札幌高等裁判所 昭和52年(ラ)12号 決定 1977年5月30日
抗告人
安斉富士男
相手方
日本住宅公団
右代表者
福島茂
右訴訟代理人
矢吹幸太郎
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は、抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。
二よつて、抗告人の本件抗告理由について順次検討する。
(一) 抗告理由第一点について
右抗告理由は、要するに、原決定の判断には予断と偏見にもとづく重大な事実の誤認があるというに在る。
しかし、一件記録によれば、原審裁判所は、抗告人の本件文書提出命令の申立について、本件訴訟の経過と被審人渡辺勝範の審尋の結果を総合勘案したうえ、これが理由がないものとして却下したものと認められ、抗告人主張のごとく予断と偏見にもとづいて事実誤認したと認むべき資料は全くないから、さような事実があつたとの前提に立つ抗告人の右抗告理由第一の主張は、爾余の考察をなすまでもなく、失当というべきである。
(二) 抗告理由第二点について
右抗告理由は、要するに、抗告人の提出命令の申立にかかる文書を相手方が所持していないと判断した原決定には重大な事実の誤認がありかつ判例違背があるというに在る。
よつて案ずるに、民事訴訟法三一二条において文書の提出義務を負う文書の所持者とは、その直接占有者を意味するから、現に当該文書を握持している者のみならず、いつでもこれを現実に所持する者から事実上自己の支配に移すことができる地位にある者をも包含するものと解するのが相当ではあるが、被審人渡辺勝範の審尋の結果によれば、原決定添付別紙目録一の2、4、5、6、7、同目録二の(1)の1ないし7、(2)の1ないし5記載の各文書はいずれも相手方が現に所持していないことが明らかであり、かつ、抗告人の主張する件外財団法人住宅協会が現にこれらの文書を所持していて、相手方がこれを事実上自己の支配に移すことができる地位にある者と認めるに足りる証拠資料もないから、抗告人の右抗告理由第二点の主張も失当である。
(三) 抗告理由第三点について
右抗告理由は、要するに、裁判所は、当事者が提出を命ずるよう申立てた文書については、訴訟との関係の有無や数量の多寡、文書の捜出に要する日時、労力等にかかわらずすべて提出を命ずるべきであるのに、文書の捜出に多数の日時、労力を要することや必要性のないことを理由として抗告人の文書提出命令の申立を却下した原決定は、民事訴訟法三一二条に違反するというに在る。
よつて案ずるに、当事者から書証の申出として文書提出命令の申立があつたときは、受訴裁判所は、その申立をすべて採用しなければならないものではなく、訴訟の進行の状況、当該事案の内容、立証の必要等の観点から申立の許否を決定すべきものであるから、文書提出命令の申立をすべて採用すべきだとする抗告人の右抗告理由は失当である。相手方に文書の提出義務があり、且つ当該文書が証拠として提出される必要がある場合に、当該文書の捜し出しに多数の日時と労力を要するという理由でもつて、文書提出命令の申立を却下することは、挙証者の立証の途を塞ぎ、事実の証明に必要な証拠方法の入手を不可能にするものであるから、許されないものというべきであるが、原審裁判所は、原決定添付目録一の1、3記載の文書については、本件訴訟の経過に鑑み、その必要性を肯定することができないとして、右文書の提出命令の申立を却下したものであることは判文上明らかである。ところで、文書提出命令の申立は証拠の申出としての書証の申出をするための一つの方法であり、証拠としての必要性の有無の観点よりする文書提出命令の申立についての許否の決定は、訴訟指揮に関する決定として、受訴裁判所が訴訟の進行の程度に応じて判断すべき専権事項に属するものというべきであるから(民事訴訟法二五九条参照)、受訴裁判所がその必要性なしとして文書提出命令の申立を却下した場合には、文書の所持者にその提出義務なしとして右申立が却下された場合とは異なり、当事者は終局判決に対して上訴したときにその点についての判断を受けるべきものであつて、このような却下決定に対して独立の不服の申立をすることは許されないものと解するのが相当であるところ、前記目録一の1、3記載の文書に関する提出命令の申立はその必要性なしとして却下されたものであることは叙上判示のとおりであるから、右文書が民事訴訟法第三一二条各号所定の文書に該当するか否かを問うまでもなく、抗告人の右抗告理由の主張も亦失当というべきである。
三そうすると、抗告人の本件文書提出命令の申立を却下した原決定は相当であつて本件抗告は理由がないから、民事訴訟法四一四条、三八四条一項に則りこれを棄却することとし、抗告費用の負担について同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)
別紙<省略>