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札幌高等裁判所 平成24年(ネ)32号 判決 2012年3月29日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の訴えを却下する。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

第2  事案の概要

原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」に記載のとおりであるから、これを引用する。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も、被控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決4頁7行目の「協議離婚した。」の次に「被控訴人の母は、平成23年○月ころ、控訴人を相手方として、旭川家庭裁判所に対し、親子関係不存在確認の調停を申し立てたが、控訴人がDNA鑑定を拒み、同月○日、調停は不成立で終了した(甲6、弁論の全趣旨)。」を加える。

(2)  同判決4頁9行目の「私的鑑定」の次に「(DNA鑑定)」を加える。

2  控訴人は、最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁を引用し、民法772条の嫡出推定が排除される要件について、妻が子を懐胎すべき時期に、夫婦が事実上の離婚をして別居状態にあり、夫の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白な場合でない限り、嫡出推定は排除されないものであると解すべきであるとして、本件において、被控訴人の母が被控訴人を懐胎すべき時期に控訴人の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白ではなく、しかも、被控訴人側が行った私的鑑定については、鑑定が日本国で行われていないことから、DNA鑑定報告書(甲4)の成立の真正、鑑定人の存在及び鑑定内容に疑義があり、同条の嫡出推定は排除されないのであるから、本件訴えは不適法であると主張する。

検討するに、上記最高裁判例が、嫡出推定の排除される場合を妻が夫の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白な場合にのみ限定する趣旨のものであると解するのは相当ではない。すなわち、民法が婚姻関係にある両親から生まれた子についてその親子関係を争うことについて厳格に制限しようとしたのは、家庭内の秘密や平穏を保護するとともに、平穏な家庭で養育を受けるべき子の利益が不当に害されることを防止することにあると解されるから、このような趣旨が損なわれないような特段の事情が認められ、かつ、親子関係の不存在が客観的に明らかな事案においては、嫡出推定の排除される場合を妻が夫の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白な場合に限定する必要はないと考えるべきである。これを本件についてみると、前示のとおり、DNA鑑定によりBが被控訴人の父親である確率が99.999998パーセントとの鑑定結果が得られており、控訴人と被控訴人との間の親子関係の不存在は、科学的証拠により客観的かつ明白に証明できており、また、被控訴人の母と控訴人は既に離婚して別居しており、被控訴人は親権者である母の下で監護されているなどの事情が認められるのであるから、本件においては嫡出推定は排除されると解するのが相当であり、本件訴えは適法であるというべきである。

また、控訴人は、DNA鑑定報告書(甲4)の成立の真正、鑑定人の存在及び鑑定内容に疑義がある旨主張するが、甲6及び弁論の全趣旨によれば、DNA鑑定報告書(甲4)が真正に成立したことは認められ、また、同報告書の内容に照らせば、鑑定人の不存在や鑑定内容の信用性について疑義が生ずるということはない。

第4  以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上哲男 裁判官 中島栄 佐藤重憲)

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