札幌高等裁判所 昭和26年(う)172号 判決
裁判長又は裁判官の被告人に対する質問は裁判長又は裁判官の機能に属するものであつて事案の真相を明かにするため必要とあれば検事の提出した証拠の取調中途又はその終了後においてもこれを為し得ること勿論なるも必ずこれをなすを要するものではない。従つて当該事件の証拠書類、証拠物及び証人の取調等により裁判所が事案の真相につき心証を得た場合において特に個々の公訴事実につき被告人に対し質問をなさなかつたからといつて該公訴事実につき審理がなされなかつたとは謂われない。これを本件について考えて見ると原審第二回公判調書の記載によれば原審裁判官は本件起訴状記載の公訴事実第一、第二、及び第四の各事実を読聞かせこの事実はどうかとの問を発したが公訴事実第三の事実についてはその読聞かせがなされなかつたことは所論のとおりである。しかし原審第一、二回各公判調書の記載に徴すれば原審は検事の本件公訴事実の全部を記載した起訴状朗読の後被告人に対し本件被告事件についての陳述の機会を与え、次に検察官は右公訴事実全部につき冒頭陳述をなすと共にその全部につき一応の証拠申請をなし、原審は訴訟関係人の同意を得て右証拠の全部を採用しその取調を了したこと及び本件全部の立証の為に提出された証拠物につき原審が被告人に対し質問をなしたこと並びに公訴事実全部に亙る自供である副検事作成の被告人の第二回供述調書の取調がなされている事実が明白であるのみならず原審の取調べた証拠書類、証拠物によつて本件公訴事実第三に対する事実の認定を為し得るに足りるのであるから原審が特に本件公訴事実第三につき其の読聞かせをなさなかつたからといつて該事実につき審理がなされなかつたとは謂われない。論旨は理由がない。