大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和36年(ラ)26号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕本件抗告の趣旨は「原決定を取り消す。本件競落はこれを許さない。」との決定を求めるにあり、その理由の要旨は「抗告人は、昭和三五年九月二日当時の所有者である大塚太一郎から本件不動産を買い受け、同月二六日その取得登記を了したものであるところ、右登記の当時、登記簿には本件の強制競売開始決定の記入登記がなかつた。」というにある。

記録によると、本件競売は、初め債務者大塚太一郎所有の本件不動産につき債権者株式会社北海道相互銀行(以下単に銀行という。)がその抵当権実行のため昭和三五年八月一九日申し立て、同月二三日競売開始決定があり、同月二六日競売申立記入登記のなされた札幌地方裁判所岩見沢支部昭和三五年(ケ)第四〇号の任意競売事件に、債権者猪又勝治(以下単に猪又という。)が執行証書に基いて同年九月二六日申し立てた本件不動産外二箇の不動産を目的とする昭和三五年(ヌ)第八号の強制競売の申立が同日付で添附せられたが、翌二七日右猪又は、銀行に対し、その債務者に対する同日現在の債権額全部(元金残額・利息・執行費用の合計金七四万二四七五円)を代位弁済して、債権と共に抵当権の譲渡を受け、同年一〇月二八日には右譲渡の附記登記がなされたが、その前日である同月二七日には銀行が前記(ケ)第四〇号の競売申立取下書を提出した。(なお、この際誤つて右競売申立記入登記の抹消登記が嘱託され、同年一一月二日その旨登記がなされたが、昭和三六年五月八日錯誤を原因とするその回復登記が嘱託された)。そこで、競売手続は、債権者猪又のため(ヌ)第八号事件として続行せられ、本件不動産については、昭和三六年三月二七日岩淵吉郎がこれを競落し、同月二九日競落許可決定がなされた。しかしながら、これに先立ち、前記添附と同一日附である昭和三五年九月二六日、本件抗告人である森田スミは、同月二〇日附売買により債務者から本件不動産所有権を取得した旨登記を了していたので、前記のような抗告理由に基いて、抗告をなすに至つた。以上のような事実関係が認められる。

よつて案ずるに、抗告理由は、それ自体としては理由がない。けだし、「不動産取得当時、競売申立記入登記がない」との趣旨が、「銀行による競売申立」についていうのであれば、その抹消が右取得登記以後である事実に照らし、その主張は明らかに事実を誣いるものであるし(当審において抗告人が提出したと見られる不動産登記簿謄本は、昭和三五年九月二七日附でありながら、右競売申立登記の記入を欠くが、乙欄の内容に徴しても右日附は信ぜられない。)、また「猪又の競売申立」についていうのであれば、それが記録添附され、後日、銀行の競売申立取下によつて新たに競売開始決定の効力を生じたとされるものであつて、元来登記されるべき性質のものでなく、この理は誤つて第一の競売申立登記が抹消されたからとて変るものではない以上、主張自体失当というべきだからである。

しかしながら、なお、職権を以て案ずべき点がある。前認定のように、原審は、銀行の競売申立取下以後は、添附による猪又の競売申立が効力を生じたものと見、以後の手続を(ヌ)第八号の強制競売手続として続行して来たのであるが、一体、添附による競売申立が第一の競売手続取消によつて開始決定としての効力を生じるのは、「添附の時」と解すべきものであり、また、第一の競売開始決定によつて債務者に対して生じるいわゆる処分禁止の効力は単に相対的なものである結果競売手続取消と共に債務者の処分は有効となる筋合であるで、本件のように、第二の競売申立による記録添附の日と目的不動産が第三取得者に登記された日とが同日である場合には、第一の競売申立の取下により果して添附による競売申立が効力を生じうるか否かにつき、疑義なきをえないのである。

しかし、更に案ずるに、本件においては、添附による申立債権者猪又は、一方において銀行に代位して(ケ)第四〇号の任意競売手続を進行せしめる資格をも有したのである。すなわち、前認定のように、添附の翌日債務者の全債務を銀行に対して代位弁済しており、かつ同人は添附による申立債権者(配当要求者)として右代位弁済をなすにつき正当の利益を有した者(民五〇〇条)というべきであるから、右弁済の結果、銀行の有した全債権および抵当権は当然猪又に移転したのであつて、従つて、本件(ケ)第四〇号の手続の申立債権者たる地位も当然同人に移転したものというべく、同人が申立を取り下げないかぎり、(ケ)第四〇号の手続は同人のため続行せられるべきであつたのである。しかるに、裁判所に提出されたのは、銀行による下書だつたのであるから、かかる取下は効力を有しない。(もつとも、右代位弁済の結果として抵当権につき附記登記のなされたのは翌一〇月二八日であり、その登記簿謄本を以て債権移転の疎明および抵当権移転の証明が裁判所に対してなされたのは同年一二月一七日なのであるから、取下書提出の当時においては右無効の判断を期待しえなかつたのであるが、後日右の実体関係が判明した以上、右の判断をなすに妨げないこと、例えば、債権弁済の事実が明らかでないため競売手続を進行した後、弁済によつて抵当権の消滅したことが明らかになれば、遡つてその手続を違法として取り消しうると同断である、と解される)。

従つて、銀行による(ケ)第四〇号の任意競売申立の取下を有効とし、以後の手続をすべて(ヌ)第八号の強制競売申立事件として処理した原審の手続は、本件不動産に関しては(他の二箇の不動産については別論であるこというまでもない。)、この意味において違法とせねばならない。

しかしながら、原審が右事情判明後、銀行の取下を無効とし、申立債権者の地位を猪又に承継せしめた上で、(ケ)第四〇号の手続を進行せしめたとした場合にも、利害関係人への競売期日の通知等は、原審記録における(ヌ)第八号のそれと同様の経過を取つた筈であることは、記録上明らかな両事件の利害関係人表を比照しても、優に推認しうるところであり、実質上、両手続の従来までの経過(差異を生じる売得金分配の段階にはまだ至つていない)は、これを同一視して差支えがないのであるから、結局本件における原審での経過と異なる結果を見ることは考えられず、そうとすれば、原審の手続を(ケ)第四〇号による手続と見て生かす方が手続の経済という要請にも合致すること(なお、猪又自身が当審提出の上申書において原決定の維持を求めていることも考え合わすべきである。)、これらの点を考慮し、原審における本件不動産の競落許可決定は、(ケ)第四〇号事件によるものとして、これを維持するのが相当である。(従つて、原審は、本件不動産に関する今後の手続を、任意競売手続として進行すべきものである反面、遡つて記録上の既往の手続を再施ないし訂正する必要はない。)

結局、本件抗告は、その理由がないから、これを棄却すべきものである。よつて抗告費用は抗告人に負担せしめることとし、主文のとおり決定する。(伊藤淳吉 臼居直道 倉田卓次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!