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札幌高等裁判所 昭和53年(ネ)371号 判決 1981年4月15日

控訴人

ふじ商リース株式会社

右代表者

佐藤利己

右訴訟代理人

江本秀春

村岡啓一

被控訴人

竹本稔

被控訴人

杉森義博

右両名訴訟代理人

富樫基彦

主文

本件控訴及び控訴人の当審における予備的請求をいずれも棄却する。

当審における訴訟費用は全部控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求の原因1、3項の事実<編注――控訴人が土木建築資材の販売等を目的とする株式会社、訴外会社が昭和五〇年五月二日設立され、コンクリートの製造等を目的とする有限会社であること、および、被控訴人らが訴外会社の取締役で、被控訴人竹本が代表取締役であつたこと>は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、控訴人と訴外会社とは、昭和五〇年六月ごろ、控訴人が訴外会社に生コンクリートを継続して供給する旨の継続的売買契約を締結し、以後控訴人は右契約に基づいて訴外会社に対し継続的に生コンクリートを売渡していたこと、昭和五一年五月から一〇月までに売渡した生コンクリートの代金は合計一二五〇万円になること(そのうち同年九月中に売渡した分の代金は一九六万二〇〇〇円、同年一〇月中に売渡した分の代金は一四三万一〇〇〇円である。)、訴外会社が右代金の支払いのために振出して控訴人に交付していた小切手及び約束手形が昭和五一年一二月一八日と同月二一日に不渡りとなり(この不渡りの事実は当事者間に争いがない。)、訴外会社は同年一二月に倒産したこと、そのために控訴人の訴外会社に対する右一二五〇万円の売掛金債権が未払いとなつていることが認められる。

二そこで、訴外会社の代表取締役ないし取締役であつた高松の任務懈怠が訴外会社の倒産の原因であるところ、被控訴人らは訴外会社の取締役として高松の任務懈怠を監視、是正すべき義務を怠り、被控訴人竹本は代表取締役就任後において適正に義務を執行すべき義務を怠り高松の任務懈怠を看過したとの被訴人の主張について判断する。

1  <証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  被控訴人竹本は、紋別市において小鳥屋を営んでいる者であるが、昭和四七年ごろ高松と知り合い、昭和四八年に同人に三〇〇万円を貸与した。これが返済されないでいるうち、昭和五〇年に至り、高松から被控訴人竹本に対し、訴外会社を設立するので、月五万円の報酬を支払うからその取締役に就任してもらいたいとの依頼があり、被控訴人竹本はこれを承諾した。

右就任に際して被控訴人竹本と高松との間には、被控訴人竹本は訴外会社の業務執行には一切関与しない旨の了解があつた。そこで、被控訴人竹本は、訴外会社の取締役に就任後も紋別市に居住し、訴外会社の業務執行には一切関係せず、せいぜい一か月に一回位、札幌に出て来た機会に訴外会社(その事務所及び工場は恵庭市にあつた。)にも顔を出す程度であつて、訴外会社の業務執行は、その代表取締役に就任した高松が専らこれを決定し、実施していた。

(二)  被控訴人杉森は、コンクリートブロック製品の製造、販売等の事業をしていたが、脳溢血で倒れて身体が不自由になつたためにこれを中止していたところ、昭和五〇年、高松から、訴外会社の取締役に就任し、ブロック製品の製造を担当してもらいたいとの依頼を受け、これを承諾した。そしてブロック製品を製造している期間だけ、報酬として月額一五万円を受領していた。製品原料の購入、製品の販売、資金繰り等は一切高松が行うということであつて、被控訴人杉森はこれらの事項には関与しなかつた。

なお、訴外会社の資本金二〇〇万円は、すべて高松が支出したものである。

(三)  昭和五一年四月一日に被控訴人竹本が代表取締役に就任し、高松は取締役になつた。これは、高松から被控訴人両名に対し、自分は金融業を営む北日本地所の代表取締役もしているので、国等から訴外会社の運営資金の借入れをすることができないから、被控訴人両名のどちらかが名目だけでも代表取締役に就任してもらいたいとの申入れがあり、被控訴人杉森は身体が不自由であつたからである。

被控訴人竹本は、代表取締役就任後は、報酬として月額一五万円を受取り、訴外会社の事務所へも毎週三日間(但し、木曜日の午後に出て、土曜日の昼ごろには帰つていたので、実質的には仕事をするのは金曜日一日だけであつた。)顔を出すようになつた。しかし、訴外会社の業務についての決定及びその執行にはほとんど関与することなく、製品の生産量の確認とか、高松の指示による小額の支払い等をしただけで、代表取締役就任前とほとんど変わりのない状態であつて、業務の執行は依然として高松が独断で行つていた。

もつとも、被控訴人竹本は、訴外会社の控訴人との間の昭和五一年五月七日付継続的商品売買基本契約書及び訴外会社と被控訴人杉森との間の同年一一月一一日付のブロック製品等の売買契約書には訴外会社の代表取締役としてみずから調印し、更に同年六月五日付の訴外会社から控訴人に差入れた念書(約束手形を決済することを確認するという内容のもの)にも訴外会社の代表取締役として調印したほか、個人的にも保証人として署名捺印しているが、これらはいずれも高松の指示によるものであつた。

以上の事実が認められる。<証拠判断略>

2  ところで、代表取締役の定めのある有限会社における取締役は、会社に対し、代表取締役の業務執行の全般についてこれを監視し、取締役による業務執行に関する決定という行為を通じて、業務の執行が適正に行われるようにするべき職責を有するものであり、このことは何らかの事情ないし経緯によつて名目的に就任した取締役についても同様であると解するのが相当である。ところが、右認定の事実によれば、被控訴人竹本は、訴外会社の取締役であつた当時、訴外会社にはほとんど出社することもなく、その業務の執行は高松の独断専行に任せ、これにつき何ら監視することがなかつたものであり、また、被控訴人杉森は、ブロック製品の製造に業務に専ら従事し、それ以外の訴外会社の業務執行には何ら関心を払わず、これにつき同じく高松の独断専行に任せて何ら監視することがなかつたのであるから、被控訴人両名はいずれも取締役として職責を尽くさなかつたものといわなければならない。したがつて、高松に代表取締役としての任務懈怠があり、これによつて控訴人が損害を被つたものとすれば、被控訴人両名は有限会社法三〇条の三第一項前段の責任を免れることはできない。

また、有限会社における代表取締役は、広く会社業務の全般にわたつて意を用いるべき義務を負い、他の取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何ら意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠行為を看過するに至るような場合には、みずからもまた悪意または重大な過失により任務を怠つたものと解すべきである。そして、前記認定の事実によれば、被控訴人竹本は代表取締役に就任したが、それは名目上のものであつて、訴外会社の経営の実権は従前どおり包括的に高松に委ね、みずからその経営に関与したことはなく、高松が業務を独断専行していたものというべきであるから、被控訴人竹本は訴外会社の代表取締役としての任務を故意に懈怠していたものということができる。しかしながら、訴外会社の業務は高松の専行するところであつたのであるから、訴外会社と取引をした控訴人が訴外会社の倒産によつて被つた損害も、直接的には高松の行為から生じたものというべきであるが、会社の取締役であり、かつ現実に業務を担当しているが故に、本来有限会社法三〇条の三の責任を負うべき地位にある者が、同条の要件を欠く結果、その責任を負わないような場合に、その者が担当した取引から生じた損害を何ら右業務に関与しなかつた他の取締役に負わしめることは、条理上とうていこれを是認することができないから、代表取締役としての被控訴人竹本に同条の責任を帰せしめるためには、その前提として、高松に故意または重大な過失による任務懈怠の行為があり、これによつて控訴人が損害を被つたものと認められなければならない。

3  そこで、高松に任務懈怠の行為があつたかどうかを検討する。

(一)  控訴人は、訴外会社が総合コンクリートから受取つた約束手形を、高松がその必要もないのに北日本地所で高利で割引き、訴外会社の財政的基盤を危くしたと主張する。

当審証人高松義則の証言によれば、高松は、訴外会社がブロック製品の販売先である総合コンクリートから受取つた約束手形を、金融を目的とし、自分が代表取締役をしている北日本地所で割引いた事実があることが認められる。

ところで、<証拠>によれば、訴外会社は、原料である生コンクリートを控訴人だけから仕入れ、製品はすべて総合コンクリートに売却していたこと、総合コンクリートからの売却代金の支払いは満期が一五〇日ないし一八〇日先の約束手形によつてされていたが、その支払いは確実にされていたことが認められる。

しかし、右の事実によつて、訴外会社は右約束手形を他で割引く必要が全くなかつたとはいいきれない。まず、訴外会社において製造されたブロック製品の販売実績がどの程度のものであつたのか、これを認めるに足りる証拠はない。したがつて、総合コンクリートから約束手形の支払いを受けた後に、控訴人への支払いをすることで事足りるとはいえない。また、仮に訴外会社の設立後しばらくしてからは販売実績が上るようになり、以後は製品の売却代金によつて仕入代金及び諸経費等をまかなえるようになつたとしても、総合コンクリートから受取る手形の満期は数か月先なのであるから、少なくとも経営が軌道に乗るまでは相当額の運転資金が必要となることは当然である。したがつて、手形の割引の必要がなかつたと断定することはできない。

もつとも、当審証人高松義則の証言によれば、右約束手形の割引料は日歩二〇銭(年七割三分)であつたことが窺われる。これはかなりの高率であつて、このような割引を長期間続けていたとすれば、その約束手形の金額いかんによつては、訴外会社の経営が破綻する可能性が大きいであろうと一応は考えられる。しかし、訴外会社が北日本地所において割引いた約束手形の金額については何ら立証がなく、また、設立直後であつて何ら実績のない訴外会社にとつて、他により低利の資金調達の途があつたことを認めるに足りる証拠もない。更に、コンクリートブロック製造業における経費、利益等の一般的な割合、ひいてはこの業種において健全な経営を維持するための借入金の利率の限度を認めるに足りる証拠はないから、右の割引料による手形の割引をした場合には、訴外会社の経営が行き詰ることが必然であるとは直ちに認めることもできない。したがつて、割引料が高率であることをもつて、高松の任務懈怠であるということはできない。

(二)  次に、控訴人は、高松は貸付金の回収名下に手形の割引金を領得したと主張する。そして、当審証人高松義則の証言によれば、高松は、北日本地所は訴外会社に対して貸付金債権を有しているとして、総合コンクリート振出の約束手形の割引金の一部をその返済に充てたことが窺われる。

しかし、北日本地所が訴外会社に対して何ら貸金債権を有していなかつたことを認めるに足りる証拠はない。その内訳及び金額を認めるに足りる証拠はないが、<証拠>(昭和五一年五月一日付の債権者を北日本地所、債務者を訴外会社とする公正証書作成嘱託委任状)に貸借金として二〇三九万円という金額が記載されていることと原審及び当審における被控訴人竹本の本人尋問の結果(昭和五一年九月に、高松から、北日本地所は訴外会社に運転資金として二〇〇〇万円を貸付けていると聞いたという。)並びに当審証人高松義則の証言(北日本地所は訴外会社に対し、設立当初から倒産の時点まで継続的に貸付をしており、その合計額は三〇〇〇万円位になり、なお返済のないものが二〇〇〇万円位になるという。)によれば、二〇〇〇万円ないし三〇〇〇万円という金額になるか否かはともかく、設立直後の訴外会社が相当額の運営資金を必要としたことは明らかであり、その借入先が他にあつたという証拠はないのであるから、相当額の貸付があつたものと認められる。

そして、北日本地所が右貸付金の金額を上廻る割引金を取得したことを認めるに足りる証拠はないから、北日本地所が割引金を不法に領得したということはできない。

(三)  更に控訴人は、仮に北日本地所が訴外会社に対して貸金債権を有していたとしても、高松が控訴人に対する支払いよりも北日本地所への支払いを優先させたのは、取締役としての任務懈怠であると主張する。

なるほど控訴人の訴外会社に対する一二五〇万円の売掛金債権が未払いとなつているが、前記高松証言によれば、北日本地所も二〇〇〇万円位の貸金債権をなお有しているというのであり、これが虚偽であると断定できる資料はないから、高松が控訴人への支払いよりも北日本地所への支払いを優先させたものと認めることはできない。

4  また、訴外会社の倒産の原因についての証人及び被控訴人両名の供述は各人各様であつて、結局、その原因は証拠上明らかではないといわざるをえない。

まず、原審証人堀誠一は、訴外会社の倒産は、役員全員による計画的なものであると思う証言をしているが、単なる推測であり、その根拠は明らかではないから、採用することができない。

当審証人高松義則は、倒産の原因として、訴外会社は控訴人から工場用地を賃借していたが、控訴人が訴外会社に何の断わりもなくその土地を他人に貸してしまつたので、高松は立腹し、北日本地所から訴外会社に対する運転資金の貸付を中止したこと、被控訴人竹本と同杉森の間に意見の対立、紛争があつたこと及び被控訴人竹本が女遊びに熱中して訴外会社にあまり出社しなかつたことを挙げるが、同人の証言は全体として信憑性に乏しいと認められるから、右の供述もそのまま信用することはできない。

当審における被控訴人杉森の本人尋問の結果中には、不渡り事故が発生した後に同人が高松及び被控訴人竹本に不渡りを出した原因を聞いたところ、ブロック製品の売上が期待していた程ではなかつたこと、労務賃金が予想外にかさんだこと等がその原因であると述べていたが、明確な返事はなかつたとの部分があるが、高松らの弁解であるから、直ちに採用する訳にはいかない。

被控訴人竹本は、原審本人尋問においては、訴外会社には労賃に充てるべき資金もなく、製品の販売代金も一五〇日後払いの手形によつて支払われるため、北日本地所から借入れをしていたが、昭和五一年九月に北日本地所から借受けた金員の金利の支払いができなかつたため倒産したものと思うと述べているが、当審本人尋問においては自分と被控訴人杉森との間に紛争はなく、倒産したのは北日本地所が訴外会社に対する融資を突如やめたからであると述べており、必ずしも明確ではない。

他に訴外会社の倒産の原因を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおりであつて、訴外会社の倒産の原因はこれを確定することができない。その原因が経済界全般の不況にあつたのか、それとも専ら取締役の業務執行のあり方に問題があつたのかさえ明らかではない。倒産の直接の原因は、北日本地所が訴外会社への融資を取りやめたことにあると推測できなくはないが、訴外会社がその時点まで借入れに頼らざるをえなかつた理由は証拠上明らかではない。約束手形の高い割引料にも少なくともその一原因があつたのかもしれないと考えられなくはないが、これも憶測の域を出ない。結局、手形の割引等、高松の業務執行が訴外会社の倒産ひいては控訴人が被つた損害の原因であると認めることはできない。

5  以上述べたとおり、高松に取締役としての任務懈怠の行為があつたと認めることはできないし、右任務懈怠により訴外会社が倒産し控訴人が損害を被つたとも認めることはできない。したがつて、これを前提とする控訴人の主張は採用することができない。

三訴外会社が、昭和五一年一一月一一日、被控訴人杉森に対し、ブロック製品及び什器備品類の全部を代金七三九万円で売渡し、被控訴人杉森が右代金支払いのために訴外会社に宛てて約束手形を振出したこと、右約束手形が結局高松に交付されたことは、当事者間に争いがない。

控訴人は、被控訴人竹本が右約束手形を高松に交付し、被控訴人杉森がこれを容認したのは、故意または重大な過失による任務懈怠であると主張するが、北日本地所がその当時訴外会社に対して有していた債権額が七三九万円以下であつたことを認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用できない。

また、<証拠>によれば、右約束手形の満期は昭和五二年四月ないし六月の各三〇日及び同年六月一五日とされていたことが認められる。

控訴人は、控訴人からの問い合せに対し、被控訴人杉森は、売買代金の支払いが約束手形によるものであり、かつその満期が未到来であることを秘匿したと主張する。

そして、<証拠>中には、被控訴人杉森は、訴外会社の倒産直後に、控訴人の社員に対し、ブロック製品等の買受代金はすでに決済されていると述べた旨の部分がある。しかし、これによつて直ちに被控訴人杉森が約束手形が振出されており、その満期が到来していないことを故意に秘匿したとはいいきれないし、取締役が会社に対し、会社の行つた売買について売買代金の支払方法及び支払のための約束手形の満期等を会社債権者に説明する職責を負うものとも解されない。

なお、控訴人は、被控訴人杉森は右売買契約を解除する義務があると主張するが、そのような義務があるとはとうてい解されない。

四控訴人は、被控訴人竹本は、訴外会社と北日本地所との間の債権、債務関係について調査等を行わず、また、北日本地所の貸付停止に備えて、控訴人に対する支払手形の決済のための他の手段をあらかじめ講じなかつたと主張する。

前記のとおり、被控訴人竹本は代表取締役就任後も訴外会社の経営にほとんど関与しなかつたものであり、訴外会社と北日本地所との間の債権、債務関係を調査したという形跡はない。しかし、このことと訴外会社が倒産し控訴人が損害を被つたこととの間に因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。

また、北日本地所が突然訴外会社に対する貸付をやめた理由についての当審証人高松義則の前記証言を全面的に信用することは難しく、結局、右の理由は不明というほかはないが、この貸付停止を被控訴人竹本があらかじめ予想しえたことを認めるに足りる証拠はないから、貸付停止に備えて何らかの方策をとらなかつたからといつて、被控訴人竹本に重大な過失があるとはいえない。

右のとおり、これらの点に控訴人の損害と因果関係のある被控訴人竹本の任務懈怠があつたことを認め難い以上、被控訴人杉森が被控訴人竹本の任務懈怠を監視する義務を怠つたが故に責任を負うという控訴人の主張も理由がない。

なお、訴外会社の倒産の原因は明らかではなく、したがつて、控訴人の被つた損害が訴外会社の取締役の何らかの任務懈怠によるものであると認めることもできないことは、すでに述べたとおりである。

五次に、不法行為に基づく請求について判断する。

<証拠>によれば、昭和五一年九月一七日、代表取締役を被控訴人杉森、目的をコンクリートブロックの製造及び販売等とする杉森工業株式会社が設立されていることが認められる。また、被控訴人杉森が昭和五一年一一月一一日、訴外会社からブロック製品及び什器備品類の全部を代金七三九万円で買受けたことは前記のとおりである。以上の事実のほかに、仮に、被控訴人杉森が訴外会社の倒産直後に控訴人の社員に対し、右売買代金の決済は終つていると述べた事実があつたとしても、これらの事実から直ちに控訴人主張のように、被控訴人杉森が高松と共謀して取込詐欺に類する計画的倒産を企てたものであると推認することはとうていできない。

他に被控訴人杉森が取込詐欺ないし計画的倒産を行つたことを認めるに足りる証拠はない。

また、杉森工業株式会社の設立、訴外会社からのブロック製品等の買受けが、それ自体不法行為であるとはいえないことはもちろんであり、仮にブロック製品等の売買代金の支払方法の詳細について控訴人に対し正確に説明しなかつた事実があつたとしても、それが不法行為を構成するともいい難い。

六以上のとおり、控訴人の有限会社法三〇条の三第一項前段の規定に基づく請求は失当であるから、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。また、被控訴人杉森に対する不法行為を理由とする当審における予備的請求も理由がない。

よつて、本件控訴及び控訴人の当審における予備的請求をいずれも棄却することとし、当審における訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(輪湖公寛 矢崎秀一 八田秀夫)

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