大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 平成9年(く)3号 決定 1997年1月24日

少年 Y・T(昭和53.11.6生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人作成の抗告申立書に記載のとおりである。

少年審判規則43条2項によれば、抗告申立書には、抗告の趣意を簡潔に明示しなければならないところ、本件抗告申立書には、「原決定は全部不服なので抗告を申し立てる」旨の記載があるのみで、抗告の趣意の明示があるとは認められないから、本件抗告申立ては不適法というべきである。

また、抗告の趣意の追完は、原決定の告知があった日の翌日から2週間の抗告期間内に限り許されるところ、附添人は、本件抗告期間を経過した後の平成9年1月23日に至り、当裁判所に具体的な抗告の趣意を記載した抗告理由補充書を提出したにとどまるから、これによっても、抗告趣意不記載の瑕疵は治癒されない。

もっとも、抗告期間経過後に提出された抗告趣意書であっても、その遅廷がやむを得ない事情に基づくものと認められるときは、刑訴規則238条に準じ、これを期間内に提出されたものとして審理することができると解されるところ、記録に照らすと、附添人は、原審においても少年の附添人として終始審判に出頭し、原決定の言渡しも聞いている上、原決定は裁判書にして7丁程度のものであり、仮にその原本が速やかに作成されず、したがってその謄本請求をしても暫くは交付を受けられない事情があったとしても、言い渡された原決定に対する抗告の趣意を簡潔に明示した書面を作成・提出するのにさほどの期間を要するものとは考えられないから、前記遅延がやむを得ない事情に基づくものとは認められない。

そうすると、本件抗告申立ては、結局不適法として棄却を免れない。

なお、附添人が抗告理由補充書を提出していることに徴して、職権により記録を調査して検討しても、原決定が「犯罪事実」で認定し、「処遇決定の理由」で説示するところは、いずれも正当として是認することができ、原決定に少年法32条所定の抗告理由はない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 油田弘佑 裁判官 渡邊壯 高麗邦彦)

〔参考2〕抗告申立書

抗告申立書

少年Y・T

昭和53年11月6日生

右の者にかかる道路交通法違反保護事件につき札幌家庭裁判所で平成8年12月26日言い渡された少年Y・Tを中等少年院に送致するとの決定は全部不服なので抗告を申立てます。

平成8年12月27日

札幌市□○区○○×丁目×番××号

少年抗告人 Y・K

同所

Y・K法定代理人親権者父抗告人

抗告人 Y・I

同所

同母抗告人

抗告人 Y・E子

札幌市○□区○△××丁目○○ビル××号

少年抗告人代理人兼

少年法定代理人親権者父および同母両名抗告人代理人

辯護士○○

札幌高等裁判所 御中

〔参考3〕抗告理由補充書

抗告理由補充書

抗告人少年Y・T

右抗告人少年にかかる道路交通法違反保護抗告事件につき抗告理由の補充は次のとおりです。

平成9年1月23日

右抗告人少年付添人 弁護士○○

札幌高等裁判所 御中

少年の本件犯罪事実は平成8年6月21日午後11時49分ころから翌22日午前0時18分ころまでの間、石狩郡○○町○○×丁目××番地先から町道の○○通り、国道××号線、道々○○線、市道○○線、道々○△線、市道○△線を経て、札幌○○区○○×丁目×番先に至る16.9キロメートル区間の道路において、第1、赤信号無視による集団暴走行為および、第2、自動二輪車の無免許運転をしたことである。

第1の事実につき

1.少年の居たとされる日時・場所と、付添人の主張する少年の居たとする日時・場所とを比較対照すればつぎのとおりである。

公訴事実の記載

場所 石狩郡○○町○○×丁目××番地先から札幌○○区○○×丁目×番先

日時 平成8年6月21日午後11時49分ころから翌22日午前0時18分ころ

所謂96年6月21日のビデオの解析

場所 札幌市△△区○○×丁目×-××K宅

日時 平成8年6月21日午後11時43分から翌22日午前0時30分

右所謂ビデオの解析によれば少年が同ビデオに影像又は音声で登場していない時間は、最大で22日午前0時7分から同30分までの23分である。

少年が公訴事実記載の場所にいたとすればビデオの場所に21日午後11時43分からいたことが覆えされる。ビデオの場所にいたとすれば公訴事実記載の場所に22日午前0時18分ころいたことと矛盾する。この場合少年は22日午前0時7分から同日午前0時18分までの11分間にビデオの場所から公訴事実記載の場所まで行き、午前0時30分までの12分間に戻り、その間バイクを持ち出し、暴走行為の一部に参加したことになる。右暴走行為で少年のバイクに同乗したとされるEは、暴走行為で少年と概ね行動を共にしているが、その内容から少年が右暴走行為に参加していると考えるのは単に時間的に可能かも知れないというだけで暴走行為をしたと断定するのは根拠のない憶断に過ぎない。

2.年は右日時において札幌市△△区○○×丁目×-××K宅路上にいたのであるから、公訴事実に対し所謂アリバイがあるのは明瞭である。

少年が右時刻に右路上にいたことについては一緒に行動した5人の少年のうち4人の少年の証言がある。1名欠けているOについては単に4人まで聴き取れば年末の仕事で多忙の同人を呼ぶまでもないと判断したからであって、別の証言をすることを恐れていたからではない。

右4人が少年は同所に同時刻にいたと証言するのは、一部その日時の記憶喚起にビデオに写し込まれた日時に基づいているものもあるが、ビデオに写し込まれた日時の正確さは、Mが2年くらい前に調整したものであって、調整に疑問を感じさせる事情は、見当たらないから、正確であると断定することができる。写し込まれた日時の正確さを問題としないで、写し込まれた日時が日時の記憶喚起の手掛かりになっているから喚起された記憶に基づく日時が誤りであるとするのは全く理解できないことである。写し込まれた日時が正確でないか、正確でない要素が存在するとき、初めて写し込まれた日時によって喚起された日時の記憶が誤りの可能性を有するのである(これは刑事被告人に存する無罪の推定の一局面であると言うべきである)。まして日時の特定につきビデオに写し込まれた日時に頼らず、全く別な根拠によるとき日時の記憶があやふやである余地は存しない。例するに少年において、母の日記の記載を以て記憶喚起していることに見ることができる。審判は母の日記の記載によって日時の記憶喚起があったから日時があやふやだというが、時間の流れの中で何を特定の手掛かりとするかはそれぞれに異なるものであり、總て自己に発生した事柄によってのみ特定するよりも却って客観的であって、正確であるというべきである。なお別添のOの供述録取書(編略)参照。

第2の事実につき

少年の自白はなく、却ってバイクは運転しないという。その余は第1の事実につきその真実性に疑問のあるEその他の供述である。

〔参考4〕再抗告申立書

再抗告申立書

少年Y・T

右少年に対する道路交通法違反保護事件について平成9年1月24日札幌高等裁判所がなした、抗告を棄却する決定は不服であるから、少年法35条により再抗告する。

平成9年2月7日

抗告人 右少年法定代理人親権者父 Y・I

同親権者母 Y・E子

右抗告人ら代理人

右少年附添人 弁護士○○

最高裁判所 御中

申立の趣旨

1 原決定を取り消す。

2 札幌家庭裁判所が、平成8年12月26日、少年に対してなした中等少年院送致決定を取り消す。

3 本件を札幌家庭裁判所に差し戻す。

との決定を求める。

申立の理由

原決定は、憲法に違反し、もしくは憲法の解釈に誤りがあり、かつ少年法32条所定の事由がありこれを取り消さなければ著しく正義に反するものがある(最決昭62.3.24)。以下詳述する。

第1 原決定及び原々決定のこれを取り消さなければ著しく正義に反すると認められる重大な事実誤認

<省略>

第2 憲法違反

一 <省略>

二 抗告を不適法とした原決定は、少年法1条、憲法31条、同14条に違反する。

1 原決定は、原審附添人の抗告申立書には「原決定は全部不服なので抗告を申し立てる」の記載のみで理由の明示がないから少年審判規則43条2項に反し不適法であるとする。

しかし、「全部が不服」ということは、少年法32条所定の法令違反、重大な事実誤認、処分の著しい不当のすべてを主張する趣旨と解されるから、抗告趣意の明示がないとはいえない。

2 仮にこれでは不十分であるとするならば、少年法1条、憲法31条の趣旨からすれば裁判所は抗告理由の補充を促す義務があると考えられる。

なるほど民事事件の場合などであれば、本人ないし代理人のミスにより控訴できなくなったとしても、それは自業自得としても是認されよう。

しかし、少年事件は、その教育的効果(少年法1条参照)を達するためにも、少年に自分の言い分を十分聞いてもらったとの納得を得させることが是非とも必要である。また、裁判所は少年審判手続においては後見的役割を担っている。したがって、不適法な抗告理由書の提出により、抗告権が失われることが明白であるときは、裁判所がその点につき警告すべきことが、少年法1条の趣旨、ひいては適正手続を定めた憲法31条の要請であると考えられるのである。

ところが、原審ないし原々審はかかる措置をとらずして、抗告を不適法とした。これは少年法1条、憲法31条に違反すると解される。

3 原決定は、本件は、抗告趣旨の提出の遅延がやむを得ないと認められる場合には当たらないとするが、本件の具体的事情を無視した憲法31条の適正手続に反する不当な判断である。

すなわち、本件原々決定がなされたのは御用納めの前日の12月26日であり、翌々日から世間一般では年末年始の休暇に入る時期であることを無視している。抗告趣旨の提出の遅れはやむをえないというべきである。

4 そもそも2週間の抗告期間の間に理由を付した抗告申立書の提出を要求している少年審判規則43条2項自体が、証拠による犯罪事実の認定手続という点では変わりのない刑事手続における控訴手続と比して著しく過大な負担を少年らに強いるものであり、憲法14条に違反し、また、防御権を侵害するものとして憲法31条に違反するものである。これを適法とした最決昭34.8.3は変更されるべきである。

昭和34年当時は、未だ少年手続においても刑事手続同様の適正手続の要請があるということに対する理解が十分ではなかった。しかし、それから38年が経過した今、少年手続における適正手続についての理解は深まり、刑事手続と比したときの立法の不備を補充する最高裁判例も数多く出されている。いまこそ不服申立手続きに対する狭き門を刑事事件並にすべき時である。

第3 結論

以上の通り、原審及び原々審で認定した事実は、これを取り消さなければ著しく正義に反すると認められる事実誤認であり、さらにその認定手続も憲法違反である。このままでは少年が浮かばれない。最高裁においては、形式論で退けることなく記録を精査の上、原審及び原々審の決定を取り消し札幌家庭裁判所に差し戻すことを心から切望する。

以上

〔参考5〕再抗告理由補充書

平成9年(し)第37号保護処分決定に対する抗告棄却決定に対する再抗告事件

少年Y・T

再抗告理由補充書(2)

平成9年3月3日

右少年法定代理人親権者父Y・I及び

同親権者母Y・E子ら代理人

右少年附添人 弁護士○○

最高裁判所第三小法廷 御中

第1再抗告申立書第1・3項から5項についての理由の補充

<編略>

第2少年審判規則43条2項が憲法14条、同31条に違反することの主張の補充

一 少年法32条は抗告期間を2週間に制限しているところ、少年審判規則43条2項が、抗告に際して抗告の趣旨を明示することを要求している。

しかし、このように抗告に際して2週間以内に抗告の趣旨を明示した上で抗告をなすことを要求している右規則は、証拠による犯罪事実の認定手続とそれに基づく自由への制限という点では変わりのない刑事手続(抗告審が高等裁判所民事部ではなく形事部に係属することも両手続の等質性を示すものである)における控訴手続と比して著しく過大な負担を抗告人に課し、また、その結果少年の防御の機会を奪うものであり、憲法14条及び同31条に違反するものである。以下この点につき述べる。

二1 刑事手続の場合、控訴提起期間が14日とされている点は、少年法の抗告期間と同じである(刑事訴訟法373条)。しかし、刑事手続においては控訴に当たって控訴の理由を示す必要はなく、控訴趣意書は、控訴裁判所が訴訟記録の送付を受けた後、提出最終日を指定する扱いになっており、その最終日は指定通知から21日以上先でなくてはならないとされている(刑事訴訟規則236条)。しかも実務上の扱いでは、おおむね1か月以上先の日を指定する慣行となっている。

2 このように刑事手続において控訴理由を述べるための期間がそれなりに長く定められているのは、とくに否認事件において原判決の破棄を訴えるそれなりに説得力ある控訴理由を述べるためには、原判決(通例、判決言い渡し後判決書が交付されるまで相当期間を要する。)及び訴訟記録を十分に検討し、相当量の控訴趣意書を書かなくてはならないところ、弁護士の執務状況からして判決後全ての時間を記録検討及び控訴趣意書起案作業に費やすことは困難であり、相当期間の猶予が必要であることから、一定の時間が取られているのである。これは憲法31条の適正手続の保障から当然に要求されることである。

3 この理は少年事件においても変わらない。すなわち、少年事件においても保護処分の前提としてまず非行事実の認定がなされる。その認定過程こそ職権主義的審判構造や、証拠能力の扱いになどにつき差異はあるものの、証拠による犯罪事実の認定及びそれに基づく自由の制限が科されるという点では刑事手続と変わりない。したがって、裁判所の決定につき不服を申し立てる手続に必要な手間としても、やはり審判書と記録を検討し、相当量の抗告申立書を起案しなくてはならず、刑事事件の場合と変わりはない。

4 ところが少年審判規則は2週間以内に理由を付した抗告申立書を提出することを求めており、刑事手続に比べて著しく過重な負担を抗告人に課している。かかる差異を設けることについてはなんら合理的根拠が存しない。さらに、2週間では、この間に審判書の作成が間に合わないことが少なくなく、審判の内容につき十分かつ適切な反論の機会が与えられないに等しい。しかも、時には原審裁判官が抗告申立書を見てからそれに対する反論を織り込んだ審判書を作成するという行為が行われているともいわれている。このような差別的取扱により、少年事件においては刑事事件に比して事実認定の面において十二分に争うことが困難となっている。このことは、少年から適正手続に基づく非行事実の認定がなされる権利を侵害している点で憲法31条に違反するものである。同時にこれは、刑事手続と比したとき合理的理由のない差別であり、憲法14条に違反するものである。

5 なお、「簡潔な」主張でよいのだから2週間で足りるとする見解は現実離れした見解である。原審での事実認定を覆さすのは、簡潔な主張では全く不可能である。しかも抗告による記録移送後はいつ決定がなされてもおかしくない状況となり、抗告理由補充書による十分な主張の補充ができるとは限らない。かかる見解は少年の防御権を奪うことと同じである。

三 したがって、少年審判規則43条2項は憲法14条、同31条に違反し無効である。百歩譲っても合憲限定解釈として、同項は訓示規定であると解されなくてはならない。抗告が本条項に違反し不適法とした原決定は取り消されるべきである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例