大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 平成24年(ラ)271号 決定 2012年10月30日

主文

1  本件執行抗告を棄却する。

2  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1執行抗告の趣旨及び理由

別紙記載のとおりである。

第2事案の概要

本件は,被抗告人が,抗告人に対し,両者間の札幌家庭裁判所平成23年(家)第931号子の監護に関する処分(面会交流)申立事件における,未成年者を被抗告人と面会交流させることを抗告人に命ずる審判を債務名義とする強制執行として,その履行を命ずるとともに,不履行の場合に金員の支払(「①抗告人が原決定の送達を受けた日から30日以内に,<ア>面会期日が到来している部分につき30万円,<イ>面会期日が到来していない部分につき不履行1回ごとに30万円(ただし,上記送達を受けた日から30日以内に面会期日が到来しない部分については,面会期日が到来するまでに),②上記<ア>の金員の全額を期限までに支払わないときは30万円,③上記<イ>の金員の全額を期限までに支払わないときは,期限経過後1日につき1万円」)を命ずることを求める旨の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案であり,原審は,抗告人に対し,上記審判の面会交流の履行を命ずるとともに,原決定の告知日以降,不履行1回につき5万円の割合による金員を支払うよう命じたことから,これを不服とする抗告人が執行抗告を申し立てたものである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,原決定主文のとおり抗告人に間接強制を命ずるのが相当であると判断する。その理由は,原決定の「理由」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原決定1頁19行目の「関連事件」の次に「(札幌家庭裁判所平成23年(家イ)第343号及び同年(家)第931号)」を加え,同行目の「審問」を「審尋」と改め,25行目の「債務者は,」の次に「平成20年1月25日,」を加え,同2頁7行目の「旨の」を削り,18行目の「未成年者を面会交流をする」を「未成年者と面会交流する」と,同3頁1行目から2行目にかけての「債務者は具体的内容が定められた債権者による面会交流を許さなければならない義務」を「抗告人は,本件審判に従い,被抗告人と未成年者との面会交流を実現すべき義務」と,3行目の「行事」を「未成年者の学校行事」と,6行目の「額」を「一定の額」と,8行目の「応じない」を「面会交流に応じない」と,9行目から10行目にかけての「債権者と未成年者の面会交流は許さなければならないものではない」を「義務の履行を行えない正当な事由がある」とそれぞれ改め,16行目の「未成年者」の次に「の意思に反して被抗告人」を加え,17行目の「主張してして」を「主張して」と改め,18行目の「債権者」から19行目の「待たず」までを「しかしながら」と改め,24行目末尾に「。」を,同4頁2行目の「相当である」の次に「(本件申立ては,前記事案の概要記載のとおりであるが,既に面会期日が経過した面会交流については,間接強制によりこれを実現したり,妨害を排除することはできないから,抗告人が原決定の告知を受けた以降,各義務の不履行があるときに,同額の支払を命ずるものとする。なお,支払予告命令の内容については,執行裁判所の裁量に委ねられているものであるから,本件申立てに拘束されるものではない。)」をそれぞれ加える。

2(1)  抗告人は,抗告人自身は被抗告人と未成年者との面会交流を実現する意向を有しているものの,未成年者が面会交流の実現を拒絶する意思を強く示しており,抗告人においてその翻意のために努力したにもかかわらず,未成年者の意思が変わらず,それどころか,被抗告人自身が未成年者を怒鳴るなどしたことによって,いよいよ未成年者の拒絶意思を強固にさせたため,面会交流が実現できないものであるから,少なくとも本件事案の場合については,間接強制になじまないものであり,また,被抗告人自身が未成年者との信頼関係を損なう言動をとり続けておきながら,本件申立てをするのは,権利の濫用であり,許されない旨主張する。しかしながら,面会交流に係る債務名義上の義務が一般的に間接強制になじまないものとは解されず,本件事案において抗告人が主張する上記事由も,補正を加えた前記引用にかかる原決定の説示のとおり,請求異議事由あるいは審判後の変更事情として主張すべきものであるにすぎないから,その事由をもって間接強制になじまない事情ということはできず,また,一件記録を精査しても,本件申立てが権利の濫用に当たり許されないというまでの事情を認めることはできない。

(2)  抗告人は,本件審判が定める「面会交流することを許さなければならない」との義務が,面会交流を妨げてはならないという不作為義務であるとの前提の下に,抗告人にかかる不作為義務に違反するおそれがあることの立証がないから,間接強制決定をすることはできない旨主張する。しかしながら,本件審判が定める面会交流に係る義務(原決定別紙面会交流要領1項,2項,4項から6項まで)は,同要領の文言から明らかなとおり,面会交流が円滑に実現されるべき義務をいうものであり,それを不作為義務と解することはできないから,抗告人の上記主張は,その前提を欠くというべきである。また,同要領の被抗告人が未成年者の学校行事へ参列することを妨げてはならないとの義務(同要領3項)は,その文言上,不作為義務というべきであるが,抗告人が,学校行事の日程を被抗告人に知らせることは未成年者の意思に反して被抗告人との面会を容認することになるに等しいから,それを知らせることができない旨主張していること自体からして,被抗告人が未成年者の学校行事へ参列することについて否定的態度をとっているものといわざるを得ず,抗告人が学校行事への被抗告人の参列を妨げるおそれ(このおそれについては,高度のがい然性や急迫性に裏付けられたものである必要はないと解される。)のあることが優に認められるというべきである。

(3)  抗告人は,支払予告命令の不履行1回につき5万円という金額が著しく過大であり,執行裁判所の裁量を逸脱している旨主張するが,一件記録を精査しても,これが裁量を逸脱するほどの過大な金額であるとの事情は認められない。

第4結論

よって,本件執行抗告は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり決定する。

(別紙)

第1 抗告の趣旨

1 原決定を取り消す

2 相手方の本件申立を却下する

3 抗告費用は相手方の負担とする

との裁判を求める。

第2 抗告の理由

1 面会交流が実現に至らなかった経緯

(1)本件審判の確定

本件審判後,申立人は,本件審判を受け,その審判内容が,申立人の主張と全面的に合致するものではなかったとはいえ,未成年者の健全な発達のため,面会交流の実施方法について細部に渡って検討された内容であると感じられたこと,審判内容を確認した時点においては,同内容であれば,相手方との面会交流が未成年者に大きな悪影響を及ぼすことはないであろうと考えられたこと、未成年者の小学校入学にともない、長年にわたる相手方との紛争状態を終わらせ、未成年者と穏やかな生活を送りたいと強く望んでいたことといった理由から,申立人において即時抗告手続はとることはせず,相手方も即時抗告をしなかったため,本件審判は確定に至った。

(2)平成24年6月9日の面会交流が実現しなかった経緯

本件審判の確定後,審判に定められた最初の面会交流予定日は,平成24年6月9日であった。

そこで,同月7日に,申立人が未成年者に対して,相手方との面会交流を提案したところ,未成年者は「え?やだー!」と,これを拒絶する返答をした。その後,申立人から,未成年者に幾度も面会交流に応じられないか意向を確認したものの,「絶対,いや」,「(ほんの少しの時間でも)いや!」,「(どうしても)いや!」と非常に強い拒絶の姿勢を示し続けた。

申立人より如何なる方法を提示しても未成年者が面会交流に応じないため,申立人は,同月8日,申立代理人に相談の上,未成年者と相手方に電話で直接話をしてもらう他はないとの結論になり,同日,当時相手方代理人を務めていたA弁護士にFAXにて連絡をした上で,未成年者が相手方に電話をした。しかしながら,相手方携帯電話,相手方自宅固定電話のいずれに架電をしても相手方は応答せず,やむなく未成年者は,相手方自宅固定電話の留守番電話に「Bは,今,お父さんに会いたくありません」とのメッセージを残したが、相手方から折り返しの連絡は一切無かった。

面会予定であった同月9日午前10時過ぎになって初めて,相手方より,申立人の携帯電話に架電があり,怒鳴り声で面会交流を実現するよう抗議がなされた。そこで,申立人から経緯を説明したものの,相手方は全く耳を貸さず,怒鳴って申立人を罵倒するばかりであったため,申立人は,相手方に未成年者と直接話しをするよう依頼し,未成年者に電話を代わった。未成年者は,電話越しに聞こえる相手方の怒声に怯えながら「いやだ,いやだ,いやだ…」と面会交流を拒絶する意思を伝えたが,相手方は未成年者の話を聞こうとすらせず,ただ「お母さんに代わりなさい!」と怒鳴るばかりであった。申立人は,同日については面会交流の中止を依頼して電話を切ったが,相手方との電話を切った後,未成年者は,相手方に対してさらに強い畏怖の念を示し,「あんな人の子どもじゃなきゃ良かった」などとまで述べた。

さらに,同日,相手方は申立人の実家のそばで待ち伏せをした(申立人の母により目撃されている)上に、警察に対して,申立人が未成年者を虐待している等と虚偽の通報をした(4年前にも数回に渡り同様の通報を行なっている)とのことで,警察から申立人に電話があり,未成年者の安否確認のため,未成年者との会話を求められたが,この際も,未成年者は,警察官に対して,「お父さん怖い。お父さんに会うの嫌だ」と述べ,やはり,相手方との面会を拒絶した。

(3)申立代理人と未成年者との面談の経緯

(2)記載の経緯を受け,面会交流について相手方と話し合う必要が生じたが,平成24年6月9日の,申立人や未成年者の話を聞こうともせず虐待などと虚偽の通報をして警察を通じて力ずくで実現しようとする相手方の対応からして,申立人としては,当事者間で話し合うことは不可能と判断せざるを得ず,同月14日,御庁に,審判確定後の紛争を調整する調停の申立を行った。なお,申立人としては,ある程度時間を要するかもしれないが,時間をおいて適切な時機に未成年者の気持ちを傷つけないよう尊重しつつ、少しずつ説得し,本件審判記載の面会交流の実現に至ることができればと考えており,そのためには相手方の協力が不可欠であるため,上記調停の申立を行った次第である。

そのうえで,同年7月14日,申立代理人と未成年者が面会し,未成年者の面会交流についての意向を確認した。この際の会話内容は甲1別紙のとおりであり,未成年者は,相手方との面会交流の実現について質問する申立代理人に対して,即座に拒絶の意向を示し続け,面会交流を拒絶する強く明確な意思を示し続けた。

なお、平成24年9月11日、上記調停の第1回期日が開かれたが、相手方は、調停委員らに対し、未成年者の意思は自分で確認する、とにかく未成年者を騙してでも審判のとおりに実行させよと迫るばかりであったとのことであり、話し合いでの解決は到底困難であるとの見解が示されたため、同調停は取下げた。

(4)小括

以上が本件審判確定後,面会交流が実現しなかった経緯であるところ,一連の経緯から,面会交流が実現しなかったのは未成年者本人が面会交流の実施を強く拒絶したからであること,申立人は当初より面会交流を妨げる行動は一切取っておらず,むしろ,未成年者に対し、相手方と面会するよう説得し,相手方に、未成年者と電話で話をし、相手方が自ら未成年者を説得する機会を与える等、面会交流の実現に向けての可能な限りの努力をしてきたこと,相手方が折角の機会に未成年者を説得するどころか、未成年者を怒鳴り、更には警察に虐待と虚偽の通報をすることによって、未成年者を更に脅えさせ、いよいよ拒絶の意思を強固にさせたこと、現状面会交流を嫌がる未成年者の意思を覆させることは極めて困難であることはいずれも明らかである。

以上の経緯を前提に,以下,抗告の理由を具体的に主張する。

2 間接強制になじまないこと

そもそも,間接強制が認められるためには,その作為の実行が債務者の意思のみに係るものであることを要し,債務の履行のために第三者の協力を要し,それが容易に得られる見込みがない場合や,債務者の意思を抑圧して強制したのでは債務の本旨に適した給付とならない場合等については,間接強制は認められない。

この点,面会交流については,間接強制によってその履行の確保を図る運用も行われているが,少なくとも,債務名義に従った面会交流が実現されていない事案のうち,監護親自身は面会交流を実現する意向を有しており,ただ,未成年が面会交流の実現を拒絶する意思を強く示しており,監護親においてその翻意のために努力したもののこれを実現できなかった場合については,「債務の履行のために第三者の協力を要し,それが容易に得られる見込みがない」場合として,間接強制になじまないことは明らかである。

面会交流を直接強制によって実現することは認められていないが,これを直接強制によって実現した場合,未成年者に対して,継続的に,極めて重大な精神的負担を被らせる結果となり,これが面会交流の趣旨に適わないからに他ならない。そして,未成年者が,面会交流を嫌がる意向を強く示しており,監護親が努力をしてもなお翻意しない場合に,監護親において面会交流を実現しようとするならば,まさに直接強制と同様に,力ずくで,定められた日時・場所に未成年者を無理矢理引っ張っていく他これを実現する術はない。

しかし,このような方法による実現は物理的に困難であるし,何より,未成年者の意向を完全に無視する強引な方法で,監護親が面会交流を実現した場合,未成年者に生じる精神的負担,精神的衝撃は,執行官による直接強制と何ら変わらない。むしろ,信頼すべき監護親から,自身の意思を無視され,会うことを強く拒絶している非監護親と「力ずく」で会うことを強制された場合,未成年者に対して,監護親に対する不信感を強め,その健全な育成を阻害する結果となることは明らかであり,執行官による直接強制よりも弊害は大きいというべきである。

そうであるならば,「監護親自身は面会交流を実現する意向を有しており,ただ,未成年が面会交流の実現を拒絶する意思を強く示しており,監護親においてその翻意のために努力したもののこれを実現できなかった」場合については,間接強制によって,その履行を強制するという方法がなじまず,間接強制が認められるべきではないというべきである。

そして,本件の経緯は,(1)記載のとおり,まさに,申立人自身は面会交流を実現する意向を有しており,ただ,未成年者が面会交流の実現を拒絶する意思を強く示しており,監護親においてその翻意のために努力したにもかかわらず未成年者の意思が変わらず、それどころか、相手方自身が、未成年者を怒鳴り、警察に虐待などと虚偽の通報をしたことによって、いよいよ未成年者の拒絶の意思を強固にさせてしまい、これを実現できなかったに過ぎないのであるから,上記間接強制になじまない場合であることは明らかであり,相手方による間接強制の申立は却下されるべきである。

離婚判決後、相手方は未成年者を申立人に引渡すことを拒否しながら、女性と同居を開始し、ようやく引渡す際には、「おとうさん結婚するんだって。そうしたら、新しい子が生まれるから、B(未成年者のこと)はいいんだって。」と未成年者が発言する状態にし、平成24年1月の面会の際、申立人に相談無く、再婚相手との子供が生まれることを未成年者に勝手に話し、まさに上記の状態を現実にし、未成年者の心を傷つけ、どんなに申立人が説得しても、未成年者が「(会うのは)絶対にいや!」と断固として面会を拒絶する状態になるまで、信頼関係を壊し続けた。それでも、申立人は、平成24年6月9日に相手方が未成年者と電話で直接話し、説得する機会を設けたが、その際にも未成年者を説得するどころか、未成年者の話も聞かずに怒鳴り、更には警察に虐待と虚偽の通報をすることによって、未成年者を更に脅えさせ、いよいよ拒絶の意思を強固にさせ、「二度と5分でも会いたくない」、「(どうしても会わなければならないなら)一歩も外を出ない」と発言させ、通学や外出の際に、相手方に似た男性の姿や相手方の所有する車に似た車を見る度に怯えるまでになった未成年者を、「騙してでも連れて来て、審判内容を実現させろ!」と調停員に主張する相手方の態度は、面会交流権の濫用に他ならず、到底子の福祉にかなうものではない。自ら未成年者との信頼関係を損なう言動を取り続け、面会交流を実現できない状態を自ら作っておきながら、申立人に間接強制を強いる相手方は、あまりに不条理である。

3 申立人において面会交流を妨げる恐れは一切存しないこと

第2項の主張が排斥された場合の予備的な主張として,原決定には事実認定に誤りがあり,間接強制決定がなされるべき要件を欠くことについて主張する。

(1)前提理解

本件審判は,申立人に対して,未成年者と相手方との面会交流を許さなければならないことを命じたものであるところ,本件審判が定める面会交流を許さなければならない義務とは,具体的には,面会交流を妨げてはならないという不作為義務である。

そして,不作為を目的とする債務について間接強制決定をするためには,債権者において,債務者がその不作為義務に違反する恐れがあることを立証することを要する(最高裁第二小法廷平成17年12月9日決定)。

(2)申立人の姿勢について

記述のとおり、申立人は、本件審判確定後に、未成年者が相手方との面会交流を明確に拒絶したため、この「審判後に生じた事情」を理由として,本件審判の取消を申し立てており,現時点において,面会交流が認められるべきではないと思料しているものではある。

しかしながら、他方、申立人は、本件審判確定時点においては、本件審判に従って面会交流を実現させる意思を当然に有していたものであるし、現在においても、未成年者本人を面会させても同人の福祉に反する結果とならない状況であれば、面会交流を妨害しない意思は変わらず有している。

第1項(2)記載のとおり,申立人は,当初の面会交流の際に,再三未成年者に面会交流に応じるよう求めたほか,その後も,申立代理人からの説得を要請するなど,面会交流が実現されるよう努力してきたことは,申立人において,面会交流を妨害する意思など有していないことの証左である。申立人が,本件審判確定後にとった対応とは,当初面会交流の実現のために積極的に協力する姿勢を示したものの,これを強固に拒絶する未成年者の姿勢を目の当たりにし,積極的な協力まではしない姿勢に転じざるを得なかったという内容に他ならないのである。

そして,既述のとおり,申立人が,面会交流の実現につき積極的に協力する姿勢を示すことができないのは,未成年者の意向が極めて強固であるために他ならず,未成年者が,相手方との面会交流を拒絶しないのであれば,申立人において納得して即時抗告をしなかった本件審判確定時点の状況に戻ることになるのであるから,申立人としてもこの実現を妨げることを希望する特段の理由など存しないことは当然である。

さらには,未成年者が面会交流を拒絶している現況の下でも,面会交流を積極的に「妨害する」意向など一切有していないのであり,未成年者が自己の意思で面会交流に赴くのであれば,むしろこれに積極的に協力する意向である。

以上の次第であり,申立人において,本件審判が定めた面会交流を妨害した経緯など一切ないし,今後についても(本件審判確定後の事情を理由として本件審判が取り消されるなどした場合を除き),未成年者の相手方との面会交流を妨げる意思など一切有していないのであり,申立人において,面会交流を妨げないという不作為義務に違反する恐れなど存しないことは明らかである。

(3)面会交流についての原決定の事実認定の誤り

この点,原決定は,「理由」の第1項(4)において,申立人が,相手方と未成年者とが「直接面会交流することを許さなかった」と認定する。

しかしながら,平成24年6月9日の経緯は,第1項(2)記載のとおりであり,申立人は,未成年者に対して相手方との面会交流を提案したうえ,未成年者からこれを強く拒絶された後も,幾度も面会交流に応じられないか意向を確認し,さらには,未成年者と相手方とが電話で直接話しをして,面会交流が実現するように試みているものである。

それでもなお,面会交流が実現に至らなかったのは,未成年者の意思が極めて強固であり,相手方が未成年者の話も聞かず、説得する努力もせず、一方的に怒鳴り、申立人が虐待している等と警察に虚偽の通報をするなど未成年者の心情に配慮する姿勢を欠く行動に終始した結果,未成年者の信頼を更に失い、拒絶の意思をより強固にさせてしまったことという経緯に依るに他ならない。

申立人が面会交流を積極的に妨げた事情は一切なく,「直接面会交流することを許さなかった」旨の原決定の認定は明確に事実に反するものである。

(4)学校行事の日程について

原決定は,同じく「理由」の第1項(4)において,申立人が,相手方からの「未成年者の学校行事の日程についての問い合わせに対し,日程を知らせることはできないと応答した」と認定している。

しかしながら,申立人が,相手方に対して「知らせることはできない」などと応答した事実は一切なく,原決定の認定は事実に反するものである。

なお,相手方から申立人に対する学校行事の日程について,平成24年6月12日に,同月9日に予定されていた面会交流の実現を求めるFAX文書の中で併せて照会され,この照会に対して特段の対応をしなかった事実は存在する。

しかしながら,そもそも,本件審判において,申立人が相手方に対して,学校行事の日程を教示する義務まで定められているものではない。当時,申立人としては,切迫していた面会交流についての対応の検討に意識を集中させていたうえ,相手方から重ねて学校行事の日程について照会がなされたこともなく、相手方が参列を許されている今年度の残りの行事は学習発表会のみで、何カ月も先であり、どのように状況が変化しているか予測できないため,未成年者が相手方に対して強い拒絶の意思を示している状況も勘案し,あえて本件審判に定めのない事項について積極的に協力する対応まではしなかったに過ぎない。

なお、更に、相手方が学校行事について初めて問い合わせてきた6月12日時点において、相手方の参列が認められている、入学式も運動会も既に終了している。4月に行われた入学式については、面会交流の決定前であるが、6月2日に行われた運動会については、市内の多くの小学校で同日に実施されており、もし相手方が少しでも関心を持っていれば、ニュースや新聞で多く報じられているため、気づかぬはずはないが、相手方より何ら問い合わせもなく、また申立人が何ら妨害行為をしていない状況で相手方が自主的に参加してくることも無かった。

申立人が,未成年者が相手方に対して強い拒絶の意思を示している状況で,本件審判に定めのない積極的な協力をしなかった事実のみをもって,本件審判で定められた「面会交流を妨害するおそれがある」といった評価までなされるべきではないことは明らかである。

(5)小括

以上の次第であり,申立人においてその不作為義務に違反する恐れがあるなどと認定されるべき理由は一切存しないのであり,原決定は誤った事実認定に基づき,誤った判断をしたものといわざるを得ない。

4 支払額が過大であること

既に述べたとおり,未成年者は,相手方との面会交流について極めて強い拒否的態度をとっているものであり,面会交流を実現するためには,未成年者の意思を無視して,力ずくで未成年者を相手方の下に連行する他はない。

このような直接強制と何ら変わらない極めて重大な精神的苦痛,精神的衝撃を監護親の手によって与えさせることが不適当であることは第2項で述べたとおりであるが,仮に,それでもなお未成年者の意思を勘案することなく,強制的に面会交流を実現しなければならないとの判断がなされるとしても,上記のような申立人の負担及び実現の困難性および相手方自身の非協力的態度が未成年者の強い拒否的態度の原因となったことを勘案すれば,支払が命じられる金額は低額とされるべきである。

これに対して原決定が命じた不履行1回につき5万円という金額は著しく過大であり,裁量を逸脱した判断として支払額が減額されるべきことは明らかである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例