札幌高等裁判所 昭和47年(う)78号 判決
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〔判決理由〕一 論旨は要するに、原判決は弟子屈営林署長に本件立入禁止処分の権限ありと認定しているが、農林省設置法四条五九号、七〇条一項によれば、営林署長の権限は、国有林については造林、営林、生産物の処分に限られ、これを受けた帯広営林局管内営林署国有財産分掌事務取扱準則三条によつても、右設置法の趣旨に則つた管理、処分権限を有するにとどまるものと解すべきである。本件国有林は国立公園に指定されているのであるから、その管理権限は自然公園法により厚生大臣(現在は環境庁長官)に属しており、営林署長には公園管理のための管理権はなく、本件立入禁止処分は営林署長の権限外の事項に属するものであるから、営林署長に右処分権限ありとした原判決には、法令の解釈、適用を誤つた違法がある、というのである。
よつて審按するに、一件記録ならびに当審事実調の結果によれば、北海道川上郡弟子屈町字川湯、弟子屈事業区二八一林班ト小班内の硫黄山は、国有林野(以下単に本件土地ともいう)であり、同所付近には昭和四六年四月末頃より五月頃以降弟子屈営林署長による「物品販売その他の営業行為を行なうため同区域内に立入ることを禁止する」旨の制札が数ケ所に亘つて立てられていたこと、これをなした主な理由は、本件土地内における卵売業者の数が増え過当競争およびこれにより観光客に不快な念を与えるおそれが予想されたほか、生卵を蒸すための籠を噴気孔に置くことによりその自然の外観、形状を損うおそれがあつたことに基因すること、被告人両名は原判示の各日時に右硫黄山の噴気熱を利用して加工した蒸し卵を販売するため、右立入禁止の制札が存するのを知りながら同硫黄山に立入つたこと、本件土地が、昭和四六年法律第八八号による改正前の自然公園法一〇条、一七条により、国立公園特別地域に指定された区域であることはいずれもこれを認めることができる。そこで右営林署長の前記制札による立入禁止処分の権限の有無について検討すると、本件硫黄山付近の土地は国有林野法二条にいう「国有林野」であつて、その管理及び処分に関する事項が農林大臣の所管に属し、帯広営林局弟子屈営林署長がその所掌事務の一つとして、常時その現状を把握し特にその管理及び処分を適正に行なうべき職責を有することは、国有財産法一条、五条、九条一項、農林省設置法四条五九号、六六条、六七条一号、昭和三四年六月九日農林省訓令二一号((農林省所管国有財産取扱規則)二条一項、三項、四項、三条、帯広営林局管内営林署国有財産分掌事務取扱準則(帯四〇総第四七五号)三条等の諸規定に徴し明らかなところである。そして本件土地が国立公園特別地域に指定されており、自然公園法に定める規制が厚生大臣(現在は環境庁長官)の所管に属することは所論指摘のとおりであるが、本件立入禁止処分はその内容においても既にみたとおりのものであり、右自然公園法の趣旨、目的に何ら矛盾、牴触するものでないこと明らかであるから、弟子屈営林署長のなした本件立入禁止処分は適法かつ有効なものと解するのが相当である。それゆえ、原判決には所論のような法令適用の誤はない。論旨は理由がない。
二 次に、所論のいう本件各所為の可罰的違法性の存否についてみるに、論旨は要するに、原判決は、被告人らの本件各所為は社会的相当性がなく可罰性ありと判断しているが、本件土地立入りの動機、目的は噴気孔で蒸した卵を観光客に販売することであり何ら不当性はなく、その手段、方法も、右噴気孔を著しく変形させる訳ではなく、販売した卵の食べ殻は毎日掃除し、販売方法も過当に陥ることを慎しむなど相当な手段、方法を用いており、被告人らの各所為は本件土地の風致を害するとか土地の形状を著しく変えるなどの危険性はなく、しかも被告人らは本件卵売りによる収入によつて生計を立てているのである。そしてこれらの諸事情に本件立入禁止処分により保護しようとする法益とその結果侵害される被告人らの利益を比較衡量すると、被告人らの本件各所為はいずれも社会的相当性を有し、可罰性を欠くものである。従つて、これを否定し被告人らの各所為を可罰性ありとした原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤がある、というのである。
しかしながら、本件立入禁止処分が正当権限に基づく有効な措置であることは既にみたとおりであり、被告人らが物品販売(卵売り)の目的で本件土地に立入つた以上、その行為がいずれも軽犯罪法一条三二号前段にいう「入ることを禁じた場所に正当な理由がなくて入つた」罪を構成することは明らかである。所論にかんがみ若干付言すると、被告人らはここ十年来本件土地において蒸し卵の販売をなしており、その実績からすると被告人らが本件立入禁止処分に承服しがたい感を抱くことは、当裁判所としてあながち理解できないではない。しかし、本件土地が国立公園として一般公衆の自由な利用のために開放されているとはいえ、その利用はあくまでも公園設立の本来の趣旨、目的(国民の保健、休養、教化等)にそう範囲内にとどまるべきものであるから、被告人らの所為がこれを逸脱していることは明らかであり、また被告人らの前記のような実績から直ちにこれに権利性を付与することもとうてい認め難いところである。従つて、国有林野たる本件土地に弟子屈営林署長の制札による適法、有効な本件立入禁止処分がなされている以上、被告人らが物品販売(卵売り)の目的で本件土地内に立入ることはその正当な根拠を欠き肯認できないものといわざるを得ない。そして、被告人らが今後も本件土地を利用して蒸し卵の販売をなすことを欲するならば、その方法としては、国有林野法七条一項四号の規定によりその貸付若しくは使用の許可を得てこれをなすことが可能であるし、現にこれまでにもこれを前提とする具体的な話合いの機会が、営林署その他関係機関と被告人らを含む卵売業者との間にあつたようであるから(これがまとまらなかつたのは被告人らが同調しなかつたことにも基因する)、被告人らとしては、かかる方法により卵売りとしての今後の途を見出すことも充分可能であり、従つて、かかる努力を怠りいたずらに過去の実績を楯に、本件立入禁止処分および営林署員の度び重なる警告を無視し、本件各犯行をなした被告人らの各所為が社会的相当性を有し可罰性がないとはとうてい評価しえない(なお、所論は、本件立入禁止処分が川湯町民ではない被告人らを硫黄山より排除するため、営林署が川湯商業会の意を体して行つた疑いが濃く不当な意図に基づくものであるともいうが、一件記録を精査してもかかる事実を認めるに足りる証拠は存しない)。それゆえ、原判決には所論のような法令適用の誤はない。論旨は理由がない。
(神田鉱三 横田安弘 宮嶋英世)