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札幌高等裁判所 平成19年(行コ)3号 判決 2007年7月20日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  第1事件被控訴人が平成16年5月17日付けで控訴人に対してした別紙物件目録記載の土地及び建物に関する固定資産税及び都市計画税の減免申請を不許可とする処分を取り消す。

3  第2事件処分行政庁である旭川市長が平成17年6月1日付けで控訴人に対してした別紙物件目録記載の土地及び建物に関する固定資産税及び都市計画税の減免申請を不許可とする処分を取り消す。

4  第3事件処分行政庁である旭川市長が平成18年6月14日付けで控訴人に対してした別紙物件目録記載の土地及び建物に関する固定資産税及び都市計画税の減免申請を不許可とする処分を取り消す。

5  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,控訴人が,登記簿上の所有名義を有する不動産について,平成16年度ないし平成18年度の各固定資産税の減免申請を旭川市長(第1事件被控訴人,第2・第3事件処分行政庁。以下「被控訴人市長」という。)にしたところ,被控訴人市長がこれらにつきいずれも不許可とする処分をしたため,被控訴人ら(第1事件につき被控訴人市長,第2・第3事件については旭川市(以下「被控訴人市」という。)に対し,上記各処分が違法であるとして,その取消しを求めた事案である。

原審が控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人は,控訴の趣旨記載の裁判を求めて控訴した。なお,第1事件ないし第3事件は当初別個に提訴されたが,原審において併合された上で原判決がなされた。

2  関係法令等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 関係法令等の定め」,「3 当事者間に争いのない事実」,「4 本件の争点」及び「5 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人の本件請求はいずれも棄却するべきであり,本件控訴は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり,訂正,加入,削除するほか,原判決書「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「1 本件不動産の使用実態について」及び「2 本件各処分について裁量権の逸脱又は濫用があるか否かについて」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決16頁9行目の「(各項表題に掲記のもの)」を「(各項表題に掲記のもの。ただし,甲第13号証及び証人Aの証言のうち,後記認定に反する部分を除く。)」に改める。

(2)  原判決16頁12行目の「(甲5,6,13,14,証人A)」を「(甲5,6,12,13,14,証人A)」に改める。

(3)  原判決17頁12行目から同頁13行目の「(甲11の1から11の12まで,13,乙11,証人B,証人A)」を「(甲11の1ないし12,12,13,乙11,証人B,証人A)」と改める。

(4)  原判決18頁8行目の「ことがあるほか,」の次に「在日外国人高齢者福祉給付金の支給手続の申請支援も取り扱われ,また,」を加える。

(5)  原判決18頁15行目冒頭から同頁16行目末尾までを削除する。

(6)  原判決19頁22行目の「(6) 平成15年以降の状況の変化について」の次に「(乙11,12,14,16)」を加える。

(7)  原判決22頁20行目の「記載された」の次に「(甲1の1)。」を加える。

(8)  原判決24頁4行目の「被告市(読替えにより被控訴人市)の職員は,」の前に「本件第3申請に係る控訴人の減免申請書には,本件第2申請と同じ申請理由(前記(キ))が記載されていた(甲16)。」を加える。

(9)  原判決25頁4行目冒頭から6行目末尾までを削除する。

(10)  原判決25頁9行目の「このような資産」から同頁12行目の「というべきであるから,」までを「そもそも控訴人が主張する担税力の有無・程度に着目した減免措置ではないから,」と改める。

(11)  原判決26頁1行目の「異論がないのに対し,」から同頁3行目の「いうべきであるから,」までを,「異論がないところ(同施行規則4条別表第2には,「地縁団体,町内会」が所有する固定資産が,その具体例として明記されている。),これらの施設は,地域に居住する住民であれば誰でも自由に利用する機会の与えられる施設であって,ほぼ専ら朝鮮総聯並びにその関連団体及び関係者のために使用されている本件不動産と別異の取扱いをすることには合理的な理由が認められ,」と改める。

(12)  原判決26頁25行目の「また,」の次に「前記(3)アで認定したところによれば,」を加える。

2  なお,控訴理由にかんがみ,付言する。

(1)  控訴人は,本件建物が旭川市民を中心に広く開放されている旨主張するが,控訴人自身,「朝鮮総聯に結集し,親和性をもつ人々」が利用の中心であることを認めており,それ以外の一般市民の利用については,当審も是認し,引用する原判決が認定した以上の利用がなされていることの立証はなく,同認定の利用状況を前提とする限り,本件建物が一般市民に広く開放されていると認めることはできない。

(2)  控訴人は,被控訴人市による本件建物の利用実態調査の結果が客観的な利用実態を反映していない旨主張する。しかし,被控訴人市は,平成15年から平成18年までの4年間にわたり,各年1回,担当職員が直接本件建物を訪問して内部を見分した上,その場で立ち会った管理人から利用状況を聴取し,さらには,近隣住民から利用状況を聴取したり,本件建物外部から相当回数にわたって本件建物の利用状況や使用者数を確認する調査を行っている。そして,その調査結果は4年間を通じてほぼ同様であって,少なくとも朝鮮総聯関係者以外の者の利用実績がほとんどないという点に関する限り,被控訴人市が行った上記実態調査の結果は客観的な利用実態を反映するものと認められる。

(3)  控訴人は,本件建物が,「朝鮮総聯関係の人々が建設をし,維持しているという一定の属性的な会館」であることが,むしろ本件建物利用の公益性を基礎付ける旨主張する。当裁判所も,原判決同様,本件建物が,控訴人がいうところの在日同胞の福祉の増進等に一定の寄与をしていること自体を否定するものではない。しかし,固定資産税を減免するために必要な「公益性」があるというためには,当該不動産が不特定多数の者の利用に供されていること,換言するならば広く一般市民に開放されていることが必要であると解すべきであり,特定の集団に属しあるいはこれに親和性を持つ者のみが専ら利用者として想定される施設がその要件を満たさないことは明らかである。

控訴人は,ウタリ会館や,婦人会館,青少年会館なども一定の属性を有する施設であり,これらと本件不動産との同質性を主張する。しかし,その名称だけでは,上記各施設が,控訴人のいう「属性的な会館」であるのか,広く社会一般に利用が開放されている施設であるのか明らかではなく,単純に本件不動産と比較するのは相当でない。

以上によれば,この点に関する控訴人の主張にも理由がない。

(4)  控訴人は,本件不動産が,在日朝鮮人が主として使用する会館であるとの理由で不公平な取扱いがされている旨主張する。しかし,本件各処分は,朝鮮総聯関係者という特定の集団に属する者が専ら利用する施設が,広く一般市民の利益のために用いられているとは認められないとしてなされたものであり,在日朝鮮人が利用していること自体を不許可の理由としていないことは明らかである。

また,控訴人は,韓国系会館については減免が認められている点が不平等である旨主張するが,控訴人が指摘する在日本大韓民国民団旭川支部の会館については,在日韓国人やその関係者以外の一般市民による利用実績が認められ,その点で本件不動産と別異の取扱いをすることには合理性が認められる。

以上によれば,平等原則違反に関する控訴人の主張には理由がない。

(5)  控訴人は,本件不動産への課税が過剰な負担となっているとして,担税力の点で比例原則に違反する旨主張する。しかし,公益使用を理由とする固定資産税の減免措置は,本来課税されるべき物件につき,その公益性を理由に課税を減免するものであり,担税力を理由とするものではないから,この点に関する控訴人の主張は,前提を欠き理由がない。

(6)  控訴人は,これまで免除されてきたにもかかわらず,突然課税されたのは,朝鮮制裁という政治的動きに同調したものであり,行政の継続性の原則,信義誠実の原則に反する旨主張する。

しかし,本件各処分は,他の自治体において同様の施設に対する固定資産税の減免措置を見直す動きが出てきたことに応じて,課税の公平の例外たる本件不動産への減免措置の適法性を確認するため,初めて詳細な実態調査を行った上で行われたものであるから,この点に関する控訴人の主張にも理由がないことは明らかである。

3  よって,控訴人の請求には理由がなく,その請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 末永進 裁判官 千葉和則 裁判官 住友隆行)

(別紙省略)

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