札幌高等裁判所 昭和26年(う)377号・昭26年(う)378号・昭26年(う)379号 判決
原判決の挙示した各証拠によれば、原判示第一、第二の各事実をそれぞれ認むるに足り、原判決には所論のような事実誤認の違法はない、のみならず、右原判示第一、第二の各事実が単一罪でなく併合罪であるとする所論は、被告人に不利益な事実認定を主張するもので適法な控訴の理由とならない。論旨は理由がない。
(中略)
右控訴趣意第二について
本件記録に徴すれば成程所論の如く原審は第二回公判期日において証人松田源松、同三浦俊雄を証人として尋問することを決定し同証人等は第五回公判期日に出頭したが両名に対する尋問がなされず、その後右両人を尋問した形跡がなく、又該証拠決定の取消が行われたこともないまま審理を終結したことが認められるので、この点につき原審の訴訟手続に違背のあることは明らかである。しかしながら原審検察官は第一回公判期日において右両名の検察官の面前における参考人供述調書の証拠調を請求し、弁護人は第五回公判期日において該調書を証拠とすることに同意し、第七回公判期日において右両名を証人として尋問する代りに右書面の証拠調が行われ、その中松田源松の検察官の面前における参考人供述調書のみが原判決において原判示第二の事実の証拠として挙示されていることが認められるので、右の訴訟手続の違背は判決に影響を及ぼさないものというべきである。論旨は理由がない。
(弁護人の控訴趣意)
第一、原審判決には事実の誤認がある。
一、原審判決認定の事実第一は被告人村尾は昭和二十三年十一月頃上斜理村江鳶農業実行組合員であつた高梨正平が馬鈴薯百四十七俵、新輪好吉が同二百俵、安藤新助が同二百俵、鏡正太郎が同二百俵、太田繁が同二十七俵、太田茂が五十俵、園木福市が同百五十俵、山本春市が同百五十俵、日下義雄が同百五十俵以上合計千二百七十四俵をいずれも同人等が生産した馬鈴薯を以て超過供出した事実がないのに拘らず、右のように超過供出したように被告人村尾の経営する澱粉工場の帳場某をして澱粉原料馬鈴薯検査証明書に虚偽の記載を為さしめた上、これを北海道食糧事務所上斜理村出張所食料検査官井上良造に提示して同人を欺き同人をして右高梨正平等九名が同人等各自生産の各右数量の澱粉原料馬鈴薯を超過供出したものと誤信させ更に情を知らざる上斜理村農業協同組合係員をして主要食糧買入代金支払証票明細書に右超過代金支払に関する記載をなさしめ前記食糧検査官井上良造をして右超過供出に関する主要食糧買入代金支払証票を発行させその頃これを政府の主要食糧買入代金支払機関である上斜理村農業協同組合に提示して同組合から右馬鈴薯千二百七十四俵の超過供出代金に相当する金八十二万八千四百十八円五十銭の支払を受け以て政府から同金額を騙取したものであるというのであるが、
イ、第三回公判調書(昭和二十五年十月二日)中証人島田定次の証言として、同証人は当時上斜理江鳶第三農事実行組合組合長であつたが、昭和二十三年十一月初旬頃右組合では馬鈴薯の供出割当が完納されず困つていたので被告人村尾に五百俵位を供出してくれと依頼したところ同被告人はこれを承諾しその一週間位後に太田茂治、山本春市、日下、園木名義で供出したが更に十一月十日頃同被告人は帳場をして二、三百俵供出する旨申出てきた、その後も同様の申入があり結局同被告人が供出したのは第一回目日下名義で五十俵、山本名義が五十俵、園木名義で五十俵、太田茂名義で五十俵太田繁治名義で二十七俵であつて第二回目鏡名義で百俵、安藤利助名義で百俵、新輪名義で百俵、高梨名義で四十七俵でありその後十一月十日か十二月頃に新輪名義で百俵、安藤名義で百俵、山本名義で百俵、日下名義で百俵、鏡名義で百俵、合計五百俵を供出し更にその後同月十二、三日頃高梨と園木の名義で各百俵を供出した報告があつた旨の記載
ロ、第八回公判調書中被告人村尾の供述として、島田組合長が供出してくれと頼みにきたのは二回か三回であつた完納後も割当以上供出を奨励しているのだから出来るだけ出してくれといわれた旨の記載
ハ、第三回公判調書(昭和二十五年十月四日)中証人佐藤武雄の証言として同証人は上斜里農業協同組合販売主任であるが昭和二十三年馬鈴薯代金の支払について江鳶第三実行組合所属の者七、八名に対する代金を名義人に支払わず直接被告人村尾に支払つたことがあるが、支払は現金で渡したこともあり又一部を村尾と協同組合の取引関係の差引にあてたこともある、証第五号は現金で渡した分だけの領収証である旨の記載
ニ、証第五号各別箇の四通の領収証書の存在する事実、
ホ、証第五四号同第五六号多数の検査証明書の存在する事実、
ヘ、証第五五号多数の支収証票明細書の存在する事実、
ト、第四回公判調書中証人丹川由太郎の証言として同証人は農林省北海道食糧事務所北見支所長であるが主食集荷業者が政府の買受ける主食集荷の方法は主食生産者が直接持つて来て検査官の検査を受け検査官は検査証明書と検査入庫書を出し、右検査証明書は指定集荷業者に入庫書は倉庫保管者に渡り、集荷業者は右証明書によつて買入代金支払証票明細書を作成して食糧事務所に提出し食糧事務所ではこれを原票と照合して集荷業者に支払証票に交付し業者はこれを金融機関に提示して代金を受取ることになつているが澱粉原料食鈴薯は検査官の不足から右検査官の事務を集荷業者にやらせていた旨の記載
によつて本件詐欺は判示の如く単一の犯罪ではなく四回に馬鈴薯を供出し、その都度判示各書類を作成し各別に各供出に相応する代金を受領したことが明らかであつて判示の如く一個の行為であることを証明する証拠は何一つないのである。
二、原判決認定の事実第二は被告人村尾、松田の両名は共謀して被告人松田の馬鈴薯超過供出として同年十月十日頃千四百五十三俵、同月十五日頃六百俵、同月二十日頃千五百俵、同月二十六日頃二百俵、同月二十八日頃八百俵以上合計四千五百五十三俵即ち現実に超過供出をなした数量を超えること千百六十五俵である数量の澱粉原料馬鈴薯を供出したように虚偽の記載をした澱粉原料馬鈴薯検査証明書、主要食糧買入代金支払証明細書を作成しこれを食糧検査官に提示した同人を欺罔し、同人をして左の如く超過供出があつたものと誤信させて右数量に対する主要食糧買入代金支払証票を発行させその頃これを政府の主要食糧買入代金支払機関である北海道拓殖銀行斜里支店に提出して同支店から右四千五百五十三俵の超過供出代金として金三百二十七万九千二百七円十九銭の支払を受け以て政府から右金額のうち前記現実に超過供出しなかつた馬鈴薯千百三十五俵の超過供出金に相当する金八拾参万九千六拾七円九十五銭を騙取したものであるというのであるが
イ、証第三六号薯受入伝票に馬鈴薯の受入は日次毎に各別に記載されている事実
ロ、証第三七号原料薯証票控に本件馬鈴薯の代金支払明細書、支払証票が数回に各別に発行された如く記載してある事実
ハ、第三回公判調書(昭和二十五年十月四日)中証人志茂良吉の証言として同証人は被告人村尾方の帳場であるが、被告人松田の供出した分に対する支払明細書、支払証票は同人が作成したが証第三十七号原料薯証票控は支払明細書、支払証票の控でありこれに証票番号三号昭和二十四年十月十日、同六号同月十五日、同十号同月三十日、同十三号同月二十六日、同十五号同月二十八日の記載中に被告人松田の関係分が記載されて居りこれは受入の検査伝票に基いて記載したものである旨の記載
ニ、松田源松の検査官に対する供述を録収した供述調書中同人は北海道拓殖銀行斜里支店預金係であるが被告人村尾に昭和二十四年十月十日付証票番号三号百三十六万余円、同年十月十七日支払、同月十五日付証票号六号百七万余円、同月十九日支払、同月二十日付証票番号十号四百十二万余円、同月二十六日支払、同月二十六日証票番号十三号三百九十四万余円、同月三十一日支払、同月二十八日付証票番号十五号四百六十八万余円、同月三十一日支払、同月二十九日付証票番号十七号二百九十八万余円、同年十一月十日支払、同月十日付証票番号十八号百三十三万余円、同月十五日支払、(該調書には昭和二十五年と記載されているがその前に昨年度の支払分を説明する旨の記載があるから昭和二十四年の誤記であることが明らかである)を主要食糧買入代金支払証票により支払つた旨の記載(右ハとニの証票番号日付の一致する点に特に御留意願いたい)、
ホ、前記一の下に記載した証拠、
によつて前回同様本件詐欺も前示の如く単一の犯罪ではなく数回に判示書類を作成し各別に各供出に相応する代金を受領したことが明らかである、判示の如く一個の行為であることを証明する証拠は何一つもないのである。
三、(省略)
第二、原判決は次の如く訴訟手続に法令の違反があつてその違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである。即ち原審第二回公判廷に於て他の証人と共に証人松田源松、同三浦俊雄が採用され同証人等は第三回公判期日(昭年二十五年十月四日)の公判廷に出頭したのであるが同日これが尋問をなさずその後に於てこれが召喚及び尋問の手続をなさず証拠決定の取消又は却下をなさず結審しているのである。勿論右証人等に対して申請人たる検察官より抛棄した事実はなく反対訊問権を有する被告人、弁護人が抛棄した事実もないのである。証人の尋問を求める権利は憲法の保障するところであつて裁判所は一旦採用したからにはこれを尋問すべき義務があるのに拘らず前記の措置をもなさずこれが尋問をなさないのは失当であつてしかも右証人によつて立証さるべき事項は本件が単一の犯罪か多数の犯罪の併合罪となるかの資料たる馬鈴薯代金の支払に関聯するところである。