札幌高等裁判所 昭和51年(ネ)150号 判決 1977年2月28日
控訴人(原審債権者)
水島幸二
右訴訟代理人弁護士
川勝勝則
外二名
被控訴人(原審債務者)
酒井光雄
右訴訟代理人弁護士
扇谷俊雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
一、控訴人は、「原判決を取消す。控訴人と被控訴人との間の函館簡易裁判所昭和四七年(ト)第一七号土地立入妨害禁止仮処分申請事件について、同裁判所が同年四月一〇日になした仮処分決定を認可する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二、当事者双方の主張は、左記のとおり付加訂正するほか、原判決の事実中、当事者の主張として摘示されているとおりであるから、これを引用する。
(一) 控訴人は、次のとおり陳述した。
1 本件農地の時効取得の主張は、控訴人が昭和三七年二月一六日と昭和四七年二月一六日の両時点において、本件農地を占有していたので、その間、所有の意思をもつて善意、平穏かつ公然に占有していたとの推定規定を援用するものである。
2 農地の所有権の移転についての知事の許可は、所有権移転の効力の発生要件であり、従つて知事の許可がない限り農地所有権移転の効力は発生しないものであるから、仮に、被控訴人が控訴人に対し、その主張のごとく、本件農地について、知事に対する許可申請手続をなし、その許可を条件に所有権移転登記手続をなすべき旨の反訴を提起し、それを認容する確定判決を得たとしても、そのことによつて被控訴人が本件農地について所有権を取得したことが公に確認せられたとはいい得ないから、被控訴人の反訴の提起によつて控訴人の取得時効が中断されることにはならない。
(二) 被控訴人は、次のとおり陳述した。
1 控訴人が昭和三七年二月一六日から昭和四七年二月一六日までの間、本件農地を所有の意思をもつて占有していたことは認める。
2 知事の許可を条件に農地の売買がなされた場合、その許可がない限り、農地の所有権が買主に移転しないことはいうまでもないが、この場合にあつても、買主は、売主に対し、農地法所定の許可申請手続をなすことを求める請求権を取得するとともに、農地法所定の許可を停止条件として所有権を取得すべき条件付所有権を取得しているものである。
従つて、買主は、売主に対し、農地法所定の許可を条件として所有権移転登記手続をなすことを求める訴を提起することができ、時効の中断は、適法な訴の提起に伴う付随的効果であるから、農地法所定の許可を条件とする所有権移転登記手続請求の訴の提起によつて、農地についての取得時効の中断を認めても農地法の規制に違反するものではない。
三、証拠関係<省略>
理由
一控訴人は、本件農地の所有権を時効により取得したものである旨主張する。よつて案ずるに、
(一) 控訴人が昭和三七年二月一六日から昭和四七年二月二六日までの間、本件農地を所有の意思をもつて占有していたことは当事者間に争いなく、これによれば、控訴人が右の期間中、本件農地を善意、平穏かつ公然と占有していたことが法律上推定される。
(二) しかしながら、
1 <証拠>に弁論の全趣旨を総合すると、左記(1)ないし(3)の事実を認めることができる。右認定に反する証拠はない。なお、左記(4)の事実は、本件記録によつて認められる本件訴訟の経過として明らかである。
(1) 控訴人は、昭和三四年四月一八日頃、訴外高見喜七から、本件農地を、代金九〇万円で買受け、昭和三七年二月一六日、本件農地の所有権の移転につき北海道知事から農地法所定の許可を得たうえ、同年二月二〇日本件農地について控訴人への所有権移転登記を経由した(知事の許可と登記の経由については当事者間に争いがない。)。
(2) ところで、被控訴人は、本件農地の所有権を訴外河村沢治から交換によつて取得したと主張し、控訴人に対し、昭和三六年九月頃本件農地の引渡を求めてきたので、控訴人は、昭和三七年一月一一日、函館簡易裁判所に対し、被控訴人を相手として、本件農地は控訴人の所有であることの確認を求める旨の訴を提起したところ(同裁判所昭和三七年(ハ)第一三号事件)、これに対し、被控訴人は、本件農地を昭和三六年一月九日に控訴人から代金二八万円で買受けたことを理由として、控訴人に対し、本件農地の所有権を被控訴人に移転するための農地法所定の許可申請手続とこれを条件として被控訴人に所有権移転登記手続を求める反訴を提起した(同裁判所昭和三九年(ハ)第一三号事件)。その結果、第一審では双方とも請求を棄却されたため、双方控訴したが、審理の途中、本件農地の所有権が控訴人に帰属することを被控訴人が認め、確認の利益を失つた関係上、控訴人は本訴を取下げた。その結果、被控訴人の反訴についての控訴についてのみ審理が進められたが、控訴審では、第一審判決を取消したうえ、被控訴人の反訴請求を認容する旨の判決がなされた。そこで、控訴人は、右控訴審判決に対し上告の申立をしたが、昭和四三年七月二九日上告棄却の判決があり、右控訴審判決は同日確定した(右訴訟の提起及び結果については当事者間に争いない。)。
(3) そこで、被控訴人は、昭和四五年六月二五日頃までの間に、他に農地を買求めるなどして健全な農家の実績をつくりあげたうえ、同年九月二九日本件農地の所有権の移転につき北海道知事から農地法所定の許可を受け、同年一〇月一四日本件農地について被控訴人への所有権移転登記を経由した。なお、昭和四五年九月二九日に右知事の許可があつたときまで、本件農地が控訴人の所有であつたことを被控訴人は認めてきており、これを争つてはいない。
(4) しかるに、控訴人は、その後も被控訴人の本件農地についての所有権を否認して、本件農地の占有を継続し、控訴人が本件農地の移転について知事の許可を得た昭和三七年二月一六日から満一〇年を経過したので、時効により本件農地の所有権を取得したと主張して、函館簡易裁判所に対し、被控訴人を相手として、本件土地立入禁止・耕作妨害禁止の仮処分を申請(同裁判所昭和四七年(ト)第一七号事件)した。同裁判所は控訴人の右申請を許容して昭和四七年四月一〇日に決定によつて仮処分命令(以下「本件仮処分決定」という。)を発令した。これに対し被控訴人が異議を申立てたが、函館簡易裁判所は、仮処分異議訴訟の係属中に、本件を函館地方裁判所に移送したので、同裁判所は、審理のうえ、昭和五一年二月二七日に本件仮処分決定を取消して控訴人の本件仮処分申請を却下する旨の判決を言渡した。
2 ところで、取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の要件が具備する場合に、権利関係にまで高めようとする制度であるから、不動産の所有者が他人に対しその不動産を売却した場合であつても、その売主が買主に対して当該不動産を引渡さず、自ら所有の意思をもつて占有を継続し、民法一六二条所定の期間を経過したときは、買主に対する関係においても、時効による所有権の取得を援用することができるのはいうまでもないが、その場合、売主と買主との間に当該不動産の所有権移転の有無についての対立の関係が生ずるやも知れない事由(原則として売買契約の締結がこれにあたる。)が存するに至つた時までは、売主は、買主との関係上民法一六二条にいう「他人ノ不動産ヲ占有シタル者」にはあたらない者というべく、従つて売主のための取得時効は進行を始めることがないものと解するのが相当である。蓋し、売主所有の不動産が買主に譲渡されるまでは、買主との関係では該不動産が売主の所有に帰属したものであることは明らかであつて、当該不動産について、売主と買主との間における真の所有者と所有らしき外観を有する占有者としての対立関係はなく、従つて売主が自己の所有する不動産について取得時効を援用することは全く無意味であるのみならず、仮に、かかる場合においても、当該不動産の所有者たる売主について、占有をはじめた時から取得時効が進行することを認めることにすると、例えば、二〇年近くに亘つて不動産を占有してきた所有者が該不動産を他に売却した場合に、買主にこれを引渡すことなく、引き続き所有の意思をもつてこれを占有したときは、占有継続が二〇年に達するまでのあと僅かの期間その占有を継続するだけで取得時効が完成し、買主に売却した不動産の所有権を再び取得してしまうことになり、その反面、買主はその所有権を失つてしまうというような、極めて不合理な結果を招来することがありうるからである。因みに、右と同様の関係は、不動産の所有者が他人のために抵当権を設定した場合に、その実行による該不動産の競落人との関係における抵当権設定者のための取得時効は、抵当権設定行為があつたときまでは進行しないという形で妥当することとなろう。
3 そこで以上のような観点に立つて本件をみるに、前判示のとおり、本件係争地は農地であり、農地の売買にあつては、農地法所定の許可がない限り、所有権移転の効力が生じないものであるから、被控訴人が昭和三六年一月九日に控訴人から本件農地を買受けたとしても、被控訴人が本件農地の所有権移転について農地法所定の許可を得た昭和四五年九月二九日までは本件農地が控訴人の所有の土地であつたことは明らかであつて、これは被控訴人も現に認めて争わないところであり、従つて同日までは控訴人と被控訴人との間に本件農地の所有権移転の有無についての対立関係はなかつたものというべきである。そうだとすると、本件においては、本件農地についての売主たる控訴人のための取得時効は、昭和四五年九月二九日以前においては進行を始めることがなかつたものといわなければならない。而して、本件農地につき、例え同年同月三〇日から控訴人のための取得時効が進行したとしても、控訴人は、同日以降いまだ民法一六二条一項所定の十年の期間に亘つて本件農地を占有していないことは明らかであるから、控訴人の本件農地についての取得時効が完成したものと認める余地は全くないものといわざるを得ない。なお、最高裁判所第二小法廷判決・昭和四〇年(オ)第一二六五号・同四二年七月二一日民集二一巻六号一六四三頁及び同裁判所第一小法廷判決・昭和四〇年(オ)第三五三号・同四四年一二月一八日民集二三巻一二号二四六七頁は、いずれも本件の場合と事案を異にし、本件に適切な判例ではない。
(三) してみると、本件農地を時効に因つて取得した旨の控訴人の前記主張は失当であり、結局、控訴人が本件農地について所有権を有することについては疎明はないことになる。
二以上のとおりであつて、かつ、本件においては、控訴人に保証を立てさせて仮処分申請を許容するを相当とするような事情は疎明資料上窺われないから、本件仮処分申請は理由がないものとして却下を免れないものである。
三よつて、控訴人の本件仮処分申請を許容した函館簡易裁判所の本件仮処分決定は相当でなく、原審がこれを取消したうえ控訴人の本件仮処分申請を却下したのは相当であるから、民訴法三八四条一項に則つて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)
債権者
水島幸二
右訴訟代理人
舟橋一夫
外二名
債務者
酒井光雄
右訴訟代理人
扇谷俊雄
債権者側訴訟代理人
舟橋一夫外二名
債務者側訴訟代理人
扇谷俊雄
【参考・原審判決】
(函館地裁昭和四七年(モ)第四〇六号、仮処分異議事件、同五一年二月二七日判決)
【主文】 一 債権者と債務者との間の函館簡易裁判所昭和四七年(ト)第一七号土地立入妨害禁止仮処分申請事件について、同裁判所が同年四月一〇日になした仮処分決定を取消す。
二 右仮処分申請をいずれも却下する。
三 訴訟費用は債権者の負担とする。
【事実】 <省略>
【理由】 一 仮処分申請の理由について。
(一) 原告が昭和三七年二月一六日本件農地につき占有を開始し、昭和四七年二月一六日の時点においても占有していた事実は当事者間に争いがない。
(二) そこで時効中断の抗弁について判断する。
1 <証拠>を総合すると、左記2ないし8記載の事実を認めることができる。
2 債権者は、昭和三四年四月一八日ころ、親類の高見から本件農地を買受けた。高見に対し、債権者が逐次貸与してきた債権の回収の意味もあつて結局は債権者が買受けたため、その代金額について契約時の定めは九〇万円であつたが、右貸金債権と相殺し、残余について現金で弁済し、その証拠に昭和三六年二月二三日付で九三万円、同年三月二〇日付で一三万円の合計一〇六万円の領収証を徴した。
3 右売買契約の後、債権者は、かねてからの知合いであつた小林の仲介により、河村に代金一四六万円で昭和三四年六月八日ころ本件農地を転売した。そして高見から直接河村へ同年同月一〇日受付で所有権移転請求権保全の仮登記手続が履践された(中間省略、登記がなされたことは当事者間に争いがない。)。ところが右転売代金の支払をめぐつて紛争が生じた。
又高見が経済的に困窮しており、直ちに離農することが困難であつたことや、本件農地の所有権移転に農地法所定の許可手続が必要であつたこともあつて、登記簿上は、前記の如く、とりあえず、高見から河村へ仮登記がなされた(この点は当事者間に争いがない。)。
4 他方、債務者は、昭和三五年五月ころ、旧榎本町の土地(当時は畑と崖地とであつた。現在函館市日吉町一丁目一五七番の一ないし三〇、昭和四四年に所在地名が変更になつた。)を、訴外前川利秋から買受けた。
河村は、債権者から本件農地を買つてはみたものの、農地法所定の許可を得ることが困難であることが判明してきたこともあつて、昭和三五年一二月ころに債務者が旧榎本町の土地の一部である別紙物件目録二記載の土地(以下「本件山林」という。)を提供し、河村が本件農地を提供して交換契約(以下「本件交換契約」という。)が成立し、まず本件山林につき同年一二月二四日付で(同年一二月二一日付売買を登記原因とする。)河村への所有権移転登記手続がなされた。
ところが、その後本件山林に付着している仮登記担保をはずす資力が債務者になかつたこと、本件山林が農地法に違反して整地されたため、平坦部分については同法一五条により強制買収の運命になりかねないこと、などの事情が判明し、本件山林の半分位が崖地で、宅地としては使用困難な現況もあつて、河村が本件交換契約の履行(本件農地の仮登記を河村から債務者へ移すことなど。)に難色を示しはじめたため債務者に何とか本件農地を取得できる方向で解決して欲しい旨、近江に仲介方を依頼した。
5 そこで近江は、債務者が本件農地を取得して転売できれば、その利益で本件山林に付着した仮登記担保を解消せしめることができるし、債権者としてもすでに本件農地を河村へ転売ずみであるから、前記紛争になつている本件農地代金の未払(不足)分を受取りさえすれば、それで了承するはずであると考え、近江がかねて、函館市湯の川農業協同組合の組合長をしていたことがあり、債権者も理事をしていたため二人が知人関係であつたこともあつて、債権者に折衝した結果、最終的には、昭和三六年二月九日、「二八万円を債務者が債権者に支払い(弁済期限を同年二月一三日限り)、その代りに債権者側から債務者側へ本件農地の所有権を移転するにつき必要な一切の手続及び書類の提供を債権者が責任を負担する」旨の合意に達し、これを売買契約の形式をもつて成立せしめた(以下「本件売買契約」という。)。そして債務者は、二月一三日右二八万円を完済した。
他方、河村は同年六月三〇日付をもつて本件山林を訴外株式会社拓殖銀行へ担保に供し、根抵当権(極度二二〇万円)設定登記手続を履践して、その担保価値を利用している。
6 その後債権者は、昭和三六年七月二八日、河村から本件農地を買戻す形で代金一七五万円を支払い、同日付で河村から債権者に本件農地の所有権移転請求権保全仮登記の所有権移転請求権移転登記(附記登記)手続がなされた。そして昭和三七年二月一六日、本件農地の所有権を高見から債権者に移転することにつき農地法三条の知事の許可があり、同年二月二〇日、その旨の所有権移転登記手続がなされた(右許可と登記手続とは当事者間に争いがない。)。そのころから債権者は、本件農地で耕作を開始した。
7 そこで債務者が債権者に対し、前記売買契約に基づき「本件農地の引渡し及び所有権移転登記手続を求めた」ところ、債権者が拒絶したため紛争が生じ、債権者は、昭和三七年一月一一日、債権者を相手に、函館簡易裁判所に本件農地の所有権確認の訴を提起し(昭和三七年(ハ)第一三号、前訴訟の本訴)、これに対し債務者は、昭和三九年一月九日「本件農地の所有権を債務者に移転するための農地法所定の許可申請手続及びこれを条件として債務者に所有権移転登記手続をせよ」との反訴(昭和三九年(ハ)第一三号、前訴訟の反訴)を提起した。その結果第一審では双方とも請求を棄却され、双方控訴したが、債権者は途中で(すなわち、本件農地の所有権が債権者に帰属していることを、債務者が認め、確認の利益がなくなつた関係から)本訴を取下げたため、債務者の控訴(反訴)に対してのみ訴訟が進められ、第一審判決を取消したうえ、債務者の右反訴請求を認容する旨の前訴訟第二審判決が言渡されて、その後昭和四三年七月二九日確定するに至つた(右訴訟の存在及び結果は当事者間に争いがない。)。
8 右の如く、前訴訟の第二審判決が確定したので、これに基づき債務者は昭和四五年六月二五日ころまでに、他に農地を取得し、健全な農家としての実績をつくり、そのうえで同年七月二四日、本件農地につき農地法三条の許可申請手続をとつたところ、近江の援助もあつて同年九月二九日付で右の許可を得て、同年一〇月一四日、前訴訟第二審判決に基づき、本件農地の所有権移転登記手続が債権者から債務者へなされた。
9 以上の認定事実に徴すると、債権者が昭和三七年二月一六日占有開始から一〇年間の経過により成立したと主張する本件農地に対する取得時効は、前訴訟における反訴提起の日である昭和三九年一月九日から前訴訟第二審判決が確定した昭和四三年七月二九日まで中断したものと解するのを相当とする。
なお債権者は、「前訴訟の第二審判決は、それに対する再審の訴(当裁判所昭和四五年(カ)第一号)において取消されるものであるから」とか、あるいは、「前訴訟の反訴提起時において債務者はいまだ農地法所定の許可を得ていなかつたため、本件農地の所有権者でなかつた」と主張して、前訴訟における反訴提起に伴う時効中断事由としての効力を争うけれども、右再審の訴は、再審事由が認められず棄却されることが当裁判所に顕著(本件と同日当裁判所で終結、言渡)であり、又前記認定のような前後の事情のもとに、債務者が債権者を相手方として「本件農地の所有権を債務者に移転するための農地法所定の許可申請手続及びこれを条件として債務者に所有権移転登記手続をせよ」との前訴訟の反訴を提起し、結局最終的にこれが認容されて確定した本件においては、取得時効の中断事由としての効力があると認めるのを相当とすべく、この点に関する債権者の主張は当裁判所の採用しないところである。
したがつて、債権者は、昭和四七年二月一六日(一〇年間)の経過によつても本件農地を時効取得していないというべきである。
二 以上の次第で、時効取得による本件農地の所有権を債権者が取得していないから、これを被保全権利とする本件仮処分申請は被保全権利についての疎明がないことに帰し、又保証をもつてこれに代えることも相当でないので、その余の点について判断するまでもなく失当として却下すべきである。
三 よつて先に債権者の申請を容れてなされた本件仮処分決定は相当でないから異議の申立を認容して右の決定を取消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。