札幌高等裁判所 平成22年(行コ)3号 判決 2010年6月25日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
被控訴人は,控訴人に対し,競馬法上の馬主登録を申請したが,被控訴人が競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者に該当するとの理由で,申請を拒否する処分を受けた。被控訴人は,この処分に対する異議申立てをしたが,これを棄却されたため,上記処分の取消しを求める訴えを提起した。
原審は,上記処分が違法であるとして,これを取り消す判決をしたため,控訴人は,これを不服として,控訴を提起した。
関係法令,前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 関係法令等の定め」,「2 前提事実」,「3 争点」及び「4 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件拒否処分は違法なものとして取り消されるべきであると判断する。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決書「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決書20頁23行「β町」を,「α町」と改める。
(2) 原判決書21頁12行から22頁5行までを,次のとおり改める。
「 甲第1号証には,本件拒否処分の理由として,規程7条13号が挙げられている。規程7条は,1号から9号までにおいて,規則15条1号から9号までと同じ事由を拒否事由として定めている。これに続く規程7条10号から12号までは,規約7条1項1号から3号までと同じ事由を拒否事由として定めているところ,規約7条1項柱書きにおいては,「規則第15条第10号の規定に基づき」とされているから,規程7条10号から12号までは,規則15条10号に該当する場合を個別的に列挙したものである。そして,規程7条13号は,規約7条1項4号と同じく,個別的に列挙された上記の各事由に該当しないが,規則15条10号に該当する場合を包括的に定めたものということができる。したがって,本件拒否処分の理由として記載された規程7条13号は,規則15条10号の事由のうち,規程7条10号から12号までに該当しないが,「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由」がある場合を意味し,本件拒否処分は,競馬法13条1項,規則15条10号の法令に基づいてされたものである。
上記の拒否事由のうち,一定の事実があるだけで拒否事由に該当する場合(規則15条1号から9号まで)には,控訴人に裁量の余地はなく,登録拒否処分の取消訴訟において,拒否事由に該当する事実の立証責任は,控訴人にある。これに対し,控訴人が一定の評価・判断をしたときに拒否事由に該当する場合(同条10号)には,一定の評価を根拠づける事実があり,その事実から一定の評価をする過程には,控訴人の裁量の余地がある。しかし,規則14条は,「次条の規定により登録を拒否する場合を除くほか、…(中略)…馬主登録簿に登録しなければならない。」と定めている。
以上の点に鑑みると,後者の拒否事由を理由とする登録拒否処分の取消訴訟において,一定の評価を根拠づける事実の立証責任は控訴人にあり,この評価を妨げる事実の立証責任は申請者にあるところ,裁量の範囲の逸脱又は裁量権の濫用は,このようにして立証された事実から合理的な推論により一定の評価をすることができるか否かによって決せられると解すべきである。
これを本件においてみるに,控訴人に裁量の範囲の逸脱又は裁量権の濫用があったか否かは,控訴人が主張する事実のうち立証された事実を基にして,被控訴人が競馬の公正を害するおそれがあると判断することが社会通念に照らし妥当性を有するか否かによって審査される。」
(3) 原判決書26頁16行の次に,「馬主登録の拒否は,競馬への参入規制であり,その規制方法は事前規制である。一方,規則18条5号には,馬主登録後も,「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由があることが判明したとき」には,控訴人が登録を取り消すことができるとして,事後的規制も定められている。このように,事前規制と事後的規制とがあるときに,事前規制はその抑制効果が強いため,事後的規制に比べ厳格な司法審査に服すると解すべきである。」を加える。
(4) 原判決書26頁24行の次に,次のとおり加える。
「乙第24号証によれば,控訴人の裁定委員会の過去の事例中には,馬主の処分例が2例あり,番号6の馬主は,暴力団関係者を通じてノミ行為の申込みをして罰金刑を受けたため,○の処分を受け,同11の馬主は,名義貸しをして,馬主登録を取り消されたことが認められる。控訴人は,相手が暴力団関係者であるとの認識を有しないで接触したことを理由として馬主登録を拒否することもできると主張するが,そのような拒否処分は,馬主登録の取消しに至っていない番号6の馬主に対する処分と比較して著しく均衡を失することが明らかである。」
2 以上によれば,本件拒否処分は違法なものとして取り消されるべきであるから,被控訴人の請求は,理由がある。よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 末永進 裁判官 古閑裕二 裁判官 中島栄)