札幌高等裁判所 昭和27年(う)677号 判決
憲法第二十一条は基本的人権の一つとして言論、出版その他一切の表現の自由を保障している。そして憲法の保障する基本的人権は侵すことのできない永久の権利として現在及び将来の国民に与えられたものであつて、立法によつても妄りに制限されないものであることは言うまでもない。しかし国民もまた憲法が国民に保障する基本的人権を濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためこれを利用する責任を負うのである。それ故言論、出版、表現の自由といえども無制約な恣意のまゝに許されるものではなく、常に公共の福祉によつて調整されなければならないのである。所論のような見解のもとに基本的人権だからといつて選挙に関し無制約な恣意のまゝに言論、出版、表現を放任するにおいては、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期し難く、公共の福祉を害するに至るは自明の理である。従つて選挙運動に一定の制限を設け、これに違反したる者を犯罪として処罰する公職選挙法は憲法第二十一条に違反するものではない。所論は独自の見解に基き原判決を攻撃するに過ぎないもので採用できない。
弁護人の控訴趣意第一点(訴訟手続に法令の違反)について。
原審第一回公判調書に検察官が起訴状の朗読をしたこと及び裁判官が被告人に対し被告人の権利保護のための告知をしたことの記載がないことは所論のとおりであるが、右事項は公判期日に通常当然行われている手続であつて、原審第一回公判調書によると何等異議の申立もなく且つ被告人及び弁護人の被告事件についての陳述の内容からしても当然所論の手続は執られたものと認めざるを得ないのである。従つて原審の訴訟手続に法令の違反はない。
昭和二十六年十二月二十日最高裁判所規則第十五号による改正刑事訴訟規則第四十四条に検察官が起訴状を朗読したこと、裁判官が被告人に対し、被告人の権利保護の告知をしたことの事項を公判調書の記載事項としていないことは所論のとおりであるが、最高裁判所は憲法第七十七条により訴訟に関する手続について規則を定める権限を有し、又刑事訴訟法第四十八条第二項は公判調書の記載事項を裁判所の規則に委ねているのであつて、これに基き右刑事訴訟規則第四十四条において通常当然行われる手続である前記所論の事項は公判調書の記載事項としなかつたものであつて、右規則が憲法及び刑事訴訟法の根本精神に違反し無効のものということはできない。論旨は理由がない。
(後略)