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札幌高等裁判所 昭和26年(ツ)1号 判決 1951年4月26日

上告人 南与次郎

訴訟代理人 板井一治

被上告人 野口栄一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は別紙記載の通であつて、これに対する判断は次の通である。

民事訴訟法第百七十条第二項によつて書類を郵便に付して発送した場合に於いては、その発送の時を以て送達あつたるものと看做すことは、同法第百七十三条の明定するところであるが、ここに看做すとは、書類が現実に到達した時が何時なるを問わず、発送の時を以て送達の時と法律上擬制する趣意であることは、右法文の解釈上一点疑問の余地ないところである。論者のいうように、右法条が単に送達機関に所定の手続を為すことによつて送達義務を免れしめた事務的規定に過ぎないものとは解し難いところである。さすれば、同法第三百六十六条に判決の送達があつた日とは判決が同法第百七十条第二項に則つて発送された場合は、その発送の日を意味すること当然の理といわなければならない。故に叙上と反対の見解の上に種々論議する上告論旨は採用に由ない。

よつて民事訴訟法第四百一条第八十九条第九十五条に則り主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 藤田和夫 裁判官 臼居直道)

上告理由

一、民事訴訟法三百六十六条ニヨレバ「控訴ハ判決ノ送達アリタル日ヨリ二週間以内ニ提起スルコトヲ要ス」トアリ其「送達アリタル日」トハ控訴人ガ現実判決ヲ受領シタル日、即「到達シタル日」ヲ指スモノデアル。留萌簡易裁判所ガ判決ヲ被告代理人ニ送達シタノハ留萌郵便局受付第三三一号書留郵便物デ被告代理人ガソレヲ受領シタ日ハ昭和二十五年十二月三十日デアルコト別紙旭川郵便局主幹ノ証明書ニ明ラカデアル。然レバ控訴期間ハ昭和二十六年一月十三日デアツテ本件控訴状ノ提出ガ一月十二日デアル本件控訴ハ適法デアル。

二、民事訴訟法百七十二条ニ「云々送達アリタルモノト看做ス」トハ到達セシムル義務ヲ発送ニヨツテ免脱シタ事務的規定ニ過ギナイノデアツテソレヲ以テ到達シタ日(受領シタ日)トナス意味デナイ書留郵便発送ノ後ソレガ到達不能トシテ裁判所ヘ返戻サレタ時ハ公示送達ニヨリ送達ヲ完遂スルノガ実際ノ取扱デアル若シ到達ト否トニ不拘書留郵便トシテ発送セルコトニヨリ到達(受領)アリタルコトニ決定セラルルモノトセバ公示送達ノ必要ガナイカラ之レヲシナイ筈ナノニ実際ノ取扱ハソウデナイ之レニヨリ右条ガ到達(受領)如何ニ不拘到達(受領)ト処理サレルノデナク到達セシムル義務ヲ発送ニヨリ免脱スル便宜規定ナルコトヲ示スモノデアル。

三、法文ノ文字ハ深イ注意ヲ含メテヰルカラ軽々ニ看過シテハナラナイ。

民訴三六六条ニ「送達アリタル日」トアル「アリタル」トハ「到達」ガ時間的ニ実現シタ時ノ意味デアル。

書留郵便デ発送シテモ郵便ノ配達ガサレナイデ戻ル場合ナド往々アルガ其場合ハ「送達アリタル日」ナルモノガナイカラ控訴期間ハ進行シナイ。

若シ民訴一七三条ノ擬制送達ヲ以テ「送達アリタル日」トナストキハ判決ヲ受領セザルニ控訴期間ガ進行或ハ完了スル事態ガ発生スルカモ知レナイ不合理ト正義ヲ没却スル結論トナルノデアル。ソレハ決シテ法律ノ精神デナイト共ニ民訴三六六条ノ「送達アリタル日」ナル文字ノ容認シナイトコロデアル。

四、要之民訴三六六条ノ「送達アリタル日」トハ現実到達日(受領日)ヲ指シ民訴一七三条ニ「看做サレタル送達」即チ擬制ニヨル送達日ハ此中ニ入ラナイ。

原判決ハ畢竟右条文ノ意義ヲ混同誤解シタルモノデ破毀セラルベキモノデアル。

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