札幌高等裁判所 昭和28年(ラ)37号 決定 1954年10月29日
抗告申立人 株式会社北海道銀行
訴訟代理人 斉藤敏之
相手方 岡田利夫
訴訟代理人 富田政儀
主文
原決定を取消す。
本件を釧路地方裁判所に差戻す。
理由
抗告人は、原決定を取消す、釧路地方裁判所執行吏伴延親は別紙明細表記載の素材を競売しその売得金を釧路法務局に供託することを命ずるとの決定を求め、その理由として主張するところの要旨は、(一)原決定は民事訴訟法第七百五十条第四項の規定は係争物の仮処分には適用がないとして抗告人の換価命令の申立を却下したが、昭和九年二月八日の大審院決定は右法条は係争物の仮処分にも準用があると判断しているのであつて、原決定は右判例に違反する違法がある、(二)原決定は本件仮処分の実体を把握しない欠点がある、すなわち所謂素材の価格は時期を失すると暴落し殆んど無価値となるものであつて、これを避ける方法としては換価命令より他にない、しかも換価代金は法務局に供託されるので訴訟の結果如何に拘らず当事者双方の利益となるものであるから、この点からみても原決定は不当であるというのである。
よつて按ずるに係争物に関する仮処分は係争物そのものの現状を維持しその実現を希望する限り、換価命令に関する民事訴訟法第七百五十条第四項を準用する余地がないことは当然であるが、仮処分の目的物に著しい価額の減少を生ずる恐があつたりその貯蔵につき不相応な費用を生ずるような事情があつて、債権者がその固有の請求を固執せず金銭賠償の請求をもつて満足しようと欲する場合には同法条を準用しその仮処分の目的物の換価命令を申請し得べきものと解するを相当とする。
したがつて右の特別事情につき審理判断することなく抗告人の本件換価命令の申立を不適法として却下した原決定は違法であつて取消を免れない。よつて爾余の点についての判断を省略し、民事訴訟法第三百八十八条に則り主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 臼居直道 裁判官 松永信和)
(別紙明細書は省略する。)