札幌高等裁判所 昭和31年(ラ)26号 決定 1959年4月07日
抗告人 草野八郎
訴訟代理人 吉原正八郎
相手方 石川幸太郎
訴訟代理人 岩沢誠
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
事実
抗告人は、原決定を取り消して更に相当な裁判を求める旨申し立て、相手方代理人は、抗告棄却の裁判を求めた。
抗告人の抗告の理由は、別紙記載のとおりである。
理由
自作農創設特別措置法に基き国から農地の売渡を受けて所有権を取得した者が未だ所有権移転登記をしないうちに、その農地につき前所有者から抵当権の設定を受けて登記をした者は、右抵当権の収得をもつて農地所有権者に対抗することができるものと解すべきである。ひるがえつて、本件記録によれば、本件の農地は、もと債務者竹林与三平の所有であつたが、昭和二三年一二月二日、自作農創設特別措置法に基き、国がこれを買収し、同日、抗告人において国からその売渡を受けたけれども、当時、右農地については未だ所有権の保存登記がなく、抗告人も国から未登記のままに売渡を受け、所有権移転登記をしないうちに、前記竹林与三平において、債権者石川幸太郎のため昭和三〇年一〇月一五日、債権額金五〇万円、弁済期昭和三〇年一一月二〇日利息年一割なる債務を担保するため本件農地に抵当権を設定し、旭川地方法務局東旭川出張所昭和三〇年一二月一三日受付第一三七八号をもつて右農地につき自己名義の所有権保存登記をしたうえ、同日、同庁受付第一三七九号をもつて本件抵当権の設定登記をしたことが認められる。そうとすれば、石川幸太郎は右抵当権の取得をもつて抗告人に対抗することができるものというべきである。したがつて抗告人の主張は爾余の点を判断するまでもなく失当として排斥を免れない。
よつて、民事訴訟法第四一四条、 第三八四条、 第九五条、 第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人 裁判官 田中良二)
代理人吉原正八郎の抗告理由
一、抗告人は本件土地につき昭和三三年一一月一九日旭川地方法務局東旭川出張所受附第一三二六号原因同二三年一二月二日自作農創設特別措置法第一六条の規定による政府売渡しにより、北海道知事田中敏文の売渡登記嘱託書に基き所有権移転登記をうけた。
二、民法第一七七条の規定は自創法による農地買収処分にはその適用をみないものである。
すなわち同法による国の買収は公権力による一方的な所有権の原始取得であるから国は登記なくして何人にも対抗しうるものである。また買収処分により被買収者は完全にその所有権を喪失して無権利者となるものであるから、その無権利者より抵当権設定登記を受けても何等の権利も取得するに由なきものと言わねばならない。すなわち被買収者竹林与三平から抵当権設定登記を受けた相手方は何等の権利を取得せず従つて、これに基く競売手続開始決定は違法である。
参考判例
(一) 昭和二八年二月一八日最高裁大法廷判決集七巻二号一五七頁。
(二) 大阪地裁判決昭和二六年一〇月二五日法務省行政判例総覧昭和二八年一四二頁。
(三) 東京地裁判決昭和三一年五月二三日下級裁判所民事判例集七巻五号一三五五頁。
(四) 甲府地裁判決昭和三一年九月四日同七巻九号二三八九頁。