札幌高等裁判所 昭和30年(う)186号 判決 1955年12月01日
控訴人 被告人 山本政重
弁護人 中田克己知
検察官 高田秀穂
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金二千円に処する。
右罰金を完納することができないときは金四百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人中田克己知提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
右控訴趣意第一点(事実誤認)について。
所論は、本件請負契約証書は印紙税法第五条所定の非課税証書に該当するものである。しかるに、原判決が同証書は同法第四条第一項第三号所定の課税証書に該当するものと認定したのは事実を誤認したものであるというにあるが、本件請負契約証書は第二点認定のとおり、金沢組建設株式会社代表者取締役金沢有雄と篠内線水利組合長たる被告人との間に締結された同認定の条項を内容とする中の川取入口災害復旧工事請負契約の証書であることが明らかである。従つて同証書は印紙税法第四条第一項第三号所定の課税証書である「請負に関する証書」に該当し、同法第五条各号所定の非課税証書に該当しないものといわなければならない。故に、原判決には所論のような事実誤認はなく、論旨は理由がない。
同第二点(事実誤認または法令適用の誤)について。
所論は、請負契約当事者が契約証書二通を作成し取り交わす場合においては、その印紙貼用(納税)義務者は同証書の所持者である。しかして、本件請負契約当事者は契約証書二通を作成して取り交わせをしたが、一方の当事者である篠内線水利組合長たる被告人はその所持する一通には印紙税法所定の相当印紙千円を貼用したのにかかわらず原判決が右被告人より相手方たる金沢組建設株式会社に交付し同会社において所持する他の一通に、同法所定の相当印紙を貼用しなかつたのは被告人において逋脱したものと認定し該当法案を適用処断したのは、事実を誤認しまたは法令の適用を誤つたものであるというにある。
請負契約当事者が請負に関する証書二通(各正本)を作成し各自一通を所持する場合においては、各通毎に印紙税法所定の相当印紙を貼用することを要すべく、しかして、各通の印紙貼用(納税)義務者は契約当事者双方であると解するを相当とする。けだし、請負に関する証書は双務契約たる請負契約の当事者が各財産権の創設を証明する目的を以て共同作成するものであり、従つて当事者双方は各自独立して各通の印紙貼用(納税)義務を負担すべきものであるからである。本件につきこれを見るに、原判決挙示の各証拠及び被告人の原審第一回公判廷における供述(記録29丁、30丁)、原審取調の被告人の副検事に対する供述調書並びに「株式会社登記事項について」と題する書面(記録8丁)を綜合すると、昭和二十七年四月三日金沢組建設株式会社代表者取締役金沢有雄を請負人、篠内線水利組合長たる被告人を注文者として両者間において、中の川取入口災害復旧工事を請負金額=金百五十六万円。支払方法=同年四月末日金八十万円、竣工のとき金六十四万円、旧水門解体のとき金十二万円を支払うこと。竣工期日=同年六月三十日の約定を以て請負契約を締結し、同日当事者双方においてその旨の同一内容を記載し当事者双方署名押印した、請負に関する証書の正本二通を共同作成し各自一通を所持したものであるところ、右注文者において所持する一通には印紙税法第四条第一項第三号所定の相当印紙千円を貼用したが、右請負人の所持する一通(原裁判所昭和三十年領第一号)には同条所定の相当印紙千円を貼用せず逋脱したことを優に認定できる。従つて作成者たる契約当事者双方は各自独立してその罪責に任ずべきものである。されば、原判決が被告人に対する同判示事実を認定し印紙税法第十一条第一項罰金等臨時措置法第二条を適用処断したのは相当であつて、原判決には所論のような事実誤認または法令適用の誤はなく、論旨は理由がない。
同第三点(量刑不当)について。
本件記録及び原裁判所で取調べた証拠により認められる本件犯行の動機、態様、脱税額、その他諸般の事情を綜合すると、原判決が被告人を罰金八千円に処したのは重きに過ぎ、その量刑が不当と認められるので、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
よつて刑事許訟法第三百九十七条第一項第三百八十一条により原判決を破棄し、同法第四百条但書に従い当審において更に判決する。
原審の適法に認定した事実に法令を適用すると、被告人の原判示所為は印紙税法第四条第一項第三号第十一条第一項罰金等臨時措置法第二条に該当するので所定刑中罰金刑を選択し、その金額範囲内において被告人を罰金二千円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法第十八条により金四百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)