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札幌高等裁判所 昭和26年(う)532号 判決 1951年12月10日

控訴人 被告人 藤沢邦夫

弁護人 渡辺七郎

検察官 佐藤哲雄関与

主文

原判決中被告人に対する有罪部分を破棄する。

被告人を罰金参万円に処する。

右罰金を完納することが出来ないときは金五百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中原審に於て証人箱崎金良に支給した部分は被告人と原審相被告人山田孝一、同秋山隆、同野口富美子の各負担、同証人赤沢芳夫に支給した部分は被告人と原審相被告人薄恭平、同山田孝一、同中川隆正、同秋山隆、同倉田収作、同林ヨシの各負担とする。

本件公訴事実中被告人が自宅で原審相被告人薄恭平から(一)昭和二十三年四月頃木下幸作を通じ塩酸モルヒネ末五瓦入一瓶を所持し(二)同二十四年三月頃被告人の妻を介し塩酸モルヒネ末四瓦を譲受け(三)同二十四年四月頃被告人の妻を介し塩酸モルヒネ末一瓦を譲受けたとの点については被告人を免訴する。

理由

弁護人渡辺七郎の控訴趣意は別紙記載の通りである。

控訴趣意(一)について

本件起訴状原判決書被告人の当公廷に於ける供述及び札幌地方裁判所岩見沢支部の昭和二十四年(特)第十六号被告人に対する麻薬取締規則及び麻薬取締法違反被告事件の第一審判決書の記載によると被告人は「法定の除外事由なく又麻薬取扱者でないのに第一、昭和二十三年四月四日岩見沢刑務支所に於て塩酸モルヒネ五瓦瓶に約三瓦及び其の五十倍溶液一瓶約一〇ccを所持し第二、自宅に於て麻薬約三、五%含有する塩酸モルヒネ五十倍溶液約六・七cc及麻薬約三・四%含有の瓶入液体約〇・五瓦を所持し第三、同二十四年三月十九日右第二記載の場所に於て塩酸コカイン瓶入三・〇瓦及塩酸モルヒネ瓶入三・〇瓦、塩酸モルヒネ瓶入二・八ccを所持し第四、同年四月一日前同所に於て麻薬約一%を含有する塩酸モルヒネアンプル約〇・〇五四瓦入三本を所持していた」といふ四個の麻薬不法所持罪により昭和二十四年七月十六日同支部に於て懲役八月に処する旨の有罪判決を受け控訴、上告したがいづれも棄却せられて判決が確定したこと竝びに(1) 右確定判決に於て所持を有罪と認定した第一、第二、事実の塩酸モルヒネはいづれも本件公訴事実中原審がその所持を有罪とした判示第一の塩酸モルヒネ末であり又同様(2) 確定判決で所持を有罪と認定した第三、事実の塩酸モルヒネは本件公訴事実中譲受行為を有罪とした判示第四の塩酸モルヒネ末(3) 確定判決で所持を有罪と認定した第四、事実の塩酸モルヒネは本件公訴事実中譲受行為を有罪とした判示第五の塩酸モルヒネ末であることが認められる。然し原審が有罪と認定したその余の本件麻薬はこれを譲受けた日時は確定判決の第一審判決言渡前であるけれども右確定判決に於て所持につき有罪の認定を受けたものと同一物であること及び確定判決を経た塩酸モルヒネ等の所持と同一所持内に在つたことは共にこれを肯認するに足りる証拠はない。

然るところ自己の麻薬中毒症状緩和の為使用する目的で麻薬を譲受ける行為とその譲受けた麻薬の所持とは通常手段結果の関係に在る牽連犯で法律上一罪と解すべきものであるから所持につき有罪の確定判決があればその効力は当然譲受行為にも及び従つて譲受行為は確定判決を経たことになる訳である。

これを本件について見れば被告人は自己の中毒症状緩和の為使用する目的で本件麻薬を譲受けたことは一件記録竝びに当審公判廷に於ける被告人の供述に徴し明白であるし前に説明したとおり原審が有罪の認定をした判示第一の不法所持及び判示第四、第五の譲受行為はいづれもその所持につき既に有罪の確定判決を経ているのであるから刑事訴訟法第三百三十七条第一号によりこの部分については免訴の言渡をなすべきであるに拘らず原審はこれを有罪と認定処断しているので原判決には判決に影響を及ぼすことが明かな事実誤認か或は法令の解釈、適用に誤がある。従つて論旨はこの部分については理由があるけれども爾余の部分については採用出来ない。

尚原判決は有罪と認定した事実中確定判決を経たもの以外の部分を叙上確定判決を経たものと併合罪として一個の刑で処断しているので原判決の有罪部分は結局全部破棄を免れない。

よつて量刑不当の論旨についての判断を省略し刑事訴訟第三百九十七条により原判決の有罪部分を破棄し同法第四百条但し書により更に判決する。

原判決が認定した判示第一の(二)、(三)、(六)、(七)、(八)の各所為は麻薬取締法第五十七条第一項、第三条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するところ各罪につき所定刑中罰金刑を選択し以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十八条第二項により各罪の罰金の合算額以下に於て被告人を罰金参万円に処し右罰金を完納することが出来ないときは刑法第十八条により金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく訴訟費用の負担について刑事訴訟法第百八十一条第一項により主文第四項のとおり定めた。

尚本件公訴事実中主文末項記載の部分については控訴趣意(一)の判断に於て説明した通り確定判決を経たものであるから刑事訴訟法第四百四条、第三百三十七条第一号により被告人に対し免訴の言渡をなすべきものである。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 藤田和夫 判事 西田賢次郎 判事 長友文士)

弁護人渡辺七郎の控訴趣意

一、本件起訴は既に処罰された所為につき更に公訴を提起したものであるから棄却さるべきに拘らず、原審は之をなさず有罪の判決をなした違法がある。原審判決認定の事実は被告人は法定の除外事由なくして昭和二十三年四月頃から昭和二十四年六月初頃迄の間八回に自宅其の他に於て薄恭平その他の者から塩酸モルヒネ、塩酸コデインを買受けたものであるというのであるが、被告人は本件起訴を受ける前に麻薬の不法所持につき起訴せられ昭和二十四年七月十六日札幌地方裁判所岩見沢支部に於て懲役八月の言渡を受け控訴上告をなしたが昭和二十五年一月二十日頃確定したものである(第十回公判調書被告人の供述記載)。右岩見沢支部の言渡した判決によつて確定した事実は被告人は法定の除外事由がないのに昭和二十三年四月八日岩見沢刑務支所に於て、及び同日頃岩見沢市一条西二丁目の自宅に於て、更に昭和二十四年三月十九日、同年四月一日頃それぞれ右自宅に於て麻薬である塩酸モルヒネを所持していたというのである。

被告人が本件竝びに前記確定判決のある麻薬取締法違反被疑事件について始めて捜査を受けたのは昭和二十四年七月頃麻薬取締員が被告人方を捜索したのが最初であつて(第三回公判調書証人木下幸作の供述記載)被告人は当時麻薬中毒症状にあつたところから入手先を自白するときは爾後の入手が不能となることをおそれ詳細に供述しなかつたが所持していたものは捜索によりことごとく押収せられたものである。(被告人の第一回供述調書、麻薬取締員に対する昭和二十四年九月八日附の供述記載)。しからば所持犯は所謂継続犯であるから前記確定判決は被告人が昭和二十三年四月八日及び昭和二十四年三月十九日、同年四月一日頃より費消又は起訴迄の間の麻薬の所持を起訴しこれにつき裁判したものというべきであつて、それと同期間内の本件麻薬は一括して所持していたものといわなければならない。しかして麻薬の譲受とこれが所持とは手段結果の関係にあるものであるから既に所持関係につき処罰をなした以上譲受行為のみを更に起訴するは違法というべきである。されば被告人も「今度の公訴事実は全部前判決の中に含まれているものである」旨(第十回公判調書被告人の供述記載)抗弁して居り、又「昨年の春以来検察庁の職員に家宅捜索を受け押収せられた麻薬の入手先は当時中毒患者であつたため爾後の入手難をおそれ自白しなかつたが今回詳細申上げるがこれ等の麻薬を持つていたことにより既に懲役に処せられているのであるから更に刑を科することのなきよう」(被告人第一回供述調書、第二項麻薬取締員に対する昭和二十四年九月八日附供述記載)嘆願している次第である。

二、原判決の量刑は重きにすぎ失当である。<以下省略>

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