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札幌高等裁判所 昭和35年(う)340号 判決 1960年12月20日

被告人 佐藤幸次、伊原茂男こと谷野一郎

主文

原判決を破棄する。

本件を釧路地方裁判所帯広支部に差し戻す。

理由

弁護人の控訴趣意(訴訟手続の法令違反)について。

論旨は、要するに、原審の訴訟手続には本件常習累犯窃盗の構成要件たる常習性につき訴追がないのに審判した違法又は特定されない公訴事実につき判決をした違法があるというのである。

よつて本件記録を検討するに、被告人は昭和三五年九月一二日原判示一覧表中二〇の事実につき通常の窃盗罪として帯広簡易裁判所に起訴され、ついで同月三〇日同一から一九までの事実につき常習累犯窃盗として原裁判所に起訴されたところ、原裁判所は右事件に前記簡易裁判所に起訴された事件を併合して審判し(この併合決定書には「刑事訴訟法第八条第一項によつて」と記載してあるが、右は同法第五条第一項の誤りと認められる。)原審第二回公判において検察官から「追記訴の訂正並びに訴因の追加及び罪名罰条の変更」の請求があり、原裁判所はこれを許可した上各起訴状記載の事実全部を常習累犯窃盗の一罪と認定して処断したものであることが認められる。そして、原審第二回公判調書に記載された右訴因追加等の請求は、その言辞が明確を欠くけれども、その趣旨は要するに本件二つの起訴状に記載された事実を併せて一個の常習累犯窃盗の訴因として訴追する意思を明らかにし、これに伴う訴因罰条変更の請求をしたものと解することができる。このように、本件犯罪事実は、各別の罰条にあたる別個の罪として二回に起訴されているのであるが、審理の経過に鑑み検察官が前記のように訴因、罰条を変更した以上、各起訴状に記載された事実を併せて常習にかかる一罪として処断することができるものと解すべきであり、かつ、この場合には第二次の起訴は第一次の起訴にかかる一個の公訴事実中訴因として明示されなかつた部分を追加したものと解し得るから、二重起訴として一方の公訴を棄却すべきものではない。この点において原判決に違法はないのであるが、およそ訴因を変更するには起訴状に明示された訴因のどの部分をどのように変更するかを具体的に明示し、もつて被告人の防禦に遺憾のないようにすることを要し、このことは訴因の変更を書面を差し出してする場合であると、本件のように刑事訴訟規則第二〇九条第五項により口頭でする場合であるとを問わないと解すべきであり、本件についていえば、特に第二次の起訴状記載の公訴事実冒頭の累犯、常習の事実が第一次の起訴状記載の公訴事実冒頭にも附加され、結局原判決判示事実のような形式の訴因になることを明確にする必要があるのであるが、前記公判調書の記載だけではこの点が明確にされたものとは解し難いので、原審の訴因変更手続は不適法といわなければならず、その結果原審の訴訟手続には本件犯罪の要件たる常習性及び累犯性につき被告人に対し訴因を明示し防禦の機会を十分に与えることに欠けた違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。

更に職権により調査すると、原審第一回公判調書によれば、原裁判所は、本件の訴因全部につき、すなわち第二次の起訴にかかる常習累犯窃盗の訴因についても、簡易公判手続によつて審判をしたことが明らかである。しかし刑事訴訟法第二九一条の二によると、簡易公判手続は短期一年以上の懲役又は禁錮にあたる事件については許されないのであつて、盗犯等の防止及び処分に関する法律第三条、第二条にあたる常習累犯窃盗罪の法定刑は三年以上の有期懲役であるから、同罪の訴因につき簡易公判手続によつて審判することはできないのである。従つて、原審の訴訟手続にはこの点においても明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり原判決は破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七九条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条本文により本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢部孝 中村義正 小野慶二)

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