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札幌高等裁判所 平成25年(ネ)316号 判決 2014年3月13日

控訴人

Y1株式会社訴訟承継人 Y2株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

藤田美津夫

岸巧

村本耕大

被控訴人

同訴訟代理人弁護士

高崎暢

白諾貝

髙橋健太

野田晃弘

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は、Y1株式会社に期間雇用社員として雇用され、雇用期間を概ね6か月として契約更新を繰り返してきた被控訴人が、平成23年9月30日の雇用期間満了をもってされた雇止め(以下「本件雇止め」という。)は権利濫用であって許されないから、同日をもって雇用契約は終了していないとして、吸収合併によりY1株式会社の事業及び本件訴訟の被告たる地位を承継した控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づき、平成23年10月1日から判決確定の日までの月額賃金(毎月末日を締め日とし、当該月の翌月24日限り12万7735円の割合による金員)及び同年12月から判決確定の日までの賞与(毎年12月末日限り及び毎年6月限りそれぞれ4万4412円の割合による金員)の各支払並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、本件雇止めが許されるか否かを判断するに当たっては、解雇に関する法理が類推適用されるとした上、本件雇止めは、控訴人が雇止め回避のための努力を十分に尽くさなかったものであり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、権利濫用であって許されないから、雇用契約は平成23年9月30日をもって終了しておらず、それまでと同様の条件で更新され、6か月毎に更新が繰り返されている状態にあるとして、被控訴人の請求を認容した。控訴人がこれを不服として控訴した。

2  前提となる事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張等は、後記3に当審における補充主張を掲げ、後記4に当審における新たな主張を掲げるほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり補正する。

(1)  原判決3頁5行目の「あったが、」の次に「本件訴訟提起後の」を加える。

(2)  同3頁9行目の「第一集配課、第二集配課」を「第一集配営業課、第二集配営業課」に改める。

(3)  同3頁10行目の「証拠<省略>」の次に「、証拠<省略>」を加える。

(4)  同3頁20行目の「答弁書」を「訴状に代わる準備書面に対する答弁書」に改める。

(5)  同4頁24行目の「場合には」を「場合に」に改める。

(6)  同5頁1行目の「認めたときは」を「認めたときには」に改める。

(7)  同6頁10行目の「定めた」から13行目末尾までを「定め、これを平成23年3月25日付けで「平成23年度a支店経営実行計画書」にまとめて、被控訴人ら社員に配布した(証拠<省略>)。」に改める。

(8)  同6頁14行目の「1億7935万9000円」の次に「のうち、集配関係部署において集配委託区の見直しにより削減が計画されていた2570万8000円を除いた1億5365万1000円」を加える。

(9)  同6頁16行目から17行目にかけての「2750万8000円」を「2570万8000円」に改める。

(10)  同7頁4行目の「、(6)」を「及び上記ア」に改める。

(11)  同7頁25行目の「減少」を「減少等」に改める。

(12)  同8頁4行目の「希望退職者」を「退職希望者」に改める。

(13)  同9頁13行目の「甲7、」の次に「証人E、」を加える。

(14)  同9頁16行目の「年齢」の次に「等」を加える。

(15)  同9頁17行目末尾に、次のとおり加える。

「すなわち、20名のうちスキルA有の勤務評価を受けている者15名を雇止め対象者から除外し、残り5名のうち最も勤務評価の低い者(甲7の16番の者)を雇止めすることとし、残り4名については、勤続年数を考慮して、他の3名よりも長期間雇用されている者を雇止め対象者から除外し、残り3名のうち最も年の若い被控訴人と過去に戒告の処分歴を有する者(甲7の11番の者)を雇止めすることとした。」

(16)  同11頁11行目から12行目にかけての「客観性を欠くし」の次に、次のとおり加える。

「(評価は、高い順から、スキルA有、スキルA無、スキルB有、スキルB無等とされているが、この「有・無」は、正確かつ迅速にできているか否かという判断であり、極めて曖昧な基準である。)」

(17)  同11頁12行目の「業務内容が異なるd係とVC業務担当者」を、次のとおり改める。

「郵便課d係の中での業務内容(郵便課d係の中には、郵便物を方面別に区分する書状区分機を動かしたときに、郵便番号等を読み取れなかった郵便物について、パソコンの画面を見ながらそれを数字で打ち込むだけの業務(VC業務)を担当している者がいる。)」

3  当審における補充主張

(1)  被控訴人の主張

ア 控訴人の経営が悪化したのは、ゆうパック事業及びペリカン便事業の統合、bの設立、同社の清算、同社の事業承継という一連の経営判断の誤りに起因しているものであって、しかも、その経営判断の誤りは、○○ガバナンス問題調査専門委員会から、経営判断としての合理性を大きく逸脱していると断罪されるほどの明白かつ著しいものであり、このような原因で悪化した経営を再建するために、何の責任もない社員を雇止めすることはあまりに酷であるから、人員削減の必要性は認められるべきではない。また、仮に人員削減の必要性が一応認められるとしても、雇止めを許容する要件は、通常の雇止めを許容する要件より厳格にすべきである。

イ 控訴人は、被控訴人に対し、労働時間短縮に応じた者と応じなかった者とが分かれた場合には、後者から優先的に雇止めを行っていくという一般的方針を告知すべきであった。そのような一般的方針を告知することなく、労働時間短縮に応じなかった被控訴人を雇止めしたことは、労働時間短縮を求める際の真摯な説得、説明を欠いたものであり、控訴人は雇止め回避のための努力を尽くしていなかった。

(2)  控訴人の主張

ア 被控訴人の主張アは争う。○○ガバナンス問題調査専門委員会の報告書は、極めて政治色の強いものであり、評価の前提となる事実の認定根拠が明らかとはいえず、その客観性には疑問がある。また、仮に控訴人の経営判断に誤りがあったとしても、それについては取締役の善管注意義務違反の有無等が問題となるにすぎず、雇止めが許容されるか否かとは無関係である。

イ 被控訴人の主張イは争う。時給制契約社員に対し、労働時間短縮に応じることが雇止めリスクを回避する上で有利であることの一般的告知はされており、被控訴人は、そのことを認識していたが、当時のc労働組合が労働時間短縮に反対する立場から意向調査において労働時間短縮に応じない旨回答するとの指導方針を採っていたため、多数の時給制契約社員が労働時間短縮に応じないのであれば、自身が応じなくとも雇止めの対象とされることはないとの判断から労働時間短縮に応じなかったものである。また、被控訴人が主張する方針を、労働時間短縮に関する意向調査後、雇止め対象者の具体的な人選を行う直前の段階で告知したとすれば、当然、どの程度の労働時間の短縮に応じればよいのかという問題が生ずることになるが、雇止めの対象者から除外されるだけの労働時間の短縮時間を設定し、これを示すことは不可能である。そして、短縮すべき労働時間を示すことなく上記方針を告知することは、かえって時給制契約社員に混乱をもたらすことになる。したがって、上記方針を告知することは不合理である。さらに、当時のc労働組合の上記指導方針は時給制契約社員に浸透していたから、仮に上記方針を告知していたとしても、被控訴人を含む相当数の時給制契約社員が労働時間の短縮に応じた蓋然性が高いとはいえず、結局、被控訴人の雇止めを回避することができたとはいえない。

4  当審における新たな主張

(1)  控訴人の主張

仮に本件雇止めが許されないとしても、被控訴人は、本件雇止め後の平成24年4月に13万2342円、同年5月に13万8997円及び同年6月に14万0171円の中間収入を得ており、同時期における被控訴人の平均賃金は月額12万7735円であるから、控訴人は、同時期における被控訴人の賃金から、12万7735円の4割である5万1094円の限度で被控訴人の中間収入を控除することができる。したがって、同時期において被控訴人が有する賃金請求権は、月額7万6641円である。

(2)  被控訴人の主張

控訴人の主張を認める。

第3当裁判所の判断

当裁判所は、被控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。

1  争点1(本件雇止めに解雇に関する法理が類推適用されるか。)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  争点2(解雇に関する法理が類推適用される場合、本件雇止めは許されるか。)について

(1)  事実認定は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の2(1)アないしオに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決14頁20行目の「d係」を「郵便課d係」に、15頁7行目の「超過勤務」を「超勤」にそれぞれ改め、16頁3行目の「支社の」の次に「管理社員の」を加え、18行目の「B課長」を「B担当課長」に改める。

(2)  人員削減の必要性について

次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の2(2)に記載のとおりであるから、これを引用する。

ア 原判決17頁22行目冒頭から18頁9行目末尾までを、次のとおり改める。

「ア 前提となる事実(5)、(6)ア、(8)及び(9)によれば、控訴人においては、平成23年度の時点で、数年以内に債務超過に陥ることが予測され、それを回避すべく経営を改善するためには、人件費削減の必要性があり、a支店においても、郵便課d係の時給制契約社員の基本給与の削減に関し、週110時間の削減を要し、その削減目標を達成するためには、労働時間短縮に対する上記社員の意向によっては人員削減(雇止め)の必要性があったことが認められる。

被控訴人は、控訴人において経営改善の必要性があったことや平成23年度の人件費削減目標の数値の合理性自体については積極的に争っておらず、a支店における週110時間の削減や超勤40パーセントの削減の合理性を争い、雇止めの必要性がなかったと主張しているものであるところ、控訴人は、業務量の減少や正社員の配置との兼ね合いを考慮して週110時間の削減を決定し(前記(1)ア)、また、適正な要員配置を前提として、平成22年度に超勤が生じた原因のうち、具体的対応策を講ずることで、どの程度超勤が回避可能かを検討した結果、前年比40パーセントの超勤削減を決定した(前記(1)イ)ものであり、これらの決定について特段不合理な点は認められない。以下、被控訴人の主張について個別に検討する。」

イ 同20頁1行目の「別件」を「被控訴人と同じ時期に雇止めされた者(甲7の11番の者)が控訴人に対して提起した地位確認等請求事件(札幌地方裁判所平成23年(ワ)第3389号)」に改める。

ウ 同20頁9行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「(オ) 被控訴人は、控訴人の経営が悪化したことがその明白かつ著しい経営判断の誤りに起因しているものであることを理由として、人員削減の必要性は認められるべきではないと主張するが、仮に控訴人の経営の悪化がその経営判断の誤りに起因しているものであるとしても、そのことから直ちに人員削減の必要性が認められないということはできない。

また、会社の経営の悪化が経営判断の誤りに起因している場合に、雇止めを許容する要件が通常の雇止めを許容する要件より厳格にすべきであるとの主張は、被控訴人独自の見解であり、これを採用することはできない。」

(3)  雇止め回避努力について

ア 控訴人においては、正社員の一時金削減、高齢勧奨退職の実施、新規採用の中止、管理職手当の削減という人件費削減施策を実施し(前記(1)ウ(ア)ないし(エ))、a支店においても、超勤の削減に努めるなどし(前記(1)イ、(2)イ(エ))、人件費について、控訴人全体で、平成23年度中間決算では前年比240億円、平成23年度決算では前年比386億円を削減し、a支店でも、平成23年度決算で前年比8800万円を削減したこと(前記(1)ウ(オ))、また、a支店は、週110時間の削減を達成するために、まず初めに希望退職者を募集し(前提となる事実(8))、それに対する応募がなかったことから、労働時間の短縮による調整を試みたが、これに応じる者も少なく、週12時間の削減しかできなかったため、本件雇止めをしたものであること(前提となる事実(9))が認められ、これらの事実によれば、控訴人は、本件雇止め以前に、雇止め回避のための努力を尽くしていたものと認められる。

イ これに対し、被控訴人は、労働時間短縮に応じた者と応じなかった者とが分かれた場合には、後者から優先的に雇止めを行っていくという一般的方針を告知することなく、労働時間短縮に応じなかった被控訴人を雇止めしたことは、労働時間短縮を求める際の真摯な説得、説明を欠いたものであり、控訴人は雇止め回避のための努力を尽くしていなかったと主張する。しかしながら、被控訴人も掲示板で見ていた「業務量の減少等に伴う雇用調整について」(証拠<省略>)には、希望退職者が少ない場合には、期間雇用社員の自支店内の配置換又は勤務日数・勤務時間の短縮を実施し、それでも調整がつかない場合は、雇止めをする旨が記載されていたこと(前提となる事実(8))及び被控訴人にも配布された本件意向調査書には、勤務時間の短縮や担務の変更に応じても、必ずしも雇用契約を更新できるとは限らない旨が記載されていたこと(前提となる事実(9))が認められ、これらの記載に照らせば、労働時間短縮に応じた者と応じなかった者とがいた場合には、後者がより雇止めのリスクが高くなるであろうことは容易に認識できたものと認められるから、控訴人が、被控訴人に対し、労働時間短縮に応じた者と応じなかった者とが分かれた場合には、後者から優先的に雇止めを行っていくということを一般的方針の形で告知しなかったことに特段問題があったということはできない。また、a支店では、郵便課d係の人件費削減目標の週110時間のうち、労働時間短縮の合意ができた者は3名であり、合計12時間の短縮に止まったことを受け、雇止めが必要であると判断したものであるが(前提となる事実(9))、仮に上記時点において上記一般的方針を告知するとしても、合意に至る短縮労働時間によっては雇止めを回避できない可能性があるから、現実的には、控訴人に上記一般的方針を告知することを求めることは困難を強いるものというべきであり、このことは上記以前の時点でも同様である。さらに、仮に上記一般的方針を告知したとしても、郵便課d係の時給制契約社員の多くが労働時間短縮に応じ、被控訴人の雇止めを回避することができたであろうことを認めるに足りる確たる証拠もない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。

ウ また、被控訴人は、控訴人において、被控訴人をa支店以外で受け入れることが可能かどうかを真剣に検討していなかったから、控訴人が雇止め回避のための努力を尽くしたとはいえないと主張する。しかしながら、控訴人は、全社的に人件費の削減を行っており、a支店の郵便課d係で余剰な労働力とされた3名分について、千歳支店等近隣の支店で受け入れることは困難な状況にあったことが認められる(証拠<省略>)から、控訴人の上記主張を採用することはできない。

(4)  人選の合理性について

ア 前提となる事実(10)記載のとおり、控訴人は、a支店の郵便課d係の時給制契約社員について、労働時間の短縮に応じなかった者の中から、人事評価、勤続年数、年齢等を考慮して、被控訴人を含む3名を雇止めすることに決定したものであり、その人選が不合理であるとは認められない。

イ(ア) これに対し、被控訴人は、雇止め対象者の人選の基準となった人事評価自体が客観性を欠いていたと主張する。しかしながら、証拠(証拠<省略>、被控訴人本人(尋問調書))によれば、控訴人において、時給制契約社員の勤務評価には「時給制契約社員スキルアップシート」が用いられており、同シートは全支店で業種ごとに共通のものが用いられていること、同シートには複数の評価項目が設けられており、評価基準も明確に定められていること、勤務評価は、本人による自己評価、役職者による第1次評価、管理者による第2次評価、支店長による最終評価を経て定まること、評価結果は本人にフィードバックされ、本人はこれに対して異議を申し立てることができること、被控訴人は、これまでこの異議申立てを行ったことがないことが認められ、これらの事実によると、控訴人の人事評価が客観性を欠いていたと認めることはできない(被控訴人は、勤務評価のうちの正確性・迅速性の「有・無」の判断が特に曖昧であると主張するが、評価に一定の主観が入ることはやむを得ないことであり、評価が偏らないように上記のとおりの評価手続が整備されていることに照らすと、上記「有・無」の判断が存することにより、控訴人の人事評価が客観性を欠いていたということはできない。)。

(イ) また、被控訴人は、郵便課d係の中での業務内容を区別せずに雇止め対象者を選別した点が不合理であるとも主張するが、業務内容別に評価項目を定めて勤務評価を行い、各業務においてスキルA有の勤務評価を受けている者を雇止め対象者から除外したことが不合理であるということはできない。

(ウ) さらに、被控訴人は、控訴人が被控訴人に対して労働時間の短縮に応じれば雇止めの対象から除外されるということを事前に告知していないにもかかわらず、労働時間の短縮に応じた、被控訴人より勤務評価の低い者を優先的に雇止めの対象から除外したことは不合理であると主張する。確かに、甲7によれば、労働時間の短縮に応じた3名は、被控訴人より勤務評価の低い者であることが認められるが、控訴人が、人件費削減のために、まず初めに希望退職者を募集し、それに対する応募がなかったことから、次の手段として労働時間の短縮による調整を図ったことは、最終手段である雇止めを回避するためであったというべきであるから、事前に労働時間の短縮に応じれば雇止めの対象から除外されるということが告知されていたか否かにかかわらず、雇止めを回避するために労働時間の短縮に応じた者を優先的に雇止めの対象から除外したことが不合理であるということはできない。

(5)  手続の相当性について

ア 控訴人は、被控訴人ら社員に対し、控訴人の経営が悪化していることや経営再建のための控訴人全体及びa支店における人件費削減目標等を記載した「当社の現状と平成23年度の取組」(証拠<省略>)や「平成23年度a支店経営実行計画書」(証拠<省略>)を配布し(前提となる事実(5)、(6))、a支店の郵便課では、管理職が、社員のミーティングにおいて、その内容を説明し、また、「現下の危機を乗り越えるために」(証拠<省略>)に基づいて、控訴人が危機的状況にあり、対応が必要であることを説明したこと(前提となる事実(7))、a支店長は、「業務量の減少等に伴う雇用調整について」(証拠<省略>)を郵便課事務室内の掲示板に掲示し、郵便課d係につき3名程度の希望退職者を募集し、被控訴人も掲示板でこの書面を見ており、同書面には、希望退職者が少ない場合には、期間雇用社員の自支店内の配置換又は勤務日数・勤務時間の短縮を実施し、それでも調整がつかない場合は、雇止めをする旨が記載されていたこと(前提となる事実(8))、a支店は、郵便課d係の時給制契約社員に対し、本件意向調査書を配付し、労働時間の短縮に応じるか等についての回答を求め、その後、管理職が各社員と面談して意向を確認しており、本件意向調査書には、勤務時間の短縮や担務の変更に応じても、必ずしも雇用契約を更新できるとは限らない旨が記載されていたこと(前提となる事実(9))、被控訴人は、労働時間の短縮には応じられない旨の回答をし、B担当課長との面談でも同様の意向を伝えたこと(前提となる事実(9))が認められ、以上の諸手続を踏んだ上でされた本件雇止めに、手続上特段不相当な点は認められない。

イ(ア) これに対し、被控訴人は、労働時間短縮に応じた者と応じなかった者とが分かれた場合には、後者から優先的に雇止めを行っていくという一般的方針を告知することなく、労働時間短縮に応じなかった被控訴人を雇止めしたことは手続的にも不相当であると主張するが、この点については、前記(3)イで説示したとおりであり、手続的に不相当であるとはいえないから、被控訴人の主張を採用することはできない。

(イ) また、被控訴人は、労働時間短縮についてのB担当課長との面談の際に、被控訴人が雇止めされる可能性があることを告知されなかったことは手続として不相当であると主張する。しかしながら、被控訴人のみならず郵便課d係の時給制契約社員のいずれもが雇止めされる可能性があったことは、本件雇止めに至る上記アの経過から明らかであり、そのことは被控訴人も当然認識していたものというべきであるから、B担当課長が、面談の際に改めて被控訴人が雇止めされる可能性があることを告知していなかったとしても、それが手続として不相当であるということはできない。

(ウ) さらに、被控訴人は、本件雇止めの通知がされた直後に当時のc労働組合がa支店に被控訴人の雇止めの撤回を求めて団体交渉の申入れをしたのに対し、a支店がこれを拒否したから、本件雇止め手続は不相当であると主張するが、そもそも、被控訴人が主張する事情は本件雇止め後の事情であり、これによって本件雇止め手続が不相当になるといえないことは明らかというべきである。

(6)  前記(2)ないし(5)によれば、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でないとはいえないから、許されるものであって、本件最終雇用契約は、平成23年9月30日をもって終了したというべきである。

3  したがって、その余の点を検討するまでもなく、被控訴人の請求はいずれも理由がない。

第4結論

以上によれば、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるから、これを取り消し、被控訴人の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 佐藤重憲 裁判官 近藤幸康)

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