に対し,昭和50年12月から昭和52年4月にかけて実施された争議行為に関与したことを処分事由として,地方公務員法(以下「地公法」という。)37条1項に基づいて懲戒処分を行った。本件は,控訴人らが,地公法37条1項は,憲法28条並びに結社の自由及び団結権の保護に関する条約(昭和40年6月28日条約第7号,以下「ILO87号条約」という。)及び憲法98条2項に違反する無効な規定であり,また,仮に無効でないとしても,控訴人らが受けた懲戒処分は懲戒権の濫用に当たるから無効であるなどと主張して,被控訴人に対し,上記各懲戒処分の取消しを求めた事案である(以下,控訴人らの表記については,もっぱら別紙当事者目録記載の控訴人番号を用いることとするが,特に断らない限り,同番号10の1,2の各控訴人及び同番号14の1,3の各控訴人については,それぞれその被相続人であるA(以下「被処分者A」という。)及びC(以下「被処分者C」という。),同番号18の1,2の各控訴人については,その被承継人であるB(以下「被処分者B」という。)を便宜上それぞれ「控訴人番号10の控訴人」,「控訴人番号14の控訴人」及び「控訴人番号18の控訴人」と表記し,被処分者全員を指す場合に,この者らを含めて「控訴人ら」と表記することとする。)。
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らは控訴の趣旨記載の裁判を求めて本件控訴に及んだ。
ただし,被処分者A及び同Cは本訴提起時に既に死亡していたため,各3名ずつの相続人が原告として本訴を提起し,敗訴判決に対して控訴したが,原審原告番号10の3のD及び同14の2のEの2名は,その後控訴を取り下げている。
また,被処分者Bは,当審における弁論終結前に死亡したため,2名の相続人が本件訴訟を承継した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり訂正,削除,加入するほか,原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することのできる事実)」,「2 争点」及び「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,原判決書に記載のある各別紙は,本判決書添付の対応する各別紙と読み替える。
(1) 原判決書3頁5行目の「10の1ないし3」を「10の1,2」と,6行目の「14の1ないし3」を「14の1,3」とそれぞれ改め,7行目の「相続人である。」を「相続人であり,控訴人番号18の1,2の各控訴人は,被処分者B(平成20年4月8日死亡)の相続人である。」と改める。
(2) 原判決書3頁13行目の「代表者である」を削除する。
(3) 原判決書4頁18行目の「専従役員として,」を削除する。
(4) 原判決書4頁19行目の「支部内市町村」の次に「及び政令指定都市の区」を加入する。
(5) 原判決書5頁7行目から21行目までを次のとおり訂正する。
「 学校の施設,設備,組織編成等については,学校教育法,同法施行規則,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。),同法33条1項等に規定される教育委員会規則及び地方公共団体の条例等により定められているところ,文部省(当時の名称,以下も同様に表記する。)は,学校教育法施行規則並びに都道府県及び市町村の学校管理に関する教育委員会規則(以下「学校管理規則」という。)を改正するなどして,既に置かれていた校長及び教頭のほかに,教諭の中に「主任」という名称の役職者を設け,これを法令その他において確立した制度として定めるための措置を行おうとした(以下「主任制度化」といい,そのように定められた制度を「主任制」あるいは「主任制度」という。)。しかし,日教組及び北教組はその導入に強く反対していた。(甲10,弁論の全趣旨)」
(6) 原判決書6頁25行目から26行目にかけての「「処分阻止等」を目的として」を「処分阻止並びに定期昇給延伸措置の復元及び実損回復を目的として」と改める。
(7) 原判決書9頁6行目から7行目にかけての「10の1ないし3及び同14の1ないし3」を「10の1,2及び14の1,3」と改め,9行目の「肯定すべきである。」の次に「また,被処分者Bは,当審係属中に死亡したが,同様の理由により,同人の当事者適格を基礎づける法律上の利益が相続によって承継され,当事者適格も相続人に承継されると解すべきであるから,相続人たる控訴人番号18の1,2の各控訴人において本件訴訟を承継すべきである(最高裁判所昭和49年12月10日第3小法廷判決・民集28巻10号1868頁参照)。」を加える。
(8) 原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」の「争点(2)(地公法37条1項が憲法28条に違反するか否か)について」の「(原告らの主張)」の全部を次のとおり改める。
「(控訴人らの主張)
地公法37条1項は地方公務員の争議行為を全面一律に禁止しているが,以下のとおり,同条項は憲法28条に違反し,無効である。
ア 憲法が基本的人権を保障している意義
憲法は,11条で基本的人権が侵すことのできない永久の権利であること,13条で国民は個人として尊重されること及びその権利は公共の福祉に反しない限り国政上最大の尊重を必要とすること,97条で憲法が保障する基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の成果であって,侵すことのできない永久の権利として信託されたものであること,98条1項で憲法は国の最高法規であることを定めている。
すなわち,基本的人権は人が人であることによって当然に有する固有の権利であって,国はそれを最大限尊重する必要があり,基本的人権を侵害する法律は無効であり,また,そのように法律を解釈することは許されない。
イ 労働基本権の意義
憲法28条は,労働者の基本的人権として,団結権,団体交渉権及び団体行動権(争議権を含む)を保障している。資本主義社会においては,労働者は自らの労働力を使用者に提供し賃金を得て生活を営まざるを得ず,労働力の売買を労使の自由に任せたのでは労働者は使用者に対して決定的に不利益な立場に立つ。したがって,労働者に団結権,団体交渉権及び争議権を含む団体行動権を保障することによって,労働者が使用者と実質的に対等平等の立場を確保し,経済的社会的な地位の向上を図ることが労働者の個人の尊厳を尊重する所以である。また,団結権,団体交渉権及び団体行動権の保障なくして労働者が使用者と実質的に対等平等の立場に立つことは不可能である。
このことは労働者が長い自由獲得の努力を通じて得た認識・経験に基づくものであり,労働基本権はまさにその成果として労働者が人間らしく生きることに必要不可欠な権利として保障されるものである。
ウ 公務員にも労働基本権の保障が及ぶ。
公務員も労働力を提供して賃金を得て生活を営んでおり,政府あるいは地方公共団体当局との間に労使関係が存在することにおいて民間企業の労働者と本質的に異なるところはない。したがって,憲法28条の労働基本権の保障は公務員労働者にも及ぶ。
この点に関して,憲法15条2項が公務員の全体の奉仕者性を定めていることを根拠に憲法28条による労働基本権の保障が公務員に対しても及ぶことが否定ないし制限されると解することはできない。憲法15条2項の公務員の全体の奉仕者性は公務員が天皇の使用人ではなく,国民全体の利益に仕える者であって,一党一派,一利益集団に奉仕するものであってはならないとの公務員の基本的性格を示した規定である。
エ 「公共の福祉」による制約
個人の尊厳を最高とする日本国憲法においては,個人に優先する「全体」の利益ないし価値は存在し得ない。個々の人権に対抗する価値を認められるのは他人の人権のみである。この人権相互間に生じる矛盾・衝突の調整を図るための実質的公平の原理が「公共の福祉」である。この「公共の福祉」の原理は人権に内在する制約であり,基本的人権の保障の立場からその制約は必要最小限度に止められなければならない。
労働者が争議権を行使した場合,他人の人権,すなわち,国民の生活上の利益と矛盾・衝突することが考えられる。公務員の場合も同じである。公務員の争議行為による国民生活上の障害といっても,公務員の職務が多種多様であり,その争議行為の態様も千差万別であるから,重大なものもあれば比較的軽微なものまで種々である。公務員に対しても労働基本権の保障は及び,その制約は必要最小限度に止められるべきであるから,争議権を尊重する必要と争議行為によって失われる国民生活上の利益を回復する必要とを比較衡量して,後者が前者を上回る場合に,国民生活上の利益を回復するために必要な範囲・限度で争議権の制約が許容されると考えるべきである。特に,教職員の場合,旧労組法及び旧労調法の制定経過に鑑みても,また国際労働機関(以下「ILO」という。)の諸見解に照らしても,その争議権が制約される根拠に乏しいし,一律全面禁止は憲法に違反する。
オ 公務員法の争議行為全面一律禁止規定は憲法との適合性をぬきに定められたものである。
日本国憲法の制定により公務員にも争議権が保障されることになり,実際に争議行為が実施されていた。これが全面一律に禁止されることになったのは,昭和23年7月のマッカーサー書簡に基づく政令201号によってであった。日本政府は,占領軍が対日政策を変更して公務員の争議行為を禁止することにしたことを,憲法による争議権の保障との関係を考慮することなく,超憲法的命令と受けとめたのであった。そして,政令201号の規定は,占領軍の絶対的な権威のもとに,同年11月に国家公務員法に,昭和25年12月に地公法に取り込まれることになり,今日に至っている。
カ 代償措置について
(ア) また,争議権の制限が必要やむを得ない場合であっても,争議権を制限すれば労働者が使用者に対して実質的に対等な立場を確保することが不可能又は著しく困難になるから,争議権の制限が憲法28条に違反しないためには,争議権の行使が国民の生活上の利益を重大に侵害する場合にその矛盾衝突を調整するために必要な場合であることに加えて,適切な代償措置を講じることが必要である。
(イ) 代償措置の要件としては,憲法28条の趣旨に適合するために,以下の3つの要件を備えていることが必要というべきである。
① 公平な第三者機関が設置されていること。
具体的には,機関の構成員の選任手続が公正であること及び構成員の権限が労使から独立していることが必要である。
② 労働者の要求が反映できること。
労働者が労働条件につき一方的に決定されることは個人の尊厳の理念に反するから,労働者の意見,要求が反映されるしくみが不可欠である。
③ 労働条件に関する第三者機関の決定が迅速かつ完全に実施されること。
第三者機関による決定が使用者によって迅速,完全に実施されないのでは,代償措置としての意味がないからである。
(ウ) 最高裁4・25判決及び5・21判決が代償措置として挙げるのは,①法定の身分保障,②法定の勤務条件の享有,③人事院・人事委員会の給与勧告制度,④勤務条件に関する措置要求制度,⑤不利益処分不服審査請求制度であるが,以下のとおり,いずれも代償措置の要件を満たしていない。
よって,地公法37条1項の規定は,適切な代償措置が存在しないという面においても,違憲というべきである。
① 法定の身分保障については,分限及び懲戒の事由が法律又は条例で定められ,それ以外の事由による分限及び懲戒が許されないということであるが,これは民間企業であれば就業規則により定められることを法律又は条例で定めているというのみであり,何ら代償措置の要件を満たしていない。民間労働者の場合は,就業規則に分限・懲戒規定が存在してもなお争議権は保障されている。
② 法定の勤務条件については,給与,勤務時間,休日休暇等が法律又は条例で定められているということに過ぎず,労働者の要求が反映されるものではないし,また,勤務条件が公務員労働者にとって不利益に変更されることがないというものでもなく,代償措置とは到底いえない。
③ 人事院・人事委員会の給与勧告制度については,使用者である政府ないし地方公共団体当局の判断により実施するか否かが決められるものであり,実際に昭和57年には全く実施されず,一部不実施もたびたびあった。また,同制度は労働者の意見,要求が反映される仕組みになっておらず,かえって,労働者にとって不利益であり,政府ないし地方公共団体の意向に従うような勧告がなされることもある。加えて,人事院・人事委員会の給与勧告制度は全ての公務員に適用されるわけではない。そもそも公平委員会には給与勧告権限が認められていない。
④ 措置要求及び審査請求については,民間労働者の場合であれば労働委員会又は裁判所に申立てをすることができるのであって,何ら代償措置の要件を満たしていない。
キ まとめ
以上によれば,地方公務員の争議行為を全面一律に禁止する地公法37条1項は,公務員にも労働基本権を保障した憲法28条に違反し,無効である。」
(9) 原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」の「争点(3)(地公法37条1項が,ILO87号条約3条,10条,8条に違反し,ひいては憲法98条2項に違反するか否か)について」の「(原告らの主張)」の全部を次のとおり改める。
「(控訴人らの主張)
ILO87号条約中には,争議権を保障する旨の明文の規定は存在しない。しかしながら,争議権は同条約に内在する権利として,同条約により保障されていると解釈すべきである。具体的には,「労働者の利益を増進し,かつ擁護することを目的とする労働者団体」(同条約10条)が「プログラム(計画)を策定する権利」(3条)の中に争議権も含まれると解釈すべきである。そのことは,同条約の締結後,ILOの議決機関である労働総会が争議権に何度も言及しており,また同条約の適用監視機関である結社の自由委員会及び条約勧告適用専門家委員会(以下「専門家委員会」という。)は,争議権は同条約3条1項及び10条に内在する当然の権利であるとILO87号条約を解釈していることに明らかである。
ILOにおいて,専門家委員会や結社の自由委員会の見解は,広い意味での国際的法源と評価されており,とりわけ専門家委員会の見解は,国際司法裁判所によって覆されない限り有効かつ一般的に承認されている。よって,各国政府は,国際司法裁判所で異なる判断が示されない限り,専門家委員会の見解に従う義務を負っていると考えるべきである。
仮に,専門家委員会や結社の自由委員会の見解が法源とは認められず,法的に日本の裁判所を拘束するものではないとしても,それだけで専門家委員会や結社の自由委員会のILO87号条約の解釈を無視することは法律家の合理的解釈態度とは言えない。日本の裁判所がILO87号条約を解釈適用しようとする際,ILO87号条約の適用監視機関として権限をもってILO87号条約を解釈・適用してきた専門家委員会や結社の自由委員会の見解を尊重すべきは理の当然である。
さらに,結社の自由委員会は,平成14年以降,329次報告,331次報告ならびに340次報告において,地公法37条1項がILO87号条約に違反しており,同条約に適合するように改正すべき旨を明示して勧告しており,それらの報告はILO理事会において承認されている。」
(10) 原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」の「(4) 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(原告らの主張)」の「イ 主任制度及びそれに関する交渉過程の問題点について」の全部を次のとおり改める。
「イ 主任制度及びそれに関する交渉過程の問題点について
本件各争議行為の中には,主任制度化反対等を目的とし,あるいは主任制度化に関する交渉過程を原因ないし動機として実施されたものもあるところ,以下の理由により,主任制度化に関する事情を懲戒権濫用の判断に関して考慮要素とすべきである。
(ア) そもそも,主任制度化・主任手当は,各学校に校長の監督を受け教育活動に関して連絡調整・指導助言に当たる各種の主任を置き,その主任に手当を支給することを法制化するもので,国家による教職員の管理統制政策の重要な一環であり,文部省-都道府県教育委員会-市町村教育委員会-校長-教頭-主任-一般教員・職員という縦の管理体制を確立し,国家による教育の支配を学校の教職員の末端まで徹底させることを目的とするものである。それは,昭和46年の中央教育審議会答申で,国の教育政策に従順な教師づくりをめざし,学校内に校長を助け校務を分担するため教頭のほかにあらたに主任を管理上,指導上の職制として確立し,主任にも特別の手当を支給することを提言していることに基づくものである。
このような主任制度化・主任手当は,以下に述べるとおり民主的な学校教育に反し,教職員の勤務条件にも悪影響を及ぼし,教職員団体の団結権を弱めるものである。そして,実際に,主任制度化が行われた後,種々の弊害が指摘されている。
(イ) 戦後の民主的改革により,教育は子どもの権利として認められ,子どもは一人ひとりがその個性を尊重され,その持っている能力を全面的に成長・発達・開花させられることが学習権として保障されることになった。学校はその保障の場であり,教員は教育の専門家として一人ひとりの子どもと直接に人間的なふれあいをもって,目の前の子どもの発達に応じて適切な教育活動を行うことが求められる。そのためには教員には自らの教育活動に関して自主性・創造性が必要不可欠である。また,学校では教員が集団的に教育活動を行っているから,その教員相互の関係でも自主性,創造性が保障されなければならない。各学校の運営計画や校務分掌も教員集団が自主的,民主的に決めることが必要である。教育内容及び教育方法について国が上意下達の方法で画一的に行うのでは子どもの学習権の保障にもとる。これが,教育の本質に基づく条理であり,改正前の教育基本法10条が教育の直接責任,教育への不当支配の排除及び教育行政の限界を定めている根拠である。
主任制度化は,前述のとおり,各学校における管理組織を確立し,校長の監督を受けて主任が教育活動について連絡調整・指導助言を行い,個々の教員の教育内容・教育方法を国家的に統制するものである。また,主任制度化は,主任手当の支給と相まって,教員間に職制上の序列を確立・固定化するものでもある。その結果,学校教育に本質的に不可欠な学校の自治,教員の自主性・創造性が失われ,教員相互の自主的な協力関係も破壊される。ひいては,子どもの学習権を大きく損なうことになる。
(ウ) 主任制度化・主任手当は教職員組合との団体交渉事項である。主任制度化は,従前存在しなかった中間管理職としての主任を新たに制度化するものであるから,命課される主任たる教員にとっては「連絡調整・指導助言」の職務が新たに加わることになるし,その職務の内容と権限とが具体的に明確にされることが必要である。また,主任に命課されない教職員にとっても,主任からの「連絡調整・指導助言」によって従来の教育活動の方法が変更を余儀なくされる。さらに学校内の教職員の教育活動に関する協力関係が重大な変更を余儀なくされ,職場環境が激変する。主任の命課と主任手当の支給とによって学校内での教職員の序列が固定される。主任は中間管理職と位置づけられ,教員の中には教頭,校長へ昇進するためのステップと考える者も出てくるから,事実上教職員組合からの脱退ないし非組合員化が促進される。
したがって,主任制度化,主任手当の問題は団体交渉事項であり,この点に関しては,昭和46年12月15日付けの北教組と被控訴人との協定書,昭和51年1月29日の北教組とF教育長との事前交渉での①主任制度化の通達を発する場合には北教組と十分交渉を行い一方的には発しないこと,②学校管理規則の改正は北教組との交渉で行なうことの確認及び同年5月8日の第5回交渉での学校管理規則の改正は交渉で行なうとの再度の確認がなされ,主任制度化に関する事項は交渉事項である旨確認されているのであるから,被控訴人は北教組と誠実に交渉すべき義務があった。
(エ) 教員団体は,国際的にも,教育政策及び学校組織などについて当局と協議し関与する権利が認められている。すなわち,ILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」(1966年)は,「教員団体は,教育の進歩に大いに寄与することができ,したがって,教育政策の決定に関与させられるべき勢力として認められるものとする。」(9項)とし「教員がその責任を果たすことができるように,当局は,教育政策,学校組織,教育活動の新たな発展等の問題について教員団体と協議するために承認された手段を設け,かつ,定期的に利用するものとする。」(75項)と確認している。2000年のILO・ユネスコ合同専門家委員会の報告書でも教員団体は教育の政策立案者に対して構成員である教員の広範な経験を提供できるのであるから,教員団体との協議は社会的共同者にとって価値があり,ますます発展する傾向にあることが確認されている。
この教員団体の協議・関与権が憲法28条の労働基本権と異なるものであるとしても,教育行政当局がこの協議・関与権を無視して学校組織に関する新たな政策を実施し,教員団体がそれを原因・動機として争議行為を行った場合には,この事情は争議行為の原因・動機に関する重要な事情として懲戒権濫用の判断において考慮される必要がある。」
(11) 原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」の「(4) 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(原告らの主張)」の「ウ 本件争議行為による影響が軽微であること」のうち,原判決書27頁19行目冒頭から28頁4行目の「軽微なものというべきである。」までを,次のとおり改める。
「ウ 本件争議行為による影響が軽微であること
前記アのとおり,懲戒処分は,被処分者の具体的行為について検討した上で,処分の是非及び程度について判断すべきであるから,争議行為を企画に関与した組合役員と単に争議行為に参加したに過ぎない一般組合員とでは争議行為の影響に関する責任の程度は自ずから異なる。組合役員の責任でも空知9市町村の地域のみで行われた争議行為の影響は同地域の学校への影響に限られる。一般参加者の責任は自らが勤務する学校の授業への影響に限られるべきであり,全道的な影響を考慮すべきではない。
本件争議行為の影響として,以下の諸事情を考慮すべきである。①一般参加者である控訴人らは,北教組の方針に従って単純参加したにすぎず,授業への影響もほとんどないか,与えたとしても軽微である。」
(12) 原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」の「(4) 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(原告らの主張)」の「カ 第1の懲戒処分の対象となった争議行為の動機・目的の正当性」の全部を次のとおり改める。
「カ 第1の懲戒処分の対象となった争議行為の原因・動機の相当性
これらの争議行為の目的は,①主任制度化反対,主任手当制度化反対,特に,昭和51年5月19日及び同年11月20日の両争議行為は,被控訴人による一方的主任制度化交渉打切りに抗議し交渉再開を求めたもの,②大幅賃上げ等を要求する昭和51年の春闘,③一方的賃金合理化反対であり,いずれも争議行為にいたる原因・動機において相当なものであった。」
(13) 原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」の「(4) 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(原告らの主張)」の「キ 第2の懲戒処分の対象となった争議行為の動機・目的の正当性」のうち,「①定期昇給延伸措置の実損回復」(原判決書31頁18行目)を「① 定期昇給延伸措置の復元と実損回復」と改める。
(14) 原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」の「(4) 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(原告らの主張)」の「ク 本件各争議行為に至る具体的な経緯等」の「(ア) 昭和50年12月5日(別紙争議行為一覧表1の番号1,以下,クの項目においては,「番号1」などと表記する。)及び昭和51年2月20日(番号3)の各争議行為について」から「(カ) 支部・支会単位の争議行為について」(原判決書38頁20行目末尾)までの全部を次のとおり改める。
「(ア) 昭和50年12月5日(別紙争議行為一覧表1の番号1,以下,クの項目においては,「番号1」などと表記する。)及び昭和51年2月20日(番号3)の各争議行為について
被控訴人は,昭和50年11月25日,北教組に対し,道立学校及び道費負担の市町村立学校の教職員の給与につき,初任給2号俸上積み措置の廃止,特別昇給停止,定期昇給12か月延伸,運用昇給短縮措置の廃止等を提案した(以下,同提案を「昭和50年11月の被控訴人提案」という。)。
同提案は,教職員の給与等につき大きな不利益をもたらす内容であることはもちろん,本来,同年9月18日の北海道人事委員会の勧告を受け,道当局は給与引き上げのための給与改定条例案を第3回定例道議会に提案すべきところ,同年10月14日,副知事が道議会への提案を一旦見送らせてほしいと述べて,同条例案の提案を遅らせていた。それにもかかわらず,道当局は,同年11月25日の第4回定例道議会に提案する給与引き上げのための条例案についての交渉の席上で,突然,人事委員会勧告と矛盾する給与引き下げとなる定期昇給12か月延伸などの既得権剥奪提案を行い,その理由を抽象的に「道財政の悪化」とだけ述べて,具体的理由の説明をしなかった。道当局は,給与引き上げのための給与改定条例案の道議会への提案を引き延ばしたうえに,本来,別個のかつ,道当局として給与引き下げという慎重に考慮して時間をかけて交渉すべき案件を時間的余裕のないまま第4回定例道議会に提案しようとした。道当局は,同年12月2日及び4日の交渉で,既得権剥奪提案について「道財政の悪化」という抽象的説明を繰り返すだけで,具体的理由を説明しないまま交渉を打ち切った。このため,地公四者共闘は12・5ストを実施せざるを得なかった。その後,道当局は,同年12月7日の交渉で,既得権剥奪提案を全面的に撤回した。それにもかかわらず,道当局は,翌昭和51年1月29日に既得権剥奪提案を再度提案した。しかし,道当局は,前年の提案と同様の回答をして前進はなかった。地公四者共闘は,同年2月13日にストを配置して再提案に反対し,副知事交渉を行ったところ,副知事は,同月19日をめどに検討する時間がほしいと回答したので同月13日のストは同月20日に延期された。同月19日の交渉でも副知事は「道財政の悪化」と抽象的な理由を述べただけで,定期昇給12か月延伸を含めた既得権剥奪提案の具体的説明を行わないで,給与引き下げという勤務条件不利益変更にあたって使用者に課せられている説明責任を果たさなかった。それゆえ,地公四者共闘は2・20ストを実施せざるを得なかったのである。12・5スト及び2・20ストは,給与引き下げを伴う勤務条件の不利益変更について具体的説明をしないで説明責任を果たさない道当局の態度に起因したもので,両ストの実施は必然的であった。説明責任を果たさない道当局の態度と12・5スト及び2・20ストの実施に至る経過は,両ストの原因・動機として本件懲戒処分についての懲戒権濫用判断にあたって,考慮されるべき最大の要因である。
(イ) 昭和50年12月10日の争議行為(番号2)について
昭和50年12月6日,自民党文教部会から,主任の制度化と手当の支給を盛り込んだ給与改善案が発表され,文部大臣が態度を変えて主任制度化を実施する意思を表すと解される大臣見解を発表した。日教組は,同月10日の争議行為を背景にして,文部省に対して主任制度化構想を断念することを求め同月9日に文部大臣との交渉が開催されることとなったが,文部大臣は自民党文教部会に拘束されて交渉に臨むことができなかった。そこで,日教組は主任制度化に反対し文部省との交渉を要求して全国統一ストライキを実施した。北教組は,日教組の全国統一ストライキの一環として,同月10日の争議行為を実施した。主任制度化に関する問題点は前記のとおりであり,主任制度化に反対し日教組と文部省との交渉を求める12・10全国統一ストライキの一環として北教組が実施した本件12・10ストの原因・動機には相当性が認められる。
(ウ) 昭和51年3月9日の争議行為(番号4)について
同争議行為の目的は,主任手当の制度化に反対し,日教組と人事院との交渉を求めることであった。すなわち,昭和50年12月に文部省令を改正し主任を制度化した文部省は,主任手当制度化を具体的に進めることに着手し,まず人事院に主任手当を制度化することを勧告するよう文書で要望した。文部省の要望を受けた人事院が主任手当を勧告に盛り込むことが予測されたため,主任手当制度化に反対し,人事院に日教組と誠実に交渉することを求めて日教組は,昭和51年3月9日に全国統一ストライキを実施した。北教組は,日教組の全国統一ストライキの一環として,同日の争議行為を実施した。
前記(イ)と同様,主任手当制度化に反対し人事院に誠実な交渉を求める日教組の3・9全国統一ストライキの一環として北教組が実施した本件3・9ストには原因・動機の相当性が認められる。
(エ) 昭和51年5月19日の争議行為(番号7)について
被控訴人は,昭和51年4月12日,北教組に対して主任制度化に関する交渉を申し入れたところ,北教組はこれに応じた。ところが,北教組が被控訴人との間で従前取り交わしていた協定書の内容や主任制度化に関する事前交渉における確認に基づき,北教組が主任制度化は団体交渉事項である旨の再確認を求めたところ,被控訴人のF教育長は,交渉の決着がなくても被控訴人の判断により決めるなどとして,当初から交渉打切りを示唆するような態度を示し,その後,同年5月8日にいたって学校管理規則を改正し主任を制度化するについては交渉で行うことを再確認し,主任の地位や性格,主任適格者の基準,教務主任の職務内容について質疑を行ったものの,同教育長は,絶えず交渉打切りを話題に持ち出し,同月18日午後の交渉において,必要な質疑応答が多数残っていたのに,一方的に交渉打切りを宣言した。北教組は,この一方的交渉打切りに抗議し主任制度化交渉の再開を求めて同月19日の争議行為を実施した。
被控訴人が提案した11の主任等のうち教務主任の職務内容の質疑がはじまったばかりで他の主任等の職務内容等に関する質疑が全くない時点での被控訴人の一方的な交渉打切りであること,交渉を打切った同年5月18日の交渉において,F教育長自ら後日回答する旨答弁したことが数点あったこと,道議会全会派の交渉継続の要望を無視した打切りであったこと等の経緯から,F教育長の交渉打切りが不当であり,一方的交渉打切りに抗議し主任制度化交渉の再開を求めて実施した本件5・19ストライキの原因・動機が相当であることは明らかである。上記争議行為の後,翌同月20日には,北教組と被控訴人の予備交渉担当者の間で交渉再開について実質的合意が成立し,同月25日には,北教組と同教育長との間で交渉再開が確認されている。また,同年7月1日に開始され同年11月13日に再度打切られた主任制度化再開交渉においても,被控訴人の準備不足,答弁の矛盾・混乱等が目立った。これらの事後の経緯からしても,同年5月18日の交渉打切りの不当性と一方的交渉打切りに抗議し交渉再開を求める上記争議行為の原因・動機の相当性は明らかである。
(オ) 昭和51年11月20日の争議行為(番号8)について
前記(エ)で述べた交渉再開の確認の後,北教組は,被控訴人の振興課長との間で,昭和51年7月1日から同年9月10日にかけて課長交渉を行った。ところが,同課長の説明は重要事項について二転三転し,あるいは疑問点が解明されないままであって,同課長から,今後は振興部長との問で交渉してほしいとの申入れがあったため,課長交渉を継続する事項と部長交渉において問題とする事項を分けて交渉を行うこととした。しかし,その後課長交渉は行われず,同月13日から同年10月30日まで部長交渉が行われた。
課長交渉及び部長交渉における交渉内容については,①主任等の性格について,主任は上司か,主任は職務命令を発し得るか,主任が職に当たるか否か等の問題につき,交渉中に回答が二転三転したり,F教育長が同年5月時点で回答した内容との食い違いがあり,②教務主任について,職務の範囲が膨大であり実務上不可能であること,生徒指導主事等の他の主任と職務が競合するとも解されること,③特に,3学級4定員等の小規模校に画一的に制度化主任を配置した場合に現実の学校運営に支障を来すのではないか,④寮務主任と舎監との職内容の異同,⑤障害児学校における学部主事と他の主任との関係等の疑問点につき,十分な回答がなされず,⑥各主任の任務に関する学校管理規則の規定の仕方について,文言の違いや同一文言の意味の違い等の疑問があり,⑦各学校で自主的に定めている主任との関係,人事異動への影響等の疑問点があるなど,解決すべき疑問点が多数残っていたにもかかわらず,振興部長は,同月22日ころから教育長交渉を要求し,同年11月12日には,予備交渉をF教育長と直接行ってほしいなどと述べ,同教育長は,主任手当については交渉事項にはできないとした上,翌同月13日に2点の問題点につき回答して交渉を打ち切りたいとの態度を示した。そこで,北教組は,振興部長との間で主任手当について交渉することを確認した上,①主任等の命課基準と命課方法,②PTAは教諭の本務か否か,③校長は教育内容,方法に命令が出せるか,④主任等は上司である旨の従来の見解と上下関係にはない旨の交渉における教育長見解との矛盾を通達や指導上どう整理するのかの4点については,教育長交渉で扱うべきであると主張した。
ところが,F教育長は,同月13日,主任制度について円満実施の保障があれば交渉に応じるが,そうでなければ交渉を打ち切るとの態度を示し,北教組が反対すると,一方的に交渉を打ち切った。北教組は,不当な交渉打切りに抗議し,主任制度化交渉の再開を求めて同月20日の争議行為を実施した。以上の経緯から,同月13日のF教育長の再度の交渉打切りが不当であり,これに抗議し主任制度化交渉の再開を求める上記争議行為の原因・動機が相当であることは明らかである。
(カ) 支部・支会単位の争議行為について
支部・支会単位の争議行為が行われた各市町村の教育委員会は,いずれも,北教組の各支会との間で,学校管理規則改正を各支会との交渉によって行い,一方的に行うことはしない旨確認するなどしていたにもかかわらず,被控訴人が昭和51年11月30日に市町村学校管理規則を改正するよう指導した後,各支会と交渉を尽くすことなく,密かに教育委員会を開催して学校管理規則改正を行った。この改正は,専ら上からの行政指導に基づくもので,子どもの学習権の保障ないし教育の地方自治の原則はなおざりにされた。よって,上記各争議行為は,いずれも,各市町村教育委員会の背信的行為に起因するものであるし,子どもの学習権の保障を擁護するものであり,しかも,いったん改正された同規則は,いずれもその後撤回されるに至っていることに照らすと,上記各争議行為に参加したことを根拠に懲戒処分をすることは許されないというべきである。
① 奈井江支会(控訴人番号63について)
奈井江町教育委員会のG教育長は,奈井江支会に対し,従前の交渉において,学校管理規則改正は交渉によって行い,一方的には行わない,主任制にかかわる道教委通達の作動は一時凍結する旨確認しており,昭和51年11月に被控訴人と北教組の交渉が打ち切られた際には,同月26日に交渉再開の要望書を提出していた。ところが,同教育長は,支会との交渉も行わないまま同月30日に同規則を改正し,翌日の同年12月1日に同支会にその旨連絡したため,同支会は,教育委員会の背信的かつ反教育的やり方に抗議し,規則改正の白紙撤回を求めて同月2日午後3時以降ストライキを実施した。しかし,教育委員会はこれに対して誠実な態度をとらなかったので,ストライキは同月3日も継続せざるを得ないことになった。同月4日になって,教育委員会が改正規則の凍結及び凍結解除の際には支会と交渉することを確約したので紛争は一応の決着をみた。
② 北支会(控訴人番号59について)
北村教育委員会のH教育長は,北支会との間で,昭和51年11月11日から主任制度化に関する学校管理規則改正について交渉し,同年12月2日,同規則改正については,誠意をもって交渉し,一方的に実施しない旨を文書で確認した。それにもかかわらず同教育長は,支会との協議や交渉を行うことなく,同月15日に同規則を改正し,その後支会に通知した。そのため,北支会は,規則改正に抗議し,午後3時以降のストライキを実施した。教育委員会は翌日未明までに規則改正の白紙撤回を決めた。
③ 月形支会(控訴人番号62について)
月形町教育委員会のI教育長は,昭和51年5月,月形支会との交渉において,現段階では主任制については白紙である旨回答し,その後も学校管理規則改正について同支会と十分に話し合うとしており,同年12月1日の交渉においては,当日は同規則改正のための教育委員会を開催しないとしていた。ところが,同教育長は,同日の交渉直後,教育委員会を開催して同規則を改正し,それを同支会に知らせないまま,同月15日に公布した。そのため,同支会は,教育委員会の背信的行為に抗議し,規則改正の白紙撤回を求め,同日午後3時以降ストライキを実施した。さらに,これに対する教育委員会の対応が遅延し,規則改正の撤回を決めたのが同月16日午後になったため,支会は同月16日午前半日もストライキを実施せざるを得なかった。
④ 栗沢支会(控訴人番号61について)
栗沢町教育委員会のJ教育長は,栗沢支会との間で,昭和51年12月13日,主任制度化に関わる学校管理規則改正については誠意を持って交渉し,一方的には実施しない旨確認していた。それにもかかわらず,同教育長は,南空知管内の教育長の申し合わせに基づいて規則改正を強行した。同教育長は,支会から確認違反について厳重抗議と規則改正の白紙撤回を求められても翌同月16日午前中までには決断ができなかった。それで,同支会は,同月16日午前半日のストライキを実施せざるを得なかった。
⑤ 由仁支会(控訴人番号60について)
由仁町教育委員会のK教育長は,由仁支会との間で,昭和51年12月2日,主任制度化に関する学校管理規則について交渉し,一方的に同規則改正を実施することはない旨を文書で確認した。しかしながら,同教育長は,同月15日,抜き打ち的に同規則改正を行ったため,同支会は,教育委員会の確認違反に厳重抗議し,規則改正の白紙撤回を求めた。しかし,教育委員会がこれに応じないので,翌同月16日始業時から3時間のストライキを実施せざるを得なかった。そのため,同教育長は,同規則改正を白紙撤回する旨を文書で確認した。
⑥ 芦別支会(控訴人番号64について)
芦別市教育委員会のL教育長は,芦別支会との間で,昭和51年5月25日,主任制度化の学校管理規則改正については支会と十分誠意を持って話し合い,一方的に実施しない旨を文書で確認し,同年12月10日にも,同旨の内容を再度確認していた。しかしながら,同教育長は,中空知9市町村教育長会議の申し合わせにより冬休み中に学校管理規則改正を強行しようとしていたので,同支会は同月23日に冬休み中に一方的に規則改正をしないように求めた。これに対し同教育長は,明確な回答を避け,規則改正を強行するかも知れないとの態度を示した。それで,同支会は同月24日午後からストライキを行った。同日夕刻に教育委員会は,冬休み中に規則改正はしないとの回答をした。
⑦ 滝川支会(控訴人番号65について)
滝川市教育委員会のM教育長は,滝川支会との間で,昭和51年11月末,一方的な学校管理規則改正をしない旨を文書で確認し,同年12月16日にも同様の確認をしながら,同月25日に同規則を改正しようとし,同支会がストライキを構えたため改正を取りやめた。その後,同教育長は,昭和52年1月25日の支会との交渉において規則改正についての話し合いを継続すると回答しておきながら,同月27日開催の教育委員会において規則改正を突然議題にのせ,同委員会の議決を得て,これの公布を同年2月1日まで控えていた。ところが,支会は同年1月31日に規則改正の議決を知り,直ちに教育長に確認を求めた。同教育長は,最初は,議決していない,交渉は継続すると答えたが,その後,議決したともしないとも言えない,発表する時期でないと回答を変えた。支会は,同教育長の背信的態度に抗議し,改正規則の白紙撤回を求め,教育委員会が応じない場合には2月1日午後3時からストライキを実施すると通告した。教育委員会は,同月2日夕方に至ってようやく規則改正の白紙撤回を教育委員会で再議すると回答したため,その間の同月1日午後3時以降及び同月2日午後半日のストライキを実施せざるを得ないことになった。
⑧ 深川支会(控訴人番号66について)
深川市教育委員会のN教育長は,深川支会との間で,昭和51年12月上旬から交渉を行い,学校管理規則改正については十分話し合う旨確認しており,同月25日に同規則を改正しようとした際には同支会から抗議を受け,一方的には改正しない旨を再度確認していた。それにもかかわらず,同教育長は,昭和52年1月31日に同規則を改正し,その後に支会に通知をした。支会は,教育委員会の背信的態度に抗議し,改正規則の白紙撤回を求めた。しかし,教育委員会はこれに応じず,交渉が長引き同年2月2日午後3時以降ストライキを実施せざるを得なかった。教育委員会は,同月3日になってようやく改正規則の施行期日を白紙とし,施行の際には支会と話合いを行うと回答した。」
(15) 原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点及びこれに対する当事者双方の主張の概要」の「(4) 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(原告らの主張)」の「ク 本件各争議行為に至る具体的な経緯等」の「(ク) 昭和51年4月20日(番号5),同月27日(番号6)及び昭和52年4月15日の争議行為について」を次のとおり全部改める。
「(ク) 昭和51年4月20日(番号5),同月27日(番号6)及び昭和52年4月15日の争議行為について
76春闘において,北教組が加盟する日教組などで組織した公務員共闘は,当時の狂乱物価といわれる状況の中で生活苦にあえぐ教職員など公務員労働者の切実な賃金引上げ要求にもとづいて,公務員賃金の20パーセント,3万円以上引き上げの要求を決定し,昭和51年3月中旬から政府と人事院に対して,交渉・協議を行った。しかし,政府当局は,4・20スト実施以前に公務員共闘に対して具体的回答を全く示さず,いたずらに時間を経過させて4・20ストを回避する努力をしなかった。4・20ストの後に,政府(総理府総務長官)は公務員給与に関しては官民格差を解消する立場で例年どおり勧告を行うとの人事院回答を受けて,「組合が民間や三公社五現業と同程度の給与改定を期待することは理解できる。国家公務員について給与改定が行われた場合においては,地方公務員についてもこれに準じて配慮するように自治大臣に良く話しておく」と回答した。かりに,この政府回答が4・20スト実施前に行われていれば,4・20ストは実施されなかった。4・20ストは,公務員共闘の賃金要求に対する政府の不誠実な対応に起因したものである。
4・27ストは,76春闘の賃金についての予算措置の要求と同年4月に強行実施された定期昇給12か月延伸阻止を要求したものであるところ,北海道当局は地方財政危機や自治省通達を理由にして地公四者共闘に対して4・27ストを回避するための努力をしなかった。
したがって,地公四者共闘による4・27ストの実施は,北海道当局の不誠実な対応に起因したものである。76春闘における公務員共闘の賃金要求に対する政府の不誠実な態度及び地公四者共闘の76春闘の賃金についての北海道段階の予算措置の要求と同年4月に強行実施された定期昇給12か月延伸阻止要求に対する北海道当局の不誠実な態度は,両ストの原因・動機に関わる重要な事実である。
4・20ストに至る公務員共闘に対する政府の不誠実な態度ならびに4・27ストに至る地公四者共闘に対する北海道当局の不誠実な態度は,いずれも労使関係における誠実交渉義務に反するもので,両ストに対する各懲戒処分についての懲戒権濫用判断にあたって,考慮されるべき最大の要因である。
また,昭和52年の春闘当時も,賃金が消費者物価の上昇に追いつかないため,マイナスとなり,週休二日制が定着しないなど,公務員の長時間労働と生活苦が続いていた。公務員共闘は,当時の労働者の生活実態と組合員の要求とを踏まえて昭和52年度の賃金引き上げ要求を春闘共闘の統一要求として,引き上げ額2万6000円,引き上げ率16パーセントと決定した。
公務員共闘は,77春闘の賃金引き上げその他の要求に対する総理府の回答を求めていたところ,総理府は昭和52年3月31日に①給与改定は人勧を待って努力する。②早期支給については最大限努力する。③現段階ではこれ以上回答できない,と回答しただけで,同年4月15日当時はあくまで公務員賃金抑制の姿勢を崩さずに,具体的な回答を示さないままであった。
また,政府は,公労協に対して,同年4月15日までに公共企業体等職員の賃金引き上げについて回答を示さずにいたずらに時間を経過させていた。このような政府の不誠実な対応と春闘情勢全体を考慮して,公労協および公務員共闘は,政府の回答を引き出すため春闘共闘の統一ストに合わせて同月15日を第1波スト,同月20日から第2波ストをそれぞれ実施することに決定し,同月15日には,日教組・北教組は,自治労,全水道,都市交などとともに本件4・15ストを実施した。また,政府は,同年4月15日には公労協の国労,全逓,全電通,全専売に対して賃金引上げ回答を示さずいたずらに時間を経過させた。政府は,公労協が同月20日にストを配置する中で,同日のスト実施直前になって,賃金引き上げを内容とする公労委調停を成立させた。同日,政府は,公務員共闘に対し公務員の給与について民間および公労協と3公社5現業と同程度の人事院勧告に基づく改定を期待する旨の回答を行った。そして,人事院も,同日,公務員共闘に対し,77春闘の民間相場を反映した公務員の給与改定に努力するとの回答を示した。
以上の経過から明らかなように,政府が同年4月15日のスト実施前に上記のような賃金引き上げ回答を行っていれば,4・15ストは実施されなかったのである。4・15ストは,政府が同月15日までに春闘共闘会議に対して賃金引き上げ回答を出さない不誠実な態度に起因したものである。政府の不誠実な交渉態度は,労使関係における誠実交渉義務に反するものであり,4・15ストに対する懲戒処分についての懲戒権濫用判断にあたって,考慮されるべき最大の要因である。」
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(原告らの行為が地公法37条1項,29条1項所定の懲戒事由に該当するか否か。)について
当裁判所も,控訴人番号1ないし10の控訴人らは,北教組の本部中央執行委員等の立場で,別紙懲戒処分一覧表1及び2の「関与した争議行為」欄記載の争議行為を指導等しており,同人らには地公法37条1項後段に該当する事由が認められ,控訴人番号11ないし13の控訴人らは,同じく本部中央執行委員として,別紙懲戒処分一覧表1の「関与した争議行為」欄記載の争議行為を指導等したほか,別紙懲戒処分一覧表3の「関与した争議行為」欄記載の争議行為に一般組合員として参加しており,同人らには地公法37条1項後段・前段に該当する事由が認められ,控訴人番号15ないし85の控訴人らは,北教組の一般組合員として,別紙懲戒処分一覧表3の「関与した争議行為」欄記載の争議行為に参加し,同人らには地公法37条1項前段に該当する事由が認められ,被処分者Cについては,別紙懲戒処分一覧表2の「関与した争議行為」欄記載の争議行為につき,これを実施することを決定する北教組大会の議長を務めるとともに,この決定に基づいて北教組室蘭市支部支部長として同支部所属の組合員を指導して同争議行為に参加させており,同人には地公法37条1項後段の事由が認められ,本件各争議行為における控訴人らの上記各行為は,地公法37条1項,29条1号所定の懲戒事由に該当することとなると考える。その理由は,原判決書48頁12行目から66頁21行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点(2)(地公法37条1項が憲法28条に違反するか否か)について
地方公務員も,勤労者として,自己の労務を提供することにより生活のための資金を得ている点で私企業の労働者と変わるところはなく,労働者の経済的地位の向上を目的とする憲法28条の労働基本権の保障は地方公務員にも及ぶが,その地位の特殊性や職務の公共性からして,その労働基本権に関しては,私企業の労働者と異なる必要やむを得ない程度の制限を受けると解される。
地公法は,一部の職種を除き,地方公務員に対して,職員団体を組織する権利を認めて団結権を保障し(地公法52条),職員団体に対し,勤務条件に関して,地方公共団体当局と協約を結ぶことは認めていないが,交渉を行うことは認め,限定的ながらも団体交渉権も保障するが(同法55条1項,2項),同盟罷業等を行う争議権は全面的に否定している(同法37条1項)。上記労働基本権の制限は,地方公務員の地位の特殊性や職務の公共性からして,やむを得ない程度の制限ということができ,特に争議権については,その行使によって公務が停廃し住民等の共同利益が害され又は害されるおそれがあることからも,その一律制限はやむを得ない制限と認められる。また,財政民主主義に基づき地方公務員の勤務条件は住民の意思を反映する条例で定めるとされている(同法24条6項)ことからして,団体交渉により勤務条件を定めその裏付けとして争議権を与えるという私企業の労働者への労働基本権保障の前提は,地方公務員にはそのまま当てはまらないことからも,上記程度の制限は是認されると解される。
かかる制限を加える代償措置として,地公法は,以下に述べる制度をはじめとして,地方公務員の勤務条件の適正を確保するため,種々の制度を設けている。すなわち,地公法は,職員の勤務条件を社会一般の情勢に適応させる措置を講ずべき義務を地方公共団体に課している(同法14条1項)。そして,その制度的保障として,一定規模以上の地方公共団体には人事委員会を置くこととし(同法7条),人事委員会は,勤務条件に関する研究を行い,その成果を地方公共団体の長等へ提出することとされ(同法8条),特に給与に関しては,給料表の相当性につき報告又は勧告をする権限が認められている(同法26条)。そして,職員は,勤務条件に関し,人事委員会又は一定規模以下の地方公共団体に置かれる公平委員会(同法7条)に対し,地方公共団体当局により適当な措置が執られるべきことを要求することが認められており(同法46条),人事委員会又は公平委員会は,審査の結果,地方公共団体の機関に対し必要な勧告をすることが義務付けられている(同法47条)。なお,公平委員会には,人事委員会に認められているような独自の給与に関する勧告権限はないが,実際上近隣地方公共団体の人事委員会勧告に準拠した給与決定が行われると認められ,これと著しく反する給与決定がなされた場合には,措置要求に基づく勧告がなされると考えられる。
以上のような代償措置が機能する限り,地方公共団体職員の勤務条件の適正さは相当程度担保されているということができ,地方公務員に対する前記労働基本権制限は憲法28条に違反しないと解される。なお,本件全証拠によるも,本件各争議行為が行われた当時,控訴人らの勤務条件に関し,人事委員会又は公平委員会による勧告等の前記各権限が機能していなかったとは認められない。
最高裁判所(大法廷)は,昭和51年5月21日,地公法37条1項が合憲であることを判示する上記と同旨の判決をし(刑集30巻5号1178頁),これと前後して,非現業国家公務員の争議行為を一律禁止した当時の国家公務員法98条5項が合憲であることを判示し(昭和48年4月25日・刑集27巻4号547頁),現業国家公務員の争議行為を一律全面禁止した当時の公共企業体等労働関係法17条1項が合憲であることも判示した(昭和52年5月4日・刑集31巻3号182頁)。その後も最高裁判所は,繰り返し同旨の判決をしており(その一例として,最高裁判所平成12年12月15日第2小法廷判決・平成12年(行ツ)第186号),公務員の争議行為を一律禁止する法律が合憲であることは,最高裁判所の確立した判例となって現在に至っている。
以上によれば,地公法37条1項が憲法28条に違反するとの控訴人らの主張は採用できない。
3 争点(3)(地公法37条1項が,ILO87号条約3条,10条,8条に違反し,ひいては憲法98条2項に違反するか否か。)について
控訴人らは,ILO87号条約が公務員を含む労働者の争議権を保障しており,地公法37条1項はこれに違反する旨主張する。
しかしながら,ILO87号条約は,その標題からも明らかなように,結社の自由及び団結権の保護を目的とした条約であって,同条約中には争議権を保障する旨の明文の規定が存在しないことは控訴人らも認めるところである。同条約3条1項,10条により争議権が保障されている旨控訴人らは主張するが,その文言自体からその趣旨は読みとれない。控訴人らは,ILOの専門家委員会や結社の自由委員会が,争議権は同条約3条1項及び10条に内在する権利であると解釈しており,同解釈は法源性を有する旨主張するが,それが批准された条約と同等に国内法規としての効力を有するものとは認められない(最高裁判所昭和44年4月2日大法廷判決・刑集23巻5号305頁,同平成12年3月17日第2小法廷判決・平成7年(行ツ)第132号各参照)。
よって,地公法37条1項がILO87号条約及び憲法98条2項に違反するとの控訴人らの主張には理由がない。
4 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について
(1) 本争点に関して,当裁判所が前提とする事実は,本件各争議行為に至る経緯及びその結果につき前記認定した事実(原判決書48頁12行目から65頁8行目まで)に加え,原判決書「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「4 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(1)」(原判決書72頁3行目から79頁4行目まで)に記載のとおりであるから,これらを引用する。なお,原判決書に記載のある各別紙は,本判決書添付の対応する各別紙と読み替える。
(2) 懲戒権濫用該当判断の基準
当裁判所も,地方公務員に対する懲戒処分は懲戒権者の裁量に委ねられており,当該処分が社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる限り違法であると考えるが,その理由とするところは,原判決書80頁5行目の次に行を改めて次のとおり加入するほか,原判決書「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「4 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(2)」の「ア」(原判決書79頁5行目から80頁16行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
「 控訴人らは,労働基本権の制約違反に伴う不利益処分は必要最小限度に止められるべきであり,本件各争議行為を理由とする懲戒処分については懲戒権者の裁量に委ねられるべきではない旨主張する。
しかしながら,前述したように,争議行為の一律禁止を定めた地公法37条1項は憲法28条に違反するものではないから,地方公共団体の職員が争議行為を行った場合には,他の地公法違反行為の場合と同様当然に懲戒処分(同法29条1項1号)の対象となるのであり,争議行為を行ったことが認定された以上,これに対する懲戒処分の選択のみが他の地公法違反と異なる司法審査基準に服するとの控訴人らの主張は採用できない。」
(3) 第1の懲戒処分について
ア 争議行為の原因,動機等について
(ア) 昭和50年12月5日の争議行為(別紙争議行為一覧表1の番号1)
上記争議行為実施の原因につき,控訴人らは,被控訴人が,「道財政の悪化」を理由に,賃金に関する控訴人らの既得権を剥奪する昭和50年11月の被控訴人提案を北教組に対して行い,その必要性について具体的説明をせず,十分に交渉せずに交渉を打ち切り議会に提案しようとしたので,これを阻止するために争議行為を実施せざるを得なかった旨主張する。
ところで,昭和50年11月の被控訴人の提案は,①特別昇給の停止,②普通昇給期間の12か月延伸,③運用昇給短縮措置の廃止,④初任給2号俸上積み措置の廃止等を内容とするものである。
職員の給与は,条例に基づいて支給されなければならず,昇給の基準に関する事項は条例により定めるものとされている(地公法24条6項,25条1項,同条3項2号)。北海道の条例によれば,12月を下らない期間良好な成績で勤務した職員は1号俸上位の号俸に昇給させることができる(いわゆる普通昇給)とされているが,職員がその要件を満たしたからといって,普通昇給させるかどうかは,当然のことながら予算上の制約に服し,また,財政状況にかんがみ上記期間を延伸させることもできると解され,職員が上記一定期間経過後に当然に普通昇給を要求できる権利を認められているわけではない(その意味で普通昇給を定期昇給と呼ぶのは正確でない。なお,最高裁判所昭和55年7月10日第1小法廷判決・裁判集民事130号193頁参照)。
特別昇給は,勤務成績が特に良好である職員につき普通昇給の基準を超えて昇給させる制度であり,通常の成績の全職員に対して,一定期間ごとに特別昇給を受けることを権利として保障しているものではない。被控訴人と北教組との間で,特別昇給は給与改善の一環として行うものであり,北教組との交渉を通じて客観的基準に従って行う旨確認がされ(甲2),これまで全職員のうち15%の者が毎年順番に特別昇給を受けてきていたが(甲22),かかる運用は上記特別昇給の趣旨に反する違法な運用であったというべきである。
運用昇給短縮措置とは,前記認定のとおり,等級の違いによる給与の格差を是正するために昇給期間を短縮する措置であり,それまで被控訴人と北教組との間の確認に従って運用されてきていたが,かかる運用も,普通昇給としては,条例で定める昇給期間に反し違法であるし,特別昇給としても,勤務成績の判定なしに昇給させることとなり違法な運用であったというべきである。
初任給は,当該職員の学歴や前歴の経験年数等に応じて,条例等の基準に基づき客観的に決定されるべきものであって,これによって定まった初任給を一律2号俸上積みする措置は,上記条例等に違反する違法な措置であったというべきである。
以上によれば,控訴人らが既得権剥奪と主張する被控訴人による前記①,③及び④の提案は,いずれも勤務条件条例決定の原則(地公法24条6項)に違反する運用を廃止する提案であるから,その阻止を目的とする争議行為については,その余の点について判断するまでもなく,原因・動機において斟酌すべき事情は認められないというほかない。
これに対し,前記②の普通昇給期間の延伸については,これまで一定期間経過毎に機械的に行われてきた普通昇給を,個々の職員の勤務成績の有無にかかわらず一律12か月延伸するものであり,職員に事実上大きな経済的不利益をもたらす措置であるから,職員団体である北教組が被控訴人に対し説明を求めることができ,被控訴人はこれに応じて交渉すべき義務がある(地公法55条1項)。そして,実際に,被控訴人さらには北海道副知事と北教組との間で最低5,6回にわたって交渉が持たれ,被控訴人側は,道税の減収が見込まれ,いろいろやりくりをしても相当額の予算不足が生じるので,教職員を含む北海道職員の協力を得たい旨説明している(甲22)。他方,北教組は,前記認定のとおり,昭和50年11月28日開催の全道戦術会議において,既得権剥奪阻止を闘争方針として決定し,同年12月5日の第1波午前半日,同月8日の第2波午前半日のストライキを予め決めて被控訴人側との交渉に臨んでいる。かかる状況のもと,被控訴人側は,第1波のストライキの前日である同月4日深夜まで交渉したが,普通昇給の12か月延伸阻止を譲らない北教組とこれ以上交渉の余地はないとして交渉を打ち切っている。以上の交渉経緯に加えて,前記のとおり,職員には定期の普通昇給を求める権利がないことも併せ考慮するならば,被控訴人の上記交渉態度及び交渉の打切りを誠実交渉義務違反とまで評価することはできないというべきである。
なお,普通昇給期間の12か月延伸により,職員が相当程度の経済的損失を受けることは前記認定のとおりであるが,これによって,直ちに個々の職員の生活が著しく困難になるとか,同一地域の他の労働者に比較してその給与水準が著しく低くなるとまでは認められない。
以上によれば,控訴人らの上記争議行為が普通昇給期間延伸阻止の目的で行われた点に関しても,その原因・動機に斟酌すべき事情があるとはいえない。
(イ) 昭和50年12月10日の争議行為(別紙争議行為一覧表1の番号2)
前記認定したところによれば,上記争議行為は,当時文部省が導入しようとしていた主任制度に対し,上部団体である日教組とともにこれに強く反対する北教組が,その導入阻止を目的として全国統一行動として行った争議行為と認めることができる。
ところで,主任制度とは,前記認定したところによれば,法令によって,教諭の中に「主任」という名称の役職者を設ける制度であって,その導入は,地方公務員に関しては,地方公共団体の教育委員会が,学校の管理運営の基本的事項として,学校管理規則を改正して行うべきことである(地教行法33条1項)。職員団体が地方公共団体当局との団体交渉の対象となし得るのは,労働者の経済的地位の向上を目的とする労働基本権の性質からも,職員の給与等勤務条件に関する事項に限られ(地公法55条1項),地方公共団体の管理運営事項をその対象とすることはできない(同条3項)。主任制度の導入は,地方公共団体の機関である学校の組織に関する事項であり,各地の教育委員会がその判断と責任に基づいて決定すべき管理運営事項ということができ,本来団体交渉の対象となるべき事項ではなく,当然のことながら争議行為によってその可否が決せられるべき事項でもない。管理運営事項の処理に伴い職員の勤務条件が影響を受ける場合(主任手当の増減等)に,その勤務条件に関する事項に限り交渉の対象とはなり得るのみである。
控訴人らは,主任に命課される教員につき「連絡調整・指導助言」の職務が新たに加わること,命課されない教員も主任からの「連絡調整・指導助言」によって教育活動の方法が変更を余儀なくされることから,主任制度化は団体交渉事項である旨主張するが,それによって,当然に個々の職員の給与や勤務時間等(地公法55条1項)が影響を受ける関係にはなく,上記控訴人らの主張には理由がない。控訴人らは,さらに,主任が中間管理職と位置づけられ,事実上その非組合員化が促進されるから,主任制度化は団体交渉事項となる旨主張するが,かかる事態が発生するのかどうか自体不確実であるのみならず,仮にかかる事態が発生したとしても,それは主任制度化に必然的に随伴する事態ではなく,それ故に主任制度の導入自体が団体交渉事項となることとはならない。また,控訴人らは,ILO・ユネスコの勧告や報告に基づき,教員団体たる北教組には学校組織等につき当局と協議する権利が認められるべきである旨主張するが,かかる主張が国内法上の根拠を有するものでないことは明らかである。
以上によれば,上記争議行為は,本来団体交渉の対象となり得ない管理運営事項につき,本来の決定主体である教育委員会の意思決定に影響を及ぼすことを目的とするものであるから,その原因・動機において斟酌すべき点があるとはいえない。
(ウ) 昭和51年2月20日の争議行為(別紙争議行為一覧表1の番号3)
上記争議行為実施の原因につき,控訴人らは,被控訴人が,前記(ア)の争議行為の後いったん道議会への提案が見送られた昭和50年11月の被控訴人提案を再度提案し,今回も前回同様その必要性について具体的に説明することなくその説明責任を果たさなかったから,争議行為を実施せざるを得なかった旨主張する。
しかしながら,昭和50年11月の被控訴人提案のうち前記①,③及び④の阻止を目的とする争議行為については,原因・動機において斟酌すべき事情は認められないことは,前記(ア)で述べたとおりである。
②の普通昇給期間延伸阻止目的に関しては,前記(ア)で述べたとおり,団体交渉の対象とはなり得るところ,前記認定したところによれば,被控訴人側は,北教組と数度にわたり交渉を行い,他の提案については一部修正提案を行いながら,普通昇給期間延伸に限っては一切譲歩をしなかった。他方,北教組も,前記認定のとおり,被控訴人から再提案がなされた昭和50年1月29日の直後である同年2月3,4日に開催された定期大会において,既得権剥奪阻止を闘争方針として決定した後,同月13日のストライキを予定した上で被控訴人側との交渉に臨み,その後被控訴人側の申入れに従いストライキ予定日を同月20日に延期した後,同月19日に被控訴人側が普通昇給期間延伸以外の項目について一部修正提案をしてきたにもかかわらず,「本質的に何ら提案内容は変わりはない」(甲22)として,これを拒否して上記争議行為に及んでいる。そして,北教組は,その後も,同月25日に再度ストライキを予定した上で,被控訴人の提案を「完全撤回」(甲22)させることを目的として,被控訴人側との交渉に臨んでいる。
以上によれば,普通昇給期間の延伸について一切譲歩をしなかった被控訴人の交渉態度が頑なに過ぎる面もないとはいえないが,他方,北教組も,昭和50年11月の被控訴人提案の完全撤回がなされなければストライキを行うとの既定方針のもとで交渉に臨んでおり,職員には普通昇給を求める権利がないことも併せ考慮するならば,被控訴人側に誠実交渉義務違反があったとまで評価することはできない。なお,昇給延伸が,個々の職員の生活に重大な影響を与えるまでのものではなく,また,他の労働者に比較して給与水準を著しく劣位に置くものでもないことは,前記(ア)で述べたとおりである。
以上によれば,控訴人らの上記争議行為が普通昇給期間延伸阻止の目的で行われた点に関しても,その原因・動機に斟酌すべき事情があるとはいえない。
(エ) 昭和51年3月9日の争議行為(別紙争議行為一覧表1の番号4)
前記認定したところによれば,上記争議行為の目的は,そもそも主任制度化に反対し,主任制度化を前提に主任手当を支給することを内容とする人事院勧告を阻止することを目的とするものであると認められる。そうすると,上記争議行為は,勤務条件たる手当の当否を要求対象とするものではなく,管理運営事項たる主任制度化の阻止自体を要求対象とするものであって,前記(イ)で検討したとおり,その原因・動機において斟酌すべき点があるとはいえない。
(オ) 昭和51年4月20日の争議行為(別紙争議行為一覧表1の番号5)及び昭和51年4月27日の争議行為(別紙争議行為一覧表1の番号6)
前記認定したところによれば,上記各争議行為は,いわゆる春闘の全国統一行動の一環として賃金上昇等を求めるともに主任制度化の導入を阻止することを目的としてなされたと認められる。
主任制度化は管理運営事項であって,その導入阻止を目的とする争議行為が,その原因・動機において斟酌すべきものとはいえないことは,前記(イ)で述べたとおりである。
次に春闘の一環としての賃金上昇等の目的に関しては,前記認定したところ及び弁論の全趣旨によれば,当時はいわゆるオイルショックにより諸物価が上昇し,控訴人らを含む教職員は実質賃金の目減りにより相当厳しい生活状況にはあったが,その状況は,公務員のみならず私企業の労働者を含む国民の多くにおいて同様であったと認められる。その中でも,昭和45年度以降は,人事院勧告及び人事委員会勧告どおりの給与の引上げがなされており(弁論の全趣旨),上記争議行為が行われた昭和50年度も,最終的には,人事院は6.94パーセント(1万1014円。なお,組合側の要求額は20パーセント,3万円以上の引上げであった。)の給与引上げを勧告して勧告どおり実施され,北海道人事委員会も上記人事院勧告に準じた勧告をして同じく実施されている。以上によれば,大幅な賃金引上げ目的は,当時の職員らの厳しい生活状況を前提としても,本来違法な争議行為を正当化するまでの事情とはなり得ないというべきである。
なお,控訴人らは,昭和51年4月27日の争議行為は,北海道当局に対し,同年4月から実施された普通昇給期間の12か月延伸阻止と上記春闘と同様の賃金引上げを要求したが,当局がこれに応じなかったため実施したと主張する。上記争議行為が上記経緯で行われたかどうか不明であるが,仮に上記経緯で行われたものであったとしても,①前記(ア)で述べたとおり,職員には普通昇給の定期実施を求める権利はなく,いったん実施された上記延伸措置への反対は,本来違法な争議行為を正当化するまでの目的とは認められず,また,②賃金引上げの目的も,4月20日の争議行為に関して述べたとおり,違法な争議行為を正当化するまでの事情とは認められない。
また,控訴人らは,政府当局及び北海道当局が,組合側の前記賃金引上げ要求に対して誠実に対応しなかったことから,上記各争議行為に出ざるを得なかった旨主張する。しかしながら,証拠(甲141)によれば,日教組が政府当局に基本賃金の3万円引上げを含む春闘要求書を提出したのは昭和51年3月18日であり,その後も交渉自体は続けられており,「賃金は人勧を見守る。」と回答されていることなどからしても,同年4月20日に違法な争議行為に出たことが,誠実交渉義務違反により正当化されることとはならないというべきである。控訴人らは,同年4月27日の争議行為についても,北海道当局の誠実交渉義務違反を主張するが,要求に対してストライキを回避するための努力をしなかったというのみで,その具体的交渉経緯につき何ら主張・立証をしておらず,違法な争議行為を正当化するまでの誠実交渉義務違反が北海道当局にあったとも認められない。
(カ) 昭和51年5月19日の争議行為(別紙争議行為一覧表1の番号7)
前記認定したところによれば,上記争議行為は,主任制度化阻止を目的として行われたものであるが,主任制度の導入自体は,前記(イ)で述べたとおり,管理運営事項であって団体交渉の対象となり得ない事項であるから,上記目的で行われた違法な争議行為がその目的によって正当化されることとはならない。
なお,前記認定したところによれば,被控訴人は,昭和46年に,北教組との間で,主任制度化に当たり必要となる学校管理規則の改正については組合との交渉で行う旨の協定書(甲54)を取り交わしている。しかしながら,管理運営事項は,私企業における「経営権事項」のように使用者が任意に応ずる限り団体交渉の対象としてよい任意的団交事項ではなく,その性質上,団体交渉の対象となし得ない違法団交事項である。これらの事項は,地方公共団体当局が,法令の定めに従って自らの権限と責任において判断し処理すべき事項であって,職員団体と共同決定したり取引の用に供されてはならないことから,団体交渉の対象から外されている。もっとも,その趣旨は,当局がこれによって拘束を受けるような合意を目指す交渉を排除する趣旨であって,当局がかかる事項につき任意に職員団体と意見を交換し,その成果を同事項の適切・円滑な処理に役立てることは妨げられない。
前記認定したところによれば,被控訴人は,上記協定書(甲54)のとおり協定を締結したほか,F教育長は,主任制度化が北教組との間で懸案事項となった後,主任制度化については慎重に判断する旨述べておきながら,北教組が提示する事項についての議論が尽くされないうちに交渉を打ち切ったことが認められる。しかしながら,前記認定したところによれば,北教組は,当初から,争議行為を行ってでも主任制度化自体に強く反対する立場で被控訴人との協議に臨んでいた事実が認められ,そもそも主任制度化が職員団体との交渉の対象となしえない事項であり,教育委員会がその権限と責任により導入すべき事項であることをも考慮するならば,F教育長が昭和51年5月18日に交渉を打ち切ったことから,直ちに同月19日の争議行為に斟酌すべき事情があるということはできない。
(キ) 昭和51年11月20日の争議行為(別紙争議行為一覧表1の番号8)
前記認定したところによれば,上記争議行為は,上記(カ)の争議行為の後,市町村立学校管理規則を中心に交渉を行うことで,被控訴人と北教組との間で主任制度化に関する交渉が再開されたが,交渉が尽くされないうちに,F教育長が再び交渉を打ち切ったことが認められる。
しかしながら,(カ)と同様,そもそも主任制度化は管理運営事項であるから交渉の対象となし得ないこと,被控訴人が北教組とその導入につき意見を交換していたとしても被控訴人がそれによって交渉を義務付けられることはないこと,そして,前記認定したところによれば,この時点においても,北教組の交渉に臨む態度が,主任制度化自体を拒否する姿勢で貫かれていたことからすれば,上記争議行為の原因・動機において,本来違法な争議行為を正当化する事情は認められないというべきである。
イ 争議行為の態様,結果,影響等については,原判決書「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「4 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(2)」の「イ」の「(イ)」(原判決書85頁13行目から86頁2行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
ウ 当裁判所も,第1の懲戒処分が裁量権を濫用しているとはいえないと考えるが,その理由は,原判決書86頁17行目から87頁1行目までを次のとおり訂正するほか,原判決書「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「4 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(2)」の「イ」の「(ウ)」記載のとおりであるから,これを引用する。
「 以上述べたとおり,①争議行為の原因又は動機において,違法な争議行為を正当化し懲戒権濫用との評価をもたらすまでの斟酌すべき事情は認められないこと,②争議行為の影響,結果も決して軽微なものとはいえないこと,③処分内容も,各控訴人らの役割に応じたものであり,処分者間及び過去の処分例との均衡上も不相当なものとはいえないことにかんがみるならば,第1の懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠き裁量権を濫用しているということはできない。」
(4) 第2の懲戒処分について
ア 争議行為の原因,動機等について
(ア) 支部・支会単位の争議行為について(別紙争議行為一覧表2)
前記認定したところによれば,上記支部・支会単位の争議行為は,いずれも,主任制度化を巡る各市町村教育委員会と北教組支部・支会との交渉において,各教育長が学校管理規則改正は一方的に行わないと約束していながら,その約束の後短期間でこれに反して同改正を行ったため,その白紙撤回を求めてなされたものと認められる。
上記市町村教育委員会の中には,改正しないと約束をしたその日のうちに改正を行ったところもあり,争議行為に出た心情に理解できない点がないわけではない。しかしながら,前述のとおり,そもそも主任制度化は管理運営事項であるから交渉の対象となし得ないこと,各市町村教育委員会が各対応する支部・支会に対し,一方的導入はしないと約束していたとしても,被控訴人がそれによって交渉を義務付けられることはないこと,この時点においても,北教組の交渉に臨む態度は主任制度化自体を拒否する姿勢で貫かれており,支部・支会の交渉に臨む姿勢も同様のものであったと推認されることからすれば,上記争議行為の原因・動機が,本来違法な争議行為を正当化するまでの事情とは認められない。
(イ) 昭和52年2月17日の争議行為について(別紙争議行為一覧表3上段)
前記認定したところによれば,上記争議行為は,①前記(3)ア(ア)及び(ウ)の経過を経て実施された普通昇給期間12か月延伸措置の中止・復元するとともにこれにより既に被った実損害を回復すること,及び②前記(3)ア(カ)の昭和51年5月19日の争議行為に対する懲戒処分阻止を目的とするものと認められる。
上記①については,前記(3)ア(オ)で述べたとおり,職員には普通昇給の定期実施を求める権利はなく,いったん実施された上記延伸措置への反対は,本来違法な争議行為を正当化するまでの目的とは認められない。
上記②については,前記認定したところによれば,当時被控訴人が上記懲戒処分の準備を進めていたことは認められるが,前記(3)ア(カ)で述べたとおり,主任制度化阻止を目的とする昭和51年5月19日の争議行為については,その動機・原因において斟酌すべき事情は認められず,これに基づく懲戒処分が懲戒権濫用に該当するとはいえなかったのであるから,その処分阻止を目的とする争議行為について,その原因・動機に斟酌すべき点があるともいえない。
(ウ) 昭和52年4月15日の争議行為について(別紙争議行為一覧表3下段)
前記認定したところによれば,上記争議行為は,いわゆる春闘の全国統一行動の一環として賃金上昇等を求める目的で行われたと認められる。
前記認定したところによれば,上記争議行為当時も,消費者物価の高騰により実質賃金がマイナスに転じる状況にあり,多くの職員の生活が厳しい状況に置かれていたとは認められる。しかし,これは公務員のみならず,多くの国民が味わっていた苦境であり,その中でも,人事院勧告に基づき,公務員の給与は,3万円以上という労働者の要求額には及ばないものの,昭和50年には1万5177円,昭和51年には1万1041円,昭和52年には1万2005円と,引き上げられていたと認められる。
以上によれば,上記争議行為における大幅な賃金引上げ目的は,当時の職員らの厳しい生活状況を前提としても,前記(3)ア(オ)同様,本来違法な争議行為を正当化するまでの事情とはなり得ないというべきである。
なお,控訴人らは,政府当局が,組合側の賃上要求に対して具体的な回答を示さないなど誠実に対応しなかったことから,上記争議行為に出ざるを得なかった旨主張する。
しかしながら,証拠(甲143)によれば,公務員共闘が昭和52年3月1日に政府当局に要求書を提出した後,政府当局との交渉が重ねられ,当局側からは,人事院勧告を待って努力する等の回答がなされ,人事院からも,民間動向,生活実態を反映した勧告を行う旨の態度表明があったことが認められ,同年4月15日に違法な争議行為に出たことが,誠実交渉義務違反により正当化されることとはならないというべきである。
イ 争議行為の態様,結果,影響等については,原判決書「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「4 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(2)」の「ウ」の「(イ)」(原判決書88頁5行目から89頁7行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
ウ 当裁判所も,第2の懲戒処分が懲戒権の濫用には当たらないと考えるが,その理由は,次のとおり加入,削除,訂正するほか,原判決書「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「4 争点(4)(本件各懲戒処分が懲戒権の濫用に当たるか否か)について」の「(2)」の「ウ」の「(ウ)」(原判決書89頁8行目から91頁8行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(ア) 原判決書89頁12行目の「参加者の規模においては」の前に次のとおり加入する。
「争議行為の実施時間と授業時間が重なっていない部分についても,授業以外の勤務がなされないことによる学校運営への影響が存在することは優に推認することができ,授業自体への影響がなかったことを過大に評価するのは相当でなく,」
(イ) 原判決書89頁21行目の「(ア)b,c」を削除する。
(ウ) 原判決書90頁9行目の「前記(ウ)のとおり,」から12行目の「昭和52年の」までを次のとおり改める。
「証拠(甲99の別表)によれば,昭和41年,42年及び44年には幹部以外の一般参加者も処分の対象となっているが,昭和47年以降昭和51年までは一般参加者に対しては処分はなされていないことが認められ,かかる従前の処分例からすれば,本件のような広範な処分の相当性が一応問題となり得るが,前記のとおり,別紙争議行為一覧表2及び3の」
(エ) 原判決書90頁22行目から91頁5行目までを削除し,90頁21行目の次に行を改めて次のとおり加入する。
「 控訴人らは,最も軽い戒告の処分を受けた場合でも,運用により,普通昇給の要件である「良好な成績で勤務したとき」に当たらないとされて,「定期昇給延伸」の取扱いを受けるから,実質的には過酷な処分というべきである旨主張する。
しかしながら,前記(3)ア(ア)で述べたとおり,職員には一定期間経過後普通昇給を受ける権利があるわけではなく,普通昇給期間延伸は懲戒処分である戒告処分そのものによる不利益ではないから,懲戒処分の相当性を判断する上でこれを考慮するのは相当でない。なお,違法な争議行為に参加したことにより戒告処分を受けたことは,「良好な成績で勤務した」という普通昇給の要件と相容れない行為であるから,これにより普通昇給期間を延伸すること自体にも問題はない。」
5 なお,控訴理由にかんがみ,必要な限度で付言する。
(1) 控訴人らは,昭和52年の争議行為(別紙争議行為一覧表3)に関して,被控訴人が市町村教育委員会に対して処分内申するよう指導したにもかかわらず,処分内申に応じなかったり,処分内申はしたが寛大な処分を求めるとの意見を付した市町村があり,昭和52年争議行為に対する懲戒処分はこれらを無視した点で相当でない旨主張する。
市町村立学校の教職員につき,地教行法38条及び39条は,懲戒処分に関し,まず所属学校長が市町村教育委員会に対して意見の申し出を行い,次いで市町村教育委員会が都道府県教育委員会に処分内申を行って,都道府県教育委員会は処分内申を待って懲戒処分についての判断を行う旨定めている。そして,前記認定のとおり,複数の市町村教育委員会が,被控訴人への処分内申に当たり,寛大な処分や酌量等を求める意見を付しており,また,処分内申をしなかった市があったことも事実である。
制度上処分内申がない以上処分をなし得ないことは明らかであるが,処分内申があれば,前述のとおり,被控訴人としてはその責任においてその裁量判断により懲戒処分の可否及び処分内容を決し得るのであり,市町村教育委員会が内申に付した意見を参考にはし得るが,これに制度上拘束されることはないと解される。そして,前記認定の市町村教育委員会の意見は,いずれも,被控訴人が考慮の上で第2の懲戒処分を行ったと認められ,また,前述のとおり,その判断が懲戒権を濫用したとは認められない。よって,この点に関する控訴人らの主張には理由がない。
(2) また,控訴人らは,昭和52年の争議行為は地公四者共闘の統一ストライキであるが,他の組合で懲戒処分を受けたのは幹部職員のみであり,一般参加者を含む全員処分を受けたのは北教組だけであって,著しく不均衡である旨主張する。
しかしながら,懲戒処分は,前述のとおり,懲戒権者がその権限と責任に基づき,その裁量により独自に判断して決すべき問題であり,その裁量判断自体に濫用等の瑕疵がない以上,同一の対象行為に対する異なる懲戒権者の判断と異なることのみから,懲戒権を濫用したものとはならないことは明らかである。
第4結論
以上によれば,被控訴人が控訴人らに対してなした本件各懲戒処分はいずれも適法であるから,控訴人らの請求にはいずれも理由がない。よって,本件控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 末永進 裁判官 古閑裕二 裁判官 住友隆行)
file_2.jpg別紙