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札幌高等裁判所 平成23年(ネ)92号 判決 2011年5月27日

函館市<以下省略>

控訴人

株式会社エストルフーズ

代表者代表取締役

Y1

函館市<以下省略>

控訴人

Y1

函館市<以下省略>

控訴人

Y2

上記3名訴訟代理人弁護士

藤田徹

北海道<以下省略>

被控訴人

同訴訟代理人弁護士

荻野一郎

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,被控訴人が控訴人株式会社エストルフーズ(以下「控訴人会社」という。)の株式を4回にわたり合計1000万円で購入した際に,ともに控訴人会社の代表取締役である控訴人Y2(以下「控訴人Y2」という。)と控訴人Y1(以下「控訴人Y1」という。)がした説明に説明義務違反,断定的判断の提供があり,そのために損害を被ったとして,被控訴人が,主位的に,控訴人Y2及び控訴人Y1に対しては,不法行為による損害賠償として,控訴人会社に対しては,会社法350条に基づき,連帯して上記購入代金合計1000万円及び弁護士費用100万円の合計1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,上記説明により被控訴人が錯誤に陥ったとして,予備的に,控訴人Y2に対し,不当利得返還請求として,上記購入代金合計1000万円及び各購入代金に対する購入の日からそれぞれ支払済みまで民法704条所定の年5分の割合による利息の支払を求めた事案である。

原審は,被控訴人の主位的請求を認容したことから,控訴人らが控訴した。

2  前提事実(当事者間に争いがないか,証拠から容易に認められる事実)並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決書「事実及び理由」欄の第3ないし第5に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決書4頁3行目冒頭から同頁4行目末尾までを「(3) 被控訴人は,同月28日までに,控訴人会社株式4万株を申し込み,同月20日に200万円を控訴人会社名義の口座へ送金した。」と改める。

(2)  原判決書6頁18行目の「被告Y1名義の文書」を「「株式会社エストルフーズ代表取締役Y1」名義の本件案内文2ないし4」と改める。

(3)  原判決書6頁23行目の「文書」を「「株式会社エストルフーズ代表取締役Y1」名義の本件案内文4」と改める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,断定的判断の提供を根拠として,被控訴人の主位的請求を認容すべきものと判断する。その理由は,次のとおりである。

(1)  認定事実

ア 争いのない事実等に証拠(甲2,3,4の1ないし4の8,5ないし7,8の1ないし8の40,9,10,11の1ないし11の6,12,13の1・2,14ないし17,20,23,乙13,原審における原告本人,原審における被告Y2本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件購入に関して,以下の事実が認められる(一部証拠は該当箇所にも再掲する。)。

(ア) 平成18年5月ころ,被控訴人は,イージー社から未公開株の購入を勧める案内文書及び控訴人会社に関する資料(甲2)を送付され,また,電話で,イージー社の担当者から,「エストルフーズという会社が近日中に上場する。確実に値上がりする。」などと控訴人会社の株式の購入を勧誘されて,同月25日,イージー社から控訴人会社株式1000株を60万円で購入した。上記案内文書には,2005年度の新規上場株の初値は公募価格からおよそ95%の確率で値上がりしたことや,新規公開株のメリットとして,儲かる可能性が非常に高いこと,発行株数が少ないため大きな利益がとれること,将来有望で,株価が数十倍,数百倍になると見込めること等が,デメリットとして,会社の内容情報が少ないこと,上場延期になる可能性があること(2006年度は1社),上場株同様に倒産のリスクがあることが記載されていた。また,控訴人会社に関する資料には,同社が水産物の卸・小売及び加工販売を行っており,その売上が堅調に推移している上に,美肌用化粧品の材料の輸入,販売等でも有望な企業であることや,株式の上場に向けて現在準備中であること等が記載されていた。

(イ) 被控訴人が上記のとおりイージー社から控訴人会社の株式を購入した直後に,控訴人会社から被控訴人に宛てて,設備増設等を目的として,株主の希望者に1株当たり50円で募集株式を発行する旨の案内文(以下「本件案内文1」という。)が送付されてきた(本件案内文1は,証拠として提出されていないものの,後記の本件案内文2ないし4と同様の体裁であったものと推認される。)。

(ウ) 平成18年6月に入って,上場して値上がりするのであれば買い増しをしたいと考えた被控訴人が控訴人会社の財務室へ電話をしたところ,控訴人Y2が応対し,今期上場する,株価は2年経つと500円になるなどと述べ,控訴人会社の株式を追加購入するよう勧めた(甲23)。

そこで,被控訴人は,控訴人会社がほどなく上場し,上場すれば株価も上昇して確実に利益が得られるものと考えて,控訴人会社株式8万株の購入を申し込み(甲20),同月2日にその代金400万円を送金し(甲3),8万株分の株券(甲4の1ないし4の8)を受領した(本件購入1)。

(エ) その後,控訴人会社(代表取締役Y1)は,同年11月10日付けの「株主希望者 第三者割当株式について」と題する書面(本件案内文2,甲5)を株主らに送付した。同案内文には,「高級美白剤であるホワイトクレー入りの石鹸の試作品を,女優のAさんに使用して戴きましたところ大変好評でしたので,ホワイトクレー入りの石鹸の製造を開始致しました。その設備増設の為一般募集による株主公募を致しましたが,18万株の失権株が出ました。11月10日の取締役会において,株主のうち希望者に額面で割当ることになりましたので,下記の通り希望者による株式の募集を致します。」として,普通株式18万株を発行価額1株50円で同年11月24日を締切期日として募集する旨の記載のほかに,一般公募価格は1株100円である旨の記載がある。また,払込口座は控訴人会社名義の銀行口座が指定され,申込み先着順に受付をするので18万株になったら締め切る旨の記載や,問合せは同社財務室にするようにとの記載がある。

(オ) 同月11日に被控訴人が控訴人会社の財務室へ電話をすると,控訴人Y2が応対し,本件案内文2の記載内容について説明をした。その際,控訴人Y2から,当分上場の予定がないといった説明はなく,被控訴人は,控訴人会社が上場すればさらに株価の上昇が見込めると考えて,同月28日までに4万株の購入を申し込み(甲21),それに先立つ同月20日にはその代金200万円を送金し(甲6,7),4万株分の株券(甲8の1ないし8の40)を受領した(本件購入2)。

(カ) 続いて,控訴人会社(代表取締役Y1)は,平成19年1月31日付けの「株主希望者 第三者割当株式について」と題する書面(本件案内文3,甲9)を株主らに送付した。同案内文には,「ホワイトクレイの年間製造量12tでは,化粧品製造・原料売などを含めると50t近く必要となりパラオ現地にて製造拡大を決定致し,それに伴い設備増設の為一般公募致すことになりました。1月29日の取締役会において一般公募の前に,株主のうち希望者に額面で割当ることになりましたので,下記のとおり希望者による株式の募集を致します。」として,普通株式50万株を発行価額1株50円で同年2月15日を締切期日として募集する旨の記載がある。また,払込口座は控訴人会社名義の銀行口座が指定され,問合せは同社財務室にするようにとの記載がある。

(キ) そのころ,被控訴人が控訴人会社の財務室へ電話をすると,上記同様に控訴人Y2が応対し,本件案内文3の記載内容について説明をした。その際,控訴人Y2からは,近々上場し,将来的には,海産物から化粧品に主力商品を変える予定であるという話があったことから,被控訴人は,控訴人会社の株式6万株の購入を申し込み,同月23日にその代金300万円を送金し(甲10),6万株分の株券(甲11の1ないし11の6)を受領した(本件購入3)。

(ク) さらに,控訴人会社(代表取締役Y1)は,同年10月15日付けの「ホワイトクレイソープ販売開始について」と題する書面(本件案内文4,甲12)を株主らに送付した。同案内文には,「皆様が待望している上場についてはまだ2年かかる予定です。ご承知とは存じますが,三大証券の日興證券が昨年粉飾決算をした為審査が厳しくなり,金融庁が直接審査をすることになりました。上場予定より大分遅れまして申し訳なく存じております。上場基準による取締役会設置会社,監査役会設置会社,会計監査人設置会社とし登記も完了,後は会社の利益を出すだけでございます。それにつきまして,上場前に限り株主優待として希望者に対し,第三者割当で額面(1株50円)の優待は今回で終了させて頂きます。上場の時期より1年以内に割当した株は,上場後1年間は売ることが出来ませんので,上場が近くなりましたので額面割当は終了致します。なお,上場の時期が確定しない為,増資申込みを見合わせている方も多々あると聞いております。今回が最後の希望者に対する増資を下記の要領により実施致します。なお,上場の時の売出し価格は1株200円に設定しております。」として,60万株を発行価額1株50円で募集する旨の記載がある。

(ケ) そのころ,被控訴人が控訴人会社の財務室へ電話をすると,前記同様に控訴人Y2が応対し,本件案内文4の記載内容について説明をした。その際,控訴人Y2からは,上場が近くなったので,株主に対する額面での株式割当は今回で最後である,売出し価格は1株200円に設定しているといった話があったことから,被控訴人は,控訴人会社の株式2万株の購入を申し込み,同月29日にその代金100万円を送金し,2万株分の株券(甲13の1・2)を受領した(本件購入4)。

(コ) 控訴人会社は,上記のとおり,「上場が近くなりましたので額面割当は終了致します」などと記載された本件案内文4を送付した後,少なくとも平成20年9月12日及び平成21年6月5日の2回にわたり,「創業者利益の割当株がまだ若干残っておりますので,希望者は申し込み下さい。」などと記載した文書(甲15,16)を株主に送付し,出資者を募った。

イ これに対し,控訴人らは,被控訴人が控訴人Y2からその所有する控訴人会社の株式を譲り受けたに過ぎないなどと主張し,控訴人Y2はその旨を述べているが,「設備増設の為一般公募致すことになりました」,「一般公募の前に,株主のうち希望者に額面で割当る」などの,被控訴人が控訴人Y2個人から株式の譲渡を受けるのとは全く異なる内容の本件案内文1ないし4の記載等に照らし,採用することができない。

また,控訴人らは,控訴人Y2が被控訴人に断定的に確定した数字等を示したことはなく,被控訴人は,イージー社から控訴人会社の株式を購入した後,控訴人会社の経営状況や株式上場の見通し等について自ら情報を収集して慎重に吟味検討した上で,控訴人会社が株式を上場するとの期待感から,自らの意思と判断で控訴人会社の株式を購入したのであると主張し,控訴人Y2はその旨を述べているが,被控訴人はこれを否定しており,また,控訴人Y2が被控訴人と話をした際,被控訴人に対し1株500円に値上がりする旨説明したことを最終的に否定しなかったこと(甲23)などの事実に照らし,この点での控訴人らの主張も容易に採用することができない。

ウ そして,証拠(甲17,23ないし25,乙2,6,9,13,原審における原告本人,原審における被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人会社の株式に関して,以下のような事情が認められる。

(ア) 控訴人会社の株式は,いわゆる未公開株であり,市場における流通性に乏しい。

(イ) 控訴人会社は,十分な資金がないため,当面株式の上場は難しい状態である。

なお,控訴人Y2は,監査法人等から,株式上場のために,個人所有持ち株比率を低下させたり株主数を増加させたりして,非同族会社化を図った方がよいなどとアドバイスを受け,順次新株の発行による増資を図るとともに,控訴人Y2所有の控訴人会社の株式を売却処分するようにしていたと述べている(乙13)。また,控訴人会社は,本件購入1ないし4の後である平成19年11月19日に,株式会社ディー・ブレイン・コンサルティングとの間で,控訴人会社の株式をグリーンシート銘柄(非上場の銘柄のうち,取扱会員等の証券会社などが,顧客に投資勧誘ができるものとして日本証券業協会が指定した銘柄)として日本証券業協会へ届け出ることを目的としたプライマリーデューディリジェンス調査業務を同社に委託する旨の契約を締結している(乙6)が,以上のほかに,控訴人会社の株式の上場に向けた作業がなされた形跡はない。

(ウ) 控訴人会社の株式について,配当は長期間にわたってなされていない。

(エ) 控訴人Y2は,控訴人会社の株式に1株50円の価値がないことを認めている(甲23,控訴人Y2本人)。

この点,控訴人会社の平成16年11月から平成19年10月までの財務諸表について,監査法人は,それが適正であるかどうか意見を表明しないとしている(甲24,25)ので,控訴人会社の財務諸表(乙9,10)の記載を基にして一株当たりの純資産額を算定することには疑問があるところ,ほかに控訴人会社の資産全体の状況を具体的に明らかにするものはない。

(2)  検討

ア 争点1(説明義務違反・断定的判断の提供)について

以上によれば,控訴人会社は,被控訴人に対し,業務の一環として,一般公募価格は1株100円となっているが1株50円で株主のうちの希望者に割り当てる,申込み先着順に受付をするので18万株になったら締め切る,第三者割当で1株50円の優待は今回で終了するなどと言葉巧みに未公開株である同社の株式を購入するよう勧誘し,被控訴人はこの勧誘に応じて,本件購入1ないし4の4回にわたり,控訴人会社の株式合計20万株を1株当たり50円,代金合計1000万円で購入しているところ,控訴人Y2及び控訴人Y1は,ともに控訴人会社の代表取締役としてこれらの勧誘に関与し,特に控訴人Y2は,これらの勧誘の際,控訴人会社が近々,遅くとも平成21年秋ころまでには株式を上場し,上場すれば株価は500円程度になる旨の説明をし,この説明を受けた被控訴人は,説明どおりに株式が上場され,利益を得られると考えて本件購入に至ったことが認められる。

しかるに,本件購入当時,控訴人会社において株式の上場に向けて具体的に作業を進めていた様子は窺われず,現在でも株式上場の見通しは立たない状態である上,株式の価値としては50円もないことは控訴人Y2の自認するところであるから,上記説明は断定的判断の提供に当たる。

そして,このような株式上場の時期や上場益の額に関する断定的判断の提供は,社会通念上,会社が自社の未公開株の購入を勧誘する際に許容し得る範疇を超えているというべきであるから,消費者契約法に違反するというだけでなく,不法行為を構成する違法なものであると解するのが相当である。

したがって,控訴人Y2及び控訴人Y1は,不法行為による損害賠償責任を負い,控訴人会社も,会社法350条に基づき責任を負うことになり,これらの責任は不真正連帯の関係に立つものと解される。

イ 争点2(損害の有無及び額)について

続いて,損害額について検討すると,前記のような断定的判断の提供を受けて被控訴人が購入した控訴人会社の株式の代金は,その全額がこの不法行為による損害として認められ得るところ,本件においてこれと別異に解すべき事由は見当たらない。

この点,控訴人らは,控訴人会社の平成18年10月決算期の純資産額から計算すると,控訴人会社の株式には1株50円の価値があるものと評価すべきであるから,被控訴人には損害は発生していないと主張し,これは損益相殺等を主張する趣旨に解されるが,控訴人会社の株式に関する上記事情からすれば,本件において損益相殺等をなすべき具体的事由があると認めることはできない。

したがって,被控訴人が控訴人会社の株式の購入代金として支払った1000万円は,その全額が前記不法行為による損害として認められる。

また,被控訴人が弁護士に本訴訟の追行を委任したことは当裁判所に顕著であり,事案の内容と本訴訟の経過に鑑みると,前記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては100万円を認めるのが相当である。

(3)  小結

以上のとおりであって,控訴人らに対し,連帯して1100万円及びこれに対する本件購入より後の日である平成21年11月6日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の主位的請求は理由がある。

2  以上の次第で,説明義務違反の点及び錯誤に関しては検討する必要がなく,控訴人らがるる主張するところも上記認定判断を左右するものではない。

3  よって,原判決は結論において相当であり,本件控訴はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林正 裁判官 片岡武 裁判官 湯川克彦)

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