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札幌高等裁判所 昭和35年(ラ)23号 決定 1961年3月28日

抗告人 北海道信用保証協会 代表者理事 田中時次郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告申立の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

本件記録によれば、抗告人は申立外株式会社北海道拓殖銀行が昭和二四年一月一〇日債務者加藤繁一との間に同人所有の別紙目録記載の土地、建物及び同(3) 記載の建物内に備付たる機械器具につき債権極度額金五〇万円とする工場抵当法第三条による根抵当権設定契約を締結し、同月一七日右設定登記を経由し、右契約に基いて手形貸付により金五〇万円を貸与したが、債務者加藤において右債務を返済しなかつたので、抗告人と右債務者との間の保証委託契約により昭和二八年九月二六日右加藤のために右債務元利金を代位弁済し、同月三〇日右債権とともに抵当権の移転を受け、その附記登記を受けて、昭和三三年三月一五日原裁判所に前記抵当物件につき競売手続の申請をし、原裁判所が同月一七日右物件につき不動産競売手続開始決定をし、鑑定人中野見竜に競売物件の評価を命じ、同鑑定人において住宅、店舗、工場、宅地につき坪当り基準価格を評価して競売の目的である宅地、建物、機械器具の総括価格を評価したので、これに依拠して原裁判所が個々の土地建物毎に最低競売価格を定めて別紙目録記載の土地建物につき同時に個別競売に付したところ(ただし、同目録(3) 記載の建物内に備付たる機械器具は同建物と一括して競売に付した。)、昭和三四年一一月二日第三回競売期日に競買人馬木弁吉が別紙目録(1) 、(2) 記載の建物につき最高価の競買申出をしたので、原裁判所は同月六日競落許可決定をし、同決定は確定し、代金完納したので、残余の土地二筆及び工場並びに同工場内備付の物件につき昭和三五年二月三日の新競売期日を指定し公告したところ、抗告人から同日受付印の書面を以て競売裁判所に対し一括競売を申立てたが、容れられないで個別競売に付せられた結果、別紙目録(5) 記載の土地につき競買を申出た馬木弁吉に本件競落許可のなされたことが認められる。

抗告人は、本件抵当物件は一括競売に付すべきであつて、これを個別競売に付したのは違法であるというけれども、同一の債権を担保するため数個の土地及び建物並びにその建物に備付けた機械器具の上に工場抵当法第三条による抵当権が設定され、債権者がその抵当権の実行として右抵当物件全部につき同時にその競売を申請し、競売裁判所においてこれを同時に競売に付する場合、工場建物及び工場備付の機械器具はこれを包括して競売しなければならないけれども、土地、建物については各別に競売することが原則であつて、競売裁判所が適当と認めるときは一括して競売することができるのであつて、その個別競売にするか一括競売にするかは競売裁判所の裁量によつて決することができ、必ずしも債権者の一括競売の申立に拘束されるものではないと解するのが相当である。けだし工場建物に工場抵当法第三条により設定された抵当権の効力がその建物に備付けられた機械器具に及ぶことは同法第二条の規定により明らかであるから、工場建物とその備付の機械器具とは包括して競売に付しなければならないことは論のないところであるけれども、土地と建物とはたとえ同一の債権を担保するため同時にこれに工場抵当法第三条による抵当権を設定した場合であつても、建物に対する抵当権の効力は土地に及ばないものであることは同法第二条の規定の趣旨から窺えるのであつて、土地と建物とは同一の債権のため共同担保となつているにすぎないから、これに普通の抵当権を設定している場合と異ならないので、これを同時に競売に付する場合、個別競売にするか一括競売にするかは競売裁判所の自由裁量によつて決することができるものというべきである。したがつて、原裁判所が前記物件につき別紙目録(3) の建物とその備付機械器具とを包括したほかは、土地建物各別に競売に付し、抗告人の一括競売の申立を容れなかつたのは、あながち違法の措置とはいえない。もつとも別紙目録記載の土地建物は同一場所に隣接して存在するものであつて、馬木弁吉が競落した別紙目録(1) 、(2) 記載の建物は道路に面した店舗であり同(5) 記載の土地は同様道路に面した右建物の敷地の一部であり残存物件である同(3) 、(4) 記載の建物及び土地は右競落物件の裏側にあり、片側小路を通行してこれに出入しなければならないものであることは、抗告人提出の本件物件の現場の見取図により窺えるけれども、右残存物件のみを競売に付した場合、前記競落物件と一括して競売に付した場合に比し、その競売価格が不当に低落し、或は競買申出人が不当に少くなり、債権者に不測の損害を与えるものと認めるべき資料はないから、原裁判所が前記個別競売にするか一括競売にするかの裁量を誤つたものといえない。

よつて抗告人の主張は理由がない。

なお抗告人は別紙目録(1) (2) 記載の建物につき、その登記簿上の坪数と実測坪数とが相違していることをも理由として、右建物につきなされた競落許可決定の取消を求めると主張するけれども、右決定はすでに確定しているのであるから、これを採用すべき限りでない。

その他記録を精査しても、原決定には、これを取消すべき事由はない。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 南新一 裁判官 田中良二 裁判官 輪湖公寛)

目録

(1)  北海道雨竜郡深川町字メム二〇番地の三

家屋番号 三、四丁目区第七四番

一、木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平家建店舗 一棟

建坪 二四坪二合五勺

(2)  同所同番地の三

家屋番号 三、四丁目区第七五番

一、木造亜鉛メツキ鋼板ぶき二階建店舗 一棟

建坪  一八坪

二階坪 一二坪

(3)  同所同番地の三、六六九番地の二

家屋番号 三、四丁目区第七七番の二

一、木造柾ぶき二階建工場 一棟

建坪 一〇〇坪

外二階 一〇〇坪

(4)  同所二〇番地の三

一、宅地 一四四坪

(5)  同所六六九番地の二

一、宅地 八坪二合五勺

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