大判例

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札幌高等裁判所 昭和27年(う)368号 判決 1953年2月12日

控訴人 原審検察官

被告人 田村昭一

弁護人 斎藤熊雄

検察官 金井友正

主文

原判決を破棄する。

被告人は懲役壱年に処する。

原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

検察官及び弁護人斎藤熊雄の控訴趣意は各提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

弁護人の控訴趣意第一点(事実誤認)について、

弁護人の論旨は被告人の総括する会社の行為は物品の割賦販売が目的であつて相互銀行業務ではない、というのであるが、原判決挙示の各証拠を綜合検討すると、被告人が統括して行つた業務は、物品の割賦販売ではなく、契約者と一定の期間を定めてその中途又は満了のときにおいて、一定の金額を給付することを約して、その期間内における掛金の受入を業としたものであることを認めるに十分であつて、原判決に事実の誤認はない。論旨は独自の見解に立つて原判決を攻撃するに過ぎないものであつて、論旨は採用できない。

検察官の控訴趣意第二点(法令の適用の誤)について、

原判決が被告人の原判示事実中昭和二十六年六月四日以前の所為については無尽業法第一条第二項(昭和二十四年法律第百七十号貸金業等の取締に関する法律附則第四項により追加)第三条、第三十六条、罰金等臨時措置法第二条を適用し(無尽業法第一条第二項は昭和二十六年法律第九十九号相互銀行法附則第二項により削除)昭和二十六年六月五日以降の所為については昭和二十六年法律第百九十九号相互銀行法第二条第一項第一号、第三条、第四条、第二十三条、罰金等臨時措置法第二条を適用し前者については無尽業法第三十六条の包括一罪、後者については相互銀行法第二十三条の包括一罪とし、右二罪は刑法第四十五条前段の併合罪であるとして刑法第四十八条により処断していることは所論のとおりである。しかし本件の昭和二十六年六月四日以前の被告人の日掛金の受入はいずれも旧法たる無尽業法時から新法たる相互銀行法施行後に渉りて継続しているものであつて、金融業務という職業的集合犯であるからこれを分割することなくその全体を包括一罪として新法である相互銀行法を適用すべきである。尤も原判決が引用している相互銀行法附則第十一項(原判決中第十一条とあるは誤記である)はこの法律施行前にした行為に対する罰則の適用については、この法律施行後でもなお従前の例によると規定しているが、この場合は相互銀行法施行前に完成した犯行に対して適用されるもので本件のように新旧両法に跨る継続行為に対して適用されるものでないと解する。然るに原判決が旧法時の所為と新法時の所為とに分割して併合罪として処断したのは法律の解釈適用を誤つたものであり、その誤は判決に影響を及ぼすことが明かであるから原判決はこの点においては破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて検察官及び弁護人の各量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十条により原判決を破棄し、当裁判所は直ちに判決することができるものと認めるので同法第四百条但書により更に判決する。

原判決の確定したる事実に法令を適用すると、原判示被告人の所為中昭和二十六年六月四日以前の所為は無尽業法第一条第二項(昭和二十四年法律第百七十号貸金業等の取締に関する法律附則第四項により追加)第三条第三十六条罰金等臨時措置法第二条第一項に該当し(無尽業法第一条第二項は昭和二十六年法律第百九十九号相互銀行法附則第二項により削除)昭和二十六年六月五日以降の所為は昭和二十六年法律第百九十九号相互銀行法第二条第一項第一号、第三条、第四条、第二十三条、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するものであるが、被告人の昭和二十六年六月四日以前の所為は、いずれも旧法なる無尽業法時から新法たる相互銀行法施行後に渉り継続しているものであるから、本件の全体を包括一罪として新法である相互銀行法の右罰則を適用しその所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処すべく、刑事訴訟法第百八十一条第一項により原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 成智寿朗 判事 臼居直道 判事 東徹)

弁護人斎藤熊雄の控訴趣意

第一点原判決は事実の誤認がありその誤認が判決に影響を及ぼすことが明かであるから破棄せらるべきものと信ずる。

原判決は其の理由中において、被告人は………大蔵大臣の免許を受けないで右会社の営業としてA組一口日掛け二十円二百五十日払込 契約額五千円、竹組一口日掛け五十円二百日払込 契約額一万円 鶴組一口日掛け五十円二百日払込 契約額一万円、亀組一口日掛け四十円二百五十日払込 契約額一万円、月組一口日掛百円二百日払込 契約額二万円 と定めその契約から六十日乃至九十日後に一定の金額を給付し又は払込満了後契約額に百五十円乃至千円を附加して給付する方法により………合計金三百九十二万円の掛金を受入れ以つて物品割賦販売業名義の下に相互銀行の業務を営んだものである。と判示して被告人の所為は物品割賦販売業名義の下に相互銀行の業務を営んだものであると認定したのであるが元来被告人が代表取締役として統轄する三宝百貨株式会社は物品販売を業とする株式会社であつて、その販売の手段方法として顧客の買い易いように割賦販売の方法を考案したものであつて、同会社は資金の関係上予め百貨を仕入れてこれを備付けておくということはできないので、同会社は先づ一定の各商店と特約を結び、契約者にその特約店から欲する物品を購入せしめて其の代金を会社が支払うという仕組としたもので、原判決は同会社は物品販売については転買い転売による口銭の利得をしていないと認定しておるが、この特約店の物品販売によつて同会社は直接に利得はしなくとも所謂特約店との間に割戻等の方法により相当の利得をしておるのである。又原判決が判示認定した、満期前の品物購入代金の立替貸付などに対しては爾後増加掛金を徴収するが、若し増加掛金を徴収しない時は、右代金の貸付又は立替支払に当つて契約金額より割引した金額を給付し何れの場合に於ても実質上の利息を徴収していた事実については、経済原則上寧ろ当然の事であつて決して無尽業法又は相互銀行法違反にはならない。要之被告人の統轄する会社の行為は飽くまで物品の割賦販売が目的であるにかゝわらず、原判決はこれを以て相互銀行の業務と同一であると見たことは事実の誤認があるもので其の誤認は当然判決に影響を及ぼすものであると信ずる。

第二点原判決は量刑不当の違法あるものであつて破棄を免れないものと信ずる。 原判決は被告人を罰金弐拾万円に処しているが、仮りに被告人の所為が無尽業法及相互銀行法に牴触するものであつたとしても、被告人元来の目的は物品の割賦販売であつて、現に契約者に対し各商店より物品を購入せしめて其の代金は被告人の統轄する会社から支払い又は立替支払つておつたものであつて、原判決が判示するように契約満期前の品物購入代金の立替貸付又は立替払に対しては、何人と雖も其の利息を徴収するのは当然であつて決して無尽業法又は相互銀行法違反行為とはならないことと信ずる。而して増加掛金を徴収するとか、契約金額より割引した金額を交付することは右利息を徴収する方法にすぎないのであつて、多少無尽業法等に類似する点はあるけれども敢てこれを以て無尽業法又は相互銀行法に違反する行為であると断ずることはできない。要するに被告人は右行為に依つて巨万の富を得たものでもなければ又契約者の便益とこそなれ決して損害を及ぼしたものでもないのに被告人に対し罰金二十万円の判決言渡をなした原判決の量刑は誠に不当のものと信ずる。

検察官魚谷市左衛門の控訴趣意

第一本件は量刑が不当であると思料する。

一、被告人は昭和二十六年二月中旬頃北見市大通東一丁目に東洋百貨株式会社北見出張所を設け同年三月初旬頃これを三井百貨株式会社北見出張所と改め(同年六月二十日頃同会社北見営業所と改称)更に同年十月二十五日札幌市南一条西九丁目九番地に本店を置く三宝百貨株式会社を設立してその代表取締役となり前記三井百貨株式会社北見営業所の業務全般を継承して同会社北見営業所を設けこれを統轄していたものであることは原判決認定の通りである。しかも被告人は本件業務の開始に当つてその経費の大半である約十万円を出資し当然その実権を握り得る立場にあつたものであり(田村富之助の検察官に対する供述調書記録六十五丁)且つ本件事業開始のため単身和歌山市に赴き三井百貨和歌山営業所中川守平との間に三井百貨株式会社名を使用する権利金として五万円を提供し北見に於ける一切の権限は被告人にあつて独立採算制で行うこと等を協定し(被告人の司法警察員に対する供述調書、山田和男の検察官に対する供述調書)ている他事業の実質面に於ても被告人よりはるかに年長者である堀利雄、長塚鶴治、田中憲法、花形秀治等をその意のまゝに頤使している事実(堀利雄、長塚鶴治、花形秀治の検察官に対する供述調書、田中憲法の公判供述)に徴せば実に被告人は本件業務の独裁的支配者であつたことが極めて明瞭に看取される。

二、被告人は本件業務開始に先だち東洋百貨株式会社より社名を三井百貨と変更した旨の通知を受け(証拠物第五号)しかも東洋百貨と何等の約定なくして昭和二十六年二月中旬頃東洋百貨株式会社北見出張所を設けて業務を開始し更に和歌山市に赴き中川守平から三井百貨はいまだ登記をしていないことを聞きながら同人との間に前記の協定を為し同年三月初頃東洋百貨株式会社北見出張所を三井百貨株式会社に変更し更に同年六月八日和歌山市に赴き前記中川から「三井」として登記する事が出来なかつたので「三光百貨」として登記した旨を告げられたにかゝわらず北見出張所は営業所と改めたに止り依然同年十二月迄三井百貨株式会社の名を以つて事業を行つていた(被告人の司法警察員並検察官に対する供述調書)ものである。また被告人が代表取締役として設立登記した三宝百貨株式会社の目的は「機械類、食糧品、雑穀、木材の売買並に委託販売」であり(同会社登記謄本記録三十丁)本件の業務とは著しく異つた内容のものである。これらの点から見れば当初から株式会社として存在しないにかゝわらず単に名称を使用することの了解の下に権利金を払い独立採算制でなした企業は結局個人経営と異ることなく架空の会社名を用いしかも三井財閥の会社なりと誇張し(田中憲法公判供述)て本件の営業を行つていた事実は強く非難しなければならないところである。

三、旧無尽業法又は相互銀行法に於ては本件の如く不特定多数人から原判決認定の如き掛金の受入れを為すものは一定の資本金を有する株式会社で主務大臣の免許を得なければこれを営むことができないと規定しておりその理由とするところは多数人を対象として金銭の寄託を受ける如きは容易に倒産を招く虞れのない鞏固な基礎を持つもののみがなし得るものとし以つて経済生活の安定を図ろうとするに在るのであつて単なる自己資金の貸付を為し得る貸金業者とは甚だしくその経済的基礎や業務開始の条件に於て異るのである。本件業務については他から何等の出資がなく僅かに被告人が出張所開設のため醵出した約十万円によつて業務を開始ししかもその後の諸経費は加入者からの掛金を以つて充当することゝし又営業面に於ては極力加入者に代替貸付を勧奨して利益を獲得しようとしたが代替希望者が少なかつたことゝ事業拡張によつて経費が増嵩して利益を挙げるに至らず(被告人の検察官に対する供述調書)終局に於て債権債務計上二百五十万円に上る支払不能を生じ(花形秀治の検察官に対する供述調書)て破綻を来したものであり何等融資の見込もなく単なる希望的な計算によつて利鞘を得ようとして行つた結果多額の負債を生じて一般加入者に多大の損失を及ぼしたことは情状軽からざるものと謂わなければならない。

以上の点を綜合すれば本件に対しては懲役刑を選択すべきが相当であるのにかゝわらず罰金刑を以て処断した原判決はその量刑軽きに失するものであつて破棄せらるべきであると思料する。

第二原判決は法令の適用を誤つた違法がある。即ちその法令の適用に於て「被告人の所為中昭和二十六年六月四日以前の所為については無尽業法第一条第二項第三条第三十六条罰金等臨時措置法第二条を適用し昭和二十六年六月五日以降の所為については昭和二十六年法律第百九十九号相互銀行法第二条第一項第一号第三条第四条第二十三条罰金等臨時措置法第二条を適用し前者については無尽業法第三十六条の包括一罪後者については相互銀行法第二十三条の包括一罪とし右二罪は刑法第四十五条前段の併合罪である」と判示している。

原判決に挙示した如く本件は昭和二十六年六月四日以前の所為は無尽業法第一条第二項に昭和二十六年六月五日以降の所為は前記法条を削除して新たに制定された相互銀行法第二条第一項第一号に該当するものであるがこの両者の規定は旧法新法の関係に立つものであり、本件の所為は旧法時より新法時にわたり継続して行はれた営業であるからこれを分割することなくその全体を包括し単純一罪として新法である相互銀行法第二十三条を適用し処断すべきである。しかるに原判決は前記の如くこれを二個の罪が成立するものとし刑法第四十八条を適用したのは法令の適用を誤つたものでありその誤が判決に影響を及ぼすことが明かであるから破棄を免れないものと思料する。

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