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札幌高等裁判所 平成26年(ネ)282号 判決 2014年12月11日

控訴人兼被控訴人

有限会社X(以下「一審原告」という。)

同代表者代表取締役

甲野一男

同訴訟代理人弁護士

渡邉太郎

被控訴人兼控訴人

北海道国民健康保険団体連合会(以下「一審被告連合会」という。)

同代表者理事長

石子彭培

同訴訟代理人弁護士

河谷泰昌

八代眞由美

被控訴人

社会保険診療報酬支払基金(以下「一審被告基金」という。)

同代表者理事長

河内山哲朗

同訴訟代理人弁護士

福吉貞人

主文

1  一審原告及び一審被告連合会の本件各控訴をいずれも棄却する。

2  一審原告の控訴費用は一審原告の,一審被告連合会の控訴費用は一審被告連合会の各負担とする。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

1  一審原告

(1)原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。

(2)一審被告連合会は,一審原告に対し,132万0661円及びこれに対する平成24年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)一審被告基金は,一審原告に対し,113万4428円及びこれに対する平成24年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)訴訟費用は,第1,2審とも一審被告らの負担とする。

(5)仮執行宣言

2  一審被告連合会

(1)原判決中一審被告連合会敗訴部分を取り消す。

(2)上記部分に係る一審原告の請求を棄却する。

(3)訴訟費用は,第1,2審とも一審原告の負担とする。

第2  事案の概要

1  本件は,保険薬局を経営するZ株式会社(以下「訴外薬局」という。)に対して滞納賃料等請求権を有する一審原告が,民法423条により訴外薬局に代位して,上記請求権を被保全債権とし,訴外薬局が一審被告らに対して有する調剤報酬請求権(以下「本件調剤報酬請求権」という。)及びこれに対する訴状送達日の翌日(一審被告連合会にあっては平成24年6月11日,一審被告基金にあっては同月12日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を行使している事案である。

原判決は,一審被告連合会に対する請求は60万7213円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成24年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の部分は棄却し,一審被告基金に対する請求は,19万3872円及びこれに対する訴状送達日の翌日である同月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の部分は棄却した。

原判決に対して一審原告及び一審被告連合会が控訴をした。

2  前提事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1項及び2項に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,以下のとおり補正する。

(1)原判決2頁21行目の「後掲各証拠」の次に「(特に注記しない限り枝番を含む。)」を加える。

(2)原判決3頁20行目から21行目にかけての「甲1から9まで,」の次に「甲47,」を加える。

(3)原判決5頁11行目の「健康保健法」を「健康保険法」と改める。

(4)原判決6頁23行目の「厚生労働省告示第126号」を「平成20年3月27日厚生労働省告示第126号」と改める。

(5)原判決8頁1行目の「同法73条の4項」を「同法73条4項」と改める。

(6)原判決9頁18行目の「本件弁論準備手続期日」を「原審における本件弁論準備手続期日」と改める。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も,一審原告の請求は原判決が認容した限度で理由があると判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,以下のとおり補正する。

(1)原判決14頁15行目冒頭から15頁2行目末尾までを以下のとおり改める。

「一審被告連合会は,上記調剤報酬請求権は保険薬局が療養担当規則に従った調剤を行った時点で発生するが,一連の請求及び審査の手続を経て(手続要件),金額が確定すること(実体要件)を停止条件として効力が発生する債権であるから,本件調剤報酬請求権は上記停止条件が成就しておらず,一審被告連合会には本件調剤報酬請求権に基づく支払義務はないと主張する。

しかし,調剤報酬請求権は債務者の一身に専属する権利ではなく,また,訴外薬局のように,債務者である保険薬局が営業実態をなくし,調剤報酬を請求することが期待できず,債権者において,自己の債権を保全するために,債務者である保険薬局に代位して調剤報酬請求権を行使することがあり得るところ,支給手続を定める健康保険法76条及び請求省令は,保険薬局による請求手続を定めているが,それ以上に,上記のように債権の保全の必要性がある場合にまで,債権者が債務者である保険薬局に代位して調剤報酬請求権を行使することを禁止していない。また,健康保険法76条,療養担当規則所定の1審被告らによる審査によって,適正な支払額が確定できる限り,請求者が保険薬局かその債権者であるかによって,一審被告らに取り立てて不利益,不都合が生じるとは考え難い。健康保険法76条,療養担当規則は,調剤報酬請求に対する一審被告らによる審査を定めているが,支払義務者において,支払に先立って,当該請求が適正なものであるか審査し,適正な支払額がいくらか確定をすることは,診療報酬に限らず,請求後の過程として当然に予定されることであるが,一連の請求及び審査の手続を経て金額が確定することが停止条件であると解することができない。したがって,このことに関する一審被告連合会の主張は採用できない。

関係証拠(乙イ4)によると,一審被告連合会は,保険薬局が請求するのでなければ,当該調剤報酬請求権について債権譲渡,差押えがされた場合であっても,支払には応じないとの運用をしていることが認められるが,そのような運用をしているからといって,このことが上記判断の妨げになるものではない。また,一審被告連合会は,健康保険法45条5項に基づいて,保険者から調剤報酬請求に対する審査及び支払に関する事務の委託を受けているが,当該委託を受けているからといって,このことも上記判断の妨げになるものではない。」

(2)原判決16頁26行目末尾に,改行して,以下のとおり加える。

「一審原告は,上記⑤について,処方せんに指示された薬剤の量の範囲で療養担当規則に従った調剤と認めるべきであると主張するが,独自の見解であり採用できない。また,上記⑥について,平成23年8月23日にも処方せんの交付を受けていたと主張するが,一審原告が挙げる事情を考慮しても,そのように認めることはできない。そして,上記⑦,⑧の不一致は誤記にすぎないと主張するが,本件全証拠を検討しても,そのように認めることはできない。」

(3)原判決17頁24行目の「甲1,甲9」を「甲1,9,46,47」と改める。

(4)原判決20頁17行目末尾に以下のとおり加える。

「一審原告は,処方せんに指示された薬剤の量の範囲で療養担当規則に従った調剤と認めるべきであると主張するが,独自の見解であり採用できない。」

2  一審原告は本件調剤報酬債権の額に関する原判決の認定判断には事実誤認があるとるる主張するとともに,証拠(甲45ないし47)を提出し,一審被告連合会は調剤報酬請求の要件に関する原判決の判断は誤りであり,本件調剤報酬債権の額に関する原判決の認定判断にも事実誤認があるとるる主張するが,上記のとおり補正して引用した原判決の認定判断は正当であり,上記主張及び証拠によってこれが左右されるものではない。

第4  結論

以上によれば,原判決は相当であり,一審原告及び一審被告連合会の本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 近藤幸康 裁判官 石川真紀子)

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