札幌高等裁判所 昭和28年(う)473号 判決
原判決は、理由の冒頭で、被告人は津別町農業協同組合の参事であると認定し、判示三として被告人は原審相被告人工藤と共謀して工藤が業務上保管に係る同組合所有の購買品並に売上代金二十八万九千三十円を前田あるに対し組合のための接待費とか組合職員の慰労費とかの名下及び被告人等の飲食遊興費等の支払いに交付し以つて之を横領したことを判示し、また判示六、七、として被告人は単独で又は原審相被告人山田と共謀して被告人の保管に係る組合所有の金二十万円を組合のための接待費名下及被告人等の飲食遊興宿泊費等に費消し以て之を横領した旨判示している。
右判示に名下云々とあるのは、その文面から見れば、慰労費とか接待費とかの名目で其は被告人の用途に費消した意味と解せられないではないが、原判決挙示の証拠によると、判示金員の内には被告人が自己の遊興に費消したものもあるが、その一部は組合職員の慰労や組合のための接待のために支出したものもあることが明白である。農業協同組合法第四十二条によると、参事たる被告人は組合を代理して組合の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をなす権限を有するから、被告人が組合職員の慰労や組合のための接待に組合所有の金員を支出するのはその代理権限に属する行為であつて、これを以つて横領と言うことはできない。尤も右の支出は組合当該予算費目からでなく、購売部保管の売掛代金等被告人の手許有金を流用支出したものであることがみとめられるが、かかる行為が場合により背任罪に触れるのは格別として、横領罪を構成するものではない。しかるに原判決が、これらの行為を横領罪に問擬したのは事実を誤認したものであつて、この誤認は明かに判決に影響を及ぼすものであるから原判決は破棄を免れない。
同控訴趣意第一の(二)について
原判決は判示四において、被告人尾関は昭和二十六年二月二十六日頃、購買掛川西繁美に対して直ちに正規の手続をなし又返済する意思もないのに拘らず之ある如く装い「金庫から一万円を出してくれ後で購買係主任工藤に話すから」と申向け右川西をしてその旨誤信させて即時同所において同人から同組合所有の金一万円を受取り以て之を騙取し、と判示しこの事実に対し刑法第二百四十六条を適用処断している。右認定の証拠となつている川西繁美の「司法警察員に対する供述調書には「参事さん(被告人を指す)の言われることだから組合のためにお使いになることと思い何等不審に思わず購買部の手提金庫から一万円を出して渡した」との旨の記載があり、また右供述調書によると、川西繁美は組合の購買掛の雇員であつて、組合の金員を貸付ける権限があるものとは思われないから、右の証拠によつては、判示の如く同人が被告人に返済の意思があるものと誤信して貸借名義のもとに被告人に一万円を交付したものと認めることはできない。証人新谷久之助同松崎当吉の証言によるとその当時組合には山田茂雄が、主計係主任に任ぜられ、農業協同組合法第四十二条によつて組合所有の金銭の出納保管を担当していたのであるが、主計係主任に引渡すまでの購買部の收納金は購買係において保管することになつていたことがみとめられるから、この金員は購買係主任の占有下にあるものというべく、また同時に参事としての職務権限からして被告人もまた之を占有しているものと言わねばならない。そこで前記のとおり、川西繁美が、購買部の手提金庫から一万円を取り出して被告人に渡したのは結局被告人がその保管する組合所有の金員を部下に命じて取出させたものにすぎず、ここに詐欺罪の成立する余地はない。もし、被告人がこのとき一万円を擅に自己の用途に使用する目的で取出させたものとすれば横領罪が成立するわけである。右のとおり、原判決はこの点で事実の誤認及び法律の適用の誤がありこの誤は判決に影響を及ぼすことが明であるから論旨は理由がある。