札幌高等裁判所 昭和27年(う)538号 判決 1952年12月27日
控訴人 被告人 橘憲司
弁護人 沢木国衛
検察官 平塚子之一関与
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人沢木国衛の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
弁護人の控訴趣意(事実誤認)について
銃砲刀剣類等所持取締令にいわゆる所持とは銃砲刀剣類等を自己の実力支配におくことをいうのであつて、自らその実力支配を始めたことを認識した以上同居の内縁の妻が保管していたとしても爾後これを所持するに至つたものと解するを相当とする。
原判決挙示の証拠によると、被告人が福岡某に日本刀の製作を注文し、右福岡は昭和二十七年五月中頃の夕方被告人方に右注文の日本刀二本を持参したが、被告人が不在であつたのでその内縁の妻神部マツ子がこれを受取り同人の衣類の入つた竹行李の中に入れて保管し被告人が帰宅した際その旨を告げたところ被告人は「うんそうか」と答えたことが認められる。そうすると被告人はその時から本件日本刀の実力支配を始めたことを認識したものといわざるを得ないのであつて、原判決が本件日本刀二本を被告人が所持していたものと認定し所断したのは当然であつて事実の誤認はない。論旨は理由がない。
よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し、同法第百八十一条第一項を適用し当審における訴訟費用は被告人の負担とし主文のとおり判決する。
(裁判長判事 成智寿朗 判事 熊谷直之助 判事 東徹)
弁護人沢木国衛の控訴趣意
原判決の事実認定は本件の刀剣を被告人の所持と認定している。しかし証人神部マツ子に対する検察官の供述調書(第一九丁)には、本件刀剣は神部マツ子が自分の衣類を入れる竹行李に入れて持つていたものとなつており、右神部マツ子はその事を被告人に告げたところ、被告人は単に「うんそうか」と言うただけである。この「うんそうか」とは唯聞いただけであり、その事を承諾して自分がマツ子の占有を通じて持つていたとはまだ認定できないところである。又第一回公判調書記載によれば、被告人は本件起訴状の公訴事実を読みきかされ「その通り相違ありません」と答え右公訴事実には被告人が本件刀剣を所持していたとあるが、右相違ありませんは被告人が所持の事実を認めたものと見るのは妥当でなくこれは、本件刀剣が被告人宅内の神部マツ子の竹行李の中に存在した事実を認めたものと見るのが事実の真相であり、この事実の所持の関係は右神部マツ子にあるとすべきである。然らば被告人の所持を認めたのは事実の誤認であり、これは判決に影響を及ぼすことは明かである。