札幌高等裁判所 昭和32年(ネ)31号 判決 1960年4月22日
釧路市栄町一一丁目一番地
第一審原告
株式会社 相模屋商店
右代表者代表取締役
飯塚吉郎
右訴訟代理人弁護士
木田文次郎
釧路市弊舞町二七番地
第一審被告
釧路税務署長
長野金之助
右指定代理人
宇佐美初男
佐藤喜志
柏樹修
右当事者間の昭和三二年(ネ)第三一号、第八一号法人税額更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は昭和三五年二月八日終結した口頭弁論に基き、次のとおり判決する。
主文
原判決のうち第一審被告敗訴の部分を取消す。
第一審原告の請求を棄却する。
第一審原告の控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。
事実
一、当事者双方の申立
第一審原告訴訟代理人は「第一審被告の控訴を棄却する。原判決のうち第一審原告敗訴の部分を取消す。第一審原告に対して昭和二七年一月三一日なした第一審原告の昭和二四年度所得金額を一、一九五、八七六円と、昭和二五年度所得金額を一、三三五、九〇〇円とする旨の更正処分を取消す。
訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする」との判決を求め、第一審被告代理人は「第一審原告の控訴を棄却する。
原判決のうち第一審被告敗訴の部分を取消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審も第一審原告の負担とする。」
二、第一審原告の主張
1 第一審原告は、食料品の卸小売を業とする株式会社である。
2 第一審原告は、第一審被告に対し、昭和二四年度、二五年度各法人税に関し、各所得金額を別表第一(イ)の通り確定申告した。
第一審被告は、昭和二七年一月三一日附をもつて、別表第一(ロ)のとおり更正処分した。
第一審原告は、右各更正決定につき、再調査の請求をしたが、棄却されたので、さらに札幌国税局長に審査の請求をしたところ、同局長は、昭和二九年四月三日附で右請求を棄却する決定をなし、その旨の通知を第一審原告は、昭和二九年四月六日受けた。
3 そうして、第一審被告のした前記更正決定は、第一審原告が確定申告をなすに当つて決算書類を添付したのに、第一審被告がこれを無視し、何等の根拠なしに所得の過大な認定に基いてなしたもので、違法である。そこで、右更正決定の取消を求めるため、本訴に及んだ。
4 第一審原告の申告に当つての計算の根拠は、別表第二のとおりである。
三、第一審被告の主張
1 第一審原告主張事実のうち、1、2の点は認める。同3の点は否認する。
2 第一審被告のなした本件更正処分は、次の理由で適法である。
すなわち、第一審原告が審査請求に当つて添付した決算書類は、基礎となるべき伝票、帳簿と合わないばかりでなく、伝票類も取引の一部についてだけ記帳保管されているに過ぎず、その内容も相互に計算の誤りあるいは脱落等があつて不正確である。そこで、第一審被告は、推計計算の方法によつて次のように算出したものである。
3 (1) 総売上高
第一審原告備付の帳簿類中、比較的内容の妥当と認められる仕入原票および振替原票を基礎とした。
仕入原票には、日々の現金仕入、買掛支払、諸経費の支払その他の支出金を記録し、この支出合計とその日の現金残との合算から、売掛入金をさし引き、その日の現金売上高として整理してある。
振替原票には、日々の売掛が記録してある。
そうして、種目別の売上高は、不明であるので、仕入原票から判明した各種目の仕入割合から推算し、また卸売、小売の別はこれも明らかにする資料がないため、第一審被告が第一審原告についてなした権衡調査、探問調査等の結果を考え合せて、卸売七分、小売三分と認定して算定した。
なお、第一審原告の小売販売に当つては、仕入は卸売業者としているので、小売および卸売二重の利益があるわけである。そこで、小売売上額の八割をその分の卸売売上額と算定した。
こうして算定した種目別総売上高は、別表第三のとおりである。
(2) 営業利益
国税局で精密な統計その他の資料によつて調査決定した業種別所得率を、右各業種別売上高に適用して、算出すると別表第四のとおりである。
(3) 損金
第一原告の経費中、損金と認定したものは、別表第五のとおりである。
(4) 所得
以上のようにして、営業利益から損金をさし引いたものを所得とした。
すなわち、昭和二四年度は、一、一九八、三二四円、昭和二五年度は、一、三六八、二九六円である。
4 以上の外、第一審原告は、両年度とも酒類の販売をしたことがあるから、さらに所得が多いわけであるが、これを加えないでも右の各所得は、第一審被告のなした更正処分の所得額を超えるものである。
従つて、第一審原告の請求は失当である。
四、立証
第一審原告訴訟代理人は、甲第一乃至第七号証を提出し、原審における証人吉田司馬男、刀根敏男、河崎弘、上杉章(第一、二回)の各証言および第一審原告代表者飯塚吉明本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立は認めると述べた。
第一審被告訴訟代理人は、乙第一乃至第四号証を提出し、原審証人塩崎徳男(第一、二回)、当審証人塩崎徳男の各証言を援用し甲号各証の成立は認めると述べた。
理由
一、当事者間に争いのない事実
1 第一審原告は、食料品の卸小売を業とする株式会社である。
2 第一審原告は第一審被告に対し、昭和二四年度、二五年度各法人税に関し、各所得金額を別表第一(イ)のとおり確定申告した。
第一審被告は、昭和二七年一月三一日附をもつて、別表第一(ロ)のとおり更正処分した。
第一審原告は、右各更正決定につき、再調査の請求をしたが、棄却されたので、さらに札幌国税局長に審査の請求をしたところ同局長は、昭和二九年四月三日附で右請求を棄却する決定をなし、その旨の通知を第一審原告は、昭和二九年四月六日受けた。
二、そこでまず、第一審原告が申告した前記金額が各所得金額であるかどうかの点を判断する。
成立に争いのない甲第五号証(昭和二四年度決算書写)、第六号証(昭和二五年度決算書写)および原審における証人上杉章の証言(第一、二回)、および第一審原告代表者飯塚吉明本人尋問の結果からは、前記金額が正確な伝票、帳簿類を根拠としたものであるといえないことがうかがえるので、この点に関する的確な証拠とはならず、他に第一審原告の主張を認めるに足る証拠はない。
三、次に第一審被告の更正した各所得金額について判断する。
成立に争いのない乙第一乃至第四号証、原審証人刀根敏男、塩崎德男(第一、二回)、当審証人塩崎德男の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
1 第一審原告備付の帳簿類中、比較的内容の妥当と認められるのは仕入原票および振替原票であつて、この外に所得を算出するための基礎となるべき帳簿の備付のないこと。
2 右仕入原票には、日々の現金仕入、買掛仕入、諸経費の支払その他の支出金を記録し、この支出合計とその日の現金残との合算から、売掛入金を差引き、その日の現金売上高として整理してあり、振替原票には、日々の売掛が記録してあること。
3 こうして第一審被告としては、第一審原告の売上高を算定するため、仕入原票から判明した各種目の仕入割合から推算しなければならなかつたこと。また卸売、小売の別は、第一審被告の第一審原告についてなした権衡調査、探問調査等の結果を考え合わせれば、卸売七、小売三の割合と認めて算定すべきであること。こうして以上によつて推算すれば、この種目別総売上高は、別表第三のとおりであること(このうち、昭和二五年度分合計額は、第一審原告の自ら主張する金額を下廻つているが、第一審原告の算出の根拠は、あいまいであるし、その内訳なども全く不明であるから、第一審被告の掲げる資料によつて算定する外はない)。
4 そうして、国税局が統計その他の資料によつて調査決定した結果によつて、各業種につき業種別所得率がそれぞれ別表第四記載「所得率」欄記載の数字となつたこと。右所得標準率による推計方式は、前示のようにその標準率の作成方法および推計方式の内容からみて、一応合理的であると認められること。そうして、前示各売上高に右所得率を適用して算出すれば、算数上別表第四記載のとおりの金額になること。
5 第一審原告の各損金が別表第五記載のとおりの金額になること。
6 こうして右営業利益から損金を差引いた所得は、昭和二四年度は、一、一九八、三二四円、昭和二五年度は、一、三六八、二九六円となること。
四、してみれば、右認定の所得金額を下廻わる各更正金額に基いて第一審被告のなした前記各更正処分には何等の違法はない。
従つて、第一審原告の本訴請求は全部失当であつて棄却を免れない。
よつて、民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 臼井直道 裁判官 安久津武人 裁判官 田中良二)
右は正本である。
昭和三五年四月二五日
札幌高等裁判所第四部
裁判所 書記官 泉恭三
第一(第一審原告提出の確定申告の所得金額および第一審被告の更正金額)
(イ)所得金額 (ロ)更正金額
円 円
昭和二四年度 三二〇、八七六・五九 一、一九五、八七六
昭和二五年度 三七〇、五四九・五〇 一、三三五、九〇〇
第二(第一審原告提出確定申告の根拠となる内容)
昭和二四年度 昭和二五年度
円 円
(1) 収入 三六、一三〇、〇七五・五四 四〇、二三八、六〇七・〇〇
内訳・売上総額 <1>三四、〇四六、八三〇・五四 <1>三七、八一二、三六一・〇〇
在庫高 二、〇八三、二四五・〇〇 二、四二六、二四六・〇〇
(2) 支出 三五、八〇九、一九八・九五 三九、八六八、〇五七・五〇
内訳・繰越商品 一、〇六七、六〇五・〇〇 二、〇八三、二四五・〇〇
仕入高 三二、七四九、五九〇・八五 三四、五二八、一六四・八八
諸経費 一、九八七、〇〇三・一〇 <2> 三、二四九、一四七・六二
償却費 五、〇〇〇・〇〇 七、五〇〇・〇〇
(3) 所得額((1)と(2)の差額) <3> 三二〇、八七六・五九 <4> 三七〇、五四九・五〇
注 <1> 第一審原告の卸売、小売の割合は半々である。
<2> 諸経費支出の昭和三五年度の増加は、総売上高を増加させるため、人件費その他の経費支出が増大したためである。
<3> 諸経費控除前の利益率は、七・二パーセント強
<4> 諸経費控除前の利益率は、九・五パーセント
第三(第一審被告のなした推計売上高)売上高
<省略>
第四(第一審被告のなした推計利益)利益
<省略>
第五(第一審被告の認めた損金)
昭和二四年度 昭和二五年度
代表者給料 一四四、〇〇〇円 三六〇、〇〇〇円
雑損 一、二〇〇、〇〇〇円 八五〇、〇〇〇円
家賃 六〇、〇〇〇円 一二〇、〇〇〇円
合計 一、四〇四、〇〇〇円 一、三三〇、〇〇〇円