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札幌高等裁判所 平成24年(ラ)133号 決定 2012年11月28日

主文

1  原決定を取り消す。

2  被抗告人の訴訟費用負担決定の申立てを却下する。

3  抗告費用は被抗告人の負担とする。

理由

第1抗告の趣旨及び理由

1  抗告の趣旨

主文1、2項と同旨

2  本件抗告の理由

本件抗告の理由は、要するに、被抗告人が株式会社武富士(以下「本件会社」という。)を被告として提起した不当利得返還請求訴訟(札幌地方裁判所平成22年(ワ)第2745号、以下「本案事件」という。)の係属中に、本件会社が、順次、更生手続開始決定(以下「本件開始決定」という。)及び更生計画認可決定を受けたが、本案事件に関する訴訟費用償還請求権は、本件開始決定前の原因に基づいて生じた更生債権であるところ、被抗告人が同請求権について更生債権として届出をしなかったため、更生会社は、会社更生法204条1項柱書により同請求権につきその責任を免れたから、原審は、訴訟費用の負担決定をしてはならず、被抗告人の訴訟費用負担決定の申立てを却下すべきところ、これを認容した原決定を取り消し、被抗告人の訴訟費用負担決定の申立ての却下を求める、というものである。

第2当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  被抗告人は、平成22年8月19日、本件会社を被告として、札幌地方裁判所に、不当利得(過払金)の返還を求める本案事件を提起した。東京地方裁判所は、本案事件が係属中であった同年10月31日午前10時、本件開始決定をした。同決定を受けて、被抗告人は、本案事件の請求債権のうち268万1853円について更生債権(以下「本件更生債権」という。)として届出をし、本件更生債権は異議なく確定したものの、本案事件の訴訟費用の償還については届出をしなかった。そして、札幌地方裁判所は、平成23年11月8日、本案事件につき訴訟終了宣言をした。

(2)  被抗告人は、平成24年3月5日、札幌地方裁判所に、本案事件に関する訴訟費用負担決定の申立てをしたところ、同裁判所は、同年4月5日、本案事件の訴訟費用は、抗告人の負担とする旨の決定(以下「原決定」という。)をしたので、抗告人が本件抗告をした。

2(1)  訴訟費用償還請求権は、訴訟費用に関する裁判により具体的に発生し、その裁判以前は単なる期待権に止まり、費用負担の裁判があれば条件付権利となり、その裁判の確定により無条件の権利となる。しかしながら、期待権ないし条件付権利のときでも、担保(民事訴訟法75条)や譲渡・差押えの目的になり、仮差押えにより保全され得るのであって、破産債権、更生債権として届け出ることもできる。

(2)  この点について、被抗告人は、費用に関する裁判がなされる前の費用償還請求権は、総額及び負担者が確定していないのであって、更生手続開始決定前の原因に基づくものとはいえないと主張する。しかしながら、上記のとおり民事訴訟法75条が、このような費用償還請求権の保全のために訴訟費用の担保の制度を認めていることからすれば、費用償還請求権は、内容が不確定ながらも訴訟提起の段階で、権利として行使し得るものとされている。そうであれば、訴訟提起が更生手続開始決定前であれば、更生手続開始決定前の原因に基づいて発生したものとして、更生債権に該当し届け出ることが可能であり、また、届出がなければ、会社更生法204条1項柱書により失権するというべきである。

(3)  また、被抗告人は、破産債権と更生債権は同一に考えることができず、破産債権として届出が必要であると解したとしても、必ずしも更生債権としての届出の必要があるとはいえないと主張する。確かに、破産と会社更生は、その目的を異にすることから同一に考えることはできないものの、一定の基準時の前後によって処遇を異にするという基本的な考え方は同一であり、更生手続開始決定前の原因に基づくのであれば、届出を要するというべきである。

(4)  したがって、本件の訴訟費用償還請求権は更生債権というべきところ、被抗告人が同請求権について更生債権として届出をしていないことについて争いがないから、会社更生法204条1項柱書により被抗告人は更生債権としての権利を失い更生会社はその責任を免れたものというべきである。

第3結論

以上によれば、原決定は相当でなく、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消し、被抗告人の訴訟費用負担決定の申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山﨑勉 裁判官 馬場純夫 湯川克彦)

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