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札幌高等裁判所 平成6年(ネ)416号 判決

事実及び理由

四 当裁判所の判断

原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」に記載するとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正、削除する。

1  原判決書三枚目表五行目から同四枚目裏六行目までを削除する。

2  同七行目から同一一行目までを次のとおり改める。

「一 控訴人が平成三年七月四日に被控訴人に支払った八〇〇〇円の法的意味、これに基づく控訴人と被控訴人との法律関係について判断する。」

3  同五枚目表三行目「本件土地」を「原判決添付別紙目録一の土地及び本件訴え変更にかかる土地」に改め、同裏八行目「乙第三号証の一」を「釧路地方裁判所網走支部平成三年(ワ)第三三号事件乙第三号証の一、以下全て同事件の証拠を引用するので事件番号は省略する。」に改める。

4  同六枚目表二行目「本件運動」の次に「(後記第一次運動)」を、同五行目「「分譲」」の次に「「価格」など」を加える。

5  同裏一行目の次に行を改めて「本件運動は現在まで三次にわけて進められ、第一次運動(岩宇別地区における離農地の取得を目的とした。)は、昭和五五年一〇月に目標額を達成した。続いて行われた第二次運動(同地区の民有地約一八〇ヘクタールの取得を目的とした。)も平成二年一二月に目標額を達成し、その後さらに第三次運動(同地区の民有地約九〇ヘクタールの取得を目的とする。)が開始された。」を加える。

6  同二行目「これ」を「第三次運動」に改め、同八行目「職員から」の次に「第二次運動のために作成された」を加える。

7  同八枚目裏五行目冒頭「三」を「二」に、同行「原告と」から同八行目までを「控訴人の共有持分権確認請求について検討する。」にそれぞれ改める。

8  同九枚目表三行目「本件」の次に「第三次」を加える。

9  同裏九行目から同一〇枚目九行目までを「3 そうすると控訴人の本件支出は寄与であって売買代金の支払ではないので、共有持分権の確認を求める本件請求は理由がない。」と改める。

五 よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浜秀樹)

≪参考≫ 釧路地裁網走支部平成六年一二月六日判決

(平成三年(ワ)第三三号・同四年(ワ)第三六号・第三七号・第三八号)

【事実及び理由】

第二 事案の概要

一 本件は、被告が行っていた「しれとこ国立公園内一〇〇平方メートル運動」(以下「本件運動」という。)に賛同し、これについて八〇〇〇円を被告に支払った原告が、その地位に基づくものとして、被告に対し、前記各請求をなす事案である。

二 争いのない事実

1 被告は、その行政区域内にある知床国立公園内の民有地を乱開発等から守ために参加者から一口八〇〇〇円を受けてその民有地を買い上げる本件運動を、昭和五二年ころから行っていた。

2 原告は、これに参加し、平成三年七月四日、被告に、右八〇〇〇円を支払い、その際、被告は原告に対し、別紙目録二の登録証書(以下「本件登録証書」という。)及び同目録三の領収証を交付した。

三 争点

1 前記「第一請求」一記載の本件登録証書に関する確認の訴え(以下「本件確認の訴え」という。)は認められるか。

2 原告は、前記「第一請求」記載の各請求をなす権利を有するか。すなわち原告が被告に支払った八〇〇〇円に基づき、原告はこのような請求ができる権利を有するか。

第三 争点に対する判断

一 本件確認の訴えの適否について。

原告が本件確認の訴えで求める請求の内容及びその根拠は必ずしも明確ではないが、当裁判所の求めた釈明によっても明らかにならないので、善解しながら検討することとする。

1 わが国の民事訴訟においては、確認の訴えは、権利又は法律関係の存否の確定のためにのみ提起することができ、法律関係を証する書面の真否の確認(民事訴訟法二二五条)を除いては、事実の存否の確定のために提起することはできない。

そこで、原告の本件確認訴えが、本件登録証書(平成三年(ワ)第三三号事件甲第五六号証の四参照。以下、全ての同事件の証拠を引用するので、事件番号は省略する。)につき、いわゆる証書真否確認の訴えを求める趣旨であるとすれば、次のような問題があり、このような訴えは不適法として却下を免れない。

(一) 証書真否確認の訴え(民事訴訟法二二五条)の対象となる「法律関係を証する書面」とは、その書面自体の内容から直接に一定の現在の法律関係の成立存否が証明され得る書面を指すものと解される。

別紙目録二の通り、本件登録証書はその記載内容から明らかなように原告が八〇〇〇円の拠出をしたことを受けて、この事実を確認し、被告において原告を登録台帳に登録したことを証明し、被告は原告に代わってこの土地を所有・管理してゆくことを表明した文書であって、原告と被告との間の法律関係の成立や存否を直接証明する書面にはあたらない。

したがって、本件登録証書は、法律関係を証する書面には該当しないので証書真否確認の訴えの対象になりえないものであるから、原告の本件確認の訴えは却下を免れない。

(二) また、本件登録証書が被告の作成にかかることは被告自身認めるところであり(本年九月九日付被告準備書面参照)、従来被告がこれを否定したこともないし、今後否定するに至ることも考えがたいから、本件登録証書の成立には争いがなく、したがって、本件確認の訴えには確認の利益がないので、この点でも却下を免れない。

(三) なお、本件確認の訴えが、本件登録証書の作成の真否以外の事実についての確認を求める趣旨であるとすれば(例えば訴変更申立書の文言通り、地主であることの証明書であるとの確認を求めるとの趣旨であれば)、既述の通り、わが民事訴訟法は、同法二二五条に定める証書の真否確認の訴え以外の、事実の存否の確認を求める訴えを認めていないから、そのような確認の訴えの趣旨であれば、不適法として却下すべきものである。

二 次に、本件確認の訴えが、別紙目録一の土地(以下「本件土地」という。)につき原告が所有権(共有持分権)を有することの確認を求める趣旨であるとも解し得るので、そこで、平成三年七月四日に原告が被告に支払った八〇〇〇円の法的意味、そして、これによる原告と被告との法律関係について、以下検討する。

1 当事者間に争いのない事実と本件証拠により認定される事実を総合すると次のようになる。

(一) 本件土地付近は、戦後開拓された地域であり、昭和二九年には国立公園に指定されたものであるが、昭和四〇年代にはその開拓者も離農し荒廃が進んでいたところ、一部では土地開発ブームの影響で土地取引が進み乱開発による自然破壊が憂慮される事態に至り、他方、離農者からは被告に対し土地の買い上げの要請も起こり、被告はその対応に苦慮していた。

しかし、被告にはこれを買い上げる財政力もなく、国に買い上げを要請したものの、制度上の問題があり実現しなかった。被告は、これらの土地を買い上げたうえ更に他に分譲することも検討したが、そうなると、土地の管理や処分はその所有者の意思に委ねられるから、これらの土地を管理しその自然を保護して行くことが困難になることもまた明らかであったので、この方法を採用することもできなかった。

そのようななかで、昭和五二年一月、新聞紙上でイギリスのナショナルトラスト運動が紹介され、これに触発されて、一口八〇〇〇円ずつを参加者に拠出してもらい、その資金で民有地を買い上げて被告においてこれを所有・管理し、参加者にはいわば精神的地主として経済的支援を受けるという本件運動を思い立つに至った。

(二) 被告は、昭和五二年三月から本件運動を開始した(乙第三号証の一)が、当初、この運動が十分知られないころには、真実所有権の移転が受けられるものと誤解した者からの問い合わせも中にはあった。

知床の自然保護のために参加者から資金の援助を受けて民有地を買い上げ、被告において対象土地を所有し管理するという本件運動の性格は、当初から明確ではあったが、当時被告の使用した本件運動への参加を募るパンフレット(甲第二一号証の一)には、「分筆や所有権の移転登記はしない」旨記載されている一方、「しれとこで夢を買いませんか」といったキャッチフレーズの下に、「分譲」といった法的にはやや誤解の余地のある文言も使用されていた。

(三) 本件運動は、マスコミにも大きく取り上げられ社会的に多大な反響を呼び予想以上の参加者を得たが、マスコミの報道や被告自身にも本件運動の趣旨や内容が正しく理解されるように努めたこともあって、買い上げた土地は被告において所有し管理されるという本件運動の性格や内容も広く知られるところとなり、その着想と方法は日本の自然保護運動に画期的な影響を与えるまでに至った。

(四) 原告は、この運動を知り、これに参加することとし、平成三年七月、被告町役場を訪れたが、原告の主張(平成六年五月二日付原告訴変更申立書一一丁表)によると、その際、原告は、被告発行のパンフレット(甲第二九号証)を持参していた。なお、右パンフレットには、参加者の支出する金員が「寄付金」であり、参加者は「寄付者」の地位にあることが、随所に明記されている。

原告は、被告を訪れた際、被告職員から甲第三五号証のパンフレットや被告発行の「しれとこ通信」を使用しながら本件運動の趣旨・目的・方法等について説明を受け、これに賛同し、八〇〇〇円を支払って(以下「本件支出」という。)、この運動に参加した。なお、その際、原告が記入して作成した申込書(甲第一一八号証参照)の表題は「しれとこ国立公園内一〇〇平方メートル運動参加申込書」と記載され、運動への参加申込書という体裁をとっており、対象土地の特定もされておらず、売買契約申込書であると認めるべき記載はない。

そして、原告は、被告から、別紙目録二の本件登録証書と同目録三の領収証(甲第七一号証の一)を受け取った(以上、関根証言)。

なお、原告は、その際、右八〇〇〇円を拠出金として領収した旨記載された領収証の交付を求め被告担当者は後日これを送付する旨応えたと主張するが、関根証言に照らし、信用できない。

(五) 本件登録証書には、登録地籍として「北海道斜里群斜里町大字遠音別村字岩宇別(知床国立公園区域内)」と記載されているだけで、地番の特定等それ以上詳しい所在地の記載はなく、また、「あなたは、左記の土地および自然を保全するために拠金されました………斜里町は、あなたに代ってこの土地を所有・管理し、植樹して永久に厳正保存いたします。」との記載がある。

また、同目録三の領収証には、「この寄付金は町政に反映させ有難く使わせていただきます」との記載がある。

(六) 原告は、同月末ころ、甲第一七号証の「質問項目」と記載された書面を持参して被告を訪れたが、右書面には、本件支出による原告の所有権(共有持分権)の取得を主張するような記載はないし、その際、そのようなやりとりがなされたことを認めるに足りる証拠もない(関根証言参照)。

(七) なお、公益信託化の検討の経緯について見る。

(1) 昭和五二年八月一七日の新聞紙上に掲載された、信託法の専門家である慶応義塾大学田中実教授の提言(甲第二三号証の一、二)を契機として、本件運動の参加者の善意を保護し、その意思を尊重し、また、参加意識の醸成を図るために、被告は本件運動の公益信託化の検討を始めた(甲第一号証)。

(2) しかし、具体的に検討を進めると種々の法的な問題が存在することが明らかとなった。

被告は、これらを考慮した上、関係行政機関に対し指導・助言を求めたが、被告の監督官庁でもある自治省からは、自治体が受託者となる形での公益信託については消極的な見解が示され、専門家からも法的には不可能である旨の意見も表明された(甲第四〇号証の一ないし七)。

(3) このように、公益信託化には困難な法的な問題が存在することが明らかとなったので、これを含め、本件運動の今後の展開については現在検討が続けられているが、現時点では、新たな方針が打ち出されるには至っていない。

三 以上の事実関係に基づき、原告と被告との法律関係について検討するに、原告の請求の根拠は、必ずしも明らかではないが、本件支出により、本件土地について、所有権或いは共有権等を取得したかの如き主張をするものとも解せるので、まず、これについて検討する。

1 前記認定の事実関係によれば、本件運動の当初には、本件運動を聞き及んだ者の中には、通常の売買であるかのような誤解を抱いていた者もなくはなかったが、マスコミの報道や被告の説明等によりその誤解も解消され、また、被告側もこのような誤解を未然に防ぐため、パンフレット等の記載を一部訂正するなどしていた。

原告が、本件運動に参加しようとした平成三年七月ころには、本件運動の趣旨や内容・方法は一般に理解され、このような誤解を生じることもなく、原告の持参したパンフレット(甲第二九号証)にも、また、被告職員が原告に本件運動を説明した際に使用したパンフレット(甲第三五号証)にも、本件支出が寄付金であることは明記されていた。また、右の際作成した申込書(甲第一一八号証参照)も、「しれとこ国立公園内一〇〇平方メートル運動参加申込書」との表題であって、売買契約を窺わせる記載はない。

原告が本件支出をした際に被告から受領した本件登録証書には、対象土地の地番は特定されておらず、被告に所有権がある旨明記されており、また、同時に受けた領奴証にも、本件支出が寄付金であることが明記されている。

また、これらのやり取りの際、原告に所有権が移転される旨の主張や争いもなかったし、同月末ころ、原告が被告を訪れ質問状(甲第一七号証)を差し出した際も、これが論議されることはなかった。

2 以上の事実関係からすると、原告の支出した金員は、被告の提唱する知床自然保護運動の趣旨を理解し、これに賛同して参加することとし、寄付金として交付したものと解するべきであり、土地売買代金として交付されたと見る余地はない。

3 また、以上の通り、右支出は寄付金であって、これにより、原告に、被告に対する具体的な請求権を発生させるものではない。

なお、被告は、「しれとこ国立公園内土地保全基金条例」を制定して(乙第二号証)、被告が受けたこれらの寄付金をこのための指定寄付金として受領し、右基金に積み立てており、そのため、この基金の目的のためでなければこれを処分することができないなどの制限や、この基金の管理等につき地方自治法上の規制を受けるが(同法二四一条)、このことは、管理者である原告に本訴請求にあるような具体的権利を付与するものではない。

そうすると、原告の本件支出は、寄付であって売買代金の支払いではないので、仮に、本件確認の訴えが共有持分権の確認を求める趣旨であれば理由がないし、また、原告が共有持分権を有することを前提とした原告の主張はいずれも理由がない。

四 次に、原告は、被告に対し、公益信託化を請求しうる権利を有するか、以下検討する。

1 右認定の通り、原告の支出した金員は寄付金であり、これに基づいて特定の請求をする権利を取得するものではないことは前述の通りである。

2 原告の主張するところは、必ずしも明確ではないが、仮に、被告が公益信託化を検討していることを表明していたことを根拠に、原告が何らかの請求ができるかどうか検討する。

右に見てきた通り、なるほど被告は、信託法の専門家の提言を受け、将来的な構想として公益信託化を検討していたが、法的に困難な問題が存在することが明らかになり、現在のところ、この構想は進展していない。

しかし、これは、被告が、本件運動の将来のあり方の一つとして公益信託化の構想をもっていたものに止まり、これが、原告など本件運動の参加者との間に法的な意味での契約や約束を締結したものではないから、現時点で被告がこれを実現しないからといって、原告が、これについて、法的な請求をなす権限を有するものでないことは論をまたない。

3 以上見てきたところによれば、原告は、被告に対して、前記請求二に記載したような公益信託化を請求する権利を有しないから、原告の右請求は、理由がない。

五 原告は、被告に対し、前記請求三記載の通りの種々の開示を求めるので、これについて検討する。

1 原告のこのような請求権の根拠は明確ではないが、仮に、本件支出は本件土地の売買であるからその所有権(共有持分権)に基づき請求すると主張する趣旨であるとすれば、既述の通り、本件支出は寄付と解されるものであるから、売買を前提とする原告の主張は理由がない。

2 次に、右寄付をした者としての地位に基づき原告はかかる請求ができるとの趣旨であれば、原告には法律上このような請求ができる根拠を見いだせない。

3 そうすると、原告の請求を裏付ける権利が存在しないから、右請求は認めることができないこととなる。

第四 結論

以上によれば、原告の請求のうち、本件登録証書の確認を求める訴えは不適法として却下すべきものであり、その余の請求はいずれも理由がないので棄却し、主文のとおり判決する。

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