札幌高等裁判所 昭和35年(ネ)79号 判決 1964年4月30日
主文
第一審被告和島勇三郎の本件控訴を棄却する。
原判決中第一審被告和島興業株式会社に関する部分を左のとおり変更する。
第一審原告の第一審被告和島興業株式会社に対する請求中(一)昭和三一年九月一六日第一審被告和島興業株式会社臨時株主総会においてなされた別紙第一役員名簿記載の旧役員解任の決議及び別紙第二役員名簿記載の新役員選任の決議の無効確認を求める部分並びに予備的に右株主総会の各決議の取消を求める部分(二)同日第一審被告和島興業株式会社の新役員により開催された役員会においてなされた代表取締役選任決議の無効確認を求める部分(三)第一審被告和島勇三郎が第一審被告和島興業株式会社の株主でないことの確認を求める部分をいずれも棄却し(四)予備的に前記役員会の決議の取消を求める部分を却下する。
第一審被告和島勇三郎の控訴費用は同被告の負担とし、第一審原告と第一審被告和島興業株式会社との間に生じた訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。
事実
第一審原告(昭和三五年(ネ)第七九号事件控訴人、同年(ネ)第八〇号事件被控訴人、以下単に原告という)訴訟代理人は、「原判決中原告敗訴部分を取消す。第一審原告と第一審被告和島興業株式会社(昭和三五年(ネ)第七九号事件被控訴人、以下単に被告会社という)との間で、一、第一審被告和島勇三郎(昭和三五年(ネ)第八〇号事件、控訴人、以下単に被告勇三郎という)は被告会社の株主でないことを確認する。二、昭和三一年九月一六日被告会社臨時株主総会においてなされた別紙第一役員名簿記載の旧役員解任の決議及び別紙第二役員名簿記載の新役員選任の決議の無効なることを確認する。仮に無効でないときは右各決議を取消す。三、右同日被告会社の右新役員により開催された役員会においてなされた代表取締役選任決議の無効なることを確認する。仮に無効でないときは右決議を取消す、訴訟費用は第一、二審とも被告会社の負担とする。」との判決を求め、被告ら訴訟代理人は第一審被告会社につき「原告の本件控訴を棄却する。」との判決を求め、被告勇三郎につき「原判決中被告勇三郎敗訴部分を取消す。原告の被告勇三郎に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする。」との判決を求め、原告訴訟代理人は「被告勇三郎の本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠の提出、援用、認否は左に附加する外原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
原告訴訟代理人は
一、本件株式の譲渡人被告勇三郎は譲渡の当時被告会社代表取締役であり、又株式譲受人も次期代表取締役に就任した原告であるから、被告会社は右株式譲渡を確知し、しかも株式台帳又は株主名簿にその移動関係が明白に記載され、これに基づいて譲受人に対し現実に株券が発行されたのである。かように株式譲渡の事実を会社が確知することが可能である場合又は更に進んで会社が株式譲渡を承認しこれが前提の下に株券の発行が行われた場合は該株券の発行は有効で商法第二〇四条第二項による株券発行前の株式譲渡禁止の規定の適用は排除せられ株券発行前の株式の譲渡も亦有効となるものと解すべきである。若し会社設立後株券発行に要する合理的期間経過後においても株券発行前の株式の譲渡が会社との関係で無効とされるならば、株券を発行せず事実上株式の譲渡を禁止することが可能となり、株式譲渡の自由を保障した商法の規定を脱法することができる訳で、斯る解釈は妥当でないのみならず、会社が株式譲渡を承認してこれが前提の下に発行した株券が法律上無効とならんか右株券は偽造株券と同一で株式取引界に由々しい大問題を提供することとなる。要するに本件の場合は被告勇三郎及び原告間の株式譲渡は被告会社との関係においても有効のものといわねばならない。
二、被告勇三郎らの本件株主総会招集の目的は、取締役改選であるところ、その決議は目的外の原告らを解任するものである。従つて右決議は総会招集の目的外の決議であるから明らかに決議取消の対象となる。
三、仮りに株券発行前株式譲渡がなされた後、会社が譲渡を承認して株券の発行が行われても猶右株式譲渡が会社との関係で無効とするならば、訴外矢代好雄こと矢代洪士は、昭和三〇年一二月四日訴外大原菊太郎から株券発行前に株式の譲渡を受けたのであるから、正当な株主でない。従つて株主に非ざる右訴外矢代の加わつた本件株主総会の決議は無効であり、無効でないとするも取消を免れない。
四、株主総会決議無効確認請求訴訟係属中予備的に取消請求をしたときは、訴訟提起のときに遡及して取消請求をした効力を有すると解すべきであるから、本件株主総会決議取消の請求は適法である。
と述べ、
五、当審における原告本人尋問の結果を援用した。
被告ら訴訟代理人は
一、原告の一ないし四の主張を否認すると述べ、
二、当審における被告勇三郎の本人尋問の結果を援用した。
理由
一、原告の被告会社に対する株主総会決議無効確認の本位的請求並びに同決議取消の予備的請求及び取締役会決議無効確認の本位的請求並びに同決議取消の予備的請求について。
被告会社が昭和一五年一〇月二五日設立された和島興業有限会社を前身とし、昭和二四年二月五日組織変更された製麺業を目的とする資本金二〇〇万円発行済株式の総数二万株一株の額面金一〇〇円の株式会社であり、原告が株主であること(但し原告所有の株数の点を除く)、被告勇三郎が訴外和島いとと共同で旭川地方裁判所に対し株主総会招集許可の申請をなし、
同庁昭和三一年(ヒ)第六号事件として同年八月三〇日招集許可の決定を得て、株主総会を招集し、同年九月一六日旭川市一〇条通一五丁目右一〇号の同被告宅で株主総会を開催したこと、右株主総会において別紙第一役員名簿記載の役員解任の決議並びに別紙第二役員名簿記載の新役員選任の決議(以下本件株主総会の各決議という)がなされると共に、新たに取締役に選任された四名全員互選の上、被告勇三郎を被告会社の代表取締役に選任する旨の決議(以下本件取締役会の決議という)をなし、同年九月一八日それぞれその旨の登記を経たことは、いずれも当事者間に争いがない。
そしていずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第六号証と原審証人高畑春夫の証言並びに原審における被告本人尋問の結果を総合すると、右株主総会には被告勇三郎、訴外和島いと、同矢代好雄こと矢代洪士(以下単に矢代洪士という)、原告の四名が株主として出席し、被告勇三郎が一万六、〇〇〇株、訴外和島いとが一五〇株、同矢代洪士が一、五五〇株、原告が一〇〇株の株主として計算され、途中退席した原告を除く三名の賛成意見で本件株主総会の各決議がなされ、従つて旧役員の解任については商法第二五七条第二項第二八〇条第三四三条の定足数決議数を、取締役選任については定款第三二条第二項(取締役の選任決議は発行済株式総数の三分の一以上に当る株式を有する株主が出席し、その議決権の過半数を以て之れをなすものとする)の定足数、決議数を監査役選任については商法第二三九条の定足数、決議数をそれぞれ充足するものとされたこと、及び訴外高畑春夫は右株主総会に株主として出席したものでもなく又なんら右決議に加わつていないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
原告は右株主総会には被告勇三郎、訴外和島いと、同矢代洪士、同高畑春夫の四名が出席して決議をしたが、右四名のうち被告勇三郎、訴外高畑春夫は被告会社の株主でないから、右決議に加わつたのは被告会社の発行済株式数二万株のうち一、七〇〇株の株主にすぎないことになり、右旧役員解任決議は商法第二五七条第二項所定の定足数を、また新役員選任決議は定款第三二条第二項所定の定足数をそれぞれ欠くものであり、且つ株主でない者が加わつてなされた瑕疵がある。仮りに株券発行前の株式譲渡が会社に対する関係で無効であるとすれば、前記出席株主四名のうち訴外矢代洪士は株主たる地位を保有しないことになるから、右決議は株主でない者が加わつてなされた瑕疵がある。以上いずれにしても本件総会の決議は無効であり、仮りに無効でないとしても取消さるべきものである、なお本件株主総会の招集の目的は取締役改選であるところ、その決議は右目的外の原告らを解任するものであるから、右決議は取消さるべきものであると主張する。
1、しかしながら、株主総会決議無効の確認を求めるためには、決議の内容に瑕疵があることを指摘すべきである(商法二五二条)に拘らず、原告は決議の方法が商法ないし定款に違反するとの決議取消原因(同法第二四七条第一項)に該当すべき事由を主張するだけ決議の内容上の瑕疵を主張するものでないことが原告の主張自体に照し明らかであるから、原告の右株主総会決議無効確認請求は主張自体理由がないといわざるを得ない。
2、そこで本件株主総会の決議の取消を求める原告の予備的請求の適否について判断する。記録によれば原告は昭和三一年九月二一日本件株主総会決議無効確認請求訴訟を提起したが、その無効原因として主張するところは、右総会において被告勇三郎、訴外和島いと、同矢代洪士、同高畑春夫の三名出席して決議をしたが、被君勇三郎は被告会社の株主でなく、従つて、右総会に出席した株主は被告勇三郎を除く四名であつてその決議権は一、八〇〇株にすぎないから右決議は商法又は定款所定の定足数を欠き且つ株主でない者が加わつてなされた無効のものであるというのであつたところ(その余の無効原因は後に追加されたものである)、右決議無効原因として主張するところは何ら決議の内容上の瑕疵を指摘するものでなく、決議の方法上の瑕疵を主張するもので本来決議取消原因に該当すべき事由に帰することは前段説示のとおりであつて、かかる場合は決議取消請求の適法要件を具備する限り予備的に決議取消請求をなす趣旨をも含むものと解するのが相当である。
ところで、本件決議の無効確認請求訴訟が提起されたのは決議の日である昭和三一年九月一六日から三月内である同年九月二一日であつて、商法第二四八条所定の決議取消の訴の提訴期間内であることが明らかであり、しかも株主たる地位に基づき被告会社を相手方としてなされているから、決議取消の訴としても適法であるということができる。従つて本件決議無効確認請求訴訟は予備的に決議取消の請求を包含するものとみるべく、原告が昭和三三年一〇月二四日の原審口頭弁論期日において「仮りに前記の事由が無効原因に当らないとすれば取消原因に当ることは明白であるから、予備的に右決議の取消を求める」旨申立てたことが同口頭弁論調書の記載により認められるが、右予備的請求の申立は右の趣旨を明らかにしたものと解せられる。従つて本件決議取消の予備的請求は本件無効確認請求訴訟提起のときに遡及して提起の効力を有するといわねばならない。
ところで、決議取消請求訴訟の係属中に取消原因の追加主張が許されるのは提起期間の三月内に限られ、提訴期間の経過後は原則として追加主張は許されず、決議取消の原因に関する前後の主張が実質的に同一性を有すると認められる場合、換言すれば、後の主張によつて新たな決議取消原因が追加されたと認められないような場合に限り決議取消の原因たる事実を追加主張することが許されると解するのが、商法第二四八条に提訴期間を法定した趣旨に副う所以であると考えられる。本件記録を調査すると、原告はいずれも決議の日から三月を経過した後である昭和三四年一二月二三日の原審口頭弁論期日において従前の決議取消原因に附加して訴外高畑春夫は株主でないから同人が加わつてした本件決議は瑕疵がある旨、並びに昭和三八年七月二日の当審口頭弁論期日において仮りに株券発行前の株式譲渡が会社に対する関係で無効であるとすれば、本件株主総会に出席した前記四名のうち訴外矢代洪士は株主たる地位を保有しないから同人の加わつてした右決議は取消さるべきであること及び本件総会の決議は招集目的である取締役選任の範囲外の取締役解任決議がなされたのであるから右決議は取消さるべきである旨追加主張したことが明らかである。
そこで、右各追加主張のうち「株主でない訴外高畑春夫の決議関与」の点に関する主張は従前の主張と対比し新たな取消原因を附加したものでなく、従前の株主以外の者の決議関与の主張事実につき釈明をしたにすぎないと解することができるから、その追加主張をも許すべきであるけれども、「株主でない訴外矢代洪士の決議関与」の点に関する主張はにわかにこれと同一視することができない。即ち記録によれば、原告は従前株券発行前の株式譲渡も本件の場合は会社に対し効力を生ずると主張し、これを前提として被告勇三郎は被告会社の株主でないから同人の関与した株主総会の決議は取消さるべきであると主張し係争中、原判決において右主張が排斥された結果、当審において仮定主張として新たに従前の主張とは逆に、株券発行前の株式譲渡が本件の場合無効とすれば、訴外矢代洪士は被告会社の株主でないから同人の関与した総会の決議は取消さるべき旨主張したのであることは明らかである。そうすると、原告が当審においてした訴外矢代洪士の決議関与の点の主張は、従前の決議取消原因を釈明したというよりはむしろ従前の主張が理由なきものとされたためにそれとは全然別個の主張として他の株主が加つた決議取消の原因を主張したものに外ならないから、この追加主張は提訴期間後になされた不適法の主張であるといわねばならないからこれを却下すべく、また本件決議が招集目的外の決議であるとの点は従前取消原因としてなんら主張するところなく当審において別個の取消原因として主張したものであることが記録上明らかであるから、右追加主張も亦不適法の主張としてこれを却下する。
そこで、本件株主総会の各決議に関与した被告勇三郎、訴外和島いと、同矢代洪士、同高畑春夫の四名のうち被告勇三郎、及び訴外高畑は株主でないから、右決議は商法ないし定款所定の定足数を欠くものであり、且つ株主でない者が加つてなされたから取消さるべきであるとの原告の予備的決議取消の請求の当否について判断するに、後記三において説示するとおり、被告勇三郎は被告会社との関係においては右株主総会の決議当時依然として会社の発行済株式総数二万株のうち一万六〇〇〇株を有する株主であるから右総会の各決議が商法ないし定款所定の定足数を欠くとはいえないし、また訴外高畑春夫はさきに認定したように株主として総会に出席し議決権を行使したものでない。従つて原告の右決議取消の請求も理由がないといわねばならない(原審は右取消の訴を不適法として却下しているが、予備的に実体的にも理由がないと判断している)。
3、次に本件取締役会の決議の無効確認を求める請求について考えてみるに、前示のように本件株主総会の各決議の無効確認または取消を求める請求はいずれも棄却さるべきものであるから、被告会社との関係では、右株主総会決議により被告勇三郎は取締役の地位を取得したとする外ないところ、その否定を前提として同被告を代表取締役に選任した本件取締役会の決議を攻撃する原告の主張は理由がない。従つて本件取締役会の決議の無効確認を求める請求はこれを棄却すべきである。
4、原告は予備的に本件取締役会の決議の取消を求めているが、取締役会の決議には法律上株主総会の決議についてのように決議取消の訴というものが認められていないので、取締役会の決議はその招集手続や決議の方法につき違法がある場合も決議の内容につき違法がある場合もすべて当然に無効となるものであるから、右取消請求は不適法としてこれを却下すべきである。
二、原告の被告らに対する被告勇三郎が被告会社の株主でないことの確認を求める請求について。
1、当裁判所は被告勇三郎は昭和二八年五月初旬株券発行前に原告に対し被告会社の株式一万六、〇〇〇株を単純なる意思表示のみを以て譲渡したこと、右譲渡契約の効力は両当事者間では有効であり、従つて、被告勇三郎との間で同被告が被告会社の株主でないことの確認を求める原告の請求は正当として認容すべく、これに反する被告勇三郎の抗弁はすべて排斥すべきものと認める。その理由は、右認定に牴触する当審における被告勇三郎の供述は原判決挙示の各証拠並びに当審における原告本人尋問の結果と対比して信用することができないと附加する外、原判決理由中四、(一)の記載部分と同一であるからここにこれを引用する。
2、しかし、右譲渡契約の効力は被告会社との関係では別値の考察を必要とする。原告は本件株式の譲渡契約は株券発行準備の合理的期間経過後になされ、しかも会社がこれを承認して株主名簿、株式台帳にその移動関係が登載され、これに基づいて会社が株券を発行したから、右株式の譲渡は会社に対しても効力を生ずる。かく解さねば、会社が事実上株式の譲渡を禁止することが可能となり、又後に発行された株券が偽造株券と同一化し取引界に由々しき問題を惹起するに至る旨主張する。しかし商法は株式の自由譲渡性を保障(同法二〇四条一項)しながらも、その譲渡方法は、株主たる地位を表彰する要式の株券による(同二〇五条一項、二二五条)べきものとし、株券の発行前にした株式の譲渡は、「会社ニ対シ其ノ効力ヲ生セズ」(同二〇四条二項)としているのであつて、その法意は、いわゆる「対抗スルコトヲ得ズ」とある場合と異なり、会社に対する関係においてはなんらの効力をも生じないとするにあるのであり、従つて会社からもその効力を認め得ないものと解しなければならない。けだし、このような制限を法定したのは、株券発行の渋滞を防ぐという技術的理由によることもさることながら、株券発行前の譲渡方式に一定されたものがないことによる法律関係の明確かつ画一的処理による法的安定性を一層重視したるによるものと解すべきだからである。株券発行に要する合理的期間経過後の株式譲渡は会社に対しても効力を生ずるとする解釈もあるが、いわゆる合理的期間の算定が会社の規模その他の事情により区々となつて法律関係の混乱を生じ、右の法意に反する嫌を免れない。
もつともこのように解するの結果は、その成立後不当に株券の発行を遅延しても、株券の未発行を理由として株式譲渡の効力を否認することができることとなるのであつて、このように株式譲渡の自由を事実上制約し得る可能性を会社に付与するような解釈を採ることは株式の自由譲渡性を規定した法の精神に照して許さるべきでないとすることは、たしかに一理あることで、株式の経済的機能との関連においても考量の余地がないとはいえないであろう。さればといつて、その故に前記法意が軽視されてはならないのであり、右のような場合は、株主に株券発行交付の請求権があることは当然でその他会社に対して損害賠償の請求権をも妨げないのであるから、これらの権利の行使につき多少の不便不利があるとしても、前記の法意に変更を加え、商法第二〇四条二項を以て株券発行準備の合理的期間内における株式譲渡の効力を否定するにとどまるものとし、右合理的期間の経過後は、株券の発行がなくても会社において株式の譲渡のあつたことを承認した以上、株式の譲渡は会社に対する関係においても効力を生ずるものと解することは首肯できないのみならず、既に株券発行前における株式譲渡は会社からもその効力を認め得ないと解する以上、後に譲受人に対し株券が発行されても、発行前の譲渡が有効となるいわれはない。従つて譲受人に対して後に発行された株券が無効とされることも止むを得ないところといわねばならない。
(最高裁判所昭和三三年一〇月二四日判決民集一二巻一四号三一九四頁参照)
原審証人松井豊、原審における原告本人尋問の結果により成立が認められる甲第六号証の一ないし二一、同第七号証の一ないし五七と原審証人松井豊、原審における原告本人尋問の結果を綜合すると、被告会社は昭和二八年五月六日原告の請求に基づき被告勇三郎の原告に対する単純なる意思表示による本件株式譲渡を承認し被告会社備付の株主台帳にその旨登載すると共に、同年六月二五日頃株券の一般発行を行つたが、そのうち原告が被告勇三郎より譲受けた株式の株券は被告勇三郎が株主であつたことをなんら表示することなく、原告を原始株主として表示し、直接原告に交付されたことが認められるが、右株券の発行により被告勇三郎から原告に対する本件株式譲渡が被告会社に対し効力を生じえないことは前段説示のとおりである。
されば、被告会社との関係では被告勇三郎は依然として一万六、〇〇〇株の株主たる地位を保有するものといわねばならないから、被告会社に対し被告勇三郎が株主でないことの確認を求める原告の請求は失当といわねばならない。
三、むすび
以上説示するとおりであるから、原告が被告勇三郎を相手方として同被告が被告会社の株主でないことの確認を求める請求はこれを認容し、被告会社を相手方として被告勇三郎が被告会社の株主でないことの確認を求める請求、本件株主総会の決議の無効確認を求める本位的請求及び右決議の取消を求める予備的請求並びに本件取締役会の決議につきその無効確認を求める本位的請求はいずれもこれを棄却し、その取消を求める予備的請求はこれを却下すべく、従つて原判決中被告勇三郎に対する原告の請求を認容した部分は正当であつて被告勇三郎の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、原告の控訴に基づき被告会社に関する一部符合しない部分を前記のように変更することとする。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条第九二条に従い主文のとおり判決する。
別紙 一審判決の別紙と同一につき省略