札幌高等裁判所 平成9年(行コ)15号 判決 2001年11月27日
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,第一審原告らと第一審被告A,同Bとの関係では,第一審原告らの負担とし,第一審原告らと第一審被告A,同Bを除く第一審被告らとの関係では,同第一審被告らの負担とし,参加によって生じた費用は,当審第一審被告ら参加人の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 平成9年(行コ)第15号事件
(1) 第一審被告ら(第一審被告A,同Bを除く)
ア 原判決中,第一審被告ら(第一審被告A,同Bを除く)に関する部分を取り消す。
イ 第一審原告らの第一審被告ら(第一審被告A,同Bを除く)に対する請求をいずれも棄却する。
ウ 訴訟費用は,第1,2審とも第一審原告らの負担とする。
(2) 第一審原告ら
ア 本件各控訴を棄却する。
イ 控訴費用は第一審被告ら(第一審被告A,同Bを除く)の負担とする。
2 平成9年(行コ)第16号事件
(1) 第一審原告ら
ア 原判決中,第一審被告A,同Bに関する部分を取り消す。
イ 北海道に対し,第一審被告Aは497万5016円及びこれに対する平成8年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を,第一審被告Bは40万0402円及びこれに対する平成8年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
ウ 訴訟費用は,第1,2審とも第一審被告A,同Bの負担とする。
(2) 第一審被告A,同B
ア 本件各控訴を棄却する。
イ 控訴費用は第一審原告らの負担とする。
第2事案の概要
本件は,北海道の住民である第一審原告らが,会食等に係る食糧費の支出が違法であり,北海道が損害を被ったと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,その支出にかかわったとされる第一審被告らに対し,支出相当額とこれに対する遅延損害金の支払いを求めた住民訴訟であり,各当事者の主張は,次のとおり原判決を補正し,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決「事実」の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決中の「原告」,「被告」はそれぞれ「第一審原告」,「第一審被告」に読み替える)。
1 原判決の補正
(1) 原判決9頁4行目の「平成六年一〇月二一日」を「昭和五八年四月二三日」に,7行目の「平成六年一〇月二一日」を「平成五年四月一日」に,9行目,10行目及び11行目の「右期間」を「平成六年四月一日から平成七年五月三一日までの間」に,同10頁1行目の「右期間」を「平成五年四月一日から平成七年五月三一日までの間」にそれぞれ改める。
(2) 同10頁5行目の「別紙四九件会食一覧表記載のとおりである。」を「別紙49件会食一覧表のとおりである(以下,同会食一覧表記載の各会食の特定は会食番号で表示し,「会食番号1」などという)。」に改める。
(3) 同11頁9行目の「使用決定書」を「食糧費使用(予算執行)決定書(以下「使用決定書」という)」に,10行目の「二三件」を「二六件」にそれぞれ改める。
(4) 同12頁2行目の「積極的な主張を一切しようとしない」を「原審で積極的な主張を一切しようとせず,当審でも十分な説明責任を果たしていない。」に改める。
(5) 同12頁9行目の「支出命令書」を「支出負担行為兼支出命令書(以下,「支出命令書」という)」に,10行目から末行にかけての「食糧費使用(予算執行)決定書(以下「使用決定書」という)」を「使用決定書」にそれぞれ改め,13頁4行目の「(3)」の次に「公共事業に係る国庫補助金に関し,各所管省庁の定める」を加える。
(6) 同14頁6行目の「食糧費決定書」を「使用決定書」に,7行目の「支出負担行為兼支出命令書」を「支出命令書」にそれぞれ改める。
(7) 同15頁3行目の「当該部」を「当該部・事務所」に,5行目の「被告部所長」を「第一審被告部所長ら」にそれぞれ改める。
2 当審における当事者の主張
(1) 第一審原告ら
ア 第一審被告A,同Bの責任について
(ア) 補助職員に財務会計上の行為を専決処理させた場合,地方自治体の長の責任については,補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指導監督上の義務に違反したか否かで決すべきものであり,第一審被告A,同Bらが主張するように,財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき個別具体的な指導監督上の義務違反に限定されるものではないというべきである。
(イ) ところで,北海道においては,昭和31年度決算特別委員会で食糧費の不正支出が厳しく追及されて以来,繰り返し北海道議会で交際費,食糧費の問題が継続的に取り上げられ,歴代の北海道知事は,情報公開の不十分さばかりでなく執行状況そのものについても数々の不公正さが指摘されてきた。
第一審被告Aは,知事としての在任期間中(昭和58年4月から平成7年3月まで),こうした決算審議の場に自ら出席し,道民の期待を裏切ることのないように,交際費,食糧費を適正に執行する旨の答弁を繰り返してきた。
したがって,第一審被告Aは,各年度の決算審議の都度,食糧費が北海道が定める交際費・食糧費事務取扱要綱及び同運用方針(昭和52年4月1日付け財政第336号総務部長,副出納長通達,以下「食糧費取扱要綱等」という。)に定められたとおりに執行されているか,とりわけ違法,不正な支出がなされていないかどうかを綿密に調査するとともに,適正な執行がなされるように各部局に対する指揮監督を強化すべき高度の注意義務が課せられていたとみるべきである。
そうすると,長の責任につき,仮に個別具体的な指導監督上の義務に限定されるものであるとしても,第一審被告Aは,平成6年になされた平成4年度の決算審議において交際費,食糧費の執行状況について具体的な指摘がなされ改善が求められたのであるから,遅くとも,それ以降個別具体的な指導監督上の義務が課せられたというべきである。
(ウ) また,第一審被告Bは,前任知事の在任中から,総務部知事室秘書課長(昭和60年4月から昭和62年5月),同室長(平成元年4月から平成3年5月),公営企業管理者(平成3年5月から平成5年6月),副知事(平成5年6月から平成6年11月)といった要職を歴任し,前記の決算質疑の場にも出席して,こうした食糧費を巡る数々の疑惑,問題点が具体的に指摘されてきたことを熟知していた。したがって,第一審被告Bについても,前任知事から職務を引き継いだ平成7年4月の段階で個別具体的な指導監督上の義務が課せられたというべきである。
(エ) しかるに,第一審被告A,同Bは,自らの在任中に食糧費が違法,不正に支出していないかどうかを調査しようとせず,また,食糧費が適正に執行されるように各部局に対する指揮監督を強化しようともしなかったから,個別具体的な指導監督上の義務に違反したことが明らかである。
(2) 第一審被告A,同B
知事の権限に属する財務会計上の行為を補助職員が専決ないし委任により処理した場合に,知事の帰責事由とされる当該補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務違反とは,当該補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき個別具体的な指揮監督上の義務違反と解するのが相当である。そして,その内容は,知事が自ら当該財務会計上の違法行為を行ったのと同視し得る程度の指揮監督上の義務違反と解すべきところ,第一審原告らの摘示する過去20年間の議会における決算審議等での指摘をみても,本件支出に関して問題とされたような国庫補助金を使用した会食等の食糧費執行の当否に関することや,不正な食糧費執行に関することなどが指摘されたわけではないのであるから,これをもって,第一審被告A,同Bらに個別具体的に本件支出を阻止すべき指揮監上の義務が生じたとはいえない。
(3) 第一審被告部所長ら
本件支出に係る各食糧費の執行に違法はないが,仮にこれが違法であるとしても,第一審被告部所長らは,個々の会食について,その不存在や人数の水増しといった事実を,事前に使用決定書の書面審査の段階(支出負担行為の決定段階)で容易に知ることはできなかったのであり,また,請求書は事後債権者から提出され,第一審被告部所長らが直接決裁に関与しない支出命令手続を経て支出されるものであるから,支出負担行為の権限を有するにすぎない第一審被告部所長らが請求書の書換えを事前に個別的に把握することは困難であり,第一審被告部所長らに過失はない。
(4) 当審第一審被告ら参加人(以下「参加人」という)
ア 公共事業事務費に係る食糧費の取扱いの適法性について
(ア) 国庫補助金に係る食糧費の使途範囲について
補助対象となる公共事業事務費の食糧費の使途範囲については,所管省庁の当時の関係通達等において,補助事業の実施に直接要する「会議用茶菓子賄料等」「会議用の茶菓,弁当等」などと定められ,具体的な使途の範囲が明確でなく,これを限定的に解する必要もなかったことから,北海道はこれを例示と解し,補助事業を施行するために必要な範囲内において,北海道としての食糧費の取扱いを定めた食糧費取扱要綱等によって執行すべきものと判断し,取り扱ってきた。
(イ) 食糧費取扱要綱等では,食糧費の使途範囲を行政事務執行上の必要性から費消される経費とし,その執行が認められる範囲を,①会食経費,②会議等用の茶菓弁当代,③夜食・補食用経費としており,会食経費にかかる会食の範囲について,道側執行者が一般職の場合にあっては,(ア)国の関係各省庁又は他の地方公共団体の職員との会食,(イ)国会議員又は地方公共団体の議会議員との会食,(ウ)各種関係団体・法人の職員との会食,(エ)外国の来訪者(関係者)との会食,(オ)その他行政の円滑な執行上,特に必要があると認められる場合の会食としている。
したがって,公共事業事務費の食糧費の執行に当たって,補助事業の施行上必要な範囲で国の省庁職員との会食経費や職員の夜食・補食用経費に使用することは,それが社会通念上相当な範囲にとどまるものである限り,当時の国の関係補助要綱等に反するものではなく,補助金適正化法11条に定める「他の用途への使用」に該当するものではない。
(ウ) なお,平成6年度の国庫補助事業に係る食糧費について,会計検査院は,処理が適切でないものがあり,改善の要があると指摘したものの(ただし,その支出自体に問題があるとの指摘はない),このような事態が生じたのは,所轄官庁において食糧費,なかでも懇談会の経費について国庫補助の対象となる範囲を具体的に定めていなかったことなど,適切でない点があったことによるものとした。所轄官庁は,こうした指摘を受けて,平成7年11月20日付けで各都道府県に通達を発し,今後会食を伴う懇談は原則として補助の対象としないとするなど食糧費の使途を明確にしたのであり,こうした措置によって,初めて補助事業者たる地方公共団体に対し,補助事業上の食糧費の取扱いが具体的に示されたのである。
イ 本件支出にかかる事務手続等について
(ア) 本件支出に係る支出負担行為を行うため,それぞれの事業課は,使用決定書に各会食に係る目的,開催日時,開催場所,債主,所要経費,出席者等,支出科目及び経理現況等の必要事項を記載し,事業課長までの事業実施の決裁を了した後,当該部又は東京事務所の代表課長等を経由の上,決裁権者である各部長又は東京事務所長の決裁により支出負担行為の決定を行った。
その際に,第一審被告部所長らは,当該使用決定書により,その会食が予算の目的に沿い,補助事業執行上の必要性が認められるか,補助金の用途外使用に当たらないか(補助金適正化法11条),配当予算の範囲内の支出負担行為か(財務規則78条),使用決定書には所要経費の金額や出席者等の支出負担行為の内容が明確にされているか(財務規則79条),相手方等の会食の範囲や会食の態様等が食糧費取扱要綱等に則り適正であるか,経費は執行基準額以内か,基準額を超える場合やむを得ないと認められるものか,金額は適正妥当であるか,さらには適正な手続によっているかなどについて審査の上,各支出負担行為を行った。
(イ) 本件支出に係る支出命令は,決裁権者である各部代表課長等が,執行後に債権者から提出された請求書に基づき,事業課で作成された支出命令書により,当該請求書及び事実証明のなされた使用決定書と併せて,当該支出負担行為が法令及び予算に違反していないこと並びに当該支出負担行為に係る債務が確定していることを審査,確認の上,決裁して行ったものであり,本件支出は,債権者からの申出により口座振替払いにより,債権者の申出口座に実際に振り込まれている。
ウ 本件会食の必要性について
(ア) 北海道の経済構造は,公共事業を中心とする公共投資のウエイトが高く,国の公共事業に占める北海道開発事業費(国費ベース)の割合は平成6年度当時で10.4パーセントに達しており,北海道が事業主体となる公共事業だけでも農業農村整備や道路,河川の整備をはじめとして総事業費で5000億円を超える事業が行われていた。
(イ) こうした状況にあって,公共事業を所管する農政部,土木部,住宅都市部,水産部及び在京情報連絡の要となる東京事務所において関連省庁等と食事を兼ねた会合を持ち,補助事業に関する施策動向その他事業施行上の必要な情報収集や意見交換その他の打ち合わせを行うことや,公共事業に係る事業計画の作成,設計積算,予算調整などの事務処理のために,職員が超過勤務を行う際に,夜食・補食を給したことは,補助事業の適切かつ円滑な推進を図るために必要なものであった。
エ 本件支出に係る各会食の執行状況について
(ア) 本件支出の執行部局,目的,出席者等は別紙平成6年度公共事業事務費食糧費(平成6年10月21日以降支出分)執行状況一覧のとおりであり,そのうち,参加人が,具体的に誰とどのような目的,内容で実施されたかについて調査した結果は,別表一及び同二に記載のとおりである。
(イ) 別表一記載の会食
参加人の調査の結果,各会食時の出席者を具体的に確認し得た分である。
公共事業を所管する北海道の事業課の職員が関係する省庁の担当職員と当該補助事業の適切かつ円滑な推進を図るために必要な打ち合わせを兼ねた会食を行うことは,当該補助の目的に沿ったものと解されていたところ,これら15件の会食は開催場所,飲食内容,金額,態様において北海道の食糧費取扱要綱等に従った社会通念上相当の範囲内のものであり,補助事業施行上の必要性が認められ,補助金適正化法に照らしても適法な予算執行である。
なお,会食番号38,39,42の開催日時は,使用決定書のそれと実際に執行された開催日時とが異なるが,これは,相手側の都合により急遽開催したため,事前に食糧費使用決定を経る暇がなく,やむなく事後処理となったものであり,手続上は適切を欠くものであったが,会食の出席者や目的・内容においては,補助の目的に沿ったものである。
(ウ) 別表二記載の会食
これら9件の会食は,使用決定書上の記載とは異なるが,事業課の職員の超過勤務時における夜食・補食あるいは国等との昼食時における弁当等の経費を事後的にまとめ支払いを行っているものである。
これらの経費は,食糧費取扱要綱等上支出を認められている経費であり,本来であれば,事前に食糧費使用決定を経るべきものであるが,その他の業務も輻輳していたことから,やむなく事後における事務処理となったものであり,手続上は適切を欠くものであったが,債主に対する金銭の支払の事実は明らかであり,その執行実態としては補助の目的に沿ったものであることから,補助金適正化法に反する違法な支出とまではいえない。
(エ) 別表一,同二記載以外の会食
これら25件の会食については,相当な日時の経過等から,債主に対する支払いの事実は明らかであるものの,会食の裏付けとなる資料を確保することができなかったものであるが,使用決定書記載のとおりに執行されたことは確かであり,北海道が支払義務を負った金銭債務に対し,適法に公金を支出したものである。
理由
第1前提事実
請求原因1,2(一)及び3(一)の各事実は当事者間に争いがなく,この争いのない事実に,証拠(甲51ないし60,62,63,67,74,76ないし105,185ないし223,355,乙ロ1ないし12,13の1ないし4,14の1ないし17,丙50,51,52の1ないし3,原審及び当審における調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
1 当事者の地位,経歴等
(1) 第一審原告ら
第一審原告らは,いずれも北海道に住所を有する住民である。
(2) 第一審被告らは,北海道において次のとおりの役職に就いていた。
ア 第一審被告A
昭和58年4月23日から平成7年4月22日まで北海道知事
イ 第一審被告B
昭和60年4月から昭和62年5月まで北海道総務部知事室秘書課長
平成元年4月から平成3年5月まで北海道総務部知事室長
平成3年5月から平成5年6月まで北海道公営企業管理者
平成5年6月から平成6年11月まで北海道副知事平成7年4月23日から北海道知事
ウ 第一審被告C
平成5年4月1日から平成7年5月31日まで北海道農政部長
エ 第一審被告D
平成6年4月1日から平成7年5月31日まで北海道土木部長
オ 第一審被告E
平成6年4月1日から平成7年5月31日まで北海道住宅都市部長
カ 第一審被告F
平成6年4月1日から平成7年5月31日まで北海道水産部長
キ 第一審被告G
平成5年4月1日から平成7年5月31日まで北海道東京事務所長
2 食糧費の取扱い
(1) 本件支出当時における食糧費制度の概要
地方公共団体が実施する公共事業に要する経費の一部については,関係する国の省庁を通じて国庫補助金が交付されるが,これらの公共事業に係る国庫補助対象事業費には,本体の工事費のほか事業を実施するために必要な事務費が含まれる。
事務費は,国庫補助事業に直接従事する都道府県職員の人件費,国庫補助事業実施に直接必要な設計審査・用地交渉等のための旅費,国庫補助事業実施のため直接必要な庁費から構成され,そのうちの庁費は,更に需用費,役務費,備品購入費等の費目に区分され,需用費の一部に食糧費が含まれている。国庫補助事業の交付申請に当たり,食糧費は需用費の金額に含め,需用費として申請される。したがって,食糧費は需用費の金額の範囲内で,事業主体である各都道府県の判断により支出されることになる。(地方自治法施行規則15条2項別記)
そして,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律11条1項は,「補助事業者等は,法令の定並びに補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件その他法令に基く各省各庁の長の処分に従い,善良な管理者の注意をもって補助事業等を行わなければならず,いやしくも補助金等の他の用途への使用をしてはならない」旨定め,いわゆる用途外使用を禁じている。
(2) 各省庁通達による食糧費の使途範囲
本件支出当時,関連する各省庁は,国の補助金の食糧費の取扱いにつき通達で次のとおり定めていた。
ア 農林水産省では,補助事業(間接補助事業を含む)施行のため必要な会議用茶菓子賄料等であるとしている。
イ 建設省では,補助事
業等の経費として補助事業等施行のため直接必要な食糧費(用地買収交渉,補償交渉等補助事業等の遂行上特に必要な場合に限る。)が認められ,同省道路局では会議用茶菓子賄料,河川局及び都市局では,会議用茶菓子賄料等であるとしている。
ウ 運輸省では,補償交渉等補助事業の遂行上特に必要な場合に限るとしている。
エ 水産庁では,漁業関係事業の施行に必要な事務費(会議費)として,補助事業遂行のため必要な会議用の茶菓,弁当等の代価であるとしている。
(3) 北海道での取扱い
ア 北海道では,昭和52年4月1日付「交際費及び食糧費の執行について」と題する総務部長・副出納長名の通達を発し,交際費・食糧費事務取扱要綱及び運用方針(食糧費取扱要綱等)を定め,これに従って食糧費を執行してきた。
イ これによれば,食糧費の取扱いについては,次のとおり定められていた。
(ア) 食糧費は,行政事務執行上の必要性から費消される経費であり,その執行が認められる範囲は,会食経費,会議等用の茶菓弁当代,夜食・補食用経費である。
会食経費と茶菓弁当代とは性格を異にするものであり,前者は,行政の円滑な執行を図るために行われる懇談に要する経費をいい,後者は,通常の事務の執行上必要な会議の接待用茶菓,弁当に要する経費をいうものである。
(イ)a 執行者の区分による会食の範囲
(a) 執行者が特別職の場合は,相手方のいかんを問わず執行を認める。
(b) 道側執行者が一般職の場合は,国の関係省庁又は他の地方公共団体の職員との会食等の場合に執行を認める。
(c) 道の執行機関相互の職員の会食に執行を認める。
(以下,省略)
b 食糧費を執行できる会食の態様は,食事を供給する場所における接待行為を伴わないものとする。
食糧費を執行できる会食とは一般的には会議等が終了し,引き続きその場所で行われる会食及び食事を供給する場所において行われる会食をいうものである。
食事を供給する場所とは,風営法3条1項に基づく許可を要しない場所をいうものである(なお,交際費については,その許可を受けた場所における懇談が認められている。)。
接待行為を伴わないものとは,婦女等による客の接待がなく,単に飲食のみをさせることをいうものである。
c 会食経費の1人当たりの執行基準額は,原則として1万2000円以内とする。なお,会食の性格,相手方等を勘案し,当該決裁権者がやむを得ないと認めた場合に限り,当該執行規準額を超えて支出することもできるものである。この場合においては,食糧費使用(予算執行)決定書又は食糧費資金前渡決定書においてその理由を明らかにするとともに,決裁については,原則として代決を認めないものとする。
(ウ) 会議等用の茶菓弁当代は社会慣習上やむを得ない場合に限り,食糧費の執行を認めることとし,その経費の基準は,1人1回1500円以内に止めるものとする。
(エ) 夜食・補食用経費については,緊急やむを得ない事務のため,特に夜間勤務を必要とする場合は,必要最小限度において,夜食・補食の支給を認めることとし,その経費の基準は1人1回1000円以内に止めるものとする。
(オ) 予算執行上の留意事項として,食糧費予算の執行に当たっては,関係法令及びこの要綱に従って厳正に行うものとし,いやしくも道民の批判を受けることのないようにすること,また,安易に従来の例によることなく,真に必要な場合に限って行うこととするほか,執行内容については,各種公営施設の利用,人数の制限などによって経費の節減を図り,必要最小限度のものにとどめ,社会常識上の節度を逸脱することのないよう,厳に注意するものとすること,二次的会合については原則として行わないものとする,やむを得ず行う場合も必要最小限のものとし,節度を超えることのないよう特に留意すること,執行内容に変更を生じた場合には,その事実を明らかにして速やかに追認を受けるものとする。
ウ 食糧費取扱要綱等は,昭和54年以降平成6年まで6回にわたって改正された。そのうち,会食経費は,昭和54年に6000円以内から9000円以内に,平成5年に9000円以内から1万2000円以内にそれぞれ増額変更され,会議等用の茶菓弁当代は,昭和54年に1000円以内から1500円以内に,夜食・補食用経費は昭和54年に800円以内から1000円以内にそれぞれ増額変更された。これらの改正の都度,知事の委任を受けた総務部長,副出納長ないし出納局長が,各部長等に対して,食糧費の執行について,厳しく節度を守り,厳正な執行をするよう特に留意すべきことを内容とする通達を発した。
エ このように北海道においては,従前から各省庁の発した通達に定める食糧費の使途範囲を例示であると考え,前記のとおりの会食経費もこれに含まれるものとして永年執行してきた。
3 北海道
における食糧費の支出事務手続
(1) 公金の支出手続,決定権者
北海道においては,財務規則(乙ロ1)により,知事の支出負担行為を行う権限のうち,1件の金額が3億円未満の経費の支出に関し支出負担行為を行うことについての専決権限を本庁部長等に付与しており,東京事務所長等に対しては支出負担行為を行う権限を委任している(12条1項,13条1項)。
また,知事の支出命令の権限については,本庁の代表課長等に直接専決権限を付与しており(14条1号),本庁部長等に支出命令権限は付与されていない。また,東京事務所においては,知事から同事務所長に委任された支出命令の権限はさらに東京事務所総務課長に専決権限が付与されている(東京事務所事務決裁細則)。
(2) 支出負担行為の決定
食糧費の執行を担当する事業担当課の課長等(起案責任者)において,食糧費執行の目的,開催日時,開催場所,債主,所要経費,道側出席者及び相手方出席者,支出科目並びに経理状況を記載した使用決定書を起案し,当該部又は東京事務所の代表課長等を経由の上,知事から支出負担行為の権限を委任され,あるいは専決権限を付与された支出負担行為担当者の決裁を受け,支出負担行為が決定される。
上記決裁においては,補助金適正化法,財務規則,食糧費取扱要綱等に則って審査を行う。
(3) 支出命令及び支出
支出負担行為の決定に基づき食糧費の執行に係る会食が実施されると,使用決定書に所要経費の確定額及び出席者の確定人員を記載するとともに,出席した事業課の本庁課長補佐相当職以上の者による会食の実施についての事実証明が行われる。また,会議等用の茶菓弁当代については,当該会議を施行した本庁課長相当職の者,夜食・補食については当該夜間勤務を命じた者がそれぞれ事実証明を行う。
支出負担行為に基づき債務が確定したものについて,その後,支出命令書を作成し,事業課を経て,支出命令の権限を有する代表課長等により支出命令の決定が行われる。支出命令は,支出命令書に債権者(債主)から提出を受けた請求書を添付して行うことが必要である。支出命令書により支出命令が行われると,出納長又は出納員は支出命令を審査のうえ,口座振替等により支出命令に係る支出を行う。なお,その請求書に不備のある場合は,政府契約の支払遅延防止等に関する法律6条2項に従い,債権者に返付して,適正な請求書を再提出させる取扱いであった。
4 北海道における不正支出問題の発覚とその後の経過
(1) 平成7年10月ころ,道庁石狩支庁でいわゆるカラ出張が発覚し,北海道監査委員事務局のいわゆるカラ接待疑惑も発生した。第一審被告Bは,平成7年11月3日,知事として記者会見を行い,今後官官接待を廃止し,食糧費を50パーセント削減する,情報公開を拡大する,不正支出に関する全庁調査を実施する,政治家パーティ券の購入を禁止するなどの対応策を述べた。
(2) 北海道は,平成7年11月7日,平成6年度食糧費について,「食糧費の執行(点検結果及び今後の改善策)について」と題する見解を発表した。それによると,食糧費取扱要綱等に照らし適切でなかった事項として,食糧費の執行で認められていない風俗営業法の許可を受けている店での会食が114件(全体の2パーセント)で,うち東京事務所分が101件(東京事務所執行分の9パーセント)であり,会食1人当たりの執行単価は1万2000円の範囲とされているが,基準額を超えたものが880件(全体の12パーセント)で,うち東京事務所分が544件(東京事務所執行分の51パーセント)であった。また,財務規則等に照らして適切でなかった事例として,相手側との会食の事実がなく,前渡資金が道内部の会食等に使用されたものが10件,157万4000円,北海道側が請求書を作成したと推定されるものが全体の約21パーセントの1551件ほどあった。また,今後の改善策として,食糧費については,接待を目的とした公務員同士の会食は廃止するとの基本方針を立てた。
(3) 北海道は,平成6年4月から平成7年10月までの間を対象にしたカラ出張,カラ会議など一連の不正支出の調査結果を,平成7年11月13日,同月20日,同月30日の3回に分けて発表した。上記調査結果によれば,カラ会議による2億0500万円を含め,北海道全体で10億7745万円の不正支出が判明した。カラ会議の90パーセントに当たる1億8640万円は懇談・昼食代として支出され,うち4860万円は職員間の飲食に使われていた。不正支出によって得られた資金は,主に備品購入,懇談昼食費,中元・歳暮代などに支出されていた。
5 本件に関連する監査請求
(1) 北海道民5553人による監査請求
ア 北海道民5553人は,平成7年12月27日から平成8年1月4日にかけて,平成6年度及び平成7年度前半に支出された北海道のすべての食糧費について監査を求める住民監査請求(以下「マンモス監査」という)を行ったが,これに対する監査委員の判断及び意見の要旨は,以下のとおりである。
(ア) 判断
会食の有無及びその実態については,会食が行われたことは認められるが,監査対象部局からは,相手側出席者を機関名等以上に特定できる情報がほとんど得られなかったため,相手側との関係で会食が目的に沿って適切に行われたかどうかについては,十分確かめられなかった。
また,事前決裁を怠り実際の開催日と異なる日を開催日として処理していた例があったことなどに加え,食糧費使用決定書記載の相手側機関等と当該時期において会食が行われる事情につき,相手側の明示や資料の提出など明確な説明が得られないものがあった。このように事実関係の確証が得られないことから,監査対象とした支出のうちに目的に沿わない不適切な会食の存在する蓋然性を否定することはできない。
(職員による請求書の書換えが行われたものが認められるが,)請求書書換えという不適切な事務処理が行われ,相手側も特定できない食糧費の執行については,その実態が明らかにされないままにすることは許されない。
会食が行われた時点で,相手側氏名等を記録する制度がなかったことは事実であるが,ほとんどの会食についてその内容を明らかにできないとは考えにくい。監査対象部局の対応は不十分である。
よって,知事においては,監査対象とした692件から相手側の確認された39件を除いた653件の会食について,その目的,内容等の点検を命じ,違法不当な支出がある場合はその補填を含め,適切な措置を講ずるべきである。
(イ) 意見
a 監査に当たり,請求書の書換えの問題とともに,会食の事実及びその内容について明らかにするよう努めた。監査対象部局に対して,出席者の特定を求めたが,相手側については,食糧費取扱要綱において出席者名を記載する必要がなく,記録がないこと,曖昧な記憶により相手方を特定すると相互の信頼関係が損なわれ,行政の円滑な推進に支障をきたす恐れがあるなどとして,一部を除き示されなかった。
事実関係の調査に対する監査対象部局の真撃な対応が得られなかったことは,極めて遺憾である。
食糧費の執行については,厳正かつ的確な執行を確保するため,会食の目的や出席者などの事実の検証に耐えられるような資料の在り方について,食糧費取扱綱要の改正を含め検討するとともに,その透明性を高め,道民の不信や批判を招くことのないように取り組むことを強く求める。
b 事前の決定手続を怠っていたため,後日別の日付けで執行したこととして処理している事例があったが,食糧費の無原則な執行につながるものであるから,厳に注意すべきである。
c 職員に対しては,財務会計の基本に立脚するように注意を喚起し,請求書の書換えなどの不適切な事務処理を行わないよう指導を徹底すべきである。また,債権者に対しては,北海道の取扱いを十分理解させ,請求書はすべて債権者の責任において作成させることとすべきである。
d 会食の出席者が多かったり,場所,時間などが会食の目的にふさわしいものか,考慮すべきものが多かった。1人当たりの執行基準額を超える理由が明らかでないものが相当数あった。
食糧費の執行に当たっては,その目的に照して,出席者の範囲,場所,金額などを必要最小限度のものにするよう十分配慮すべきである。
イ 第一審被告Bは,上記監査委員の監査結果に係る勧告を受け,平成8年3月29日付けで,以下のような措置結果を通知した。
会食の目的,内容など可能な限りの方法で点検を行った結果,会食の実態がない食糧費の執行は確認されなかった。相手側出席者の氏名等は,記録がなく,関係職員の記憶も定かでなく,推測で相手先に確認できない,曖昧な記憶で相手方を特定することは相互の信頼関係を損なうおそれがあるなどにより,特定できなかった。
(2) 本件に前置する監査請求(以下「本件監査」という)
第一審原告らは,平成7年10月20日,平成6年度において東京事務所長,総務課長,農政部,土木部,住宅都市部,水産部の各部長と各代表課長の行った65件(本件支出の49件を含む)合計603万円の食糧費の支出は,国の補助金(公共事業費等)をもって関係省庁の役人の接待に流用したものであるとして,支出決定者及び起案責任者に損害賠償請求を行うこと,今後の支出を禁止することの措置を求める住民監査請求を行った。
本件監査の結果及び監査意見の要旨は,以下のとおりである(なお,平成6年10月20日以前の支出16件については請求期限を経過しているとして監査の対象とされなかった)。
ア 監査結果
(ア) 書面監査では監査対象とした49件の会食のうち,財務規則及び食糧費取扱要綱等に照らして適切さを欠く事例として,①1人当たりの執行基準額を超えているもので,超えている理由が明記されていないまま承認されているものが4件あった,②昼食時に酒類を伴った会食が行われているものが3件あった,③出席人数について,道側出席者が相手方を超えているものが15件あった,④債権者からの請求書をもって支払手続を行うべきところ,請求書の内容に不備があったため,債権者の承諾を得た上で請求書を書き換え又は内容を補正したものが21件あった,⑤公営施設の活用がなされていなかったことなどがあげられた。
(イ) 実地確認をした結果では,使用決定書による決定を得ず,2か月後に債権者から送付された請求書記載の会食日に執行したとして処理していたものが1件あった。
(ウ) 上記のように事務処理に適切さを欠く事例があったが,会食が行われたことや出席人数,支出額については,債権者等から確認できた。しかし,相手側は,一部を除き特定できず,会食の目的の妥当性,その目的に即した出席者であったかについて,確証を得られなかった。
イ 意見
会食がその目的に沿って行われたか検討するため,会食の目的と相手側,北海道側の出席者について,監査対象部局に資料の提出を求めたが,会食の目的については,完全なものとは言えないものの,概ね会食の目的を推定できる資料の提出があったが,相手側,道の出席者については,一部を除き資料が提出されなかった。そのため,出席者によって目的どおり会食が行われたかどうかの検証は行えなかった。
6 公文書開示請求
平成8年11月21日,平成6年度において,国の補助金を流用して行った官官接待65件中,道職員によって作成され,若しくは書換えが行われた請求書に基づき支出が行われた食糧費の支出の一覧,若しくは各々の食糧費使用決定書について,公文書開示が請求された(以下「本件文書開示」という)。開示された食糧費使用決定書24件のうち21件は,本件支出にかかる本件会食49件の一部,すなわち,会食番号1ないし3,8,9,13,14,18,22,24,25,37ないし44,46及び49であった。
7 食糧費不正支出に対する国の対応
(1) 会計検査院は,平成7年8月から同年9月にかけて,国の補助金がいわゆる官官接待に流用されていた問題について,大阪,茨城,沖縄,秋田,島根の5府県を対象に,立入調査を行った。農林水産省,建設省,運輸省の補助金のうち食糧費の会計処理を重点的に調査し,検査結果が発表された。
調査対象となった農林水産省からの補助金に自治体の独自予算を加えた総額4億9870万余円の食糧費のうち,飲食を伴う懇談会に使われたのは4億4260万余円(国庫補助金相当額2億1957万余円)であった。そのうち国庫補助事業の実施のために直接必要であるか否か判然としないものがあるとされ,その内訳は使用目的が明確となっていないものが2億9725万余円,本省庁,他都道府県等からの視察に伴う懇談会に使用しているものが3667万余円,予算要求のための懇談会に使用しているものが1067万余円であった。
建設省関係では,調査対象となった食糧費1億6241万余円(国庫補助金相当額1億0775万余円)のうち,飲食を伴う懇談会に使用しているものは,1億2107万余円(国庫補助金相当額8073万余円)であり,そのうち国庫補助事業の実施のために直接必要であるか否か判然としないものがあるとされ,その内訳は使用目的が明確となっていないものが8414万余円,予算要求のための懇談会に使用しているものが349万余円,本省庁,他都道府県等からの視察に伴う懇談会に使用しているものが275万余円であった。
運輸省関係では,調査対象となった食糧費5273万余円(国庫補助金相当額4212万余円)のうち,飲食を伴う懇談会に使用しているものは,4271万余円(国庫補助金相当額3380万余円)であり,そのうち国庫補助事業の実施のために直接必要であるか否か判然としないものがあるとされ,その内訳は使用目的が明確となっていないものが2063万余円,予算要求のための懇談会に使用しているものが405万余円,本省庁,他都道府県等からの視察に伴う懇談会に使用しているものが243万余円であった。
そうした結果を踏まえて,建設省,農林水産省,運輸省の3省は,平成7年11月に,食糧費を使った会食を伴う懇談を原則禁止する通達を都道府県に通知した。
(2) 平成8年1月11日,建設大臣は,国の補助金に含まれる食糧費が地方自治体のいわゆる官官接待に流用されていた問題で,禁止通達に違反した自治体に補助金の返還を求める方針を明らかにした。
8 本件訴訟の提起と原審での審理経過
(1) 本件訴訟は,平成8年1月17日,原審裁判所に提起された。原審での審理経過を通じて,第1審被告らは,第1審原告らが請求原因で指摘した疑問点,特に本件会食の内容に関する具体的な答弁をしようとせず,一部の会食につき抽象的,一般的にその目的に沿った会食がなされたという趣旨の関係者の陳述書(乙ロ14の1ないし17)を提出したほかは,積極的な主張立証を何ら行わなかった。
(2) 原審裁判所は,第一審原告らの申立てに基づき,本件支出に係る各会食について,農林水産省,建設省,運輸省,水産庁に対して,各会食の開催日に各省庁の職員が北海道に出張したか否か,その目的,人数,氏名及び会食に出席したか否か,出席した人数,氏名等を照会した。この照会に対する各省庁からの回答結果は次のとおりであり,この回答の範囲内で会食に出席した事実及び人数が確定できたのは12件であった。
ア 農林水産省
平成7年2月27日(会食番号2の開催日)構造改善局から2名出張し,会食に2名出席(使用決定書記載の人数は1名多い)
平成7年2月23日(同1の開催日)構造改善局から1名出張平成6年12月24日(同40の開催日)
構造改善局から1名会食に出席(使用決定書記載の人数は8名多い)
イ 建設省
平成6年10月3日(同22の開催日)3名が出張し,その期間中に住宅都市部職員との会食に出席
平成6年10月11日(同3の開催日)2名が出張し,その期間中に土木部職員との会食に出席
平成6年11月17日(同4の開催日)2名が出張し,その期間中に土木部職員との会食に出席
平成6年12月15日(同5の開催日)3名が出張し,その期間中に土木部職員との会食に出席
平成7年3月2日(同15の開催日)1名出張
平成7年3月9日(同16の開催日)3名出張
平成7年3月15日(同18の開催日)3名出張
平成7年3月16日(同19の開催日)2名出張
平成7年3月27日(同21の開催日)1名出張
ウ 水産庁
平成6年7月26日(同26の開催日)3名出張し,1名会食に出席(使用決定書記載の人数は2名多い)
平成6年9月29日(同27の開催日)4名出張し,3名会食に出席(使用決定書記載の人数は3名多い)
平成7年3月1日(同32・33の開催日)9名出張し,4名会食に出席(使用決定書記載の人数は昼食は2名多く,夕食は9名多い)
平成7年3月2日(同34の開催日)11名出張し,4名会食に出席(使用決定書記載の人数は4名多い)
平成7年3月16日(同35の開催日)1名出張し,1名会食に出席(使用決定書記載の人数は6名多い)
平成7年2月20日(同30の開催日)1名出張
平成7年3月6日(同31の開催日)1名出張
平成7年3月24日(同36の開催日)12名出張し,2名会食に出席(使用決定書記載の人数は3名多い)
エ 運輸省
出張した者なし
(3) 原審裁判所は,上記のような経緯を踏まえ,本件支出に係る会食のうちには,①調査嘱託の結果との関係で相手方の人数が一致しないものがあること,②請求書の書換えがなされたものがあること,③第一審被告らの応訴態度からして,会食の存在自体疑問があると考えられるものがあること等を理由として,結局,それらのすべてにつきその存在が認められないか,認められるとしても補助金適正化法11条に違反して違法である旨判断した。
9 当審における審理経過
(1) 当審においては,審理の冒頭,参加人が行政事件訴訟法23条に基づき訴訟参加し,以後,参加人が第一審被告らのために訴訟活動を行った。
(2) 参加人は,本件各会食が,具体的に誰とどのような目的,内容で実施されたのかについて,関係職員から執行内容を聞き取り,関連資料についても調査し,その結果,事実関係が明らかになったとして,当審における参加人の主張のとおり,本件各会食を別表一,二及びそれ以外に分けて,その存在と適法性を主張するに至り,併せて,関係書類を書証として提出し,かつ,関係証人の尋問を申請をした。当裁判所は,その申請(第一審原告らも申請)に基づき,必要と思われる関係証人の尋問を行った。
(3) なお,第一審原告らの申請に基づき,当審においても,本件支出に係る会食について,大蔵省,北海道開発庁,北海道開発局,北海道財務局に対して,以下の各会食の開催日に各省庁の職員が北海道に出張した事実及び会食に出席した事実の有無を照会した。その回答結果は,次のとおりである。
ア 大蔵省(平成10年5月14日付回答)
平成7年3月6日(会食番号31の開催日)
本省職員2名が出張したが,会食に出席した事実はない。
イ 北海道財務局(平成10年4月20日付回答)
平成7年3月6日(会食番号31の開催日)会食には出席していない。
ウ 北海道開発庁(平成10年5月18日付回答)
平成7年1月20日(同8の開催日)
平成7年2月10日(同11の開催日)
上記2件につき,出張者はいたが,会食に出席した職員はいない。
平成6年10月26日(同39の開催日)
平成7年2月28日(同43の開催日)
平成7年2月7日(同46の開催日)
平成6年12月9日(同48の開催日)
上記4件につき,担当課職員を調査したが,会食に出席したということは確認できなかった。
エ 北海道開発局(平成10年5月19日付回答)
平成7年2月23日(同1の開催日)
平成7年1月19日(同7の開催日)
平成7年1月31日(同10の開催日)
平成7年2月10日(同11の開催日)
平成7年2月14日(同12の開催日)
平成7年3月10日(同17の開催日)
平成7年3月1日(同20の開催日)
平成7年3月27日(同21の開催日)
平成6年7月26日(同26の開催日)
上記9件につき,会食に出席した職員はいない。
第2本件支出に係る各会食についての検討
1 本件各会食についての問題点
本件各会食のすべてにつき,北海道から債主に対し,各使用決定書の確定額記載の金額が支出されていることは証拠上明らかである。問題は,それらの会食が,参加人の主張するとおりの内容のものとして真実存在したのか,また,それらが実体法上及び手続法上適法といえるかにある。そこで,以下では,参加人の主張する分類の順序にしたがって,その点を検討することにするが,本件では,上記の検討をする当たり,次の点に留意する必要があると考える。
すなわち,前提事実において詳細に検討したとおり,北海道における食糧費の支出に関しては,平成7年以来数多くの問題点が指摘され,特に監査請求等を通じて,食糧費支出についての幾多の疑問点が明らかにされた。そして,前認定の経過からすると,監査手続において,また,その後の本件訴訟手続を通じて,第一審被告らは,真撃に調査すれば,容易に明らかになったはずの事実を,はじめのうち,敢えてこれを明らかにしようとしなかった姿勢がうかがわれるところである。このような経緯に鑑みると,北海道においては,それまでかなり広範に,不適切な会食や請求書の書換え等,手続的に違法な事務処理がなされていた蓋然性が高いとみざるを得ないところであり(新聞,雑誌等によっても,その疑惑が強く指摘されてきた。甲59ないし62),そのことが,事実関係開示の姿勢を消極的にさせていたとの疑いを払拭することができない。
その意味で,本件各会食の存否及びその適法性を検討するに当たっては,第一審被告ら及び参加人提出の証拠について,通常一般の場合よりも過小評価せざるを得ない面があることを指摘しておく。
(1) 別表一記載の会食
ア 会食番号3(丙3の1ないし3)
証人Hは,当審において,同会食は平成5年度のダム事業完了検査のために来道した建設省職員との間で,ダム建設についての情報,意見交換のため夕食を兼ねて行ったものであり,出席者は道側が5名,相手方側は名前の特定できたものが2名,後で1名(名前の特定ができない)追加があって,3名となったと供述し,参加人は,関係証拠として丙53,66の1,84を提出した。
しかしながら,本件会食については,建設省の回答との関係で相手方側の人数が1名合わないのみならず,本件監査及び本件文書開示により,その請求書の記載(丙3の3)に書換えのあったことが認められている。なお,同証人は,先に原審で作成した陳述書(乙ロ14の2)において,相当時間が経過していることから記憶が簿れていて相手方個人名や打ち合わせ内容は特定できない,監査委員の調査においても,食糧費に関する決定書を含め存在する資料をすべて提出協力したが,特定できなかったとして,抽象的にその存在,適法性を回答していたにすぎなかったにもかかわらず,その後更に時日を経過した当審において,新たに記憶が喚起されて出席者が特定されたという,その経緯が不自然,不明確であり,そのまま上記供述を採用することはできない。その余の各書証も参加人の主張を証明するに十分とはいえない。
イ 会食番号4ないし6(丙4,5の各1ないし3,丙6の1ないし4)
証人Iは,当審において,会食番号4ないし6につき,別表一の各同番号の執行状況記載の出席者数,執行目的のもと各会食を行った,そして,その出席者については,当初特定できない者がいたが,その後の調査により(丙86を作成した平成12年9月段階で)全員特定することができた,この中には,建設省以外に北海道財務局の職員が含まれていた(会食番号4及び5),また,会食番号6については,出席予定で急遽欠席した者がいたが,キャンセルできなかったために予定人数分の支払をしたものであると供述し,参加人は,関係証拠として丙54,55,56の1ないし3,66の2,86を提出した。
しかし,同証人も,原審において作成した陳述書(乙ロ14の3)では,出席者について記載を要しないとされていたことや時間の経過で記憶が薄れており,出席者や打合せ内容を特定できないとして,抽象的にその存在,適法性を回答していたにすぎなかったにもかかわらず,その後更に時日を経過した当審において,新たに記憶が喚起されて出席者が特定されたという,その経緯が不自然,不明確であって,そのまま上記供述を採用することはできない。その余の各書証も参加人の主張を証明するに十分とはいえない。
ウ 会食番号22(丙22の1ないし3)
証人Jは,当審において,会食番号22につき,別表一の同番号の執行状況記載の出席者数,執行目的のもと会食を行った,その出席者については,当初特定できない者がいたが,その後の調査により全員特定することができた,また,出席予定で急遽欠席したR課長については,キャンセルできなかったために当初の予定人数の支払をしたものであると供述し,参加人は,関係証拠として丙57,66の3,68の1,2を提出した。
しかし,原審においてKが作成した陳述書(乙ロ14の11)では,監査事務局の調査では,食糧費に関する決定書のほか,存在する資料はすべて提出協力しており,書類の隠蔽は行っていない,記録されていないため,出席者氏名等は特定できないとされていたにもかかわらず,当審でこれが明確にされた経緯があいまいであり,しかも,本件会食に関しては,請求書の書換えが行われていることが認められるところ(甲199,乙ロ14の11,丙68の2),その経緯も明らかにされておらず,そのまま上記供述を採用することはできない。
エ 会食番号27(丙27の1ないし3)
証人Lは,当審において,同会食は北海道の沿岸漁場活性化構造改善事業推進にあたっての問題点等について,水産庁の職員と夕食を兼ねて意見交換を行ったものであり,出席者は道側が4名,相手方側は名前の特定できたものが4名,特定ができなかったものが2名であると供述し,参加人は,関係証拠として丙58,66の4,75,76を提出した。
しかしながら,本件会食については,水産庁の回答との関係で相手方側の人数が3名合わないのみならず,同証人は,先に原審で作成した陳述書(乙ロ14の14)において,監査事務局の調査においても,食糧費に関する決定書はもちろん,会議の出席者名簿を徴した会議等については,チェックを受けるなど存在する資料はすべて提出協力しており,非協力,書類の隠蔽等は行っていない,しかし,食糧費に関する決定書については,関係省庁のみの記載で相手方個人名の提出ができなかったとして,抽象的にその存在,適法性を回答していたにすぎなかったにもかかわらず,その後更に時日を経過した当審において,記憶が喚起されて出席者や打合せ内容が特定された経緯が不明確であり,そのまま上記供述を採用することはできない。その余の各書証も参加人の主張を証明するに十分とはいえない。
オ 会食番号32,33(丙32,33の各1ないし3)
証人Lは,当審において,会食番号32及び33は,平成7年度沿岸漁場整備開発事業の事前協議のため来道した水産庁職員と昼食及び夕食を兼ねて意見交換を行ったものである,会食番号32の出席者は6名であるが,2名の名前の特定ができず,会食番号33の出席者は13名であるが,11名の名前の特定ができなかったが,使用決定書どおり執行したことは間違いない旨供述し,参加人は,関係証拠として,丙59,66の5,69,75を提出した。
しかしながら,本件各会食については,水産庁の回答との関係で相手方側の人数が,会食番号32で2名,会食番号33では9名合わないのみならず,同証人の陳述変更の経緯があいまい不明確であって,そのまま上記供述を採用することができないことは前記エのとおりである。
カ 会食番号34
証人Lは,当審において,同会食は,オの意見交換に引き続き,同様の目的で水産庁職員と夕食を兼ねて意見交換を行ったものであり,出席者は相手方側8名であるところ,6名の名前の特定はできなかったが,使用決定書どおり執行したことは間違いない旨供述し,参加人は,関係証拠として,丙59,66の5,69,75を提出した。
しかしながら,本件各会食については,水産庁の回答との関係で相手方側の人数が4名合わないのみならず,同証人の陳述変更の経緯が不明確であって,そのまま上記供述を採用することができないことは前記エのとおりである。
キ 会食番号35(丙35の1ないし3)
証人Lは,当審において,同会食は平成6年度特定魚種漁場整備開発調査委託事業・マダラ調査に係る第3回検討委員会出席のため来道した水産庁の職員らと夕食を兼ねて意見交換を行ったものであり,調査の結果,出席者は道側が5名,相手方側は7名で全員名前の特定ができたものである旨供述し,参加人は,関係証拠として丙60,66の6,75を提出した。
原審におけるMの作成した陳述書(乙ロ14の16)では,監査事務局の調査においても,食糧費に関する決定書はもちろん,会議の出席者名簿を徴した会議等については,チェックを受けるなど存在する資料はすべて提出協力しており,非協力,書類の隠蔽等は行っていない,しかし,食糧費に関する決定書については,関係省庁のみの記載で相手方個人名の提出ができなかったとして,抽象的にその存在,適法性を回答していたにすぎなかったにもかかわらず,その後更に時日を経過した当審において,L証人の記憶が喚起され,出席者や打合せ内容が特定されたという経緯が不自然,不明確であり,そのまま上記供述を採用することはできない。
その余の各書証も参加人の主張を証明するに十分とはいえない。
ク 会食番号36(丙36の1ないし3)
証人Lは,当審において,同会食は海と渚のシンポジウム「森と魚の環境美化」に出席のため来道した水産庁の職員らと夕食を兼ねて意見交換を行ったものであり,調査の結果,出席者は道側が4名,相手方側は5名で全員名前の特定ができたものである旨供述し,参加人は,関係証拠として丙61,66の7,75を提出した。
原審において同証人の作成した陳述書(乙ロ14の14)では,抽象的にその存在,適法性を回答していたにすぎなかったにもかかわらず,当審でこれを明確にするに至った理由があいまい,不明確であって,そのまま上記供述を採用することができないことは前記エのとおりである。
ケ 会食番号38(丙38の1ないし3)
証人Nは,当審において,同会食は農林水産省において農業農村整備事業に係る財政措置等の在り方が検討されていたことから,同省構造改善局の職員と夕食を兼ねた意見交換を行ったものであり,調査の結果,出席者は道側が3名,相手方側は6名である,名前の特定は,道側の1名以外は特定できながったが,開催日時の点を除き使用決定書どおり執行したことは間違いない,開催日時については,使用決定書等では,平成6年10月26日となっているが,実際の開催は同年8月18日であり,これは相手方側の都合から急遽開催することが決まり,事後処理されたため,そのような取扱いとなったものである旨供述し,参加人は,関係証拠として,丙66の8,70を提出した。
しかし,原審でNが作成提出した陳述書(乙ロ14の17)には,開催日時の点を含めて使用決定書のとおりに会食が実施された旨の記載があるところ,これが変更されるに至った理由が不明確である。また,債主作成名義の請求書(丙38の3)の飲食日の日付が平成6年10月26日とされていることも不自然であり,そのまま上記供述を採用することはできない。その余の各書証も参加人の主張を証明するに十分とはいえない。
コ 会食番号39(丙39の1ないし3)
証人Nは,当審において,同会食は北海道農政部事業調整課の主査が上京した折,農林水産省の職員と夕食を兼ねた意見交換を行ったものであり,調査の結果,出席者は道側が2名,相手方側は5名であるところ,名前については,道側の2名以外は特定できなかったが,開催日時の点を除き使用決定書どおり執行したことは間違いない,開催日時については,使用決定書等では,平成6年10月26日となっているが,実際の開催は同年10月6日であり,これも相手方側の都合から急遽開催することが決まり,事後処理されたため,そのような取扱いとなったものである旨供述し,参加人は,関係証拠として,丙62,66の8,71を提出した。
しかし,原審でNが作成提出した陳述書(乙ロ14の17)には,開催日時の点を含めて使用決定書のとおりに会食が実施された旨の記載があるところ(なお,丙39の1では,相手方側は北海道開発庁とされており,供述に合致しない),これが変更されるに至った理由が不明確である。また,債主作成名義の請求書(丙39の3)の飲食日の日付が平成6年10月26日とされていることも不自然であり,そのまま上記供述を採用することはできない。その余の各書証も参加人の主張を証明するに十分とはいえない。
サ 会食番号42(丙42の1ないし3)
O作成提出の陳述書(丙66の9)中には,同会食は次年度予算についての大蔵省内示があり,復活折衝が行われる状況下で,北海道関連の復活のための情報を把握するために,農林水産省構造改善局の職員と昼食を兼ねた意見交換を行ったものであり,道側の出席者は3名,相手方側は5名であるところ,名前は道側の3名以外は特定できなかったが,開催日時の点を除き使用決定書どおり執行したことは間違いない,開催日時については,使用決定書等では,平成7年1月18日となっているが,実際の開催は平成6年12月21日であり,これも相手方側の都合から急遽開催することが決まり,事後処理されたため,そのような取扱いとなったものである旨の陳述部分があり,参加人は,関係証拠として,丙66の9のほか,63,64,72の1,2を提出した。
しかし,原審でNが作成提出した陳述書(乙ロ14の17)には,開催日時の点を含めて使用決定書のとおりに会食が実施された旨の記載があるところ,これが変更されるに至った理由が不明確である。また,債主作成名義の請求書(丙42の3)の飲食日の日付が平成7年1月18日とされていることも不自然であり,そのまま上記供述を採用することはできない。その余の各書証も参加人の主張を証明するに十分とはいえない。
シ 会食番号45(丙45の1ないし3)
P作成提出の陳述書(丙66の10)中には,同会食は北海道農政部土地改良指導課が所管事業に関し,担当官の意見や感想,感触を聞くため,農林水産省構造改善局の職員と昼食を兼ねた意見交換を行ったものであり,道側の出席者は9名,相手方側は15名であるところ,名前の特定は道側の9名以外は特定できなかったが,使用決定書どおり執行したことは間違いない旨の陳述部分があり,参加人は,関係証拠として,丙66の10のほか,65を提出した。
しかし,本件会食について,相手方側の名前の特定がまったくできていないことは不可解であるのみならず,農林水産省の回答と矛盾することの説明ができておらず,そのまま上記供述(Nが作成提出した陳述書を含む)を採用することはできない。
(2) 別表二記載の会食(丙1,8,14,18,29ないし31,37,47の各1ないし3)
ア 丙67の1ないし4,Q証書,N証言によれば,会食番号1,8,14,18,29ないし31は,実際には,職員が超過勤務を行った際の夜食・補食代金を,事後にまとめて使用決定書記載の相手方側と会食を行ったことにして,まとめ支払いをしたものであるとのことである。参加人は,これらが手続上不適切であることは認めつつも,それが正当な夜食,補食等の経費に当てられている以上,違法とするほどのものではなく,北海道に損害も発生していない旨主張する。
しかしながら,これらの支出についての具体的な支給時期,支給対象人員については,抽象的,一般的な陳述,供述以外に,これを認めるに足りる証拠はない。したがって,食糧費取扱要綱等に定められたその支給要件である「緊急やむを得ない事務のため,特に夜間勤務を必要とする場合」であること,「必要最小限度」であること,「1人1回1000円以内」であること等についての要件を満たすことの証明は不十分であるといわざるを得ない。なお,原審において,第一審被告らから提出された陳述書(乙ロ14の1,4,5,8,13,15)では,すべて使用決定書記載のとおりの会食に伴う支出がなされたことになっている。
イ 丙67の5,N証言によれば,会食番号37,47は,実際は,国の関係者との懇談や意見交換を兼ねた昼食会を北海道東京事務所の会議室で開催し,そのための弁当の代金を数回分まとめて別な会食の形で支払ったものであるとのことである。参加人は,これらについても補助事業の施行上必要であったと主張する。
しかし,これらについても,具体的な支給時期,支給対象人員については,抽象的な陳述,供述以外に,これを認めるに足りる証拠はない。したがって,食糧費取扱要綱等に定められた「通常の事務の執行上必要な会議の接待用茶菓,弁当に要する経費」であること,「社会慣習上やむを得ない場合」であること,「1人1回1500円以内」であること等についての要件を満たすことの証明は不十分であるといわざるを得ない。なお,原審において,第一審被告らから提出された陳述書(乙ロ14の17)では,使用決定書記載のとおりの会食に伴う支出がなされたことになっている。
(3) 別表一,同二記載以外の会食(丙2,7,9ないし13,15の各1ないし3,16の1ないし8,17,19,20の各1ないし3,21の1ないし5,23ないし26,28,40,41,43,44,46,48及び49の各1ないし3)
ア 参加人は,会食番号2,7,9ないし13,15ないし17,19ないし21,23ないし26,28,40,41,43,44,46,48及び49については,それらの執行から相当の日時が経過しているため,職員の記憶も定かでなく,各会食の裏付けとなる資料を探し出して,各使用決定書の記載以上の事実関係を明らかにすることができなかったが,いずれもその記載どおりに適法な支出がなされたものであり,これらが架空であったとすることはできない旨主張するところ,各使用決定書上は,別紙平成6年度公共事業事務費食糧費(平成6年10月21日以降支出分)執行状況一覧のとおりに会食が行われた旨の記載があることが明らかである。
イ しかし,これらの会食について,以下のとおりの事実が認められる。
(ア) 会食番号2の会食については,使用決定書上は農林水産省からは3名の出席となっているにもかかわらず,同省からの回答によると,実際には2名の出席しかなく,しかも出席者の特定ができていない。また,債主作成名義の請求書(丙2の3)は丙1の3と同一筆跡であり,北海道職員により書き換えられていることが認められる。
(イ) 会食番号7の会食については,使用決定書上出席したとされる北海道開発局からの出席の事実は認められず,また,債主からの回答(甲189)によると,会食をした事実自体も認められない。
(ウ) 会食番号20の会食については,使用決定書上出席したとされる北海道開発局ほかからの出席の事実は認められず,債主からの回答(甲197)によると,会食をした事実自体も認められない。
(エ) 会食番号26の会食については,使用決定書上出席したとされる水産庁については1名の出席があるが,北海道開発局からの出席の事実は認められない上に,債主が所持する請求書(甲217)と使用決定書に添付された請求書(丙26の3)は,その金額,出席人数などの内容が異なり,不可解である(北海道職員により書き換えられた可能性を否定できない)。
(オ) 会食番号40の会食については,使用決定書上農林水産省からは9名の出席となっているにもかかわらず,実際には1名の出席しかなく,また,債主からの回答(甲208)によると,会食した事実自体も認められない。
(カ) 会食番号9ないし13,15ないし17,19,21,23ないし25,28,41,43,44,46,48及び49については,各関係省庁からの回答に照らし,参加人主張の相手方側出席者について,いずれもその出席の事実が認められない。なお,前記のとおり会食番号9,13,24,25,41,43,44,46及び49については,各請求書の書換えがなされている。
2 本件各会食の適法性についての判断
(1) 本件各会食の前提事実に関する証拠評価は上記のとおりであり,これを前提に,各会食の適法性を検討することになるが,その場合,人数を含めて相手方側出席者の特定がなされていることは,それにより会食を設定するか否か,会食の規模や内容等を判断するに当たっての重要な要素となることから必須の要件というべく,その意味で出席者の人数が一致しない場合,相手方側出席者の特定がされなかった場合等は,適法な会食とは認められないというべきである。その他,財務規則,食糧費取扱要綱等に定める実体的,手続的要件が満たされていない場合も,違法と評価されることがありうるのは当然である。
(2) このような観点から,以下,本件各会食の存否,適法性につき判断する。
ア 会食番号3
前記認定からは,相手方側出席者の特定ができないから,そもそも使用決定書どおりの内容の会食の存在について疑問があるのみならず,仮にその存在が認められるとしても,請求書の書換えがなされたという点で,重大な支出手続違反があり(およそ,支払者において,請求書の実質的内容を記載することは許されるものではない),適法な会食とは認められない。
イ 会食番号4ないし6
前記認定からすると,これら各会食の相手方側出席者は,なお未特定といわざるを得ず,適法な会食とは認められない。
ウ 会食番号22
前記認定からすると,同会食については,一部の出席者の特定がなされておらず,また,請求書の書換えがなされたという点で,重大な支出手続違反があり,適法な会食とは認められない。
エ 会食番号27,32ないし36
前記認定からすると,これらの各会食は,各省庁の回答との関係で人数が合わないか,あるいは一部の出席者の特定がなされておらず,適法な会食とは認められない。
オ 会食番号38,39,42,45
前記認定からすると,これらの各会食は,各省庁の回答との関係で人数が合わず,あるいは一部の出席者の特定がなされておらず,適法な会食とは認められない。また,会食番号38,39,42については,請求書の書換えがなされたという点で,重大な支出手続違反が認められる。
(以上,別表一記載の会食)
カ 会食番号1,8,14,18,29ないし31,37,47前記の説示からして,いずれも食糧費取扱要綱等に定められた要件を満たしているといえないから,適法な会食とは認められない。
(以上,別表二記載の会食)
キ 会食番号2,7,9ないし13,15ないし17,19ないし21,23ないし26,28,40,41,43,44,46,48及び49前記の認定説示からして,いずれも相手側の出席が全く認められないか,一部認められるとしてもその特定ができない会食であって,適法な会食とは認められない。
(以上,別表一,二記載以外の会食)
(3) 以上の検討によれば,本件各会食は,そのすべてにつき,使用決定書どおりの内容の会食の存在について疑問があるか,出席者の特定ができておらず,あるいは支出手続(財務規則)違反として,適法な会食とは認められないということになる。
第3第一審被告部所長らの責任
そこで,本件支出に関する第一審被告部所長らの責任につき検討する。
1 食糧費支出の判断に当たっての担当者の注意義務
(1) 第一審原告らは,そもそも食糧費を会食経費として支出することを許容する規定はないから,このような支出は,すべて補助金適正化法11条にいう用途外使用に該当する旨主張するところ,各省庁通達による食糧費の使途範囲が,直接には「会議用茶菓子賄料」「弁当代」等と定めていることは第1の2(2)のとおりである。
(2) しかし,上記通達にいう「会議用茶菓子賄料」等の意味がその語彙どおりに限定される趣旨であるかは必ずしも明確でなく,第1の4,5,7の経緯に照らせば,少なくとも本件支出当時においては,これにいわゆる「会食」をも含む趣旨に拡張解釈する余地があったというべく,その意味で,食糧費としての他の要件,すなわち,行政事務執行上の必要から,関係機関の職員と会合を持ち,その会合の延長として,広い意味での情報収集,意見交換を兼ねて会食を持つこと(儀礼としての接待の趣旨を含む場合もありうる)も,それが社会通念上相当と認められる範囲内であるならば,違法ということはできないというべきである。したがって,第一審原告らの前記主張は採用できない。
しかしながら,この意味における食糧費の支出判断が安易に流れやすい危険性をはらむものであることも見やすい道理であって(その点は,食糧費取扱要綱等における予算執行上の留意事項でも指摘されているところである),ひとたびこれが拡張解釈されるや,次々にその範囲を広げることになり,ひいては,納税者たる住民に多大な負担をかける結果となることに鑑み,その支出の運用は,常に慎重かつ厳格に,必要最小限度にとどめるように行われなければならないものと考えられる。
(3) 前記のとおり,北海道においても,昭和52年から食糧費取扱要綱等に基づいて食糧費の支出が認められており,同要綱等の内容も,本件支出の当時としては,食糧費の中に会食をも含むものと解して運用されてきていたのであるから,その要件を満たす食糧費の支出である限りは,違法性を認めることはできないというべきである。
しかし,上記(2)の観点からして,その要件該当性の判断に当たり,支出負担行為の担当者は,それが食糧費取扱要綱等は勿論,補助金適正化法,財務規則に則ったものであることにつき,従前の例に流されることなく,常に慎重かつ厳格な審査態度をもって臨むべきであり,これら諸規定の趣旨に反する支出となっていないかにつき最大限の注意を払う必要があると解される。
2 第一審被告部所長らの注意義務違反の有無
上記のとおり,本件支出の各支出負担行為を決定するに際して,第一審被告部所長らは,それが食糧費取扱要綱等,補助金適正化法,財務規則に則ったものであることにつき,慎重かつ厳格な審査態度をもって臨むべき注意義務があった。ところで,本件支出当時の北海道においては,前示のとおり,かなり広範に不適切な会食や請求書の書換え等,手続的に違法な事務処理がなされていた蓋然性が高いとみられるのであり,そのことは,立場上,第一審被告部所長らにおいても,認識していた可能性がないとはいえないのみならず,仮に認識していなかったとしても,そのことは容易に認識し得たものと推察されるところである。したがって,本件支出に関する支出負担行為を決定するに際しても,そのような危険性がないかにつき,慎重かつ厳格な審査態度をもって臨むべきであったといえるところ,本件において第一審被告部所長らについて,その義務を果たしたと認めるべき証拠はない。もっとも,この点に関し,第一審被告部所長らは,事前の書面審査の段階で,違法な執行がなされることを知ることはできない旨主張するのであるが,通常の場合はそのように言えるとしても,前記のような当時の北海道の状況からすれば,慎重かつ厳格な審査態度を取ることにより,事前にチェックすることは不可能とはいえなかった(むしろ,そのような審査態度が期待されていた)とみるべきであるから,上記主張は採用することができない。
したがって,第一審被告C,同D,同E,同F及び同Gは,本件支出の支出負担行為の専決ないし委任による担当者として,本件支出によって北海道に生じた当該部・事務所の被った不当支出額相当の損害を賠償すべき責任がある。
第4第一審被告A,同Bの責任
1 専決ないし委任された補助職員である第一審被告部所長ら,もしくはその部下らが知事の権限に属する当該財務会計上の行為を処理した場合において,知事は,同補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,普通地方公共団体に対し,同補助職員がした財務会計上の違法行為により普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うことになるものと解される。
そして,これを本件に即してみると,本件支出に係る食糧費の支出負担行為ないしその支出命令が,食糧費取扱要綱等,補助金適正化法,財務規則に違反することを知事が認知した場合には,自らそれらを阻止すべき指揮監督上の義務が発生するのは当然であり,また,具体的に認知しないまでも,そのような違法な会食が行われる蓋然性があるのに,その状態を漫然放置していた場合にも,指揮監督上の義務違反があったとの誹りを免れないというべきである。
そこで,このような観点から,第一審被告A,同Bの責任について検討する。
2 本件支出のすべての支出負担行為は,第一審被告Aが北海道知事在任中になされていることが明らかであるが,知事の地位・職責に鑑み,第一審被告Aにおいて,本件支出に係る個々の会食が違法な会食であることを自ら認知していたと認めることはできない。
もっとも,前示のとおり,北海道では永らく食糧費の不正支出が問題とされてきていたのであり,また,食糧費の支出は,執行者の自制がなければ安易に流れやすいものであることから,第一審被告Aとしては,常に違法な食糧費の支出を阻止し,これが適正に執行されるための的確な措置を講じておくべき義務があったということができる。
しかし,この点に関し,北海道では,古くから食糧費取扱要綱等を定め,食糧費の執行の規制及び適正化に努力してきており,また,その改正の都度,知事の委任を受けた総務部長らが,支出負担行為担当者である各部長等に対して,食糧費の執行について,厳しく節度を守り,厳正な執行をするよう特に留意することを内容とする通達を発してきたことが認められるのであって,その時々において,知事として違法な食糧費の執行を阻止するための相当な措置を講じてきたものと一応評価しうるところである。ただし,それにもかかわらず,本件のような由々しき事態が生じたことに関しては,やはり講ずべき措置,対応策に,なお,問題があったとの批判は免れないところといえるが,その点は,未だ法的注意義務違反の問題とは認めがたい。
なお,現在では各省庁職員との飲食を伴う懇談が原則禁止とされていることは前記のとおりである。しかし,本件支出当時において,会食等の全面禁止のような厳格な措置を講ずることを知事に求めることは,飲食を伴う懇談を容認していた当時の国の対応や会計検査院の検査結果からして,難きを強いるものといわざるをえないと考えられ,会食等の全面禁止措置を講じなかったことを指揮監督上の義務違反ということはできない。
したがって,第一審被告Aに指揮監督上の義務違反は認められない。
3 会食番号20,21の各会食については,第一審被告Bが北海道知事に就任した平成7年4月23日以降に支出命令のなされたことが認められる(丙20,21の各3)。
しかし,上記各会食の支出負担行為は,第一審被告Bが北海道庁を退職した平成6年11月の後になされていること,これらの支出命令は知事就任後1か月後であることを考えると,第一審被告Bにおいて,同各会食が食糧費取扱要綱等に反することを認識できたとは考えられず,第一審被告Bの北海道庁における過去の経歴を勘案しても,上記各会食に係る支出命令を阻止することができたと認めることはできない。
したがって,第一審被告Bの責任を認めることはできない。
第5結論
よって,原判決は,結論において相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前島勝三 裁判官 竹内純一 裁判官 石井浩)