札幌高等裁判所 平成22年(ネ)251号 判決 2011年7月29日
控訴人
a販売所こと X1(以下「控訴人X1」という。)<他4名>
上記五名訴訟代理人弁護士
斉藤道俊
同
武部雅充
同
阪口剛
同
長谷川亮
同
丸谷誠
同
中原正樹
同
江上武幸
同
椛島隆
同
馬奈木昭雄
同
紫藤拓也
同
高峰真
同
市橋康之
被控訴人
株式会社 十勝毎日新聞社
上記代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
中尾天
同
芝雄亮
同
市川隆之
主文
一 控訴人X1の控訴に基づき、原判決中の控訴人X1にかかる部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人X1が、被控訴人に対し、平成一九年九月三〇日以降、別紙図面の太線枠内の区域において、被控訴人の発行する新聞等(被控訴人が発行する新聞以外の刊行物を含む。)を被控訴人の販売店として販売する旨の新聞販売店契約上の地位を有することを確認する。
(2) 被控訴人は、控訴人X1に対し、控訴人X1が被控訴人との間の新聞販売店契約に基づく地位及び一切の権利義務を有限会社a販売所に譲渡することを承諾せよ。
(3) 被控訴人は、控訴人X1に対し、八八万円及びこれに対する平成二〇年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) 控訴人X1のその余の請求を棄却する。
二 控訴人X2、同X3、同X4及び同X5の各控訴をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、控訴人X1と被控訴人との間においては、第一、二審を通じて、これを四分し、その三を被控訴人の負担とし、その余を控訴人X1の負担とし、控訴人X2、同X3、同X4及び同X5と被控訴人との間においては、控訴費用は、控訴人X2、同X3、同X4及び同X5の負担とする。
四 この判決は主文第一項(3)の部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 主文第一項(1)及び(2)と同旨。
三 被控訴人は、控訴人X1に対し、四四〇万円及びこれに対する平成二〇年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被控訴人は、控訴人X2に対し、二二〇万円及びこれに対する平成二〇年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被控訴人は、控訴人X3に対し、二二〇万円及びこれに対する平成二〇年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被控訴人は、控訴人X4に対し、二二〇万円及びこれに対する平成二〇年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 被控訴人は、控訴人X5に対し、二二〇万円及びこれに対する平成二〇年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
八 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
九 上記三ないし七につき仮執行宣言
第二事案の概要
一 本件は、被控訴人と新聞販売店契約を締結していた控訴人X1が、被控訴人がした同契約の更新拒絶には正当な理由がないなどと主張して、被控訴人に対し、新聞販売店契約上の地位の確認及び控訴人X1が代表取締役を務める有限会社a販売所(以下「訴外会社」という。)への同契約上の地位の譲渡の承諾を求めるとともに、同契約の更新をめぐる被控訴人の言動によって精神的苦痛を被ったなどと主張して不法行為に基づき慰謝料の支払を求めるほか、被控訴人と新聞販売店契約を締結している法人の代表取締役であるその余の控訴人らが、被控訴人が同契約につき更新拒絶の意向を示したことにより精神的苦痛を被ったなどと主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づき慰謝料の支払を求める事案である。
控訴人らは、原審が、控訴人らの請求をすべて棄却したことから、これを不服として控訴を提起した。
二 当事者の主張は、原判決書「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の「一 前提となる事実」、「二 争点」及び「三 争点に関する当事者の主張」(原判決書別紙争点整理案A、B及びC)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
当裁判所は、以下のとおり、控訴人X1の請求は、主文第一項(1)ないし(3)の限度で理由があるが、控訴人X1のその余の請求及びその余の控訴人らの各控訴は、いずれも理由がないと判断する。
一 判断の基礎となる事実
(1) 新聞販売店契約及び契約更新に関連する経緯について
前提事実、《証拠省略》によれば、控訴人らと被控訴人との間における新聞販売店契約及び同契約の更新に関連する経緯について、次の事実を認めることができる。
ア 新聞販売店契約の当事者
(ア) 被控訴人
被控訴人は、時事に関する事項を掲載する日刊新聞の発行等を目的とする株式会社であり、夕刊紙のみの日刊新聞である○○新聞(以下「○○新聞」という。)を発行している。
(イ) 控訴人ら
a 控訴人X1は、昭和四五年一〇月ころ、被控訴人との間で新聞販売店契約を締結して、「a販売所」の名称で新聞販売店(専売店)(以下、この新聞販売店を「かちまいa販売店」という。)の営業を始め、帯広市のa地区等を営業区域として、被控訴人の発行する○○新聞の販売等を行っている者である。なお、控訴人X1は、平成一七年二月二日、訴外会社を設立し、その代表取締役となった。
b 控訴人X2(以下「控訴人X2」という。)は、有限会社b(以下「かちまいb」という。)の代表取締役である。同社は、帯広市のb地区等を営業区域として、被控訴人の発行する○○新聞の販売等を行っている(以下、同社の販売店を「かちまいb販売店」という。)。
c 控訴人X3(以下「控訴人X3」という。)は、c有限会社(以下「かちまいc」という。)の代表取締役である。同社は、帯広市のc地区等を営業区域として、被控訴人の発行する○○新聞の販売等を行っている(以下、同社の販売店を「かちまいc販売店」という。)。
d 控訴人X4(以下「控訴人X4」という。)は、有限会社d専売所(以下「かちまいd」という。)の代表取締役である。同社は、帯広市のd地区等を営業区域として、被控訴人の発行する○○新聞の販売等を行っている(以下、同社の販売店を「かちまいd販売店」という。)。
e 控訴人X5(以下「控訴人X5」という。)は、有限会社e(以下「かちまいe」という。)の代表取締役である。同社は、帯広市のe地区等を営業区域として、被控訴人の発行する○○新聞の販売等を行っている(以下、同社の販売店を「かちまいe販売店」という。)。
(ウ) 帯広市内における○○新聞販売店
a 平成一七年五月当時、帯広市内には、○○新聞の販売店として、かちまいa販売店、かちまいb販売店、かちまいc販売店、かちまいd販売店及びかちまいe販売店のほか、かちまい緑ケ丘、かちまい鉄南、かちまい南町西、かちまい緑西、かちまい南町東、かちまい中央、かちまい東部、かちまい東栄、かちまい東部南、かちまい栄、かちまい西帯広、かちまい稲田、かちまい川西の合計一八店舗があった。
b 平成一九年九月当時及び平成二一年四月当時、帯広市内には、○○新聞の販売店として、かちまいa販売店、かちまいb販売店、かちまいc販売店、かちまいd販売店及びかちまいe販売店のほか、かちまい緑ケ丘、かちまい鉄南、かちまい南町西、かちまい緑西、かちまい南町東、かちまいセンターゲート、かちまい東部、かちまい東栄、かちまい東部南、かちまい栄、かちまい西帯広、かちまいサウスゲートの合計一七店舗があった。
c 平成二二年四月現在、かちまいa販売店、かちまい東部の販売店契約終了を理由としてエリア変更が行われた結果、帯広市内の○○新聞の販売店は、かちまいb販売店、かちまいc販売店、かちまいd販売店及びかちまいe販売店のほか、かちまい西帯広、かちまい栄、かちまいノースゲート、かちまいセンターゲート、かちまい東栄、かちまい緑西、かちまい緑ケ丘、かちまい東部南、かちまい鉄南、かちまい南町西、かちまい南町東、かちまいサウスゲートの合計一六店舗となった。
(エ) 株式会社勝毎折込センター(以下「勝毎折込センター」という。)は、昭和六〇年九月一九日、帯広市内の○○新聞の販売店が出資して設立された広告物、新聞折込委託配布業務等を目的とする株式会社である。
(オ) 被控訴人は、平成三年一月三〇日、子会社として、広告物の新聞折込委託配布業務等を目的とする株式会社十勝チラシセンター(平成一六年九月二一日に株式会社かちまいサービスと商号変更した。以下「かちまいサービス」という。)を設立した。なお、かちまいサービスが経営する直営店としては、帯広市内では、かちまいサウスゲート、かちまいノースゲート、かちまいセンターゲートの三店舗があり、町村専売店としては、かちまい木野東、かちまい池田、かちまい足寄の三店舗の計六店舗がある。
イ かちまいサービスによる販売店の直営化
(ア) 平成一六年一〇月一四日、被控訴人は、帯広市内販売店を「ぬるま湯体質」から脱却させるためなどと称して、これからの販売店のあり方に関する基本的な考え方を記した「二〇〇五年度かちまい専売店に関する基本方針」を作成し、地方紙の生き残りをかけ「増紙とサービスの質向上」を目指す、営業(=拡張、読者サービス等)活動の充実・強化、企業経営者としての明確なビジョン、重要な現読者対策、自振り率(新聞購読料を自動引落とししている購読者の率)の向上、販促費用・補助金の全面見直し、販売エリアの見直しなどのスローガンを掲げ、その実行を求めた。
そして、かちまいサービスは、新聞販売業を営業目的に加え、業務不良の販売店を直営店によって立て直すことや、優秀な後継者がいない場合に直営店でカバーすること、他の販売店に販売店のモデルを提示することなどを標榜して、販売店を直営化した上これをかちまいサービスが運営することを計画し、次の(イ)ないし(コ)のとおり、複数の販売店に対し、販売店契約上の地位をかちまいサービスに譲渡することを求めるなどして被控訴人の子会社による直営化を図った。
(イ) 平成一七年四月、かちまいサービスは、音更町の木野東地区等を営業区域としていた有限会社かちまい宝来新聞店(以下「かちまい宝来新聞店」という。)が同年三月三一日をもって廃業したことに伴い、その営業区域を承継して、直営店「かちまい木野東」を開設した。これに対し、かちまい宝来新聞店は、平成一九年一月一八日、被控訴人及びかちまいサービスに対し、被控訴人から強固かつ執拗に廃業するよう申し向けられて廃業したものであり、実質上販売店契約の更新拒絶をされたものであるなどと主張し、新聞販売店契約の更新拒絶に伴う営業補償金等として四八九三万八二三九円の支払を求める訴訟を釧路地方裁判所帯広支部に提起した(同庁平成一九年(ワ)第一四号)。平成二〇年一月一七日、同訴訟において、被控訴人及びかちまいサービスがかちまい宝来新聞店に対し、連帯して四五〇万円の和解金を支払うことを内容とする和解が成立した。
(ウ) 平成一八年四月一日、かちまいサービスは、川西地区を営業区域としていた五十嵐販売店の高齢による自己廃業に伴い、同販売店の営業区域を承継するとともに、郊外地区の急速な宅地化のため、営業区域が広範囲に及んでいた有限会社かちまい南町東(以下「かちまい南町東」という。)の営業区域の一部(三一六部相当)を承継し、直営店「かちまいサウスゲート」を開設した。
(エ) 平成一九年一月、かちまいサービスは、池田町本町内等を営業区域としていた十勝毎日新聞池田販売所有限会社(以下「池田販売所」という。)からその営業区域を承継して、直営店「かちまい池田」を開設した。これは、以下の経過による。池田販売所は、平成一七年二月ころ、被控訴人に対し、被控訴人との新聞販売店契約上の地位を池田販売所の従業員に譲渡したい旨の話をしたところ、被控訴人から、販売実績が振るわないため、いわゆる直営店方式で販売店業務を行う予定なので地位の譲渡には応じられないとの意向を示された。池田販売所は、やむを得ず、被控訴人との新聞販売店契約上の地位を池田販売所の従業員に譲渡することの承諾を求めて、帯広簡易裁判所に調停の申立てをしたところ(同庁平成一八年(メ)第一九号)、平成一八年九月一一日、前記のとおり、平成一九年一月からかちまいサービスが池田販売所の営業区域を承継すること、被控訴人が池田販売所に対し代償金、解決金等として合計五〇四万五八〇〇円を支払うことなどを内容とする調停が成立したことによるものである。
(オ) 平成一九年四月、かちまいサービスは、「かちまい中央販売店」の名称で帯広市中心部を営業区域としていたBからその営業区域を承継して、直営店「かちまいセンターゲート」を開設した。これは、平成一七年六月三日、被控訴人が、Bに対し、被控訴人の営業方針に協力しないことなどを理由として、平成一八年三月三一日限り新聞販売店契約を解除する旨を通知したところ、Bが、平成一八年に至ってから、被控訴人に対し、Bの新聞販売店契約上の地位の確認を求める訴訟(以下「かちまい中央事件」という。)を釧路地方裁判所帯広支部に提起し(同庁平成一八年(ワ)第三七号)たものの、平成一九年三月二六日、請求棄却の判決を受けたことによるものである。
(カ) 平成一九年四月、かちまいサービスは、「かちまい稲田販売店」の名称で帯広市稲田地区を営業区域としていた有限会社かちまい稲田(以下「かちまい稲田」という。)からその営業区域の一部を承継して直営店「かちまいサウスゲート」の営業区域に編入した。これは、平成一七年三月三一日、被控訴人が、かちまい稲田に対し、同日が更新期限となっていた新聞販売店契約の更新を拒絶する旨、○○新聞の供給を平成一八年四月一日までで停止する旨を通知したところ、かちまい稲田は、同年に至ってから、被控訴人に対し、かちまい稲田の新聞販売店契約上の地位の確認を求める訴訟(以下「かちまい稲田事件」という。)を釧路地方裁判所帯広支部に提起したものの(同庁平成一八年(ワ)第三九号)、平成一九年三月二六日、請求棄却の判決を受けたことによるものである。
(キ) 平成一九年四月一日、「かちまいサウスゲート」と「かちまい南町東」との間でエリア再編(営業区域の変更)が行われ、「かちまい南町東」から「かちまいサウスゲート」に対し一一四〇部相当の営業区域が承継され、「かちまいサウスゲート」から「かちまい南町東」に対し一五九〇部相当の営業区域が承継された。
(ク) 平成一九年五月、かちまいサービスは、足寄地区を営業区域としていたかちまい足寄販売店が廃業の申し入れをしてきたとして、同販売店からその営業区域を承継して、直営店「かちまい足寄」を開設した。
(ケ) 平成一九年九月、株式会社勝毎南部販売所(かちまい緑ケ丘、かちまい鉄南、かちまい南町西。以下「勝毎南部販売所」という。)、有限会社かちまい東部南(以下「かちまい東部南」という。)及びかちまい南町東の間でエリア再編(営業区域の変更)が行われ、営業区域が承継(交換)された。エリア再編に伴う承継部数は、次のようになった。
承継元 承継先 部数
かちまい緑ケ丘 →かちまい鉄南 七三部
かちまい鉄南 →かちまい東部南 八七三部
かちまい鉄南 →かちまい南町東 四〇一部
かちまい南町東 →かちまい鉄南 六五部
かちまい南町東 →かちまい南町西 五六〇部
(コ) 平成二二年三月三一日、勝毎南部販売所は、被控訴人に対し、かちまい鉄南に係る新聞販売営業権を返還し、かちまいサービスが直営店として経営を引き継いだ。
ウ 新聞折込広告の取扱い
(ア) ○○新聞の販売店は、もともと新聞折込広告の取扱いをしていなかったところ、昭和四六年ころから、広告代理店などからその取扱いを依頼されてこれを引き受けるようになり、昭和四八年ころからその取扱量が増加していった。○○新聞の販売店は、当初、販売店ごとに個別に広告スポンサーや代理店と契約して、当該販売店が配達する新聞に広告を折り込んでいた(被控訴人は、この点を積極的に争っていない。)。
(イ) 昭和六〇年九月一九日、帯広市内の販売店が出資して勝毎折込センターが設立され、帯広市内の販売店が扱う折込み広告に関しては、勝毎折込センターが広告スポンサーや代理店と一括して契約を締結し、決済を行い、折込広告手数料の配分を行うようになった。控訴人X1は、勝毎折込センターの設立当初から現在に至るまで代表取締役を務めており、また、平成二〇年六月一〇日現在、株主は、訴外会社をはじめとする控訴人ら経営の会社五社(訴外会社、かちまいb、かちまいd、かちまいc、かちまいe)及びその他六社である。
(ウ) 被控訴人は、平成三年一月三〇日、被控訴人の子会社として、広告物の新聞折込委託配布業務等を営業目的とするかちまいサービス(十勝チラシセンター)を設立した。勝毎折込センターとかちまいサービスは、かちまいサービスの設立に伴い、いずれも○○新聞の新聞折込広告を取り扱うことから、競合を避けるための協議をし、かちまいサービスが設立された同日、クロス取引契約(以下「本件クロス取引契約」という。)を締結した。その内容は次のとおりである。
a 勝毎折込センターと取引する販売店での広告の折込みについて、かちまいサービスが広告主や広告代理店等から依頼を受けた場合には、かちまいサービスが受領した折込広告を、勝毎折込センターと取引する販売店に個別に搬入することなく、勝毎折込センターに一括して搬入する。
b かちまいサービスと取引する販売店での広告の折込みについて、勝毎折込センターが広告主や広告代理店等から依頼を受けた場合には、勝毎折込センターが受領した折込広告を、かちまいサービスと取引する販売店に個別に搬入することなく、かちまいサービスに一括して搬入する。
c かちまいサービスが勝毎折込センターに搬入した折込広告の手数料は、勝毎折込センターと取引する販売店との間で個別に決済せず、勝毎折込センターとの間で決済する。
d 勝毎折込センターがかちまいサービスに搬入した折込広告の手数料は、かちまいサービスと取引する販売店との間で個別に決済せず、かちまいサービスとの間で決済する。
e 勝毎折込センターは帯広市内及び近郊の販売店が折り込む広告を受注し、かちまいサービスは郊外の販売店が折り込む広告を受注する。
(エ) 平成六年、かちまいサービスは、勝毎折込センターと取引をしていた広告代理店等をかちまいサービスとの取引に切り替えさせたり、かちまいサービスが取り扱っていた帯広市内近郊町村の折込広告も扱うなどするようになった。そこで、同年三月一五日、勝毎折込センターは、かちまいサービスに対し、帯広市近郊の五町のチラシを扱っていること、勝毎折込センターの既存の代理店、スポンサーに営業活動を行っていること、手数料の不当な要求がなされていることなどの弊害が生じていると主張し、定期的な協議の場を設けるとともに、既存の代理店、スポンサーへの不可侵等を提案する旨の要望書を提出した。
このような状況を踏まえ、かちまいサービスと勝毎折込センターは、協議を行い、平成一二年一二月、チラシの取扱いについて、「現在取引代理店の枠組みを尊重し、近郊分の扱いを変更しない。」などの内容の確認書を取り交わした。
(オ) 被控訴人は、平成一三年ころから、○○新聞の発行部数が伸び悩むようになったが、その原因は、若者の新聞離れと帯広市内販売店が営業活動を怠り、増紙努力をしているのは被控訴人の社員のみになっていることにあると判断し、販売政策を大転換して、販売店に増紙努力を促すと共に既存販売店の直営店化をめざし、被控訴人の販売局長を更迭して販売局を総入れ替えした。また、被控訴人は、○○新聞本体の広告掲載が減少し、折込広告が増加しているところ、折込広告は発行部数九万部を誇る被控訴人発行の○○新聞の信用力を背景とするものであるので、折込広告の手数料収入から一定程度の利益の還元を求めて然るべきであるとの認識から、媒体使用料の名称で一定程度の金員を販売店から徴収することを目論んだ。
平成一六年三月一〇日ころ、被控訴人は、同日付けの「『○○新聞』に折込む『チラシ』の取扱について」と題する書面を配布し、「手数料(マージン)の配分も他地区に比べバランスを欠いている。」、「クライアントの事情もあり近年新聞広告→チラシへのシフトが顕著になり、本社経営の根幹を揺るがす問題となっている。」、「現状の取扱は、クライアント・広告代理店に迷惑を掛けており、当社の経営理念である『お客様第一主義』に反する」、「『○○新聞』あっての『チラシ業務』であることを認識して頂き協力をお願いします。」などとして、チラシ手数料の関係会社間配分の見直し等に「不退転の決意」で取り組む旨宣言した。そして、同年五月一七日ころ、被控訴人は、チラシ折込料についての販売店への分配割合を一五%減少させた上、折込媒体料として折込広告の折込料の一〇%相当額を被控訴人に対し支払うことなどを内容とするチラシ折込料の配分の提案等を行った。
(カ) 上記提案等の合理性や正当性について疑義をもった控訴人X1を含む勝毎折込センターを構成する帯広市内の専売店一七店舗は、折込広告(チラシ)の取扱いに関する件について、円満解決のための交渉を弁護士に依頼した。控訴人X1らから委任を受けた代理人弁護士は、平成一六年九月六日付けで、被控訴人に対し、受任通知を送った。他方、被控訴人においても、弁護士に交渉を依頼し、その後は、主として双方代理人間で協議が続けられた。上記協議における主たる検討課題は、前記(ウ)の本件クロス取引契約にかかわらず、勝毎折込センターと取引する販売店での広告の折込について、かちまいサービスが広告主や広告代理店等から依頼を受けた場合であっても、勝毎折込センターを通さずにかちまいサービスが販売店に直接持ち込むこととするかどうか、販売店が折込チラシにより手数料収入を得ていることに関し、被控訴人に対し媒体使用料を支払うこととするかどうかであった。
また、別途、被控訴人から、被控訴人が、世帯数の増減等の事情の変化又は販売店の経営状況等により、販売店の営業地域の分割、統合等を変更する必要が生じた場合には、販売店と協議して、販売店の営業区域(テリトリー)を変更することができるとする販売店契約の変更案が示され、これについても協議された。
(キ) 平成一七年一一月一一日ころ、被控訴人と各販売店との間で、「○○新聞協力金に関する合意書」が締結され、帯広市内の専売店は、被控訴人に対し、毎月、新聞一部当たり五〇円の経営協力金(媒体使用料の名称を変更したもの。)を支払うことになった。
(ク) しかし、上記(キ)の「○○新聞協力金に関する合意書」を締結した販売店のうち、控訴人らは、平成一九年九月三〇日に被控訴人が値上げした際に販売店のマージンを考慮しなかったこと、店着遅れの補償金が廃止されたこと、折込広告の全戸配布予定(「Chai」のフリーペーパー化による未購読者を含む帯広市内の全戸への無料配布。新聞に折り込まず、配達手数料として一所帯当たり三円の配達補助金を販売店に支払うとするもの。)などから、被控訴人と控訴人らとの関係が金銭面においても合意締結当時から大きく様変わりしたとして、平成二〇年四月二八日ころ、同日付け「ご連絡」と題する書面により、被控訴人に対し、同年一一月一一日をもって上記締結した合意書の三年間の契約期間の満了により合意を解約する旨を通知し、同日以後、被控訴人に対し協力金を支払っていない。
(ケ) 平成二〇年一〇月三〇日、かちまいサービスは、勝毎折込センターに対し、控訴人ら五店舗を除く六販売店(勝毎南部販売所〔緑ケ丘、鉄南、南町西及び緑西〕、かちまい東栄、かちまい東部、かちまい東部南、かちまい栄、かちまい西帯広)の折込チラシについて、かちまいサービスが、同年一一月一日以降、配達業務を直接請け負うことになった旨連絡を入れた。そして、かちまいサービスにチラシの折込みを委託することにした前記六販売店は、同月一三日、勝毎折込センターに対し、勝毎折込センターの自己所有株式を第三者に譲渡することについての譲渡承認請求をすると共に、同月三〇日をもって勝毎折込センターとの取引を終了し、翌一二月一日以降は折込チラシの代金決済、物流等をかちまいサービスを窓口として行う旨通知した。
(コ) 平成二一年三月二七日ころ、有限会社西田重人商店、同かちまい音更、同かちまい木野、同勝毎芽室専売所の四販売店は、勝毎折込センターとの折込チラシにかかる取引を同月三一日で終了し、翌四月一日以降はかちまいサービスと取引を行う旨の通知をした。
この結果、同日以降、勝毎折込センターと取引を継続する販売店は、控訴人らのみとなった。
(サ) 被控訴人は、平成二二年一月ころ、控訴人X1を含む全販売店に対し、同年三月分から、新聞の購読者に対する小売価格は維持したまま、販売店に対する卸売価格のみ二〇〇円(消費税別)増額する旨を通告した。
(シ) 平成二二年七月二九日、かちまいサービスは、勝毎折込センターに対し、本件クロス取引契約を、同年八月三一日限りで終了すると通知した。すなわち、勝毎折込センターと取引するかちまいb、かちまいc、かちまいd、かちまいeの四店舗(以下「本件四店舗」という。)についても、かちまいサービスが受注したチラシは、勝毎折込センターを通すことなく、本件四店舗に直接搬入し、代金決済も本件四店舗と直接行うこととし、チラシ手数料についても、かちまいサービスがチラシ単価から三四・五%を控除し、残額の六五・五%のみを本件四店舗に支払うという本件四店舗の手数料収入の率を大幅に減少させる内容であった。
なお、被控訴人は、控訴人X1について、後記(3)チのとおり平成二二年四月三日をもって○○新聞の供給を停止している。
(ス) 平成二二年八月一六日、勝毎折込センターは、かちまいサービスを債務者として、釧路地方裁判所帯広支部にクロス取引契約上の地位確認仮処分を申し立てたが(同支部平成二二年(ヨ)第二一号)、同年一二月二〇日、本件クロス取引契約が平成二三年三月三一日まで存続するが、同日をもって合意解約することなどを内容とする和解が成立した。
エ フューチャーブレイン覚書(FB覚書)
(ア) 平成一六年以降、被控訴人は、各販売店と被控訴人の本社をオンラインで結ぶ読者管理のためのネットワークシステムである新聞読者管理システム(別称フューチャーブレイン。以下「FB」と略することがある。)を専売店に導入した。フューチャーブレインには、購読者の住所や連絡先、新聞の入り止めや集金に関する情報が入力され、これが被控訴人の設置するサーバーに転送されることとされている。本件ソフトは、被控訴人が購入し、販売店に無償で貸与している。
(イ) 平成一八年九月一九日、被控訴人は、本社において「かちまい会システム推進委員会」を開催し、その会において、フューチャーブレインにつき、「項目(コード)の有効活用と操作・設定について」と題する資料を配付し、新聞読者管理システムの貸与及びその使用規約に関し、「新聞読者管理システムの貸与に関する覚書」(以下「FB覚書」という。)について機関決定を行った上、各販売店に対し、FB覚書の締結を求めた。FB覚書は、販売店に対し、フューチャーブレインを活用して新聞販売店契約に基づく読者情報の管理及び未読者の管理を適切に行うこと、被控訴人がフューチャーブレインに格納された購読者、未読者及び拡張営業活動などのデータを常時使用できることなどを定めた一五条から成るものである。
(ウ) 平成一八年一一月一五日、被控訴人は、販売店に対し、「『口座振替本社一括決済』開始のお知らせ」と題する書面を送り、読者データ(特に購読料)に関しては、フューチャーブレインによりデータを集約することを依頼した。
(エ) 被控訴人は、本件四店舗が、被控訴人の督促と説得に応ぜず、FB覚書の提出を拒んだことから、平成一九年三月二七日、同日付けで業務改善・報告命令書を発令し、本件四店舗が同年一月二二日の意見交換の席上でFB覚書締結の諾否について、弁護士を通じて回答するとの意向を示していたにもかかわらず、未だ、FB覚書締結の諾否についての回答がないので速やかに回答するよう求めるとともに、FB覚書を提出しないことは新聞販売店契約の情報管理の規定(かちまいcにつき一二条、その余につき一三条)に反すると考えている旨を表明した。
(オ) これに対し、平成一九年四月三日、本件四店舗は、同日付け「ご連絡」と題する書面により、被控訴人に対し、FB覚書締結に関する交渉を弁護士に委任したこと、本件四店舗は、購読者の個人情報を取得する第一次事業者として、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)に基づきその適正な管理が求められていることから、被控訴人及び被控訴人傘下の企業における個人情報の取扱い方が不明確であるとし、現時点においては、FB覚書の締結に応じることはできない旨回答した。
(カ) 平成一九年六月一九日、被控訴人は、上記回答を受けて、同日付け業務改善・報告命令書により、直接、本件四店舗に対し、個人情報保護法に基づき個人情報の適切な取扱いのための被控訴人の取組みなどについて説明するとともに、業務改善及び報告につき同月二九日までに文書で回答するよう求め、また、FB覚書については同月二五日までに提出がない場合には締結の意思がないものと考える旨通告した。
(キ) それを受けて、平成一九年六月二五日、本件四店舗の代理人弁護士は、同日付け「ご連絡」と題する書面により、被控訴人に対し、本件四店舗においても読者から預かったデータを適切に管理していくことを確認する書面を締結する必要があることから、個人情報の目的外使用や第三者提供のおそれなどの懸念事項が解決されれば合意書面を取り交わす意思があり、その内容を被控訴人と協議する意思がある旨を回答した。
(ク) 平成一九年七月二日、被控訴人は、上記回答を受けて、同日付け「御連絡」と題する書面により、直接、本件四店舗に対し、被控訴人が個人情報保護法に則して個人情報保護管理規定を設け、厳格に適用する旨、本件四店舗が指摘する目的外利用に該当するような利用方法は考えていないこと、FB覚書の締結を最重要視しているとした上で、「FB覚書は販売店との個別契約書とは異なり、共通のシステムを専売店が統一のルールで使うものです。」、「他店はこの覚書を何ら問題なく締結しています。貴殿らのみ、別の合意書を検討する必要性も合理性もありません。一言一句変えることなく、このままの覚書内容で締結するよう求めます。」と回答した。
(ケ) 平成一九年七月二〇日、本件四店舗の代理人弁護士は、上記回答を受けて、同日付け「ご連絡」と題する書面により、被控訴人に対し、FBから不必要な項目を削除すること、FBで本件四店舗が被控訴人に提供しなければならない必須の情報を特定すること、被控訴人が第三者への再提供や目的外使用をしないことを明言すること、購読者が被控訴人への情報提供を拒んだ場合の取扱いなどについてもFB覚書に盛り込むことを求めるとともに、被控訴人が覚書そのままの締結を要求するのであれば、本件四店舗としては、個人情報保護法の観点から覚書の締結義務がない旨の確認を求める調停申立て等を行う意向である旨を回答した。
(コ) 平成一九年八月三日、被控訴人は、上記回答を受けて、同日付け「御連絡」と題する書面により、本件四店舗の代理人弁護士に対し、同月一〇日正午を最終期限としてFB覚書を提出することを求め、最終期限までにFB覚書の提出がなかった場合には、本件四店舗が個人情報保護法を遵守しない可能性があると判断し、同月三一日までに無償貸与しているFB及び周辺機器を撤去する旨連絡した。
(サ) これを受けて、平成一九年八月九日、本件四店舗の代理人弁護士は、同日付け「御連絡」と題する書面により、被控訴人に対し、再度、FB覚書の内容の変更等を申し入れた。しかし、被控訴人は、これに応答することなく、同月二一日、同日付けの回答書により、本件四店舗の代理人弁護士に対し、最終期限までにFB覚書が提出されなかったことから、同月末までに無償貸与している各FB及び周辺機器を撤去する旨を連絡するとともに、上記撤去に伴い、本件四店舗の責任で、同月中に、NC、日専連、札幌コンピュータサービスを利用して購読料の自動振替を行っている購読者についての契約の切替を行うことを求め、また、同月三〇日、「御連絡」と題する書面により、翌三一日に本件四店舗のFB及び周辺機器の撤去作業を行うことを連絡した。
(シ) 平成一九年八月三一日、被控訴人は、本件四店舗の各FB、周辺機器及びFBの端末機を撤去した。
(ス) 平成一九年九月六日、被控訴人は、かちまいeに対し、同日付け「契約更新について2」と題する書面により、FB覚書を提出すれば、新しい契約書の内容で契約を更新する意向であり、新しい契約内容に合意した時点でいったん撤去したFB及び周辺機器を設置する旨連絡したが、かちまいeは、これに応じなかった。
(2) 控訴人X1に関する本件に至るまでの経緯について
前提となる事実、当事者間に争いのない事実、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。
ア 控訴人X1は、昭和四五年一〇月ころ、被控訴人との間で新聞販売店契約を締結して営業を始め、その後、昭和五九年二月一三日付けで販売委託契約書を取り交わした。その際、販売店契約の期間は昭和六一年九月三〇日までと定められ、期間満了の三か月前までに一方当事者からの解約申し入れがない限り三年間延長される旨の自動更新条項が定められており、平成一六年九月三〇日の本件新聞販売店契約書が締結されるまで、自動更新が繰り返された。
イ かちまいa販売店は、開業当初、八〇〇部程度の販売部数であったが、区域内における宅地化の進展や拡張活動などの営業努力により、平成三年四月ころには、六〇〇〇部ほどに部数も増加し、遅くとも平成一六年四月以前にその内約二〇〇〇部をかちまい栄に分割譲渡したものの、平成一九年九月当時は、約四七七五部まで発注部数を増加させた。控訴人X1は、このように同月時点で約三七年間にわたりかちまいa販売店を経営してきており、かちまいa販売店の昭和四五年一〇月以来の取扱部数は、帯広市内の販売店の中でも常時三位以内に属する大規模店であり、営業区域は、別紙図面の太線枠内である。そして、控訴人X1は、平成二年に現在の店舗兼用住宅(一階部分を店舗として使用し、二階部分を住宅として使用。)の底地約一一一坪を約一四三〇万円で購入し、平成九年一月、現在の店舗兼用住宅を約三四〇〇万円をかけて建築した。
ウ 控訴人X1と被控訴人は、かちまいa販売店の開業日から概ね三年ごとに新聞販売店契約の更新や自動更新を重ねてきたところ、控訴人X1は、昭和五六年四月から平成七年三月までの間、○○新聞を取り扱うすべての販売店で構成される十勝毎日会の会長を七期一四年間務めたほか、昭和五九年四月から平成八年三月までの間、○○新聞を取り扱う専売店で構成される「かちまい十日会」の会長を六期一二年間務めた。また、平成元年発行の「○○新聞七十年史」には、南部のN店(勝毎南部販売所)、東部のO店(かちまい東部販売店)、中央のB店(かちまい中央販売店)及び控訴人X1の経営するかちまいa販売店が被控訴人の躍進の原動力となったこと、控訴人X1が勝毎専売会の会長に就任し、十勝毎日会会長の職務とともに苦労をかけていることが記載され、また、平成一一年発行の「○○新聞八十年史」には、被控訴人の販売局と販売店とが一体となって増紙を図ってきたことが記載されている。
エ 平成一六年九月三〇日、控訴人X1と被控訴人は、同日付け新聞販売店契約書を取り交わし、新聞販売店契約を更新した(本件新聞販売店契約)。
本件新聞販売店契約の内容は、次のとおりである。
(ア) テリトリー制
被控訴人は、控訴人X1が営む営業の地域を別紙図面に示す地域と認め、この契約に定める場合を除き他の新聞販売店の当該地域での営業を許可しない。(三条一項)。
(イ) 営業地域の変更
被控訴人は、世帯数の増減、道路事情の変化等の事情の変化、若しくは控訴人X1の経営状況、販売実績の状況により、控訴人X1の営業地域の分割、統合の変更をする合理的必要が生じた場合には、控訴人X1と協議して、控訴人X1の営業地域を変更することができる(三条二項)。
(ウ) 専売制(排他条項)
控訴人X1は、被控訴人指定の新聞等と競合する他社の新聞等は取り扱わない(四条)。
(エ) 定価
控訴人X1は、被控訴人の発行する新聞を定価により販売しなければならない。定価は一部一か月二二〇〇円、一部売り九〇円とする(消費税込み)(五条一項)。
被控訴人は、控訴人X1に対し、被控訴人の発行する新聞を一部一か月一三七六円(消費税抜き)にて販売する(五条二項)。
各項の価格は、被控訴人が決定し、必要に応じこれを変更することができる(五条三項)。
(オ) 販売方法
控訴人X1は、被控訴人の発行する号外、速報、別刷特集等を被控訴人の指示に従って配付するものとする(八条三項)。
(カ) 増紙努力
控訴人X1は、被控訴人の販売計画に基づき、被控訴人指定の新聞等の増紙拡張、普及率の向上に努めなければならない(一一条)。
(キ) 経営指導
被控訴人は、被控訴人が毎年控訴人X1に提示し被控訴人と控訴人X1が協議して決定する営業販売目標について、その実績を評価する。控訴人X1の部数の普及率、伸率等の営業成績が振るわない場合には、被控訴人の直接管理等の措置を講ずる場合がある(一二条三項)。
被控訴人は、控訴人X1が第一七条各号に該当すると判断し、控訴人X1に控訴人X1の経営資料(決算書、確定申告書を含む)の開示及び説明を求めたときは、控訴人X1は、これを拒絶する正当な理由がない限り、これに応じるものとする(一二条四項第一文)。
(ク) 情報管理
控訴人X1は、全戸台帳、購読者台帳、配達順路図、集金台帳……及びその他必要な書類を備え、適正にこれを管理しなければならない。被控訴人が必要とするときは、即時に提出しなければならない(一三条一項)。
前項の備え付け書類は、被控訴人が今後、販売管理システムを導入した場合には、これによって管理しなければならない(一三条二項)。
被控訴人と控訴人X1は、業務にかかわる個人情報を個人情報保護法その他関係法規にそって適正に管理し、目的外に使用してはならない。本契約終了後も同様とする(一三条三項)。
(ケ) 遵守事項
控訴人X1は、被控訴人が必要とする業務上の諸事項につき調査報告を求めた場合には、速やかに報告しなければならない(一四条一項)。
控訴人X1は、次の各号に該当する場合には、被控訴人に、三か月前に書面で申し出て、被控訴人の承諾を得るものとする(一四条二項)。
(中略)
(5) 法人化しようとするとき
(コ) 業務の委託等の禁止
控訴人X1は、本件新聞販売店契約に基づく控訴人X1の地位ならびに一切の権利義務を第三者に譲渡をしてはならない。また、本件新聞販売店契約に基づく控訴人X1の業務を第三者に委託してはならない。ただし、三か月前に書面で申し出て被控訴人が承諾したときは、この限りでない(一五条)。
(サ) 契約期間
本契約の有効期間は、契約締結の日から満三年とする。ただし、期間満了の三か月前までに控訴人X1と被控訴人の両当事者から書面による解約の申し入れがないときは、本契約は、さらに、二年間延長されるものとし、以後も同様とする(一六条一項)。
(シ) 解除
被控訴人は、控訴人X1が次の各号の一つに該当する場合は、相当の期間を定め、催告した上でこの契約を解除することができる。ただし、第一号から八号の場合には、何らの通知催告なく直ちに解除することができる(一七条一項)。
本件において問題となる解除事由は、下記のとおりである。
記
(1) 販売代金の不払い、定価以外での販売、販売区域の侵害、新聞配達の不履行、集金等の販売業務の不正行為、第一三条第一項に規定する情報の虚偽報告、他の新聞への切替、業務放棄、所在不明等の重大な契約事項の違反、背信行為もしくは本契約を継続することが困難な事由が生じたとき
(2) 第一五条に違反したとき
(中略)
(6) 被控訴人の信用を損なう行為があったとき又は○○新聞の信頼性を損なったとき
(7) 法人の場合にあっては、被控訴人の承諾なく代表取締役が変更したとき
(中略)
(10) 第一一条(増紙努力)に違背したとき
オ 控訴人X1の状況等
(ア) 控訴人X1は、家族四名及び従業員四九名を使用してかちまいa販売店を経営していた。
(イ) 控訴人X1は、当時代表取締役となっていた勝毎折込センターとかちまいサービスとの軋轢があった上、後記カの業務改善・報告命令書の発令を受け、本件新聞販売店契約の解消を示唆されたこと、エリア分割を求められたことなどが要因となって、発汗、不眠、頭痛、倦怠感、憂うつ等の症状が現れ、平成一七年一〇月三一日、反応性抑うつ状態と診断され、以後、業務を継続しながら通院治療を受けるようになった。
(ウ) 控訴人X1は、反応性抑うつ状態となった後も入院することはなく、かちまいa販売店の営業に関し、接客態度、拡販方法及び未配誤配の防止等につき従業員に指示し、新規読者を開拓した者や自振り獲得者に報奨金を出し、かちまいa販売店としての意思決定を行った。その結果、控訴人X1が療養していた期間においても、従業員等の働きかけにより一定の新規購読者を開拓することができた。また、控訴人X1は、自身の代理人としてD(控訴人X1の二女Eの夫。以下「D」という。)をかちまい会総会やブロック会議などに出席させた。
カ 業務改善・報告命令書の発令
(ア) 平成一六年一二月二二日、被控訴人は、控訴人X1に対し、同日付け業務改善・報告命令書により、①勝毎折込センターが約一四年前に第三者からチラシの折込枚数の水増しのことで脅され、控訴人X1がその者にポケットマネーで一〇万円を支払い、最近になって、同じ人物から同様の電話が入ったことについて、文書で報告するように指示をしたにもかかわらず、連絡・報告がないので、その経緯を文書で報告すること、②フューチャーブレインの導入に伴う読者データの提出が遅延した経緯を報告すること、③控訴人X1が新聞公正取引協議会道東支部の販売店代表委員であるにもかかわらず、同月一〇日に開催された同支部の会議を無断欠席したことについて、その理由と今後の対応を報告すること、④控訴人X1が業務の一部を第三者に委託していることについて、受託者の履歴、委託期間や受託者に対する指導・管理、受託業務の現状を報告することを求めた。
これに対し、同月二九日ころ、控訴人X1は、被控訴人に対し、同日付け文書により、①ないし④について回答し、過誤を認めて謝罪したが、④のうち、控訴人X1が業務の一部を委託している第三者の履歴については、その必要性を説明して欲しいとして提出しなかった。
(イ) 平成一七年一月六日、被控訴人は、控訴人X1に対し、同日付け業務改善・報告命令書2により、前記①②④の追加報告と、⑤平成一六年一二月三一日付新聞及び平成一七年元旦号に合計五件の未配が発生したことについての原因と対策の報告を求めた。
これに対し、控訴人X1は、そのころ、被控訴人に対し、「平成一七年一月六日付業務改善、報告命令書」と題する書面により、前記①②④及び⑤について回答し、④につき受託者の履歴書等を提出した。
(ウ)a 平成一七年二月八日、被控訴人は、控訴人X1に対し、同日付け業務改善・報告命令書3により、⑥クレジットカードでの支払いを希望した新規購読者一名のクレジットカードでの引落手続が遅延したことに関し、その経緯や購読者からの要望等を業務に反映させるための取組み等の報告を求めた。
b これに対し、控訴人X1は、同月一七日ころ、被控訴人に対し、同日付け文書により、⑥について、顧客への謝罪及び今後の読者サービスのための対応等につき報告した。
c 平成一七年一一月三〇日、被控訴人は、控訴人X1に対し、同日付け書面により、控訴人X1の営業区域の分割・移譲について、同年九月八日に控訴人X1の営業区域のうち約一〇〇〇部相当の配達エリアを分割し、控訴人X1が被控訴人に移譲する旨の合意をしたにもかかわらず、上記移譲が進展しないことから、合意の実現に向けてどのように進めていくつもりであるかを知らせるよう求めた。
d これに対し、同年一二月一五日、控訴人X1は、被控訴人に対し、同日付け「ご回答」と題する書面により、同年九月八日に被控訴人から営業区域の分割・移譲について提案があったものの、控訴人X1がこれに合意した事実はなく、今後、営業区域の分割・移譲の協議には応じる意思がないことを回答した。
e 平成一八年一月一八日、被控訴人は、上記回答を受けて、控訴人X1に対し、同日付け「ご連絡」と題する書面により、従前の営業区域の分割・移譲の合意を前提とした協議に応じるよう依頼するとともに、被控訴人が控訴人X1について「従前から様々な問題点を有する販売店であると認識し」、「X1店主の根本的な業務姿勢に強い疑念を抱いて」おり、「X1店主が、一方的に合意内容を破棄し、今後とも当社の方針に従わないようであれば、販売店契約解除にまで発展せざるを得ません。」と述べて、エリア分割、譲渡の協議に応じるよう求めた。
f 平成一八年一二月一六日、被控訴人は、D及び控訴人X1の長男のFを本社に呼び、増紙営業奨励金がかちまい中央・かちまい稲田を除く一八店舗中一五番目の成績であること、店の活動量が少ないこと、店主が対外活動をしていないことなどの問題点を指摘した。
(エ) 平成一九年六月七日、被控訴人担当者は、控訴人X1の妻G(以下「G」という。)を介して、同日付け業務改善・報告命令書4を控訴人X1に交付し、これにより、⑦かちまいセンターゲートエリアへの越境配達の事実関係及び他の越境配達の有無を報告すること、⑧控訴人X1が「療養中」などの理由により公式行事、ブロック会議等を欠席し、被控訴人担当者が訪問した際も応対せず、店主としての責任を果たしていない現状を踏まえて、今後の販売店の体制・方針を明確にすることを求めた。そして、前記六月七日のやりとりの中で、被控訴人担当者は、Gに対し、同年九月末日の契約終了期限で、控訴人X1との本件新聞販売店契約は終りにし、販売店業務を別の人間に担当してもらうと思っていると発言した。
これに対し、平成一九年六月一八日ころ、控訴人X1は、被控訴人に対し、回答書により、⑦及び⑧について回答し、⑦については既に越境配達を止めている旨、⑧については店主代行者として活動してきたDを正式な後継者として決定したので、Dのもとで引き続き販売店契約を継続することを要望した。
(オ) 平成一九年六月二一日、被控訴人は、上記回答を受けて、控訴人X1に対し、同日付け「御連絡」と題する書面により、実質上Dが中心となって販売店業務を行ってきた平成一七年四月から平成一九年四月までの二年間の実績が不良であることなどから、同人を後継店主として認めることはできないと回答し、控訴人X1との今後の契約関係については、被控訴人の結論を同年六月末までに文書で通知する旨連絡した。
キ 平成一九年六月二九日、被控訴人は、控訴人X1に対し、同日付け新聞販売店契約更新拒絶通知書(以下「本件更新拒絶通知書」という。)により、本件新聞販売店契約をその契約期限である同年九月二九日をもって終了し、同月三〇日以降更新する意思がないことを通知した(本件更新拒絶)。本件更新拒絶通知書には、契約を更新しない理由として、①店主不在の販売店経営、②減り続ける実配部数、③自振り率の低さ、④苦情件数の多さ、⑤新聞販売店主としての資質の不足、⑥被控訴人との信頼関係の崩壊、⑦被控訴人に無断で第三者に対し業務を委託した件、⑧配達員の越境配達、⑨四度に及ぶ業務改善・報告命令書の発令が列挙されていた。
他方、本件更新拒絶通知書には、被控訴人が検討している本件更新拒絶をめぐる補償条件として、①F、Dの二名をかちまいサービスの契約社員として雇用する用意があること、②代償金として、○○新聞一か月分購読料二二〇〇円にかちまいa販売店の平成一九年六月の定数四七七五部を乗じた一〇五〇万五〇〇〇円を支払う用意があること、③預かり保証金六六八万四一五六円については債務等を精算した残金を業務引継完了後一か月以内に返還すること、④什器・備品、折込機や車両など業務に関わる機材等について、被控訴人が必要と判断した場合には引き取る用意があること、⑤引き続き働くことを希望する従業員に対しては、被控訴人が面接の上で継続して雇用する用意があることなどの提案が記されており、被控訴人担当者とG、D等との間において、同月二九日に行われた交渉の際、Gは、部数を削ってもDに販売店をやらせてもらえないかとの意向を示した。
ク 平成一九年六月三〇日、被控訴人は、Gを通じ、控訴人X1に対し、控訴人X1と被控訴人との本件新聞販売店契約を終了した上で、エリアを縮小してDと新たな契約を締結するという妥協案を提示し、協議を行った。
ケ このような状況のもと、控訴人X1は、熟慮の上、平成一九年七月三日付けの回答書により、本件更新拒絶通知書に対し、「契約の更新を拒絶される理由はなく、更新拒絶は失当であり、契約を更新するよう請求いたします。」旨回答し、被控訴人の主張する本件更新拒絶の理由について反論を述べるとともに、控訴人X1としては、今後は、Dが店主として販売店業務をしていきたい旨求めた。
コ 平成一九年七月四日、被控訴人によりDの店主としての適正判断のための面接が行われた。その際、Dは、被控訴人の提案する分割を受け入れることはできず、裁判をしてでも現在の部数を確保したい旨の意向を示した。さらに、同年八月九日、控訴人X1は、被控訴人に対し、同日付け「ご連絡」と題する書面により、本件更新拒絶は理由がないこと、かちまいa販売店を訴外会社に引き継ぎ、今後、Dを店主とすることを認めて欲しい旨を通知した。
サ 平成一九年八月九日、控訴人X1及び訴外会社は、被控訴人に対し、同日付け「ご連絡」と題する文書により、被控訴人が契約を更新しない理由として挙げているところの①店主不在の販売店経営、②減り続ける実配部数、③自振り率の低さ、④苦情件数の多さ、⑤新聞販売店主としての資質の不足、⑥被控訴人との信頼関係の崩壊、⑦被控訴人に無断で第三者に対し業務を委託した件、⑧配達員の越境配達、⑨四度に及ぶ業務改善・報告命令書の発令については、いずれも本件新聞販売店契約の更新を拒絶する正当な理由とは認められないこと、Dの後継を認めない被控訴人の主張には正当な理由がないこと、本件新聞販売店契約の更新等を求めて九月上旬ころまでに法的手続をとる予定であることなどを通知した。
そして、平成一九年九月一四日、控訴人X1は、本件更新拒絶の通知は不服であるとして、新聞販売店としての地位保全を求める仮処分を本件事件の原審裁判所に申し立てた(釧路地方裁判所帯広支部平成一九年(ヨ)第二一号)。そして、同年九月二六日、同事件において、控訴人X1と被控訴人との間で、①本案訴訟について、第一審判決が言い渡される日又は本案訴訟の第一審の和解が成立するまで、控訴人X1が本件新聞販売店契約上の地位を有することを仮に認める、②控訴人X1は、同年一一月末日までに本件仮処分の本案訴訟を提起する、③控訴人X1は仮処分申立てを取り下げること等を内容とする和解が成立した(以下「本件和解」という。)。そこで、被控訴人は、本件和解に基づき、従前のとおり新聞の供給を継続した。
シ 平成一九年九月三〇日現在、かちまいa販売店は、控訴人X1が経営し、G、F、D、その妻Eの家族四名とともに販売店業務を行ない、常勤の営業社員四名と配達員としてパート従業員四五名を雇用していた。
ス 平成一九年九月三〇日、被控訴人は、販売店に対し、翌一〇月一日から新聞の卸売価格及び小売価格をそれぞれ二八六円(税別)値上げし、卸売価格を一六六二円、小売価格を二五〇〇円とする旨を通知し、値上げを実施した。なお、従来、卸売価格の値上げ額は、販売店が一部当たりで取得する利益率を考慮し、小売価格の値上げ額よりも低く抑えられてきたが、今回の値上げ額は、小売価格の値上げ額と同額であったため、販売店の利益率が低下した。
セ 平成一九年一一月三〇日、控訴人X1は、被控訴人を被告とし、本件更新拒絶には正当な理由がなく無効であるとして、同日以降も、債権者が本件新聞販売店契約上の地位にあることの確認等を求める本件訴訟を提起した。
ソ 平成二二年一月二二日、被控訴人の担当者は、販売店に対し、新聞の卸価格を帯広市内近郊店については、同年三月分より一部当たり二〇〇円(税込みで二一〇円)値上げし、小売価格については二五〇〇円を維持する旨通知した。そして、被控訴人は、控訴人らから、上記値上げが独占禁止法二条九項の「不公正な取引方法」に当たるとの指摘を受け、同年二月一九日、同日付け「卸値値上げについてのご回答」と題する書面をもって、かちまいa販売店を含む全販売店に対し、値上げの理由について再度説明をした上、同年三月分から、新聞の卸値一六六二円を二〇〇円上げて一八六二円(税別)とする旨通告した。
タ 平成二二年三月二九日、本件事件について、控訴人X1らの請求をいずれも棄却する旨の原判決が言い渡された。平成二二年三月三〇日、控訴人らは、原判決に対して控訴するとともに、同年四月九日、控訴人X1は、控訴審の判決を待っていては回復し難い損害が生じるとして、販売店地位保全仮処分(札幌高等裁判所平成二二年(ウ)第五八号)を申し立てた。
チ 平成二二年四月三日、被控訴人は、控訴人X1に対する新聞の供給を停止し、控訴人X1の四四五〇部の一部を、かちまい栄とかちまい東栄、かちまいセンターゲートに移転させ、残りをかちまいノースゲートの取扱部数として新設し、営業を開始させた。
ツ 平成二二年九月一七日、札幌高等裁判所は、保全の必要性は認められないとして、上記販売店地位保全仮処分の申立てを却下した。
テ 控訴人X1は、現在七八歳(昭和八年○月○日生)の年金受給権を有する高齢者であるが、現在のところ、販売店収入を失い、貯蓄を取り崩して生活している状況である。なお、同人には負債は認められない。
(3) 販売店普及率について
ア 販売店普及率は、販売店の定数(または実配部数)をエリア内の世帯数で除し、パーセンテージで表したものであり、販売エリア内で、新聞がどの程度購読されているかを示す指標である。
実配部数は、一時止め部数、戸別配達部数(現実に新聞を読者のもとまで配達した部数)、郵送部数(農村や遠隔地などの理由により、配達が困難で郵送配達している部数)、即売売切り分部数(コンビニ、駅、病院、ホテルなどに納品している部数)の合計であり、各販売店が被控訴人に対し毎月「販売店レポート」により報告するものである。各販売店は、実配部数の増減が営業成績に直結することから、正確にその部数を把握し、申告している。
エリア内の世帯数は、各自治体からの情報をもとに毎年八月末時点の世帯を被控訴人において販売店ごとに区分けして、集計したものである。
以上のように、販売店普及率は、虚偽報告をしていたという例外があるものの、実配部数及び世帯数がともに客観性のある数字であることから、販売店のエリア内における購読率を割り出す信用性の高い数値である。
イ 控訴人X1は、平成一九年九月二九日に更新を拒絶されているところ、同年一〇月時の分析表は、同年九月時のエリア再編による世帯数の変動を反映したものであり、上記時点における販売店すべての営業活動を客観的に表しているものである。
同分析表によると、かちまいa販売店は、実配部数を分子とする販売店普及率で帯広市内一七店舗中の一二位、FBを分子とする販売店普及率で帯広市内一三店舗中の六位に位置する。また、平成一七年五月から更新が拒絶された平成一九年九月までの期間において、帯広市内の販売店舗(その母数は変動がある。)の中で、実売部数を分子とする販売店普及率が九位ないし一二位、FBを分子とする販売店普及率が七位ないし一二位の位置にある。
さらに、被控訴人が提出する販売店普及率比較表によれば、平成一九年九月三〇日におけるかちまいa販売店の販売店普及率は、一二店舗中の一〇位、実配部数二〇〇〇部以上の九店舗に限ると九位に位置している。
ウ 平成一七年五月時点と平成一九年一〇月時点の販売店普及率の差異を比較した場合、かちまいa販売店は、一・〇九%減少したが、かちまいa販売店以上に販売店普及率が減少した店舗として、かちまい南町東、かちまい東部、かちまいb、かちまいdの四店舗が存する(なお、平成二〇年九月の時点で虚偽報告が発覚したかちまい南部四店舗(かちまい緑ケ丘、かちまい鉄南、かちまい南町西、かちまい東部南)並びに平成一七年五月当時存在していなかったかちまいセンターゲート及びかちまいサウスゲートを除く一一店舗により比較したもの。)。
エ 被控訴人の提出する販売店実配普及率表によると、平成一六年四月時と平成一九年九月時の販売店普及率の増減値を比較した場合、かちまいa販売店の販売店普及率が-二・〇九%であるところ、かちまいa販売店より販売店普及率が減少した店舗として、かちまいbの-二・四八%があり、また、かちまいeが-二・〇七%、かちまい東部が-二・〇%減少しており、販売店普及率が増加した店舗はかちまい緑西の一店舗に過ぎない。
二 争点に対する判断
(1) 争点(1)(被控訴人の控訴人X1に対する本件新聞販売店契約の更新拒絶の可否)について
ア 本件新聞販売店契約は、販売店である控訴人X1が、○○新聞を発行する被控訴人から、毎日、その指定する金額で○○新聞を購入する(買切り)とともに、同新聞の購読者にこれを再販売することを内容とし、被控訴人が控訴人X1に営業区域内における排他的販売権を付与し、これに対応して控訴人X1が競合する他社の新聞の取扱をしないこととし、さらに、被控訴人の定める定価で購読者に新聞を販売しなければならず、被控訴人から経営指導を受け、被控訴人に対し情報提供をする義務を負うものである。そして、かちまいa販売店を経営する控訴人X1は、販売業務のために店舗の設備を整え、従業員を雇用するなど多額の資本投下を余儀なくされている。また、本件新聞販売店契約の契約期間は三年間と定められているものの、期間満了の三か月前までに一方当事者からの解約申入れがない限り二年間延長される旨の自動更新条項が定められており、さらに、控訴人X1と被控訴人との間においては、昭和四五年一〇月ころから、概ね三年ごとに新聞販売店契約の更新や自動更新が重ねられている。このような事情を考慮すると、本件新聞販売店契約は、被控訴人と控訴人X1との信頼関係を基礎として、継続的に続いていくことを前提としていると解されるから、被控訴人がこれを解除又は更新拒絶するためには、販売店の著しい不信行為、販売成績の不良等により、被控訴人と控訴人X1との信頼関係が破壊されるなど、本件新聞販売店契約の継続を期待しがたい重大な事由が存することが必要であるというべきである。本件新聞販売店契約一七条に規定する解除事由も、当然このことを前提としていると解される。
そこで、以下、本件において「取引関係の継続を期待しがたい重大な事由」が認められるかどうかについて検討する。
イ 販売店普及率の検討
(ア) 営業成績を比較する上で、販売店普及率を客観的な基準とすることの当否について
a 控訴人は、販売店の営業成績を比較する上で、客観的な基準となるのは、販売店普及率であると主張する。
そこで、販売店普及率の有用性について検討するに、前記一(3)アのとおり、販売店普及率は、その基礎となっている実配部数及び世帯数がともに客観性のある数字であると認められるから、販売店のエリア内における購読率を割り出す信用性の高い数値であるといえる。控訴人X1は、平成一九年九月二九日に本件新聞販売店契約の更新を拒絶されたところ、同年一〇月時の分析表は、同年九月時のエリア再編による世帯数の変動を反映しており、前記時点における販売店普及率を客観的に把握するための適切な資料であるというべきである。
b これに対し、被控訴人は、特定の時点の販売店普及率だけを取りあげることは、偏った見方であり、推移も明らかにしなければ各販売店の正確な営業努力・成績を把握することはできないと主張する。
しかし、本件は、控訴人X1が経営するかちまいa販売店について、本件新聞販売店契約による取引関係の継続を期待しがたい重大な事由があるか否かが争点となっているのであるから、販売店の営業成績を評価するにつき、更新拒絶の時点(平成一九年九月の時点)における他の販売店との間の販売店普及率を比較することには合理性があるというべきである。
c また、被控訴人は、再編対象となったエリアにおける実配部数、販売店普及率は、前任販売店の営業成果であり、後任販売店の成果ではないから、エリア再編を行った店舗と他の店舗を同列に扱えないと主張する。
しかし、エリア再編時及びそれ以降の各時点ごとに販売店普及率を出し、その増減値を比較し、そして、販売店普及率の推移を割り出し、さらに販売店の営業規模や環境の相違点を考慮することもできるのであり、再編対象のエリアについては、一律に、販売店普及率を出さないというのは相当ではない。
d さらに、被控訴人は、各販売店の経営規模等の経営力やエリア特性(高齢者世帯や生活困窮者世帯が多いなど)の違う販売店同士を、販売店普及率という同じ物差しで評価することは、著しく公平さを欠くと主張する。
しかし、販売店普及率は、各販売店のエリアの規模に左右されない客観的な基準であり、そのほかに販売店普及率の推移、販売店実配部数の推移、活動量等の諸要素を考慮して営業成績を評価することもできるのであるから、まず、全販売店につき、販売店普及率を出すのが公平であると解される。
(イ) 販売店普及率の認定
前記一(3)イないしエのとおり、販売店レポートにより報告されている実配部数を世帯数で除して販売店普及率を算出すると、かちまいa販売店は、平成一七年五月から更新が拒絶された平成一九年九月までの期間において、帯広市内の販売店一七店舗中の九ないし一二位の位置(FBを世帯数で除して販売店普及率を算出すると七位ないし一二位の位置)にある。また、同年一〇月時の分析表によっても販売店普及率の順位は帯広市内一七店舗中の一二位(FBの数値をもとにした販売店普及率は六位)の成績を収めており、さらに、被控訴人が提出する平成一九年九月三〇日における帯広市内専売店普及率比較表における一二店舗の販売店普及率によっても、控訴人X1は、比較対象一二店中一〇位であり、同日現在の実配部数二〇〇〇部以上の九店舗においては、九位である。そうすると、かちまいa販売店の販売店普及率は、販売店のうち下位に位置しているものの、かちまいa販売店よりも下位に位置する販売店が複数あるということができ、この点から、かちまいa販売店の営業成績が著しく不良であると認めることはできない。
(ウ) 販売店普及率の減少値
平成一七年五月時点と平成一九年一〇月時点の販売店普及率の差異を比較した場合、かちまいa販売店は、一・〇九%減少したが、かちまいa販売店以上に販売店普及率が減少した店舗として、かちまい南町東、かちまい東部、かちまいb、かちまいdの四店舗が存する(平成二〇年九月の時点で虚偽報告が発覚したかちまい南部四店舗(かちまい緑ケ丘、かちまい鉄南、かちまい南町西、かちまい東部南)並びに平成一七年五月当時存在していなかったかちまいセンターゲート及びかちまいサウスゲートを除く一一店舗の比較)。
なお、被控訴人は、乙六二の一覧表により、平成一六年四月から平成一九年九月までの間、六か月ごとの販売店普及率の推移を比較しているところ、この一覧表は、エリアの再編、虚偽報告を理由に、帯広市内の一七店舗中八店舗を除外し、九店舗にまで比較対象の販売店を絞り込んでいるが、これによってもかちまいa販売店の販売店普及率の低下割合は八位であり、最下位となっていない。
(エ) 販売店普及率の推移
平成一六年四月時と平成一九年九月時の販売店普及率の増減値を比較した場合、かちまいa販売店が-二・〇九%であるところ、かちまいa販売店より販売店普及率が減少した店舗として、かちまいbの-二・四八%が認められ、また、かちまいeが-二・〇七%、かちまい東部が-二・〇%減少しており、販売店普及率が増加した店舗はかちまい緑西の一店舗に過ぎない。
なお、被控訴人は、平成一六年から平成一九年までの間のかちまいa販売店の販売店普及率を見ると、平成一六年四月には六〇・一五%であったが、平成一九年九月末で五八・〇六%と-二・〇九%も落ち込み、九店中下から二番目であったところ、その後も販売店普及率の減少傾向は止まらず、平成二〇年三月時点で五七・三四%にまで落ち込んだと主張するが、これを認めるに足りる証拠は存在しない。
確かに、各店舗からの販売店レポートをもとに、かちまいa販売店の実績等を集計すると、かちまいa販売店の平成一六年から平成一九年までの間の販売店普及率の増減値は、平均を下回っている。
しかし、前記(ウ)の各販売店の平成一七年五月と平成一九年九月との販売店普及率の比較の結果を考慮すると、かちまいa販売店よりも下位に位置する販売店が存在する可能性が高いのであり、かちまいa販売店の販売店普及率が平均を下回っていることから、直ちに、かちまいa販売店の営業成績が著しく不良であると認定することはできない。
ウ 被控訴人の主張する取引関係の継続を期待しがたい重大な事由について
被控訴人は、本件訴訟において、本件更新拒絶通知書において更新拒絶事由として挙げた①店主不在の販売店経営、②減り続ける実配部数、③自振り率の低さ、④苦情件数の多さ、⑤新聞販売店主としての資質の不足、⑥被控訴人との信頼関係の崩壊、⑦被控訴人に無断で第三者に対し業務を委託した件、⑧配達員の越境配達、⑨四度に及ぶ業務改善・報告命令書の発令という各項目のほかに、販売店活動量、目標増紙部数の達成の有無等を問題として、控訴人X1の経営するかちまいa販売店には取引関係の継続を期待しがたい重大な事由が存在すると主張するので、以下検討する。
(ア) 販売店活動量について
a 被控訴人は、各店舗からの販売店レポートをもとに帯広市内及び木野・木野東の店主活動量比較表を作成しているところ、かちまいa販売店の平成一七年一〇月から平成一九年九月までの間の店主の新規購読者数に対する新読挨拶の率及び購読中止者数に対する中止挨拶の率は、一七店舗のワースト5に入っており、実配部数に対する現読挨拶の率も六位であること、平成一七年四月から平成一九年九月までの間の店主拡張日数、未読者数に対する店主訪問件数及び店主面談件数は、いずれも一六店舗中の最下位であること、新規購読者数に対する店主拡張実績は、下から二番目という成績であること、平成一七年一〇月から平成一九年九月までの間は、集計した一六店舗中唯一、販売店主としての活動実績(店主拡張日数、店主訪問件数、店主面談件数、店主拡張実績)が零であることなどを問題とし、販売店活動量が不良であると主張する。
b しかし、控訴人X1は、上記期間、勝毎折込センターとかちまいサービスとの関係や被控訴人から出された業務改善・報告命令書により本件新聞販売店契約の解消を示唆されたことなどが一つの要因となって反応性抑うつ状態になっていたのであるから、店主活動量の成績が劣る合理的な理由があったとみるべきである。しかも、控訴人X1は、従業員に対する指示や報奨金の支払をするなどして一定の新規購読者を開拓していることを考慮すると、上記期間、控訴人X1が販売店主としての活動実績がなかったからといって、かちまいa販売店の営業成績が著しく不良であると認定することは相当でない。
(イ) 店主不在の販売店経営について
a 被控訴人は、控訴人X1の体調不良等によって、かちまいa販売店が店主不在の経営となっていたと主張する。
確かに、控訴人X1は、平成一七年一〇月三一日、反応性抑うつ状態と診断されている。
しかし、控訴人X1が、体調不良になったのは、被控訴人との軋轢による精神的不安が発症の一要因となったことは否定できないのであって、上記控訴人X1の体調不良をことさら重視し、かちまいa販売店が店主不在の経営となっていたというのは相当ではない。
また、控訴人X1は、家族四名と従業員四九名を使用してかちまいa販売店を経営し、反応性抑うつ状態になった後も入院せず、接客態度、拡販方法及び未配誤配の防止等につき従業員に指示し、新規購読者を開拓した者や自振り獲得者に報奨金を出すなどして一定の新規購読者を開拓し、かちまい会総会やブロック会議などにはDを代理として出席させるなどし、かちまいa販売店としての意思決定を行っていたことを考慮すると、かちまいa販売店が店主不在の状況になっていたと認めることはできない。
したがって、上記控訴人X1の体調不良等をもって更新拒絶の重要な事情と認めることはできないというべきである。
b ところで、被控訴人は、新聞販売店契約を締結するに当たっては、販売店主個人が被控訴人との間で信頼関係を築くにふさわしいか否かが重要であるから、店主の不在は販売店経営を委託するについては大きな問題であると主張する。
確かに、被控訴人の指摘するように、新聞社としては、販売店主に対し経営者としての資質・能力、適格性を求めることはもっともなことであるから、当然に店主個人の営業成績を検討することも理由がある。
しかし、販売店を経営していくには、販売店全体の営業成績や業務運営態勢も重要な要素であることは否めないところであり、また、店主は、販売店全体を統括指揮する立場にいるのであるから、店主個人の営業成績を分析するとともに販売店全体の営業成績を検討する必要があるというべきである。かかるところ、平成一七年一〇月以降、控訴人X1の拡張日数が零であっても、販売店全体としては新規成約件数を獲得していることからすると、販売店としての機能は維持されているとみるのが相当である。
c 以上のようなかちまいa販売店全体としての活動状況と控訴人X1の体調不良等の事情を考慮すると、被控訴人が主張する店主不在の販売店経営をもって本件更新拒絶を正当化する重要な事情と認めることはできない。
(ウ) 実配部数の減少について
a 被控訴人は、乙二八号証の一覧表により、平成一六年四月から平成一九年九月までの間の帯広市内のかちまい販売店九店舗の六か月ごとの実配部数の推移を各店舗からの販売店レポートをもとに比較し、かちまいa販売店は、実配部数の減少が-一八八ともっとも多く、また、増減率も、九店舗中の最下位であると主張する。
かかるところ、上記一覧表は、上記期間内に存在した帯広市内の一七店舗ないし一八店舗中、エリアの再編を理由として、かちまい南町東、かちまい鉄南、かちまい緑ケ丘、かちまい南町西及びかちまい東部南の五店舗を、虚偽報告を理由として、かちまいdの一店舗を、また、平成一九年三月をもって営業を廃止し、営業区域をかちまいサウスゲート等に承継したかちまい稲田をそれぞれ除外し、九店舗を比較対象としている。
しかし、そもそも、実配部数のみの増減数や増減率を取り上げるのであれば、エリア再編で編入された地区を含めてすべての販売店につき実配部数を算出し、その上でエリア再編に伴う修正要素を考慮するべきであって、エリアの再編のあった店舗を一律に集計の店舗から除外することは相当ではないというべきである。
b 被控訴人は、実配部数の増減部数について、販売店普及率推移表(平成一六年~平成一九年普及率)を作成し、平成一六普及率に対する平成一九年普及率増減率が、全販売店合計一・五二%、帯広市内専売店小計-一・八六%、帯広市内+近郊専売店合計-〇・六四%に対し、かちまいa販売店は-二・七四%であり、実配部数を著しく減少させていると主張する。
しかし、販売店普及率推移表・販売店普及率推移・販売店普及率差・販売店普及率増減率では、虚偽報告を理由に、かちまいdと株式会社勝毎南部販売所の四支店(かちまい緑ケ丘、かちまい鉄南、かちまい南町西、かちまい緑西)を比較対象から除外しているが、かちまい販売店の世帯数の算定方法には以下のcのとおり問題がある上、販売店普及率推移表は、かちまいa販売店の実配部数が各販売店の中でどのような位置を占めているのかを明らかにするものではないから、実配部数又はその増減率のみでかちまいa販売店の営業成績が著しく不良であると認めることはできない。
c 被控訴人は、販売店世帯数表により、平成一九年四月段階での各店舗ごとの世帯数を明らかにしているところ、上記販売店世帯数表によれば、かちまい栄は三一七三世帯、かちまい西帯広は四二〇九世帯である。しかるに、被控訴人は、かちまい稲田事件においては、かちまい栄の世帯数は三三九四世帯、かちまい西帯広の世帯数は四三二三世帯であるとしており、被控訴人の主張には、世帯数について整合性を欠くといわざるを得ない。
この点につき、被控訴人は、かちまい栄とかちまい西帯広は、広大な工業団地と流通団地を抱え、住居が少なく、事業所が点在し、配達時間に通常の三倍程度かかる等の事情を考慮し、他店との公平を図る必要から世帯数を減少させたと主張するが、配達・拡張のコストと普及率の算出との間の関連性は乏しく、世帯数を減少させる合理的理由とはいい難い。
d 被控訴人は、工業団地及び流通団地の規模が比較的小さい事業所等では、当該事業所で被控訴人の新聞を購読している場合、事業所経営者の自宅では被控訴人の新聞を購読しない可能性が高まり、工業団地、流通団地内のすべての事業所経営者がかちまい栄、かちまい西帯広エリア内に居住していないにしても、該当する世帯数が一定以上存在すると推察し、被控訴人発行のフリーペーパー「Chai」の配布数により把握している事業所数に対して、流通団地に関しては六五%、工業団地に関しては五五%の乗率をかけた数値を、それぞれ世帯数から控除した旨主張するが、上記乗率が合理的なものであることを裏付ける証拠はない。
また、被控訴人は、かちまい中央事件において、かちまい中央販売店が管轄するエリアには事業所が多いことを考慮し、帯広市の公表に基づく世帯数(事業所は含まれない。)に、被控訴人が同エリアを現地確認した事業所数一三一四件を加算しているが、本件においては、帯広市の公表に基づく世帯数から一定割合の事業所数を減らしており、一貫性を欠き、公平でない。
(エ) 目標増紙部数の達成の有無
被控訴人は、目標増紙部数及び実績につき、かちまいa販売店は、三五〇〇部以上の実配部数を持つ七店舗中二年連続で純減となった唯一の店舗であり、平成一八年度、同一九年度の二年で通算して純減数が一二六部にものぼり、少なくないと主張する。
確かに、かちまいa販売店は、平成一八年度は目標増紙部数八〇のところ-七一、平成一九年度一四〇のところ-五五であり、目標を達成できていない。
しかし、各販売店毎の目標増紙部数の設定の根拠が不明であり、かかる目標増紙部数の設定の合理性に疑問があること、三五〇〇部以上の実配部数を持つ帯広市内及び近郊の専売店七店舗のうち、目標増紙部数を達成できたのは、平成一八年度が一店舗(木野。ただし目標増紙部数はかちまいa販売店の二分の一である。)、平成一九年度が三店舗(木野、芽室、音更。ただし目標増紙部数はかちまいa販売店の七一%ないし二九%である。)にとどまり、帯広市内の専売店はいずれも目標増紙部数を達成していないこと、かちまいa販売店の目標増紙部数の達成率の低下には、平成一七年一〇月以降の控訴人X1の体調不良が関わっていると推認されることなどの事情を考慮すると、増紙目標及び目標達成率をもって、かちまいa販売店の営業成績を不良というのは相当ではない。
(オ) 自振り率の低さについて
新聞購読料の自動引落としサービスは、金銭トラブルを減らし、販売店の労力軽減を図ることが目的であり、新聞の長期購読者確保につながるというメリットがある。
かかるところ、被控訴人は、「販売店自振り率及び平成一九年九月:平成二〇年三月対比伸び率」と題する一覧表を作成し、帯広市内と木野のかちまい販売店一八店の平成一九年六月の自振り率の平均値が四三・三五%、平成一九年九月の平均値が四六・〇三%、平成二〇年三月の平均値が五〇・八三%、伸び率四・八〇%であるところ、かちまいa販売店の自振り率は、平成一九年六月は三七・六六%、平成一九年九月が四三・七七%、平成二〇年三月が四五・五九%であり、平成一九年九月から平成二〇年三月までの伸び率も一・八二%であり、下位に位置していると主張する。
確かに、他の販売店と比較した際、かちまいa販売店の自振り率や自振り率の伸び率が下位に位置していることが認められる。
しかし、一八店舗の販売店の中には、かちまいa販売店の自振り率を下回る販売店もあり、また、かちまいa販売店の平成一九年六月から平成二〇年三月までの伸び率は全体の六位に位置し、平均を上回っているものであり、被控訴人の取り上げる数値は恣意的であるとの誹りを免れない。そもそも購読料の振込方法は、購読者自身が選択すべきことであって、自振り率が下位に位置していることは、購読料の集金に伴う煩瑣な手続、回収困難等の負担を各販売店が負うということである一方、集金の際に販売店の従業員が購読者と接して購読の継続を働きかける機会を作るという側面もあり、販売店の営業成績の不良に直接に結びつくものとは言い難い。また、被控訴人が上記一覧表を作成した時点においては、控訴人X1は体調不良となっていたことからすると、かちまいa販売店の自振り率が下位に位置することには相応の理由があったとみることもできる。
したがって、自振り率が低いことをもって本件更新拒絶を有効とする重要な事情と認めることはできない。
(カ) 苦情件数の多さについて
被控訴人は、かちまいa販売店は、平成一五年以降、合計二二九件もの未配による苦情連絡が、平成一五年より前も悪質な業務内容を示す苦情が、それぞれ読者から被控訴人に寄せられ、また、かちまいa販売店に対する苦情件数、割合は、他店に比較しても多く、さらに、平成一九年一〇月以降も読者からの複数の苦情が寄せられていると主張する。
確かに、未配・苦情対応報告書によれば、購読者から被控訴人に対しかちまいa販売店に対する未配による苦情が多く寄せられていること、「平成一五年~平成二〇年三月まで本社に寄せられた読者からの苦情店別%」と題する書面によれば、かちまいa販売店に対する苦情の件数は四三件であり、帯広市内の一五店舗のうち二番目に多く、また、苦情発生率(苦情件数を購読者数で除したもの)も〇・九三〇%と三番目に高いことが認められる。
しかし、未配率(購読者宅に定刻通りに新聞が届かない件数を購読者数で除したもの)については帯広市内一五店舗のうち一一位であり、むしろ少ない上、苦情の多さやその内容を問題とするのであれば、被控訴人としては、指導監督の対象とし、是正すべきところ、控訴人X1に対する四度にわたる業務改善・報告命令書のうち、苦情について指摘しているのは、クレジットカードによる支払手続に関する平成一七年二月八日付けの業務改善・報告命令書3のみであり、本件訴訟に至るまで改善等の指示をしたことを認めるに足りる具体的な証拠はなく、また、前記苦情については、かちまいa販売店において顧客対応をし、顧客の一応の納得を得たこと、「平成一五年~平成二〇年三月まで本社に寄せられた読者からの苦情店別%」と題する書面は、読者数につき平成一九年八月現在の数値を使用しているところ、上記読者数に基づき、平成一五年から平成二〇年三月までの間の苦情率を一律に割り出すことは、数値の正確性に疑問が残ること、苦情の多さやその内容を問題とするのであれば、その苦情が実配部数の減少にどのように結びついているのか、苦情により購買契約が取り消されたのか否か等についての検証や裏付けが必要であるところ、その検証や裏付けがされていないこと、控訴人X1は、苦情を述べた購読者に対し、謝罪し、お詫びとしてティッシュやタオルなどを交付することで購読契約の継続に向けた努力をしていることを考慮すると、苦情件数の多さは、被控訴人及び控訴人X1の販売店の評価につき考慮すべきことではあるが、販売店の営業成績の不良に直接結びつけることは難しいというべきである。
(キ) 新聞販売店主としての資質の不足について
被控訴人は、平成三年ころ、勝毎折込センターの社長である控訴人X1が、公表している折込チラシの数が実数よりも多かったことから「H」なる人物から脅され、一〇万円を支払った事件について、報道機関たる新聞の販売店主が、身元も分からない人物に対し、脅しに屈して安易に金を渡してトラブルをもみ消そうとしたことは、新聞販売店主としての資質が不足していると主張する。
確かに、控訴人X1が被控訴人に報告することなく、私的に一〇万円を交付したことは、不適切な行動であるというべきである。
しかし、上記問題は、本件更新拒絶がされる一五年以上前の平成三年の出来事であり、事態はそのころ既に収束済みである。また、控訴人X1が金銭を支払ったことにより、被控訴人の社会的信用等が具体的にどのように毀損されたのかを裏付ける証拠はない。
したがって、被控訴人が指摘する事情をもって、現状において、控訴人X1が新聞販売店主として資質不足であると認めることはできないし、これをもって、控訴人X1の販売店の営業成績の不良に結びつけることも難しいというべきである。
(ク) 被控訴人との信頼関係の崩壊について
被控訴人は、平成一七年九月八日、控訴人と被控訴人との間で、約一〇〇〇部のエリアを被控訴人に移譲する旨合意が成立したにもかかわらず、同年一二月一五日、一方的に上記合意を反故にしてきたことから、信頼関係が崩壊したと主張する。
しかし、そもそもエリアの移譲や配達部数の減少は、新聞販売店にとっては、今後の営業活動に関わり、他方、被控訴人側においても販売店の分担等を検討するに際し重要な事項であるから、合意文書を取り交わすのが通常である。現に、勝毎南部、かちまい南町東、かちまい東部南の各販売所と被控訴人との間においてエリアの委譲等が行われた際には、平成一九年七月六日付け新聞販売委託エリア変更確認書が取り交わされている。しかるに、本件においては、移譲の合意があったことを裏付ける書面は作成されておらず、他に、これを認めるに足りる証拠もない。かえって、控訴人X1は、平成一七年九月八日、被控訴人から、エリアの東の方から一〇〇〇部ほどを被控訴人に移譲して欲しい旨の申し出があった際、自分の一存では決められないので、妻であるGと相談したいと申し出て、その返事を保留した旨供述しているところ、控訴人X1からすると、営業エリアの分割は、販売店経営の根幹に関わることであり、重要な事項であるから、控訴人X1がGに相談したいと申し向けたことは極めて自然である。他方、被控訴人としても、かちまいa販売店の方向性を実質的に決めているのは、Gである旨の回答を受けており、控訴人X1がGと相談したいと言っているのに、これを無視してエリアの委譲を合意するとも認めがたい。そうすると、控訴人X1がGに相談することなく、エリアの移譲や配達部数の減少を了承すると申し向けたと認めることはできない。
被控訴人は、平成一七年五月九日の被控訴人の本社でのランク通知の席上で、控訴人X1が、「長年下請けに出していたエリアで、東側の配達地区については手放してもよい。被控訴人の方針に従う」旨の発言をし、エリアの分割を具体化したいとの被控訴人の意向に基本的に了承したと主張し、当時の被控訴人の販売部長のI(以下「販売部長のI」という。)は、それに沿う証言をする。
しかし、もし、五月の時点で被控訴人X1が了承していたとすれば、上記のように被控訴人が同年九月に再び移譲に関する申し出をすることは通常考えられないというべきであり、販売部長Iの上記証言はたやすく信用することができない。
以上の次第で、控訴人X1がエリア移譲の合意を一方的に反故にしたことにより、控訴人X1と被控訴人との信頼関係が崩壊した旨の被控訴人の上記主張は認め難い。
(ケ) 第三者への無断の業務委託について
被控訴人は、控訴人X1が昭和五一年五月から平成一七年四月までの間、販売店業務を第三者に委託し、下請けとして使用したことを問題とする。
確かに、《証拠省略》によれば、抗告人X1は、少なくとも昭和五六年七月ころから、販売店業務を第三者へ委託し、下請けとして使用していたことが認められる。
しかし、被控訴人の元販売局員は、遅くとも平成一五年八月までに、控訴人X1が販売店業務を第三者に委託し、下請けとして使用していたことを知るに至ったのであるから、被控訴人としては、控訴人X1を指導監督するべきところ、平成一七年一月五日付けの業務改善・報告命令書2まで指導監督をしていないことを考慮すると、上記第三者への業務委託はこれを黙認していたか、黙認していたとまで認められないとしても重視していなかったと推認することができる。
この点につき、被控訴人は、当時の力関係からして控訴人X1が被控訴人の指導に従わなかったと反論するが、新聞販売店契約における新聞社の販売店に対する拘束性は強いものであり、社会経済的に見て、被控訴人が優位にあるのは明らかであるから、上記反論はにわかに信用することはできない。そして、控訴人X1は、上記業務改善・報告命令書2により、被控訴人から業務委託を問題視する旨を指摘されるや、直ちに下請制度を廃止し、業務受託者を専属の営業社員として雇用するに至っている。そうすると、仮に、第三者への業務委託が被控訴人に無断でされたものであるとしても、これをもって更新拒絶の重要な事情と認めることはできない。
(コ) 配達員の越境配達について
被控訴人は、控訴人X1の経営するかちまいa販売店の販売員が、①平成一九年四月二〇日ころから同年五月末までの間、かちまいセンターゲートの営業区域に居住する読者一名に新聞を配達し、同店の営業区域を侵害した旨、②平成一九年一〇月以前から平成二〇年一月までの間、かちまい栄の営業区域に居住する読者一名に新聞を配達し、同店の営業区域を侵害した旨主張する。
確かに、《証拠省略》によれば、上記①、②の越境配達の事実が認められるところ、これは、本件新聞販売店契約一七条一項一号に違反する行為である。
しかし、上記各証拠によれば、これらは、件数が二件に過ぎず、配達期間が短期間である上、購読者がGの知人の夫及び配達員の兄弟という関係から越境配達が行われるに至ったものであって、かちまいa販売店において積極的に他の販売店の営業区域に拡販を行ったというものではないこと、控訴人X1は、事態を把握した後は、速やかに読者に謝罪し、越境配達を止めていることからすれば、本件新聞販売店契約の違反があるとはいえ、悪質性が強いものではないというべきである。
したがって、配達員の起境配達をもって、本件新聞販売店契約を終了せしめるほどの重大な契約違反であるとは認め難い。
(サ) C前衆議院議員の衆院選出馬断念の号外の未配布について
被控訴人は、控訴人X1の経営するかちまいa販売店が、平成一五年一〇月一八日に号外の配達を拒否したと主張し、控訴人X1もその事実自体は認めている。
確かに、上記号外の未配布は、本件新聞販売店契約八条三項に違反する行為であり、控訴人X1としては、本件新聞販売店契約を締結した以上、号外配布という突発的な業務にも対応すべきことが求められるところである。
しかし、被控訴人が控訴人X1に対し号外の配布を依頼したのは、午後八時四〇分を過ぎてからであり、控訴人X1が留守中であったため、留守電に伝言をしたものである。控訴人X1は、帰宅後留守電を聞いて用件を知ったが、その時点では配達の手配ができなかったため、号外の配布を断念したという事情があること、同号外の配布をしなかった販売店は、かちまいa販売店のほかに、かちまい音更、かちまい新得、かちまい札内、かちまい本別及びかちまい足寄の五店舗もあったこと、かちまい音更、かちまい新得、かちまい札内及びかちまい本別は、被控訴人に対し、それぞれ始末書、謝罪、理由書等を提出していること、本件号外の未配布は、平成一五年一〇月一八日の出来事であったところ、平成一六年九月三〇日付けの本件新聞販売店契約の更新の際には問題視されていなかったことを考慮すると、前記未配布をもって本件更新拒絶の事由とすることはできないというべきである。
(シ) 会議への欠席と被控訴人担当者との接触不良について
《証拠省略》によれば、被控訴人は、控訴人X1が、平成一六年二月、北海道地区新聞公正取引協議会道東支部協議会の販売店代表委員及び帯広地区実行委員会の実行委員長であったにもかかわらず、同委員会を欠席したこと、同年一二月一〇日の新聞公取協道東支部会議に無断で欠席したこと、かちまい十日会及び十勝毎日会の会長を辞めるや、両団体の会合にはほとんど出席せず、また、当日無断で欠席するなどしたこと、平成一七年一〇月から平成二〇年五月までの間、被控訴人の担当者が業務の連絡や打合せのため、控訴人X1の販売店を訪れても、控訴人X1はわずか二回しか接触しなかったこと、また、その後も、担当者が訪問した際、控訴人X1は同席することはあっても、業務についてのやり取りは、常に専従者のDかGが担当していること、平成一九年八月二四日から平成二〇年七月三〇日にかけてみても、被控訴人担当者がかちまいa販売店を一二回訪問したところ、控訴人X1自身が同席したのはわずか四回であったこと、控訴人X1は、平成一七年一一月以降、被控訴人担当者に対して、日常の事務連絡ですら電話等で連絡を入れてきたことはなく、被控訴人と控訴人X1とのやり取りは、ほとんどがDかG等を通じてなされていたことなどの事実が認められる。
しかし、控訴人X1は、会議の無断欠席の点については、責任を感じて職を辞する旨申し出ていること、控訴人X1は、上記第三の一(2)オ(イ)のとおり、平成一七年から反応性抑うつ状態になり通院治療を受けていたものであり、会議の欠席についても具合の悪くなった妻子の看病に追われたなどの理由がないわけではなく、また、控訴人X1の通院治療中は、店主を補うべく専従者であるDかGが被控訴人の担当者と対応し、また、Dにおいて会議に出席するなどしていたのであるから、控訴人X1の会議への欠席と被控訴人担当者との接触不良を理由として本件更新拒絶をすることは許されないというべきである。
(ス) 業務改善・報告命令書について
被控訴人は、控訴人X1に対しては合計四回にわたり業務改善・報告命令書を発出している。
しかし、これらの業務改善・報告命令書は、前記(ア)ないし(シ)において認定判断した理由に基づくものであり、これを理由として、控訴人X1の経営するかちまいa販売店につき、本件更新拒絶を根拠づけるほどの営業成績の不良があったと認めることはできないというべきである。
エ 本件更新拒絶の有効性についての結論
前記第三の一(判断の基礎となる事実)において認定した事実によれば、本件更新拒絶は、被控訴人が、○○新聞の発行部数の伸び悩み及び新聞本体の広告掲載が減少し折込広告が増加していることを背景として、折込広告は発行部数九万部を誇る被控訴人発行の○○新聞の信用力を背景とするものであるので、折込広告の手数料収入から一定程度の利益の還元を求めて然るべきであるとの認識から、媒体使用料の名称で一定程度の金員を販売店から徴収することを目論んだところ、控訴人X1をはじめとする控訴人らに反対され、また、被控訴人が推進していたFBシステムの導入にも積極的な対応がされなかったことから、控訴人X1の営業成績の不振等を理由に本件新聞販売店契約を終了させようとしたものであると推認されるところ、前記第三の二(1)アないしウのとおり、控訴人X1において、営業成績の不良等があることは認められるものの、販売店普及率及びその推移でみれば、控訴人X1以下の販売店も複数あり、営業成績が著しく不良であったとまではいえず、また、被控訴人との信頼関係を破壊する著しい不信行為等の取引関係の継続を期待しがたい重大な事由が存するとまで認めることはできないから、本件更新拒絶は拒絶理由を欠き、無効であるというべきである。
よって、被控訴人は、控訴人X1に対し、平成一九年九月三〇日以降、別紙図面太線枠内の区域において、被控訴人の発行する新聞等(被控訴人が発行する新聞以外の刊行物を含む。)を被控訴人の販売店として販売する旨の本件新聞販売店契約上の地位を有するものである。
(2) 争点(2)(控訴人X1の法人化承諾請求の成否)について
ア 控訴人X1は、被控訴人に対し、控訴人X1と被控訴人間の本件新聞販売店契約に基づく控訴人X1の地位及び一切の権利義務を訴外会社に対し譲渡することを承諾するよう求めている。そこで、被控訴人が、控訴人X1の法人化に伴う地位譲渡を承諾すべき義務があるか否かを検討する。
イ ところで、本件新聞販売店契約は、被控訴人が、控訴人X1に対し、一定又は不定の期間にわたり、新聞を一定の代金で継続的に供給することを約束しているものであるから、その継続については、販売店側の経営に問題がなく、販売店と被控訴人との間に信頼関係が維持されていることが必要であると解される。このような趣旨からすれば、控訴人X1が法人化するに際しては、被控訴人が無条件で承諾するべき義務があると解するのは相当ではなく、控訴人X1と被控訴人との間に信頼関係が維持されており、被控訴人と控訴人X1によって設立される法人(訴外会社)との間にも控訴人X1と同様の信頼関係を築くことが容易であるなどの特段の事情が認められるときに限り、被控訴人は、条理に照らし、控訴人X1の法人化又は法人への契約上の地位移転を拒むことができないとするのが相当である。そうすると、本件においては、上記の特段の事情があるか否かが問題となる。
ウ 当事者間に争いのない事実及び《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
(ア) 本件新聞販売店契約一四条二項五号は、販売店が法人化しようとする場合には、販売店は、被控訴人に対し、三か月前に書面で申し出て、その承諾を得なければならないと規定している。
(イ) 平成一六年一二月二日、控訴人X1は、被控訴人との協議の中で、被控訴人からの「後継者についてどう考えているか。」の質問に対し、「あと、二、三年で息子に譲りたい」旨回答した。これに対し、被控訴人は、基本的には世襲は認めないが、能力があるかどうかを研修などを通じて判断する、一〇〇%、子息がだめだとは考えていないとの考え方を示した。
(ウ) 平成一七年二月二日、控訴人X1は、訴外会社を設立して代表取締役となり、以後、訴外会社が実質的に被控訴人の新聞の販売活動をしてきた。訴外会社の出資口数は六〇口であるが、うち三〇口は控訴人X1が、うち一〇口は控訴人X1の長男であるFが、うち一〇口は二女であるEが、うち一〇口は同人の夫であるDが所有しており、典型的な同族会社であり、販売店業務の実態は、法人化の前後で変更はない。
(エ) 平成一七年七月ころ、控訴人X1が被控訴人との間で、平成一六年九月三〇日に遡って販売店契約を締結した。
(オ) 前記契約交渉の際、控訴人X1は、被控訴人に対し、訴外会社を契約当事者とした契約書を差し入れたところ、被控訴人は、控訴人X1個人との契約締結を要求したが、その際、控訴人X1の法人化について異論を述べなかった。
(カ) 被控訴人は、別紙「帯広市内一七販売店系図」(以下「販売店系図」という。)記載のとおり、順次、法人化された販売店との間で販売店契約を締結している。
(キ) 被控訴人は、平成一八年四月、かちまい鹿追につき母親から娘に、平成一八年九月、かちまい新得につき父親から息子に、平成一九年六月、かちまい西帯広につき父親から息子に、それぞれ店主を交代することを認めている。
(ク) 平成一九年六月三〇日、被控訴人は、控訴人X1がエリアの分割を承諾するとの条件付きではあるが、控訴人X1に対し、エリアの譲渡と引き換えに、かちまいa販売店の取扱部数二〇〇〇部につきDが販売店を経営することを提案した。
(ケ) 被控訴人の販売部長Iは、平成一九年七月四日、Dと面談した際、「ウチは『店を分割することを前提に、Dさんに任せたい』という方針。それは分かってもらえていると思う」と発言した。
(コ) 控訴人X1は、被控訴人に対し、平成一九年八月九日付け「ご連絡」と題する書面により、本件更新拒絶は理由がないこと、かちまいa販売店を訴外会社に引き継ぎたいこと、今後、Dを店主とすることを認めて欲しい旨を通知した。
控訴人X1は、将来的には訴外会社の代表取締役をDとし、新聞販売店を継続していくことを希望しているが、現時点では、依然として、自身が代表取締役として訴外会社を経営している。
エ 以上の事実によれば、訴外会社は、控訴人X1が代表取締役を務める同族会社であり、控訴人X1と同視し得る立場にあるから、被控訴人と訴外会社との間には被控訴人と控訴人X1との間と同様の信頼関係を築くことが容易であると認められ、したがって、被控訴人は、控訴人X1が訴外会社を設立して本件新聞販売店契約の販売店としての地位を訴外会社に承継することを拒めないというべきである。
オ もっとも、控訴人X1は、訴外会社をDに継がせることを予定しているところ、本件新聞販売店契約一七条一項七号は、販売店が法人の場合にあっては、被控訴人の承諾なく販売店の代表取締役が変更したときには本件新聞販売店契約を解除することができる旨規定しているので、訴外会社の代表取締役を控訴人X1からDに変更することが許されるかどうかについて検討する。
訴外会社の代表取締役を控訴人X1からDに変更することは、Dが控訴人X1の娘婿であることを考慮すると、実質上の世代交代と見ることができるところ、被控訴人は、店主が代々世襲されてきた事実はなく、被控訴人が販売店主の子息を後継の販売店主と認めることはあっても、それは店主として契約の当事者となり得ると判断した結果であると主張する。
確かに、新聞の販売体制を維持し、顧客の要望に対応するためには、後継者が優秀な販売店主としての資質や行動力が求められるのであり、また、販売店契約の規定内容に鑑みても、一律に新聞販売店の店主の世襲が認められるものではない。
しかし、店主は、世代交代を見越して、後継者に対し、経営のノウハウや情報等を伝授していくことは容易に考えられるところであり、また、被控訴人側からみても、後継者が販売店経営を託せる人材であれば、後継者を探す必要がなくなるというメリットがある。かかるところ、本件においては、平成一九年六月三〇日、被控訴人は、控訴人X1に対し、エリアの譲渡と引き換えに、かちまいa販売店の取扱部数二〇〇〇部につきDが販売店を経営することを提案しており、Dを経営者とすることについて異論はなかったものと認められる。したがって、被控訴人としては、訴外会社の代表取締役を控訴人X1からDに変更することに支障はないというべきである。
被控訴人は、平成一九年六月二一日、控訴人X1とのエリア分割等の交渉が決裂するや、Dが中心となって販売店業務を行ってきた平成一七年四月から平成一九年四月までの二年間の実績が不良であること等を理由として、同人を後継店主として認めることはできない旨連絡しているが、その後の同年七月四日、販売部長のIは、Dと面談し、「ウチは『店を分割することを前提に、Dさんに任せたい』という方針。それは分かってもらえていると思う」と発言しているから、被控訴人は、その時点においても、Dが後継経営者としての資質や行動力を有していると判断していたと認められる。なお、被控訴人は、Dの不適格事由として、「重要な会議で意思決定することができない」、「FBの覚書をただちに提出しない」、「求めた報告書を提出しないこと」を挙げているが、かちまいa販売店の店主は控訴人X1であり、Dは体調不良の控訴人X1を補佐する立場にすぎなかったこと、FB覚書及び報告書の提出は、店主である控訴人X1の権限に関わることからすれば、上記事由をもってDがかちまいa販売店の店主としての適格性に欠けるとは認め難い。
よって、訴外会社の代表者を控訴人X1からDに変更したとしても、被控訴人と訴外会社との信頼関係が損なわれるおそれはないというべきであるから、訴外会社の代表取締役を控訴人X1からDに変更したとしても、本件新聞販売店契約一七条一項七号により契約を解除することはできないというべきである。
カ 以上によれば、被控訴人と控訴人X1及び訴外会社の代表者である控訴人X1との間では信頼関係が破壊されているという特段の事情はなく、また、被控訴人と訴外会社との間で前同様の信頼関係を築くことも容易であるなどの上記特段の事情があると認められるから、被控訴人は、控訴人X1(かちまいa販売店)の法人化に伴う訴外会社への地位譲渡を拒めないというべきである。
(3) 争点(3)(控訴人X1に対する不法行為の成否)について
ア 被控訴人は、平成一九年六月二九日、控訴人X1に対し、本件新聞販売店契約を同年九月二九日をもって終了し、同月三〇日以降更新する意思がないことを告知し、平成二二年四月二日限りで控訴人X1に対する新聞の供給を止めたが、本件において、控訴人X1に販売店としての著しい不信行為、販売成績の不良等の取引関係の継続を期待しがたい重大な事由が存することを認めることはできないから、新聞の供給を停止した被控訴人の対応は違法であるといわざるを得ない。
イ また、被控訴人は、本件新聞販売店契約において、控訴人X1に対し、営業区域内において控訴人X1に独占的販売権を認める一方、種々の制約を課し、また、合計四通の業務改善・報告命令書を交付するなど優越的な立場にあったと認められる。
このような状況の中で、控訴人X1は、四回にわたる業務改善・報告命令書の発令を受け本件新聞販売店契約の解消を示唆されたこと、エリア分割を求められたことなどが要因となって体調を崩し、平成一七年一〇月三一日には、反応性抑うつ状態と診断された。
ウ 被控訴人は、平成一七年九月以降、控訴人X1に対し、一〇〇〇部のエリア分割を要求していたところ、販売部長のIは、同年一〇月三一日、エリア分割の交渉を迫った際、控訴人X1が体調を崩しているにもかかわらず、面会を求めるなどして、控訴人X1をして不安に陥らせた。
エ さらに、被控訴人は、平成一九年六月三〇日以降、控訴人X1に対し、かちまいa販売店の現在の取扱部数の半分以下である二〇〇〇部についてのみDが引き続き販売店を経営することを認める代わりに、それ以外のエリアを被控訴人に譲渡するよう迫った。
オ 以上認定の事実によれば、被控訴人は、本件更新拒絶には理由がないにもかかわらず、本件更新拒絶が有効であるとして、その意向を押し通し、控訴人X1に対して新聞の供給を停止し、その過程で控訴人X1を反応性抑うつ状態に陥らせるなどしたものであるから、本件の対応は違法であり、被控訴人にはそれについて少なくとも過失があるといわざるを得ず、これにより控訴人X1が被った損害を賠償する責任があるというべきである。
他方、控訴人X1においても、苦情件数の多さ、第三者に対する新聞配達・集金業務の委託、配達員の越境配達、店主個人の活動量の減少、会議への欠席など業務改善・報告命令書の発付を受け、本件新聞販売店契約の解除を示唆されるに至る原因を作出した面があること、結局本件新聞販売店契約は継続されることなどの本件に現れた一切の事情を考慮すると、控訴人X1の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては、八〇万円が相当であり、その損害と因果関係がある弁護士費用は八万円と認める。
カ よって、被控訴人は、控訴人X1に対し、八八万円及びこれに対する不法行為後である平成二〇年三月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
(4) 争点(4)(控訴人X1を除くその余の控訴人らに対する不法行為の成否)について
ア 総論
(ア) 控訴人X1を除くその余の控訴人ら(以下「控訴人X2ら」という。)に対する不法行為の成否についての判断は、原判決書「事実及び理由」欄の「第四 争点に対する判断」、「四 争点(3)(原告らに対する不法行為の成否)について」、「(2) 原告X1を除くその余の原告らに対する不法行為の成否」、「ア 総論」(原判決書四八頁一九行目から同四九頁二五行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(イ) 控訴理由につき補足して検討する。
a 控訴人X2らは、被控訴人による新聞販売店契約の更新を拒絶する用意がある旨の示唆は、近日中に新聞販売店契約が解除又は更新拒絶され、控訴人X2らが経営する新聞販売会社の事業継続ができなくなるとの現実的な不安や危険を控訴人X2らに感じさせるものであるから、控訴人らには精神的苦痛が発生する旨、控訴人X2らが代表者を務める新聞販売会社に対する更新拒絶告知等であっても、代表者である控訴人X2ら自身が新聞販売会社の事業継続に現実的な不安や危険を感じ、多大な精神的苦痛を被る旨主張する。
しかし、被控訴人が、控訴人X2らに対し、不法行為に基づき損害賠償義務を負うのは、被控訴人が控訴人X2らの権利ないし利益を侵害し、控訴人X2らに損害を与えた場合である。ここでの被侵害利益は、厳密な意味での権利とはいえなくても、法律上保護される利益であれば足りるが、事実上の利益では足りない。かかるところ、本件においては、控訴人X2らは、その経営する各新聞販売会社の事業継続ができなくなるとの控訴人X2らの不安感や危惧感を被侵害利益として問題とするものであるところ、これらは事実上の利益に過ぎず、現に法律上保護される利益を被侵害利益として主張するものではないから、控訴人X2らの主張は、採用することができない。
また、控訴人X2らと控訴人X2らが代表取締役を務める新聞販売会社は、法的には別主体であり、新聞販売会社に損害が発生したからといって直ちに、控訴人X2らに精神的苦痛が発生することにはならないものである。
b 控訴人X2らは、控訴人X2らが被控訴人に対して、契約関係の更新をめぐって不法行為責任を追及できる場合を、その交渉の過程において、相当な根拠もなく一方的に控訴人らの人格攻撃に及ぶなど、契約の交渉過程において社会通念上許容できない言動がある場合に限ることは、不法行為による損害に対する救済の範囲を不当に狭めると主張する。
しかし、不法行為においては、損害に対する適切な救済をするために、事案に応じて個別具体的に不法行為の成否を検討することが求められるものであるが、契約の更新をめぐる交渉においては、社会通念の範囲内での自由交渉を認める必要性もあることを考慮すると、本件のように契約当事者以外の者が、契約を更新する際の一方当事者の行為によって損害を被ったと主張し不法行為責任を追及する場合は、当該当事者が契約当事者以外の者に対し人格攻撃をするなど、その交渉の過程において社会通念上許容できない行動を取った場合に限られるとするのが相当である。
よって、この点での控訴人X2らの主張は理由がない。
イ 控訴人X2に対する不法行為の成否
前記アで説示したとおり、本件のような場合に被控訴人が控訴人X2らに対し不法行為責任を負うのは、被控訴人が、控訴人X2らに対し、人格攻撃をするなど、新聞販売店契約の更新交渉の過程において、社会通念上許容できない行動を取った場合に限られるので、以下、被控訴人がこのような行動を取ったかどうかにつき検討する。
(ア) 控訴人X2と被控訴人との間の新聞販売店契約及び更新をめぐる交渉
当事者間に争いのない事実及び《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
a 控訴人X2は、昭和五七年一〇月一六日、父Jの従前の営業区域を営業区域として、控訴人と新聞販売店契約を締結し(当事者間に争いがない。)、平成四年七月一日、新聞の販売等を目的とする有限会社b(かちまいb販売店)を設立し、代表取締役となった。
b かちまいbと被控訴人は、平成一六年九月三〇日付け新聞販売店契約書により、新聞販売店契約を更新した。
(イ) 新聞販売店契約の更新における被控訴人の対応
被控訴人は、かちまいbに対し、平成一九年七月六日付け「契約更新について」と題する書面により、同年九月三〇日に新聞販売店契約の期限が到来し更新手続が必要となること、被控訴人は、契約上も非常に問題のある販売店と判断していることから、エリアの分割と特約事項を付した契約内容となること、契約の更新はフューチャーブレイン(FB)の覚書を提出することが大前提であり、FB覚書を提出しない場合には同年「九月末日をもって契約の更新を拒絶することまで踏み込んで検討するつもり」であることを通知した。
平成一九年八月三一日、被控訴人は、控訴人X2らがFB覚書を提出しなかったことから、控訴人X2らの各FB、周辺機器FBの端末機を撤去した。
(ウ) 控訴人X2は、前記(イ)のとおり、被控訴人がかちまいb販売店との新聞販売店契約について営業地域を分割縮小すること、契約内容を変更し、特約事項を追加することを要求し、これらの要求に応じないときは契約更新を拒絶する旨を告知したことが、同人に対する不法行為を構成すると主張する。
しかし、被控訴人が新聞販売店契約を更新するに際し、営業地域を分割縮小することなどを含めて契約内容に変更を加えることを申し出ることは、それ自体としては、新聞販売店契約の当事者として社会通念上許容できる交渉内容といえる。
(エ) ところで、被控訴人が、前記契約内容の変更を提案したのは、かちまいbが契約上も非常に問題のある販売店と判断していた点にあった。すなわち、被控訴人が問題としていた点は次の事項であった。
a かちまいbは、被控訴人から、平成一八年九月四日付け業務改善・報告命令書の発令を受けたのを皮切りに、同月二二日付け業務改善命令・報告書2、同年一〇月一三日付け業務改善・報告命令書3、同年一一月一七日付け業務改善・報告命令書4、同月二五日付け業務改善・報告命令書5、平成一九年三月二一日付け業務改善・報告命令書6、同月二七日付け業務改善・報告命令書7、同年六月一九日付け業務改善・報告命令書(本件四店舗を名宛人とするもの)、平成二〇年五月一日付け業務改善・報告命令書の発令をそれぞれ受けた。
b かちまいbに対する苦情件数は六六件、苦情率も一・三三一%であり、他の販売店に比較して、件数も発生率も高い。
c かちまいbは、営業活動にほとんど取り組まず、控訴人X2の不誠実な姿勢も合わせて、エリア内の読者が急激に減り続けている。
d 控訴人X2が読者に対して誠実に対応しないばかりか、自分の行いを反省もせず、逆に開き直って被控訴人に対して難癖を付ける。
e エリア内の読者が急激に減り続けており、平成一五年六月に五一六三部あった実配部数が平成一九年五月時点では二二四部減の四九三九部である。
f 控訴人X2の営業活動量は他の販売店店主の平均を下回っている。
g かちまいbの自振り率は他の販売店の平均を相当程度下回っている。
(オ) そこで、被控訴人が、以上の懸案事項をもとに、かちまいbの営業活動に関し、営業地域を分割縮小すること、契約内容を変更し、特約事項を追加することなどを申し入れたことが認められる。
そうすると、被控訴人の上記申入れは、必ずしも懸案事項の基礎となった数値が正確でないとしても、新聞販売店契約の更新における交渉過程における行動として、社会通念上許容できる範囲内のものであるから、不法行為は成立しないと解される。
(カ) 控訴人X2は、被控訴人がFB覚書を提出しない場合は有限会社bとの新聞販売店契約の更新拒絶を検討する旨を告知したこと、被控訴人がFB覚書を提出しないことを理由に控訴人X2からFBの端末機を撤去したことは、控訴人X2に対する人格攻撃であり、不法行為となると主張する。
しかし、上記告知の内容は、「(FBの覚書を提出しない場合には)契約の更新を拒絶することまで踏み込んで検討するつもりですので、念のため申し添えます。」というものであり、被控訴人としてはFB覚書の提出が喫緊の問題であることを示し、控訴人X2らに応諾を求めるものであって、更新拒絶を明言したものではなく、また、その内容からして、控訴人X2に対する人格攻撃であると認めることはできないし、社会通念上許容できない言動であると認めることもできない。
(キ) 控訴人X2は、被控訴人がかちまい会役員会の意思決定を支配した上、有限会社bをかちまい会から除名する旨通知したことは、控訴人X2に対する不法行為を構成する、かちまい会では、除名を決定するのは「顧問を含む役員会」とされているところ、「顧問」とは、被控訴人社長、副社長及び販売局長であるから、除名処分は被控訴人の意思の下でかちまい会役員会が行ったものであると主張する。
確かに、本件四店舗に対し、「かちまい会役員会 会長K」名で、平成一九年八月二八日付けで退会勧告が、同年九月一日付けで除名通知が送付されたことがそれぞれ認められる。
しかし、上記退会勧告及び除名通知は、かちまい会が、会としての業務振興を阻害するとの判断のもと、意思決定されたものであり、被控訴人とは別個の機関における判断であり、被控訴人がかちまい会の役員会の意思決定を支配したことを認める証拠はない。この点、かちまい会役員会の構成員として被控訴人の社長等が含まれているが、そのことから直ちに、かちまい会役員会の意思決定が被控訴人の意思に支配されたものであると認めることはできない。かえって、証人Kによれば、かちまい会からの除名処分は、最終的にはかちまい会の役員会の判断により行われたものであることが認められる。
(ク) 控訴人X2は、被控訴人が、控訴人X2が読者に対し新聞整理袋がなくなるとの情報を伝えたことにつき、平成一八年九月四日付けの業務改善・報告命令書を発令したことは、控訴人X2に対する不法行為を構成すると主張する。
しかし、被控訴人は、かちまいbが、被控訴人の了承を得ることなく、かつ、何ら告知もせずに突然、新聞整理袋を配布し続けてきた読者に対する新聞整理袋の配布を中止し、一方的に新聞ストッカーに切り替えようとしたところ、読者から、「今まで同様新聞整理袋が欲しい」、「新聞整理袋とストッカーが両方欲しい」といった苦情が寄せられたため、被控訴人が業務改善・報告命令書を発令したものであり、この点で問題があるとは認められない。
なお、控訴人X2は、ストッカーを試験的に導入し、他方、新聞整理袋の配布を廃止することを被控訴人が了承していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(ケ) 控訴人X2は、被控訴人が、業務改善・報告命令書に、「貴殿の独善的で勝手な行い」、「これまでの貴殿の言動や姿勢を顧みても、詭弁を弄して論点をすり替え、責任転嫁することを繰り返していますが、当社の大きな政策すらも自分勝手に「廃止」してしまうようなことは、絶対に許しません。」、「貴殿のように自らの利益と利便性だけを求めることは、サービスという概念の対極にある」、「貴店の新聞整理袋の経費削減を目的に、一方的に「整理袋は無くなる」と読者に虚偽の説明をし、早い段階で整理袋の配布を止めようと企てている」、「トライアルという意味を曲解し、自分は何ら悪くないという貴殿の態度には言葉もありません。」、「新聞整理袋がなくなるという貴殿の虚偽説明について、何ら悪びれることもなく、反省もしないまま、他の店主が集まるブロック会議で、これまで同様の発言をするのなら、貴殿の立場がますます悪くなることを、担当員が個人的に心配しただけです。」と記載したことが、人格攻撃に当たると主張し、それに沿う供述をする。
確かに、前記内容は、その言辞に穏当さを欠くと評価せざるを得ないが、控訴人X2にも読者に混乱を招いた落ち度がある上、その内容に鑑みると、前記表現が、控訴人X2の人格を攻撃するものであって社会的相当性を欠くものであると認めることはできないし、不法行為を構成するほどの違法性があるとも認められない。
(コ) 以上によれば、控訴人X2の被控訴人に対する慰謝料請求は、理由がない。
ウ 控訴人X3に対する不法行為の成否
(ア) 控訴人X3と被控訴人との間の新聞販売店契約及び更新をめぐる交渉
当事者に争いのない事実及び《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
a 控訴人X3は、昭和六三年九月、控訴人X2が担当していた営業区域の一部を営業区域として譲り受け、被控訴人と新聞販売店契約を締結し、平成二年一二月一四日、新聞販売業等を目的とするかちまいcを設立し、代表取締役となった。
b かちまいcと被控訴人は、平成一五年九月一日付け販売店契約書により、新聞販売店契約を更新した。
(イ) 新聞販売店契約の更新についての被控訴人の対応
被控訴人の代理人弁護士は、かちまいcの代理人弁護士に対し、平成一九年八月三〇日付け「c有限会社との契約更新について」と題する書面により、同月三一日に新聞販売店契約の期限が到来すること、すべての特約事項を満たしておらず、店主の取り組み姿勢、業務内容等には非常に問題があること、正当な理由なくFB覚書の提出を拒否していることなどを考慮すると、かちまいcとはこれまでと同様の契約形態は取れず、販売委託エリアを分割・再編し、縮小すること、さらに契約書に特約事項を付し、特約事項の達成状況、その他X2店主の姿勢等を勘案して総合的に判断した上で、平成二〇年九月以降も貴社と契約を継続するかどうか決定し、通知する旨被控訴人の意向を示した。
(ウ) 控訴人X3は、前記のとおり、被控訴人が、かちまいcとの新聞販売店契約の契約内容を変更し、特約事項を追加することなどを求めたこと、かちまいcがFB覚書を提出しないときは同契約の更新拒絶を検討する旨を告知したこと、FB覚書を提出しないことを理由としてかちまいcからFBの端末機を撤去したこと、被控訴人の意向の下にかちまいcがかちまい会から除名されたことは、いずれも控訴人X3に対する不法行為となると主張する。
しかし、上記各主張がいずれも理由がないことは、前記控訴人X2に対する不法行為の成否の検討において述べたとおりである。
(エ) 控訴人X3は、被控訴人がかちまいcとの新聞販売店契約について営業地域を分割縮小することを要求して契約内容の変更を求め、この要求に応じないときは契約更新を拒絶する旨を告知したことは、控訴人X3に対する不法行為となると主張する。
しかし、被控訴人が新聞販売店契約を更新するに際し、営業地域の分割縮小等を含めて契約内容に変更を加えることを申し出ることは、新聞販売店契約の当事者として社会通念上許容できる交渉内容といえる。
ところで、被控訴人が、上記契約内容の変更を提案したのは、かちまいcが契約上も非常に問題のある販売店と判断していた点にあった。すなわち、被控訴人が問題としていた点は次の事項であった。
a かちまいcが特約事項のすべてを満たすことができなかった。
b 控訴人X3の業務への取組姿勢、業務内容等に非常に問題が多い。
c 控訴人X3は、一〇年以上にわたり、配達コストを理由に高層階住宅のドアポストへの投函を拒否し、再三読者側から苦情が寄せられている。
d かちまいcはFB覚書の提出を正当な理由なく拒否している。
e 平成一七年四月から平成一九年九月までの間の控訴人X3の店主活動量は、帯広市内及び近郊のかちまい販売店一六店舗の店主の平均を下回っており、店主拡張日数が一六店舗中一五位、店主訪問件数と店主面談件数が一六店舗中一三位、店主拡張実績が一六店舗中一一位である。
f 平成一七年一〇月から平成一九年九月までの間のかちまいcの販売店活動量は、帯広市内及び近郊のかちまい販売店一七店舗の平均を下回っている。
g 平成一六年四月から平成一九年九月の間のかちまいcの実配部数の推移は、帯広市内のかちまい販売店九店舗の平均的な水準であるとはいえ二三部の減少である。
h 平成一五年一月から平成二〇年三月までの間に被控訴人に寄せられたかちまいcの読者からの苦情は、帯広市内のかちまい販売店一五店舗の平均的な水準であるとはいえ件数が一五店舗中五位、読者当たりの苦情発生率が一五店舗中八位である。
(オ) 他方、かちまいcは、普及率において相応の業績を残している。
(カ) かかる問題を検討した結果、被控訴人は、控訴人X3の営業活動に関し、営業地域を分割縮小すること、契約内容を変更し、特約事項を追加することを申し入れたことが認められる。したがって、その基礎となる資料が必ずしも正確でないことを考慮しても、被控訴人の言動は、契約交渉過程における言動として、社会通念上許容できる範囲内のものであるから、不法行為は成立しないと解される。
(キ) 控訴人X3は、被控訴人がかちまいcに対し合理的な理由もないのに決算書の提出を要求した行為は、控訴人X3に対する不法行為となると主張する。
確かに、平成一八年五月二三日に被控訴人とかちまいcとの間に締結された新聞販売店契約には、決算書の提出を求める規定はない。
しかし、控訴人ら代理人弁護士の平成一七年三月一六日付け「ご連絡」によれば、同弁護士と被控訴人代理人弁護士との間で決算書の提出を求めることができる内容の新契約書に双方が調印する旨の合意が成立したことが認められるから、被控訴人がかちまいcに対し経営資料の開示を求める根拠はあるというべきである。また、上記のとおり、かちまいc及び控訴人X3の営業成績が不振であることもあり、新聞販売店の経営を助言・指導していくという観点から、被控訴人が決算書の提出を要求するのも相応の理由があるというべきである。したがって、被控訴人がかちまいcに対し決算書の提出を要求したことは、社会通念上許容できないというものではない。
(ク) 控訴人X3は、被控訴人が控訴人X3に対し人格攻撃をしていると主張し、これに沿う供述をしている。
確かに、被控訴人代理人作成の平成一八年六月二日付け文書及び同月二三日付けの反論書では、控訴人X3につき、「かちまいcについては従前から非常に問題の多い販売店と認識しております」、「X2店主には、根本的に「読者サービス」という考えが欠如しているとしか思えません。」、「かちまいcエリアは…非常に効率的な経営ができて当たり前の地域です。にもかかわらず、…読者に対してタオル一本、一二〇円程度のコストも掛けられない旨言い放っています。…X2店主の経営能力そのものに問題があるのではないかと、当社が疑問に感じるのも当然です。」、「当社から補助金という対価が手に入ることから取り組んだに過ぎません。」、「金にならなければ読者サービスをする必要はないという、X2店主の一貫した姿勢は明らか」などと記載されている。
しかし、上記書面には、決算書の提出をめぐる交渉の中での担当者の控訴人X3に対する評価が含まれており、その言辞に穏当さを欠く面があるものの、控訴人X3においても読者サービスが不足している等の問題があるために、業務を改善する必要性があるのであり、意識を変えるとの観点から上記言辞に至ったという面も否定できない。また、その内容に鑑みると、上記各書面の記載が、控訴人X3の人格を攻撃するものであって社会的相当性を欠くものであると認めることはできず、不法行為を構成するほどの違法性があるとも認められない。
(ケ) かちまいcは、従前、被控訴人に対し、発注する新聞部数を減らしたり、被控訴人が主催したイベントである「デメーテル」のチケットの買取り要請を拒んだことがあるところ、被控訴人が、上記行動を捉えて、控訴人X3をして「X2店主の本社に対する非協力的態度の象徴」などと非難することは、控訴人X3に対する人格攻撃であり、不法行為を構成すると主張する。
確かに、被控訴人は、平成一八年八月一二日付け「c有限会社契約更新の件」と題する書面において、控訴人X3につき「X2店主の本社に対する非協力的態度の象徴」などと記載している。
しかし、控訴人X3は、被控訴人担当者Lに対し、平成一〇年四月六日ころ、新聞が被控訴人から販売店に届く時間が遅れたこと(店着遅れ)に対する措置として発注部数を一〇部減らした旨を述べていること、また、被控訴人担当者作成の訪店報告書には、平成一四年二月五日、「デメーテル」のチケットの販売協力について、枚数を言うと発注部数を切るそうなので、依頼せず、当分、他のことも頼むつもりはない旨の記載があること、元販売局員からのヒアリング内容要旨によれば、控訴人X3の販売局員に対する対応が横柄であるなどの問題行動が散見されることからすると、控訴人X3と被控訴人との間の関係は良好とはいい難く、被控訴人において控訴人X3の評価を下げざるを得ない要因があるといわざるを得ない。そうすると、被控訴人が控訴人X3を非協力的な態度をとっている人物と評価するにも全く理由がないわけではない。加えて、前記書面の記載内容に鑑みると、これをもって控訴人X3の人格攻撃に及んだとか、社会的相当性を欠く言動であり不法行為を構成するとまで認めることはできない。
(コ) 以上によれば、控訴人X3の被控訴人に対する慰謝料請求は、理由がない。
エ 控訴人X4に対する不法行為の成否
(ア) 控訴人X4と被控訴人との間の新聞販売店契約及び更新をめぐる交渉
当事者に争いのない事実及び証拠によれば、次の事実が認められる。
a 控訴人X4は、昭和六二年ころ、かちまいd専売店ことMの従前の営業区域を譲り受け、被控訴人と新聞販売店契約を締結し、昭和六三年八月一日、各種新聞雑誌及び書籍の販売等を目的とするかちまいdを設立し、代表取締役となった。
b かちまいdと被控訴人は、平成一六年九月三〇日付け新聞販売店契約書により、新聞販売店契約を更新した。
(イ) 新聞販売店契約の更新についての被控訴人の対応
被控訴人は、かちまいdに対し、平成一九年七月六日付け「契約更新について」と題する書面により、同年九月三〇日に新聞販売店契約の期限が到来し更新手続が必要となること、契約の更新はFB覚書の提出が大前提であり、FBの覚書を提出しない場合には同年九月末日をもって「契約の更新を拒絶することまで踏み込んで検討するつもり」であること、業務は著しく不良と判断しているため特約事項を付与して、契約期間を限定し」、「結果を評価し、次年度の契約について改めて判断」することなどを通知した。
また、被控訴人は、かちまいdに同社の営業地域の分割縮小、契約内容の変更、特約事項の追加を求めた(当事者間に争いがない。)。
(ウ) 控訴人X4は、被控訴人がかちまいdとの新聞販売店契約の契約内容を変更し、特約事項を追加することを求めたことは、控訴人X4に対する不法行為となると主張する。
しかし、被控訴人が新聞販売店契約を更新するに際し、営業地域の分割縮小等を含めて契約内容に変更を加えることを申し出ることは、新聞販売店契約の当事者として社会通念上許容できる交渉内容といえるところ、被控訴人が、上記契約内容の変更を提案したのは、かちまいdが契約上も非常に問題のある販売店と判断していた点にあった。すなわち、被控訴人が問題としていた点は次の事項であった。
a かちまいdの実配部数の純増目標達成率が低位である。
b 自振り率は大幅に立ち遅れている。
c 拡張活動等の営業活動が低位にある。
d OCTV加入者の紹介がない。
被控訴人は、かかる問題を検討した結果、控訴人X4の営業活動に関し、営業地域を分割縮小すること、契約内容を変更し、特約事項を追加することを申し入れたことが認められる。したがって、被控訴人の言動は、契約交渉過程における言動として、社会通念上許容できる範囲内のものであるから、不法行為は成立しないと解される。
(エ) 控訴人X4は、被控訴人が、かちまいdがFB覚書を提出しないときは同契約の更新拒絶を検討する旨を告知したこと、かちまいdがFB覚書を提出しないことを理由としてFBの端末機を撤去したこと、被控訴人の意向の下にかちまいdがかちまい会から除名されたことは、いずれも被控訴人による控訴人X4に対する不法行為となると主張する。
しかし、上記主張がいずれも理由がないことは、前記控訴人X2に対する不法行為の成否の検討において述べたとおりである。
(オ) 控訴人X4は、被控訴人が控訴人X4につき経営能力に問題があるかのような誹謗中傷をし、相当の根拠もないのに控訴人X4の人格攻撃に及んでいると主張するが、これを認めるに足りる証拠は存在しない。
なお、控訴人X4は、被控訴人が人格攻撃に及んでいる証拠として、平成一九年八月七日付け業務改善・報告命令書4を指摘するが、同書面は、被控訴人が控訴人X4の業務につき、読者から苦情が寄せられているという問題点を指摘するものであり、誹謗中傷している事実を認めることはできない。したがって、控訴人X4の主張は理由がない。
(カ) 控訴人X4は、被控訴人がかちまいdによる購読料の誤引落を購読者からの連絡で知りながら、一一日間もかちまいdに連絡しなかったことは、かちまいdを苦境に陥れようとする意図から出たものであり、悪意が認められ、また、被控訴人がかちまいdに顛末書を再提出するよう求めることは、控訴人X4に対する不法行為となると主張し、それに沿う供述をする。
確かに、被控訴人は、購読者から連絡を受けた場合、速やかに事実関係を調査し、その内容、調査結果をかちまいdに連絡をするべきであるから、かちまいdが被控訴人に対し、読者から寄せられた苦情等を可及的速やかに連絡するよう求めたことは、もっともな行動であり、被控訴人が調査を要するとはいえ、一一日間を要したことは、被控訴人の対応に問題があるといわざるを得ない。
しかし、被控訴人が意図的にかちまいdへの連絡を遅らせたことを認める証拠はない。したがって、控訴人X4の主張は理由がない。
(キ) 控訴人X4は、被控訴人がかちまいdの販売店レポートで報告された新聞配達部数が実際の配達部数よりも多いことを従前から知っていたにもかかわらず、平成二〇年一月二九日、代理人を無視してかちまいdを訪問し、長期間にわたる虚偽報告であるなどと主張し、契約解除を求めてきたことは、控訴人X4に対する不法行為となると主張する。
しかし、かちまいdが、平成一八年九月以降、実際の配達部数よりも多い数字を販売店レポートに記載して被控訴人に提出していたことについては争いはないところ、被控訴人が販売店レポートに記載された配達部数が虚偽であることを従前から知っていたことを認める証拠はなく、また、被控訴人は会社としての見解として、かちまいdの虚偽報告が、販売店契約一三条一項(情報管理)に違反し、契約の即時解除事由(一七条一項)にも該当し、一一条(増紙努力)、一二条(経営指導)に影響する重大な背信行為であると判断して、かちまいdに対し、業務の改善を求め、回答を求めたことは明らかである。そして、被控訴人としては、このような事情からすれば、契約を即時解除する選択もあったと考えられるところ、そのような選択をせず、契約を解除する可能性があることを言及したにすぎないことを考慮すると、被控訴人が、虚偽報告を問題として、契約を解除する可能性を示唆したことをもって不法行為を構成すると認めることはできない。
もっとも、控訴人X4は、新聞配達部数について、実際の配達部数よりも被控訴人に提出している新聞販売店レポートの報告部数が多いことは、フューチャーブレインによって購読者数や実配部数を認識できるのであるから、被控訴人は従前から把握していたはずであり、そうすると、虚偽報告に該当しないと主張する。
しかし、本件全証拠を検討しても、フューチャーブレインが購読者数や実配部数を確実に把握できるシステムであるとまで認めることはできないし、本件において、被控訴人が配達部数が虚偽であることを知った平成一九年一二月一八日前に虚偽報告であると認識していたと認めることもできない。
(ク) 以上によれば、控訴人X4の被控訴人に対する慰謝料請求は、理由がない。
オ 控訴人X5に対する不法行為の成否
(ア) 控訴人X5と被控訴人との間の新聞販売店契約及び更新をめぐる交渉
当事者間に争いのない事実及び証拠によれば、次の事実が認められる。
a 控訴人X5は、昭和六一年、控訴人X2の従前の営業区域の一部を営業区域として譲り受け、被控訴人と新聞販売店契約を締結し、平成四年六月一日、新聞の販売等を目的とするかちまいeを設立し、代表取締役となった。
b かちまいeと被控訴人は、平成一六年九月三〇日付け新聞販売店契約書により、新聞販売店契約を更新した。
(イ) 新聞販売店契約の更新についての被控訴人の対応
被控訴人は、かちまいeに対し、平成一九年七月六日付け「契約更新について」と題する書面により、同年九月三〇日に新聞販売店契約の期限が到来し更新手続が必要となること、契約の更新はフューチャーブレイン(FB)の覚書の提出が大前提であり、FB覚書を提出しない場合には同年「九月末日をもって契約の更新を拒絶することまで踏み込んで検討するつもり」であること、契約書の一部変更を求めることを通知した。
平成一九年八月三一日、被控訴人は、控訴人X2らがFB覚書を提出しないので、控訴人X2らの各FB、周辺機器及びFBの端末機を撤去した。
控訴人X5は、同年九月一日、「かちまい会役員会 会長K」名で、かちまい会から除名する旨の通知を受けた。
被控訴人は、かちまいeに対し、平成二〇年五月一日付け「業務改善・報告命令書3」により、配達員に対する読者からの苦情があるので、事実関係を調査するよう求めた。その後、かちまいeと被控訴人との間において、事後の対応について協議が行われた。
(ウ) 控訴人X5は、被控訴人がかちまいeとの新聞販売店契約の契約内容の変更を求めたこと、被控訴人がかちまいeがFB覚書を提出しないときは同契約の更新拒絶を検討する旨を告知したこと、被控訴人がかちまいeがFB覚書を提出しないことを理由としてFBの端末機を撤去したこと、かちまいeがかちまい会から除名されたことが、いずれも被控訴人による控訴人X5に対する不法行為となると主張する。
しかし、上記主張がいずれも理由がないことは、上記控訴人X2に対する不法行為の成否の検討において述べたとおりである。
(エ) 被控訴人が平成一九年三月二七日に控訴人X5に対し被控訴人の社屋に来るように申し向けたところ、控訴人X5が翌日に弁護士を同伴して訪ねる意向を示すや、被控訴人は弁護士同伴であれば来なくてよいと発言したことにつき、控訴人X5は、被控訴人が弁護士に依頼するのであれば控訴人X1らと同様に冷遇し、将来的に新聞販売店契約の解除もあり得るとの姿勢を示したもので、かかる被控訴人の言動は、控訴人X5に対し、被控訴人が新聞販売店契約の更新を拒絶するなどして、かちまいeの事業が継続できなくなるのではないかとの現実の不安や危機感を持たせるものであるから、不法行為となると主張し、それに沿う供述をする。
これに対して、被控訴人は、控訴人X5に被控訴人の社屋に来ることを求めたのは、「業務改善・報告命令書」を手渡しし、説明するためであったところ、控訴人が正式に代理人に委任したことが判明したことから、被控訴人代理人を通じて「業務改善・報告命令書」を送付する必要があると考え、「正式に弁護士に委任したのであれば、被控訴人の代理人から本件四店舗の代理人へお知らせします」との旨を述べたにすぎないと反論している。
かかるところ、被控訴人は、控訴人X5に対し、契約の更新拒絶をする旨の意思表示をしたとの証拠も、その示唆をしたとの証拠もないから、控訴人X5が、事業が継続できなくなるのではないかとの現実の不安や危機感を持ったことを認め難く、前記発言により、現に法律上保護される利益を侵害されたこと、具体的な現実の損害が発生したことを認めることができないから、控訴人X5の主張は理由がない。
(オ) 以上によれば、控訴人X5の被控訴人に対する慰謝料請求は、理由がない。
カ 小括
よって、控訴人X2、同X3、同X4及び同X5の被控訴人に対する各慰謝料請求は、いずれも理由がない。
第四結論
以上によれば、控訴人X1の請求を全部棄却した原判決は主文の限度で相当でないので、控訴人X1の控訴に基づき、原判決主文第一項を主文第一項のとおり変更することとし、控訴人X1を除くその余の控訴人らの各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林正 裁判官 片岡武 湯川克彦)
別紙 図面《省略》
別紙 帯広市内一七販売店系図《省略》