大判例

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札幌高等裁判所 昭和50年(ネ)17号 判決 1982年4月13日

控訴人

兵藤豊

外二〇名

右控訴人ら二一名訴訟代理人

杉之原舜一

被控訴人

北海道炭礦汽船株式会社

右代表者

林千明

右訴訟代理人

岩沢誠

水原清之

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所は、当審における新たな証拠調べの結果を斟酌しても控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加するほかは原判決理由中の控訴人らと被控訴人に関する部分の理由説示と同一であるからこれを引用する。

(1)  原判決八二頁一一行目の「認めることができ、」の次に「右認定に反する当審証人雲中輝男、同和平千治、同阿部勝雄の各証言は成立に争いのない乙第一四号証の八及び原判決援用の証拠に照らして採用することができず、他に」を加える。

(2)  原判決八二頁一三行目の「本件解職通告は」から同八三頁二行目の「申込の誘引」までを次のとおり改める。

「本件解職通告書による通告の内容は、控訴人らに対して昭和二五年一〇月二〇日限りで解雇する旨の単純な期限付解雇の意思表示に尽きるものではなく、被控訴人は右通告書によつて控訴人らに対し雇傭契約の合意解約の申入をし、これに対する控訴人らの承諾を勧告するとともに、これに併せて控訴人らからの退職の申込の誘引をもしているものと解しえられるから、控訴人らからの承諾(被控訴人の解約申入に対する承諾)或いは申込(被控訴人に対する合意解約の申込)の期限を同月一九日までとして、同日までに合意解約の承諾あるいは合意解約の申込がないときは、同月二〇日限りで解雇する条件付解雇の意思表示をしたもの」

(3)  原判決八三頁一〇行目の「ことができる。」を「ことができ、控訴人らが所属していた各労働組合が控訴人らの意思伝達の使者としてまたはその代理人として被控訴人との交渉に当つていたものということができる。」と改める。

(4)  原判決九二頁九行目の次に次のとおり加える。

「5(一) 控訴人高橋、同山内(以下控訴人高橋ら両名という。)は、被控訴人の右控訴人両名に対する解雇はマ指令に基づく解雇であるから無効である、仮に然らずとしても右控訴人両名はマ指令に基づく本件解雇基準に該当しないから右解雇は無効である、したがつて仮に控訴人高橋ら両名が右解雇を承認したとしてもそれによつて無効な法律行為が有効になるものではないと主張する。また控訴人高橋、同山内を除くその余の控訴人らは、マ指令に基づく解雇は無効である、仮に然らずとしても右控訴人らはマ指令に基づく本件解雇基準に該当しないから右控訴人らの合意退職の意思表示は無効であると主張する。そこで両主張について検討する。

(二) 控訴人高橋ら両名に対する本件雇傭契約上の終了原因は、第一次的にマ指令に基づく本件解職通告書による解雇であるところ、昭和二五年七月一八日付の連合国最高司令官の内閣総理大臣あての書簡は、公共的報道機関その他の重要産業から共産主義者及びその支持者をすべて排除することを要請した同司令官の内閣総理大臣あての指示(以下マ指令ともいう。)であつて、その趣旨は右に該当する者のうち企業の正常な運営を阻害する虚偽、煽動的、破壊的言動を行う者のみを排除すべく裁量の余地を与えたものではなく(最高裁判所昭和五〇年三月二八日第二小法廷判決)、また日本の国家機関及び国民は右指示に誠実かつ迅速に服従する義務があり、したがつて日本の法令は右指示に抵触するかぎりにおいてその適用が排除されていたと解すべきである(最高裁判所昭和二七年四月二日大法廷決定、民集六巻四号三八七頁。同昭和三五年四月一八日大法廷決定、民集一四巻六号九〇五頁。同昭和三八年一二月三日第三小法廷判決、判決特報一五六号二〇五頁。最高裁判所昭和四七年(オ)第八六七号昭和五〇年一〇月九日第一小法廷判決)。そうして、被控訴人が石炭の採掘販売その他これに関連する業務を営む株式会社であり、昭和二五年当時石炭産業が重要産業であつたことは当事者間に争いがないところである。従つて右指示及びこれに基づく本件解雇基準は有効というべきであるから、これらを無効とする右控訴人両名の主張は採用することができない。

(三) 控訴人高橋ら両名を除くその余の控訴人らの主張のうちマ指令の効力に関する部分については、前説示のとおり日本の国家機関及び国民は右指示に誠実かつ迅速に服従する義務があり、したがつて日本の法令は右指示に抵触するかぎりにおいてその適用を排除されていたものと解すべきであり、また被控訴人が石炭の採掘販売その他これに関連する業務を営む株式会社であり、昭和二五年当時石炭産業が重要産業であつたことは、当事者間に争いないところである。したがつて右指示及びこれに基づく本件解雇基準は有効というべきであるから、これらを無効とする右控訴人らの主張は採用することはできない。

(四) 次に控訴人らが本件解雇基準に該当するか否かについて検討する。

(イ)  控訴人山内が昭和二五年一〇月一七日当時日本共産党員であつたことは同控訴人が自認するところである。また<証拠>によれば、控訴人高橋は昭和二五年当時平和炭鉱労働組合の執行委員であり、一時期労働組合の闘争委員として常駐したこともあるが、同控訴人は、平和鉱細胞の諸会合に参加し、主として平和鉱従業員を目標とする日本共産党の宣伝的活動について党員である野崎史郎(原審原告)、檜山元治とともに活発な行動をし日本共産党と密接な関係があつたこと、当時平和炭鉱労働組合では同控訴人を共産党員もしくはその同調者と受けとめていたことが認められ、右認定に反する<証拠>は前掲各証拠に照らして採用することができない。

右事実によれば、控訴人高橋は、昭和二五年当時日本共産党員であつたものと推認されるが、そうでないとしてもその同調者であつたと認めることが相当である。

(ロ)  次に控訴人高橋ら両名を除くその余の控訴人らについては、控訴人涌田、同小林、同米森、同渡辺、同佐久間、同三浦らが昭和二五年一〇月一七日当時日本共産党員であつたことは同控訴人らが自認するところであり、<証拠>によれば、控訴人松橋、同奥崎は昭和二五年当時日本共産党員であつたこと、控訴人兵藤、同佐藤は昭和二五年当時平和炭鉱労働組合の組合員であつたところ、本件解雇基準に基づく解雇に関する右組合大会において、「共産党員もしくはその同調者」でない者は組合に申し出れば、組合で取り上げて法廷闘争をすることが決定されたことを知りつつ、右申出をしなかつたこと、控訴人時田、同阿部は、昭和二五年当時幌内炭鉱労働組合の組合員であつたが、右組合に対し「共産党員もしくはその同調者」ではないから組合で取上げて法廷闘争もしくは被控訴人と交渉し解雇対象者から除外することの交渉を求める旨の申出はしなかつたこと、また控訴人阿部の陳述書(甲第二五号証)には同控訴人が昭和二五年当時共産党員であつたことを窺わせる旨の記載があること、控訴人玉山は、夕張鉱業所に勤務していたが、昭和二五年当時共産党の機関紙の配付等の仕事もしていたこと、同控訴人の係長から辞めてくれないかと言われた際に、その理由も聞かず別段の抗議も述べなかつたこと、控訴人高野、同鈴木、同佃、同青山、同行延は、被控訴人からの本件解職通告書受領後退職手当等を受領するまでの間、右通告に反対し抗議はしたものの特に被控訴人に対し、具体的に「共産党員もしくはその同調者」ではない旨の申出はしなかつたことが認められ、右認定に反するかの如き<証拠>は前掲各証拠に照らして採用できない。

以上認定の事実によれば、控訴人松橋、同奥崎は、昭和二五年当時日本共産党員であつたことが認められ、控訴人兵藤、同佐藤、同時田、同阿部、同玉山、同高野、同鈴木、同佃、同青山、同行延、同日野はいずれも昭和二五年当時少くとも共産党の同調者であつたものと推認することが相当である。

(ハ)  そして、控訴人ら全員が本件解雇基準である「共産主義者またはその同調者であつて、その行動が被控訴人の正常な業務の運営を阻害し、またはそのおそれのある者」に該当するものであることは原判決がその理由第二において説示するとおりである。

(ニ)  してみれば被控訴人が控訴人高橋ら両名に対してした本件解雇の意思表示は昭和二五年七月一八日付連合国最高指令官から内閣総理大臣あて書簡による指示及びこれに基づく本件解雇基準によるものとして有効であるから、これを無効であるとする右同控訴人ら両名の主張は理由がなく採用できない。また右控訴人両名の、本件解雇は無効であるからこれを承認したとしても有効とはならないとの主張も、右控訴人両名に対する本件解雇は前記のとおり有効であるから、その余の点について判断するまでもなく失当として採用することはできない。

また、控訴人高橋ら両名を除くその余の控訴人らもマ指令及びこれに基づく本件解雇基準に該当するものというべきであるから、右基準に該当しないことを理由とする合意退職の意思表示が無効であるとの右控訴人らの主張も失当として採用できない。

6 したがつて控訴人高橋、同山内を除くその余の控訴人らと被控訴人との間の雇傭契約は合意解約によつて終了したものであり、また控訴人高橋、同山内は本件通告書に記載された昭和二五年一〇月二〇日をもつて解雇されたが、その後退職手当等を受領して右解雇の効力を承認したものであるから、控訴人らが、マ指令及びこれに基づく本件通告書に基づいて解雇されたものであるとして、その瑕疵を理由として、それぞれ解雇の無効を主張することはできないことは明らかであるから、控訴人らの解雇無効の主張(連合国最高司令官の指令(マ指令)不存在による無効、マ指令の法的拘束力不存在による無効、マ指令に基づくレッド・パージは憲法一四条、労働基準法三条に違反し無効、被控訴人の定めた本件解雇基準は憲法一四条、労働基準法三条に違反し無効)はいずれも採用できない。」

二控訴人らは、被控訴人の本件解職通告書は実質的には一方的かつ断定的な解雇の意思表示であつて、控訴人らには自ら退職の意思表示をして予告手当、退職金等を受領するか、それとも退職の意思表示をせず予告手当、退職金等を受領せずに解雇の無効を主張して争うかの二つの途があつたとはいえ、このような場合特段の事由のない限り、控訴人らを含む一般社会人に後者の途を選ぶことを期待することはできないことは明らかであるから、かかる状態における控訴人ら(控訴人高橋、同山内を除く)の合意退職の申込、控訴人高橋、同山内の解雇承認の意思表示が真意でないことは被控訴人において初めから知りえたところであるから、右意思表示は民法九三条但書により無効であるのみならず、民法九〇条に定める公序良俗に反するものとして無効であり、また被控訴人の主張する合意退職及び解雇は、被控訴人の企業の正常な運営を阻害するすべての者に対してではなく、このような阻害者のうち被控訴人が日本共産党員及びその同調者であると考えた控訴人らに対してのみされたものであるから、このような法律行為は憲法一四条、労働基準法三条に違反し無効であると主張するので検討する。

(1)  原判決援用の証拠によれば、被控訴人は、整理の方針としては対象者の退職を原則としながらも、できうるかぎり円満退職を求めるため退職にともなう受給金の額も通常の解雇の場合よりも多額になるようにし、かつ控訴人ら所属の各労働組合に対しても協議のうえ協力を求め、右整理が連合国の占領政策に基づくやむを得ない措置であることを説明し、退職届の提出期限を組合の要求によつて延長したこと、控訴人高橋、同山内を除くその余の控訴人らも当時の客観的状況から退職はやむを得ないものと判断して、自由な意思に基づいて合意解約を承認したものであることが認められ、右認定に反するかの如き当審における<証拠>は原判決援用の証拠に照らして採用できない。

(2)  控訴人山内が、被控訴人から本件解職通告書所定の退職金、特別手当等を受領するに至つた事情は、原判決がその理由第二、二4(一)の一部(原判決八八頁二行目から八九頁八行目まで)において判示するとおりであり、これに反する当審における<証拠>は原判決援用の証拠に照らして採用できない。また<証拠>によれば、控訴人高橋は、昭和二六年三月二六日北海道地方労働委員会から不当労働行為救済申立の却下決定を受け、昭和二七年一月二八日には札幌地方裁判所岩見沢支部において鉱員寮の明渡判決を受けたことから、同年二月四日被控訴人の野田勤労課長代理に対し、解雇を認めるから、供託金を取り戻して支払つてもらいたい旨を申し出たため、同人は右の申し出により控訴人高橋の供託金を取り戻して同控訴人に退職金ならびに予告手当等合計二万七五五七円九四銭を支払い、同控訴人は何等の異議もなくまた何等の留保条項もなくこれを受領したことが認められ、右認定に反する当審における<証拠>は前掲各証拠と対比して採用できない。

(3)  以上認定の事実及び原判決がその理由第一ないし第三において認定した事実(当裁判所が付加、訂正した部分を含む。)を総合すると、控訴人らの前記主張はすべて採用することはできない。

三よつて、控訴人らの本訴請求は失当で、これを棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条一項によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九三条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(安達昌彦 喜如嘉貢 大藤敏)

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