札幌高等裁判所 平成26年(ラ)90号 決定 2014年7月02日
抗告人
A
被抗告人
B
主文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 被抗告人は,抗告人に対し,59万円を支払え。
3 被抗告人は,抗告人に対し,平成26年×月から,11万円を毎月末日限り支払え。
4 手続費用は,原審及び当審とも,各自の負担とする。
理由
第1 抗告の趣旨及び理由
抗告の趣旨は,「原審判を取り消す。被抗告人は,抗告人に対し,19万1950円を支払え。被抗告人は,抗告人に対し,平成25年×月から,毎月末日限り,21万1950円を支払え。」というものであり,その理由は別紙「即時抗告の理由書」及び「即時抗告の理由書(2)」(各写し)記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審判を変更し,被抗告人は,抗告人に対し,抗告人の扶養料として,平成25年×月分から平成26年×月分までの未払分の合計59万円を即時に支払い,同年×月から,毎月末日限り,11万円を支払うのが相当であると判断する。その理由は以下のとおりである。
(1)前提事実
原審判の「理由」欄の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原審判3頁18行目冒頭から23行目末尾までを次のとおり改める。
「被抗告人は役員報酬として月額300万円(所得税,住民税や社会保険料の控除後の金額は月額約170万円である。),被抗告人の妻は役員報酬として月額30万円(所得税,住民税や社会保険料の控除後の金額は月額約24万円である。)を得ている。被抗告人は,3人の子らの教育費,各種保険,住宅ローン,被抗告人自身の奨学金の返済,その他の債務の返済及び生活費として毎月190万円程度の支出がある。」
(2)検討
被抗告人は抗告人に対し扶養義務(民法877条1項)を負うが,それは,生活扶助義務であるから,被抗告人らの社会的地位,収入等相応の生活をした上で余力を生じた限度で分担すれば足りるものであることを考慮して,扶養料の額は,抗告人の必要とする自己の平均的生活を維持するために必要である最低生活費から抗告人の収入を差し引いた額を超えず,かつ,被抗告人の扶養余力の範囲内の金額とするのが相当である。
抗告人は,昭和19年×月×日生まれの女性であるところ,総務省統計局の家計調査報告(平成25年)によれば,単身世帯の65歳以上女性の消費支出(月額)は14万9397円であることが認められる。また,一件記録によれば,抗告人の非消費支出(月額)は,国民健康保険税1万5500円,住民税6000円,介護保険料9000円,医療・傷害保険8000円の計3万8500円であり,上記消費支出と非消費支出の合計は18万7897円となる。そして,上記(1)の前提事実によれば,抗告人の生活保護の申請は,被抗告人からの援助(月額6万円)が始まった後に却下されており,月額14万円程度(抗告人の年金収入月額7万6725円と被抗告人の援助の合計額)の収入があれば生活保護の基準を超えていると推認される。以上によれば,抗告人の平均的な生活を維持するために必要とする最低生活費は,月額18万7897円であるとするのが相当である。
そうすると,上記最低生活費から抗告人の年金収入を差し引いた額は月額11万1172円であるが(計算式187,897-76,725=111,172),被抗告人の家計支出の内容等の一切の事情を考慮して,被抗告人の抗告人に対する扶養料は,月額11万円とするのが相当である。この点,抗告人は,被抗告人の収入を考慮して最低生活費を定めるべきとし,最低生活費は27万6700円を下らないと主張するが,上記認定及び判断は左右されない。
そして,上記(1)の前提事実によれば,抗告人は,平成25年×月×日に本件扶養料の調停を申し立てたが,同月末までは月額40万円の報酬を,同年×月×日には退職慰労金432万7000円を受領していたこと,同年×月×日に前夫と離婚したこと,同年×月×日に生活保護の申請をしたことが認められ,このような経緯に鑑みれば,抗告人が被抗告人による扶養を要する状態になったのは同年×月であり,扶養料支払開始時期は同月とするのが相当である。
したがって,被抗告人は,抗告人に対し,扶養料として,平成25年×月から1か月11万円を毎月末日限り支払うべきである。なお,上記(1)の前提事実によれば,被抗告人は,抗告人に対して,平成25年×月から平成26年×月までの間に合計18万円を扶養料として支払っており,平成26年×月までの未払分は59万円となる(計算式110,000×7-180,000=590,000)。
2 結論
以上によれば,本件抗告は理由があるから,原審判を変更して審判に代わる裁判をすることとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 湯川浩昭 裁判官 石川真紀子)
別紙即時抗告の理由書(写し)<省略>
即時抗告の理由書(2)(写し)<省略>