札幌高等裁判所 昭和36年(ム)6号 判決 1962年4月17日
北海道上川郡東川町西六号北二二番地
再審原告
石井義勝
旭川市宮下通一〇丁目
再審被告
上川税務署長
山田良太
右指定代理人
杉浦栄一
千葉正道
佐藤守司
佐藤隆一
右当事者間の昭和三六年(ム)第六号不当課税取消請求再審事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
再審原告の訴は却下する。
再審の訴訟費用は再審原告の負担とする。
事実
再審原告は、「札幌高等裁判所が昭和三六年九月一九日同裁判所昭和三五年(ネ)第二九七号不当課税取消請求控訴事件について云渡した判決を取消す。再審被告が再審原告に対して昭和三一年一一月六日なした再審原告の昭和三〇年度の総所得金額を金五三四、一七三円とする再更正処分のうち総所得金額を金三四二、〇六二円と変更する。」との判決を求め、その理由として、札幌高等裁判所は昭和三六年九月一九日再審原告と再審被告との間の同裁判所昭和三五年(ネ)第二九七号不当課税取消請求控訴事件について再審原告敗訴の判決を云渡し、右判決は昭和三六年九月二三日同原告に送達されたが、同原告は上告を提起することなく上告期間を経過したため右判決は同年一〇月八日確定したものであるが、(一)右判決には、再審原告が同原告の昭和三〇年度の実際の収穫総石数は六〇石であつたと主張したように記載されているけれども、再審原告がそのような主張をしたことはない。(二)右判決には、再審原告が同年度において自家消費その他に充てた米穀の数量についてはこれを確認するに足りる資料がないと記載されているけれども、再審原告は食糧管理法の規定に基づく自家保有量に若干の超過保有米を含めて申告してあるのであるから、右認定は誤りである。(三)右判決は訴訟費用を再審原告の負担としているけれども、本件訴訟は再審被告が勝手に口頭弁論期日に欠席したり、右訴は不適法な訴であると主張したりしたため遅延したものであるから、右訴訟費用は当然再審被告の負担とすべきものであり、右判断は不当である。(四)右判決は、再審原告が同年度に収穫した実総量を認定するに足りる資料に欠けていることに帰し、再審原告が右年度の収支の実態を明確ならしめる資料を有していない本件において再審被告が再審原告の同年度の農業所得を農業所得標準率を適用して推計したことは合理的であるとしているけれども、杜撰な農業所得標準率を適用して農業所得を推計することは不合理である。よつて民事訴訟法第四二〇条第一項第九号の規定に則つて本件再審の申立に及んだ次第であると陳述した。
再審被告代理人は、主文同旨の判決を求め、再審原告主張の事実中同原告主張のような判決の云渡があり、同判決がその主張のような経過により確定したことおよび右判決に再審原告主張のような記載があることは認めるが、その余の事実は否認すると陳述した。
理由
札幌高等裁判所が昭和三六年九月一九日再審原告と再審被告との間の同裁判所昭和三五年(ネ)第二九七号不当課税取消請求控訴事件について再審原告敗訴の判決を言渡し、右判決が再審原告主張のような経過によりその主張の日に確定したことおよび右判決に再審原告主張のような記載があることは当事者間に争がない。
ところで再審原告は民事訴訟法第四二〇条第一項第九号の規定によつて本件再審の申立をするというのであるが、右法条にいうところの判決に影響を及ぼすべき重要な事項についての判断を遺脱したときは、職権調査事項であると否とを問わず、当事者が適法に訴訟上提出した攻撃防禦方法たる事項で、当然判決の結論に影響あるものに対し、判決理由中で判断を示さなかつた場合をいうものであつて、その判断が示されている以上、それが正当であると否とは問題でなく、右判断がたとえ正当でないとしても、判断を遺脱したものとはいえないから、前記判決の記載が再審原告の意に充たないものであるとしても、再審原告が主張するような事由は、右法条にいう判断を遺脱したときというには該当しないものであることは、その主張自体に徴し明らかである。従つて再審原告の本件再審の訴は不適法であるから、これを却下すべきものといわなければならない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 南新一 裁判官 輪湖公寛 裁判官 藤野博雄)