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札幌高等裁判所 昭和49年(行ス)1号 決定 1974年11月05日

決定

(当事者の表示)  別紙のとおり

抗告人らを申立人とし、相手方を被申立人とする札幌地方裁判所昭和四八年(行ク)第五号公有水面埋立免許処分執行停止申立事件について同裁判所が昭和四九年一月一四日にした決定に対し抗告人らから適法な即時抗告の申立てがあつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

第一本件抗告の趣旨および理由ならびに相手方、参加人のこれに対する各意見は別紙<略>記載のとおりである。

第二当裁判所は前記当事者が原審および当審において提出した疎明資料をすべて検討したうえ、次のとおり判断する。

一当裁判所も抗告人らは本件処分の取消しを求める本案訴訟について原告適格を有し、従つて、その執行停止申立てについても申立人適格を有するものと判断する。その理由は次のとおり改めるほか、原決定二枚目表一〇行目から同六枚目裏一〇行目<編注、本誌三〇四号一三二頁三段一行目から一三四頁一段九行目>にしるすところと同一であるから、これを引用する。原決定三枚目表一三行目冒頭から同四枚目表四行目<編注、同号一三二頁四段(二)冒頭から一三三頁一段(四)の四〜五行目>にある「……それぞれ相接しており、」までを次のとおり改める。

「(二) 別紙当事者目録抗告人(一)記載の抗告人ら(以下、伊達抗告人らという。)は、伊達市内(有珠地区を除く。)に居住する漁民を構成員とする伊達漁業協同組合(以下、伊達漁協という。)の正組合員であつて、同組合が有する抗告人ら主張の漁業権に基づき、同組合の定める漁業権行使規則により、その主張の各海域で現実に漁業を営んでいること、

(三) 他方、別紙当事者目録抗告人(二)記載の抗告人ら(以下、有珠抗告人らという。)は伊達市内有珠地区に居住する漁民を構成員とする有珠漁業協同組合(以下、有珠漁協という。)の正組合員であつて、同組合が有する抗告人ら主張の漁業権に基づき、同組合の定める漁業権行使規則によりその主張の各海域で現実に漁業を営んでいること、

(四) 本件処分のなされた当時伊達漁協の漁業権の及ぶ海域のうち伊達市内の有珠地区を除く地域の海岸沿いの海域(海区四八号)と有珠漁協の漁業権の及ぶ海域のうち有珠地区の海岸沿いの海域(海区四七号)ならびにこれらの海域の沖合側の海域(伊達漁協については海共一三五号、有珠漁協については海共一三四号)はそれぞれ相接しており、」

二抗告人らに回復困難な損害が生ずるかどうかについて。

1本件埋立工事による漁業被害について。

(一) 参加人の計画にかゝる本件埋立工事の概要、右工事に関する施工方法ないしその状況等についての当裁判所の事実認定も次のとおり改めるほか、原決定理由(原決定七枚目表一行目から同一〇枚目裏八行目<編注、同号一三四頁一段(一)冒頭から一三五頁二段(八)の「……を受けること、」>まで)にしるすところと同一であるので、これをここに引用する。

(1) 原決定七枚目裏末行冒頭から同九枚目表四行目末尾まで<編注、同号一三四頁二段から四段までの(四)全部>を次のとおり改める。

「東護岸、取付護岸および取水口設備等の工事の終了後に行われる本件埋立工事については、取水口設置予定地付近から東西両防波堤設置予定地の先端付近に至る取水口外かく施設内である海域の海底を、ホイルカツターを吸込口に取付けたポンプしゆんせつ船(以下、ホイルカツター式ポンプしゆんせつ船という。)によつて水深七メートルにしゆんせつし、右しゆんせつ船で穿掘吸引した土砂を海水とともに四つの沈澱池に区画された埋立予定地の第一沈澱池に排水のうえ同沈澱池に沈降させ、その上澄みの海水を順次同様の方法で第二以下の沈澱池に流下させ、この間除々に土砂が沈澱されて最終の上澄み海水は、第一沈澱池の前面に設置する排水口を経て放出されること、第一沈澱池が土砂の沈澱により埋立てられると右しゆんせつ船の排水管を第四の沈澱池に伸ばして同沈澱池を埋立てることにし、上澄み海水を第三の沈澱池へ流下させたうえ前記排水口を経て放出すること、更に第四沈澱池の埋立てが終れば、右しゆんせつ船の排砂管を第二沈澱池に移動し、前記同様の方法でこれより吐き出された土砂を同沈澱池に沈降させ、その上澄み海水を第三沈澱池に流下させたうえ前記排水口から放出させること、第二沈澱池の使用中にさきに埋立てられた第四沈澱池の堆積土砂を陸揚げして第四沈澱池を再び沈澱池として使用できるようにし、第二沈澱池が沈降土砂により埋立てられた時は前記しゆんせつ船の排砂管を第四沈澱池に戻し、吐き出された土砂を同沈澱池に沈降させ、その上澄み海水は第三沈澱池に流下させたうえ、前記排水口から放出すること、以下同様に第二、第四両沈澱池を交互に沈澱池として使用して上記のとおり除々に土砂を沈澱させながらしゆんせつを行い、このしゆんせつが完了した時に陸揚げされていた土砂の一部で第三沈澱池を埋立て、埋立工事すべてを終了するものであること、万一予測を越えて粒度の細かい土砂が混入した場合に備え、第三沈澱池にポンプ場を設け、上澄み海水を更に排水浄化設備に導き、この設備によつて、濁度一、五〇〇PPmの海水の濁り(浮遊懸濁物質)であつてもこれを四〇PPm以下に充分浄化処理したうえ、前記排水口から護岸内側の海水汚濁防止シートで囲まれている海域に放出されて希釈拡散され、更にその外側にある右シートとあいまつて、右浮遊懸濁物質のシート外流出が防止されていること(なお昭和四九年八月から一〇月にかけてなされた検査の結果によると、右排水口出口における処理水中の浮遊懸濁物質量は最低3.2PPm、最高20.6PPmである。)、」

(2) 原決定九枚目表末行目<編注、同号一三四頁四段終りから七〜六行目>にある「しかし右シートは、……」以下同一〇枚目表三行目末尾<編注、同号一三五頁一段(六)の前行「……は期待できないこと、」>までを次のとおり改める。

「しかし右シートは、同年一〇月二八日しけのためその相当部分が破損したので、参加人は、今後このような破損事故が生じないように、昭和四九年五月二四日東護岸側から、波高2.9m、風速二〇m/s、水深七mを設計条件として改良補強された海水汚濁防止シートの展張を開始し、同年七月三日展張用メインワイヤーをエントモ岬(西防波堤側)に定着し、引続き、メインアンカーおよびサブアンカーなどの据付けをしてシートの下端を海底に定着させ、同月一〇日右シートの設置を完了し、その保守点検を厳重に実施しているので、右シートの機能じたいには特別の欠陥は生じていないこと、」

(二) ところで、抗告人らは参加人が本件埋立工事に伴う海水汚濁の防止対策としてとられた上記引用の原審認定にかゝるホイルカツター式ポンプしゆんせつ船の採用、排水浄化設備の新設、海水汚濁防止シートの布設について、これら対策の欠陥を指摘する。しかも特に参加人が改良補強して前記月日に再び布設した海水汚濁防止シートについては、原理的、構造的に右シート内に存する汚濁水の外海流出を防止する効果はもとより、風波潮流に耐えうる強度もなく、現在既にその各所に被損部分が存在するもので、このことは、昭和四九年七月二六日には既に三〇メートル位の長さの間だけでシートの下部が五ケ所にわたり二〜三メートルの大きさで破れていたこと、九月一日にはエントモ岬西方約一キロメートルの海岸に右シートの補助ブイが二個漂着し、同月一六日には右シートのフロートが二個アルトリ岬沖に流れていたこと、八月八日から九月一四日までの間、アルトリ岬東側の海岸に右シートのラツキングロープが合計四五本も流れ着いたことから明らかであつて、参加人がこれら汚濁防止対策を講じても海水の汚濁は本工事海域内にとどまらず、海流の影響等に支配され外海に移動拡散し、ひいては抗告人らの漁獲の減少を来たす旨主張する。

これに対し、相手方および参加人は右防止対策が現在における科学的水準からみてその完全性を強調するけれども、仮りに参加人の施した右対策がその主張のような完全性を期待できず、他方、疎明資料からみて右シートに一部破損が生じていることが窺われるとしても、本件埋立工事に伴う海水の汚濁が抗告人らが主張するように右工事海域のみならず、その外側に存する抗告人らの漁場海域にまで拡散し、抗告人らの漁業に甚大な影響を及ぼす程の広範囲かつ濃度の汚濁状態を招来したことの疎明はない。のみならず、本件埋立工事により生じた海水の汚濁状態が、将来しかも長期にわたり継続して抗告人らの漁獲の減少を来たし、これがひいては漁業自体の存続を断念せざるをえない状態に陥る程度にまで達するおそれがあるとの疎明もない。

また、仮りに抗告人らが本件埋立工事に伴う直接の影響によつて、或る程度の漁獲の減少を来たし、これにより抗告人らが損害を蒙ることがあつたとしても、その損害が社会通念上金銭賠償の受忍ないし許容可能性の限度を超えているものとは全疎明資料からみても窺知しがたい。

(三) 次に、捨石工事により本件埋立地付近の海域に赤潮が発生した旨の抗告人らの主張については、当裁判所も原決定と同一の理由により右捨石工事と赤潮の発生との間に因果関係の存在を認め難いものと判断するので、原決定一二枚目表九行目冒頭から同裏六行目末尾<編注、同号一三五頁四段終りから八行目「なお、……」から一三六頁一段2の直前>までをそのまゝ引用する。

(四) 更に、抗告人らは参加人による右汚濁防止シートの布設直後からシート内海域の海底に推積している微細な土砂と異常発生したプランクトンによる赤潮の発生で右海水が赤褐色に汚濁し、荒天時にはこれがシートの破損個所、シートの継ぎ目、シート下端と海底間のすき間から流出し、有珠漁協の海域へ流れ込み、その結果右漁協における昭和四九年度の突磯漁業の出漁日数および水揚高が著しく減少した旨主張する。

しかしながら、右主張の海域にその主張のような漁業に直接影響する赤潮が発生したことの疎明はない。のみならず、その主張のような漁獲高の減少があつたとしても、これが右主張の赤潮に起因することの疎明ももとよりない。

(五) また、抗告人らは、有珠漁協の漁場は有珠岳の噴火によつて流れ込んだ溶岩が岩礁を形成し、これに天然のコンブやワカメ等の海草が付着して藻場となつており、漁場に流れ込む河川がなく、海水の透明度が良好であつたため、このような自然条件を生かし、沖出し一、二〇〇メートルまで、水深一七メートル以浅の部分において、のぞき箱で海底をのぞき、ヤスで獲物(主としてウニ、アワビ、ナマコなど)をとる突磯漁業という特色ある漁法が広く行われ、その漁獲高は全漁獲高の六割を占めるものであるところ、本件埋立工事により昭和四九年に入つてからは海水が広範囲にわたつて汚濁し、有珠抗告人らの右漁業の出漁日数が従前の五割以下(ウニ漁業では一割)に減少した。更に抗告人砂川信吉、同鳴海元了、同橋祐輔が昭和四九年五月下旬から六月上旬にかけてエントモ岬とアルトリ岬の間のややアルトリ岬寄りの沖合約六〇〇メートルの海域に設置したホタテ貝採苗器を同年八月中旬から下旬にかけて引き上げたところ、これに収納してあるフイルムに泥が付着し、その結果抗告人砂川のホタテ稚貝は全部窒息死し、その他の抗告人二名については、採苗数が昭和四八年に比較して一割ないし一割五分に止まつた旨主張する。

しかしながら、有珠漁場において抗告人らが主張する程の海水の汚濁状態が生じたことについての疎明はもとより、抗告人らが主張する漁獲高の減少、ホタテ稚貝の死滅が本件埋立工事に直接起因するものであるとの疎明もない。

(六) なお、抗告人らは伊達火力本館基礎工事に伴つて汲み上げられた一日約七、〇〇〇トンにのぼる大量の地下水(淡水)が、この海域に排出され、これが海水汚濁の一因をなし、有珠抗告人らの漁業に影響を及ぼしている趣旨の主張をする。しかしながら、仮りに抗告人ら主張のような損害があつたとしても、これはその主張どおり本館基礎工事に伴うもので、本件処分と直接の関係がないこと右主張自体から明らかというべく、抗告人らの右主張は採用の限りでない。

(七) 以上のとおりであるから結局本件埋立工事に基づく海水の汚濁により本案判決確定の時点において抗告人らに対し行政事件訴訟法二五条二項所定の回復困難な損害を生ずるものということができない。

2本件埋立工事完成後の漁業環境の悪化について。

抗告人らが主張するように本件取水口外かく施設の完成に伴い防波堤等により漁場が危険にさらされる程の返し波が生ずるおそれがあるとの疎明は十分でなく、また潮流および魚道の変化ならびに海底の砂の移動についても抗告人らの主張を裏付けうる疎明はない。

3取水および温排水による被害について。

当裁判所も原決定説示のとおり本件処分は抗告人らが主張する取水および温排水による損害につき直接の原因をなすものといえず、結局本件処分と右損害の間には相当因果関係を欠くものと判断する。従つて、原決定一三枚目表八行目から同一四枚目裏五行目まで<編注、同号一三六頁傍線部分全部>を当裁判所の判断としてここに引用する。

4本件埋立地の水面が消失することによる損害について。

当裁判所も抗告人らの有する全漁場のうち右消滅海域が永久に消滅することをもつて、行政事件訴訟法二五条二項所定の回復困難な損害を生ずるものということができないと判断するのであつて、その理由は原決定理由(原決定一四枚目裏七行目から同一五枚目表九行目<同号一三六頁四段六行目から同段末尾5の直前>まで)と同一であるので、これを引用する。

5環境権に対する侵害について。

抗告人らの環境権侵害に関する主張についての当裁判所の判断も原決定理由(原決定一五枚目表一一行目から同裏一三行目<同号一三七頁一段一行目から同段6の直前>まで)にしるすところと同一であるので、これを引用する。

第三以上のとおり、本件処分によつて抗告人らに回復困難な損害を生ずるものということはできないから抗告人らの本件申立てはその余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がなく、却下を免れない。

よつて、これと同旨の原決定は正当であるから、本件抗告はいずれも棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。

(松村利智 長西英三 山崎末記)

当事者目録

第一 抗告人

(一) 佐々木弘

外一名

(二) 神山豊美

外六二名

抗告人ら代理人 江沢正良

外五名

第二 相手方

北海道知事 堂垣内尚弘

右相手方指定代理人 宮村素之

外一〇名

第三 参加人

北海道電力株式会社

右代表者代表取締役 岩本常次

右参加人代理人 山根篤

外九名

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