札幌高等裁判所 平成2年(ネ)129号 判決 1993年3月17日
主文
原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。
被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人
主文同旨
2 被控訴人ら
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決七枚目裏二行目の「訴外古谷幸四郎」の前に「控訴人の先代である」を加え、同九枚目表六行目の「同月」を「同年」に改め、同九枚目裏四行目、同一〇枚目表五行目、同裏八行目の各「求償関係」をそれぞれ「代位の関係」に改め、同一一枚目裏五行目の「うち金」を「内金」に改め、同一〇行目の「昌司が」の次に「昭和六〇年」を加え、同一二枚目表一二行目の「幸四郎」を「控訴人」に改め、同一三枚目表四行目の「どれだ」を「どれだけ」に改める。)。
1 当審における控訴人の主張(抗弁の追加)
(一) 原判決添付の別紙物件目録二記載のアないしクの八筆の土地(以下「目録二の土地」という。)については、昭和五八年九月二二日、交換を原因として古谷製菓から花子名義に所有権移転登記が経由されたが、これは、当時花子が所有していた土地(札幌市東区<略>)を他に売却して代金を古谷製菓の運転資金とするにあたり、税対策上、右土地を同社の「所有」とする必要があったことから、右土地と目録二の土地とを交換する形式を取ったことによるものである。したがって、目録二の土地の真の所有者は依然として古谷製菓であったのであるから、本件における代位弁済金のうち、目録二の土地の売却代金に相当する部分については、花子において、主債務者に対する求償権を取得する余地がない。
(二) 目録二の土地については、花子が右のとおり交換を原因として所有権移転登記を受ける以前において、債務者を古谷製菓、協同食品又は株式会社暢洋商事(いずれも古谷製菓の関連会社)とし、根抵当権者を拓殖銀行、北洋銀行、武蔵野銀行、北洋ファクター等とする、極度額合計八億円以上の根抵当権が設定されていた。したがって、仮に、花子が、目録二の土地について交換により所有権を取得したとしても、抵当不動産の第三取得者に該当するから、花子及びその相続人である被控訴人らは、民法五〇一条但書二号により、本件各債務の保証人である控訴人に対し債権者に代位しない。
(三) 本件売買対象土地のうち、原判決添付の別紙物件目録一記載のアないしウの土地は、もと幸四郎の所有であったが、同人が昭和五七年四月二九日に死亡したため、花子が相続したものであり、また、前記(一)のとおり、目録二記載の土地との交換に供した花子所有の土地も、同様に同女が幸四郎から相続により取得したものである。そして、幸四郎は、生前、主債務者である古谷製菓、協同食品及びアリソンフルヤトレイドに対し、幸四郎所有の右各土地をもってした物上保証に基づく求償権を行使しない旨を約し、又は右求償権を放棄した。そのため、幸四郎の相続人である花子においても、右求償権を行使することはできない。
また、花子自身も、生前、古谷製菓等に対し、本件売買対象土地を物上保証に供したことに基づく求償権を行使しないことを約し、又は右求償権を放棄した。
したがって、花子の相続人である被控訴人らが、控訴人に対し、債権者に代位して請求する余地はない。
2 控訴人の主張に対する被控訴人らの認否
(一) 控訴人の主張(一)の事実のうち、目録二の土地がもと古谷製菓の所有であったこと、右土地に控訴人主張の登記が経由されたことは認め、その余は否認する。
(二) 控訴人の主張(二)のうち、控訴人主張の土地について、株式会社暢洋商事を債務者とする根抵当権が設定されたこと、武蔵野銀行が根抵当権者であったこと、根抵当権の極度額の合計が八億円以上であったことは否認し、その余の根抵当権設定の事実は認める。花子が抵当不動産の第三取得者に該当することは争う。
(三) 控訴人の主張(三)の事実は否認する。
三 証拠関係
原審及び当審における訴訟記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因について
1 請求の原因1(保証債務等の成立)及び同2(債務の弁済)Ⅰ、Ⅱの各事実、同Ⅲの事実中、控訴人、被控訴人ら及び昌司が、昭和六〇年八月三一日、サッポロビールから本件売買契約による売買代金の支払を受け、同日、本件各弁済に及んだこと、同3Ⅰaア、同eアの各事実中、古谷製菓が無資力であることについては、いずれも当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第一号証によると、本件売買契約においては、右売買に伴う本件売買対象土地の所有権の移転時期について、買主から売買代金が支払われたときと定められていたことが認められる。
2 そして、被控訴人らは、花子が昭和六〇年八月二九日に死亡したことに伴い、控訴人、被控訴人ら及び昌司が本件売買対象土地の所有権を各六分の一ずつ相続するとともに、その物上保証人としての地位を承継したこと並びに控訴人、被控訴人ら及び昌司が、同月三一日、右の物上保証人としての地位に基づいて、各債権者に対し、六分の一ずつの割合をもって本件各弁済をしたことを主張する。
そこで、右主張を前提に、被控訴人らが、民法五〇一条但書五号に基づいて、請求の原因1の各債務の連帯保証人でもある控訴人に対し、各債権者に代位して、連帯保証債務の履行を請求することができる否かについて検討するに、
(一) 複数の保証人及び物上保証人が存在する場合における代位の割合ないし負担割合を定めるにあたって、保証人と物上保証人とを兼ねる者の取扱いについては、民法五〇一条但書五号の適用上、これを一人として扱い、その「頭数」を一個として計算するのが相当であり(最高裁昭和六一年一一月二七日判決・民集四〇巻七号一二〇五頁)、また、物上保証人が物件の共有者である場合については、各共有者毎に一人として扱い、共有者一名毎に同号の「頭数」を一個として計算すべきものと解される。
この点について、被控訴人らは、右の共有者全員を合わせて一人として扱い、「頭数」を一個として計算すべきものと主張するが、右の主張によるならば、物上保証については物件毎に頭数を計算するのと同様となり、前記民法の文言に明らかに反することになるから、右主張は採用することができない。
(二) そうすると、本件における民法五〇一条但書五号の「頭数」については、債権者を道央信用金庫とするものにおいては七個もしくは六個(被控訴人らの主張に従い、民法四四四条を類推適用して古谷製菓を頭数計算から除外した場合)、債権者を北洋銀行とするものにおいては七個もしくは六個(被控訴人らの主張に従い、アリソンフルヤセールズを頭数計算から除外した場合)、債権者を北洋ファクターとするものにおいては七個もしくは六個(被控訴人らの主張に従い、アリソンフルヤセールズを頭数計算から除外した場合)、債権者を武蔵野銀行とするものにおいては六個、債権者を拓殖銀行とするものにおいては七個もしくは六個(被控訴人らの主張に従い、前記のとおり古谷製菓を頭数計算から除外した場合)となるから、控訴人が連帯保証人(兼物上保証人)として代位されるべき金額は、右頭数に応じ、各債権者に対し支払われた各弁済額の六分の一ないしは七分の一ということになる。
一方、本件各弁済がなされるにあたって、控訴人が、その六分の一を提供したことについては、前記のとおり被控訴人らの主張するところである。
そうすると、控訴人は、本件各弁済の際、連帯保証人(兼物上保証人)として代位されるべき割合の金額を全額出捐したことになるのであり、被控訴人らによる本件代位請求に応じるべき立場にないことは明らかである。
そうであれば、被控訴人らの本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、その主張自体において失当といわざるをえない。
二 以上によれば、本件控訴は理由があるから、これと異なる原判決中の控訴人敗訴部分を取り消して、右部分についての被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。