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札幌高等裁判所 平成23年(行コ)32号 判決 2012年5月25日

主文

1  原判決を取り消す。

2  控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  今金町長が平成22年8月13日にした北海道瀬棚郡今金町<以下省略>の土地の行政財産の使用許可処分を取り消す。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要等

1  本件は、被控訴人(以下「今金町」ということもある。)の住民である控訴人が、被控訴人に対し、地方自治法242条の2第1項2号に基づき、今金町長が平成22年8月13日付けでした、被控訴人の行政財産である北海道瀬棚郡今金町<以下省略>の土地(以下「本件土地」という。)をa社及び有限会社b(以下「b社」という。)に駐車場として、使用期間を同日から同23年3月31日までとして使用を許可する旨の処分〔以下、「本件使用許可処分」という。なお、控訴人は、本件使用許可処分には同日付けの本件土地の使用料を減免する旨の処分(以下「本件使用料減免処分」という。)が含まれるものとしている。〕の取消しを求めた住民訴訟である。

2  控訴人は、本件使用料減免処分は本件使用許可処分の内容を定める一つの条件であり、両者は別個独立の処分ではなく、一体の関係にあるとの主張を前提に、① 本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分は、住民訴訟の対象となる財務会計行為に該当する、② 本件使用許可処分は違法であると主張した。

これに対し、被控訴人は、これを争い、本件使用許可処分と本件使用料減免処分が別個の処分であることを前提に、本案前の答弁として、① 本件使用許可処分は、平成23年3月31日の経過をもって期間が経過し、処分の効力が消滅したから、控訴人には訴えの利益がなくなった、② 本件使用許可処分は、住民訴訟の対象となる財務会計行為に該当しないと主張し、本案の答弁として、③ 今金町長には裁量権の逸脱、濫用はないから、本件使用許可処分は違法ではない、④ 控訴人が本件使用料減免処分の取消しを求めるとしても同様に違法ではないと反論した。

3  原審は、本件使用許可処分と本件使用料減免処分が別個の処分であることを前提として、本件使用許可処分の取消しの訴えにつき、期間経過により訴えの利益がなくなったということはできないとして、本案前の答弁を排斥した上で、本件使用許可処分は、本件土地の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為に当たると解することは困難であるから、その取消しを求める部分は不適法であるとして上記部分に係る訴えを却下し、他方、本件使用料減免処分の取消しを求める部分については、本件土地を駐車場として利用しているa社及b社は、ともに地域経済の活性化を図るという設立目的の下、それぞれホテル及び地元農産品等の直売所を経営するなどしており、ホテルや直売所を訪れる客が本件駐車場に隣接する被控訴人運営の公共温泉施設である△△施設(以下「△△施設」という。)を利用するなどして、△△施設の利用者の増大に貢献しているなどの事情があるから、今金町長が、本件使用料減免処分をしたことにつき、裁量権の行使に逸脱又は濫用があるとはいえないと判断し、控訴人の本件使用料減免処分の取消しを求める部分に係る請求を棄却したので、控訴人は、これを不服として控訴したが、被控訴人は、不服申立てをしていない。したがって、当審における審理の対象(争点)は、① 本件使用許可処分と本件使用料減免処分が別個独立の処分か否か、これに関連して、本件使用料減免処分を含む本件使用許可処分が住民訴訟の対象となる財務会計行為に該当するか否か、② 本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分に係る今金町長の裁量権の行使に逸脱又は濫用があり、違法と認められるか否かである。

4  争いのない事実等及び当事者の主張等は、次のとおり補正するほかは、原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」、「2 争いのない事実及び関係法令等の定め」、「3 争点」の(2)及び(3)、「4 争点に対する当事者の主張」の(2)及び(3)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決書2頁21行目の「有限会社b」を「b社」と改め、以下同様とする。

(2)  原判決書3頁6行目の「9月8日」を「9月3日」に改める。

(3)  原判決書3頁8行目の「請求をした」を「請求をし、これが同月8日、受理された」と改める。

(4)  原判決書3頁18行目の「使用料を減免する旨の処分」を「本件使用料減免処分」と改め、以下同様とする。

(5)  原判決書5頁6行目の「基づき」を「基づく」と改める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は、以下のとおり、本件使用許可処分と本件使用料減免処分は一体の関係にあり、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分は住民訴訟の対象となる財務会計行為に該当するが、上記処分に係る今金町長の裁量権の行使に逸脱又は濫用があると認めることはできないから、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分の取消しを求めた控訴人の請求は理由がなく、控訴人の請求を全体として棄却すべきであり、本件使用許可処分取消しの訴えを却下した原判決は相当でなく取消しを免れないと判断する。なお、原判決を控訴人に不利益に変更することはできないのが原則であるが、本件使用許可処分と本件使用料減免処分は一つの処分であり、これを分離して一方を不適法として訴えを却下し、もう一方を理由がないものとして請求を棄却することはできないから、原判決を取り消して、本件使用許可処分と本件使用料減免処分を一体のものとして全部につき請求を棄却することとするが、このようにしたからといって不利益変更の原則に反するものではない。

2  争点1(本件使用許可処分と本件使用料減免処分が別個独立の処分か否か、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分は住民訴訟の対象となる財務会計行為に該当するか否か)について

(1)  地方自治法242条の2第1項に定める住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし、その対象とされる事項は同法242条1項に定める事項、すなわち公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行、債務その他の義務の負担、公金の賦課・徴収を怠る事実、財産の管理を怠る事実に限られるのであり、これらの事項はいずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものである。したがって、控訴人の本件訴えが適法といえるためには、今金町長の行った本件使用許可処分と本件使用料減免処分が、財務会計上の行為としてのこれらの行為に当たる場合でなければならない(最高裁判所平成2年4月12日第一小法廷判決・民集44巻3号431頁参照)。そして、住民訴訟制度の目的に照らすと、今金町長の上記処分が上記財務会計上の行為に当たるというためには、上記処分が、本件土地の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為としての財産管理行為又はその怠る事実に当たることが必要である。そこで、以下、本件使用許可処分と本件使用料減免処分が、本件土地の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為としての財産管理行為又はその怠る事実に当たるか否かを検討する。

(2)  ところで、本件使用許可処分と本件使用料減免処分に係る関係法令を検討するに、今金町では、行政財産の使用については、今金町財務規則が定められており、同規則195条において、行政財産の使用許可の要件が定められている。すなわち、同規則195条1項は、使用許可をすることができる場合として、1号では「直接又は間接に町の便宜となる事業又は施設の用に供するとき」と定め、5号では「その他特に町長が必要と認めたとき」と定めているが、この規定は、行政財産はその用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができるとする地方自治法238条の4第7項にいう「その用途又は目的を妨げない限度」の具体的内容を明らかにした規定であると解される。そして、今金町長がした行政財産である駐車場の本件使用許可処分は、今金町の行政財産について、今金町財務規則195条1項に基づいてされた処分である。

他方、使用料の徴収については、地方自治法225条は、同法238条の4第7項の規定による許可を受けてする行政財産の使用又は公の施設の利用につき使用料を徴収することができると規定し、同法228条1項前段は、使用料に関する事項は条例でこれを定めなければならないと規定しているところ、今金町では、これを受けて、今金町行政財産の使用料徴収条例が定められ、同条例1条では、地方自治法238条の4第4項(現在の同条の4第7項)の規定に基づき行政財産の使用を許可した場合の使用者から徴収する使用料及びその徴収の方法等に関しては、同条例が必要事項を定めるものとされ、使用料の減免については、同条例8条においてその要件を定め、4号において、「前各号に定めるもののほか、町長が特別の事情があると認めるとき。」と定めている。

(3)  以上を前提に、本件使用許可処分と本件使用料減免処分の関係を検討するに、そもそも、今金町長が行政財産につき使用を許可するか否かを判断するに当たっては、「直接又は間接に町の便宜となる」又は「特に必要」と認められるかという観点から、財産の所在地、対象財産、使用期間、行政財産の復旧方法、使用方法等が検討され、その判断要素として、行政財産の使用に対しての反対給付としての使用料を徴収するか否か、その金額、減額、免除等が関連するものと解されるから、本件使用許可処分と本件使用料減免処分は一体の関係にあると解するのが相当である。

実際に、a社及びb社に対する処分に係る今金町総務財政課主幹作成の起案用紙(甲1)の根拠法令欄には、「財務規則(行政財産の使用許可)、今金町行政財産の使用料徴収条例(使用料等の減免)」と記載され、また、同伺い事項欄には、「敷地内の駐車場スペースに余裕があることから、駐車場の一部を使用することにより、地元産業の振興並びに空きスペースの有効活用を図るため、別紙<省略>のとおり許可してよろしいかお伺いします。なお、使用料は、減免してよろしいかあわせてお伺いいたします。」、「3 使用料 無料」と使用料減免の伺いが併記されている。さらに、今金町長作成のa社及びb社に対する平成22年8月13日付けの「行政財産使用許可について」と題する通知書(甲3)によれば、「下記により使用の許可をするので、通知いたします。」とされ、「1 許可条件 (略)、2 使用料 減免とする(今金町行政財産の使用料徴収条例)」と記載されている。上記認定の使用許可にかかる起案、決裁、許可通知書の記載内容は、いずれも本件使用許可処分と本件使用料減免処分とを一体のものとして扱っているのであり、これらの事実に照らすと、本件使用許可処分と本件使用料減免処分は一体の関係にあると解するのが相当である。

なお、平成22年8月13日付けの行政財産使用許可書(甲2、乙2)には使用料の記載かないが、上記行政財産使用許可書は、今金町財務規則195条1項に基づく使用許可の可否についての判断を使用許可申請者に対し通知したものにすぎないから、使用料の減免について記載がなくとも不自然ではなく、他方、今金町長作成の平成22年8月13日付けの「行政財産使用許可について」と題する通知書(甲3)には、許可条件と合わせて使用料につき「減免とする」と記載されており、両処分は一体の関係にあると解するのが相当である。

以上のとおり、本件使用許可処分と本件使用料減免処分は、別個の処分ではなく、一つの処分であると認められる。

(4)  そこで、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分が住民訴訟の対象となる財務会計行為に該当するか否かを検討するに、今金町においては、今金町行政財産の使用料徴収条例が制定されており、その4条により、原則として使用料を徴収するものとされているから、今金町は、使用許可により使用料の徴収義務が生じることになる。そして、使用料は、行政財産である本件土地の使用に対してその反対給付として徴収されるものであり、他方、使用料を減免する行為は、上記徴収義務を免除するものであるから、本件土地の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為としての財産管理行為に該当するものと解される。

(5)  以上によれば、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分は、住民訴訟の対象となる財務会計行為に該当すると解するのが相当である。

3  争点2(本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分に係る今金町長の裁量権の行使に逸脱又は濫用があり、違法と認められるか否か。)について

(1)  後掲の証拠によれば、○○ホテルの建設に至る経緯、○○ホテル及びb社の現状について、次の事実を認めることができる。

ア 今金町商工会、今金町農業協同組合及び今金町観光協会は、平成14年4月25日付けで、今金町長に対し、複合文化施設の建設を計画するに当たり、今金町の現状では来町者や観光客に勧めることができる施設があるとはいえないことから、来町者や観光客がやすらぎと憩いを感じてリフレッシュでき、そして、交流できる温泉付きの宿泊施設の併設を要望する旨の「複合文化施設に係わる宿泊部門併設の要望書」を提出した(乙18)。そして、今金町は、上記の要望を受け、同年10月に「“21”IMAKANE交流施設開設準備室」を設置し、町長が同年12月に諮問した「建設構想特別委員会」からも平成15年3月に答申を受け、検討が進められた(乙20)。

イ 今金町商工会、今金町農業協同組合及び今金町観光協会は、平成15年6月10日付けで、今金町議会に対し、上記アと同内容の「複合文化施設に係わる宿泊部門併設の要望書」を提出し(乙21)、これを受け、今金町議会は、この要望書についての審査を複合文化施設建設構想調査特別委員会に付託した(乙19、20)。

ウ 宿泊部門の併設に関し、当初、今金町が主体となってこれを建設することが検討されていたが、今金町長は、平成15年10且10日、今金町商工会、今金町農業協同組合及び今金町観光協会との間における意見交換会において、民設民営で検討すること、また、場所は△△施設付近を考えているとの見解を示した(乙16、17)。

エ 複合文化施設建設構想調査特別委員会は、平成15年12月16日、「市街地における宿泊事情、来町者の利便性や観光客のやすらぎと憩いの場、ふれあいと交流の場として、さらには、温泉の有効活用を図る上からも、町にとって必要な施設と判断する。しかし一方では、地方分権の時代に入り、地域住民が主体的に行動し行政がそれを支援する『協働型のまちづくり』が求められている。このことから、□□施設の経験、厳しさを増している町の財政事情を踏まえ、また、町村合併論議などの将来展望をしっかりと見据え、建設費のコスト低減や効率的な管理運営にもつながるような、また、公共性・公益性も兼ね備えた『民設民営』や『PFI事業』の可能性を探るなど総合的に検討されたい。」との意見を付し、趣旨採択と決定した(乙19、20)。

オ 今金町議会定例会は、平成15年12月18日、イの要望書に係る陳情につき審議を行い、エの複合文化施設建設構想調査特別委員会の趣旨採択決定を受け、同じ内容の趣旨採択の決定をし、今金町議会議長は、同月24日、今金町商工会、今金町農業協同組合及び今金町観光協会の各代表者に対し、上記審議結果を通知した(乙19)。

カ a社設立準備会は、上記趣旨採択決定を受けて、住民を主体として温泉ホテル建設の可能性を模索し、広く町民や今金町に関わる人たちの参加の下に、公共性、公益性に配慮した民設民営型ホテルを設立することにつき協議を行い、平成18年2月21日付けで、今金町長に対し、ホテル建設用地及び△△施設の使用貸借と併せて、産業育成の見地から積極的な行政支援をお願いする旨の民設民営ホテル建設に係わる産業育成支援の要望書を提出した(乙11)。

キ a社は、上記の経緯により、平成18年3月31日に設立され(甲4)、その後○○ホテルが建設され、○○ホテルは、平成19年2月から営業を開始した(乙7)。

ク ○○ホテルは、そのホームページにおいて、△△施設について、「○○ホテルに隣接する公共温泉であり、当ホテルからは渡り廊下にて往来が可能です。海水よりも高い塩分を持つ道南屈指の強塩泉であり、多くの効用があります。外観はオランダ風、休憩施設が充実しています。」と紹介している(乙9)。○○ホテルの宿泊者の△△施設利用者数及び入浴料売上実績は、平成20年度(平成19年4月から平成20年3月まで)が3191名、100万2900円、平成21年度が4268名、152万8800円、平成22年度(8月現在)が1638名、57万0500円である(乙6)。

ケ b社は、今金町の7戸の農業者が平成11年12月に設立した会社で、社員全員が株主であり、その社員が生産した農産物を購入して紫蘇ジュース、味噌製品、米穀類を加工製造して販売するほか、近隣町村で農産物、海産物を加工製造し産直しているメンバーと、食と産直をテーマに情報と素材の交換を行って、海産物も取り入れた新製品の開発も行っている。また、同社の社屋はa社の社屋に隣接しており、社屋が直売所も兼ねている。(甲5、乙12ないし15)

コ ○○ホテル及びb社の利用者が△△施設の駐車場を利用することにより、△△施設の利用者の駐車が妨げられる状況にはない(乙22、23)。

(2)  上記認定の事実によれば、○○ホテルは、今金町には本格的な温泉付きのホテルがなかったことから、これを建設することにより、来町者を増加させ、観光客の誘致を促進することを目的としてその建設が要望され、今金町議会によって、その趣旨が採択され、これを受けて建設されたホテルであって、このような設立経緯に照らすと、同ホテルには当初から地域経済の活性化を図るという一定の公益目的があること、また、本件使用料減免処分は、a社設立準備会が、今金町長に対し、○○ホテルについて産業育成の見地から積極的な行政支援をお願いする旨の要望書を提出したことを受けてなされたものであり、○○ホテルが、△△施設に隣接して建設されていることから、○○ホテルの経営の安定や利用者の増加は、これに隣接する今金町の運営する△△施設の利用者の増加にもつながるという経済効果があること、さらに、○○ホテルの利用者が、△△施設の駐車場を利用することによって、△△施設の利用者の駐車が妨げられていないことなどの事実が認められる。

また、b社に対する関係においても、上記認定の事実によれば、同社は、今金町の7戸の農業者が設立した会社であり、地元の農産品を生かして、紫蘇ジュース、味噌製品、米穀類を販売しており、今金町のブランド力を高め、地域産業や農業の発展、雇用創出に貢献し、a社と同様に今金町の地元経済の活性化に貢献していること、また、社屋がa社に隣接しており、社屋が直売所も兼ねているから、△△施設の利用者増大にも貢献していること、さらに、b社の利用者が、△△施設の駐車場を利用することによって、△△施設の利用者の駐車が妨げられていないことが認められる。

(3)  そこで、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分に係る今金町長の裁量権の行使に逸脱又は濫用があり、違法と認められるか否かについて検討する。

ア 今金町長がした行政財産である本件土地につき駐車場して使用させる本件使用許可処分は、上記認定によれば、今金町の経済活性化という行政目的の実現のためにされたものであり、今金町の行政財産について、今金町財務規則195条1項1号の「直接又は間接に町の便宜となる事業又は施設の用に供するとき」に該当するものとしてなされた処分であると解される。

イ 次に、本件使用料減免処分について検討するに、地方自治法225条が、普通地方公共団体は、同法238条の4第7項の規定による目的外使用許可を受けてする行政財産の使用又は公の施設の利用に係る使用料を徴収することができる旨を定め、使用料を徴収するかどうか、その金額をどのように定めるかについて地方公共団体に一定の裁量を付与しているところ、今金町行政財産の使用料徴収条例は、同法225条及び228条1項の規定を受けて、使用料の徴収の要否、その金額、減額、免除等の要件を定めていることに照らすと、同条例8条4号の「町長が特別の事情があると認めるとき」については、同法232条の2の普通地方公共団体による寄附又は補助に係る公益上の必要性に関する判断と同様に、今金町長に様々な行政目的を考慮した政策的な観点からの裁量権が認められていると解するのが相当である。したがって、裁判所が、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分が違法か否かを判断するに当たっては、裁量権の行使の際の判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法になると解される。

かかるところ、上記認定のとおり、○○ホテルの経営の安定や利用者の増加は、これに隣接する今金町の運営する△△施設の利用者の増加にもつながるという経済効果があること、b社は、地元の農産品を生かして、紫蘇ジュース等を販売することで今金町のブランド力を高め、地域産業や農業の発展、雇用創出に貢献し、また、地元経済の活性化に貢献し、△△施設の利用者増大にも貢献していること、そして、○○ホテル及びb社の利用者が、△△施設の駐車場を利用することによって、△△施設の利用者の駐車が妨げられるという状況ではないことを考慮すると、今金町長が今金町行政財産の使用料徴収条例8条4号の「町長が特別の事情があると認めるとき」に該当するとした判断には、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところはなく、その判断が重要な事実の基礎を欠くものでもなく、社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものでもないから、その裁量権の行使に逸脱又は濫用があると認めることはできない。

ウ 以上によれば、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分は、a社に対する関係でも、b社に対する関係でも、今金町長の裁量権の行使に逸脱又は濫用があると認めることはできないから、上記処分は違法であると認めることはできない。

エ もっとも、控訴人は、本件使用許可処分は特定の営利法人に対しその営業上の便宜を与えるため、本件土地を駐車場として独占的に使用させるものであり、今金町財務規則195条1項に該当しないと主張する。

しかし、本件使用許可処分は、今金町の経済活性化という行政目的の実現のためにされたものであり、特定の営利法人に対してのみ、その営業上の便宜を与えるためになされたものではなく、今金町財務規則195条1項1号の「直接又は間接に町の便宜となる事業又は施設の用に供するとき」に該当するから、控訴人の主張は理由がない。

オ 控訴人は、今金町行政財産の使用料徴収条例8条が定める減免できる事由は限定列挙であり、4号の「町長が特別の事情があるとき」は、少なくとも1号ないし3号が規定する公用等の使用、公共的団体等の使用、応急用の施設の使用という場合と同等あるいはそれに準じる場合でなければならないと主張する。

しかし、同条例8条は、減免できる事由として、個別に1号ないし4号を挙げているのであり、そして、「各号の一に該当するときは、使用料等を減免することができる」と規定しているのであるから、4号は、1号ないし3号と同等あるいはそれに準じる場合に限定されるとまで解釈することは相当ではない。また、仮に、「町長が特別の事情があるとき」を控訴人主張のように解するとしても、本件使用許可処分及び本件使用料減免処分は、これらの処分がされるに至った経過、使用許可を受けたa社及びb社の性格からすれば、公共的団体等の使用に準じるものであるということができる。したがって、控訴人の主張は理由がない。

(4)  よって、本件使用料減免処分を含めた本件使用許可処分に係る今金町長の裁量権の行使に逸脱又は濫用があると認めることはできず、違法と認めることはできない。

4  結論

以上によれば、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであるところ、これと結論を異にする原判決は相当ではないから取り消し、控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林正 裁判官 片岡武 湯川克彦)

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