札幌高等裁判所 昭和42年(ラ)1号 決定 1967年5月18日
抗告人 大島勝(仮名)
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告人の抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。
本件記録および取寄にかかる札幌家庭裁判所小樽支部昭和三九年(家)第二二八号親権者指定申立審判事件ならびに同裁判所昭和三九年(家イ)第九号離婚等請求調停事件の各記録によると、次の事実が認められる。
抗告人と山脇美代は昭和三九年七月八日札幌家庭裁判所小樽支部において調停離婚したが、長女大島昌子(昭和三七年三月六日生)の親権者指定については双方の協議が整わなかつたので、同裁判所昭和三九年(家)第二二八号親権者指定審判事件として審理した結果、昌子の年齢、父母である抗告人および美代の昌子に対する愛情とその養育に関する熱意、双方の経歴、健康状態、資力、家族関係等諸般の事情を考慮し、昌子の養育と監護はその将来の福祉のために母である美代にゆだねることが相当であるとの理由により、昭和四〇年五月二七日、美代を親権者と定める審判がなされ、右審判は同年一一月二七日抗告棄却決定により確定した。しかるに、抗告人は右審判確定後も昌子を親権者である美代に引き渡さず現在にいたつている。以上の経過が認められる。
抗告人は、一次的に、原審判を取り消して昌子の監護者を変更し、これを抗告人と定める旨の決定を求めているが、父母が離婚してその一方を親権者と定められたときは、通常当該親権者か親権の内容として子を監護すべきものである。特に親権者の他に監護者を定めることを必要とし、しかも離婚した父母の間でその協議が整わない場合であつても、監護者の指定は民法七六六条、家事審判法第九条第一項乙類四号により家庭裁判所の審判事項とせられているのであるから、監護者の指定を求めようとする者は先ず家庭裁判所にその旨の審判(または調停)の申立をなすべきものであつて、抗告裁判所に対し直ちに監護者の指定を求め得ないことは明らかである。
抗告人は、上記親権者指定の審判確定後の事情変更により昌子を現状のまま抗告人のもとに留めるのを相当とし、またそれが昌子の意思に副うゆえんである旨反述するので検討する。親権者は、その親権に服する子を正当の理由なく手許において親権の行使を妨げている者に対し、妨害の排除として子の引渡を求めることができ、その際子の福祉を特に重視しなければならないことはいうまでもないところであり、子が相当の意思判断能力を備えている場合は、子の自由な意思が尊重されるべきことも当然である。しかしながら、上記のとおり美代が昌子の親権者と指定されたのは、昌子の将来の福祉のために母美代によつて養育されることが相当であるとの判断によるものであり、前掲の各記録を精査しても、右審判後昌子をめぐる諸事情にはその判断を維持し難いような変化は認められないし、昌子は未だ五歳の幼児であつて、抗告人のもとに留つていることがその自由意思に基づくものとは到底解することができず、家事審判規則第五四条が、子が満一五歳以上であるときは、子の監護者の指定その他の監護に関する審判をする前にその子の陳述を聴かなければならないと規定していることなどを参酌しても、原裁判所が審判をするにあたつて特に昌子の意思を確かめなかつたことは何等不当とはいえない。
そうすると、原審判は正当であつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 田中恒朗 裁判官 島田礼介)