札幌高等裁判所 昭和52年(行コ)1号 判決 1981年9月29日
控訴人
北海道
右代表者知事
堂垣内尚弘
右訴訟代理人
堀家嘉郎
同
馬見州一
同
曽根理之
同
田中健二
右指定代理人
福重隆幸
外六名
被控訴人
北海道地方労働委員会
右代表者会長
二宮喜治
右指定代理人
菊地浩
外二名
参加人
南部順一
右訴訟代理人
鎌形寛之
同
佐藤文彦
同
川村俊紀
同
斎藤了一
主文
一 原判決を取消す。
二 被控訴人が、参加人と控訴人間の昭和四五年道委不第三号事件につき、昭和四八年七月九日付でなした命令(別紙命令(一)記載のとおり)のうち主文第一項を取消す。
三 被控訴人が、参加人と控訴人間の昭和四二年道委不第一〇二号事件につき、昭和四八年七月九日付でなした命令(別紙命令(二)記載のとおり)を取消す。
四 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とし、参加によつて生じた訴訟費用は参加人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文と同旨。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張、証拠関係<中略>
一 控訴人の主張
1 救済申立の適否
(一) 全北海道庁労働組合(以下、「全道庁」という。)は、労働組合法(以下、「労組法」という。)上の労働組合ではなく、地方公務員法(以下、「地公法」という。)五七条にいう単純な労務に雇用されるもの(以下、「単労」という。)を含む職員団体であり、労組法七条一号にいう「労働組合」にはあたらない。従つて、参加人の行為は「職員団体のための行為」であり、同号にいう「労働組合の正当な行為」に該当しないから、控訴人の参加人に対する各懲戒処分(以下、「本件懲戒処分」という。)が同号の不当労働行為となる余地はない。
労組法は、不当労働行為につき労働委員会による救済手続を定めているが、右救済制度は、地方公務員にあつては単労について準用され(地方公営企業労働関係法(以下、「地公労法」という。)附則四項、同法四条)、地公労法三条二項の地方公営企業職員について適用されるのみで(同法四条)、右以外の一般職員には適用されない(地公法五八条一項)。一般職員については、地公法五六条の不利益取扱禁止規定があり、同条違反の処分を受けた職員は地公法四九条の二の規定により人事委員会又は公平委員会に対し不服申立をすることができる。右不利益取扱禁止規定は、単労にも適用されるが、同条違反の処分を受けた単労は、地公法四九条の二の規定の適用がないので、人事委員会又は公平委員会に対し不服申立をすることができない。しかし、このことをもつて職員団体に加入する単労が不利益取扱を受けたとき、不当労働行為の救済申立ができると解すべき根拠とすることはできない。
(二) 職員団体と労働組合との基本的な差異は、労働協約締結権の有無にある。労組法は、一条で「この法律は、使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすることを助成することを目的とする」旨を規定し、六条でも同旨の規定を設け、一四条以下において労働協約の効力に関する規定を設けている。一方地公法は、五五条二項で「職員団体と地方公共団体の当局との交渉は、団体協約を締結する権利を含まないものとする」旨規定し、さらに五八条で労組法の規定は職員に関して適用しない旨を規定している。このように、実定法上、職員団体と労働組合とは組織及び権能において截然と区別されている。単労は、一般職員と勤務場所を同じくするものであるが、一般職員が行政権の行使を担当し、法令の解釈、適用、判断及び裁量行為を主たる職務とするのに対し、単労は機械的、肉体的労務に従事して一般職員の職務執行を補助することを主たる職務とする。すなわち、単労は、一面で一般職員と同一場所で勤務に服するが、担当職務が異なり機械的、肉体的勤務に服する点で地方公営企業職員と共通した職務内容を有する。
(三) 単労の団結権に関する現行法制度は、国会が立法裁量に基づいて次のとおり定めている。単労は、①単労のみで労働組合を結成し、又はこれに加入すること(地公労法附則四項、同法五条一項)、②単労と一般職員とが混合して職員団体を結成し、又はこれに加入すること(地公労法附則四項、地公法五二条三項)、③単労のみで職員団体を結成し、又はこれに加入すること(右同)の各態様の一つ又は二つ以上を単労自らの意思で自由に選択し得るとしたうえ、①の場合にあつては、「労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて不利益な取扱いを受け」たときは労組法に基づく制度を、②、③の場合にあつては、「職員団体の構成員であること、職員団体を結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと又は職員団体のために正当な行為をしたことの故をもつて不利益な取扱いを受け」たときは地公法に基づく制度を、それぞれ適用することとし、労働組合と職員団体とに重複して加入した場合にあつては、その行為の内容により労働組合のためのものであるときは労組法に基づく制度を、職員団体のためのものであるときは地公法に基づく制度をそれぞれ適用することとしている。
それゆえ、職員団体に関する規定(地公法五二条ないし五六条)を単労にも適用することとした昭和四〇年法律第七一号による地公労法の改正に際し、労組法七条に対応する地公法五六条の規定をも単労に適用することとしたものと解すべきである。そして、地公法五六条違反の処分を受けた単労は、右以外の理由で懲戒その他その意に反する不利益処分を受けた場合と同様地公法四九条の二の規定の適用がないので、人事委員会又は公平委員会に対し不服申立をすることができず、直接裁判所に対し訴を提起する以外には救済の方法がないとするのが現行法制度の趣旨である。
(四) 単労は、前記①ないし③の各態様の一つ又は二つ以上を単労自らの意思で自由に選択し得るのであるが、単労が労働組合を結成せず又はこれに加入しない場合(地公労法附則四項、同法五条一項)には、「労働組合」の行為なるものはあり得ず、従つて「労働組合の正当な行為」を理由とする不当労働行為が成立する余地もない。
要するに、単労は、労働組合を結成し又はこれに加入できるにも拘らず、労働組合を結成せず又はこれに加入しない以上、労働委員会に対して不当労働行為の救済を申立てることができないのは当然のことである。
2 労働委員会の審査権の範囲
労働委員会の発する救済命令は、法律関係を確認、給付、形成するものではなく、不当労働行為が発生した場合に行政処分として、使用者に対し当該行為の禁止、必要な具体的措置、再発防止措置を命じることによつて正常な労使関係の維持、回復を図ることを目的とするものであるから、労働委員会の本来の権限外に属する司法的判断に基づく司法処分や他の行政機関の権限事項に関して救済命令を発することはできず、裁量権の範囲についても自ら限界が存する。労組法七条一号の「労働組合の正当な行為」の認定については、被控訴人の審査権の範囲内ではあつても、地公労法一一条一項に違反する争議行為を「労働組合の正当な行為」と認めることは、最高裁判例で示された争議行為一律全面禁止・違法性一元論に背馳し、同条項及び労組法七条一号の解釈適用を誤つたものとして、違法な争議行為を容認する結果を招来するものであり、労働委員会の審査権の範囲を逸脱した一種の立法行為にほかならず、ひいて法的安定性を害し、公益目的、行政目的に反することになる。
3 地公労法一一条一項の解釈
(一) 参加人は、北海道立釧路病院のボイラー技士であり、地公法五七条に規定する単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員であるが、このような単労については地公労法附則四条により地公労法が準用されている。ところで、地公労法一一条一項は、国家公務員法九八条二項、地公法三七条一項、公労法一七条一項と同様、一切の争議行為を禁止し、又これら禁止行為の共謀、そそのかし、あおり行為を禁止する旨規定している。
(二) 地方公務員も憲法二八条の勤労者として同条による労働基本権の保障を受けるが、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、実質的にはこれに対して労務提供義務を負う特殊な地位を有し、かつその労務の内容は公務の遂行、すなわち直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性質を有するものであつて、地方公務員が争議行為に及ぶことは右のような地位の特殊性及び職務の公共性と相容れず、又そのために公務の停廃を生じ地方住民全体ないしは国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか又はその虞がある点において、国家公務員の場合と選ぶところはない。そして、地方公務員の勤務条件は法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によつて定められ、又その給与が地方公共団体の税収等の財源によつて賄われるところから、当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的配慮によつて決定されるべきものである点においても、地方公務員は国家公務員と同様の立場にあり、私企業労働者のように団体交渉による労働条件の決定方式が当然には妥当せず、争議権も団体交渉の裏付けとしての機能を発揮する余地に乏しく、かえつて議会の民主的手続によつてなされる勤務条件の決定に対し不当な圧力を加え、これを歪める虞がある。
(三) 単労は、一般にその勤務条件の維持改善を図ることを目的として職員団体を結成すること、結成された職員団体に加入し、又は加入しないことの自由を保有しているばかりでなく、労働組合を結成し、加入することすら認められており、当局は、登録された職員団体から職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附随して一定の事項に関し交渉の申入れを受けた場合、これに応ずべき地位に立つ(地公法五五条一項)のであつて、原則的に交渉権が認められ、しかも職員は、職員団体の正当な行為をしたことのために当局より不利益な取扱を受けることはなく(同法五六条)、又職員団体に属していないという理由で交渉事項に関して不満を表明し、あるいは意見を申出る自由を否定されない(同法五五条一一項)。又、単労が地公労法五条により労働組合を結成し、又はこれに加入した場合には、以上の諸権利のほか賃金その他の勤務条件等一定事項につき団体交渉をし、労働協約を締結することができる(地公労法七条)。特に地公労法は、当局と組合が職員の苦情を適当に解決するため団体交渉で定めるところにより苦情処理共同調整会議を設けなければならない旨規定し(地公労法一三条)、当局と職員との間の紛争につき、労働委員会において斡旋、調停及び仲裁を行なうことができることとし(地公労法一四条、一五条)、仲裁裁定に対し、当事者は双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、又地方公共団体の長は、当該仲裁裁定が実施されるようできる限り努力しなければならないのであり、予算上又は資金上不可能な支出を内容とする裁定については、その最終的決定を議会に委ねるべきものとしている(地公労法一六条)。これは、労働協約締結権を含む団体交渉権を付与しながら、争議権を否定する場合の代償措置として、よく整備されたものということができ、職員の生存権擁護のための配慮に欠けるところはないというべきである。
4 懲戒処分の裁量性
(一) 公務員に対する懲戒処分は、特別権力関係内部において、公務員の義務違反行為に対し反省を求めるために科せられる監督作用であるが、その効果として身分喪失(免職)、減収(停職、減給)等の権利侵害を伴うため取消訴訟の対象とされているのであるから、裁判所の懲戒処分の効力、適否の審理、判断は、右観点の下になされるべきである。
一般の行政処分は、一般権力関係において、租税の賦課、免許、確認等国民の権利義務を形成、確定することを主たる目的とするものであり、いわゆる法規裁量処分ないし覊束裁量処分が主要なものであるから、法令に適合するか否かが判断の中心となる。これに対し、懲戒処分は、職員の身分喪失等を直接目的とするものではなく、公務員の勤務秩序を保持し、綱紀を粛正して公務員としての義務を全からしめることを目的として行なわれるのであつて、両者はその性質、目的を著しく異にしている。三権分立の建前上、行政権内部における監督作用は、平素職員の監督にあたり庁内の事情に通暁する任命権者の裁量に任すのでなければ、到底適切な結果を期待することはできないのであり、裁判所が任命権者の立場に立つて代替的な監督作用を想定し、これと懲戒処分とを対比して判断するが如き姿勢は、厳に慎しむべきである。
職員の義務違反行為が認定される以上、当該行為に対する行政組織内部の監督作用としての懲戒処分について、それが妥当であるか否かは裁判所の権限外にあるのであつて、国民としての権利義務の違法な侵害ありと認められる場合に限つて取消判決をなすべきである。
要するに、懲戒処分は、任命権者の広い裁量に委ねられた行政権の作用であるから、分立する司法権がこれを取消すについては、明白かつ重大な裁量権の濫用が認められる場合に限定されるべきである、このように考えるならば、懲戒免職処分はともかく、停職以下の処分について、裁判所が裁量権の濫用を理由に取消すことはまず考えられないのである。
(二) 裁量権とは、行政の本質である合目的的行政行為実現のため行政権に与えられた判断作用であり、その内容は弾力的、包括的であり、その範囲は私権に比して格段に広い。従つて、裁量権の濫用は、行政権の判断作用に著しい逸脱があるためそのまま放置することが正義に反することを意味する。任命権者は、懲戒処分を行なうにあたり、服務違反行為が懲戒に値するものかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決定するについては、当該行為の違法性の軽重のほか本人の性格、平素の行状、他の職員に与える影響、本人及び他の職員の訓戒的効果等諸般の要素を総合して、綱紀粛正、秩序保持を目的として裁量権を行使する。右判断は、直接監督の衝にあたるものの判断に任すことによつてはじめて適切な結果を期待することができるのである。
二 被控訴人の主張
1 組合組織の自由化
ILO八七号条約(結社の自由及び団結権保護に関する条約)批准に伴う昭和四〇年の公共企業体等労働関係法の一部改正により同法四条三項が削除され、この結果公共企業体等の職員は、職員以外の一般民間企業体等の労働者とともに自由に労働組合を組織することができるようになつた。又同趣旨の規定である地公労法五条三項も削除され、公共企業体等の職員と同様に地方公営企業職員も、一般民間企業等の労働者とともに自由に労働組合を組織することができるようになつた。
さらにこれとあわせて、地公法も改正されて、単労が単労以外の職員の結成する職員団体に加入することも自由になつたが、単労の労働関係については、地公労法附則四項により同法が準用され、他方不利益取扱に関する地公法上の救済手続から除外された。このように、混合組合に加入している単労については、労組法の適用があり、本来不当労働行為の救済は団結権に対する侵害を守るものであるから、混合組合はこれら単労に関する限り労組法上の労働組合として不当労働行為の救済を求める資格を有するものである。現に全国の多くの地方労働委員会に、これらにかかる不当労働行為救済申立事件が係属しており、申立に関する管轄の問題はすでに解決済である。以上のように国内関係法令の一部改正により、組合組織の自由化を図つたことは、混合組合を認めたことであり、その結果、混合組合は、地公法上の職員団体としての側面と、単労に関しては、労組法上の労働組合としての側面の二面性を認められたことになる。
2 単労の組織状況
地方公共団体の単労は、非現業の地方公務員が組織する職員団体に加入し、これを通じて勤務条件につき当局と交渉しているのが実情である。小規模の地方公共団体においては、地方公営企業職員が非現業の地方公務員の組織する職員団体に加入している例がかなり見受けられ、特に単労の場合には、これが一般的である。これは、単労等の数が少なく、独自に労働組合を組織することは実際上困難であること、単労等の勤務条件が勤務場所を同じくする非現業の地方公務員の場合に準じて同時期に決定されていることによる。
三 参加人の主張
1 救済申立の適否
昭和四〇年の地公労法五条三項の削除、地公法五二条以下の改正により、単労も職員団体に加入し得ることとなり、混合組合が法認された。右改正以前から、混合組合は現に存在し現実的存在意義を有していたが、混合組合もしくは構成員たる単労が労組法上の不当労働行為救済申立権を有するか否かに関しては、すでに中央労働委員会において肯定され最終決着をみていた。右法改正は、ILO八七号条約批准に伴う国内法の整備として行なわれたのであるが、同条約第一部結社の自由二条は、「労働者及び使用者は、事前の認可を受けることなしに、自ら選択する団体を設立し、及びその団体の規約に従うことのみを条件としてこれに加入する権利をいかなる差別もなしに有する。」、同八条二項は、「国内法令は、この条約に規定する保障を阻害するようなものであつてはならず、又これを阻害するように適用してはならない。」、又第二部団結権の保護一一条は、「この条約の適用を受ける国際労働機関の各加盟国は、労働者及び使用者が団結権を自由に行使することができることを確保するために、必要にして且つ適当なすべての措置を取ることを約束する。」、と規定している。従つて、不当労働行為の救済についていえば、少くとも憲法上団結権を保障された労働組合及び構成員に対し、あるものにこれによる救済を付与し、あるものに救済を拒否することは、自主的団結権選択に対する差別であり、右条約第一部結社の自由二条に違反する。
右条約批准並びに法改正に至る経過をみるに、昭和三四年二月政府諮問機関の労働問題懇談会は「ILO八七号条約批准に関する答申」を行ない、「ILO条約の趣旨とする労使団体の自主的運営並びにその相互不介入の原則が我国の労使関係においても十分取入れられるよう、別に然るべき方法で現行労使関係法全般についても再検討することが望ましい。」と述べ、これを受けて政府は、同年二月の閣議決定において、ILO八七号条約の精神を取入れて今後行なうであろう国内法改正に向けて施政を進める旨言明した。
昭和三六年六月自治労は、五項目に亘つてILOに提訴し、不当労働行為の事実を挙げ、労組法の不当労働行為の規定、罰則、救済制度が地公法上全く欠けていることを指摘した。政府は、ILO九八号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)六条を引用し、地公法の適用を受ける労働者は、「国の行政に従事する公務員」であるから、同条約は適用除外されるので拘束されない、としていたが、同年一一月ILO結社の自由委員会第五八次報告は、政府の右主張を容れず、自治労の申立にかかる具体例につき早急に見解を提出するよう求めた。昭和四〇年八月ドライヤー報告がなされ、次のように指摘された。「政府は、全体として省庁、地方当局、公共企業体等又は地方公営企業体のいずれに雇用されるかを問わず、これらすべての職員に適用される一般的労働政策を持たなければならない。この政策は最低限として今日すでに日本にとつて国際的な義務である結社の自由及び団結権保護条約(八七号)と、団結権及び団体交渉条約(九八号)の諸規定をすべての官公庁労働者に対して、完全に適用することを直ちに定めなければならない。」(二一七一項)。さらに現行の苦情処理機関は満足ではなく、「苦情を提出し、且つその苦情の救済を受けるという権利は、致命的に重要である。建設的な、しかも安定した労使関係は、この権利が明確に認められることを要求する。」(二一七五項)として、より効果的な苦情処理機関の必要性を強調した。
憲法二八条の保障する団結権の主体は「勤労者」であり、従つて第一次的に団結権保障上の法的保護の対象となるのは、勤労者であり、「団結体」は勤労者の団結権行使の具現体であるから、第二次的な法的保護の対象となる。単労も勤労者であり、憲法二八条の団結権保障の下にあることを考えるなら、単労に対する不当労働行為救済制度を考える場合、それが勤労者の団結活動である以上、その団結体の性格が地公法上の職員団体であるか労働組合であるかは、二義的問題に過ぎず、単労の団結権保障上の法的保護はそれが加入する団結体のいかんを問わず、あくまでも地公労法上の保護によるとすることは自明のことである。
2 地公労法一一条の解釈
(一) 公務員に対して労働基本権の憲法的保障を原則的に認めるということは、公務員の労働基本権、特に争議権を憲法上の権利として承認した以上、仮りに合理的な限度でこれを制限することはあり得ても、これを全面的に禁止し剥奪することは許されないことを意味する。権利として与えたものを全面的に禁止し剥奪することはとりもなおさず権利の否認であつて、権利を保障したことにはならない。憲法二八条の労働基本権は、「現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたもの」(憲法九七条)であつて、公務員であるからという理由で容易に制限剥奪が許される性格のものではない。
財政民主主義及び労働基本権の保障がともに憲法上の重要な要請であることに変りはなく、この両者を調和的に解釈することは十分に可能である。これを実証しているのが公労法一六条、地公労法一〇条の実定法規の存在である。右規定は、公労法、地公労法が労働協約締結権を含む団体交渉権を認めていることを前提としたうえで、労働協約と国会ないし議会の議決との調整を規定している。官公労働者も憲法二八条の「勤労者」として同条の労働基本権の保障を受けているのであつて、公労法、地公労法の団交権、協約締結権の規定は、右憲法上の保障を確認したに過ぎないのであり、決して国会の特別の配慮により付与創設されたものではない。
(二) 憲法七三条四号は、官吏に関する事項が明治憲法下においては天皇大権に帰していたことの反省から定められたものであり、公務員の勤務条件を逐一法律で定めることを要求した規定ではない。従つて、国会、議会は公務員の勤務条件の大綱を定めるにとどめ、広範な部分は団体交渉に委ねられるべきものである。現に法律、条例で定められている勤務条件を変更する場合の協約は、議会における法律、条例の改廃決議を経て発効するとの制限により、議会の議決権との調和を保ち得るのである。議決権を理由に団交権、協約締結権を全面的に剥奪することは、必要最少限度を越えた不当な制限である。又法律、条例とは無関係に内閣、地方公共団体の長その他の行政機関の長が規則等で定める勤務条件が多く存在するが、これを変更するには、当該行政機関が自らの権限で協定の内容に副う規則等の改廃を行なうのであり(地公労法九条)、議会の権限との抵触の問題は生じない。いずれにおいても、勤務条件法定主義、条例主義をもつて、団交権、協約締結権を否定する根拠とすることはできないのである。
昭和四〇年代前期の公務員共闘の経過をみるに、人事院勧告完全実施を要求して行なわれた各種ストライキは、人事院勧告実施に関する閣議決定に向け、これに影響を与えるために行なわれた。その結果、閣議決定は、実施時期を漸次繰上げ、昭和四五年から人事院勧告を完全に実施する旨約束するに至つた。政府は、これら閣議決定に副い給与法改正、補正予算案を国会に提案し、国会がこれを承認することにより賃金が決定されて来た。全道庁は、昭和二二年に所属職員の経済的、文化的地位の向上を目的として結成され、現在に至るまで道当局との間で勤務条件について団体交渉をし、争議行為を実施して、職員の地位向上に資する多くの勤務条件を獲得した。全道庁は、組合員の広範な要求を民主的手続によつて取りまとめ、これを当局に提示して団体交渉をし、合意した点について確認書、覚書等の書面を取交し、当局はその内容に従い条例事項は議会に対して条例提案をし、規則事項は規則の制定、改廃をし、規則によらずに実施できる事項は直ちに実施している。議会も職員の勤務条件にかかわる事項については、当局の提案を尊重し無修正で議決する。これが労働慣行であり、実態である。
このような勤務条件決定の実際に照らしても、財政民主主義、勤務条件法定主義を論拠とする議論は、空論であることが明らかである。
(三) 公務員の社会的、経済的関係における地位の特殊性を理由に、公務員の争議行為全面一律禁止を合憲とすることはできない。公務員の勤務条件が劣悪であれば公務員になる者がなくなるし、賃金が著しく高ければ独占資本からの抑制が働く。公務員の争議行為には国民世論の抑制力が働く余地が十分にあり、過去の実態からも、無限に高水準の勤務条件を獲得したことはない。
公務員の職務の公共性を理由とすることもできない。争議権も基本的人権である以上、これを制約できる根拠があるとすれば、他人の基本的人権との関係においてである。公共の福祉とは、人権相互の矛盾、衝突を調整する実質的公平の原理を意味するものと考えられる。一口に業務といつても、その内容は千差万別で、争議行為の影響も一律ではない。仮りに、争議権の行使が国民の重大な生活上の支障を防止するために制約を受けることがやむを得ないとしても、その制約が直ちに全面禁止でなければならないものではない。又いわゆる代償措置論は、労働基本権を制限することに合理性がありやむを得ず制限する場合に、その代償を要求することによつて労働基本権制限の合憲性を補強しようとする副次的理論であり、代償措置を設けさえすれば労働基本権を制限することができるというものではない。
3 地公労法一一条違反の効果
地公労法一一条は、地方公営企業の特質である公益性、社会性及び独占性に鑑み、公共の利益を擁護するため労使双方に対して争議行為を禁止制限したものであり、公労法一七条と同趣旨であつて、使用者の財産権等経営上の諸法益を保護する目的を有するものではない。同条違反の効果として、地公労法一二条は当該職員を解雇することができる旨規定している。これは、違反行為をした職員を地方公営企業から排除することにより、国民生活全体の利益保護を確保することを目的とするものである。さらに、同条は、同法一一条に違反した職員を解雇するか否かを地方公共団体の裁量により決定できる旨を定めたもので、右以外の措置をとる余地はないと解される。そして、同法一一条によつて禁止ないし制限される行為は解雇に値するものであるから、争議行為と認められても、その規模、方法、態様等から判断して、解雇に値しないような軽微な行為については、同法一一条で禁止された行為に該当しないと解される。
地公法二九条一項に定める懲戒制度の目的は、使用者たる地方公共団体がその任命する一般職の地方公務員に対して有する指揮命令権に基づき、職場秩序の維持を図ることにある。懲戒処分は、労務提供が継続されている平常の事態を前提に規律を維持する作用であり、個々の労働者が使用者に対して労務を提供する個別的労使関係の次元で機能するものであり、個別責任の追及を本質とする。争議行為は、典型的には個々の労働者の労務提供の拒否という形で行なわれるが、それは団結体の意思決定に基づく団結体独自の行為としてなされるものであり、構成員たる個々の労働者の労務提供拒否の単なる集積ではない。団結権が法認されていることは、法的な単一体としての労働者団結体が生活擁護のため独自の意思に基づく団体行動を展開することが法的に認められていることを意味する。争議行為の本質及び懲戒制度の目的に鑑み、仮りに労働組合の争議行為が違法(制限、禁止規定違反)であるとしても、個々の労働者の行為が当該争議行為を組成しその圏内の行為と認められる限り、これを独立の行為として懲戒処分その他の民事責任を追及することは許されない。争議行為は団結体の意思決定に支えられている限り、労働契約の効果を停止する。そこでは、使用者の指揮命令権は排除されているから、労働義務に基づく服務規律も争議行為中の労働者には適用がない。仮りに、争議行為が違法で不当と評価されても、これを理由に服務規律違反による懲戒責任を問うことは許されない。地公労法一一条は、国民生活全体の利益保護を目的としているのに対し、地公法二九条の懲戒処分は、使用者たる地方公共団体の指揮命令権と職場の秩序維持を目的とする。従つて、地公労法一一条に違反する行為だからといつて、これが使用者としての地方公共団体に対する関係で直ちに違法となるものではない。地公労法一二条を除いては、争議行為禁止規定の違反行為に対する制裁処分はあり得ないのである。
四 新たな証拠関係<省略>
理由
第一参加人の地位、全道庁の組織等
一参加人は、昭和三六年一〇月一日付で北海道職員に採用され、以来地公労法三条八号にいう企業にあたらない北海道立釧路療養所(後に北海道立釧路病院と名称変更)に所属し、身分は技術吏員、職名はボイラー技士として地公法五七条にいう単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員であること、及び北海道に勤務する職員をもつて構成され地公法五二条に定める職員団体である全北海道庁労働組合に加人していたことは、当事者間に争いがない。
二全道庁及び総支部の組織についてみるに、<証拠>によると、次の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
全道庁は、全日本自治団体労働組合(以下、「自治労」という。)及び自治労北海道本部に加盟しており、全道庁本部の決議機関として大会、中央委員会(中央委員及び後記役員により構成される。)が、又執行機関として中央執行委員会(特別中央執行委員、地方執行委員、監査委員を除く役員により構成される。)、書記局が設けられ、本部役員は、昭和四一年一〇月ないし昭和四三年一〇月当時中央執行委員長、副中央執行委員長、書記長、会計各一名、中央執行委員四名ないし七名、及び特別中央執行委員、地方執行委員、監査委員各若干名により構成されていた。
又、全道庁の下部組織として、各支庁所在地毎に総支部が置かれ、本件の釧路支庁管内においても、全道庁組合員により組織された支部、分会からなる釧路総支部がある。総支部の決議機関として大会、委員会が執行機関として執行委員会、書記局が設けられ、総支部役員は、昭和四一年一〇月ないし昭和四三年一〇月当時執行委員長、副執行委員長、書記長各一名及び執行委員、監査委員各若干名により構成されていた。総支部役員のうち組合専従者は、全道庁地方執行委員として本部中央委員会の構成員となり、全道庁における重要な組合業務の遂行、決定に参画していた。
全道庁の組織人員は、昭和四一年一〇月当時約一万九、〇〇〇名、昭和四三年一〇月当時約一万八、五〇〇名で、そのうち単労は約四、〇〇〇名であり、釧路総支部の組織人員は、昭和四一年一〇月及び昭和四三年一〇月当時いずれも約八八〇名で、そのうち単労は約九〇名であつた。右当時、単労出身役員は、本部役員中一、二名で、釧路支部役員としては参加人一名のみであつた。
三参加人が、昭和三七年七月釧路療養所の執行委員となり、次いで、昭和三九年七月から昭和四五年九月三〇日までの間、釧路総支部書記長の地位にあり、昭和三九年九月から組合専従となつたことは、当事者間に争いがない。
第二本件各懲戒処分及び救済命令の存在
参加人の本件における各行為、控訴人の本件各懲戒処分及び被控訴人の本件各救済命令についての原判決事実摘示控訴人の主張第二項の事実は、すべて当事者間に争いがない。
第三本件各救済申立の適否
一控訴人は、全道庁は単労を含む混合組合たる職員団体であつて、労組法上の「労働組合」には該らないから、参加人の本件各救済申立は、その主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかであり、被控訴人としては労働委員会規則三四条一項五号に基づき、右救済申立を却下すべきであつた旨主張するので判断する。
単労が職場を同じくする他の一般職の地方公務員の組織する職員団体に加人し、混合組合を組織している場合に、右混合組合及び単労の法的地位、殊に本件のごとき不利益取扱に対する救済方法に関し如何に解するかは、極めて重要且つ困難な問題であるが、当裁判所は、結論として単労は不当労働行為救済の申立適格を有するものと解する。その理由は、以下に述べるとおりである。
1 結社の自由及び団結権の保護に関する条約(ILO八七号条約)の批准に伴い、同条約の趣旨を実現するため、昭和四〇年八月地公労法の一部を改正する法律(昭和四〇年法律第七〇号)、地公法の一部を改正する法律(昭和四〇年法律第七一号)が公布施行され、地公労法附則四項が改正された。その結果、単労の労働関係その他身分取扱に関しては、特別の法律が制定施行されるまでの間は、第一に、従前と同様単労だけで地公労法上の労働組合を結成することができ(地公労法四条、五条)、その場合には地公労法、労組法及び労働関係調整法が適用されることとなる。従つて、単労が労働組合の正当な行為をしたことを理由として不利益取扱を受けた場合の救済申立に関しては、労組法七条一号本文が適用されることは明らかである。そして、第二に、地公労法附則四項により地方公営企業法(以下、「地公企法」という。)三九条一項が準用され、地公法の職員団体の規定(地公法五二条ないし五六条)が適用される結果、単労は単労だけで独自に地公法上の職員団体を結成することも、又は他の一般職の地方公務員の組織する職員団体に加入すること(混合組合)もできることとなつた。これは、従来旧地公労法五条三項により「職員でなければ、職員の労働組合の組合員又は役員となることができない。」ものとされていたのを前記条約の趣旨から削除し、労働組合組織自由の原則を承認した結果である。
ところが、単労には、地公法上の不利益処分に関する不服申立制度の適用が除外されている(地公労法附則四項、地公企法三九条)。そのため、もし単労以外の一般職の地方公務員が主体となつて組織する混合組合については、地公法上の職員団体として取り扱うべきものと解すれば、かかる単労は労組法上の救済も、又地公法上の救済も申立てることができなくなり、極めて不都合な結果を招来することは明らかである。
2 不当労働行為に対する労働委員会の救済制度は、団結権を具体的且つ実質的に保障し、さらにこれを実現、発展するものとして重要な地位を占めていることは顕著な事実である。本来、一般職の地方公務員も憲法二八条にいう「勤労者」であることに変りはなく、かかる公務員によつて組織された混合組合も、その構成員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを目的とする団体である点において、実質上労働組合としての性格を有するのであり、唯単労以外の一般職の地方公務員については、その職務の性質に鑑み、例外として労働組合法の適用が一般的に排除されているに過ぎないのである。
3 単労が独自に単労のみの労働組合として固有の団結権を行使せず、職員団体に加入して、職員団体の団結力による恩恵を享受する方途を選択した以上、前記結果は止むを得ないとする議論も考えられるところである。しかしながら、単労が他の一般職の地方公務員と職場を同じくして勤務する場合においては、単労は比較的数が少なく、各所に散在して勤務するのが実情であつて、単労のみが独自に労働組合を結成することは事実上困難があるばかりでなく、団結の影響力からしても十分でない場合が多く、しかも通常その労働条件は他の一般職の地方公務員と同一時期に、ほぼこれに準ずるものとして決定されるのが一般的であることから、混合組合の形態を取るのが常態となつていることは、弁論の全趣旨から推認しうるところであるし、また、中央労働委員会は、かかる混合組合及び単労についても、不当労働行為の救済申立適格を肯認しており(中労委昭和四三年一二月二一日決定、不当労働行為事件命令集三九(昭和四三年下期)五五八頁、同昭和四六年一二月八日決定、同集四五(昭和四六年下期)七六九頁)、近時における地方労働委員会の大勢は、これに従うものであることは、いずれも当裁判所に顕著である。このような少数の単労についても、独自に労働組合を組織しない限り、不当労働行為の救済を受けられないことは、かえつて組合活動及び労働者を擁護しようとする不当労働行為救済制度の趣旨に悖る結果になるものと考えられる。前叙のとおり、法が単労に職員団体への加入を認めている以上、たまたま労働組合を組織していないことの一事をもつて、救済制度に決定的な差異、不均衡の生ずることになる結果を容認することは、前記条約の趣旨に照らしても正当とは思われない。
以上の諸点を考慮すると、たとえ単労が当該職員団体で少数に過ぎなくても、単労は救済申立適格を有するものと解するのが相当である。よつて、控訴人の主張は採用しない。
二次に、控訴人は、参加人の本件各行為は職員団体である全道庁のための行為にほかならず、労組法七条一号の「労働組合の行為」に該らないから、被控訴人としては前掲法条に基づき本件各救済申立を却下すべきであつた旨主張するので判断する。
参加人が本件各救済申立の適格を有することは前叙のとおりである。参加人の本件各行為が混合組合である全道庁の構成員として同組合のために行なわれたものであることは控訴人主張のとおりであるが、その故をもつて参加人の救済申立適格を否定する論拠とすることはできないのであつて、本件各行為が労働組合の正当な行為と認められるか否かは、実体上の救済要件の問題として判断すべき事柄であり、それをもつて足りるのである。よつて、控訴人の主張は採用しない。
第四本件各救済命令の適否
控訴人は、参加人の本件各行為は地公労法一一条一項前段、後段に違背し、労組法七条一号の「労働組合の正当な行為」に該当しないにも拘らず、被控訴人が参加人の本件各行為をもつて労働組合の正当な行為に該当するものと判断したことは違法である、と主張するのでこの点について判断する。
一昭和四一年の統一行動について
<証拠>によると、次の事実が認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
1 自治労は、昭和三五年二月、従前各関係公務員組合によつて結成されていた国家公務員共闘会議及び地方公務員共闘会議の改組によつて発足した公務員共闘会議に参加し、爾来人事院勧告の完全実施等を要求目標として賃金闘争を実施して来た。しかし、その間人事院勧告は、毎年最終的には勧告内容どおり実施されたものの、実施時期については勧告がいずれも五月一日としていたのに対し、昭和三六年ないし昭和三八年の場合一〇月一日から、昭和三九年の場合九月一日から、それぞれ実施する旨の閣議決定を受けて法制化され実施に移されたに過ぎなかつた。自治労は、本件前年の昭和四〇年一〇月二二日人事院勧告の完全実施等を要求して半日休暇闘争の実行を計画したが、同日閣議で人事院勧告の九月一日実施が決定されたことから、右闘争の実行中止を巡つて内部意見が対立し、一部突入地区もあつたが、当初計画どおりの闘争態勢を実現できないままに中止された。
2 昭和四一年八月一二日人事院は、平均六パーセント増額の俸給表の改正及び扶養手当、通勤手当、初任給調整手当の改訂を同年五月一日に遡つて実施するよう勧告した。一方、自治労は、同年三月以降数次に亘つて中央委員会、拡大闘争委員会を開催して闘争方針を討議したうえ、同年八月一九日から同月二二日まで開催された公務員共闘常任幹事会、地方代表者会議等の議を受けて、統一実力行使の方針を決定し、同年一〇月二日、三日に開催した第三七回中央委員会において、ベトナム反戦、全国一律最低賃金制の確立、人事院勧告の完全実施等を目標として、同月二一日に公務員共闘第九次統一行動として始業時から一時間のストライキを含む職場集会等の行動を実施することを最終的に決定した。右決定に基づき、自治労中央委員長は、右統一行動計画の実施を全道庁に指令し、全道庁は、同月八日開催の第三七回中央委員会において、右計画の実施を確認、決定した。全道庁の指令を受けた釧路総支部は、同月一九日、釧路支庁支部、教育局支部は同二〇日、それぞれ計画の実施を決定した。
3 政府は、同年一〇月一四日の閣議決定により、同年九月一日に遡つて人事院勧告どおり俸給表及び諸手当の改正を行なうこととする一方、統一行動の実施計画について、同日内閣官房長官談話、自治大臣談話を発表して、右統一行動が法秩序を無視した違法行為であるとして警告し、さらに同月一九日内閣官房長官談話を発表して自重を要請した。北海道も、知事談話により同日全道庁に対し、右統一行動は一斉職場放棄で違法な争議行為であり慎重に行動することを求め、違反者に対しては厳正な措置をとる旨の警告を発し、釧路支庁長も、同日釧路総支部長に対し、右同旨の文書を交付し、支庁内に前記知事談話を掲示し、同月二〇日職員に対し、統一行動に参加せず定刻どおり出勤することを命じた職務命令書を交付した。
4 統一行動当日の同月二一日、釧路支庁では、支庁長松野政吉、地方部長岡崎静晴、経済部長仲芳夫ら管理職員が午前八時前頃までに登庁し、直ちに部、課長会議を開いて情報を交換し、ピケ隊による入庁阻止の実力行使を説得活動によつて解散させ、職員が支障なく通常勤務に就くことができるよう努めることを確認した。そして、前日の打合わせに従い、地方部長岡崎静晴は、支庁舎正面玄関の責任者となつて社会福祉課前広場に、総務課、会計課、拓殖課、耕地課等及び教育局の職員約一〇〇名を集合させ、また経済部長仲芳夫は、支庁舎裏の責任者となつてプレハブ車庫の側に、社会福祉課、水産課、家畜保健衛生所等の職員約二〇名を集合させて入庁に備えた。他の管理職員も所定の部署に就いて監視の任に当つた。
5 一方、組合側は、これより先の同日午前八時頃釧路総支部傘下支庁支部及び他支部の組合員、公労協の支援組合員らが支庁舎前庭に集合して集会を開いた後、直ちに支庁舎正面玄関に約五〇名、支庁舎裏の二ケ所の出入口にそれぞれ約一〇名の組合員が集まつて各自スクラムを組んで二重三重に隊列を編成して職員の入庁を完全に阻止した。このため、午前八時五〇分頃地方部長岡崎静晴が、釧路総支部長橋本五郎に対して直ちにピケを解くよう要求する一方、正面玄関と裏出入口において、それぞれ携帯マイクで再三に亘つてピケの即時解除を求めたが、組合側はこれに応じず、部長、課長らが前記職員を先導して隊列を組み、数回に亘つて支庁舎正面玄関及び裏出入口から入庁を試みたものの、ピケを解かなかつたためそれ以上にわたつて実力で突破することはしなかつた。その間双方で揉み合い等の衝突事件は起きなかつたが、特に正面玄関側でかなり激しい言葉の応酬や労働歌の高唱等により喧騒状態となり、互いに一時身体が接触し合うことはあつた。
6 庁舎内で監視していた支庁長松野政吉は、午前九時二五分を経過してもなお入庁できず、前日、予め組合側に対して午前九時三〇分経過後も入庁できないときは警察官を導入する用意がある旨伝えていたことから、総支部長橋本五郎に対し、その旨あらためて意向を通告したところ、同支部長は、直ちに組合員に対してピケ解除を指示し、その結果午前九時三五分頃ようやくピケが解除され、前記待機中の職員は午前九時四〇分頃までに全員入庁し、午前九時五〇分頃平常勤務に就いた。
7 前記統一行動に際し、参加人は、(1)全道庁地方執行委員、釧路総支部書記長として、全道庁及び釧路総支部における前記統一行動実施の確認、決定に参画し、(2)職場集会を開催して、従来の賃金闘争の経過を報告し、執行委員会で決定された実施計画の内容を説明して周知徹底を図り、オルグ活動等を通じて組合員に対し積極的に参加を呼びかけ、(3)統一行動当日も、総支部長の指揮の下に、前日総支部執行委員会において決定された役割分担に従つて、支庁舎表、裏においてピケの指導、連絡に当り、統一行動に参加した。
二昭和四三年の統一行動について
<証拠>によると、次の事実が認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
1 昭和四二年度の給与改正について人事院は、平均七パーセント増額の俸給表の改正及び勤勉手当、都市手当、宿日直手当等の増額・新設を同年五月一日に遡つて実施するよう勧告したが、政府は、同年一〇月二〇日の閣議決定により、同年八月一日から実施した。さらに昭和四三年度の給与改正について人事院は、同年八月一六日平均八パーセント増額の俸給表の改正、通勤手当、初任給調整手当の増額を同年五月一日に遡つて実施するよう勧告したが、政府は、同年八月三〇日の閣議決定により、通勤手当を同年五月一日に、その他を同年八月一日に各遡つて人事院勧告を実施することとした。
2 自治労は、当初同年九月下旬及び一〇月上旬に各三〇分、一時間の時限ストの実施を計画し討議を重ねて来たが、同年八月二四日から二七日まで開催した第一七回定期大会で、公務員共闘の統一行動として最低三、五〇〇円以上の賃上げ、人事院勧告の五月一日完全実施、勤評・特昇反対等を闘争の重点目標として掲げ、右要求を貫徹するため同年一〇月八日に始業時から一時間のストライキを含む職場集会等の統一行動を実施することを最終的に決定した。右決定に基づいて、自治労中央執行委員長は、統一行動計画の実施を全道庁に指令し、全道庁は、同年九月一八日、一九日に開催した定期大会において、右計画の実施を確認、決定し、闘争態勢の強化を確認し、さらに、同年一〇月二日、三日に開催した定期大会において、重ねて闘争態勢の確立、強化を申し合わせた。同年九月の定期大会直後、全道庁の指令を受けた釧路総支部は、右計画の実施を確認、決定した。
3 政府は、前記統一行動の実施計画につき、同年九月二五日自治大臣談話、総理府総務長官談話を発表して違法な争議行為の参加に対して警告し、同年一〇月七日内閣官房長官談話を発表して重ねて自重を促した。北海道も同月四日全道庁及び総支部長に対して知事の警告書を交付するとともに、釧路総支部長に対して釧路支庁長の警告書を交付し、翌五日知事談話をもつて違法な争議行為に参加することのないよう自重を要望し、違反した場合の制裁措置について警告し、釧路支庁舎内に右知事談話を掲示し、同月七日職員に対し、統一行動に参加せず定刻までに出勤することの職務命令書を交付した。
4 統一行動当日の同月八日、釧路支庁では、前日の打合せに従い、地方部長大聖恵英ら部、課長の管理職員が午前八時三〇分頃までに、支庁舎裏側の地方財務局隣りの空地に職員を集合させて入庁に備えた。釧路総支部は、同支部長橋本五郎指導の下に、同日午前八時三〇分頃までに、総支部傘下支庁支部及び他支部の組合員及び六〇ないし七〇名の公労協の支援組合員らが支庁舎前庭に集合し、同所で午前一〇時までの予定で参加人の司会の下に職場集会を開催する一方、支援組合員らが主体となつて支庁舎正面玄関に約一〇〇名、支庁舎裏の二ケ所の出入口に合計約七〇名の組合員がそれぞれ集合して各自スクラムを組んで二重、三重に隊列を編成し、職員の入庁を完全に阻止した。そこで、午前九時前頃、地方部長、経済部長らが携帯マイクで再三に亘りピケの即時解除を求め、参加人やピケ組合員に対し、右趣旨を記載した文書を提示して解除を訴えたが、組合側はこれに応じようとしなかつた。このため、地方部長らは、前記職員約一三七名を正面玄関に移動させ、数回入庁を試みたが、ピケを解かなかつたので実力で突破することはしなかつた。その間、地方部長大聖恵英は、総支部長橋本五郎と交渉を続け、右事態が三〇分以上継続すると、賃金カットその他の重大な結果が生じるので早急にストを解除して職員を入庁させるよう申入れた。同支部長は、午前九時二七分頃スト解除を指令し、間もなくピケが解かれたので、待機中の職員はようやく入庁することができた。その間、双方で揉み合い等の事態は生じなかつた。
5 右統一行動に際して参加人は、(1)全道庁地方執行委員、釧路総支部書記長として、全道庁及び釧路総支部における統一行動実施の確認、決定に参画し、(2)同月四日、七日に行なわれた釧路支庁長伊藤康吉と釧路総支部との交渉に参加し、スト当日の同月八日午前八時三〇分から支庁舎前庭で開催した職場集会において、参加組合員に対し、賃金闘争の経過報告をし、執行委員会で決定された実施計画を周知徹底させ、ピケの指導、連絡に当り、統一行動に参加した。
第五参加人の各行為に対する法令の適用
参加人が地公法五七条所定の単労であることは前叙のとおりであるから、地公労法附則四項によつて準用される同法一一条の適用を受けるものであるところ、前叙昭和四一年及び昭和四三年の本件各統一行動における参加人の各行為のうち、全道庁地方執行委員、釧路総支部書記長として、全道庁及び釧路総支部における各統一行動の実施の確認、決定に参画した行為は同条一項後段の「共謀」に、職場集会において従来の賃金闘争の経過を報告し、統一行動実施計画の内容を周知徹底させ、支庁舎においてピケの指導、連絡に当つた行為は同条項後段の「そそのかし」「あおり」に、本件各統一行動に参加した行為は同条項前段に、それぞれ該当することが明らかである。してみれば、参加人の右各行為は、地公法二九条一項一号、三号に該当するものというべきである。
しかして、懲戒権者たる控訴人が、参加人に対し、地公法二九条一項一号、三号に基づき、昭和四一年の統一行動における参加人の前記行為についてなした四月の減給処分及び昭和四三年の統一行動における参加人の前記行為についてなした戒告処分は、当該行為の原因、動機、態様、影響等諸般の事情に照らせば、社会観念上著しく妥当を欠くものとは認められず、他にこれを肯認すべき事情も見出し得ないから、懲戒権者に任された裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものと判断することはできない。従つて、本件各懲戒処分には何ら違法の点は存しない。
第六参加人の主張に対する判断
一参加人は、地公労法一一条は憲法二八条に違反する旨主張するので判断する。
単労を含めた地方公務員は、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、その公務を遂行するものであるから、争議行為に及ぶことは、当該地方住民全体ないし国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすおそれがある。また、地方公務員の勤務条件は法律及び地方議会の制定する条例によつて定められ、給与は地方公共団体の財源によつて支弁されることから、地方議会の合理的判断によつて決定されるべきものであり、私企業の場合のように団体交渉による労働条件の決定方式が当然には妥当せず、又その保障としての争議権が本来の機能を発揮する余地も、おのずから限定されるといわざるを得ない。
ところで地公労法一一条は職員及び職員の労働組合の争議行為を禁止し、右規定は単労にも準用されているが(同法附則四項)、右規定は、「地方公共団体の経営する企業の正常な運営を最大限に確保し、もつて住民の福祉の増進に資する。」という同法の目的、右目的を達成するため「地方公共団体におけるその経営する企業の重要性にかんがみ、関係者は紛争をできるだけ防止し、且つ、主張の不一致を友好的に調整するために、最大限の努力を尽さなければならない。」という関係者の責務の規定及び争議行為を禁止する代りに、地方公営企業及び職員又は職員の労働組合との間における苦情を適当に解決するために苦情処理調整会議を設置すべきこととするほか、右双方間に発生した紛争の解決方法として労働委員会のあつせん、調停及び仲裁の制度を設け、更に「仲裁裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また地方公共団体の長は、当該仲裁裁定が実施されるように、できる限り努力しなければならないのみならず、仲裁裁定が当該地方公共団体の条例、規則又は規程にてい触するときは、地方公共団体の長は、仲裁裁定がこれらにてい触しなくなるために必要な条例の改正又は廃止にかかる議案を当該地方公共団体の議会に付議してその議決を求め、更に必要な規則、規程の改正又は廃止の措置をとらなければならない。」と規定している(以上の各規定は同法附則四項により単労にも準用されている。)同法の構造、その文言等に照らすと、業務の正常な運営を阻害するおそれのあるものである限り、その態様の如何にかかわらず一切の争議行為を禁止したものと解するのが相当である。そうすると地公労法一一条は、職員について憲法二八条の保障する労働基本権のうち争議行為の自由を制限することとなり、地公労法一一条に違反した者に対しては同法一二条に定める解雇、地公法二九条の懲戒処分(同規定の適用の有無については後記説示のとおりである。)がなされることになるが、このような態様で争議行為を禁止することが憲法二八条に違反するかどうかについては、前叙のとおり、地方公務員は公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果たすことが必要不可缺であり、その職務の停廃は当該地方住民全体ないし国民全体の利益に重大な影響を及ぼすおそれがあるというその職務の公共性、地方公務員の勤務条件は法律及び地方議会の制定する条例によつて定められ、給与は地方公共団体の財源によつて支弁されるというその地位の特殊性からみて地方公務員の労働基本権は、地方住民全体ないし国民全体の共同利益を保障する見地から制限されることは止むを得ないところであり、その制限に見合う代償措置も、前叙のように講じられていること等を考慮すると、地公労法一一条が職員及び単労の争議行為を禁止し、共謀、そそのかし、あおり等の行為をすることを禁止したとしても、憲法二八条に違反するものではないといわなければならない(最高裁判所大法廷昭和四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九〇一頁、同裁判所大法廷昭和四八年四月二五日判決、刑集二七巻四号五四七頁、同裁判所大法廷昭和五二年五月四日判決、刑集三一巻三号一八二頁参照)。よつて、参加人の主張は採用しない。
二参加人は、単労の地公労法一一条違反の行為に対しては、同法一二条を適用するか否かが問題となるに過ぎず、地公法二九条の懲戒処分の対象とはならない旨主張するので判断する。
単労については、職務の特殊性に鑑み、その労働関係その他の身分取扱に関し、地公法五七条、地公労法附則四項により地方公務員の特則を定めたものであるから、地公労法、地公企法において地公法の適用を特に排除する旨の規定が存しない限り、単労に地公法が適用されることは当然であり、地公労法一一条一項違反の行為をした単労に対して地公法上の懲戒処分をすることを排除した規定は存在せず、そのように解すべき合理的根拠もない。よつて、参加人の主張は採用しない。
三参加人は、本件各行為が地公労法一一条一項に違反するとしても、労組法七条一号の「労働組合の正当な行為」に該当するから、本件各懲戒処分は同条項の不当労働行為である。仮に労働組合の正当な行為に当らないとしても、行為者である個人には懲戒責任はない旨主張するので判断する。
地公法上の職員団体も労組法上の労働組合も、その構成員の労働条件の維持改善を図ることを目的とする点においては本質を同じくするものであり、そして単労が職員団体の構成員となつている以上、職員団体の構成員の労働条件の維持向上のために、法令上の制限に従つて、正当に活動し、協力することは当然であるが、だからといつて、単労が職員団体の構成員として行つた右行為は「職員団体の行為」であつて「労働組合の行為」ではないと解さなければならないものではなく、労組法上の救済手続に関しては右行為をもつて、「労働組合の行為」と評価することが相当であるが(地公労法附則四項、同法四条)、地公労法一一条一項に違反する行為は労組法七条一号の「労働組合の正当な行為」に該当しないものと解すべきであるから、本件各懲戒処分が不当労働行為となる余地はなく、また地公労法一一条一項に違反する行為をした行為者個人の服務規律違反の責任が免責される余地もない。よつて、参加人の主張は採用しない。
第七結び
以上の次第であつて、爾余の点について判断するまでもなく、控訴人の本件各懲戒処分は適法であり、被控訴人の本件各救済命令は違法であり取消を免れないから、控訴人の本訴請求はいずれも理由がある。よつて、右請求を棄却した原判決は失当であるから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三八六条によりこれを取消し、控訴人の請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担について同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(安達昌彦 渋川満 大藤敏)
別紙
命令 (一)
被申立人は申立人に対し、昭和四四年一月二五日付で行なつた戒告処分を取消し、同処分の日以後同処分がなかつたものとして取扱わなければならない。
申立人のその余の申立は棄却する。
命令 (二)
被申立人は、申立人に対し昭和四一年一二月二七日付で行なつた減給四か月の懲戒処分を取消し、同処分の日以後同処分がなかつたものとして取扱わなければならない。