札幌高等裁判所 昭和45年(ラ)35号 決定 1970年10月28日
抗告人 株式会社北興信用商事
相手方 札幌専売信用組合
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。
そこで検討するに、民法第三九二条第二項は、同一債権の担保として債務者所有の数個の不動産の上に抵当権が設定されている場合において、債権者がまずそのうちのある不動産の競売代価によりその債権の弁済を得たときは、その不動産上の後順位抵当権者は右先順位抵当権者が同条第一項の規定に従い他の不動産につき弁済を受くべき金額に満つるまでこれに代位し、その抵当権を行使しうることを定めたにとどまり、第三者所有の不動産が債務者所有の不動産とともに同一債権の担保として抵当権の目的となつている場合の関係をも定めたものではないと解するのを相当とする(大審院昭和二年(オ)第九三三号、同四年一月三〇日判決参照)。もしそうでないと解するならば、抵当権を実行されその不動産の代価で代位弁済をした第三者の代位権は、常に債務者所有の不動産に対する後順位抵当権の設定により不当に害されることになるからである。したがつて、債務者所有の不動産と第三者所有の不動産とを共同抵当権の目的とした相手方が債務者所有の不動産だけを競売した本件においては、債務者所有の不動産の後順位抵当権者たる抗告人は民法第三九二条第二項により第三者所有の不動産につき相手方の有する抵当権を代位行使するに由なきものといわざるを得ない。
してみると、右代位権の行使を前提とする本件仮処分申請はその被保全権利を欠くことが明らかで、これを却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。
(裁判官 武藤英一 秋吉稔弘 花尻尚)
(別紙)
抗告の趣旨
原決定を取消し、さらに相当の御裁判を求めます。
抗告の理由
一、民法第三九二条二項は共同抵当における先順位抵当権者の抵当実行の自由を定めるとともに、それによつて次順位者以降の抵当権者の受ける不公平な結果を救済するために代位権を認めた規定である。
右法文には、抵当実行された不動産の所有者が債務者に限るという限定文言もない。
その物件の所有者が債務者であつても、物上保証人であつても問わないと解すべきである。
蓋し、本件の場合先順位抵当権者が斎藤アキノの物件から抵当権実行した場合には、抗告人の債権は全額弁済を受ける可能性があつたのに、偶々先順位抵当権者の自由な選択の結果債務者所有の物件を競売したことによつて、抗告人の債権の一部が弁済を受けることができなくなつた。
先順位抵当権者の任意の意思如何によつて、第二抵当権者である抗告人の債権に対する弁済が全部弁済を受けたり、一部残債権を残すということは不合理であり、不当な結果になるからである。