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札幌高等裁判所 昭和26年(う)846号 判決 1952年6月18日

控訴人 被告人 坂本信之進

弁護人 水戸野百治

検察官 金井友正関与

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

弁護人水戸野百治の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書記載の通りである。

第一点(1) について、

自作農創設特別措置法第十六条によつて農地の売渡を受けた者が当該農地に就いて自作をやめようとするときは先づ政府に於て同法第二十八条によりその者に対し当該農地の買取を申入れなければならないが、政府がかかる先買権を行使しない以上農地の所有権を移転する場合は原則として農地調整法第四条第一項同法施行令第二条第一項によつて都府県知事の許可を受けなければならないのであるが、しかし右所有権の移転に関し当事者の一方が国である場合には右法条の適用されないことは同法第五条第二号によつて明かなところである。しかるに本件に於て原判決は罪となるべき事実として「被告人は昭和二十二年十二月政府より自作農創設特別措置法第十六条によつて居町所住七十八番地の二及び七十九番地の二の農地一町二反九畝二十七歩を価格金千四百十二円二十四銭で売渡しを受けたものであるが、法定の除外事由がないのにかかわらず昭和二十五年三月上旬頃北海道知事の許可を受けないで居町において右農地の内六百坪を北海道電気通信局に対し電話中継所建設敷地として法定の統制額(金百七十二円八十銭)より金十四万九千八百二十七円二十銭を超過する対価である代金十五万円で売渡したものである」と認定して、被告人の右所為の内法定の除外事由なく北海道知事の許可を受けないで農地を売渡した点について農地調整法第四条第一項同法施行令第二条第一項同法第十七条の四を適用したけれども、右は本件農地の買主が国の行政機関である電気通信省の地方機関北海道電気通信局であるから前記説示によりその事実自体罪とならない。従つて原判決には法令の適用を誤つた違法があり右の違法は判決に影響を及ぼすこと明かな場合に当るので論旨は理由があり原判決は破棄を免れないものである。

同(2) について、

農地調整法第六条ノ二に於て農地の価格につき統制額を設けたのは農地を農地として取引の目的に供する場合を主たる目標としたことは所論のごとくであるとしても農地を買受後農地以外の目的に使用する場合の取引を除外する趣旨ではなくいやしくも取引当時現泥田又は畑地である限りすべて同条の適用を免かれないものと解するのが相当である。しかし本件売買の統制額は同法同条に規定する土地台帳法による賃貸価格に主務大臣の定むる率を乗じて得たる額であつて同法同条に所謂土地台帳法による賃貸価格とは土地台帳に登載せられた賃貸価格の意と解すべきところ原判決の援用する証拠を綜合すると被告人が本件土地を自作農創設特別措置法第十六条により政府より買受けた際土地台帳には賃貸価格の記載なく単に原野と雑種地となつていたが現況は畑地であるところより当時浦河農地委員会に於て賃貸価格を附近に於ける類地の畑地と比較し四十八級地反当り一円八十銭と認定し同委員会より道知事に申請し道知事の承認を得たが右承認の価格をその後同委員会より所轄浦河税務署に通知することを忘失し土地台帳に登載漏れとなつたことが認められる。従つて本件売買当時には土地台帳法による賃貸価格なるものが存在しなかつたことになり且つ本件譲渡について同法第六条の四による道知事の認可を受けた形跡も認められないから結局本件土地については依るべき統制価格につき証明のない場合であるから犯罪の証明不十分として無罪たるべきである。従つて之を有罪とした原判決には事実の誤認があり右誤認が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから論旨は理由あり原判決は破毀を免かれない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条第三百八十二条により原判決を破棄し同法第四百条但書により更に判決する。

本件公訴事実は第一点の(1) 記載の原判決認定事実のとおりであるが右北海道知事の許可を受けずして売渡した点は罪とならず又価格違反の点は証明不十分であること前説示のとおりである。

よつて刑事訴訟法第四百四条第三百三十六条により主文のごとく判決する。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 成智寿朗 判事 東徹)

弁護人水戸野百治の控訴趣意

一、原審判決は罪となるべき事実として「被告人は昭和二十二年十二月頃政府より自作農創設特別措置法第十六条によつて居町所在七十八番地の二及七十九番地の二の農地一町二反九畝二十七歩を価格金壱千四百十二円二十四銭で売渡を受けたのであるが法定の除外事由が無いのにかかわらず昭和二十五年三月上旬北海道知事の許可をうけないで居町において右農地のうち六百坪を北海道電気通信局に対し電話中継所建設敷地として法定の統制額(金百七十二円八十銭)より金十四万九千八百二十七円二十銭を超過する対価である代金十五万円で売渡したものである」を摘示し之に対し農地調整法第四条第一項第六条の二、同法施行令第二条第一項、同法第十七条の四、昭和二十一年農林省告示第十四号を適用して被告人を罰金壱万円に処する旨の有罪判決を言渡された。

二、然しながら原審判決は次の点に法律適用の誤がある。

(1)  法定の除外事由がなく北海道知事の許可を受けないで農地を売渡した点については原則として農地調整法第四条第一項、同法施行令第二条第一項によりその移動が統制せられていることは明であるが本件は国の機関である北海道電気通信局が浦河町電話中継所建設敷地として買受けたものであるから本件土地の売買は被告人と国との間に為されたものであることは争のない事実である。従つて斯かる場合は例外として右法律第五条第二号により本件農地の所有権取得に関し「当事者の一方が国である場合に該当するから同法第四条の適用は排除せられ北海道知事の許可を要しないことは規定上極めて明瞭である。ところが原審は右法律第五条第二号を看過し罪とならない事実を有罪と認定したのは適用すべき法令を適用せず結局法令の適用を誤つたものでありその誤りが判決に影響を及ぼすこと明である。

(2)  法定の統制額を超えて農地を売渡した点については同法第六条の二を以て律せられることは明である。然しながら右規定の適用を受ける場合は農地を農地として売買する場合則ち農地の買主が該地を依然農耕として使用する目的で買受ける場合に適用せらるるものと解すべきである。このことは右法律の目的が耕作者の地位の安定及農業生産力の維持増進を図るために(第一条)不当な価格による取引を禁じて所謂農地改革を阻害することのないよう耕作者の地位を保護し以て農地関係の調整を為すにあることから推断し得るところである。ところが本件の場合は原判決摘示の通り国の機関である北海道電気通信局が浦河電話中継所庁舎建設敷地として買受けたもので右官庁の買受目的は農耕地ではなく宅地であつて現に約七十坪の事務所及約十六坪の物置石炭置場を設置し、残余の部分は電柱置場として使用している実情である。従つて被告人は農地調整法第六条により農地を耕作以外の目的即ち宅地に供するため所謂使用目的変更について北海道知事の許可を受け然る後前記官庁へ売渡すべきであつたのに、その手続を執らなかつたものであるから右法条の違反として同法第十七条の五第一号により処罰せらるるは格別本件の如く農地を引続き農地として使用するものではなく農地を宅地として使用する目的で為された売買には価格の統制についての同法第六条の二を適用すべきではない。

三、以上要するに原審判決は前記の点につき適用すべき法令を適用せず(2) の点については適用すべきでない法令を適用して有罪を認定したのは共に法令の適用を誤つたものでこの誤がなければ被告人は無罪の判決を受くべきであつたから右誤は原判決に影響及ぼすこと明であるとして破棄せらるべきである。

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