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札幌高等裁判所 昭和36年(ネ)40号 判決 1968年4月24日

控訴人 佐藤彰朔 外一名

被控訴人 札幌通商産業局長

訴訟代理人 岩佐善己 外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事  実 <省略>

理由

当裁判所も控訴人佐藤彰朔が本件試掘権の設定をうけて以来本件鉱区において探鉱してきたはり質流絞岩は法定鉱物たる「けい石」ではなく、また控訴人らが右はり質流紋岩以外の「けい石」を探鉱した事実は認められず、したがつて被控訴人のなした本件不許可処分は結局において相当であり、これが取消を求める控訴人らの本訴請求は失当であると判断するものであつて、その理由は次に附加訂正するほか、原判決理由欄に記載するところと同一であるからこれを引用する。

一、原判決一四枚目裏六行目「……ものであり、」の次に左のとおり挿入する。

右にいう法定鉱物とは鉱物学、岩石学上の鉱物と異り、鉱業法三条により特定された種類の地下資源であつて、土地所有権の範囲から除外され同法による保護と監督をうける対象となるものであるから、その品位、埋蔵量、鉱床の位置賦存状況、時代の科学技術の水準、経済的需要等の諸条件に照らしてその掘採が同法による保護と監督を必要且つ妥当とする未掘採の地下資源をいうものと解すべく(この点当事者双方に異論がない。)

二、同一四枚目裏終から二行目から一行目にかけての「或いは登録された鉱物と同種の鉱床中に存する鉱物」を削る。

三、同一五枚目表七行目以下一六枚目裏三行目までを削り、同所に左のとおり挿入する。

(一)  ところで控訴人らは、右にいう法定鉱物該当性の認定は時代の科学技術の水準、経済的需要等を勘案して流動的になさるべく、制限的解釈をすべきでない旨主張するが、ある地下資源が法的鉱物であることすなわち鉱業法適用の対象であるということは、鉱業権者にその地下資源を掘採しうる権能を与えるものである反面、他方においてそれを埋蔵する土地の所有権の効果を減殺する効果をもたらすものであるから、同法第三条列挙の各鉱種はみだりに拡張して解釈すべきではなく、本来その意味するところに従つて解釈すべく、試掘権を含む鉱業権の設定に当つては、当該出願にかかる鉱物に稼行価値のあることを要するのは当然であるが、逆に右鉱物に稼行価値があるからといつて、そのことから直ちに右鉱物を法定鉱物と認定しなければならないものではなく、法定鉱物該当性の認定は前述の理由により厳格になさるべきである。

この点につき、控訴人らは従前の行政解釈において本来ある法定鉱物に該当するとは認められていなかつた資源をその成分が近似し且つ用途が本来法定鉱物とされていたものと同様であるとの理由によつて後に法定鉱物と認められた事例があると主張するので按ずるに、控訴人らの主張するような次の(イ)ないし(ホ)の事例が認められる。

(イ)  けい砂が「けい石」と認められた事例

成立に争いのない甲第四〇号証の二(鉱業例規集三五一ないし三五三頁)によれば、昭和二八年九月二日通商産業省鉱山局長は大阪通商産業局鉱山部長に対し、海浜地に存するけい砂のうち原砂でけい酸分が九〇パーセント以上あり、また、賦存量も充分あつて明らかに鉱業として価値がある場合には、これを鉱業法上の「けい石」として取り扱つて差支ない旨を回答したことが認められる。

(ロ)  貝化石が石灰石と認められた事例

成立に争いのない甲第四〇号証の三(鉱業例規集三七〇ないし三七一頁)によれば、比較的小形の貝類が密集堆積したうえ化石となつた貝化石で炭酸カルシウムCaCO3 が平均四六・三%あるものにつき「肥料用石灰石として十分利用価値がある」として、埋蔵量も相当あり、その掘採が鉱業の経済的価値があるものにつき、これを石灰石と認めた事例があることが認められる。

(ハ)  奄美群島に賦存する「トラバーチン」が石灰石と認められた事例

成立に争いのない甲第四〇号証の五(鉱業例規集三九一ないし三九二頁)、同第二七二号証(昭和三八年二月一四日付大島支庁長の回答書)によれば、奄美群島において「さんごしよう」岩石を「トラバーチン」と称し、これを掘採して建築用資材として用いているが、その化学成分において石灰CaO五一・二二%を含み、埋蔵量が相当あり、かつ経済的価値があるとして、石灰石として取り扱つて差支えないとした事例のあることが認められる。

(ニ)  磁硫鉄鉱が硫化鉄鉱と認められた事例

成立に争いのない甲第四〇号証の六(鉱業例規集四〇五頁)によれば、磁硫鉄鉱の「成分ならびに用途が硫化鉄鉱と相似している」として、硫化鉄鉱として取り扱うべきものとされたことが認められる。

(ホ)  軟けい石が「けい石」と認められた事例

成立に争いのない甲第五一、五二号証(「軟けい石について(照会)」およびその回答)によれば、昭和二八年六月二六日通商産業省鉱山局長は広島通産局長に対し、けい酸分が九〇%前後ある軟けい石につき、この程度の軟けい石であれば、セメント工業においてけい酸又はアルミナ等の補給を目的として添加使用しうるばかりでなく、耐火材料としても使用できることを理由にあげ、「けい石」として取り扱うべき旨を回答したことが認められる。

以上のような各事例があるが、右はいずれもその経済的価値とか埋蔵量とかのみならず、その用途が当該法定鉱物の従前からの用途と同様であることや成分が近似していることに着眼して、その生成の原因や産状、組成の相違にもかかわらず、これを当該法定鉱物として取り扱うべきものとしたにすぎないのであつて、他面成立に争いのない甲第四〇号証の七(鉱業例規集四〇七ないし四〇八頁)によれば、鉄分があることのみでは直ちに鉱業法上の鉄鉱とはいえず、一応製鉄用原料として鉄分を製錬抽出しうる程度の品位を必要とするとし、鉄分が二六ないし二八%、平均二七%にすぎない肥鉄土につき耕土培養法にいう含鉄物(客土用)として経済的価値があるとしても、製鉄用原料として使用することは不可能に近いから鉄鉱とは認められないとした事例のあることが認められるのであつて、右(イ)ないし(ホ)の事例は行政解釈において控訴人らの主張する意味での法定鉱物該当性に関する流動的解釈がとられていたことの裏付けとはなし得ないものと解するを相当とするから、この点からする控訴人らの主張は採用し難い。

本件において争われている「けい石」についても同様であるが、本来「けい石」という用語自体特定の鉱物や岩石に付せられ、厳密に定義づけられた学術用語ではなく、工業界主として窯業方面において用いられてきたところのある種の原材料の総称であり、いわば商品名であることは当事者に争いのないところであつて、本件鉱物(あるいは岩石)の法定鉱物該当性の認定に当つては、従来一般に「けい石」とされてきた地下資源の範囲を検討し、その範囲内にある地下資源の共通点を明らかにすることによつて帰納的に「けい石」を定義づけ、更にこれに鉱業法による保護と監督の必要性を加味しつつ法定鉱物たる「けい石」の範囲を定め、本件鉱物(あるいは岩石)がこれに当るか否かを検討すべきである。

(二)  鉱業法第三条にいう「けい石」について、

(1)  従来窯業その他において「けい石」として取り扱われてきた地下資源の範囲

成立に争いのない甲第一二四号証の二(平凡社世界大百科事典九巻一六七頁)、同第一二五号証の二(同上四巻八五九頁)、同第七八号証の二(吉田国夫著「鉱産物の知識と取引」三二頁)、同第七六号証の二の四および五(日本鉱産法III 六ないし一五頁)、同第一二三号証の二(日本化学会編「鉱物と窯業の化学」一〇五頁)、同第一六二号証の二(岡本要八郎、木下亀城共著「鉱物和名辞典」三一三頁)、乙第一八号証(「地質ニユース」一四号抜すい)、同第一九号証(同上一五号抜すい)、同第三四号証の六(田賀井秀夫著「無機材料」二四ないし二五頁)によれば、従来「けい石」として取り扱われてきた地下資源をその用途産状等によつて分類すると、おおむね次のとおりであることが認められる。

(A) 白けい石

a ペグマタイト白けい石-白けい石中最も純度が高く、多くはけい酸分SiO2 九〇%以上

b 石英脈の白けい石-金属鉱床に伴う石英脈にはFe2O3やAl2O3が多く、均一な部分の鉱量が少いことなどから、けい石として利用されるものは稀であるが、ときに「けい石」と呼ぶに足るものがある。

c けい岩質白けい石-けい岩、チヤート、石英片岩で多くは普通SiO2 が九〇%前後で「けい石」としての価値は低いが、部分的に変質作用により九五%以上になつていることがあり、その場合には「けい石」として利用される。

d 明ばん石鉱床に伴う白けい石-SiO2 九八%のものが鉱石として利用される。明ばんの影響によりAl2O5 分は大幅に変化するが、Fe2O3 などの不純分は殆んど見られない。

これらの白けい石はその純粋なもの石英は光学ガラスの主原料であり、その他板ガラス、ガラス製品、カーボランダム、フエロシリコン、陶磁器、鋳物砂、炉床砂、製錬溶剤に使用される。一般に「けい石」というときは、この白けい石を指称するのが通例である。

(B) 炉材けい石

けい石耐火煉瓦の主原料となる「けい石」を総称して炉材けい石という。これは単にSiO2 の含有量が多いことのみで品位を決定できないので、耐火煉瓦としての物理的諸性質の優劣が主要な要件となる。

a 赤白けい石および青白けい石-漆成角礫けい岩とも呼ばれるべきもので、角礫状の赤(青)色のチヤート質部分をとこれを貫いて間隙をみたしている白色の脈石英質分とからなり、赤白けい石はチヤートのもつ特質と脈石英のもつ特質とがともに生かされて平炉天井用煉瓦として良好な性質を具有する。

b けい岩(白けい石)、石英片岩-けい石の部には顕微鏡的におおむね赤白けい石と同様の構造を有するものがあり、平炉天井用に用いられる。石英片岩はまだ耐火煉瓦として使用されていないが、将来当然使用しうる可能性がある。

(C) 玉石、内張石

陶磁器原料用のボールミルの内張および玉石には主として「けい石」が用いられる。玉石として使用されるのは海岸河川等に産するけい石礫であつて、普通けい岩質のもの、あるいはめのう質のものが使用され、内張石は玉石とほぼ同様な質を有するものであつて、適当な大きさに加工しうる「けい石」が使用される。

(D) けい砂

石英結晶をもつ岩石の分解によつて生じたものであり、常に原岩の他の成分が不純分として混入している。海浜けい砂と山けい砂の二種類があつて、ガラス製品、鋳型、研磨用などに用いられる。

(E) 軟けい石

けい岩、石英片岩が風化を受けたもので、土状を呈し、SiO2 は九〇%程度で粘土類が常に含まれている。耐火モルタル、セメント混和剤あるいは築炉用メジとして使用される。

「けい石」の最も純粋なものは石英であり、その結晶形により鱗けい石、クリストバル石、水晶などの形をとり、また非晶質の場合、水を含むときは蛋白石であり、水を含まないときは「めのう」である。一般には純粋の石英に近い程良質な「けい石」といわれ、白けい石、炉材けい石、玉石、内張石などは特に不純物たるFe2O3 やAl2O3 の少いことが要求されるのである。

(2)  行政官庁により「けい石」とされてきた地下資源の範囲

行政官庁たる資源庁あるいは通商産業省の解釈では、法定鉱物たる「けい石」とされるべき地下資源の範囲には多少の変遷がないわけではない。即ち、

(A) 成立に争いのない甲第四八号証(「鉱業法等の解釈および運用に関する通達の送付について」と題する書面)によれば、「けい石」が法定鉱物と定められた現行鉱業法施行当時である昭和二六年五月一一日に発せられた資源庁鉱山局長の通達において、「けい石」には海浜地に存する砂礫状のもの(けい砂)、「けい石」に属しない軟けい石、「めのう」および水晶を含まないものとされていたことが認められる。

(B) 成立に争いのない甲第五〇号証(「鉱業法上のけい石の解釈について」と題する書面)によれば、その後昭和二八年二月二六日通商産業省鉱山局鉱政課長は大阪通商産業局鉱山部長に対し、けい砂につき、風化分解して鉱床から離脱し、現地またはその付近において堆積したいわゆる山けい砂は鉱業法上「けい石」として取り扱うが、風化分解したものが自然力により移動し、海浜地のみでなく河川中その他の場所に砂状をなして堆積しているものは、これを「けい石」として取り扱わないとし、また玉石については、河床中に転石している玉石が自然力により他から移動してきて砂礫状をなして堆積している場合には、これを鉱業法上の「けい石」として取り扱わない旨を回答したことが認められる。

(C) 昭和二八年六月二六日通商産業省鉱山局長が広島通商産業局長に対し、けい酸分が九〇%前後ある軟けい石につき、この程度の軟けい石であれば、セメント工業においてけい酸又はアルミナ等の補給を目的として添加使用しうるばかりでなく、耐火材料としても使用できることを理由にあげ、「けい石」として取り扱うべき旨を回答したことは、さきに説示したとおりである。

(D) 昭和三八年九月二日通商産業省鉱山局長が大阪通商産業局鉱山部長に対し、海浜地に存するけい砂のうち原砂でけい酸分が九〇%以上あり、また賦存量も充分あつて明らかに鉱業として価値がある場合には、これを鉱業法上の「けい石」として取り扱つて差支えない旨を回答したこともまたさきに説示したとおりである。

(E) 成立に争いのない甲第五三、五四号証(「同種、異種鉱物の取扱について〔照会〕」およびその回答)によれば、昭和三一年一月二六日通商産業省鉱山局長は福岡通商産業局長に対し、花こう岩質の石英に富む粗粒砂岩の軟弱部でけい酸分が七〇%以上あつて、膠結しかつ地層の一部をなしているもので、鋳物用およびガラス原料として使用されている山けい砂につき、これを「けい石」として取り扱つて差支えない旨を回答したことが認められる。

(F) 成立に争いのない甲第二一号証(「鉱業法第三条のけい石の定義について」と題する通達本件通達)によれば、通商産業省鉱山局長は昭和三一年五月七日「鉱業法第三条の『けい石』の定義について」と題する通達を発して「けい石」の範囲に関する行政解釈の統一をはかり、「けい石」の範囲を次の表にかかげる範囲に限定したことが認められる。

表<省略>

以上のように行政官庁の解釈には、けい砂や軟けい石について多少の変遷があり、「めのう」、水晶は「けい石」とされず、また玉石も「けい石」とされていないのであるが、いずれにせよ前記(1) に説示したところの窯業その他において「けい石」として取り扱われてきた地下資源の範囲を超えるものを「けい石」として認めたことはないことが認められる。而して「めのう」、水晶等が「けい石」として取扱われていないのは、その埋蔵量が乏しいことなどから鉱業法による保護と監督の対象とするに適しないためであり、また海浜けい砂や玉石が「けい石」から除外されているのも、その賦存状態から一般鉱物の掘採事業種特殊な技術を必要としないし、また危険も少く保安監督上の考慮もあまり必要ではないことなどの理由によるものと解せられるのである。

(3)  以上から帰納される「けい石」の定義

成立に争いのない甲第一一六号証の二(坪井誠太郎の昭和三四年一〇月三〇日付回答)、乙第二五号証(函館地方裁判所昭和三二年(ワ)第三四五号事件の鑑定人今井秀喜の尋問調書)、同第二六号証(右鑑定人今井秀喜作成の鑑定書)、同第三四号証の一(右事件の証人鈴木醇の証言調書)、同第五二号証(右事件の鑑定人山田久夫の鑑定書抄本)、同第五七号証の一(右事件の証人山田久夫の証言調書)、原審証人今井秀喜、当審証人牛来正夫、同牛沢信人の各証言および原審における鑑定人牛沢信人の鑑定の結果によれば、これら「けい石」と呼称されてきた地下資源の共通点は、単にけい酸に富むということのみではなく、用途によりその含有量に絶対値はないとはいえ、他の元素と化合していないけい酸分、いわゆる遊離けい酸鉱物(その代表的なものは石英である。)の含有率が排多的、独占的に高率であることにあること、このことは「けい石」が産業上有用とされるのはけい酸分自体の物理的化学的性質を利用することにあるが、現在および近い将来の工業技術をもつてしては、けい酸塩からけい酸分を遊離状態におくことにより、その品位を高めることが工業的には不可能であつて、「けい石」を原料として使用する場合は、そのままこれを使用するほかはないため、不純分の混入はできるだけ少いことが望ましく、たとえけい酸分が多くても、これが不純分と結合したけい酸塩の形で存在するものは、これを使用し難い事情によること、従つて控訴人らの主張するような無水けい酸説は採用し難いこと、ただ蛋白石など遊離けい酸鉱物とはいえないが、焼成により水分を分離し、けい酸分のみとすることが容易なため「けい石」に含めて考えることができるに過ぎないことが認められる。従つて一応「けい石」の定義としては、遊離けい酸鉱物を主成分とする地下資源をいうものとすることができ、右定義は「けい石」の性能と用途を無視したものではないというべきである。なお鉱業法上の「けい石」としては、その埋蔵量や採掘方法などから、ある程度の制限を受くべきものと考えられる。

もつとも控訴人ら引用の諸文献によると、「けい石」の定義づけとして遊離けい酸鉱物という用語が用いられたことは、単に無水けい酸SiO2 という化学組成に着眼して定義づけられていることが認められる。即ち、前顕甲第一二五号証の二、同第七八号証の二、同第一二三号証の二、同第一六二号証の二、乙第一八号証、成立に争いのない甲第七四号証の三「吉本文平著「鉱物工学」一三〇頁)、同第一五八号証の二(香坂要二郎著「解説工業化学」)などがこれであるが、このように定義づけているとはいえ、その記述するところはおおむね前記(1) に認定した各地下資源の範囲にとどまるのであつて、右範囲を逸脱し、必ずしも遊離けい酸鉱物を主成分としないところのけい酸質の地下資源までも「けい石」として取り扱うべく定義づけをしたものとは認められない。

また控訴代理人宛の書簡等にあらわれた諸学者の定義づけの中にも、一見無水けい酸SiO2 を主成分とするということだけから「けい石」を定義づけているように見られる書簡もないではない。成立に争いのない甲第一三号証の二(滝本清の昭和三三年九月二四日付回答)、同第一四号証の二(内田義信の昭和三三年一〇月一日付回答)、同第一五号証の二(木下亀城の昭和三三年一〇月二日付回答)、同第一六号証(関根良弘の昭和三三年一〇月一五日付回答)、同第一七号証の二(八木原郁郎の昭和三三年一〇月二三日付回答)および同第一二七号証の二(山口悟郎の昭和三四年一〇月一九日付回答)がこれであるが、いずれも以下に説示するとおり、簡単に記述した書面であつて、本件の如き争点を明確に把握して回答した記述とは認められないのみならず、以下の諸点からしても(1) に認定した範囲外のけい酸質地下資源をも「けい石」として取り扱う趣旨の記述とは解し難い。

(A) 前顕甲第一三号証の二は無水けい酸を主成分とする岩石すべてを「けい石」と呼ぶべき旨を記述しているのではなく、その「特殊のもの」につけた商品名であるとしている点、また控訴代理人の定義づけを肯定するかの如き記述部分も「大体において貴見でよい」としている点などに照らし、さほど遊離けい酸鉱物に富まないけい酸質岩石までも「けい石」として取り扱う趣旨を記述したものとは解せられない。

(B) 前顕第一四号証の二には無水けい酸を主成分とする鉱物又は岩石の総称である旨の記述があるが、それが単に無水けい酸を主成分とすることだけで広く「けい石」と呼称すべきものとする趣旨であるとは解し難い。

(C) 前顕甲第一五号証の二にも「けい酸を主成分とする岩石に対する名称」という趣旨の記述があるが、右記述に続き「けい酸は大部分が石英であるが、蛋白石のこともあり、鱗けい石やクリストバル石を混えるものもある」旨を記述している点、岡本要八郎との共著となつている前顕甲第一六二号証の二では「けい石」を無水けい酸の別名としているが、結晶質のものとして石英、非晶質のものとして蛋白質をあげなお軟けい石白けい石赤白けい石青白けい行けい酸質の砂岩などいずれも遊離けい酸鉱物を主成分とする地下資源をあげているに過ぎない点などからして、単にけい酸を主成分とすることのみによつて広く「けい石」と呼称すべきであるとの趣旨で記述したものとは解し難い。

(D) 前顕第一六号証も「SiO2 なる組成を有する鉱物およびそれが主成分である岩石」が「けい石」であると説明しているが、当審証人関根良弘の証言によれば、右は表現方法が不充分なためそのように記載したにすぎず、右「SiO2 なる組成を有する鉱物」というのは石英を指称するというのであるのみならず、右記述に続き、「けい石」の例として白けい石、炉材けい石などをあげているにすぎないことに照らしても、単にけい酸成分に富むことのみによつて「けい石」と呼称さるべきであるとの趣旨を記載したものとは解せられない。

(E) 前顕甲第一二七号の二にも無水けい酸を主成分とする鉱物は広い意味ではすべて「けい石」である旨の記述があるが、右の「広い意味」はむしろ水晶「めのう」などをも「けい石」に含めてよいとの趣旨であることが明らかであること、右書面には、「けい石」は大部分が石英の形態のものであるが、Al2O3などがあるからには、これと結合しているものも僅かにあると考えるべき旨の記述があること、更に前顕甲第一二三号証の二は「けい石」とは無水けい酸から成る鉱物であるとし、石英、クリストバル石、トリジマイト、赤白および青白けい石について記述していることなどからすれば、むしろ遊離けい酸鉱物を主成分とする地下資源を「けい石」と考えて記述しているものと解せられる。なお、前顕甲第一七号証の二には、東京教育大学教授須藤俊男が「けい石」とは無水けい酸を主成分とする岩石の名称であると述へた旨の記載があるが、右記載が同教授が無水けい酸を主成分とする岩石をひろく「けい石」と呼称すべきであるとの見解に立つているか否かは必ずしも明らかではない。

ところで、このように遊離けい酸鉱物に着眼せず、化学成分としてけい酸分に富む岩石をひろく「けい石と呼称すべきだとする見解(無水けい酸説)もないわけではない。例えば成立に争いのない甲第二八二号証の二(札幌高等裁判所函館支部昭和三七年(ネ)第五三号事件の証人飯田忠重の証言調書)およびこれによつてその成立が認められる甲第二六〇号証の二(愛知県工業指導所長作成名義の鑑定成績書)に示された見解はこれであり、成立に争いのない甲第二八九号証(前記事件における証人須藤勝美の証言調書)とこれによりその成立が認められる甲第一〇一号証(同人の「奥尻島のけい石鉱床について」と題する書面)、同第一〇五号証(同人の昭和三四年一〇月五日付書簡内容)、原審および当審証人須藤勝美の証言、当審証人長谷川毅の証言(第一、二回)により成立が認められる甲第一五一号証(長谷川毅薯「鉱業法上のけい石〔珪石〕の意義について)」、成立に争いのない甲第一〇二号証の二(同人著「鉱山局長のけい石の定義〔虚偽公文書〕を糺す)」、弁論の全趣旨によりその成立を認むべき甲第二三七号証の二(同人著「奥尻島『珪石』路奪事件の真相」)に示されるところの「無水けい酸SiO2 を主成分として経済的に稼行しうる鉱物又は岩石であつて、鉱業法第三条および採石法第二条に別名として規定されていないものをいう」との見解もまたけい酸という化学成分を基礎とする見解であり、成立に争いのない甲第一四八号証の二(牛尾広恵の昭和三五年三月七日付回答)に記述されているところもこれに同調するもののように窺われる。しかしながら、前顕乙第五二号証によれば、「けい石」の「けい(珪)」という文字はもともと「けい(珪)素」(Si)という元素名に由来したもので、必ずしも遊離けい酸鉱物を意味しない以上、このような考え方を理論的に否定することは困難であるにしても、また学者技術者中には現在そのような定義づけがなされていることを肯定するわけではないが、そのような定義づけをしても差支えないとする者が少数ながらあるにしても、このような見解が窯業方面その他において一般的見解となることは近い将来には予想されないことが認められるのみならず、前顕甲第七八号証の二および成立に争いのない乙第三四号証の一(函館地方裁判所昭和三二年(ワ)第三四五号事件の証人鈴木醇の証言調書)によれば、けい素は地殻の構成元素として酸素についで多く、無機化合物の世界をつくる代表的な元素で、殊にその気圏および水圏を除いた岩石圏ではその約二八%を占めているが、天然には遊離して産出することはなく、無水けい酸または種々のけい酸塩として存在するので岩石圏においてけい酸分を占める割合は凡そ六〇%にも達することが認められるから、もし化学成分としてけい酸分に富むことに着眼してその岩石をひろく「けい石」と呼ぶならば、その稼行価値の有無の点から多少の制限はあるにしても、「けい石」の範囲は不当に拡大してしまうことが明らかであつて、前記(一)に説示したところに照らし、かかる見解は到底とりえない。

なお、成立に争いのない甲第一一八号証(青森県工業試験場長城倉可成の昭和三四年一〇月一六日付書面)、弁論の全趣旨によりその成立を認めうべき甲第一一七号証の二(石川源二の昭和三四年一〇月一二日付書面)、同第一一九号証(名古屋通商産業局鉱山部鉱業課分折係の昭和三四年一〇月二〇日付書面)、同第一二〇号証(四国通商産業局鉱山部鉱業課分析係の昭和三四年一〇月二四日付書面)、同第一二一号証(広島通商産業局鉱山部鉱業課分析係の昭和三四年一〇月二〇日付書面)および成立に争いのない甲第一四〇号証の二(東京通商産業局の昭和三五年一月一四日付回答)、同第一五四号証の二(仙台通商産業局鉱山部長の昭和三五年一月二九日付回答)によれば、各地通商産業局等において「けい石」その他の土石の定量分析を依頼された場合、その分析結果では含有けい酸分が遊離けい酸鉱物であるか否かの区別なしにこれをも含めて無水けい酸として百分率で表示していることが認められるし、また従前「けい石」の品位を表示するについても遊離けい酸鉱物という概念が用いられずに、単にけい酸分の百分率で表示されていることは前記(1) 、(2) からも明らかであるが、これらは従来「けい石」という概念で呼称されてきた地下資源は遊離けい酸鉱物の含有率が排他的独占的に高率である地下資源であるという事実自体を左右するものではないし、また遊離けい酸鉱物を主成分とする岩石については、その化学分析の結果たるけい酸分の百分率は概ねその岩石における遊離けい酸鉱物の含有率即ちその品位を表示しているといえるわけであるし、更に化学分析によつては遊離けい酸鉱物の含有率を検出することは不可能であるから、右のような従前の分析結果の表示方法や「けい石」の品位の表示方法が前記のような「けい石」の定義づけと矛盾することはないというべきである。

(三)  そこで進んで本件鉱石(または岩石)が「けい石」の右定義に該当するか否かについて審究する。

(1)  本件鉱物(または岩石)の形状および成分

本件鉱物(または岩石)がはり質流紋岩であることは当事者間に争いがなく、前顕乙第三四号証の一、成立に争いのない乙第二一号証(鈴木醇、園木文平「北海道奥尻島の地質(其二)抜すい、地学雑誌第五六三号収録)、同第三五号証(札幌通商産業局、事務官三浦幸三、同技官佐藤博之の復命書)によれば、本件鉱物、(または岩石)は外観灰白色を呈するはり(玻璃)質で、流状層理を示し、斑晶として里雲母、石英を含むが、なかには暗黝色で介殻状断口を示し、黒曜石様の岩石に近似したものもあり、昭和九年にこれを調査した北海道大学教授鈴木醇によつてはり質流紋岩と名付けられたものであることが認められ、成立に争いのない甲第二号証(北海道立ブロツク建築指導所長浅野新一の証明書)、同第三号鉦(青森県工業試験場の分析試験証明書)、同第七号証(岩手県工業指導所長下斗米武の試験分析成績書)、同第八号証の一ないし四(大阪通商産業局の分析成績書)弁論の全趣旨によりその成立を認むべき同第六号証(粲鉱祉分析所の分析成績証明書)、同第一九二号証(財団法人工業振興会の試験結果証明書)、同第二三四号証の二(北海道大学釧路分室化学教室下田信男の分析結果回答)、成立に争いのない乙第二三号証(札幌通商産業局鉱山部分析課長の局内分析書)と前顕乙第二六号証および同第三四号証の一によれば、本件鉱物(または岩石)を化学分析すれば、化学成分としてけい酸SiO2 八一・二〇ないし七三・三七%、酸化アルミニウムAl2O3一六・四〇ないし一二・三六%のほか酸化鉄Fe2O3、石灰CaO、酸化マグネシウムMgO、酸化ナトリウムNa2O、酸化カリウムK2Oなどをそれぞれ少量づつ含有していることが認められるのであつて、けい酸分という化学成分にのみ着眼すれば、相当程度のけい酸分が含有されていることが認められる。しかしながら右各証拠によれば、本件鉱物(または岩石)のはり質部分はその重量比において九五・五ないし九六・二%を占め、斑晶部分としては石英〇・三ないし一・九%、斜長石一・〇ないし三・〇%、黒雲母〇・七ないし二・四%程度で全部で五%位であること、従つて前記定量分析の結果が示すけい酸分の大部分ははり質中に主としてけい酸塩として含有されていて、本件鉱石(または岩石)に含まれる遊離けい酸鉱物としてのけい酸分は極めて微量であるということができる。

されば本件鉱物(または岩石)はその形状名称が(二)(1) に説示した従前「けい石」と呼称されていた各地下資源のいずれにも該当しないのはもちろん、それらに共通するような遊離けい酸鉱物に富む岩石でもないことが明らかである。

ところで、控訴人らは「ノルム」計算により算定すると本件鉱物(または岩石)中に含まれる遊離けい酸は約四八・〇六を示すから、その主成分は遊離けい酸である旨主張し、右計算によれば遊離けい酸約四九・六八%を示すことは被控訴人も認めるところ一である。そして成立に争いのない甲第二二三号証の一、二(函館地方裁判所昭和三二年(ワ)第三四五号事件の証人外崎与之の証言調書)の記載によつてその成立が認められる同第一九七号証の二(外崎与之作成「ノルム分類法に基づく標準鉱物の組成とその重量比及びニグリ値に関する資料」の内容)、成立に争いのない甲第二二五号証の二(東京通商産業局の分析成績報告書)、弁論の全趣旨によりその成立を認むべき甲第一九〇号証の二(坪井誠太郎の昭和三六年四月二六日付回答)によれば、各所における本件鉱物(または岩石)の化学分析に基づき「ノルム」計算により遊離けい酸を算出すると、四八・〇〇ないし三二・七〇%を示すことが認められる。(右甲第一九七号証の二のNo. 3の計算書には七五・七八%と記載されているが、右は本件鉱物〔または岩石〕中のアルカリ成分Na2O・K2Oを表示していない札幌通商産業局の分析書〔前顕乙第二三号証〕を基礎にしたため、そのような計算となつたものと考えられる。前顕乙第三四号証の一参照)。しかしながら、成立に争いのない甲第二一七号証の二(久野久著「火山及び火山岩」)、弁論の全趣旨によりその成立を認むべき甲第一一二号証の二(坪井誠太郎の昭和三四年九月三〇日付回答)、同第一一四号証の二(坪井誠太郎の昭和三四年一〇月二五日付回答)、前顕甲第二二三号証の一、二、乙第五七号証の一によれば、「ノルム」計算による遊離けい酸の算出というのは、はり質火山岩のように鉱物組成の物理的測定が困難な岩石につき、これを分類するために定量分析の結果から飽和の原理により算出するもので、岩石中のけい酸分SiO2 全量のうち凡そ理論的に他の成分と結び付きうる限りのけい酸の量を算定して、右けい酸の全量からこれを控除した残量を遊離けい酸分として算出するものであること、従つて「ノルム」計算による遊離けい酸分の百分率は現実具体的にそれに相当する遊離けい酸鉱物が存在することを示すものではないから、それに含有される遊離けい酸鉱物の多寡を検するには意味がないといえる。のみならず、「けい石」の有用性はけい酸分自体を利用することにあるが、けい酸塩からけい酸分のみを抽出し遊離状態におくことが現在および近い将来の工業技術をもつてしては不可能であることはさきに説示したとおりであり、このことからすれば、「ノルム」計算による遊離けい酸の百分率が右認定の程度にとどまる以上、本件鉱物(または岩石)に含有されるけい酸分はこれを工業的に利用しうる状態にはないと認められるから、この点からも前記「ノルム」計算を根拠として本件鉱物(または岩石)が「けい石」であるということはできない。

控訴人らは更に本件鉱物(または岩石)は無水けい酸を七三・二三ないし八一・二〇%、平均七六・八三%を含有しており、広い意味で石英ということができるから、この点からも「けい石」と認定されるべきであると主張する。

たしかにはり質の岩石の場合でも、純粋あるいはほとんど純粋に近いはり質無水けい酸であれば「結晶質の遊離けい酸」(遊離けい酸鉱物)ではないが、けい酸分を工業的に利用する点において不純分というべきものがないこと、結晶すれば石英-遊離けい酸鉱物-となりうるものであることから、これを「けい石」に含めて考える余地がある。原審証人有田忠雄の証言によりその成立が認められる甲第九四号証の二(同人の昭和三四年八月一〇日付回答)中には「はり質けい酸分は広い意味で石英ということができる」旨の記述があるが、右回答記述中には「はり質無水けい酸とは非結晶質のけい酸分(SiO2+nH2O )を指称するものと思う。これは水分を失つ七結晶すれば石英となりうるという意味で石英分といえる。」との趣旨のものがあることからすれば、前記のような純粋またはほとんど純粋に近いはり質の無水けい酸について記述したものと解せられる。

また郵便官署の作成部分の成立につき当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によりその余の部分の成立を認めうべき甲第八八号証(長谷川毅から熊本清あて昭和三四年一月二四日発信電報の控)、同第八七号証(同じく昭和三四年一月二六日評価解釈)、弁論の全趣旨によりその成立を認めうべき同第九一号証の二(滝本清の昭和三四年一月三一日付回答)によつて窺われるところの「火山岩中のはり質無水けい酸の成分はSiO2 で石英の成分と同じで結晶学上の性質が異るだけであるから、広い意味で遊離けい酸である」旨の滝本清の見解や、郵便官署の作成部分の成立につき当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によりその余の部分の成立を認めうべき甲第八五号証(内田義信から長谷川毅あて昭和三四年一月二一日発信電報)、弁論の全趣旨によりその成立を認めうべき同第八九号証の二(内田義信の昭和三四年一月二三日付回答)によつて窺われるところの「火山岩中のガラス質無水けい酸も遊離けい酸、広い意味での石英である」との内田義信の見解は、前顕乙第二六号証中に示された火山岩のはり質部分は遊離けい酸とはいえないとの旨の見解ならびに前顕乙第三四号証の一中のこれらの表現を不適切とする旨の記載と対比すると、これら見解を容易に理解し難いが、もし右の如き水分を失つて結晶すれば石英ないし石英を主成分とする岩石になりうるような純粋またはほとんど純粋に近いはり質の無水けい酸につき記述したものとすれば理解することができないわけではない。しかしながら、本件鉱物(または岩石)のはり質部分は相当のけい酸分を含有するとはいえ、純粋またはほとんど純粋に近いものではなく、種々の他の化学成分が混在していることは前示化学分析の結果や「ノルム」計算による遊離けい酸分の算定の結果から明らかであつて、前記のような見解から、これを「けい石」と呼称することは失当であるというべきである。

(2)  本件鉱物(または岩石)の用途について、

ところで、本件鉱物(または岩石)により従来「けい石」を原料として製造されてきた製品と同じ部門に入るものを工業的に生産しうるならば、あるいはこれを「けい石」に含めて考える余地があるかも知れない。

前示(一)の(イ)ないし(ホ)のように従前の行政解釈において本来ある法定鉱物に該当するとは認められていなかつた資源をその成分が類似しかつ用途が本来法定鉱物とされていたものと同様であるとの理由づけによつて、後に法定鉱物と認められるに至つた事例があるからである。

そこで本件鉱物(または岩石)-はり質流紋岩-の用途を検討するに、前顕甲第二号証、同第一〇一号証、乙第二六号証、成立に争いのない甲第九号証(日本パーライト工業株式会社の事業計画書)、同第一〇号証(パーライトの図解)、同第一一号証の二(北海道立ブロツク建築指導所の第二回研究発表会検討)、同第二二六号証および同二二七号証(いずれも函館地方裁判所昭和三二年(ワ)第三四五号事件の証人田賀井秀夫の証言調書)、同第二二八号証(右証人田賀井秀夫提出の昭和三七年一月二〇日付「証言訂正の件」と題する書面)同第二三〇号証(同証人提出の昭和三七年一月三一日付「証言訂正補足の件」と題する書面)と当審証人田賀井秀夫の証言によれば、本件鉱物(または岩石)を適当に粉砕して熱処理をすれば、膨張し軽量多孔質となるため、その軽量性および防火、防音、断熱の効果を利用して、これとセメント、砂、石膏、粘土などを配合のうえ、軽量建築材、保温断熱防音材すなわちコンクリート骨材、ブロツク、耐火断熱煉瓦、壁板へ床板、タイル、プラスターなど広範な用途があること、三井金属工業株式会社その他においても真珠岩や黒曜石の焼成により同種の製品を製造販売していることが認められる。右によれば、本件鉱物(または岩石)は広い意味で窯素の原料として使用されているということができるが、前顕乙第二六号証、甲第二二六号証ないし第二二八号証、同第二三〇号証および当審証人田賀井秀夫の証言によれば、本件鉱物(または岩石)自体には耐火性も断熱性もないのであつて、右利用方法はそのけい酸分そのものの耐火性等を利用するのではなく、加熱により膨張し軽量多孔質となうたことを利用しているのであること、即ち本件鉱物(または岩石)の焼成物が耐火断熱材として利用されるのは多孔質となつて熱伝導度が低下することを利用しているのであり、従つて右焼成物単独では製造されず、耐火材の場合には耐火粘土と配合して製造されること、その膨張し軽量多孔質となる理由は、本件鉱物心または岩石)がけい酸分に富んでいるからではなくて、内部に多量の揮発成分-本件鉱物においては結晶水-を含有しているからであること、膨張しても決壊しないのは、けい酸分が含まれていることがその一因をなしているにしても、けい酸分に富んでいるということはこのような製品の原料となりうる必要条件ではなく、現にけい酸分はそれほど富んでいないある種の貝岩なども、性能は若干劣るところはあつても類似の原料として用いられていること、本件鉱物(または岩石)は加熱するとはげしく発泡して透明性を失うため、ガラス原料や陶磁器釉薬原料としては利用できないことなどが認められる。従つて本件鉱物(または岩石)はその用途からも前示(二)の(1) に認定した従来「けい石」として取り扱われてきた地下資源と全く相違し、その用途の観点からも「けい石」に含めて考えることができないものといわなければならない。

(3)  以上いずれの観点からしても、本件鉱物(または岩石)は「けい石」に該当しないものと判断すべきであり、この判断はその結論において前顕乙第二六号証によつて認められる山田久夫教授の見解、原審証人今井秀喜の証言によつて認められる今井秀喜教授の見解、原審証人有田忠雄の証言によつて認められる地質学者有田忠雄の見解、原審鑑定人牛沢信人の鑑定の結果および当審証人牛沢信人の証言によつて認められる牛沢信人教授の見解、前顕甲第二二六ないし第二二八号証、同第二三〇号証および当審証人田賀井秀夫の証言によつて認められる田賀井秀夫教授の見解、当審証人牛来正夫の証言によつて認められる牛来正夫助教授の見解ならびに前顕乙第三四号証の一によつて認められる鈴木醇教授の見解と一致するところのものでもあるし、成立に争いのない乙第五一号証の一ないし三(「岩石の呼称について)と題する書面およびその別紙二葉)によれば、本件鉱物(または岩石)のようなものは我国の窯業界においても「けい石」とは呼称されていないことが認められる。ただ、もし何らかの工業原料として使用しうるところのけい酸分に富んだ地下資源を広く「けい石」と呼称しようとする定義づけ(控訴人ら主張の無水けい酸説)に従うならば、本件鉱物(または岩石)もまた「けい石」に含めて考えることができようが、かかる定義づけが到底採用し難い見解であることは、さきに詳細判示したとおりである。本件鉱物(または岩石)を「けい石」であるとする前顕甲第二六〇号証の二、同第二八二号証の二に示された飯田忠重の見解、前顕甲第一〇一号証、同第一〇五号証、同第二八九号証および当審証人須藤勝美の証言に示された同証人の見解、前顕甲第一五一号証、同第一〇二号証の二、同第二三七号証の二および当審証人長谷川毅の証言(第一、二回)に示された控訴代理人長谷川毅の見解はいずれもおおむね右の定義づけに立脚して本件鉱物(または岩石)を「けい石」であると主張しているものであつて、採用の限りでない。また前顕甲第二三四号証の二(下田信男の分析結果回答)、弁論の全趣旨によりその成立を認めうべき同号証の三(下田信男の昭和三七年一月一九日付回答)に示されている本件鉱物(または岩石)を「けい石」であるとする下田信男教授の見解も、採用し難い。また前顕甲第三号証、同第七号証、同第八号証の一ないし四には本件鉱物(または岩石)の品名物件名として「珪石」と記載され、前顕甲第六号証には産地符合として「北海道奥尻岬内鉱山珪石」と記載され、成立に争いのない甲第五号証(工業技術院地質調査所長の成績書)には品名として「珪石若しくは黒曜石」と記載されていることが認められるが、成立に争いのない乙第二七号証(札幌法務局長の青森県工業試験場長宛「分析試験証明書についての照会」の稟議書)、同第二八号証(青森県工業試験場長の札幌法務局長宛回答)、同第二九号証(札幌法務局長の工業技術院地質調査所長宛照会の稟議書)、同第三〇号証(工業技術院地質調査所長の札幌法務局長宛回答)、同第三一号証(札幌法務局長の岩手県工業指導所長宛照会の稟議書)、同第三二号証(岩手県工業指導所長の札幌法務局長宛回答)、同第三三号証の一、二(粲鉱杜分析所長の弁護士白木豊寿宛回答書および添付の分析成績報告書)および同第五六号証の一(函館地方裁判所昭和三二年(ワ)第三四五号事件の証人高橋清の証言調書)によれば、右はいずれも分析依頼者が分析試料や分析依頼書に付した名称をそのまま証明書、分析成績書等に転記したもので、本件鉱物(または岩石)を「けい石」と判定した結果に基く記載ではないことが認められるから、これらはいずれも本件鉱物(または岩石)が「けい石」であるとする証拠とはなし難い。

もつとも成立に争いのない甲第一三四号証の二(工業技術院名古屋工業試験所長の控訴人佐藤彰朔宛昭和三四年六月二五日付書簡)によれば、資料が現物名と違うと判断される場合はその旨依頼者に通知する旨記載されていることが認められ、弁論の全趣旨によりその成立を認めうべき甲第一三六号証の二(工業技術院大阪工業試験所の控訴人佐藤彰朔宛昭和三四年六月二四日付書簡)によれば、依頼書と同一の品名の試料でなければ受理しない、依頼者提提出の試料成分によつて、品名および品質を明示する決定権は与えられていないことが認められ、成立に争いのない甲第一三八号証(広島県立福山工業試験場長の控訴人佐藤彰朔宛昭和三四年六月二六日付書簡)によれば、同試験場は品名決定の立場にないため、試料が依頼書記載の品名(たとえば銅鉱)に該当しない場合には、依頼書記載の品名を総括的名称(たとえば岩石)に書き直して再提出させることが認められ、成立に争いのない甲第一五六号証の二(岩手県工業指導所長の控訴代理人長谷川毅宛昭和三五年二月二〇日付書簡)によれば、同指導所は依頼書記載の品名と試料が一見して判然と異つているときは、依頼書にその旨を連絡して依頼書と試料を一応返戻することが認められ、また成立に争いのない甲第一五七号証の二(工業技術院地質調査所長の控訴代理人長谷川毅宛昭和三五年三月一日付書簡)によれば、依頼書記載の品名が試料と全く異つているときは、品名の訂正をさせたうえ受理するようにしているが、分析証明書を発行するとき、依頼者より品名訂正の申請のない限り、依頼書の品名を使用していることが認められるが、右認定の試料等の返戻、品名訂正の勧奨等はいずれも依頼書記載の品名と分析結果が判然と異る場合になされるものと解するを相当とするから、本件鉱物(または岩石)の如く、見解の分れる試料につき前顕甲第三号証、同第五ないし第七号証、同第八号証の一ないし四の各書証によつて認められる工業技術院地質調査所等の取扱がそのようになつていなかつたことは、何ら不思議ではないと認められるので、前示甲第一三四号証の二等によつて認められる前示各事実は前段認定と矛盾するものではない。また成立に争いのない甲第二九〇号証(函館地方裁判所昭和三二年(ワ)第三四五号事件の原告〔本件控訴人〕佐藤彰朔の本人尋問調書)、当審証人長谷川毅の証言(第一回)中、粲鉱社分析所の見解に関して右説示に反する部分は、前顕乙第三三号証の一、二に照らし採用し難く、また成立に争いのない甲第三〇〇号証(函館地方裁判所昭和三二年(ワ)第三四五号事件の証人前田惇の証言調書)によつてその成立が認めら氷る甲第一六〇号証の一、二(前田惇の証明書)の工業技術院地質調査所の分析結果に関する記載は、前顕第五六号証の一、乙第二九号証、同第三〇号証に照らし採用し難い。さらに成立に争いのない甲第二八八号証(札幌高等裁判所函館支部昭和三七年(ネ)第五三号事件の証人高橋道之助の証言調書)ならびに成立に争いのない甲第二八五号証の二(高橋道之助の昭和四〇年一〇月五日付書簡内容)によれば、右高橋道之助の調査結果では、米国においてはパーライトが鉱業法上の鉱物とされているというのであるが、たとえ外国においてそのような取扱がなされているとしても、このことは本件鉱物(または岩石)が我鉱業法上の法定鉱物たる「けい石」に該当するか否かとは全く無関係の事柄である。

以上説示のとおり、本件「はり質流紋岩」は「けい石」とは認められないから、これを探鉱したことが「けい石」を探鉱したことにならないのは当然で、控訴人らが右「はり質流紋岩」を誠実に探鉱したか否か、探鉱不足の点があつたとしてそれが控訴人らの責に帰すべき事由によるものか否かにつき判断するまでもなく、本件不許可処分は適法であるというべく、被控訴人が控訴人ら主張の各日時、その主張のように本件試掘権の設定ならびにその第一回の存続期間の延長を許可したことは当事者間に争いがないけれども、右試掘権設定許可は本件鉱区内で「けい石」を掘採し得る機能を与える処分ではあるが、本件鉱物(または岩石)を「けい石」と確認する処分ではなく、第一回の延長許可処分も同様であるから右許可等の事実は何ら前段の所論に影響を与えるものではなく、また右のような事実関係のもとにおいては、本件不許可処分が裁量権の濫用によるものであるとも解し難いから、この点に関する控訴人らの主張はとうてい採用し難い。

四、控訴人らはさらに、本件鉱区内には本件「はり質流紋岩」および石英がともに存在するところ、控訴人佐藤彰朔は右両者ともに「けい石」であるとして本件試堀権の設定をうけたのであるから、仮りに右「はり質流紋岩」が「けい石」でないとしても、なお石英探鉱のために本件試掘権再延長の必要があると主張する。そして本件鉱区内に石英鉱脈の存することは被控訴人も争わないところであるが、当審における本件鉱区検証の結果によつても右石英鉱脈が埋蔵量等の点から試掘権の対象となる程のものであるか否かは必ずしも明らかではないのみならず、当審証人森谷要介の証言(第一、二回)および当審における控訴人佐藤彰朔の本人尋問の結果によれば、同控訴人は本件試掘権の設定をうけて以来本件鉱区において専ら本件「はり質流紋岩」を掘採してパーライト事業を営んできた事実が認められるにとどまり石英を探鉱した事実はこれを認めるに足る証拠がないから、不同控訴人が本件試掘権設定の際、石英をも含めて「けい石」の出願をし、且つ本件試掘権設定後石英を誠実に探鉱したことは認め難いから、右理由によつて本件不許可処分の不当をいう控訴人らの主張は失当である。

五、果してしからば控訴人らの本訴請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、従つて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野本泰 今富滋 潮久郎)

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