札幌高等裁判所 平成25年(ネ)194号 判決 2014年2月14日
控訴人
X
訴訟代理人弁護士
高崎暢
同
白諾貝
同
野田晃弘
同
髙橋健太
被控訴人
Y1株式会社訴訟承継人 Y2株式会社
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁護士
藤田美津夫
同
岸巧
同
村本耕大
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人が、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、平成23年10月25日から本判決確定の日まで、毎月24日限り月額12万4191円の割合による金員、毎年6月末日限り年額4万7597円の割合による金員及び毎年12月末日限り年額4万7597円の割合による金員並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 本件は、Y1株式会社(以下「旧会社」という。)との間で雇用契約を締結し(本件雇用契約)、期間満了後に雇用契約を更新されなかった(本件雇止め)控訴人が、控訴人において本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理性があって、本件雇止めには解雇権濫用法理が類推適用されるところ、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、権利濫用(解雇権濫用)として無効であるから、本件雇用契約は終了していないと主張して、吸収合併により旧会社の権利義務を承継した被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇用契約に基づき、賃金相当額として平成23年10月25日から判決確定の日まで、毎月24日限り月額12万4191円の割合による金員、賞与相当額として毎年6月末日限り年額4万7597円の割合による金員及び毎年12月末日限り年額4万7597円の割合による金員並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は、本件雇止めについて、仮に、控訴人において本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理性があり、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないとはいえないとし、本件雇用契約は平成23年9月30日の経過をもって終了したと判断して、控訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決書「事実及び理由」欄の第2の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決書3頁18行目の末尾を改行して次のとおり加える。
「(4) 旧会社の期間雇用社員就業規則10条1項は、「会社が必要とし、本人が希望する場合は、雇用契約を更新することがある。ただし、雇用契約期間が満了した際に、業務の性質、業務量の変動、経営上の事由等並びに社員の勤務成績、勤務態度、業務遂行能力、健康状態等を勘案して検討し、更新が不適当と認めたときには、雇用契約を更新しない。」と定めている(証拠<省略>)。
また、本件雇用契約につき、控訴人に交付された期間雇用社員雇入労働条件通知書にも、雇用契約期間更新の有無として、上記就業規則10条1項と同じ定めが記載されているほか(証拠<省略>)、前記(2)の雇用契約更新ごとに、期間雇用社員雇入労働条件通知書が控訴人に交付され、その通知書にも、雇用契約期間の趣旨及び更新等あるいは雇用契約期間の趣旨等として、上記のような同じ定めの記載まではないものの、上記就業規則9条ないし11条が記載されている(証拠<省略>)。」
(2) 原判決書3頁19行目の「(4)」を「(5)」と、22行目の「(5)」を「(6)」と、26行目の「(6)」を「(7)」とそれぞれ改める。
(3) 原判決書3頁26行目の「被告は、」の次に「本訴提起後の」を加える。
(4) 原判決書4頁1行目の「承継した」を「承継し、本件訴訟の被告(被控訴人)たる地位を承継した」と改める。
(5) 原判決書4頁2行目の「争点及び」の次に「争点に関する」を、4行目の「いえるか」の次に「(本件雇止めについての解雇権濫用法理の類推適用の可否)」をそれぞれ加える。
(6) 原判決書5頁24行目の「採用した。」の次に以下のとおり加える。
「加えて、本件雇止め前の平成23年3月ないし4月ころ、郵便課の期間雇用社員1名の退職に伴い、期間雇用社員2名が業務企画室から郵便課に異動した。これは、b支店において費用削減のスローガンが掲げられ、その重点施策の一つに「業務量に応じた適正要員配置の見直し」が含められたこと(証拠<省略>)と前後する時期の出来事である。その後、この2名は雇止めされていない。このように、郵便課において減員数を上回る人員の補充が行われた。」
(7) 原判決書6頁5行目の末尾を改行して次のとおり加える。
「 さらに、平成23年8月5日ころ、正社員ではあるが、郵便課の職員1名が病気で倒れて、急きょ休職することとなった。そして、この社員は結局復職することなく後に退職している。上記欠員が生じたのは、旧会社が郵便課における3人程度の人員削減の必要性を職員に告知した同年7月よりも後であったことからすれば、旧会社は、人員削減の有無ないしその人数について再検討を行い、本件雇止めの全部ないし一部を見直したり、延期したりすることは十分可能であった。むしろ、雇止めが労働者の地位それ自体を失わせる行為であることからすれば、これらをすべきであった。
なお、旧会社について、業績の悪化が否定できないとしても、平成22年度の損失の約8割ないし9割は、○○事業及び△△事業の統合、f株式会社の設立、同社の清算及び事業承継という一連の経営判断の誤りに起因するものである。このような経営判断の誤りによる赤字の解消は、上記承継事業からの撤退や役員報酬の大幅な減額、役員数の削減や内部留保の利用によってのみ実現されるべきであって、人員削減の必要性は認められるべきではなく、仮に人員削減の必要性が認められるとしても、本件のようにそれが明白かつ著しい経営判断の誤りに起因する場合には、雇止めに客観的に合理的な理由があるといえるかどうかの認定は厳格になされるべきである。」
(8) 原判決書6頁13行目の末尾を改行して次のとおり加える。
「 被控訴人は、雇止め回避措置として、b支店の郵便課では、時給制契約社員を対象に、労働時間の短縮及び他の担務への変更についての協力を求めたと主張するが、その際に、労働時間の短縮に応じた者と応じなかった者とが分かれた場合には、後者から優先的に雇止めを行っていくという一般的方針を告知すべきであったにもかかわらず、このような一般的方針を時給制契約社員に告知しなかった。その結果、労働時間の短縮に応じるか否かの聴取を受けた時給制契約社員は、これに応じなかった場合のリスクが認識できていない状態で、その多くが労働時間の短縮に応じないとの回答を行ったものであり、上記のような一般的方針を示した上で労働時間の短縮に応じるか否かを聴取すれば、労働時間の短縮に応じる者が増えた可能性がある。したがって、旧会社の雇止め回避努力は、時給制契約社員に対して、労働時間の短縮を求める際の真摯な説得、説明がなされたとは評価できないという点で、不十分であるというべきである。
なお、雇止め回避努力に関しては、控訴人に対して受け入れ可能な代替案の提示がなく、この点でも不十分であった。具体的には、控訴人としては、始業時間、終業時間を固定した上での労働時間の短縮であれば、これに応じることも十分考えられたものである。」
(9) 原判決書9頁4行目の末尾を改行して次のとおり加える。
「 控訴人は、旧会社が、労働時間の短縮に応じた者と応じなかった者とが分かれた場合には、後者から優先的に雇止めを行っていくという一般的方針を時給制契約社員に対して告知しなかった点で、旧会社の雇止め回避努力は不十分である旨主張する。しかしながら、時給制契約社員には、労働時間短縮に応じることが雇止めリスクを回避する上で有利であることにつき一般的な告知はなされており、人選の過程で労働時間の短縮に応じなかった者の中から雇止め対象者を選定する旨を改めて通知することは不合理である。また、上記の一般的方針を告知しても、雇止めを回避できたわけでもなく、さらに、具体的人選に入る段階で改めて一般的方針を説明しなかったという雇止めの対象者を選定する過程での選考資料や選考基準に関わる問題は、雇止め回避努力の相当性の要素として判断されるような事項ではないというべきである。」
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも棄却するのが相当であると判断するが、その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決書「事実及び理由」欄の第3及び第4に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決書13頁16行目の「行った。」の次に以下のとおり加える。
「上記書面には、「なお、退職希望者が少ない場合には、期間雇用社員の皆様方の自支店内の配置換又は勤務日数・勤務時間の短縮を実施することとなります。それでも調整がつかない場合は、雇用契約期間の満了日で退職していただくことがありますので、事情をご理解いただき、ご承知おき下さい。」と記載されていた。」
(2) 原判決書13頁20行目の「書面」の次に「(証拠<省略>)」を、23行目の「実施した。」の次に「上記書面には、「なお、勤務時間の短縮や担務の変更に応じていただいても、必ずしも雇用契約を更新できるとは限りませんので、ご承知おきください。」と記載されていた。」をそれぞれ加える。
(3) 原判決書14頁2行目の「証拠<省略>」次に「証拠<省略>」を加える。
(4) 原判決書17頁2行目の「非合理」を「不合理」と改める。
(5) 原判決書17頁2行目の末尾に続けて次のとおり加える。
「この点につき、控訴人は、当時郵便課には、課長3名、課長代理3名の他に総務主任約15名が在籍しており、総務主任も総括的な業務を行うことが可能であったから、B代理をあえて時給制契約社員として採用する必要性は乏しかった旨主張するが、総務主任が総括的な業務を行うことが可能であったことを認めるに足りる証拠はなく、そもそもB代理の退職と期間雇用社員としての採用により労働時間は増加していないのであるから、B代理の採用は本件人員削減の必要性を否定する根拠となるものではなく、控訴人の主張はそれ自体失当というべきである。」
(6) 原判決書17頁8行目の「11月、12月については分からない」を「11月、12月になると、年末年始の繁忙対策になり、ふだんより多目に要員を配置しているから、分からない」と改める。
(7) 原判決書17頁12行目の「可能性を否定できない」から14行目の末尾までを次のとおり改める。
「と認められる。なお、この点につき、控訴人は、原審は、b支店所属の郵便課社員の平成23年10月から同年12月までの「超過勤務、祝日勤務及び夜間勤務命令簿兼整理簿」について控訴人が申し立てた文書提出命令を認めて、郵便課社員の労働時間(時間外労働)の実態を検証すべきであったにもかかわらず、原審が上記申立てを却下したのは審理不尽である旨主張するが、原審証人Eの上記証言によっても、11月と12月については、年末年始の繁忙対策になるとされているのであって、仮に、これらの文書の提出を受けて、控訴人に対して雇止めを行った結果、残された社員の超過勤務等が相当量にわたって生じ、これに伴う人件費が発生していることが認められたとしても、そのことから直ちに人員削減や控訴人に対する雇止めの必要性がなかったとまでは認めることができない。
また、控訴人は、平成23年3月ないし4月ころ、郵便課の期間雇用社員1名の退職に伴い、期間雇用社員2名が業務企画室から郵便課に異動しており、その後、この2名は雇止めされていないのであって、減員数を上回る人員の補充が行われた旨主張する。これに対し、被控訴人は、郵便課の期間雇用社員が平成23年3月及び同年4月にそれぞれ1名ずつ(計2名)自己都合により辞職し、その代替労働力として、業務企画室に勤務していた期間雇用社員2名が郵便課に勤務することになったが、この2名中1名が同年7月に体調不良により辞職した旨主張しているところであって、控訴人が主張するような、郵便課に減員数を上回る人員の補充があったことを認めるに足りる証拠はない。また、控訴人は、平成23年8月5日ころ、正社員が休職に入り、その後復職することなく退職した旨主張するが、正社員に欠員が生じたからといって、時給制契約社員の人員削減の必要性がなくなるとまでは認められないし、上記正社員の職務が控訴人を含む時給制契約社員が代替することができることを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、控訴人が主張するように、b支店郵便課c係において3.3人の労働力の削減をする必要がなかったとはいえない。
なお、控訴人は、旧会社の業績の悪化は、経営判断の誤りに起因するから、人員削減の必要性は認められるべきではなく、仮に人員削減の必要性が否定できないとしても、本件のようにそれが明白かつ著しい経営判断の誤りに起因する場合には、雇止めに客観的に合理的な理由があるといえるかどうかの認定は厳格になされるべきである旨主張する。しかしながら、上記1(1)で認定したとおり、旧会社の業績の悪化には、IT化に伴う郵便物自体の減少という外部的事情に由来する郵便事業の収益の減少がその要因として認められるのであって、控訴人が主張するような事情が認められたとしても、人員削減の必要性が否定されるものではない。」
(8) 原判決書18頁17行目の末尾を改行して次のとおり加える。
「 さらに、控訴人は、雇止め回避措置として、旧会社が時給制契約社員に対し労働時間の短縮を求める際に、旧会社は、労働時間の短縮に応じた者と応じなかった者とが分かれた場合には、後者から優先的に雇止めを行っていくという一般的方針を告知すべきであったにもかかわらず、このような一般的方針を時給制契約社員に告知しなかったのであり、労働時間の短縮を求める際の真摯な説得、説明がなされたとは評価できないという点で、旧会社の雇止め回避努力は不十分である旨主張する。確かに、上記1(8)で認定したとおり、旧会社は、雇止めの対象者を決めるに当たって、時給制契約社員23名のうち、労働時間の短縮の応じた3名を除く20名の中から雇止めをする3名の人選を行っていることが認められる。しかしながら、上記1(5)で認定したとおり、旧会社は、退職希望者を募集したり、勤務日数、勤務時間の短縮に関する意向調査を行う際、事前に、控訴人を含む時給制契約社員に対し、退職希望者が少ない場合には、期間雇用社員の自支店内の配置換又は勤務日数・勤務時間の短縮を実施することとなり、それでも調整がつかない場合は、雇用契約期間の満了日で退職させることがあることや、勤務時間の短縮や担務の変更に応じても、必ずしも雇用契約を更新できるとは限らないことを告知していたことに加え、旧会社において、労働時間の短縮に応じるか否かの意向調査や個別面談を実施した結果、3名の時給制契約社員が労働時間の短縮に応じたことから、労働時間の短縮に応じた3名を除く20名の中から、雇止めをする3名の人選を行うとの方針を立てた段階で、労働時間の短縮に応じた者を除外して、労働時間の短縮に応じなかった者を雇止めの対象者とすることを告知していなかったとしても、労働時間の短縮に応じる者が3名にとどまったことをも併せ考慮すると、その人選が恣意的であるとか手続が濫用的であるなどの特段の事情が認められない本件においては、雇止め回避努力として不十分である(あるいは人選が不合理であり、その手続が不相当である)とまでは認めることができないから、控訴人の上記主張は採用できない(そもそも、労働時間の短縮に応じなかった者の中から3名を雇止めとする方針決定自体が合理的理由を欠き、雇止めの必要性も認められないことや、労働時間の短縮に応じた者と応じなかった者とが分かれた場合に、後者から優先的に雇止めを行っていくという一般的方針を告知することによって上記3名の雇止めを回避することができたことが認められない限り、上記のような一般的方針を告知しないことが雇止め回避努力として不十分であったとはいえないところ、上記3名を雇止めとする方針決定自体が合理的理由を欠き、雇止めの必要性も認められないことや上記のような一般的方針を告知することによって雇止めを回避することができたことを認めるに足りる証拠はない。)。
なお、控訴人は、控訴人に対して受け入れ可能な代替案の提示がなかったことをもって、雇止め回避努力が不十分であったとし、具体的には、始業時間、終業時間を固定した上での労働時間の短縮であれば、控訴人において、これに応じることも十分考えられた旨主張する。しかしながら、勤務上の必要性に応じて勤務時間帯が指定されるものであることからすると、多数の期間雇用社員のうち、控訴人のみに始業時間や終業時間を固定するなどの措置を執ることは困難であるから、控訴人の上記主張は採用できない。」
(9) 原判決書19頁12行目の末尾に続けて次のとおり加える。
「これに対し、控訴人は、旧会社の勤務評価に関し、「有」、「無」の基準は「正確かつ迅速に」に任務を行えるか否かという曖昧な基準であると主張する。確かに、上記の基準については、評価者の主観が一定程度入らざるを得ないが、勤務評価について、このような要素を一切排除することは現実的でなく、上記のように、評価が一方的にならないように、評価の手続が整備されていたことからすれば、曖昧な基準で勤務評価をしていたとの控訴人の主張は採用できない。」
(10) 原判決書19頁17行目の「そもそも」から20頁4行目の末尾までを次のとおり改める。
「労働時間の短縮に応じた期間雇用社員が勤務評価の低い者であったことを認めるに足りる証拠はなく、時給制契約社員のうち労働時間の短縮に応じた3名を除く20名の中から、雇止めをする3名の人選を行うとの方針を立てた段階で、労働時間の短縮に応じた者を雇止めの対象から除外することを告知していなかったとしても、その人選が恣意的であるとか手続が濫用的であるなどの特段の事情が認められない以上、労働時間の短縮に応じた社員を優先的に雇止めの対象から除外することが不合理であるとまでは認められず、旧会社において労働時間の短縮に応じた者を雇止めの対象から除外することを告知すべき義務があったともいえないから、控訴人の上記主張は採用できない。」
(11) 原判決書20頁13行目の「非合理」を「不合理」と改める。
(12) 原判決書22頁15行目の「よって」を「したがって」と、17行目の冒頭から18行目の末尾までを「よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却する。」とそれぞれ改める。
2 以上の次第で、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山﨑勉 裁判官 馬場純夫 裁判官 湯川克彦)