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札幌高等裁判所 昭和26年(ラ)15号 決定 1952年2月20日

抗告人 原田栄一

訴訟代理人 佐藤忠輝

相手方 森本長守

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は、原決定別紙目録記載の木材は、抗告人が昭和二十六年三月下旬山元において大西好松から買受け、検収極印打入等すべて商慣習にしたがつて引渡を受け、馬夫舟木可成等を使役して同年四月上旬までの間に原決定別紙目録記載の場所まで搬出したもので、抗告人はこの木材が他人に持去られるおそれがあつたので、釧路地方裁判所に対し豊岡幸太郎外八名を相手方として仮処分を申請し、同庁昭和二十六年(ヨ)第二一号仮処分命令を得て昭和二十六年六月二十六日その執行をしたところが、相手方はその執行の直前である昭和二十六年六月六日この木材を買受けその引渡を受けたと称して同裁判所に対し第三者異議の訴を提起し、且つ右仮処分執行取消決定を申請して原決定を受けたのである。しかしながら相手方がこの木材を買受けた当時この木材には抗告人の極印が打込んであつたことは明かであるから、商慣習からして相手方が引渡を受けたことは無効であるばかりでなく、常識からしても怪しむべきものであるのみならず、仮処分命令は現状の変更によつて権利の実行が不能に帰するおそれある場合に許さるるものであるのに命令そのものを許してその執行のみを取消すことは矛盾であると考える。しかも、本案判決をなすまでこれを取消すという決定はその意を諒解するに苦しむ。すなわち、本案判決をなすにいたつたならば仮処分の目的物は一も存在せざるにいたり、無条件取消と何の相違もないことになり、仮処分により保全せらるる権利は保全せられ得ないこととなる。民事訴訟法第五百四十七条以下の規定により本件仮処分執行取消は形式上は不法ではないかもしれないが、実質上は甚だしく不当であり、実情を無視するものであるから、原決定の取消を求めるために同法第五百五十八条により即時抗告に及んだというにある。

そもそも民事訴訟法第五百四十七条の強制執行停止決定及び執行処分取消決定はいずれも後に異議の判決において取消、変更、認可される意味において仮の裁判であるから、これに対し独立にその当否を争わせることは単にその必要がないばかりではなく、かえつてその弊害として異議に対する裁判がその目的を失うにいたる危険すら存するのである。したがつて、同法第五百四十七条には同法第五百条第三項のような規定はないけれど、この規定を類推して、同法第五百四十七条の強制執行停止決定及び執行処分取消決定に対しては同法第五百五十八条の即時抗告をすることができないものと解すべきである。

そうとすれば本件抗告は不適法であるからこれを却下することとし、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十三条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 浅野英明 裁判官 熊谷直之助 裁判官 臼居直道)

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