札幌高等裁判所 昭和29年(う)411号 判決
本件控訴の趣意は被告人及弁護人提出の各控訴趣意書記載のとおりである。
右両趣意書の所論の要旨は、(1)歯型を採得し、(2)その歯型によつて義歯或は金冠を製作し、(3)その適否を試み、適合させるために義歯或は金冠を削ること(試適行為)は歯科技工の範囲に属することであつて、歯科医業ではない、而して被告人は以上の範囲のことを業としてなしたのであるが、その義歯金冠を嵌入する行為はしていないから歯科医業をしたのではない、と云うのである。
原判決が罪となる事実として認定したものは右所論の(1)(2)(3)に属する行為であつて、原判示に「修正する等」とあるのは適否を試み適合させるため義歯或は金冠を削る処置を指すものと解せられる。以上のとおり被告人は歯牙はぐき等口くうに手術を施し薬剤を用いることはせず、また金冠を装着することは為さなかつたのであるが、しかし、患者の委託により歯型を採得しこれに基き義歯合金冠を製作し試適の上交付することはやがて患者をして義歯或は合金冠をその用途に従つて使用させる(合金冠にあつては、被告人自らがしなくても、患者が自身でセメントで定着させることが可能である)こととなり、而して右の如くに義歯或は合金冠を使用させるについては、歯牙はぐき、その他口くうの状態を観察して、その使用が適当であるか否かを歯科医学の知識経験にもとずいて診断することを要し、場合によつては歯牙その他に手術を施し薬剤を用いる必要があり、単に義歯或は合金冠を製作する技術に止まらないからかくの如きは歯科医師法第十七条にいわゆる医業の範囲に属するものと云わねばならない。然らば原判決が被告人の所為を歯科医師法第十七条違反と断じたのは正当であつて、論旨は理由がない。
(裁判長判事 熊谷直之助 判事 水島亀松 判事 松永信和)