札幌高等裁判所 平成25年(行ケ)1号 判決 2013年12月06日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の北海道選挙区における選挙を無効とする。
第2事案の概要
1 本件は,平成25年7月21日に施行された参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,北海道選挙区の選挙人である原告が,公職選挙法14条1項,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め,「参議院議員定数配分規定」又は「議員定数配分規定」という。)は憲法14条1項等に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の北海道選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
2 前提となる事実
本件の前提として,当事者間に争いがないか,当裁判所に顕著な事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実は,次のとおりである。
(1) 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は,以上のような選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記議員定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下「昭和57年改正」という。)により,従来の個人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改める趣旨で,参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,比例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出されるものであって,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。
(2) 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)であったが,その後,次第に拡大した。昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「昭和52年選挙」という。)における選挙区間の投票価値の較差は最大1対5.26に拡大し,最高裁昭和58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)は,いまだ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示したが,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成4年選挙」という。)における選挙区間の投票価値の較差が最大1対6.59に拡大するに及んで,最高裁平成8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁(以下「平成8年大法廷判決」という。)は,結論において同選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない旨判示した。
他方,平成6年改正は,上記のように1対6.59にまで拡大していた選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差を是正する目的で行われ,前記のような参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,直近の平成2年10月実施の国勢調査結果に基づき,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,いわゆる逆転現象を解消することとして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数を8増8減したものであり,上記改正の結果,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48から1対4.81に縮小し,いわゆる逆転現象は消滅することとなった。その後,平成6年改正後の参議院議員定数配分規定の下において平成7年7月及び平成10年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.97及び1対4.98であったところ,こうした国会における較差の縮小に向けた措置を踏まえ,最高裁平成10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁及び最高裁平成12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁は,上記の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず,上記改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえないとして,当該各選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
(3) 平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされた。定数削減に当たっては,選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成7年10月実施の国勢調査結果に基づき,平成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するために,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。平成12年改正の結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であって,上記改正前と変わらなかった。
(4) 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙当時において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.06であったところ,最高裁平成16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決には,裁判官6名による反対意見のほか,漫然と同様の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する裁判官4名による補足意見が付された。また,上記議員定数配分規定の下で平成16年7月に施行された参議院議員通常選挙当時において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.13であったところ,最高裁平成18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下「平成18年大法廷判決」という。)も,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨の指摘がされた。
平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて協議を行ったが,平成16年7月に施行される参議院議員通常選挙までの間に較差を是正することは困難であったため,同年6月1日,同選挙後に協議を再開する旨の申合せをした。これを受けて,同選挙後の同年12月1日,参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設けられ,同委員会において各種の是正案が検討されたが,当面の是正策としては,較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案が有力な意見であるとされ,同案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が平成18年6月1日に成立した。同改正(以下「平成18年改正」という。)の結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小した。そして,平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.86であったところ,最高裁平成21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平成21年大法廷判決」という。)は,平成18年改正が平成16年大法廷判決中の指摘を受け,当面の是正措置を講ずるとともに定数較差の継続的な検証調査を進めていく必要があるとの認識の下に行われた結果,上記のとおり較差が縮小したこと,上記選挙後には参議院改革協議会及び専門委員会が設置されるなど,較差の問題について今後も検討が行われることとされていることと,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには,後記指摘のように相応の時間を要することを考慮し,その結論において,上記選挙までの間に上記議員定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,上記規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。その上で,同判決では,上記のような較差は投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨と,このような見直しを行うについては,参議院の在り方も踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないが,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会において,速やかに適切な検討が行われることが望まれる旨の指摘がされた。
なお,上記の専門委員会が平成17年10月に参議院改革協議会に提出した報告書に示された意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは相当の困難があるとされている。また,同報告書においては,平成19年選挙に向けての較差の是正の後も,参議院の在り方にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要があるとされた。
(5) 平成18年改正後の平成20年6月に改めて参議院改革協議会の下に専門委員会が設置され,同委員会において同年12月から平成22年5月までの約1年半の間に6回にわたる協議が行われたが,同年7月に施行される参議院議員通常選挙に向けた較差の是正は見送られる一方,平成25年に施行される参議院議員通常選挙に向けて選挙制度の見直しを行うこととされ,平成22年7月に施行される参議院議員通常選挙後にその見直しの検討を直ちに開始すべき旨を参議院改革協議会において決定する必要があるとされるとともに,平成23年中の公職選挙法の改正法案の提出を目途とする旨の工程表も示された(甲22)。
(6) 平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成22年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対5.00に拡大した。
同選挙後,参議院では,正副議長及び各会派の代表により構成される選挙制度の改革に関する検討会が設置され,その会議において参議院議長から改革の検討の基礎となる案が提示され(甲36),平成23年以降,各政党からも様々な改正案が発表されるなどし(甲23),上記検討会及びその下に設置された選挙制度協議会において,平成24年7月までの間に計11回にわたって協議が重ねられたが,全会派の合意に基づく成案を得るには至らなかった。そこで,平成25年7月に施行される参議院議員通常選挙に向けて少なくとも較差の是正を図るため,選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減することを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案が平成24年8月に国会に提出された(乙2,3)。
(7) 最高裁平成24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)は,平成18年改正後の議員定数配分規定の下で,平成22年選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはないものの,上記選挙までの間に上記議員定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない旨判示したが,同判決においては,上記違憲状態を解消するための方策につき,都道府県を各選挙区の単位とする現行制度の仕組み自体を改正する必要性が指摘された。
(8) 選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減する案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成24年法律第94号)は,平成24年11月16日に成立した(乙3)。同改正(以下「本件改正」といい,同改正後の定数配分規定を「本件定数配分規定」という。)の結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.75となった(乙2)。なお,同改正法の附則3条には,平成28年に施行される参議院議員通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれている。
(9) 選挙制度協議会は,平成24年11月に第12回会合が,平成25年3月に第13回会合が,同年5月に第14回会合が開かれた(甲21)。また,同年6月19日に開かれた選挙制度の改革に関する検討会(第7回)では,民主党が,参議院議長及び各会派に対し,平成26年度中に選挙制度の抜本改革の成案を得た上で,平成28年施行の参議院議員通常選挙から新選挙制度を適用する旨を明記した工程表を示し(乙4,11の2),各会派はこれを持ち帰って,平成25年7月施行の参議院議員通常選挙(本件選挙)後も引き続き抜本的な見直しに向けた協議を行い,早急に結論を得ることが確認された(乙5)。
(10) 本件選挙は,平成25年7月21日,本件改正後の公職選挙法14条1項,別表第3の選挙区及び議員定数の定め(本件)に従って施行され,73名の選挙区選出議員及び48名の比例代表選出議員が選出された。
原告は,本件選挙の北海道選挙区の選挙人である。
本件選挙の選挙時登録日は平成25年7月3日であるところ,本件選挙について,総務省発表の「選挙人名簿登録者数及び在外選挙人名簿登録者数の合計(国内+在外)」を基に,本件定数配分規定の下での選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差をみると,最大較差は選挙人数が最も少ない鳥取県選挙区と選挙人数が最も多い北海道選挙区との間で1対4.77であり,この較差は本件選挙当日も同様であった(乙1)。
(11) 本件選挙後に就任した参議院議長は,平成25年8月2日,記者会見において,「先送りになると「決められない政治」との指摘を受ける」と述べ,平成28年施行の参議院議員通常選挙に向けた選挙制度改革の結論を急ぐ考えを示した(乙6)上,平成25年8月7日,参議院本会議における議事終了時の挨拶の中で,参議院議員の選挙制度改革は喫緊の課題であり,各会派には,精力的に検討するよう強く希望する旨発言した(乙7)。その後,同年9月12日,参議院各会派代表者による懇談会が開催され,参議院議長の提案を受けて,選挙制度の改革に関する検討会を発足させることが合意され(乙12の1,13),同日開催された同検討会の第1回会合では,検討会の下に各会派により構成される協議会を設置することとされ(乙12の2,13),同月19日に開催された同検討会の第2回会合では,検討会の下に選挙制度協議会を設置することが改めて確認され(乙12の2,14),同協議会の設置に関する要綱(乙12の3)が定められるとともに,参議院議長から「今後の大まかな工程表(案)」(乙18の2)に基づいて協議を進める方針が示された。さらに,同月27日,選挙制度協議会の第1回会合が開催され,今後週1回の頻度で会合を開き,有識者からの意見聴取等を実施していくことなどが確認され(乙12の4,15,16),これを踏まえて,同年10月4日,選挙制度協議会の第2回会合が開かれ,参議院事務局から上記経緯を含む選挙制度改革の経緯について説明があった後,協議が行われた(乙17,18の1)。上記工程表(乙18の2)によれば,今後,平成25年から平成26年にかけて,選挙制度協議会における協議や各会派における検討を経た上で,平成26年中に見直し案を取りまとめて,平成27年中に見直し法案を提出し,平成28年7月に施行される参議院議員通常選挙に向けて抜本的な見直しをすることが予定されている。
3 争点及び当事者の主張
本件における争点は,本件定数配分規定が憲法14条1項等に違反し無効であるか否か,そして,本件定数配分規定に基づき施行された本件選挙の北海道選挙区における選挙が無効であるか否かである。
(1) 原告の主張
ア 本件定数配分規定の違憲性について
本件定数配分規定は,以下のとおり,憲法に違反しており,違憲である。
(ア) 人口比例選挙の保障違反について
憲法は,その前文の第一段落第一文の冒頭において,「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」する旨定めるとともに,同第一文の後段において,「主権が国民に存する」旨宣言している。これは,主権者である日本国民の多数意見による国家権力支配の法理(国民主権の法理)を採用することを表明したものであり,憲法は,主権者である日本国民が国会議員を特別の代理人として用いて,国会における議事について賛否の投票をさせ,国会議員の多数決という手続を踏んで,国民の多数意見により決議を行うことによって国家権力を実質的に国民の多数意見で行使すべきことを求めている。
上記憲法の要請を実現するには国会議員の多数意見を日本国民の多数意見と等価なものとすることが必須であり,そのためには人口比例選挙により国会議員を選出することを要するから,憲法は,正当な選挙として,国会議員を選出する各選挙区の議員1人当たりの登録有権者(主権者)の数が同数であること,すなわち,投票価値の等価値を求めていると解すべきである。
そして,投票価値の等価値は,憲法上の要求なのであるから,他の憲法上の要請に基づかない限りは,国会の考慮するその他の政策目的や理由によってこれを制約することはできず,選挙区間に人口較差を生じさせる選挙区割りは,較差を縮小又は排除することが可能である場合には,憲法上許容される適法な目的のために必要なものであることが立証されない限り,憲法に違反することになる。
しかるに,本件選挙施行時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差は最大1対4.77であり,この較差は,適正な選挙区割りを行うことにより縮小させることが可能であって,このような場合には上記較差を許容すべき憲法上適法な目的の存在は被告において主張立証すべきところ,この点の主張立証はなされていない。
したがって,上記選挙区割りは憲法に違反しており,これを定めた本件定数配分規定も憲法に違反している。
(イ) 投票価値の平等違反について
上述のとおり,憲法は投票価値の平等を求めていると解すべきであり,平成24年大法廷判決は,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県を参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はないと判示しているところ,本件改正後の本件定数配分規定の下で行われた本件選挙は,都道府県を単位として行われ,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.77であって,これは,平成24年12月に実施された衆議院議員選挙の際の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差1対2.43に劣後するから,憲法上の投票価値の平等の要求に明らかに反している。
したがって,上記選挙区割りは憲法に違反しており,これを定めた本件定数配分規定も憲法に違反している。
(ウ) 合理的期間論について
平成22年選挙について,平成24年大法廷判決は,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた旨判示する一方で,平成21年大法廷判決において参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのが平成22年選挙の約9か月前であったことを考慮し,平成22年選挙までの間に是正がされなかったことをもって,憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったものということはできず,憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない旨判示しており,これは,合理的期間論を採用した上で,合理的期間の起算点を平成21年大法廷判決の言渡し日とする趣旨に解される。
しかしながら,合理的期間論は,違憲状態の選挙で選出された議員に当該期間内は立法裁量権を行使することを許容するものであって,憲法98条1項や憲法前文第一文に違反し,違憲である。
また,仮に合理的期間論が違憲でないとしても,本件では既に合理的期間は経過し,国会は合理的期間内に憲法上必要な是正をしなかったから,本件定数配分規定は違憲とされなければならない。すなわち,参議院と衆議院はともに立法府を構成している以上,選挙制度の抜本的改正のための合理的期間の長さは両議院とも原則として同一と解され,参議院の議員選挙に関する合理的期間が衆議院の議員選挙に関する合理的期間より長いことについて,被告は主張立証していないから,両者は同一とされることになるところ,平成24年12月施行の衆議院議員選挙に関し,15の高等裁判所が合理的期間の長さを最長でも1年9か月弱と判断していることからすれば,本件選挙に関する合理的期間の長さも最長でも1年9か月弱であり,平成21年大法廷判決の言渡し日から本件選挙日までの3年10か月弱の間に合理的期間は既に経過していることになる。そして,選挙制度に関する国会の立法裁量権は,①議員の定数や選挙区の大・中・小,比例代表制のいずれにするかといった選挙制度の仕組みの決定と,②当該選挙制度の仕組みの中で議員1人当たりの人口較差はどの程度まで許容されるかという二つの局面で問題になるところ,上記①の局面では,国会は広範な立法裁量権を有するが,上記②の局面では,国会には投票価値の平等を損なうような立法裁量権の行使は原則として認められず,投票価値の平等に最も忠実な定数の配分は人口比例原則に従ったものであるのに対し,非人口的な要素を考慮することが許されるのは,投票価値の平等を損なうことを正当化するに足りる合理性を有する場合に限られる。しかるに,本件改正は選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減しただけであり,同改正法の附則も,引き続き検討を行う義務を課すにとどまり,抜本的見直しをする義務を課してはいないので,いずれの点でも本件改正は不十分であり,これを正当化するに足りる合理性も認められない。
イ 本件選挙の無効について
(ア) 以上のとおり,本件定数配分規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の北海道選挙区における選挙は無効である。
(イ) 事情判決の法理について
上述のとおり,本件選挙の北海道選挙区における選挙は無効とされるべきであるのに対し,選挙を違憲と判断するものの,無効とはせず,有効とする事情判決の法理は,いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則でしかなく,本来,憲法98条1項に基づく法令の階層秩序の中では憲法の下に位置づけられるべきものでしかないから,事情判決の法理を選挙無効訴訟に適用するのは,憲法98条1項に違反し,憲法の最高法規性を否定するものである。したがって,事情判決の法理は違憲である。
また,仮に事情判決の法理が違憲でないとしても,被告は同法理を適用すべき事情を主張立証していないから,以下の点からしても,本件では同法理を適用すべきではなく,本件選挙の北海道選挙区における選挙は無効とされなければならない。すなわち,最高裁は,選挙無効訴訟における事情判決の法理の適否について,選挙無効判決の結果,議員定数配分規定の改正が当該選挙区から選出された議員が存在しない状態で行われざるを得ないことを考慮するとしているが,本件選挙に関しては,47選挙区全てで選挙無効訴訟が提起され,その全てについて最高裁が判決をするので,一部選挙区の選挙のみを違憲無効とすることはあり得ず,上記の点を考慮する必要はない。また,最高裁は,諸般の事情を総合考慮して,当該処分を取り消すことにより公共の利益に著しい障害を生ずる場合には,同処分を取り消すことが公共の福祉に合致しないと認められる限り,裁判所においてこれを取り消さないことができるとしているが,違憲状態の選挙で選出され,およそ立法裁量権を有しない議員によって立法された法律に主権者たる国民が拘束されることは,根源的な憲法秩序を破壊するものであり,著しく公共の利益を害するものであるのに対し,本件選挙が将来に向けて違憲無効とされ,同選挙によって当選した73名の参議院議員が全員失格しても,その余の選挙区選出議員73名と比例代表選出議員96名によって定足数を満たし,立法府として機能し得るから,選挙無効判決をすることによる不都合は極めて小さい。したがって,公共の福祉の観点からしても,裁判所は違憲無効判決をすべきである。
(2) 被告の主張
ア 本件定数配分規定の違憲性について
(ア) 人口比例選挙の保障違反について
原告の主張のうち,憲法の文言は認めるが,その余は否認ないし争う。
(イ) 投票価値の平等違反について
原告の主張のうち,大法廷判決の判示内容及び本件選挙までの議員定数配分規定改正の内容は認めるが,その余は否認ないし争う。
平成24年大法廷判決に先立つ平成21年大法廷判決は,平成19年選挙当時,議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示しており,同大法廷判決の時点では,都道府県単位の仕組み自体を見直す立法措置に着手すべき契機が存在したとはいえないから,違憲状態にあるとされた選挙制度を是正するために必要な合理的期間の起算点は,平成24年大法廷判決の言渡し日とされるべきである。そして,同大法廷判決は,従前の大法廷判決よりさらに踏み込んだ制度の見直しを求めており,都道府県単位の仕組み自体を見直すには,参議院の在り方にも関わる事柄の性質上,国民的な議論を重ねる必要があり,相応の期間を要するのは当然であるところ,同大法廷判決後,国会では,投票価値の較差を是正するための具体的な立法措置として本件改正が行われ,選挙区間における選挙人数の最大較差は1対4.77まで縮小しているのであって,本件改正は,最高裁判決が求める投票価値の平等を可及的に実現するための過渡的な対応としては,国会に許された合理的裁量の範囲内であったというべきである。加えて,国会では,引き続き更なる是正に向けて協議が継続され,本件選挙前の時点でも,参議院議員の選挙制度を見直すに当たって検討すべき論点を整理し,工程表をとりまとめる段階にまで至っていたのであり,その後もこの工程を確実に,かつ,相応の迅速さをもって進めている状況にあって,国会は選挙制度の改革に真摯に取り組んでいるということができる。これらのことを総合考慮すると,本件選挙までに定数の不均衡を是正する更なる立法的措置が講じられなかったことをもって,立法裁量権の限界を超えるものと評価することはできないというべきである。したがって,本件定数配分規定は,いまだ憲法14条1項等に違反するとはいえず,本件定数配分規定の下で施行された本件選挙の北海道選挙区における選挙は無効なものではない。原告の主張は理由がない。
イ 本件選挙の無効について
原告の主張は争う。
上述のとおり,本件定数配分規定は憲法に違反しておらず,無効ではないから,これに基づき施行された本件選挙の北海道選挙区の選挙は無効ではない。
第3当裁判所の判断
1 本件定数配分規定が憲法14条1項等に違反し無効であるか否かについて
(1) 人口比例選挙の保障違反について
憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解されるが,一方で,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねており,両議院とも国会議員の選挙制度の仕組みの決定において国会に裁量権があるものと解される(最高裁昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁等)から,国民主権の原理及び代表民主制の統治機構上の理念から,論理必然的に人口比例選挙の保障が導き出される,あるいは,憲法上の要請以外の理由によって投票価値の平等を制限することが憲法上禁止されていると解することはできない。
したがって,本件定数配分規定が憲法上の人口比例選挙の保障に反する旨の原告の主張は採用することができない。
(2) 投票価値の平等違反について
ア 憲法は,投票価値の平等を要求している一方で,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項,47条),選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであって,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
そこで,検討するに,憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,各議院に特色のある機能を発揮させ,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解され,参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員を全国選出議員と地方選出議員に分け,前者は全国の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである(この仕組みは,昭和57年改正後の比例代表選出議員と選挙区選出議員から成る選挙制度の下でも,基本的に同様である。)。このような選挙制度の仕組みは,昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時においては,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできないが,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である(平成24年大法廷判決など,昭和58年大法廷判決以降の累次の大法廷判決)。
イ 上記の見地に立って,本件定数配分規定の合憲性について検討する。
(ア) 憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める(59条ないし61条,67条,69条)反面,参議院に関し,議員の任期を6年の長期とし,解散(54条)もなく,選挙は3年ごとにその半数について行う(46条)と定めており,その趣旨は,議院内閣制の下で,限られた範囲について衆議院の優越を認め,機能的な国政の運営を図る一方,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え,参議院議員の任期をより長期とすることによって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映し,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。
そのための参議院議員の選挙制度の変遷をみるに,衆議院議員の選挙制度と対比すると,両議院とも,政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,選挙の単位の区域に広狭の差はあるものの,いずれも,都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られている結果,同質的な選挙制度となってきているため,急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に,国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきている。衆議院については,この間の改正を通じて,投票価値の平等の要求に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることに照らすと,参議院についても,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要求について十分に配慮することが求められるところである。
しかるに,参議院においては,この間の人口移動により,都道府県間の人口較差が著しく拡大したため,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で,昭和22年の制度発足時には2.62倍であった最大較差が,昭和58年大法廷判決の判断の対象とされた昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し,平成8年大法廷判決において違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態と判断された平成4年選挙の時点では6.59倍にまで達する状況となり,その後若干の定数の調整によって是正が図られたが,基本的な選挙制度の仕組みについて見直しがされることはなく,5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。
(イ) 上述の憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要求が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。この点,都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという点は今日でも変わりはないといえるが,これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期間継続していると認められる状況の下では,上記の仕組み自体を見直すことが必要になるものといわなければならない。また,参議院についての憲法の定めや参議院議員の選挙制度の仕組みは,数十年にわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえない。
(ウ) 現行の参議院議員の選挙制度は,限られた総定数の枠内で,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みを採っているが,人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,このような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っているというべきである。このことは平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されていたところであり,最高裁も,選挙区間の最大較差1対5前後が常態化する中で,平成21年大法廷判決では,投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって較差の縮小が求められること,そのためには選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることを指摘した後,平成24年大法廷判決では,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っており,選挙制度の仕組み自体を見直すことが必要であると判示している。それにもかかわらず,本件改正は,4選挙区で定数を4増4減するにとどまっており,本件選挙当時の最大較差も平成22年選挙当時の5倍と比べ4.77倍と0.23ポイント縮小したにすぎないのであって,単に一部の選挙区の定数を増減するといった措置の是正では較差を4倍以内に縮小することすらできず,大幅な較差縮小を実現するには,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形に改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の抜本的な見直しが必要であるといわざるを得ない。これらの事情を総合考慮すると,本件選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。
したがって,本件定数配分規定は,憲法の投票価値の平等の要求に反し,違憲状態にあったものと認められる。
(3) 憲法上要求される合理的期間内における是正の有無について
ア そもそも,裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても,自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく,その是正は国会の立法によって行われることになるものであり,是正の方法についても国会は幅広い立法裁量権を有し,国会において自ら制度の見直しを行うことが想定されているものと解される。このような憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,上記のとおり,参議院議員定数配分規定が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っている旨の司法の判断がされれば,国会はこれを受けて是正を行う責務を負うものであるところ,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点から評価すべきものと解される(最高裁平成25年(行ツ)第209号,第210号,第211号同年11月20日大法廷判決参照)。
イ そこで,本件において,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かについて検討する。
前記前提となる事実のとおり,少なくとも,平成6年,平成12年及び平成18年各改正後の議員定数配分規定については,平成21年大法廷判決までは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものとすることはできないという最高裁の判断が続き,平成21年大法廷判決も,上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した上で,投票価値の較差は投票価値の平等の観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,その縮小を図ることが求められる状況にあり,その大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨指摘したにとどまる。このような経緯を経て,上記議員定数配分規定が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているとの最高裁の判断は,平成24年10月17日に言い渡された平成24年大法廷判決によって初めて示されたのであるから,国会において平成18年改正後の議員定数配分規定が上記の状態にあると認識し得たのは,この時点からであったというべきである(この点,平成24年大法廷判決は,平成22年選挙までの間に上記規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない理由として,平成21年大法廷判決の言渡し日から同選挙までの期間を挙げたのであり,必ずしも同大法廷判決の言渡し日を合理的期間の起算点とする旨判示したものではないから,平成24年大法廷判決の判示が合理的期間の起算点を平成21年大法廷判決の言渡し日とする趣旨に解される旨の原告の主張は採用することができない。)。
しかして,最高裁がこうした参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘した平成21年大法廷判決の判示の中でも言及されているように,選挙制度の仕組み自体の見直しには,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど,事柄の性質上検討すべき課題も多いため,相応の時間を要することは認めざるを得ない。そして,上記のとおり,平成24年大法廷判決において平成18年改正後の議員定数配分規定が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているとの判断が示されたのは,本件選挙の約9か月前であるところ,その後,参議院では,選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減する本件改正が行われた結果,わずかではあるものの,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差が縮小した状態で本件選挙は施行されている。さらに,本件改正法の附則3条には,平成28年に施行される参議院議員通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれており,本件選挙前には,参議院の選挙制度協議会において,本件選挙後も引き続き抜本的な見直しに向けた協議を行い,早急に結論を得ることが確認され,本件選挙後も,参議院の選挙制度協議会において協議が行われているところである。もっとも,同協議会は,これまでのところ,抽象的な理念を確認し,大まかな工程表を作成して協議を開始したという段階であって,必ずしも十分な進捗状況にあるとはいえないけれども,都道府県の枠を超えるブロック制や合区制の構想など,どのような選出基盤や選出方法等により民意が公正かつ効果的に国政に反映される選挙制度の仕組みを構築し新たな選挙制度を制定するかは,国会が様々な選択肢の中から適正かつ合理的な裁量権を行使して決定すべきものであって,選挙制度の仕組み自体の見直しといった抜本的な是正に向けた取組には事柄の性質上相応の時間を要すること等を考慮すると,本件選挙時において,本件定数配分規定は憲法の投票価値の平等の要求に反し,違憲状態にあったものではあるが,国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったとまでいうことはできず,本件において憲法上要求される合理的期間を徒過したものと断ずることはできない。したがって,本件定数配分規定について,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,同規定が憲法14条1項等の規定に違反するものということはできない。
なお,付言するに,上記のとおり,参議院議員定数配分規定が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているとの司法の判断がされれば,国会はこれを受けて是正を行う責務を負うものであるところ,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要求であることや,国政の運営における参議院の役割に照らせば,より適切な民意の反映が可能となるよう,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる不平等状態を解消する必要があることは,平成24年大法廷判決において判示されているとおりである。このことを踏まえると,国会は,投票価値の平等の観点から選挙区間の較差を是正する方法について幅広い立法裁量権を有しているとはいえ,平成28年施行の参議院議員通常選挙までの間に,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しといった抜本的な是正に向けた取組を早急に行い,立法機関として違憲状態を解消する責務を負っているというべきであり,上記選挙もこのような抜本的な是正を行うことなく施行されるようであれば,参議院議員定数配分規定が違憲であると判断され得ることを銘記すべきである。
2 結論
以上によれば,本件選挙が無効であるとは認められないから,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山崎勉 裁判官 馬場純夫 裁判官 湯川克彦)